陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
もし、元ネタを知らない方は
Google先生にアッシュアームズをぶち込んで検索するように。
もう知っている方はどうぞ。
検索して一応なんとなくわかった方もご視聴ください。
Act.22 生きる為なら人を頼り救いを求めよ
赤色十月同盟学連、受入基地。
飛行計画を提出した、その翌朝。
目を覚ますと、窓の外で除雪車が動いていた。
勇翔は椅子へ掛けていた服を取り、机の端に置いた地図を開いた。
北方の基地までの経路。
昨日、消しておいた出発時刻の欄は、まだ白い。
隣の部屋の扉が開く音がした。
廊下へ出ると、小貝がヘルメットを片手に立っていた。
小貝「起きてたか」
勇翔「そちらこそ。肩は?」
小貝「昨日より、まし。飯を食うのにも困らねえ」
勇翔「飛ぶ時に、困らなければいいんですが」
小貝「そこは、ちゃんと確かめる」
肩を一度動かし、ヘルメットを持ち直す。
昨夜よりは楽に動いているようだった。
二人は食堂へ寄ってから、受入窓口へ向かった。
机には、既に新しい報告が揃っていた。
八九式が二人の姿を見つけ、手を上げる。
八九式「おはようございます。整備班から、連絡が来ています」
マリーナが、二枚の記録を机へ並べた。
マリーナ「F-3の点検は完了しました。飛行記録との照合でも、今回の移動を妨げる異常は認められていません」
勇翔は記録へ目を落とした。
昨日まで空いていた確認欄が、埋まっている。
マリーナ「A-10も燃料系統の整備と作動確認を終えています。詳しい説明と、操縦者側の最終確認は格納庫でお願いします」
小貝「分かった。向こうの空は?」
モスが気象の記録を二人へ寄せた。
北方の基地から届いたものだった。
モス「昨夜の雪は弱まりました。先方では除雪と滑走路の確認が進んでいます。経路上の観測も更新されていますので、出発前にもう一度、管制と照合してください」
勇翔「昨日の計画を、そのまま使えますか」
モス「経路は使えます。到着の時刻を入れ、最新の風の情報を加えます」
小貝が地図の端を押さえた。
勇翔は筆記具を取り、白かった欄へ予定を書き込む。
マリーナ「先方への連絡は、こちらからも入れます。格納庫での確認が済みましたら、出発を認めます」
小貝「ようやく、地図の線を飛べるわけだ」
勇翔「まだ、確認が一つ残っていますよ」
小貝「分かってる。最後は、自分の機体を見てからだ」
八九式が棚から、小さな紙袋を出した。
勇翔の名前を書いた札がついている。
八九式「こちらも、お忘れなく。お持ちになる荷物は、整備班の皆さんとご確認ください」
茶葉と、持ち帰る菓子。
小貝も自分の分を受け取り、袋の口を覗いた。
小貝「ちゃんと残ってたな」
八九式「お預かりしたものですから」
勇翔「お世話になりました」
礼を言うと、八九式は少し首を振った。
八九式「こちらこそ。夜の退避では、助けていただきました」
小貝は返しかけた言葉を止め、袋を持ち直した。
それから、軽く頭を下げた。
小貝「飯も、菓子も、機体も。全部、世話になった。ありがとう」
マリーナが地図を畳み、二人へ返した。
マリーナ「到着なさったら、こちらにも一報をお願いします」
勇翔「はい。必ず」
*
北方の辺境基地、司令室。
セルゲイは窓のそばへ立ち、外を見ていた。
昨夜は見えなかった格納庫の屋根が、いまははっきり見える。
除雪した道には、新しい車輪の跡がついていた。
机の上で、電話が鳴った。
受話器を取ると、ソヴァの声がした。
ソヴァ『受入基地から、二機の出発予定が届きました。最終確認を終えてから離陸します』
セルゲイ「うむ。滑走路の方は」
ソヴァ『確認を終えています。現在の風と視程も、管制から先方へ返しました』
セルゲイ「よろしい。到着したら、まず機体を落ち着ける場所へ。二人の案内も、頼んでおくれ」
ソヴァ『承知しました。それから、中央の飛行場からも連絡があります』
セルゲイが椅子へ戻った。
机には、昨日までの飛行計画とは別の書類が置かれている。
ソヴァ『代理人の部隊が、飛行船でこちらへ向かう予定です。補給品と、こちらで運用評価を行う兵器を二つ輸送します。10式戦車一両、Su-57一機です』
セルゲイ「とうとう、こちらへ来るか」
ソヴァ『到着予定と積荷の内訳は、改めて送られます。先に受入場所を確保してほしいとのことです』
セルゲイ「分かった。航空機の誘導と、飛行船の荷下ろしを重ねては困る。担当を分けて、場所を確かめよう」
受話器を置き、書類を開いた。
北方での調査と、そのための補給。
整備協会の部隊が滞在することは、中央でも調整されていた。
それを実際に受け入れる仕事が、今日からこちらへ来る。
扉が叩かれた。
IL-2「セルゲイ大佐。私だ」
セルゲイ「おお。入っておいで」
IL-2は油のついた手を布で拭きながら、室内へ入った。
頬にも、小さな汚れが残っている。
セルゲイはそれを見たが、今日は指摘しなかった。
IL-2「気象の記録だ。風は、昨夜より弱い。観測の更新は続けている」
セルゲイ「助かる。二人の機体も、出せるようになったそうじゃ」
書類を受け取り、届いた予定と並べる。
IL-2の視線が、その隣へ移った。
IL-2「……代理人も、来るのか」
セルゲイ「部隊と物資を連れてな。会うのが楽しみじゃ」
IL-2「よく、そう言えるな」
セルゲイ「お前は、楽しみではないのかい」
IL-2「仕事が増える」
セルゲイが笑った。
IL-2は書類を見てから、入口へ向き直る。
セルゲイ「二機の整備に、立ち会ってくれるかの」
IL-2「格納庫の方には、話をしてある。必要なものを確認する」
セルゲイ「頼んだよ」
IL-2は短く頷き、出ていった。
セルゲイはその背を見送ってから、机の書類へ戻った。
受け入れる人数。
空ける部屋。
食事と燃料。
長い名簿の中に、まず二つ、到着予定の名前がある。
*
受入基地、格納庫。
F-3の点検口は閉じられ、A-10のそばにあった交換部品も片づけられていた。
小貝は整備員の説明を受け、自分の機体の下へ回る。
燃料系統の作業箇所を見ながら、昨日の質問への返答を聞いた。
小貝「ここも、確認済みか」
「はい。記録も、こちらに」
渡された紙を見る。
小貝は機体へ目を戻し、最後に頷いた。
小貝「分かった。あとは、こっちで確かめる」
勇翔も自分の機体を見て回った。
給油と点検の完了を確かめ、持ち出す手荷物を整備員へ見せる。
飛行の邪魔にならないよう、収め方も確認した。
乗り込む前に、モスが二人のところへ来た。
彼女は書類の一枚を示す。
モス「連絡先と、照合に使う情報です。先方にも、同じものを渡しています」
勇翔「ありがとうございます。中佐にも、お礼を」
モス「お伝えします」
小貝「今度は休めてるんだろうな」
モス「今朝は、まずお食事を取っていただきました」
小貝「その言い方だと、次の仕事をもう探してそうだな」
モスは少しだけ黙った。
勇翔は、その間だけで答えが分かった気がした。
モス「そちらは、こちらで対応します。お二人は、飛行の確認を」
小貝「ああ。分かった」
ヘルメットを被り、機体へ向かう。
勇翔もF-3へ乗り込み、計器を順に確かめた。
機体を囲んでいた整備員が、合図を交わして離れていく。
勇翔「スカイ1、通信確認」
小貝『ボルト2、良好』
外部の回線を確認する。
昨日書き込んだ経路と、新しい気象の情報を照合した。
管制から返事が届く。
離陸の準備が、進んでいく。
小貝『向こうへ着いたら、まず名乗るんだったな』
勇翔「覚えていたんですね」
小貝『昨日、あれだけ言われたからな』
勇翔は小さく笑い、前方へ目を戻した。
除雪された誘導路の先に、滑走路がある。
昼も夜も、人が守っていた場所だった。
離陸の許可が届いた。
F-3が進み、続いてA-10が所定の位置へ向かう。
車輪が地面を離れると、基地の建物が少しずつ低くなった。
勇翔『スカイ1、離陸。北方への経路に入ります』
小貝『ボルト2も離陸。そっちを確認した』
勇翔はA-10の位置を確かめ、昨日決めた飛び方へ合わせた。
先に行って、待つことはしない。
二機で向かう。
地図に引いた線の上を、ようやく飛び始めた。
*
飛行船《ツェッペリン》、貨物区画。
中央の飛行場へ降ろす補給品は、既に船外へ運ばれていた。
残る荷物には、別の行き先を示す札がついている。
北方、セルゲイ大佐の基地。
シュヴァルベは積荷の記録を持ち、並んだ箱を確かめていた。
食料。防寒着。ARMSの予備部品。
燃料の輸送容器は、指定された区画へまとめられている。
弾薬と車両も、それぞれの担当が確認を終え、書類へ印をつけていた。
代理人が、通路の入口へ現れた。
代理人「どうかな」
シュヴァルベ「補給品の仕分けと固定を確認中です。北方へ運ぶ分は、この区画に揃っています」
代理人「ありがとう。積み直すものは」
シュヴァルベ「現時点ではありません。ただ、荷下ろしの順番は先方との調整が必要です」
彼女が記録の一枚を開く。
代理人も隣へ立ち、書かれた順番を見た。
食料三トン。
ARMSの予備パーツ五百個。
防寒着千着。
石炭、燃料、弾薬、軍用車両。
航空機材と、その運用に必要な補給品。
ずっと下の方に、紅茶一トンという行があった。
シュヴァルベの指が、そこで止まる。
シュヴァルベ「……紅茶も、これだけ運ぶんですか」
代理人「部隊がしばらく滞在するからね。僕ひとりで飲むつもりはないよ」
シュヴァルベ「ひとりで飲むとは、思っていません」
代理人「よかった。疑われたかと」
返事を待たず、代理人は次の書類を示した。
一般の補給品とは別の明細に、北方での運用評価へ持ち込む二つの兵器が記されていた。
10式戦車、一両。
勇翔の記憶をもとに製作した試作車両。
Su-57、一機。
強制着陸後に回収したSu-57。
回収時には無人仕様だったが、修復と有人仕様への改修を完了した機体だ。
二つとも、出発前までに性能試験を済ませていた。
10式の製作記録と、Su-57の修復・有人化改修の記録に、それぞれの性能試験の結果も添えられている。
北方では、輸送後の確認を経て、この土地での運用を評価する。
区画の奥では、車両用の輸送設備に10式戦車が固定されていた。その隣の航空機用の輸送枠には、Su-57が収まっている。
どちらも保護材と覆いで包まれ、個別の管理票が付けられていた。
担当者は二つの記録を見比べ、固定を確かめてから顔を上げる。
「10式、Su-57ともに、輸送の準備はできています。管理番号と固定の状態も確認済みです」
代理人「では、二つともその状態で運ぶ。向こうの受入担当と整備担当が揃ったところで、それぞれを引き渡そう」
「承知しました」
シュヴァルベは区画の奥へ目をやってから、代理人へ向き直った。
シュヴァルベ「10式戦車とSu-57。二つとも、セルゲイ大佐の基地へ」
代理人「そう。部隊と物資に加えて、この二つを運ぶ。先方にも、車両と航空機で受入れを分けてもらう」
シュヴァルベ「物資の補充だけでは、終わりませんね」
代理人「補給を運んで、二つを受け入れてもらうところまでは今日の仕事だ。10式は試作を終え、Su-57も修復と有人仕様への改修が済んだ。性能試験の結果を持って、今度は北方での運用を確かめたい。詳しい説明は、皆が揃ったところでしよう」
代理人が輸送記録を受け取り、シュヴァルベは車両と航空機、それぞれの荷下ろし担当を書き込んだ。
代理人「それから、同行する護衛の名簿を」
渡された紙を、シュヴァルベが受け取る。
十八名の名前が並んでいた。
雷電一一型。AD-1スカイレイダー。Ju87Dスツーカ。P-51Aマスタング。Hs129。
Ⅲ号戦車F型。ヤークトティーガー(P)。M26パーシング。AEC GC MK.Iディーコン。
ボーファイターMkⅠ。LT-38。M3スチュアート。試作烈風。流星。
九七式軽装甲車テケ。M4シャーマン。P-40Bトマホーク。
そして、Me262A-1aシュヴァルベ。
シュヴァルベ「……私も、入っていますが」
代理人「秘書の仕事だけで、残すつもりはないよ。移動中は船内で準備を。必要になれば、現地で偵察と護衛を頼む」
シュヴァルベ「分かりました」
代理人「気になることがあれば、いま聞いて」
シュヴァルベ「航空型も、飛行船に乗せて移動するんですね」
代理人「うん。地上型も、補給担当も一緒だ。移動のために皆の燃料を使い切ることはない」
シュヴァルベは名簿をもう一度見た。
今度は、自分の名前だけを見てはいなかった。
代理人「出発前に、この十八名を集めて説明しよう。船員と整備担当にも、同じ予定を回しておいてくれるかな」
シュヴァルベ「はい」
貨物区画の奥で、最後の固定を確かめる声がした。
代理人は返事を聞き、シュヴァルベと一緒に通路を戻った。
*
北方へ向かう空。
下には、白い大地が続いていた。
ところどころに林があり、道が細い線になって見える。
昨日、地図の上で確かめた山の形が、いまは窓の外にあった。
勇翔は計器を見て、A-10の位置を確かめた。
小貝から、機体の状態を告げる短い報告が届く。
どちらにも、いまのところ異常はない。
小貝『まだ、風が残ってるな』
勇翔『記録の範囲です。次の連絡点で、向こうの情報を確認します』
小貝『了解』
短い返事のあと、無線が静かになる。
F-3の前方に、薄い雲が流れていた。
勇翔は遠くの山を見た。
その向こうの調査は、まだ始まっていない。
今日は、まず基地へ着く。
そこを飛ばして先へ行く理由はなかった。
予定していた連絡点で、北方の基地を呼び出す。
少し間を置いて、管制の返事が届いた。
管制『二機の予定を確認しています。機種と人数を』
勇翔『F-3、一機。搭乗者は渡邉勇翔大尉。同行するA-10に、小貝少佐。二機、二名です』
照合が進む。
昨日の資料と同じ行き先が、声で返ってきた。
セルゲイの基地は、二人を待っていた。
管制『現在の風をお伝えします。滑走路の確認は終了しています。こちらへ接近後、指定の位置で報告してください』
勇翔『了解。こちらは初めての進入です。誘導をお願いします』
管制『承知しました』
小貝の声が、部隊内の回線へ入る。
小貝『いい返事だな』
勇翔『昨日のうちに、話を通してもらいましたから』
小貝『そうじゃなくて。初めてだから、案内してくれってやつだ』
勇翔は前方を見たまま、少し口元を緩めた。
勇翔『知らないものは、知らないですからね』
小貝『違いねえ。こっちも、同じ案内を頼む』
雪原の先に、人工の線が見えてきた。
道路。囲い。低い建物の並び。
その奥に、除雪された滑走路がある。
勇翔は接近を報告した。
管制の指示が届き、小貝もそれを確認する。
進入する順番を合わせ、互いの位置を確かめた。
F-3が基地へ近づく。
地面に触れた車輪の振動が、身体へ伝わった。
勇翔は機体を滑走路から外し、指示された場所へ進む。
しばらくして、A-10も着陸した。
小貝『ボルト2、着陸。異常なし』
勇翔『スカイ1も、異常ありません』
目の前に、誘導する人の姿があった。
その手の動きに従い、機体を停める。
エンジンを止めると、それまで聞こえていた音が遠くなった。
代わりに、機体の外で人が動く音がした。
*
北方の辺境基地、駐機区画。
勇翔が機体から出ると、まず冷たい空気が頬へ当たった。
受入基地より、さらに北へ来たのだと分かる寒さだった。
除雪された道を、整備員がこちらへ歩いてくる。
勇翔は手荷物を持ち直し、その場で待った。
「渡邉大尉ですね。到着の確認を」
勇翔「はい。飛行中の異常はありません。こちらが記録と、引継ぎの資料です」
小貝もA-10から出て、整備員へ話をしていた。
機体の状態と、出発前に確認した作業。
声は、地上へ戻ると少し大きくなった。
小貝「燃料系統の整備を終えてから、こっちまで飛んだ。記録はこれだ。気になるところがあったら、俺も呼んでくれ」
整備員が頷き、資料を受け取る。
少し離れた場所では、二人の少女が待っていた。
マルフーシャとスネジンカだった。
ソヴァが二人を伴い、近づいてくる。
ソヴァ「セルゲイ大佐のもとへ、ご案内します。機体の方は、こちらで引き継ぎます」
勇翔「ありがとうございます」
マルフーシャ「こちらです。歩くところは除雪していますが、端の方は凍っています」
スネジンカ「荷物、持ちましょうか」
小貝が自分の手荷物を見た。
それから、少女の伸ばした手を見る。
小貝「重くはねえよ。……じゃあ、この袋だけ頼めるか」
スネジンカ「はい」
菓子の袋が、彼女へ渡された。
小貝はすぐに、付け加えた。
小貝「食い物だから、潰すなよ。中身は、あとで分ける」
スネジンカ「お菓子?」
小貝「ああ。ここまで来るとは思わずに買ったけどな」
マルフーシャが妹の持った袋を見て、小貝へ顔を向けた。
マルフーシャ「案内の分まで、気を遣わなくて大丈夫です」
小貝「案内の代金じゃねえ。俺が食いたいから、お前らも付き合ってくれってだけ」
スネジンカが姉を見る。
マルフーシャは少し迷い、それから頷いた。
マルフーシャ「では、あとで」
四人は、ソヴァの案内に続いた。
格納庫の屋根から、細い雪が落ちてくる。
マルフーシャが一度止まり、軒下を避けるよう示した。
勇翔もそれに従い、小貝へ位置を伝えた。
小貝「山の上から見た時は、こういう道まで分からなかったな」
スネジンカ「昨日、このあたりを見て回ったんです。外の標識が、雪に隠れそうだったから」
勇翔「到着前に、確認してくださったんですね」
マルフーシャ「巡回の仕事です。昨日は風が強くなって、途中で戻りましたけど」
勇翔「それでも、見てきたことを伝えてくれた。助かりました」
マルフーシャは返事の代わりに、次の通路を指した。
耳のそばで、髪が少し揺れた。
スネジンカは袋を大事そうに抱え、姉の隣を歩いた。
*
飛行船《ツェッペリン》、ブリーフィングルーム。
シュヴァルベが、最後の一人の着席を確かめた。
十八名全員の前へ資料が渡ると、代理人は地図を広げた。
雷電は席につき、行き先の印を見た。
隣のスカイレイダーも、紙の端へ顔を寄せる。
代理人「目的地は、セルゲイ大佐が指揮する北方の基地。補給品と一緒に、10式戦車一両とSu-57一機を運ぶ。皆には、その輸送と現地での護衛を頼む」
代理人は地図の隣へ、二つの兵器の資料を並べた。
車両と航空機の写真。その下に、性能試験で得た数値が載っている。
測定日と試験条件も、同じ紙に記されていた。
代理人「荷下ろしの分担を決める前に、何を運んでいるのか、全員に説明しておきたい。この世界では、どちらも未知の兵器だ。ここにあるのは、私たちが実物を調べ、性能試験で確かめた結果だよ」
地上型も航空型も、同じページを開いた。
M26パーシングが、車両の写真を見た。
代理人「まず、10式戦車。勇翔君の記憶をもとに、こちらで試作した一両だ」
雷電「勇翔君の、記憶から……」
製作記録には、勇翔の名前があった。
雷電はそこを見てから、車両の写真へ目を戻した。
彼がこの世界へ持ってきたものが、もう一つ、同じ基地へ向かおうとしている。
代理人「測定した全備重量は約四十四トン。全長九・四二メートル、全幅三・二四メートル、全高二・三メートル。乗員は車長、砲手、操縦手の三名だ」
M26パーシング「三人で、主砲まで扱うの?」
代理人「自動装填装置がある。主砲は四十四口径、百二十ミリ滑腔砲。装填から射撃まで、試験で作動を確認している。副武装は十二・七ミリ重機関銃と、七・六二ミリの車載機関銃だ」
パーシングは、装填装置の欄へ指を置いた。
隣でシャーマンも、砲塔の形を確かめている。
代理人「水冷V型八気筒ディーゼルで、測定した出力は千二百馬力。走行試験では、時速約七十キロまで確認できた。能動型の油気圧懸架と無段階変速機を備え、車体の姿勢や動きを制御する。正面の要部には複合装甲、交換できるモジュール型の装甲も使われている」
M4シャーマン「四十四トンで、時速七十キロ……。装甲を載せた車両が、それだけ動いたんだ」
代理人「そう。それに、C4Iがある。指揮、統制、通信、コンピューター、情報。それらを結びつけて、味方と位置や目標の情報を共有する仕組みだ。通信試験では、相手側へ情報が届き、こちらでも受け取れることを確認した」
代理人は、走行と射撃の記録を順に示した。
製作時に勇翔から聞いた話だけでなく、完成した車両で何を確かめたかが、そこに残されている。
代理人「セルゲイの基地では、この記録を出発点にする。雪の上での走行、低温での作動、それから基地側との通信の連携。これまでに確かめた性能を、北方でも使えるかどうかを確かめたい」
代理人が、次の資料を開いた。
航空型の視線が、そちらへ移る。
代理人「もう一つは、回収したSu-57だ。回収時は無人仕様だったが、修復と並行して、操縦席と操縦系統を有人運用に合わせて改修した。いまは操縦者が搭乗し、直接操縦できる状態になっている。改修後の地上試験と飛行試験も済んでいるから、こちらも本機の測定結果を説明する」
航空型たちが、機影の横に並ぶ項目を追った。
シュヴァルベは修復と有人化改修の完了記録、それに試験の日付を確かめる。
代理人「三十ミリの内蔵機関砲に、空対空、空対地の各種兵装。昼夜の飛行と、目標の捜索や追跡を試している。空の相手にも、地上の目標にも対応できる機体だ」
シュヴァルベ「戦闘機と攻撃機、両方の役割を持つということですね」
代理人「うん。操縦者の操作に対する機体の応答と、電子装備の作動も確かめた。飛行試験では超音速巡航と高い機動性を確認し、探知試験では、機体を捉えにくくする低視認性も認められている」
代理人は、試験結果の数字を順に示した。
代理人「確認できた最大離陸重量は三万四千キログラム、最大戦闘搭載量は七千五百キログラム。移動用の飛行条件では、航続距離は四千キロメートル。実用上昇限度は一万八千八百メートルだ。航続距離は移動のための数字で、戦闘行動半径とは違う。測定時の燃料と搭載条件も、この欄に残してある」
P-51Aマスタング「戦闘機で、七千五百キロもの兵装を運べたの?」
代理人「搭載試験で確認した値だよ。管制との情報のやり取りも試している。火力だけでなく、周囲と連携して動けることも、この機体の強みだ」
試作烈風「向こうへ着いたら、試験飛行を?」
代理人「有人仕様に改修した機体で、追加の試験を行う。まず輸送後に、エンジンと操縦系統、通信、電子装備を再確認する。そのあと操縦者が搭乗して北方の気象条件で飛ばし、現地の管制や整備と合わせて運用を評価したい。すでに得ている試験結果も、担当へ渡す」
スカイレイダー「勇翔の記憶から作った10式と、有人仕様に直して性能を確かめたSu-57。その二つを、北方でも動かせるようにするんだね」
代理人「そうだ。10式は地上の火力、機動力、防護と情報共有を。Su-57は空の機動性と、広い任務への対応を担う。試験でここまで確かめられた二つは、私たちの部隊にとって、これ以上ない戦力だ」
資料から顔を上げ、代理人は皆を見た。
代理人「造り、直し、試験まで進めてくれた人たちがいる。今度は、私たちが運び、現地の人たちと使えるようにする番だ。皆の力を貸してほしい」
パーシングが頷いた。
シュヴァルベは航空機の引継ぎ欄へ印をつける。
雷電は10式の製作記録をもう一度見てから、資料を閉じた。
十八名全員が、二つの兵器の性能試験の結果と、北方で行う運用評価の予定を受け取っていた。
代理人は地図へ戻り、荷下ろしに使う場所を示した。
M26パーシング「到着したら、まず貨物の方ね」
代理人「そう。先方へ渡すものを確認してから、部隊の滞在準備を進める。勝手に船を離れて、周辺を調べに行かないように」
スカイレイダー「小貝たちは、どこにいるの?」
代理人「一足先に、こちらへ向かっている。いま、到着の確認を待っているところだよ」
雷電の手が、膝の上で静かに重なった。
無事だという連絡は、何度も届いている。
それでも、同じ場所へ向かうと聞けば、気にせずにはいられなかった。
代理人「到着の時刻は、向こうの管制と調整済みだ。飛行船の進路も、最新の観測で確認している。空の様子が変われば、予定を変える」
シュヴァルベが積荷の説明を引き継ぐ。
誰が、どの荷物を見るか。
基地側へ渡す記録はどれか。
10式戦車を車両整備区画へ、Su-57を航空機用の格納区画へ運ぶ順番。
運搬する機材と、人の通る場所をどう分けるか。
説明の途中で、連絡要員が入口へ来た。
代理人へ短い紙を渡す。
読み終えた代理人は、皆の方を見た。
代理人「二機とも、着いた。勇翔君と小貝君に、怪我も機体の異常もない」
雷電の肩から、少し力が抜けた。
スカイレイダーは椅子へ背を預け、大きく息を吐く。
スカイレイダー「よかった。先に行って、またどこかへ飛び出してたらどうしようかと思った」
代理人「今日は、基地で待っていてもらう。私たちも、そちらへ行こう」
説明を終えると、それぞれが持ち場へ向かった。
船の外では、出発の作業が最後の段階に入っていた。
係留が解かれ、担当者が離れる。
大きな船体が、ゆっくり動き始めた。
雷電は窓の外を見た。
格納庫の屋根が、低くなっていく。
自分のARMSで飛ぶ時とは、違う動きだった。
船には、皆の声と足音がある。
その下には、これから使う物資が収まっている。
代理人は艦橋からの報告を受け、行き先をもう一度確認した。
セルゲイの基地へ。
二人の先遣が着いた場所へ、部隊と荷物を運ぶ。
*
北方の辺境基地、司令室。
セルゲイが立ち上がると、椅子の脚が床を擦った。
勇翔と小貝は入口で姿勢を正した。
勇翔「渡邉勇翔大尉、到着しました。機体と引継ぎの記録は、整備担当へお渡ししています」
小貝「小貝少佐です。御厄介になります」
セルゲイは二人を見て、頷いた。
セルゲイ「よく来てくれた。まずは、暖かいところへ。二人とも、座っておいで」
部屋にはストーブがあり、机の脇へ椅子が寄せられていた。
勇翔は手袋を外し、地図を取り出す。
セルゲイはその地図を見てから、自分の机の控えを示した。
セルゲイ「同じものが、こちらへ先に届いておる。飛んでくるまで、変わったことはなかったかい」
勇翔「途中で風はありましたが、連絡を受けた範囲でした。管制にも、案内していただきました」
セルゲイ「うむ。二人からの報告が聞けて、何よりじゃ」
小貝が椅子へ腰を下ろした。
部屋の暖気に、ようやく頬が緩む。
小貝「外から見たより、中は暖かいな」
セルゲイ「昨日から、寒いと言われぬように準備しておった」
スネジンカ「おじいちゃん、私たちにも同じことを言ってました」
マルフーシャ「部屋を暖める仕事まで、抱え込まなくていいのに」
セルゲイ「自分でできることがあるのは、よいことじゃよ」
IL-2が部屋へ入ってきた。
さっきまで手にあった工具はない。
二人を見て、機体の引継ぎを確かめた紙を少し上げた。
IL-2「来たか。二機とも、担当へ渡ったぞ」
勇翔「ありがとうございます、IL-2さん。また一緒になりましたね」
IL-2「ああ。今度も上は頼む」
初戦で勇翔が守った空を、彼女も覚えていた。
短い返事を聞いて、勇翔は頷いた。
勇翔「はい。飛ぶ時は、こちらの管制と合わせます」
IL-2はセルゲイへ紙を渡し、小貝を見た。
IL-2「小貝少佐。南側の対空型の時、私の攻撃を待たせたことは、忘れていない」
小貝「俺も覚えてる。あんたが装甲を割ってくれた」
IL-2「次も、味方の位置は見てからだな」
小貝「おう。あの時と同じだ」
IL-2の口元が、僅かに動いた。
小貝も笑い、それからA-10の引継ぎ記録へ目をやった。
小貝「ここで飛ぶのは、まだ慣れてねえ。地形のことは、あんたにも聞かせてもらう」
IL-2「分からないところは、先に聞け。私からも、機体のことで確認する」
小貝「そうしよう」
セルゲイが、二人の資料を机の端へ揃えた。
セルゲイ「本日は、まず滞在の準備じゃ。奥地の調査は、こちらの観測と合わせて説明する。着いたばかりで、そのまま飛び直すことはせんでよい」
勇翔「承知しました」
セルゲイ「代理人も、部隊と一緒に来る。物資に、それから試作した10式戦車と、修復して有人仕様へ改修したSu-57じゃ。二つとも性能試験は済み、こちらでは追加の試験と運用評価を進めたいそうだ。彼らが着いてから、改めて話をしよう」
勇翔が顔を上げた。
小貝も、背を椅子から離す。
小貝「ここへ来るのか」
セルゲイ「うむ。飛行船の方は、二人のように早くは着かぬが」
勇翔はポケットへ手をやった。
茶葉の名前を書いた紙を、折り畳んで入れてある。
持ってくることにして、よかったと思った。
ソヴァが扉のところへ来て、飛行船からの連絡を報告した。
船は出発した。
荷下ろしに必要な担当と、到着の予定を確かめたいという。
セルゲイ「分かった。こちらも、働かねばならんのう」
老人が立ち上がる。
勇翔も席を立ちかけたが、セルゲイに片手で止められた。
セルゲイ「二人は、先に宿舎へ。案内を受け、機体のところへ戻る時の道も覚えておいておくれ」
マルフーシャ「私たちが、ご案内します」
セルゲイ「頼んだぞ」
スネジンカが菓子の袋を持ち上げた。
スネジンカ「これも、持っていきますね」
小貝「おう。開ける場所が、やっと決まりそうだな」
*
昼を過ぎると、基地の荷下ろし区画に人が増え始めた。
ソヴァが担当者を集め、送られてきた積荷の明細を読み合わせている。
倉庫には食料と防寒用品の置き場所が作られ、燃料の受入担当も準備を終えていた。
10式戦車の受入れには車両整備区画が割り当てられ、Su-57には航空機用の格納区画が確保された。
それぞれへ運ぶ経路も、食料や防寒用品の搬入と重ならないように確認されていた。
宿舎の場所を覚えた勇翔と小貝も、午後にはその近くへ来ていた。
地面に書かれた誘導の印を見て、二人が立ってよい場所を確かめる。
マルフーシャが、少し高い建物の脇を示した。
マルフーシャ「ここなら、作業の邪魔になりません」
小貝「俺たちが着いた時とは、人数が違うな」
マルフーシャ「運んでくるものが、多いですから」
遠くで、飛行船の音がした。
小貝が顔を上げる。
雲の下へ、大きな船体が現れた。
小貝「……あれで、紅茶も運ぶんだよな」
勇翔「紅茶だけでは、ありませんけどね」
ソヴァのもとへ、管制から連絡が入る。
係留と荷下ろしの担当が、所定の位置へ移った。
飛行船は基地の指定された区画へ近づき、ゆっくり位置を合わせた。
地上からの合図に、船内の担当が応じる。
係留索が張られ、足場の確認を終えた者が手を上げた。
待っていた運搬車が、そこではじめて船体へ近づいていく。
やがて、下船の準備が整った。
最初に連絡担当が降り、ソヴァと受入れを確認する。
その後から、代理人とシュヴァルベが姿を見せた。
セルゲイ「久しぶりじゃな、同志代理人」
代理人「セルゲイ大佐。今日から、しばらく世話になるよ」
代理人が手を差し出す。
セルゲイはそれを取り、短く握った。
セルゲイ「部屋は空けてある。荷物を置くところも、君のところの明細に合わせた」
代理人「ありがとう。担当を呼ぼう。まず、補給品を渡すところから」
シュヴァルベが書類を開き、ソヴァと並んだ。
双方の担当者が、積荷と受入場所を確かめていく。
残る十七名の護衛も降り、基地側の指示に従って持ち場へ向かった。
地上型も航空型も、荷下ろし区画と待機場所へ分かれていく。
食料の箱に、防寒着の包みが続く。
予備部品を受け取った整備担当の声が、運搬車の音の間から聞こえた。
ソヴァは船側の担当と明細を照合し、荷物を順に倉庫へ送っていた。
軍用車両は、他の荷物を運ぶ通路が空いてから移された。
燃料の輸送容器も、受入担当が立ち会って別の区画へ送られる。
見ているだけで、すべてを一度に降ろせない理由が分かった。
勇翔と小貝は、案内された場所から動かなかった。
代理人は二人を見つけると、まず片手を上げた。
書類を一つ返し、セルゲイと一緒にこちらへ来る。
代理人「二人とも、顔を見られてよかった」
勇翔「到着の連絡は、届いていましたか」
代理人「届いていたよ。それでも、会って聞く分くらいは許してもらおうか」
小貝「俺たちも機体も、無事だ。向こうの連中が、引継ぎもちゃんと回してくれた」
代理人「うん。話は、あとで聞く。ここまでの引継ぎは?」
勇翔「終えています。機体を預け、宿舎の案内も受けました」
セルゲイが頷いた。
代理人は二人の顔を順に見て、それから笑った。
代理人「なら、まずはよし。着いたばかりの私より、君たちの方が基地を知っているね」
小貝「食堂までの道なら、もう分かる」
代理人「大切な情報だ。あとで教えて」
貨物区画から、次の搬出を告げる声がした。
代理人はそれに返事をし、セルゲイへ向き直った。
代理人「次は、運用評価に使う二つだ。10式戦車から降ろして、そのあとSu-57を移す。こちらの担当と、一緒に見てもらえるかな」
セルゲイ「うむ。整備の担当も、待っておる」
先に、10式戦車の搬出が始まった。
車両用の運搬設備に載った10式が、覆いを掛けたまま船外へ動く。
砲身に沿って伸びた保護材と、低い砲塔の輪郭。その横の管理票に、10式と記されていた。
勇翔は、運ばれてくる車両から目を離せなかった。
自分が覚えていた形が、貨物区画の暗がりから雪明かりの下へ出てくる。
勇翔「……僕の話が、ここまで形になったんですね」
代理人も、車両へ目を向けた。
代理人「君の記憶を、造るところまで引き受けてくれた人たちがいる。ここへ着いたら、君にも見てもらいたかった」
勇翔「僕も、こちらでの試験に立ち会いたいです。覚えていることは、担当の方へ伝えます」
代理人「頼むよ。製作班も含めて、話せる場を用意しよう」
小貝が、勇翔の横から車両を見た。
小貝「お前が一人で覚えてたものを、今度は皆で確かめるわけだ」
勇翔「はい」
担当者が管理番号を読み上げ、シュヴァルベが記録と照合した。
基地側の整備担当が輸送中の状態を確かめ、指定された車両整備区画へ引き継ぐ。
双方が受領の記録を残すまで、勇翔はその姿を見送っていた。
通路が空くのを待って、Su-57の輸送枠が動いた。
航空機用の運搬設備へ引き継ぎ、機体を船外へ移す。
こちらにも、個別の管理票と輸送記録がある。航空機の受入担当が番号を確かめ、用意していた格納区画まで誘導した。
Su-57が所定の位置へ収まると、二つ目の受領が記録された。
IL-2が、航空機の担当と一緒に戻ってきた。
IL-2「修復と有人仕様への改修、それに性能試験の記録を先に見せろ。ここの設備で追加確認できるところを、整理する」
代理人「頼む。こちらの担当も呼ぶから、一緒に見てほしい。輸送後の作動確認を済ませて、追加試験の予定を組もう」
代理人は航空機の修復・改修記録と性能試験の結果を渡し、二つの輸送記録を受け取った。
どちらにも、船側と基地側の確認がある。
代理人「ここまで、ありがとう。保護材を外して確認する予定は、担当同士で合わせよう」
シュヴァルベが二つの記録を閉じる。
セルゲイは、車両と航空機、それぞれの整備担当へ引継ぎを確かめた。
勇翔の記憶から試作された10式戦車一両と、修復と有人仕様への改修を終えたSu-57一機。
二つは、部隊と物資を載せた飛行船から、この基地へ渡された。
*
荷下ろしが進む間に、待機を命じられた者も、ようやく宿舎へ向かい始めた。
雷電が通路へ出ると、勇翔が気づいて立ち上がった。
彼女は少し足を速め、近くまで来てから止まった。
雷電「……無事で、よかったです」
勇翔「ただいま。……というには、初めての基地ですけど」
雷電「どこでも、会えたなら」
勇翔はその顔を見た。
端末に届いていた短い文を、思い出す。
同じ言葉を、いまは声で聞けた。
勇翔「お茶、持ってきました」
雷電「はい。名前を、送ってくださいましたね」
勇翔「一緒に飲むのは、戻ってからだと思っていました」
雷電「ここでも、飲めますか」
勇翔は頷いた。
雷電も、少し笑った。
隣では、スカイレイダーが小貝の腕を見ていた。
スカイレイダー「怪我してない?」
小貝「してねえ。箱を運んだ分が、少し残ってるだけ」
スカイレイダー「それ、いまも働けるって顔をして、無理するやつじゃない?」
小貝「今日は、箱を運んでない。飛んで、座って、案内されてただけだ」
スカイレイダーが、勇翔を見る。
勇翔は頷いた。
勇翔「今日は、その説明で合っています」
小貝「保証人が要るようになったのか、俺は」
スカイレイダー「自分で言うより、信用できるじゃん」
小貝は口を開きかけ、やめた。
代わりに、菓子の袋を示す。
小貝「土産。ちゃんと買ってきた」
スカイレイダー「お。いいね」
小貝「二人にも、付き合ってもらうけどな」
マルフーシャとスネジンカの方を見る。
スネジンカは空になった手を少し上げ、姉の隣で笑った。
スネジンカ「袋、潰さずに置いてあります」
小貝「助かった。後で、皆で開けるか」
マルフーシャ「それなら、食堂で。お湯も、用意してもらえます」
雷電が姉妹へ向き直り、頭を下げた。
雷電「案内してくださって、ありがとうございます」
マルフーシャ「仕事ですから。こちらへどうぞ」
勇翔は二人の後ろへ続いた。
前を歩くマルフーシャが、凍った場所を避けるよう示す。
小貝も、スカイレイダーへ位置を伝えた。
着いたばかりの時に教わったことが、今度は誰かへ伝えられた。
*
夕方の司令室には、受領した書類が積まれていた。
セルゲイはソヴァと件数を確認し、代理人も船側の記録を揃えていた。
予定していた補給品は、それぞれの置き場所へ渡された。
10式戦車は車両整備区画へ、Su-57は航空機用の格納区画へ収まり、それぞれの担当に引き渡されている。
試作車両の製作記録と、航空機の修復・有人化改修の記録も、受入側の机に揃った。
二つの性能試験の記録は、それぞれの運用評価を担当する者へ渡されている。
シュヴァルベが最後の報告を終えた。
シュヴァルベ「同行者の確認も済みました。護衛の十八名は、指定された待機場所と宿舎へ移っています」
代理人「船員と輸送担当にも、ありがとうと伝えて。休憩の交代は、予定どおり進めて」
シュヴァルベ「はい」
セルゲイが湯を注ぎ、カップを机へ置いた。
代理人は礼を言って受け取る。
セルゲイ「一日で、ずいぶん賑やかになった」
代理人「働く人数も増えた。場所を借りるだけには、しないつもりだよ」
セルゲイ「期待しておる。だが、着いた日に全部を始めなくてもよい」
代理人「うん。まずは、ここで動けるようにする。10式とSu-57の追加試験も、君のところの整備と管制に予定を合わせたい。これまでの性能試験の記録も、担当へ渡した。調査の話は、ここの記録を見ながら聞かせてほしい」
セルゲイは頷き、北方の地図を手前へ寄せた。
まだ空白の多い地図へ、ソヴァが観測の記録を並べる。
代理人はカップを脇へ置き、セルゲイの説明を聞き始めた。
窓の外では、空になった運搬車が荷下ろし区画から戻ってきていた。
*
食堂の一角で、茶葉の袋が開かれた。
勇翔は店主に教わった淹れ方を確かめ、給湯の場所を借りた。
マルフーシャがカップを並べ、スネジンカは菓子を置く皿を持ってきた。
小貝は袋の口を折り返し、崩れていないものから取り出す。
小貝「見ろ。運び方がよかったから、まだ形が残ってる」
スカイレイダー「自分で焼いたみたいな顔するね」
小貝「買ったやつには、選んだ手柄がある」
スネジンカが笑った。
マルフーシャも、皿を置く時に少しだけ口元を緩めた。
勇翔は最初のカップを雷電へ渡した。
彼女は両手で受け取り、湯気の向こうから顔を上げる。
雷電「いい香りですね」
勇翔「味は、あとから少し変わるそうです。僕は、店で一度飲んだだけですが」
雷電「では、もう一度、一緒に」
勇翔もカップを取った。
店で考えたとおり、彼女は最初に香りを言葉にした。
それを聞けたことが、少し嬉しかった。
小貝が皿を姉妹の方へ寄せる。
小貝「案内、ありがとうな。次に来たやつには、俺たちも教えられるようにしておく」
マルフーシャ「まだ、基地を全部回ってはいませんよ」
小貝「じゃあ、続きも頼む。分かったふりして、余計なところへ入りたくねえから」
スネジンカ「明日、行けるところをご案内します」
勇翔「お願いします」
スネジンカが明日の案内を姉へ相談する。
小貝は皿を近くへ寄せ、先に菓子を勧めた。
勇翔も地図を上着のポケットへ収めた。続きを確かめる時には、二人に聞ける。
勇翔は、窓の向こうへ目をやった。
格納庫にはF-3とA-10がある。
少し離れた場所には、物資と部隊を運んできた飛行船が停まっている。
夕方の雪の中を、交代する警備の人たちが歩いていた。
カップへ目を戻すと、雷電がこちらを見ていた。
雷電「冷めないうちに」
勇翔「はい」
温かい茶を飲む。
カップを下ろすと、雷電が菓子の皿をこちらへ寄せた。
まだ覚えていない道も、聞いておきたいこともある。
勇翔はひとつ菓子を取り、明日の案内を話す皆の声を聞いていた。
感想お待ちしております。
2026年10月12日リメイク完了
兵器解説
-
アリ
-
ナシ