陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

68 / 87
艦これはCアズレンはAと表記させていただきますのでお願いします。

クロスオーバーなので悪しからず

それではどうぞ


5-1 幹部会議

5-1 幹部会議

 昼食を終えて庁舎へ戻ると、執務室の机には、午前の会談で使った書類が揃え直されていた。

 艦娘の大淀が置いていった記録の上に、二つの日付がある。

 三日後、上級司令部から調整の進み具合を受け取る。

 一週間後、呉が出せる戦力と、まだ足りないものを回答する。

 剣子は椅子へ腰を下ろし、帽子を机の端へ置いた。

剣子「……一か月の話をするために、まず一週間の仕事を決めるんですね」

隼人「その一週間で、出せない理由も揃えます」

剣子「はい。そこを、後から消されないように」

 午前中、山本五十六へ確かめた返答は、記録にも残っている。

 硫黄島への出撃を了承したうえでの回答期限ではない。作戦時期も、早ければ一か月後という候補に留まる。

 剣子はその一文へ目を通してから、隼人の手元を見た。

 薄い端末が、書類の横へ置かれていた。

剣子「それも、さっきの端末?」

隼人「こちらはスマートフォンです。画像を読む時に使ったものとは別ですよ」

剣子「……すまほ、でしたっけ」

隼人「ええ。小さいので、持ち歩くには便利です」

 午前の会談で示した原資料と読取端末は、引き続き技術班が預かっている。隼人は、その保管を変えずに、照合用の写しを携行端末へ移す許可を受けていた。

 剣子が手を伸ばしたので、隼人は画面を消した端末を渡した。

 彼女は厚みを確かめ、指先で回しかける。

隼人「回すのは、少々苦手です」

剣子「丈夫そうなのに」

隼人「丈夫そうに見える道具ほど、壊した時に困ります」

剣子「持ち主にも言えそうですね、それ」

 隼人が返事を考えている間に、端末は丁寧に戻された。

 剣子は小さく笑い、机の中央を空けた。

     *

 隼人が開いたのは、午前にも見た島の画像だった。

 格納庫、海岸へ乗り上げたように見える艦、透明な覆いの中の女性、そして硫黄島らしい島。届けられた四枚のうち、いま画面に出しているのは最後の一枚である。

 海図との照合は進んでいたが、撮影時期も、実際の撮影手段も分かっていない。

 記録にあった「衛星写真」という文字だけで、そこまで確定することはできなかった。

剣子「元帥たちに見せた時は、私、島全体ばかり見ていました」

隼人「全体も必要です。今度は、古い記録と比べる場所を絞りましょう」

 同じ画像の海岸側を拡大する。

 地形に沿って延びる線と、小さな構築物らしい影が現れた。

剣子「塹壕……に見えますね。こっちは、砲の陣地でしょうか」

隼人「候補として残します。ただ、この形だけでは、使われているかまでは分かりません」

 剣子は紙へ位置を書いた。

 隼人も画面の別の部分を開く。見えていない所を、見えたことにはしない。何を確かめたいのかを先に揃えておけば、古い観測記録にも探す場所ができる。

剣子「三年前の作戦図には、ここまで書かれていませんね」

隼人「その後に増えたのか、当時は見えなかったのか。比較する記録の日付も要ります」

剣子「では、潜水艦の観測記録も。天城たちの打合せへ、持ってきてもらいましょう」

 彼女は大淀へ渡す紙に、その依頼を書き加えた。

 画像の中の女性については、別の確認が続いている。

 桜がこれを届けたことと、四枚が同じ場所で撮られたことは、まだ結びついていなかった。

 隼人は、島の画像を閉じた。

剣子「……その方のお話は、ここでは、もう少し待ちましょう」

隼人「はい。私だけで、場所を決めたくありません」

 今朝、桜へ言った言葉を、覚えていた。

 一人では行かない。

 誰かを連れていけば守れる約束でもない。何を見て、どこへ向かうかを、他の者にも確かめてもらう必要があった。

剣子「照合をする担当者には、必要なものを渡します。会議で話す範囲も、ここで揃えておきましょう。全員へ、四枚とも見せる必要はありませんから」

隼人「承知しました。島の画像から読み取れることと、まだ確かめていないことを分けて出します」

 剣子が頷いた。

 午前に決めた扱いを変える話ではない。これから仕事を受け持つ者へ、どこまで渡すかを詰めていた。

 隼人は端末を胸の内側へ収め、机へ残った修理工程表を引き寄せた。

     *

剣子「一番足りないのは、やはり航空隊でしょうか」

隼人「艦隊を動かすなら、大きな不足になります。飛べる機数と、続けて飛ばせる機数は違いますから」

 午前、艦娘の雲龍にも頼まれたことだった。

 剣子の前へ、搭乗員と機体の一覧を並べる。

 修理を終えた機体にも、点検と慣熟が要る。帰還した者の中には、以前と同じようには飛べない者もいる。

 その両方を、一つの復旧率で済ませることはできなかった。

剣子「船が動くから、前と同じ航空隊を出せると思われても困りますね」

隼人「整備する人と、燃料を運ぶ人も要ります。島へ着いたあとまで数えるなら、なおさらです」

 剣子は別の紙を取った。

 上陸部隊、輸送、飛行場の修復、守備隊への補給。

 午前の会談で未定だった項目へ、こちらから確認する相手と、回答を待つ日付を添えていく。

剣子「……今日、全部を決めようとすると、どれかを決めたふりにしてしまいそうです」

隼人「未定の欄は残してください。三日後に届く話とも、合わせなければ」

 剣子は鉛筆を置いた。

 一度だけ首を回し、書きかけの行を見直す。

剣子「その前に、私は少し休みます。同じ行を二回書きかけました」

隼人「では、こちらは工廠へ。午後の確認を済ませてきます」

剣子「お願いします。天城には、修復と航空隊の話をまとめてもらいます。私が戻ったら、今日の分を合わせましょう」

 大淀へ引継ぎを渡し、急ぎの連絡だけは回すよう頼む。

 原資料の保管場所と、照合に当たる担当者も、紙の上で確かめてから立ち上がった。

剣子「隼人さんも、ずっと働かないでくださいね」

隼人「工廠の確認が終われば、私も少し休みます」

剣子「では、あとで、本当に休んだか聞きます」

隼人「……承知しました」

 剣子が出ていったあと、隼人は机の書類を揃えた。

 窓の外では、工廠へ向かう荷車がゆっくり進んでいる。

 この世界にも山本五十六がいる。

 その名前を持つ女性と、午前中には同じ机を囲んでいた。

 いまさらながら奇妙なことだったが、手元へ残った仕事は、よく知っている種類のものでもあった。

隼人「……どこへ来ても、まず一覧表か」

 苦笑したところで、扉が三回、叩かれた。

     *

金剛(艦娘)「Hello! テイトクー!」

 返事を待って入ってきた艦娘の金剛は、椅子を見て、それから隼人へ顔を向けた。

金剛(艦娘)「あれ。テイトク、いないネー」

隼人「少し休まれたところだよ。急ぎの用なら、聞いておくけれど」

金剛(艦娘)「今日、まだハグしてないので」

隼人「それなら、起きてからにしよう」

金剛(艦娘)「元気の源デース。昨日も、とても元気になったネ!」

 金剛は、昨日ここで剣子を抱き上げた話をした。

 強い、強い、と提督が言ったことまで、ずいぶん嬉しそうに。

隼人「……腕の力の話ではなかったか」

金剛(艦娘)「愛は強いものネ」

隼人「抱かれた人がそう言った時は、少し緩めてあげような」

 金剛は考えてから頷いた。

 机の書類へ手を出さず、ソファの隣を指す。

金剛(艦娘)「フクテイトクは、これからお仕事?」

隼人「工廠へ行く。その前なら、少し」

 腰を下ろすと、金剛も向かいへ座った。

 彼女の視線が白い上着に留まり、それから帽子へ移る。

金剛(艦娘)「長官に会ってきたのデスね」

隼人「ああ。話すことは多かった」

金剛(艦娘)「では、一つだけ聞いてもいいデスか。前に、艦長の仕事もしたと聞いたので」

隼人「艦長の代理ならね。あたごという艦で、副艦長とCIC長を兼ねていた」

 金剛が黙った。

 それから、少し低い声で言う。

金剛(艦娘)「……Unbelievable」

隼人「そこだけ、発音がよくなったな」

金剛(艦娘)「休む時間、あったのデス?」

隼人「人が足りなかった。交代が来るまでと思っていると、別の仕事が来た」

 窓へ目を向ける。

 海は見えるが、見慣れていた艦橋も、当直を替わった顔も、そこにはない。

 金剛は、続きを急かさなかった。

金剛(艦娘)「それを、ここでも続けるつもり?」

 隼人は彼女へ向き直った。

 問いかけの声は明るかったが、冗談を待っている顔ではなかった。

隼人「……続けないようにしたい。提督にも、さっき同じことを言われた」

金剛(艦娘)「なら、今日は工廠のあと、ちゃんと休むネ」

隼人「そうするよ。提督も、もうしばらく寝かせてあげてくれ」

金剛(艦娘)「了解デース。ハグも、起きてからにするネ」

 隼人が立ち上がると、金剛も手を振った。

 扉の外には、霧島が待っていた。

隼人「待たせたね」

霧島(艦娘)「いえ。姉の方こそ、お時間をいただきました」

 入れ替わりに、霧島が執務室へ入る。

 隼人の足音が遠ざかってから、ソファへ座る姉を見た。

霧島(艦娘)「お仕事のお邪魔には、なりませんでしたか」

金剛(艦娘)「少しだけ、話したネ」

霧島(艦娘)「……楽しそうでしたね」

金剛(艦娘)「金剛は、いつも楽しそうヨ」

霧島(艦娘)「ええ。そう見えるようにしていますから」

 金剛は言い返さず、妹の肩を軽く叩いた。

 前の海戦のあと、こうして座る時間を持つことさえ難しい日もあった。今日の短い会話を、無駄な時間だったとは思わなかった。

金剛(艦娘)「さて。紅茶をキメるネー」

霧島(艦娘)「薬みたいに言わないでください」

 今度は二人とも笑った。

 茶を淹れに行く前に、金剛は提督の机を見て、書類には触らずに椅子だけを戻した。

     *

 工廠では、午後も槌音が続いていた。

 隼人が向かったのは、艦の修理作業と動線を分けた保管区画だった。

 《みらい》は台の上へ固定され、取り外した装備も、それぞれの札と一緒に置かれている。

 人の四肢と体幹へ沿うフレームには、点検のために開かれた箇所があった。

 隼人はその脇へ立ち、艦娘の明石とKAN-SENの明石の手が空くのを待った。

明石(艦娘)「副提督。いま、こちらの確認が終わったところです」

明石(KAN-SEN)「まだ動かしていい、とは言ってないにゃ」

隼人「ええ。今日は、確認を聞きに来ました」

 作業台へ、点検記録と残弾の表が並べられた。

 明石(艦娘)が、保管していた隼人の腕部戦術タブレットを持ってくる。

 隼人はその場で接続し、運用記録を開いた。画像の原資料は、別に保管されたままだった。

隼人「アイ。前回の運用記録と、今回の点検項目を出してくれ」

 耳元の通信端末へ、平坦な女性の声が返った。

『運用記録を表示します。未完了の点検項目を、別欄に示します』

 十三式高度演算装置が整理した時刻と、明石たちの作業記録を見比べる。

 残っている項目へ指を置くと、明石(艦娘)が担当と予定を答えた。

隼人「継続使用できる時間も、ここから出します。前回、動いたというだけでは長官へ報告できませんから」

明石(艦娘)「交換できる部品が揃うわけではありません。使えた物にも、次に使う前の確認が必要です」

明石(KAN-SEN)「弾薬も同じにゃ。同じ口径の物を作れたとしても、そのまま入れていいとは言えないにゃ」

 隼人は頷いた。

 先の海戦で発射した七発の対艦誘導弾は戻らない。隔離した一発も、使える戦力として数え直すことはできなかった。

 点検記録の隣には、小型偵察機の欄が残っている。

 墜落、使用不能。回収できず、代替機もない。

 利用できるのは、失われる前に送られてきた記録までだった。

隼人「偵察は、艦隊側の観測と組んで考えます。こちらにある物だけで完結させない方がよさそうですね」

明石(艦娘)「でしたら、情報を受け取る側の確認も、項目へ入れておきます」

 隼人は、装備一覧へ目を移した。

 十五式強化外骨格戦闘装備、陸海仕様。

 認識番号十五、《みらい》。

 固定の十五式十二・七ミリガトリング砲に加え、海上での運用を考えるなら、十三式小型VLS、百二十五ミリ艦砲、二十ミリバルガン小型ミサイル迎撃システムを含むユニットが候補になる。

 載せられる物を全部積むのではなく、今回確かめる役割に合わせて選ぶ必要があった。

隼人「もし、艦隊と合わせた確認をするなら、この構成を考えています。取り付ける物が決まれば、別の記録を出します」

明石(KAN-SEN)「用途を先に決めてくれる方が、こっちも助かるにゃ」

 隼人は時間の見込みを書き留めた。

 今日中に点検を進めても、装着して使えるかを決めるのは、結果が揃ってからになる。

 最後に、表の端へもう一つ記す。

 実戦用の弾薬と、演習で扱える仕様の区分。

隼人「確かめたいからといって、残った実弾で代用しないようにお願いします。演習なら、判定側とも話を合わせます」

明石(艦娘)「分かりました。使える範囲を、先にお渡しします」

 タブレットの接続を外し、艦娘の明石へ返す。点検の邪魔にならないよう脇へ下がった。

 手を出せば早くなる仕事ばかりではない。今の隼人にできるのは、運用する側が何を確かめたいかを伝え、返ってきた結果を読み違えないことだった。

     *

 航空隊の状況も聞き終えて宿舎へ戻った時には、会談用の白い上着が少し窮屈に感じられた。

 共用の居間には、朝、艦娘の武蔵が置いた写真立てがある。

 隼人はそこへ目を向けてから、自分の部屋へ入った。

 青い迷彩服へ着替える。

 腕を上げても、左肩に痛みはない。

 この三週間余りで、傷の治療も終わり、勤務と訓練へ戻っていた。それでも、休まなくてよい身体になったわけではなかった。

 机へ置いた記録を、手に取りかける。

 金剛と剣子の言葉を思い出し、時計だけを確かめた。

隼人「……少し寝るか」

 ベッドへ横になり、目を閉じる。

 今朝のことを考え始めれば、いくらでも続きがあった。桜の顔も、名前を思い出せない女性も、消えてはいない。

 それを考えるためにも、午後の仕事を終えられるようにしておきたかった。

 短い眠りから覚めたあと、隼人は顔を洗い、工廠で受け取った記録を持った。

 天城たちの打合せは、これから合流する約束になっている。

     *

 茶室には、普段より多くの座布団が並んでいた。

 艦娘とKAN-SEN、双方の各隊の担当者が集まっている。

赤城(艦娘)「三笠さんからの招集、というのは珍しいですね」

赤城(KAN-SEN)「天城姉様から、修復のお話とは伺っておりましたけれど」

長門(艦娘)「各隊の担当まで揃うとなると、少し大きな話だな」

陸奥(艦娘)「座る場所から、考えないといけないわね」

 艦娘の赤城とKAN-SENの赤城が、向かい合う列へ座っている。

 KAN-SENの能代が、同じくKAN-SENの愛宕と高雄の隣で場所を空ける。

 艦娘の伊8とKAN-SENの伊19は、記録を膝の前へ置いた。

伊8(艦娘)「私たちまで、幹部の席へ来てよかったのでしょうか」

伊19(KAN-SEN)「観測した場所を話すなら、私たちもいた方が早いでしょ」

 向かいでは、明石(KAN-SEN)が足をそろそろと動かしていた。

明石(KAN-SEN)「……痺れるにゃ」

明石(艦娘)「無理に正座を続けなくても」

明石(KAN-SEN)「そういうことは、もっと早く言ってほしいにゃ」

 艦娘の綾波が小さく笑った。

 奥へ座った三笠も、その様子を見て手を振る。

三笠(KAN-SEN)「よい、よい。足を固めるために呼んだのではない」

長門(艦娘)「建前も必要ですから」

三笠(KAN-SEN)「なるほど。では、建前が済んだところで始めよう」

 笑いが収まると、天城が工程表を広げた。

天城(KAN-SEN)「午前の会談を受け、提督から取りまとめをお預かりしています。一週間後までに、呉が出せる戦力と、不足する条件を報告します」

高雄(KAN-SEN)「その先の計画は」

天城(KAN-SEN)「硫黄島の奪還が検討されています。早ければ一か月後、という実施案です。ただし、参加を了承したわけではありません」

 手元の紙を見ていた者たちが、顔を上げた。

愛宕(KAN-SEN)「一か月では、まだ修復が済まない所もありますね」

神通(艦娘)「警戒の割り振りも、組み直しているところです」

長門(艦娘)「この一覧で、修理完了の日付を出撃日として数えるなよ。試運転と、その後の訓練も要る」

天城(KAN-SEN)「はい。その日数まで含めて伺います。上陸部隊や輸送、補給の条件は、上級司令部からの返答も待ちます」

 赤城(艦娘)が、搭乗員の表を前へ置く。

赤城(艦娘)「こちらも、戻った機体の数だけでは答えられません。限定した訓練へ復帰できた搭乗員はいますが、以前の航空隊がそのまま戻ったわけではありませんから」

赤城(KAN-SEN)「連日使うのであれば、交代できる者も必要ですわね」

長門(艦娘)「艦娘の扶桑と山城も、KAN-SENの扶桑と山城も、修復が続いている。戦力を全部出せば、留守は薄くなる」

 三笠は頷いた。

 天城は、出せないという返答の脇へ、必要な日数や人員を書いていく。

 ここで答えを丸めれば、一週間後には、間に合うものだけが並んだ一覧になってしまう。

三笠(KAN-SEN)「足りぬ所は残そう。それを、上へ伝えるために集まったのだからな」

 襖の外から、隼人の声がした。

隼人「失礼します。入ってもよろしいですか」

三笠(KAN-SEN)「どうぞ。君の確認も聞こうと思っていたところだ」

 入った隼人は、揃った顔を見渡した。

隼人「……ずいぶん大きな打合せですね」

三笠(KAN-SEN)「小さい話では済まなくなったのでな。よく休めたか?」

隼人「少し。工廠の記録も、受け取ってきました」

 天城の示した場所へ座り、点検結果を渡す。

 いま使える物と、まだ確認を終えていない物。それを一覧へ加えてから、隼人は島の情報について話した。

     *

隼人「原画像は技術班で保管しています。今日は、照合に必要な概要からお伝えします」

 午前の会談で定めた範囲に沿って、海岸の構築物らしい影と、地形の違いを示す。

 画像を届けた者の名前や、別の三枚の内容は広げなかった。

 伊8が、古い観測記録を開いた。

伊8(艦娘)「こちらから見た時には、それほどの陣地は確認できていません」

隼人「観測した位置と日時を、合わせて見たいのです。海から見えない所もありますから」

伊19(KAN-SEN)「古い記録だから、使えないわけではないのね」

隼人「ええ。変わっているかを知るためにも、前の状態が要ります」

 二人の記録へ付箋を添え、照合の担当へ渡す分を揃える。

 隼人は礼を言い、島へ近づく経路の図へ目を移した。

隼人「兵器の種類と数も、これから確かめなければなりません。砲の射程だけで、近づける場所を決めない方がいい」

長門(KAN-SEN)「お主の時代に近い兵器があると、考えるか」

隼人「存在が確認された、とは言えません。ただ、私の装備がここにある以上、別の技術が敵側へ来ないと決めつけることもできません」

 先の海戦で受けた妨害も、欧州から伝わる高速機の話も、いまある知識だけで説明し切れるとは限らなかった。

 島の画像へ、見慣れた兵器の名前を当てはめるつもりはない。それでも、知らないものを考慮から外して進むのは危険だった。

三笠(KAN-SEN)「遠くから、こちらを追ってくる攻撃も、考えておくわけだな」

隼人「はい。仮に、私の知る誘導兵器に近いものがあるなら、探知や妨害、迎撃を組み合わせる必要があります。装備を一つ置けば、全部止まるというものでもありません」

 神通が、確認する項目を手元へ書いた。

 天城も、敵岸の調査と海上の警戒を別の欄へ分ける。

 その図の前方へ、隼人の指が来た。

隼人「編成を考える時、私を前衛に置く案も、検討していただけませんか」

     *

長門(艦娘)「一人で、前へ出るのか」

隼人「艦隊の前で、探知と迎撃を受け持ちたい。そうした攻撃を受けた経験はあります」

 赤城(KAN-SEN)の手が、膝の上で止まった。

赤城(KAN-SEN)「隼人様。経験があるからといって、今度も受け切れるのでしょうか」

隼人「そこを、確認する必要があります」

赤城(KAN-SEN)「では、どうして先に、ご自分を前へ置くのでしょう」

 隼人は図から手を離した。

 紙の上なら、空いている所へ自分を一人加えるだけで済む。

 皆を島へ届けるには何が足りないかを考えていたはずが、その不足へ、使えるかを確かめる前の自分を入れようとしていた。

神通(艦娘)「装備も、継続して使える範囲を調べているところでしたね」

隼人「はい。今日は、まだ使用できません」

時雨(艦娘)「前へ出る君を、後ろから助けられるかも知りたいね。君が避けた攻撃が、そのままこちらへ来るなら、別の備えが要る」

 隼人は頷いた。

 自分が生き残る方法を知っていることと、艦隊を守ることには、重なる部分と、重ならない部分があった。

隼人「帰ってくる手順と、こちらで止められなかった攻撃の受け渡しも、案へ入れます。皆さんと、合わせて確かめたい」

天城(KAN-SEN)「それでしたら、必要な記録があります。何を受け持てるかを、双方が見たうえで検討しましょう」

 長門(KAN-SEN)が、隼人と明石たちを見た。

長門(KAN-SEN)「装備の確認は、いつ揃う」

隼人「明朝を予定しています。結果次第では、使用を見送ります」

長門(KAN-SEN)「ならば、近海演習を提督へ進言しよう。お主一人に対し、我々は航空隊と艦隊を組み合わせる。受け切れぬ所も、支えられる所も見せてもらいたい」

赤城(KAN-SEN)「前衛に出すための演習、ですか」

長門(KAN-SEN)「出せぬと分かることもある。結果を先に決めては、確かめる意味がない」

 隼人は長門(KAN-SEN)へ目を向けた。

 それなら、断る理由はなかった。

隼人「提督がお認めになるなら、お相手します。私にも、必要でしょう」

 赤城(KAN-SEN)は、まだ彼を見ていた。

 隼人はそちらへ向き直る。

隼人「戻るところまで考えます。自分だけは死なない、と言える身体でもありません」

赤城(KAN-SEN)「その言葉を、覚えておきます」

 少し間を置いてから、彼女は続けた。

赤城(KAN-SEN)「では、演習にも全力で臨みますわ。あなたが強いと褒めて、前へ送り出すだけにはしたくありませんから」

隼人「……頼もしいですね」

赤城(KAN-SEN)「冗談で申し上げているのではありません」

隼人「こちらもです。遠慮されては、確かめられません」

 膝の上で握られていた手が、僅かに緩んだ。

 安心しろ、と重ねる代わりに、隼人は明石から預かった点検記録を、彼女にも見える位置へ置いた。

     *

三笠(KAN-SEN)「さて。全力という言葉を、予定表へ移そうか」

 天城が、新しい紙を前へ出した。

 参加候補と残留隊の欄は、すでに分けてある。

隼人「もう、用意されていたのですか」

天城(KAN-SEN)「話を伺いながら、形だけです。皆さんに確認するところは残っています」

三笠(KAN-SEN)「天城が書いているうちに、我が考えたことにしてしまいたいな」

天城(KAN-SEN)「では、残りの取りまとめも三笠様へ」

三笠(KAN-SEN)「……いや、手分けしよう」

 何人かが笑った。

 KAN-SENの高雄と艦娘の神通が当番表を寄せ、両者の空母たちも搭乗員の一覧を開く。

赤城(艦娘)「航空隊は、限定訓練に復帰した者からです。航空隊指揮官、軍医、整備責任者の確認が揃った組だけ、候補へ出します」

赤城(KAN-SEN)「基地の防空に残す者と、交代する者も、分けましょう」

長門(艦娘)「修復中の艦を、数を揃えるために入れるな。観測を手伝うなら、攻撃側とは別に考えてくれ」

 天城が頷き、残すべき警戒の枠へ線を引いた。

 全てを一度に近海へ出すための紙にはしない。空いた席を埋める前に、空けてはいけない役割を確かめていく。

三笠(KAN-SEN)「航空、水上、水中。こちらも、合わせて動くところを見たい。副提督一人を見ていればよい、という演習にはならんだろう」

伊19(KAN-SEN)「水中側の準備は、こちらでも確認するわ」

隼人「私一人には、ずいぶん豪華な相手ですね」

三笠(KAN-SEN)「使える力は、確かめておきたいのでな。君の装備だけでなく、我々の方も」

 隼人は使用を考えている構成を説明した。

 十二・七ミリの固定武装と、VLSを含むユニット。百二十五ミリ艦砲や二十ミリ迎撃装備についても、どの役割を試すかを先に出す。

 演習で扱える範囲は、技術班と観測担当が揃えてから確定する。

明石(艦娘)「明朝までに、使用可能な構成と演習仕様の区分を出します。点検が間に合わない項目は、間に合わないと書きます」

隼人「演算装置の記録も提出します。追尾と計算は補助を受けますが、攻撃を決めるのは私です。判断が遅れた所も、残してください」

三笠(KAN-SEN)「うむ。そのために、観測側を置こう」

 判定の根拠、使用する海域、射撃を止める条件。

 電力や弾数を使い切る前に、帰投できる余裕も確かめる。

 神通が通信の欄へ書き込んだ。

神通(艦娘)「演習で扱う回線と、実際の警戒・中止の連絡は分けます。妨害を試す場合も、後者は残してください」

隼人「了解です。受け取る側にも、事前に確認をお願いします」

 紙の中央へ、三笠が指を置く。

三笠(KAN-SEN)「勝敗は、対抗側の旗艦が大破の判定を受けるか、隼人君が戦闘不能の判定になるか。その条件で詰めたい」

隼人「旗艦は、どなたを」

三笠(KAN-SEN)「決めても、君には教えん」

隼人「聞くだけなら、損はありません」

三笠(KAN-SEN)「その顔で聞かれると、なおさら教えたくなくなるな」

 隼人が笑った。

 天城は、その横で「案」の字を残している。

隼人「ただ、これで島の攻撃を再現できるわけではありません。まだ分からないものも、ありますから」

三笠(KAN-SEN)「承知しておる。君に勝てば硫黄島を取れる、という話にはせんよ」

 机代わりの盆へ、必要な記録が増えていった。

 隼人はそれを見ながら、前衛に置く自分の姿だけでなく、後ろで受け持つ者の位置を辿った。

 三笠が立つと、隼人も腰を上げた。

三笠(KAN-SEN)「副提督が相手でも、遠慮はせんぞ」

隼人「こちらも、遠慮を期待してはおりません」

三笠(KAN-SEN)「前に会った時より、楽しそうではないか」

隼人「それは、私の台詞ですね」

 襖が開いたのは、その時だった。

     *

剣子「……何か、揉めてる?」

 髪を直しかけた手が、向かい合う二人を見て止まった。

 少し休んだ剣子の顔色は戻っていたが、声にはまだ寝起きの響きがある。

剣子「喧嘩なら、畳の上ではやめてくださいね」

三笠(KAN-SEN)「喧嘩ではない。明日の相談だ」

剣子「明日?」

 天城が紙を揃えて立った。

天城(KAN-SEN)「近海演習の案です。隼人様の装備と技量、それに対する私たちの連携を確かめたいと考えています」

三笠(KAN-SEN)「できる限りの力で、叩き潰してみようというわけだ」

剣子「起きて最初に聞く言葉が、それですか」

 隼人が、少しだけ頭を下げた。

隼人「お仕事を、増やします」

剣子「増やす、で済ませる量ではなさそうですね」

 剣子は座布団へ座り、差し出された案を表から裏まで読んだ。

 残留隊の当番表と、参加候補の一覧を並べる。

 明石たちの点検予定にも目を通してから、隼人を見た。

剣子「これは、前衛に出すと決めるためだけの演習ではありませんね」

隼人「はい。できないことも、確認します」

 剣子は頷いた。

剣子「では、準備は進めてください。参加者、海域、判定、中止条件をまとめた案を、今日中に私へ。警戒と基地防空は残します。修復中の子を、無理に参加させるのも駄目です」

天城(KAN-SEN)「承知しました」

剣子「航空隊は、案にある三者の確認を揃えること。隼人さんの方も、整備の結果と、医療担当の出動可否を合わせます。傷が治ったことと、重い装備で何をしてよいかは、もう一度確かめてください」

隼人「了解です。予定する負荷と時間も、提出します」

剣子「実施は、明朝、その報告が揃ってから私が決めます。間に合わなければ延期。それと、勝ったから硫黄島へ出してよい、とはしませんからね」

三笠(KAN-SEN)「それでこそ、提督だ」

剣子「褒めて、書類を増やさないでください」

 何人かが笑った。

 剣子も少しだけ口元を緩め、午前の会談の記録を天城へ渡した。

剣子「一週間後の報告には、出せる戦力も、足りない条件も入れます。この演習の結果も、その一つです。未定の上陸部隊や補給を、隼人さん一人で埋めたことにはしないでください」

天城(KAN-SEN)「はい。項目を分けて、取りまとめます」

 隼人は、机上で空いたままの欄へ目を向けた。

 そこへ自分の名前を一つ書けば、全部が整うわけではない。

 いまは、その欄を残したまま、皆で考えられていた。

剣子「それから、隼人さん」

隼人「はい」

剣子「工廠のあと、休みましたか」

隼人「少し、寝ました」

剣子「では、私だけ捕まったわけではないんですね」

三笠(KAN-SEN)「お互いに止める約束が、もう役に立っておるな」

 隼人が短く笑うと、剣子は受け取った茶へ目を落とした。

 まだ温かい。

剣子「……私、どれくらい寝ていました?」

隼人「その間に、修復の一覧が演習の案まで育つくらいは」

剣子「育てすぎです」

 今度は、三笠も笑った。

 赤城(KAN-SEN)は隼人へ視線を残していたが、彼がもう一度頷くと、手元の航空隊の表へ戻った。

 開いた襖から、午後の海風が入る。

 天城が新しい紙を広げ、各隊の記録を重ねる場所を空けた。

 一週間後、何を回答できるか。

 明日の海へ何を出し、呉へ何を残すか。

 隼人は剣子の隣へ座り直した。

 前方へ引いた一本の線から、今度は帰り着く場所まで、指を戻した。

 幹部会議は、そこから先へ進み始めた。




どうもー

素人小説書きですー

お久しぶりですね。

新年早々大変な事になり私自身も頑張って働いていましたが、

やはりひどい物でしたね



っと、暗い話は置いておきまして…

新年また色々あると思いますがまだまだ頑張って書いて行きますよー

それではまた





感想など書いて欲しいです。

今後の改善の為にお願いします。

2026年10月10日リメイク完了

ヒロイン

  • 416
  • VSK-94
  • 大鳳A
  • 蒼龍C
  • 雷電
  • スカイレイダー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。