陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
クロスオーバーなので悪しからず
それではどうぞ
5-2★ 大規模演習
幹部会議の翌日、正午。
呉鎮守府の近海へ、幾重もの機影が近づいていた。
雲の下を来る列と、その上から降りてくる列。翼へ日が当たるたび、遠い点が一機の飛行機に変わる。ひとつの編隊を数えている間に、後ろの編隊が視界へ入った。
隼人「飛燕に屠龍……隼、鍾馗。あれは飛龍か」
隼人は、空を見上げたまま息を吐いた。
機体の名を拾っていくのは、癖だった。機数より先に翼を見て、その向こうにいる搭乗員のことを考える。
今日は、どの機体も帰るために来ている。
そこだけは、前に見ていた空と違った。
隼人「一人相手に、ずいぶん奮発したな」
耳元に、平坦な女性の声が返る。
アイ『航空目標の追尾を更新。接近する編隊を、別群として表示しています』
隼人「分かった。まだ、先頭だけに目を取られるな」
左腕へ目を落とす。
戦術タブレットには空の反応だけでなく、沖を進む艦の位置もあった。目の前にいる相手を処理している間にも、別の相手が動いている。
隼人は、固定砲の向きを確かめた。
次に顔を上げた時、先頭の翼が傾いた。
*
同日、朝。
剣子の机には、昨夜提出された演習計画と、今朝届いた点検記録が並んでいた。
隼人の医療確認も、その脇にある。通常勤務へ戻っていることとは別に、今日使う装備と予定の負荷を確かめた報告だった。
剣子は、参加者の名簿をすぐには開かなかった。
先に、近海の警戒当番と、基地防空へ残す航空隊を見る。
剣子「この当番は変えない。修復中の子も、予定どおり残します」
天城(KAN-SEN)「はい。艦娘とKAN-SEN、双方の扶桑様と山城様は、攻撃側の名簿に入れておりません」
続いて、航空隊の確認書が置かれた。
限定訓練へ復帰した搭乗員のうち、航空隊指揮官、軍医、整備責任者の三者が確認した組を、今日の参加候補としている。機体の数に合わせて、人を後から埋めた名簿ではなかった。
剣子「途中で交代できる組も、揃っているね」
天城(KAN-SEN)「各隊で確認しております。中止した組を、欠けた数の補充のために戻すこともありません」
三笠が、机の向こうで頷いた。
KAN-SENの二人が提出した書類へ、剣子は確認の印を入れる。それから、隼人へ顔を向けた。
剣子「装備は?」
隼人「出動前点検は終わりました。使う構成も、昨日提出した範囲に揃えています」
十五式強化外骨格戦闘装備、陸海仕様。
認識番号十五、《みらい》。
隼人の身体を支える装着フレームに、現地改修の反動機構を備えた十五式十二・七ミリガトリング砲がある。今日取り付ける追加装備は、VLSユニット一式だった。
十三式小型VLS、百二十五ミリオートローダー搭載反動軽減搭載艦砲、二十ミリバルガン小型ミサイル迎撃システム。
別の重火器ユニットは重ねない。
探知装置と通信装置も、今の接続で動かせる範囲を確認してある。対潜用の演習弾を含め、持ち出す物の区分は、明石たちの点検記録と揃っていた。
小型偵察機の欄には、使用不能とある。
墜落した機体は戻っておらず、代替もない。隼人の側から、上空の映像を取りに行く手段は残っていなかった。
剣子の指が、最後の項目で止まる。
剣子「十五式対艦複数目標小型誘導ミサイル砲弾。これも、確認した演習仕様だけ」
隼人「はい。母弾と、分離後の命中判定を記録します」
百二十五ミリの母弾から、二十の小型誘導体を分離させる兵装だった。
実戦用の秘匿弾には、使用者の認証と暗証番号に加え、大尉以上の別人による第二承認が要る。今日扱う演習設定の許可は、それとは別に管理されている。
先の海戦で使った対艦誘導弾を補充したわけでも、隔離中の一発を持ち出すわけでもなかった。
剣子「途中で、実戦用へ切り替えるのは認めません。使う時は、観測側へ連絡して」
隼人「承知しました」
天城が、通信要領を開く。
天城(KAN-SEN)「妨害を扱うのは、指定した演習系統です。式神の伝令も、今回はその条件に合わせます。取り次ぎを止める区間では、発光信号へ移ります」
剣子「実際の警戒と、中止・回収の指示は残す。そちらまで届かなくなったら、演習を終えるよ」
隼人「対象から外してあります。海へ出てからも、接続を確かめます」
隼人が答えると、三笠は折り畳んだ紙を一枚持ち上げた。
三笠(KAN-SEN)「対抗側の指揮は私が執る。だが、勝敗の判定に使う旗艦は別に指定してある。その名は、君へは教えん」
隼人「三笠さんを狙えば終わる、と期待していたのですが」
三笠(KAN-SEN)「狙ってくれてもよいぞ。その間に、ほかの者が働く」
笑う三笠へ、隼人も短く笑った。
対抗側の旗艦が大破判定を受ければ、隼人の勝利。隼人が戦闘不能と判定されれば、対抗側の勝利となる。
判定は、どちらの攻撃にも加わらない観測側が受け持つ。
剣子「では、正午から、この計画で実施します。判定を受けたあとの退避と回収も、予定どおりに」
隼人と三笠、天城が、順に答えた。
昨日許されたのは、準備までだった。今朝揃った報告を見て、剣子は実施の欄へ日付を入れた。
剣子「今日勝ったから、硫黄島へ前衛として出してよい、とはしないよ。帰ってきたあとに、何が残っているかも見ます」
隼人「そのための記録も、持ち帰ります」
三笠(KAN-SEN)「まず、勝つつもりでおるのだな」
隼人「負けるつもりで出たら、失礼でしょう」
剣子が、二人を交互に見た。
剣子「その元気は、報告書を書く分も残しておいてね」
*
工廠の保管区画では、艦娘の明石が点検記録を手に待っていた。
KAN-SENの明石は、支持台の脇で、取り付けるユニットを見直している。
明石(KAN-SEN)「これで全部にゃ。使わない物まで欲しがらないでほしいにゃ」
隼人「今日は、これだけで十分ですよ」
明石(艦娘)「十分でも、使い切ってから帰ろうとはしないでください」
隼人が身体を入れると、フレームの装着部が閉じられた。
腕を動かし、膝を曲げる。機械の動きが、身体の動きへ遅れずについてくることを確かめてから、追加ユニットの接続を点検する。
艦娘の明石が、保管していた腕部戦術タブレットを渡した。
左腕へ装着し、電源と記録を開く。写真の原資料まで持ち出すことはしない。
隼人「アイ。今日の構成で確認を」
アイ『接続を確認しました。未使用の系統を、運用対象から外しています』
十三式高度演算装置。
二〇一五年七月の現地改修で、《みらい》へ組み込まれた支援AIだった。正式な愛称はなく、隼人だけが、アイと呼んでいる。
耳元の声には、余分な調子がない。
追尾と計算を任せるための声だったが、何へ撃つかまで決めてもらう声ではなかった。
隼人「帰投分を、別に見られるようにしてくれ」
アイ『帰投に必要な残量を、継続して表示します』
明石たちは、隼人がゆっくり歩くのを見届けた。
重い装備を身体へ沿わせても、装備の重さそのものが消えるわけではない。腰と脚へ加わる荷重を確かめ、通路の角を大きく回る。
明石(艦娘)「使用記録は、帰ってから現物と合わせます」
隼人「お願いします。こちらだけで見えたものを、全部にしないように」
入口で振り返ると、二人とも頷いていた。
《みらい》を預け直す場所は、帰ってきたあとにも、そこにある。
*
海上での接続確認が終わる頃、対抗側にも準備完了の報告が揃っていた。
艦橋から来る声と、式神を介して届けられる連絡。三笠はその時刻を揃え、正午を待った。
艦娘の赤城は、飛行隊の記録を閉じる。
KAN-SENの赤城は、その隣で、隼人が向かった海を見ていた。
三笠(KAN-SEN)『皆の者。相手は隼人副提督、一人だ。決めた演習装備で、できる限りのことをする。人を相手にするからと、狙いを外す必要はない』
返答が届く。
三笠は、最後に預かったもう一つの言葉も伝えた。
三笠(KAN-SEN)『なお、副提督より申し出がある。最も手を焼かせた者には、休みを一日、付き合おうとのことだ』
五十鈴(艦娘)『……今、言うの?』
金剛(艦娘)『Wow! フクテイトク、太っ腹ネー!』
金剛(KAN-SEN)『一日、ですか』
急に言葉の減ったもう一人の金剛を、艦娘の金剛が覗き込んだ。
別の艦では艦娘の隼鷹が笑い、KAN-SENの隼鷹が、譲る理由はないと返している。
艦娘の愛宕へ顔を見られたKAN-SENの愛宕は、いつもより早く準備の確認を終えた。
赤城(艦娘)「赤城さん。演習の目的は、変わりませんからね」
赤城(KAN-SEN)「ええ。隼人様を、簡単に前へ出さないためですわ」
間違ってはいない。
艦娘の赤城は、その返事へ一度だけ頷き、時刻を確かめた。
三笠(KAN-SEN)『競うのは構わん。だが、役割を放り出すな。相手を囲もうとして、こちらの連携を崩しては本末転倒だぞ』
腕時計の針が重なる。
三笠は声を落ち着かせた。
三笠(KAN-SEN)『演習開始。未来の技術、受けてみようか』
*
艦載機が、攻撃隊の集まる空域へ向かっていた。
加賀の二人は、その合流を確かめる。全機を同じ方角へ送り出したわけではなく、一部は艦隊上空の警戒へ残してある。
加賀(KAN-SEN)「これで、届くか」
加賀(艦娘)「届かなければ、何が足りなかったかを持って帰るのよ」
KAN-SENの加賀が、顔を上げた。
もう一人の加賀は、空を見ている。
前の海戦では、その答えを持って帰れない者もいた。今日戻る者には、命中しなかった理由も聞ける。
演習海域の外側では、艦娘の鳳翔が観測と判定を受け持っていた。
剣子はその観測席で、双眼鏡を下ろす。
剣子「たった一人に向ける景色ではないね」
鳳翔(艦娘)「こちらも、見落とさないようにいたします」
観測機から届く記録を、時刻順に揃える。
その映像を、攻撃側の索敵へ渡すことはしない。
隣の席にいた艦娘の大鳳が、遠い編隊を目で追った。今日の攻撃には参加せず、こちらで見守っている。
大鳳(艦娘)「副提督、大丈夫かな」
剣子「見ておこう。どう受けて、どこを抜けて、そのあと、まだ動けるかまで」
剣子は、開始時刻を書き込んだ。
海の向こうから、最初の機体が降りてくる。
*
空の列が、翼を立てた。
先頭が降下へ入り、後続も同じ場所へ機首を向ける。その後ろから来る編隊は、まだ前の列へ近づいていた。
隼人は海面の上で移動を止め、先頭機を見た。
降りてくる速さより、後ろとの間隔が気になる。
隼人「……詰めすぎだ。アイ、先頭の追尾を」
アイ『照準情報を更新します』
腕部タブレットの照準情報を一度確かめ、空へ顔を戻す。
隼人が射撃を指示すると、十二・七ミリの短い連射が響いた。
先頭機へ被弾判定。
機体は進路を変え、演習の攻撃線から離れる。
その動きを、後続が避けた。
次の機体も翼を振る。まだ降下へ入っていなかった機体が、隣の進路を見て攻撃を中止した。
隼人「そこへ抜けたら、次と重なるぞ」
隼人の言葉は、相手の操縦席までは届かない。
だが、搭乗員も気づいていた。重なる前に降下をやめ、機首を戻す。接触は避けられたが、攻撃へ入るはずだった列は、そのままほどけていった。
誰も空で衝突していない。
それでも、一機を離脱させただけで、後ろの攻撃まで続かなくなった。
隼人は次の機体へ照準を移し、その進路の違いを確かめる。
撃てるものが多いことより、攻撃できずに抜けていくものが多いことの方が、気にかかった。
隼人「先頭の離脱が、後ろへ伝わっていない。いまの進入を、残してくれ」
アイ『該当区間を記録しました』
混乱から抜けた機体が、投下弾を離した。
翼の下から小さな影が落ち、機体だけが上昇する。
隼人は追っていた航空機を外し、表示を切り替えた。
隼人「投下弾を優先。迎撃側へ渡す」
指定した情報が、二十ミリの迎撃装備へ送られる。
隼人が射撃を指示すると、バルガンが短く唸った。投下弾へ迎撃判定が入り、次の反応を選び直す。
機体に向ける固定砲と、落ちてくる弾を扱う迎撃装備。
片方の判定を読んでいる間にも、次の投下が始まっていた。
隼人は空へ目を戻す。
高い列は崩れたが、そこから抜けて攻撃を続ける機体もある。もう終わったと思って、全部の表示を閉じるわけにはいかなかった。
アイ『水中に複数の反応。追尾情報を表示します』
隼人「そちらも、来ていたか」
平坦な声が、空へ向けていた注意を引き戻した。
タブレットの別の欄へ、水中の音を基にした反応が並ぶ。
目で海を見る。
そこには、波があるだけだった。
隼人は、次に空から降りてくる列との間を確かめた。水中の表示へ戻り、追尾の継続を読んでから、攻撃する目標を選ぶ。
隼人「対潜用演習弾。指定した目標へ」
アイ『選択を確認しました』
十三式小型VLSの蓋が開いた。
発射を指示した弾が、順に空へ抜けていく。
隼人はその尾を追い続けず、また航空隊の方角へ顔を向けた。
*
艦娘の伊8が、潜望鏡から顔を離した。
伊8(艦娘)「こちらへ、向けました」
伊168(KAN-SEN)「空を見ていたんじゃないの?」
伊19(KAN-SEN)「見ていたわ。それでも、私たちを見つけていたのね」
第一波が相手の目を上へ向け、その間に潜水艦隊が回り込む。
そこまでの手順は揃っていた。隼人が上を見る時間も、こちらから確かめている。
ただ、その時間に、相手の探知まで止まったわけではなかった。
艦娘の伊401が、移動を促す。
伊26は、近づく反応を確かめた。
伊26(艦娘)「何か来ています」
海中へ入った、対潜用の演習弾だった。
回避へ移った艦の報告と、観測側の判定が重なる。離れられた者もいれば、戦闘不能の判定を受けた者もいた。
攻撃を続けられなくなった艦は、指定された離脱海域へ向かう。
伊8はその連絡を聞きながら、潜望鏡で見た相手の姿を思い返した。
あれほど小さい。
首を動かし、こちらから見える腕を使っている。
伊8(艦娘)「一人で、空と海の下まで……」
口にしてから、もう一度考える。
自分たちが上へ向けさせたのは、あの人の顔だった。探知装置が何を見ているかまでは、その顔から分からなかった。
*
対潜攻撃の判定が届くと、隼人は移動を始めた。
発射した場所は、相手にも知られたはずだった。次に来る機体を、同じ位置で待ち続ける理由はない。
ホバー機構が低い波を越えていく。
追加ユニットの重みを伴いながら、沿岸の岩場へ進路を変える。水上艦の反応を確かめ、岩棚の脇で速度を落とした。
沖には、艦隊が見える。
手前の船影に重なり、後ろの艦は一部が隠れていた。反応があるからといって、艦名も役割も分かったことにはならない。
前方には、三笠の艦が見えた。
隼人はそこへ、すぐには砲口を向けなかった。
隼人「見せておいて、別を守る。天城さんなら、考えるだろうな」
旗艦は、まだ分からない。
全艦を止める必要はなくても、最も目立つ一隻を撃てば勝てる、とする理由もなかった。
隼人は演習用の妨害対象を開く。
登録した区分を見直してから、作動を指示した。剣子へ繋がる中止回線と、実際の警戒連絡は残す。
岩場の切れ目へ、広い飛行甲板が見えた。
海から来る次の機影を一度確かめ、隼人は低い岩棚へ脚部を下ろした。移動を止め、腰部と脚部のフレームへ荷重を預ける。
百二十五ミリ艦砲の自動装填装置が動いた。
射撃前の姿勢を確かめ、隼人が指示する。
砲声が、岩と海の間へ響いた。
反動が身体を囲うフレームへ伝わる。隼人は姿勢が戻ったことを確かめ、船影の方へ目を戻した。
*
天城(KAN-SEN)「航空巡洋艦へ、偵察の――」
返答が来なかった。
別の呼出しも、同じ区間で途切れる。演習要領に従い、式神による取り次ぎも止まっていた。
KAN-SENの天城が横を見ると、艦娘の陸奥の艦橋から発光信号が届いていた。
通信不能。
こちらだけの異常ではない。
天城は返答の信号を送らせ、最後に確認した隼人の位置を見た。
対潜攻撃のあとに得た位置だった。次の航空隊が、そこを捜している。
だが、相手が待っているとは限らない。
先の命令を受けて進む艦と、次の確認を待つ艦の間で、間隔が変わった。
前の艦が速度を落とせば、後ろも合わせる。隣へ確認を送っている間に、別の信号が上がる。
天城(KAN-SEN)「止まったままでは、相手に――」
海の向こうで、短い光が走った。
砲撃の判定が届く。
艦娘の赤城、飛行甲板に命中。発着艦不能。
天城は、図から顔を上げた。
捜していた場所に、相手はもういなかった。
連絡を揃えている間に、砲撃できる所まで入られている。
*
隼人「届いたな」
隼人は命中判定を確かめ、岩棚から位置を変えた。
止められたのは、飛行甲板だった。赤城の艦全体を大破させたわけではなく、艦橋からの指揮も続けられる。
それでも、次の攻撃に使えるものは減った。
隼人は、残弾の欄を見る。
見える艦から順に撃ち、どれかが旗艦だったと分かるまで待てるほど、弾薬を持ってきたわけではない。
沖では、別の空母から上がった機影が広がっていた。
艦隊の上へ残るものと、こちらへ来るもの。電探の反応が、違う進路を取る。
アイ『航空目標が接近。追尾情報を更新します』
隼人「……捜し直してきたか」
隼人は空を見る。
今度の編隊は、先ほどと違った。
隣の翼と、その次に降りてくる機体の間に、空が見える。
*
九九式艦上爆撃機へ、十二・七ミリの短い射撃を向けた。
被弾判定を受けた先頭機が、後続へ合図してから離脱する。
次の機体は、追わなかった。
空いた進路を避け、自分の攻撃を続けている。
隼人「冷静だな」
投下弾が離れた。
隼人は迎撃するものを選び、二十ミリへ渡す。判定を確かめている間に、次の投下が始まった。
先ほどほど、まとめて撃てる場所がない。
相手が進路を変えるたび、こちらも向きを変える。
アイ『低空から、別の航空目標が接近しています』
上から顔を戻す。
九七式艦上攻撃機が、海面に沿って来ていた。
隼人は射撃を切り、横へ移った。
演習魚雷が、さっきまでいた場所を通り過ぎる。
隼人「小さい相手には、そう簡単に――」
言葉の途中で、別のエンジン音が近づいた。
零戦だった。
雷撃を避けた先へ、機首を向けている。
隼人はさらに進路を変え、速度を落として固定砲を向けた。短い射撃に被弾判定が入り、零戦が離脱する。
だが、上の機体は、その場へすぐには降りてこなかった。低い攻撃隊が進み終えるのを待っている。
撃つために来る機体。
隼人を動かすために来る機体。
動かした先を受け持つ機体。
第一波のように、全員が同じ場所を欲しがってはいなかった。
隼人「一人ずつ、相手にさせないつもりか」
空を追い、海面を見て、端末へ戻る。
次の投下弾を迎撃する。離脱した機体を攻撃対象から外し、その奥へ現れたものを選び直す。
アイ『水上目標の追尾を継続。位置を更新しました』
隼人「あとで見る。空の追尾は続けてくれ」
答えてから、もう一度、海を見る。
船影の並びが、少し変わっていた。
それが何を意味するかを確かめる前に、次の機体が降りてくる。
情報は、消えていない。
隼人が確かめる順番だけが、遅れていた。
迎撃装備の音が止み、別の投下弾を待つ短い間ができた。
隼人は息を吐き、腕部タブレットへ目を落とす。
相手の動きへ答え続けるだけでは、こちらから始めたかった攻撃まで後ろへ回る。
今は、空を見なくてもよい時間を、相手に決められていた。
*
次の進入までにできた間へ、隼人は水上の表示を開いた。
止まりかけていた隊列が、また動いている。
無線が途切れても、艦隊には代わりの合図があった。
隣の艦へ届く光。その返答を待ち、艦首が動く。最初は揃わなかった速度も、少しずつ合い始めていた。
隼人の妨害は続いている。
それでも、相手は動きを取り戻していた。
隼人「……止めっぱなしには、できないな」
残弾の欄を見る。
次に、帰投用の電力を確かめた。
隼人「アイ。帰る分は」
アイ『確保できます。現在の負荷を継続した場合、戦闘に使用できる時間は短くなります』
ホバー、探知装置、妨害装置。
別々の働きでも、同じ装備から電力を使っている。迎撃を重ねた装備の冷却にも、負担が残っていた。
まだ撃てる。
それだけを見て、同じ攻撃を待ち続けるつもりにはなれなかった。
隼人「長引かせる方が、余計に使うか」
空の追尾を続けさせたまま、剣子へ繋がる回線を開く。
隼人「事前に提出した十五式対艦誘導砲弾を使います。演習仕様の使用許可を」
剣子『承認します。観測側でも、記録を続けるよ』
隼人「了解」
端末へ、演習用の承認信号が並んだ。
隼人は設定を見直し、装填を指示する。
百二十五ミリ艦砲の後部で、装填装置が動いた。
その間に、水上目標を確かめ直す。
手前の空母。
その隣の艦。
さらに奥にも、追尾を続けている反応がある。
旗艦の名は、分からない。
遠い船影の全てを、目だけで識別できているわけでもなかった。
隼人は、確認できた情報から攻撃する目標を選んだ。
二十の誘導体の割当を、アイが表示する。まだ射撃はしない。隼人はその一覧と、観測側の位置を見比べた。
アイ『観測艦と観測機を、対象に含めていないことを確認しました』
鳳翔のいる海域は、外してある。
空の追尾も、続いている。
隼人は岩場へ戻り、脚部を下ろした。
移動を止め、姿勢を確かめる。
追われ続けているように見えた海で、ようやく、自分の攻撃を始める場所へ立った。
隼人「これで、決める」
射撃を指示する。
砲声とともに、フレームへ反動が伝わった。
*
艦隊上空に残っていた零戦が、遠くの光へ向きを変えた。
隣へ翼を振り、別の機体も同じ方角を見る。
小さい。
それでも、こちらへ来る。
二機が追い始めた先で、母弾が開いた。
ひとつだった光が、分かれる。
二十の小型誘導体が、それぞれの針路を取った。
艦娘の赤城は、飛行甲板の使用不能判定を受けたあとも、回収先の連絡を続けていた。
空へ上げた機体は、まだ戻っていない。こちらで受けられなくても、誰が受け持つかを揃えなければならなかった。
赤城(艦娘)「隣へ信号を。こちらの航空隊の回収先も――」
赤城(KAN-SEN)「赤城さん。接近しています」
声に、顔を上げた。
空の光が増えている。
電探にも、反応が分かれて現れた。
赤城(艦娘)「対空警戒。発光信号で伝えて!」
火器が向きを変える。
演習の火線が空を辿り、先に来た一つへ迎撃判定が入った。後ろの一つも、目標へ届く前に止まる。
だが、ほかの光は、同じ場所を飛んでいなかった。
艦が向きを変える。
隊列の端で回避が始まり、ひとつが、その後ろを通り過ぎた。命中判定は出ない。
届かないものもあった。
止められるものもあった。
それでも、赤城の手元へ、最初の命中が届く。
電探設備、使用不能。
続いて、通信設備。
隣へ発光信号を送ろうとしていた区画にも、判定が重なった。
そこにいる者が消えたわけではない。
目の前の機器も、実際には動いている。
ただ、ここからの演習に使えるものは、減っていた。
赤城(艦娘)「艦隊を、動けなくするつもりなのね」
船体は残っている。
海を進むこともできる。
だが、何を見て、どこへ伝え、次に誰を動かすか。そのための手段が、順に使えなくなっていた。
別の艦にも、判定が入る。
武装の一部を失った艦。推進に関わる区画へ命中を受けた艦。
その間には、まだ迎撃を続ける艦も残っていた。
KAN-SENの赤城が、遠い光の先を見た。
相手を近くで見つけ、囲むことばかり考えていた。こちらが届く前にも、向こうは、こちらの働きを減らせる。
赤城(艦娘)「未来の戦い……」
呟いたところへ、隊列の奥から連絡が来た。
艦娘の雲龍、飛行甲板に命中。
さらに、指揮と推進に関わる区画にも判定が重なる。
赤城(艦娘)「雲龍さんの状態を、確認してください」
赤城(KAN-SEN)「旗艦の」
赤城(艦娘)「ええ。そこが取られたなら、終わりです」
返答を待つ間に、別の艦が迎撃を続けた。
まだ反撃できる者がいる。
そのことと、今朝決めた勝敗は、別だった。
艦娘の赤城は椅子へ腰を下ろした。
回収の連絡は、当初から残されていた系統で続ける。演習の攻撃指示には使えなくても、実際に帰る場所は揃えられた。
空にいる者を、帰り先の決まらないままにはしておけなかった。
*
アイ『迎撃、不命中、命中の記録を受信しました』
隼人の端末へ、判定が並んだ。
沖には、動いている反応が残っている。二十の全てが届いたわけでも、届いた全てが大破を取ったわけでもなかった。
隼人は妨害装置を止めた。
戻った通信へ、各艦の報告が重なる。
隼人「終了の判定は?」
アイ『観測側からの連絡を待っています』
隼人は空を見る。
旋回する機体が、まだこちらを捜していた。
表示も、追尾を続けている。
勝ったとは、自分から言わなかった。
剣子『隼人君。聞こえる?』
隼人「聞こえます」
剣子『対抗側旗艦、艦娘の雲龍。大破判定を確認しました。演習終了。全隊、攻撃を中止して』
隼人は射撃制御を止め、兵装を安全な状態へ戻す。
空の機体が進路を変え、帰投の編隊を作り始めた。
隼人「了解。雲龍さんでしたか」
剣子『最後まで分からなかった?』
隼人「ええ。三笠さんの向こうに、よく隠れていました」
剣子『その話も、あとで聞こう。残弾と使用記録を確かめてから、帰隊して』
終了時刻を、アイが記録した。
隼人は欄を一つずつ確かめ、現物との照合が必要な項目を残す。
肩を動かすと、首筋の強張りに気づいた。
空と海を、何度も見直していた。機械が追い続けていた情報の全てを、自分も同じ速さで読めたわけではない。
第二波の途中で、後回しにした確認がある。
帰投用の電力を見直した時刻も、残っていた。
隼人は顔を上げた。
さっきまで降りてきていた機影が、遠ざかっていく。
被弾判定を受けて離脱した機体も、指定された方角へ向かっていた。
隼人「……やっぱり、いい眺めだな」
剣子『楽しかった?』
隼人「少々」
剣子『だろうね。報告書にも、それくらい元気を残しておいて』
回線が切れたあと、隼人はアイへ声をかける。
隼人「記録だけで、報告書にならないか」
アイ『一覧は作成できます。判断の理由については、入力をお願いします』
隼人「そこは、こちらの仕事か」
アイ『入力をお待ちしています』
隼人の口元が、少しだけ動いた。
帰港する艦隊の方角を確かめ、岩棚から脚部を上げる。
隼人「帰ったら、話すよ」
海へ戻った装備が、低い波を越えた。
今度は追われるためではなく、帰り着くための進路だった。
*
午後、呉鎮守府。
岸壁では、帰港した各隊から報告が集められていた。
発艦した機数と、戻った機数。途中で離脱した艦の到着。観測側の記録も、終了時の報告と同じ時刻へ揃えていく。
隼人は工廠へ向かう途中、その作業を見た。
海では別々の相手だった者たちが、帰ってからは、それぞれ違う記録を持っている。
短い打合せの席で、剣子は結果の欄へ、隼人の勝利と書いた。
その下に、各隊の離脱と、使用兵装、終了時の残量が続く。
三笠(KAN-SEN)「負けたか」
口調は潔かった。
だが、紙を覗き込む目は、勝敗の欄だけを見ていない。
天城(KAN-SEN)「こちらが止まっていた間に、向こうが何をしていたか。時刻を合わせて、確かめましょう」
隼人「私が見直せなかった時間もあります。こちらの記録だけでは、埋まらない所です」
三笠が、隼人を見た。
三笠(KAN-SEN)「勝った方から、それを言うか」
隼人「今日なら、皆さんに聞けますから」
天城が頷き、受け取った写しを揃えた。
正式な講評に使う資料は、まだ集まっているところだった。ここで先に結論を出さず、観測機の記録と、各隊が持ち帰った報告を待つ。
剣子は、隼人へ空いている紙を一枚渡した。
剣子「判断の理由も、これから?」
隼人「はい。装置にも、書くように言われました」
剣子「私だけじゃなかったんだね」
笑った剣子へ、隼人も苦笑した。
海上の表示より、机へ置かれた紙の方が、やけに多く見える。
三笠(KAN-SEN)「一日付き合う相手を決めるのも、そのあとか」
隼人「誰に、どこで手を焼かされたか。まだ、全部は確かめておりませんので」
剣子「そちらだけ先に決めて、記録を見なくなるのは困るからね」
隼人は、正式講評の時刻を確かめた。
使用後の点検も、まだ途中だった。追加ユニットを預ける支持台と、外骨格を外すための場所が、工廠で用意されている。
預かった記録を抱え、隼人は点検区画へ戻った。
岸壁の向こうでは、航空隊の報告を運ぶ者が歩いている。
空から来た者も、海の下から来た者も、まだ答えを持っていた。
次は、それを聞く番だった。
やぁ
素人小説書きだよ
少し長くなったね
とは言え、今回は長めに書いたから許してくれると嬉しいな
今回はイエローケーキ兵器設計局とのコラボでごぜーます!
うれしい
次回もコラボなのでお楽しみに
お知らせなのですが、兵器解説の話も入れようか考えています。
のちにアンケートをお出ししますのでお願いします
感想など書いて欲しいです。
今後の改善の為にお願いします。
後、オリキャラの募集また始めます
コメントからお願いします。
2026年10月10日リメイク完了
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