陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
クロスオーバーなので悪しからず
それではどうぞ
5-5 腹が減っては戦が出来ぬ
大規模演習の翌朝。
呉鎮守府の提督執務室には、判子を押す音と、タイプライターの音が交互に響いていた。
剣子が一枚を確かめて印を押す。その隣で、隼人が照合の済んだ記録を清書する。窓から入る風が紙の端を持ち上げ、隼人は空いた手で重しを置き直した。
剣子「隼人君。そこの棚から、航空隊の綴りを取ってくれる?」
隼人「こちらですか」
剣子「うん。昨日、雲龍さんのところで合わせた分」
差し出された綴りを、剣子が開く。隼人も席へ戻り、途中だった行へ目を落とした。
着弾の時刻と、判定が届いた時刻。発艦した機数と、攻撃を中止した機数。似た欄でも、同じものとしてまとめれば経過が変わってしまう。
腕部戦術タブレットから移しておいた記録には、アイの追尾が続く横で、隼人自身の確認が遅れた箇所も残っていた。装置が捉えていても、自分がその時に見ていたとは限らない。対抗側の報告を読むと、その間に何が進んでいたのかが分かった。
剣子「昨日、あそこまで動いていたのに、まだ直す所があるね」
隼人「私が見ていなかった所からの報告ですから。読んでおいてよかったです」
剣子「では、その分も残しておこう。次に同じことをされて、初めて知りました、では困るから」
隼人「ええ」
演習の綴りを揃えると、剣子は硫黄島の資料とは別の棚へ置いた。
艦の修復も、航空隊の補充も、陸上部隊への照会も、まだ答えの揃っていないものがある。決まった回答日までに出せるものと、確認を待つものを分ける仕事は続いていた。
隼人が新しい紙を送り込む。ベルが鳴り、行を変えたところで、剣子が壁の時計を見上げた。
剣子「……いつの間にか、お昼だ」
隼人「もう、そんな時刻ですか」
剣子は、机の端へ寄せていた風呂敷包みを引き寄せた。午前中に届いていた弁当だった。
剣子「一旦、手を止めよう。隼人君も、ここで食べる?」
隼人「今日は、食堂へ行ってみます。皆とも少し話したいので」
剣子「つれないなあ。私だけ、机と向かい合って食べるのか」
隼人「よろしければ、ご一緒にいかがですか」
剣子「……この山を片づけてから、という話になりそうだから、やめておく」
剣子が、書類の積まれた机を見た。隼人もその先を見て、笑った。
隼人「では、先に食事だけ済ませましょう」
剣子「言った本人が、食べずに帰ってこないようにね」
隼人「分かっています」
打ち終えた紙を揃え、帽子を取る。扉を閉める直前に振り返ると、剣子も判子を置き、弁当の包みを開いていた。
*
廊下の窓からは、岸壁を行き交う人々と、係留された艦が見えた。
演習を終えて日常の仕事へ戻る者。修復を続ける者。出港した艦の代わりに、港の警戒を受け持っていた者。昨日、同じ会場へ集まった顔も、今日はそれぞれの場所で動いている。
執務室の音が遠ざかると、隼人は少し歩みを緩めた。
隼人「……兄上。勇翔」
二人がどこにいるのかは、まだ分からない。
自分と同じように、見知らぬ場所で何かをしているのだろうか。元の場所へ戻っているのだろうか。考え始めても、確かめる手段がなかった。
会えたら、何を話そう。
この海のこと。ここで出会った人のこと。昨日の演習のこと。
順番に説明するつもりでいても、顔を見れば、そんな話より先に、生きていたか、と聞いてしまいそうだった。
山城(KAN-SEN)「あ。隼人さん!」
声の方へ顔を上げると、二人の山城がいた。
KAN-SENの山城が歩幅を広げ、隣を歩いていた艦娘の山城が、その袖へ手を掛ける。
山城(艦娘)「走らないで。まだ修復中でしょう」
山城(KAN-SEN)「走っていませんよ。少し、早く歩いただけです」
隼人の前で止まり、その腕へ両手を回す。
山城(KAN-SEN)「昨日は、お疲れ様でした!」
隼人「こんにちは。お二人も、お元気そうで」
山城(艦娘)「挨拶するたび、抱きつかなくてもいいでしょう」
山城(KAN-SEN)「少しだけです。ね、隼人さん?」
隼人「少しなら構いませんが、もう少し緩めてもらえると」
腕が締まったところで、隼人が苦笑した。山城は慌てて手を緩める。
山城(KAN-SEN)「あっ。すみません。痛かったですか?」
隼人「大丈夫です。帽子を持ち替えたかっただけですから」
山城(艦娘)「ほら。もう離してあげて」
名残惜しそうに手が離れた。艦娘の山城が、もう一人を自分の隣へ戻す。
二人とも、日常の用事で出歩くには支障がなくなってきていた。それでも艦の修復は続いており、昨日の演習には参加していない。
隼人「今日は、お使いですか」
山城(艦娘)「姉様に頼まれたものを、受け取りに」
山城(KAN-SEN)「私もです。帰り道が一緒になったんですよ」
それぞれが持つ包みは、別の扶桑へ届けるものだった。KAN-SENの山城は自分の包みを確かめ、抱きついた時に傾いた端を直す。
隼人「私と話していて、届けるのが遅くなってはいけませんね」
山城(艦娘)「その通りです。……貴方は、どちらへ?」
隼人「食堂へ。午前の仕事が、少し長くなりまして」
山城(艦娘)「あら。いま、昼の提供を止めていますよ」
隼人「……止めている?」
山城(KAN-SEN)「食材を保管する設備に、具合の悪い所があるそうです。入口に、お知らせが出ていました」
隼人は、食堂のある方を見た。
机を離れた時は、何を食べようか考える余裕もあった。食べられないと聞いた途端、腹の空き具合がはっきりしてくる。
山城(艦娘)「……そこまで落ち込む姿は、初めて見たわ」
隼人「思っていたより、腹が減っていたようです」
山城(KAN-SEN)「売店は開いていますよ。一緒に行きましょうか?」
山城(艦娘)「私たちは、先にお使いを終えるの」
言われて、KAN-SENの山城が包みを見下ろした。
隼人「それなら、また時間の合う時に。売店で何か買って、一緒に食べてもいいですね」
山城(KAN-SEN)「本当ですか?」
山城(艦娘)「皆のいる所で、お願いしますね」
隼人「まだ、場所は言っていませんが」
山城(艦娘)「先に言っておくんです。貴方、気軽に人を誘いすぎるところがあるから」
隼人「心配してくださるんですね。ありがとうございます」
山城は、返事をしかけて口を閉じた。
山城(艦娘)「……お昼を食べ損ねる心配です。ほら、行きますよ」
山城(KAN-SEN)「はい。隼人さん、また!」
隼人「ええ。また」
二人を見送ってから食堂まで行くと、聞いた通りの張り紙があった。設備の確認と、食材の移し替えに伴う一時休止。急ぐ者には、売店の利用を勧めている。
再開の時刻は、まだ書き込まれていなかった。
隼人は売店へ続く道を選んだ。途中、グラウンドから賑やかな声が聞こえてきた。
夕立(艦娘)「負けないっぽい!」
鬼怒(KAN-SEN)「最後まで、その勢いを保ってみろ!」
柵の向こうで、二人が並んで走っていた。
隼人は、少しだけ足を止めるつもりで、そちらへ向かった。
*
最後の直線へ入ると、夕立の腕の振りが大きくなった。鬼怒が並び直し、二人の足音が重なる。
日陰では、初雪と綾波が、その様子を見ていた。
初雪(艦娘)「……休みの日まで、よく走るよね」
綾波(KAN-SEN)「途中から、競走になったのです」
五十鈴(艦娘)「最初は、調整のつもりだったんでしょうけどね」
占守(艦娘)「二人とも、汗だくっすよ」
睦月(KAN-SEN)「あついの……」
睦月が日陰の奥へ座り直す。隣では、艦娘の能代が、もう一人の能代へ水を渡していた。
能代(KAN-SEN)「ありがとうございます、お姉さん」
能代(艦娘)「どういたしまして。貴女も、少し休んで」
隼人「皆、元気に運動していますね」
能代(KAN-SEN)「はい。少し、元気すぎるくらいで――」
振り向いた能代が、言葉を止めた。水を置き、立ち上がって敬礼する。
能代(KAN-SEN)「副提督。お疲れ様です」
隼人「そこまで堅苦しくしなくていいですよ。休憩の邪魔をするつもりではありませんから」
能代(KAN-SEN)「は、はい。……本日は、どのようなご用件で?」
隼人「散歩です」
能代(KAN-SEN)「……散歩、ですか」
隼人が頷くと、能代の肩から少し力が抜けた。
その間に、走っていた二人が直線を抜けて戻ってくる。
夕立(艦娘)「はあ……疲れたっぽい」
鬼怒(KAN-SEN)「途中で、ペースを上げすぎたな」
隼人「最後まで、いい走りでしたよ」
夕立(艦娘)「あれ。副提督、いつからいたっぽい?」
隼人「先ほどからです。二人とも、張り合い始めると速いですね」
夕立(艦娘)「えへへ。褒めても、何も出ないっぽい」
鬼怒(KAN-SEN)「もう少し、余力を残すつもりだったんだが」
鹿島(艦娘)「それなら、今日はここまでですね。もう一本、は無しですよ」
声を掛けた鹿島が、隼人へ向き直った。
鹿島(艦娘)「お話しするのは、初めてでしたね。鹿島です。よろしくお願いいたします、副提督」
隼人「こちらこそ。お名前は、書類で拝見していました。訓練を担当されているんですね」
鹿島(艦娘)「はい。香取姉さんと、朝日さんにも見ていただいています」
隼人「この人数を、三人で?」
グラウンドの反対側にも、体をほぐす一団がいた。道具を片づける者も、水を運ぶ者もいる。
隼人「無理をして、夜まで仕事を抱えていませんか」
鹿島(艦娘)「長くなりそうな時は、ほかの方にも手伝っていただいています。職員の体力測定もありますので、全部を三人だけで、とはいきませんから」
隼人「それを聞いて、安心しました」
鹿島(艦娘)「副提督も、走ってみますか?」
隼人はグラウンドを見た。机へ向かい続けた肩を、一度、回す。
隼人「……少し、体を動かすのはよさそうですね」
夕立(艦娘)「副提督も走るっぽい?」
隼人「はい。ただし、競走ではありませんよ」
鹿島(艦娘)「では、無理のないところまで。着替えは――」
隼人「この格好で構いません。測定の記録に入れなくても結構です」
半長靴と迷彩服を見て、鹿島が少し目を丸くした。隼人は帽子を外し、能代へ預ける。
鬼怒(KAN-SEN)「その靴で走るのか」
隼人「訓練で、慣れています。足元は確かめますから」
手首と肩を回し、足首をほぐす。立ったまま足へ軽く力を入れてから、隼人は走り始めた。
初めは歩幅を小さく、曲がり角を抜けてから少しずつ揃える。外骨格で海上を移動する時とは、足へ返る感覚が違った。
腕を振る。地面を蹴る。背後の声が遠ざかり、風が顔に当たった。
夕立(艦娘)「おお。速いっぽい」
占守(艦娘)「あの格好で、よく動くっすね」
隼人は片手を上げ、同じ速さを保った。
一周して戻っても、息には余裕があった。鹿島へ二本の指を示すと、彼女も頷く。
鹿島(艦娘)「あと二周ですね。途中で止めても構いませんから」
隼人「分かりました」
二周目へ入る。今度は、腕も足も、最初から同じ調子で動いた。
沿岸へ出た時の景色を思い出しかけて、隼人はグラウンドの先へ目を戻した。今日は、何かを追いながら走る必要も、避けながら走る必要もない。
最後の周回も、無理に速度を上げずに終えた。直線を抜けてから徐々に落とし、歩いて日陰へ戻る。
鹿島(艦娘)「お疲れ様です。普段から、よく走られるんですか」
隼人「以前は、よく。こちらでも少しずつ戻しています」
鬼怒(KAN-SEN)「海の上だけではないんだな」
隼人「一時期は、陸上自衛隊にもいましたから」
鹿島(艦娘)「それで、その格好にも慣れていらしたんですね」
帽子と水を受け取り、隼人は一口飲んだ。汗を拭き、呼吸が落ち着くまで歩く。
皆の視線が少し集まったところで、腹が鳴った。
隼人「……しまった」
能代(KAN-SEN)「どうされました?」
隼人「食事をしに出てきたんでした」
夕立(艦娘)「まだ食べていないっぽい?」
隼人「食堂が止まっていまして。売店へ向かう途中だったのですが」
鬼怒(KAN-SEN)「それなら、先に食べるべきだろう」
隼人「……まったく、その通りです」
日陰の腰掛けへ座ると、能代が少し考え、もう一人へ目を向けた。
能代(KAN-SEN)「これから、宿舎で昼食にする予定なんです。よろしければ、ご一緒にいかがですか」
隼人「急に増えても、大丈夫ですか」
能代(艦娘)「ええ。私たちも、これから戻るところです。談話室でしたら、皆で使えますから」
隼人は、握っていた水の容器を見た。いつもなら先に礼を言い、その後で、迷惑ではないかともう一度尋ねていたかもしれない。
今日は、腹の方が先に答えを決めていた。
隼人「では、お言葉に甘えます」
夕立(艦娘)「副提督も、ご飯を忘れるっぽい」
隼人「出てくる時には、覚えていたんですがね」
笑い声が重なった。隼人も笑い、汗が引くまで、もう少し日陰で休んだ。
*
宿舎の談話室へ着くと、阿賀野が窓際の席を空けてくれた。
阿賀野(艦娘)「あら。今日は、お客さんが一人増えたのね」
能代(KAN-SEN)「食堂が、設備の確認で止まっているそうです。こちらへお誘いしたのですが」
阿賀野(艦娘)「もちろん、構わないわ。副提督、どうぞ」
隼人「急に、お邪魔します」
酒匂(艦娘)「お昼を食べに行く途中で、走っていたんでしょう?」
隼人「……そこまで、伝わりましたか」
能代(KAN-SEN)「すみません。戻る前に、先に伝えておいたもので」
阿賀野(艦娘)「聞かなかったことには、できそうもないですね」
隼人「せめて、短い話にしていただけると」
酒匂(艦娘)「短いよ。ご飯の前に走った、って」
確かに、それ以上縮めようがなかった。
隼人は笑い、窓際の椅子へ座った。能代たちが台所へ入る前に、執務室へ昼食の予定が変わったと伝えておく。剣子の返事は、食べてから戻るように、というものだった。
窓から風が入ってくる。
肩を背もたれへ預けると、タイプライターへ向かい続けていた時とは違う楽さがあった。隼人は目を閉じ、食器の触れる音を聞いた。
しばらくして、頬へ指先が触れる。
隼人「……ん?」
阿賀野(艦娘)「あ。起こしちゃった?」
隼人「眠っていましたか」
阿賀野(艦娘)「少しだけ。目を閉じたまま、動かなくなったから」
能代(艦娘)「阿賀野姉ぇ。休んでいる人を、つつかないの」
阿賀野(艦娘)「はあい。……ほら、ちゃんと起きましたよ」
隼人「起きたので、もう十分です」
隼人が顔を引くと、阿賀野も手を引っ込めた。酒匂が湯呑みを運んできて、彼の前へ置く。
酒匂(艦娘)「昨日は、あんなに動いていた人なのにね」
隼人「昨日も、ちゃんと食べてから出ましたよ」
酒匂(艦娘)「今日は、そこを忘れちゃったんだ」
隼人「……もう、十分に反省しています」
湯呑みを手に取る。台所から漂ってきた匂いに、隼人は顔を上げた。
隼人「赤味噌ですか」
能代(KAN-SEN)「よくお分かりになりますね」
隼人「懐かしい匂いでしたので」
能代(KAN-SEN)「今日のお昼は、ご飯と赤味噌汁、漬物、それから秋刀魚です」
隼人「……秋刀魚」
さっきまで背もたれへ寄り掛かっていた体が、少し前へ出た。
阿賀野(艦娘)「そこだけ、返事が早いですね」
隼人「好きなんです。こちらでも、食べられるとは」
能代(KAN-SEN)「もうすぐ、焼き上がります」
隼人「ありがとうございます」
能代が盆を取りに向きかける。その手から滑りそうになった箸の包みを、隼人が受け止めた。
隼人「こちらは、私が配りましょう」
能代(KAN-SEN)「あっ。すみません」
受け渡す時、指先が触れた。隼人は箸を一膳ずつ机へ置き、能代は空いた手を一度握ってから、台所へ戻る。
誰かの手へ触れた後の温かさが、少し残っていた。
以前なら、その手を引く方が早かった気がする。頼まれた仕事を済ませる時も、自分の分を終えたら、そこで離れるつもりでいた。
いまは、皆が席へ戻るのを待っている。
自分で買いに行くはずだった飯まで、用意してもらっていた。
隼人「……やっぱり、一匹狼は無理だな」
小さく言うと、台所の方で盆を重ねる音がした。
能代(艦娘)「副提督。そちらの小皿も、並べていただけますか?」
隼人「はい。いくつですか」
能代(艦娘)「五つ、お願いします」
隼人は立ち上がり、棚から小皿を取った。
自分の分を一枚置いてから、隣へ四枚を並べる。最後の一枚を置いたところへ、焼いた魚が運ばれてきた。
艦娘の能代が秋刀魚の皿を、KAN-SENの能代が飯と汁の盆を持ってくる。阿賀野が漬物を取り分け、酒匂が足りない湯呑みを揃えた。
魚の皮には焦げ目がつき、味噌汁から湯気が上がっていた。
隼人「……うまそうですね」
能代(艦娘)「お待たせしました。熱いうちに、どうぞ」
皆が座ったのを見て、隼人は手を合わせた。
隼人「いただきます」
味噌汁を一口飲む。熱さを確かめ、もう一口。
秋刀魚の身を箸でほぐし、飯と一緒に食べた。焦げた皮の香りと、身の脂が口に残る。
隼人「……いいですね」
能代(艦娘)「よかったです」
阿賀野(艦娘)「さっきから、随分うれしそう」
隼人「そんなに、顔に出ていますか」
阿賀野(艦娘)「魚が来た時から」
隼人は皿を見下ろし、もう一口食べた。ごまかすために急いで飲み込むには、惜しい味だった。
酒匂が、昨日、皆が帰ってきてからの話を始めた。
判定を聞いて悔しがった者。次は違う配置で試したいと言っていた者。報告会を終えたあとでも、あちこちで演習の話が続いていたらしい。
帰投直後、隼人が工廠で装備の確認を受けていた時の話もあった。皆はそれぞれ、同じ海のことを話していたらしい。
阿賀野(艦娘)「一日、付き合っていただけるお相手は、まだ決まっていないんですよね」
隼人「はい。記録を読み終えてから、考えます」
能代(KAN-SEN)「一番、手を焼かせた相手に、と仰っていましたね」
隼人「自分が何に手を焼いたのか、先に確かめておきたいので」
酒匂(艦娘)「皆、そこは忘れていないみたいだよ」
隼人「私も、忘れるつもりはありません。言ったのは、私ですから」
阿賀野が頷いた。誰の名前になるかまでは、ここで尋ねなかった。
窓の外を、宿舎へ戻る者たちが通っていく。食器を置く音に混じって、遠くからグラウンドの声も届いた。
隼人は箸を止め、皆へ顔を向けた。
隼人「予定にない食事の支度を、させてしまいましたね」
能代(艦娘)「私たちも、これから食べるところでした。一人増えたくらいです」
阿賀野(艦娘)「次からは、食べる前に走らなければいいのでは?」
隼人「……それは、必ず」
何を返せばよいか考え始める前に、答えが来た。
隼人は言葉を足さず、箸を動かす。飯が少なくなったところで、もう一人の能代が茶碗へ目を向けた。
能代(KAN-SEN)「おかわりも、ありますよ」
隼人「では、いただいてもいいですか」
能代(KAN-SEN)「もちろんです」
差し出した茶碗を、能代が受け取る。隼人はその背を見送り、椅子の脇へ置いた帽子を少しずらした。
兄上と勇翔に会えた時、何から話すか。
廊下では、決められなかった。
この話からでも、いい気がした。
演習の翌日、昼飯を食べに出たのに、途中で走っていた。結局、誘ってもらって、皆で秋刀魚を食べた。
そんなことを話せば、呆れられるだろう。笑われるかもしれない。二人にも、自分の知らない話があるはずだった。
いつ聞けるかは、分からない。
それでも、いま食べている飯のことは、覚えておこうと思った。
能代(KAN-SEN)「どうぞ」
戻ってきた茶碗は、温かかった。
隼人は礼を言い、また箸を取った。
*
食後は、茶を飲みながら、しばらく窓際で話した。
隼人も、すぐに席を立とうとはしなかった。阿賀野が聞かせる宿舎の話へ相槌を打ち、能代たちのやり取りを聞く。開いた窓から、潮の匂いを含んだ風が入ってきた。
立ち上がる時には、腹も、気持ちも落ち着いていた。
隼人「ごちそうさまでした。片づけは、手伝わせてください」
酒匂(艦娘)「それなら、そのお皿を、こっちへ」
食器をまとめ、台所へ運ぶ。何をどこへ置くか聞きながら片づけるのも、久しぶりだった。
談話室を出る前に、隼人は改めて礼を言った。
阿賀野(艦娘)「午後は、ご飯を忘れないでくださいね」
隼人「午後は、まだ忘れる食事がありませんよ」
能代(艦娘)「夕食も、ありますから」
隼人は返しかけ、笑う方を選んだ。
*
執務室へ戻ると、剣子は書類を棚へ戻していた。
空になった弁当箱が、机の端へ置かれている。隼人が入ってきたのを見て、剣子は最後の綴りを差し込み、振り向いた。
剣子「食べてきた?」
隼人「ええ。能代さんたちに、お世話になりました」
剣子「食堂へ行ったんじゃなかった?」
隼人「設備の確認で、昼の提供が止まっていまして。売店へ向かう途中で、グラウンドへ寄ったんです」
剣子「……それで、食べずに戻ってくるところだった?」
隼人「戻ってはいませんよ」
剣子「戻っていない間に、何をしていたの」
隼人は少し考えた。
隼人「……走っていました」
剣子が、しばらくこちらを見た。
剣子「君も、そういうことをするんだね」
隼人「皆にも、同じようなことを言われました」
剣子「まあ、ちゃんと食べてきたなら、いいです。今度は、誘われる前に食べてね」
隼人「はい」
席へ戻り、朝の綴りを開いた。
剣子が、その端を指す。
剣子「今日は、どこまで済ませるか先に決めよう。確認の返事が来ていないものは、待つしかないから」
隼人「こちらの二つなら、進められます」
剣子「では、それを。残りまで、昼休みの分を取り戻そうとしないこと」
隼人は頷き、タイプライターへ紙を入れた。
腹は、もう空いていない。
机へ向かう手を、無理に速めることもなかった。
HI
日常編は中々想像しずらいからめちゃ書きづらい印象ですね
作品の向上の為、皆さんの感想を書いていただけると幸いです。
感想お待ちしております。
2026年10月10日リメイク完了
兵器解説
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アリ
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ナシ