陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

76 / 77
この作品はアッシュアームズを元ネタに構成されています(例外あり)

もし、元ネタを知らない方は
Google先生にアッシュアームズをぶち込んで検索するように。

もう知っている方はどうぞ。

検索して一応なんとなくわかった方もご視聴ください。



Act.24 灯台下暗し

北方の辺境基地、食堂。

 昼食を終えた者が席を立ち始めても、勇翔は机に広げた紙を片づけずにいた。

 10式戦車の乗員。

 車長、砲手、操縦手。

 自分がどこを受け持つにしても、あと二人が要る。

 午前中に見た車内を思い出し、空いている欄へ目を戻す。

 機械の配置は描ける。

 そこへ座る人の名前は、まだ書けなかった。

スネジンカ「渡邉さん。お皿、もう下げていいですか」

 声を掛けられ、勇翔は顔を上げた。

 いつの間にか、マルフーシャとスネジンカが隣に来ていた。

勇翔「あ、はい。ありがとうございます」

 勇翔は紙を寄せ、空になった皿を持った。

 スネジンカへ渡そうとしてから、自分で下げるために立ち上がる。

スネジンカ「そんなに急がなくても、大丈夫ですよ」

勇翔「考えていると、ほかのものが目に入らなくなっていました」

マルフーシャ「戦車のことですか」

 勇翔は頷いた。

 皿を返し、席へ戻る。

 姉妹も向かいに座った。

勇翔「乗員をどうするか、考えていました。代理人の部隊の方にも相談しているんですが、今の任務や、訓練に使える時間もありますから」

 マルフーシャは紙の三つの欄を見た。

マルフーシャ「三人で、動かすんですね」

勇翔「はい。操縦の確認だけなら、その作業に合わせた準備でできます。でも、車両を運用するところまで見るなら、乗員を揃えて連携を覚える必要があります」

スネジンカ「一人が運転して、一人が砲を使って……」

勇翔「もう一人が、周囲を見て指揮をします。僕もどの役割を受け持つかは、候補の方と相談して決めるつもりです」

 スネジンカは、空いている欄へ指を近づけた。

 触れる手前で止め、勇翔を見る。

スネジンカ「では、まず二人に来てもらわないと」

勇翔「そこが、まだ決まりません」

 勇翔は筆記具を持ち直した。

 自分がこの基地で知っている人は、まだ少ない。

 地上の仕事をしている者を見かけても、どんな経験があり、何を任せられるかまでは分からなかった。

マルフーシャ「私たちも、知っている人に聞いてみます。ただ、戦車に乗ったことがある人となると……」

 彼女は少し考えて、食堂の入口へ目を向けた。

マルフーシャ「あ。ちょうど来ました」

 入口から二人の兵士が入ってきた。

 一人は食堂の様子を確かめ、まっすぐこちらへ歩いてくる。

 もう一人は赤い髪を揺らし、マルフーシャを見つけると手を上げた。

アリビナ「いたいた。もう食べ終わった?」

マルフーシャ「はい。二人は、これからですか」

ライカ「勤務の引継ぎが済んだところです。少し遅くなりました」

 ライカは、机に広がっている紙へ視線を落とした。

 そのあと、勇翔を見る。

マルフーシャ「紹介します。こちらは渡邉勇翔大尉。昨日、基地へ来られた方です」

 勇翔が立ち上がる。

勇翔「渡邉です。よろしくお願いします」

マルフーシャ「こちらはライカとアリビナ。私の友人です。ライカには、勤務でもいろいろ教えてもらっています」

ライカ「ライカです。地上の防衛勤務をしています」

 勇翔は同じ名を受入基地でも聞いていた。

 いま紹介されたライカは、マルフーシャと地上勤務を共にする兵士だった。

アリビナ「アリビナよ。あなたが、新しい飛行機で来た大尉?」

勇翔「はい。F-3で、こちらへ来ました」

アリビナ「遠くからでも目立ってたわ。あの機体なら、格納庫でもすぐ分かりそうね」

ライカ「アリビナ。通路を塞いでいます」

アリビナ「あ、そうだった。隣、いい?」

 勇翔は資料を寄せ、二人が座れる場所を空けた。

 ライカとアリビナは食事を受け取って戻り、姉妹の隣につく。

 アリビナは席へ腰を下ろすと、さっそく紙を覗いた。

アリビナ「飛行機の話だと思ったら、戦車?」

勇翔「10式戦車です。試作された車両で、こちらで運用評価をすることになりました」

アリビナ「飛行機を飛ばした次は、戦車に乗るの?」

勇翔「担当には、指名されました。陸戦と戦車戦の経験を、生かしてほしいと。ただ、その前に乗員を揃えないと」

 マルフーシャが、勇翔から聞いた話を二人へ伝えた。

 車長、砲手、操縦手。

 勇翔を含めた三人で、役割を分担する。

 車両は届いているが、候補の選定と習熟はこれからだ。

 ライカは食事の手を止め、三つの欄を確かめた。

ライカ「いま探しているのは、二人。役割は、その二人の経験も見て決めるということですね」

勇翔「はい」

ライカ「すぐに乗って動かせる人が必要なのですか」

勇翔「説明と訓練の時間は取ります。ただ、基礎のある方なら、その先へ進みやすいです。指示を聞いて状況を整理することや、ほかの乗員へ必要なことを伝える力も見たいと思っています」

 アリビナは、車内配置の図へ目を向けた。

アリビナ「砲を使うところは、こっちね。見るものも、随分あるみたい」

勇翔「製作と試験の担当に、説明してもらったところです。僕も、まだ確認したいことがあります」

アリビナ「知らない車両なのに、乗れる人を探す方が先に来たのね」

勇翔「そうなんです。車両だけを見ていても、空いている席は埋まりませんから」

 スネジンカは自分の勤務で顔を合わせる者を思い浮かべていた。

 マルフーシャも、車両の近くで働いている者の名前を、いくつか挙げた。

 ライカは、挙がった名前の持ち場と勤務の時間を確かめる。

 アリビナは図を見て、勇翔へ尋ねた。

アリビナ「その人たちが引き受けられるかどうかは、まだ聞いていないのよね」

勇翔「はい。経験があっても、今の仕事から動けるかまでは」

 勇翔は、紙の端に書いた候補の名前を見た。

 名前が出るたびに、勤務の事情も増えていく。

 この席にいる者が知っている範囲だけでは、まだ足りない気がした。

 食堂の壁には、当番と連絡の紙が貼られていた。

 昼食を終えた兵士が立ち止まり、自分の名前を確かめている。

 勇翔はその様子を見て、筆記具を止めた。

勇翔「……基地内で、募集を掛けてみるのはどうでしょう」

 姉妹が、同じように顔を上げた。

勇翔「こちらで知っている方に順番に聞くより、希望する方に名乗り出てもらうんです。車両を扱った経験や、射撃の経験も、その時に聞けます」

スネジンカ「ここに貼っておけば、食事に来た人にも見てもらえますね」

マルフーシャ「事務の窓口にも、掲示板があります」

ライカ「募集を出すなら、持ち場の調整も必要です。受入側に話を通し、応募の受付場所と説明の日時を決めた方がよいでしょう」

勇翔「セルゲイ大佐と代理人に、相談してみます」

 アリビナが、紙の空いているところを示した。

アリビナ「二人を探していることは、大きく書いた方がいいわ。役割がまだ決まっていないことも。運転しかできないから、と読まずに通り過ぎる人がいるかもしれないし」

 勇翔は頷き、募集の下書きを始めた。

 10式戦車の乗員候補、二名。

 経験を聞いたうえで、役割と習熟の予定を相談する。

 応募する者には、仕事内容の説明を行う。

 食堂へ来るまで白かった紙に、ようやく次にすることが書けた。

     *

 午後の司令室では、代理人とセルゲイが募集の下書きを見ていた。

代理人「基地の中まで、候補を広げるわけだね」

勇翔「はい。部隊の方への相談と並行して、こちらでも希望者を募れればと思います」

セルゲイ「戦車の仕事なら、興味を持つ者はおるだろう。だが、今の持ち場との調整は必要じゃ」

勇翔「応募の時に、そちらも確認していただきたいです。引き受けたあとで、両方の仕事ができなくなるのは困りますから」

 セルゲイはソヴァへ下書きを渡した。

 受付の窓口と、説明に使う場所を決める。

 代理人はシュヴァルベと、製作・試験の担当が立ち会える時間を確かめた。

代理人「明日の午前に、最初の説明を入れよう。君も一緒に、応募した人の話を聞いてほしい」

勇翔「承知しました」

代理人「いきなり車両を動かしてもらう必要はない。経験を聞き、役割を説明してから、基礎を確かめる。何を見たいかは、担当と合わせよう」

 勇翔は用意してきた紙を開いた。

 車両を扱った経験。

 射撃に関わった経験。

 説明を聞いて確認すること、周囲の者と連絡を取ること。

 乗員へ任せたい仕事を考え、その手前に必要なものを書いていた。

 代理人は目を通し、頷いた。

代理人「うん。これなら、候補を比べる時にも話せる。分からないことは、こちらの担当にも聞いて進めよう」

 募集の内容が整うと、勇翔は掲示する紙を受け取った。

 マルフーシャとスネジンカが、最初の掲示板まで案内する。

 アリビナは、紙が傾いていないかを横から見ていた。

アリビナ「もう少し右。……そこ。これなら、ちゃんと目に入るわ」

ライカ「読める位置なら十分です。受付場所の行が、ほかの紙に隠れていないかも見てください」

 勇翔は一歩下がって確かめた。

 食堂の入口、事務窓口、車両整備区画。

 人の行き来がある場所へ、同じ募集を出していく。

 作業を終える頃には、紙を見て立ち止まる者がいた。

「新しく来た戦車の乗員?」

「大尉と一緒に乗るんだって」

 勇翔は足を止め、尋ねられたことへ答えた。

 経験のある者も、ない者もいた。

 応募するには、明日の説明へ来ればよいと伝える。

 事務の窓口へ戻ると、既に数人の名前が寄せられていた。

スネジンカ「思っていたより、早いですね」

勇翔「はい。希望する方がいるなら、まず話を聞けます」

 勇翔は名簿を受け取った。

 今朝、車内で考えていた二つの空席を思い出す。

 そのうち誰かが、同じ説明を受け、一緒に座ることになるかもしれなかった。

     *

 翌朝、基地内の説明室。

 机に並んだ椅子へ、応募した者が座っていた。

 勇翔は名簿と顔を照合し、全員が来ていることを確かめる。

 代理人側の担当者も、10式の車内配置と試験の資料を持って来ていた。

 マルフーシャとスネジンカは、入口で場所を尋ねる者を案内する。

 ライカとアリビナも、勤務の合間に説明室へ顔を出していた。

ライカ「受付の控えは、こちらです。説明のあとに個別で話を聞く順番も、記入してあります」

勇翔「ありがとうございます」

アリビナ「図の控えは、机ごとに置いておいたわ。人数分、あるはず」

 勇翔は頷き、部屋の前へ立った。

勇翔「来ていただいて、ありがとうございます。最初に、10式でどんな仕事をしてもらうかを説明します」

 担当者が車両の写真を示した。

 勇翔は、車長、砲手、操縦手の役割を順に話す。

 自動装填装置があっても、周囲を見る者と、砲を扱う者、車両を走らせる者の仕事は残る。

 機械が勝手に、三人分の判断を引き受けるわけではない。

 応募した者たちは、写真と図へ目を向けていた。

 何人かは、説明の途中で隣の者へ声を掛ける。

 ライカが静かにそちらへ寄り、前の話を聞くよう促した。

勇翔「この車両の操作を、今日の時点で知っている必要はありません。説明と習熟の時間は取ります。その前に、皆さんの経験と、どの仕事を受け持てそうかを聞かせてください」

 勇翔は机へ戻り、最初の応募者を呼んだ。

 名簿の脇には、話を聞くための欄が用意されている。

 午後には候補を絞り、その後の相談へ進められる。

 その時は、まだそう考えていた。

     *

 最初に呼ばれた者は、車両を扱った経験があると答えた。

勇翔「どんな車両ですか」

「物資を運ぶものです。倉庫で使っています」

 勇翔は、どの作業を受け持っていたかを聞いた。

 押して運ぶ台車の扱いと、積荷の載せ方。

 車両の運転を任されていたわけではなかった。

 勇翔は記録へ書き込み、別の質問へ移った。

 何かを覚える時、分からないところをどう確認しているか。

 複数の人と作業をする時、どんな合図を交わしているか。

 相手は答えようとして、何度か話を止めた。

 問い方を短くし、具体的な作業へ置き換えると、ようやく答えが返る。

 手足を使って働くことには慣れている。

 しかし、説明を聞いて役割を整理するところでは、勇翔が思っていたより多くの補助が要った。

 次の者は、射撃を希望していた。

「銃は撃っています。戦車の砲なら、もっと大きいですから」

勇翔「大きいから、というと?」

「当たれば、強いと思うので」

 勇翔は主砲の威力の話をいったん置き、射撃の経験を尋ねた。

 担当者が持参した確認用の記録と照らし合わせる。

 本人が自信を持って話したほど、成績は安定していなかった。

 どこで失敗したかを聞くと、相手は少し困った顔をした。

 外れたことは覚えている。

 その前に何をし、何を確かめたかは、話がなかなか繋がらなかった。

 勇翔は、砲手に任せる仕事の説明をもう一度行った。

 射撃だけに気持ちが向くと、ほかの乗員との連携が抜ける。

 相手は頷いていたが、役割を自分の言葉で話してもらうと、今度も撃つことから話し始めた。

 続く者には、机上で短い連絡の練習をしてもらった。

 未知の機械の名称は使わない。

 紙に描いた区画の図と、そこに置かれた印を見る。

 自分が確かめたことを、別の位置にいる者へ伝えるだけの簡単なものだった。

 図は、双方へ同じものを渡してある。

 勇翔が短く説明すると、相手は大きく頷いた。

「分かりました」

 しかし、伝える段になると、見たことと推測したことが混ざった。

 聞き手の方から問い返されると、さらに別の場所の話へ移る。

 勇翔は途中で止め、順に確かめ直した。

勇翔「ここで見えたものは、何ですか」

「この印です」

勇翔「では、最初はその場所だけを伝えてください」

 そこからなら、話を進められた。

 ただ、少し情報が増えると、また先ほどの混乱へ戻ってしまう。

 勇翔は記録の端へ、必要になりそうな訓練を書いた。

 連絡の仕方。

 説明の聞き取り。

 作業を一つずつ確認すること。

 10式の装置を覚える手前で、整えなければならないものが、いくつもあった。

 同じ確認を、ほかの者にも続けた。

 車両の経験がなくても、説明をきちんと聞き、分からないことを尋ねられる者はいる。

 その一方で、基礎の射撃技能が足りない者、話の途中で先へ手を出そうとする者、役割を説明しても自分のしたい作業だけを挙げる者が、予想以上に多かった。

 車両の運転経験があり、質問にも明確に答えられた者が来た時は、勇翔も紙へ顔を近づけた。

 だが、勤務の確認に進むと、継続して訓練に参加できる時間がほとんどなかった。

 現在の持ち場で代わりを立てられるかは、別の相談が必要になる。

 気づけば、午前の説明に使った紙の脇へ、確認事項が何枚も増えていた。

 名簿に並ぶ人数は、足りている。

 運用に必要な基礎技能と、訓練へ参加できる条件を合わせて見ると、候補はまだ絞りきれなかった。

 その中でも、基礎技能が勇翔の想定より低い者が多かったことは、はっきりしていた。

 最後の応募者を見送ると、勇翔は椅子へ深く座り直した。

マルフーシャ「渡邉さん」

勇翔「……はい」

 返事が少し遅れた。

 マルフーシャは机の端へ、残った資料を揃えた。

マルフーシャ「人数は、集まりましたね」

勇翔「はい。集まったんですが……」

 勇翔は名簿を見た。

 車両の乗員に必要なものを、自分の中で急に増やしたつもりはない。

 知らない装置を操作できないのは、当たり前だ。

 それより前の、説明を理解し、確認を返し、役割を分けるところで、何度も足が止まっていた。

勇翔「最初から教えることが、思っていたより多いです」

スネジンカ「これから、少しずつ覚えてもらうことはできませんか」

勇翔「できます。ただ、基礎を揃える時間と、車両の操作を覚える時間を、両方見ておかないと。募集した二人を、そのまま次の試験へ呼ぶようには進められません」

 勇翔は三つの乗員欄を見た。

 昨日と同じように、二人分が空いている。

 募集すれば、経験のある者の中から選べる。

 そう考えていた分だけ、どこから手をつけるかを、もう一度整理する必要があった。

 担当者は、追加の確認をしたい応募者の紙を分けた。

 勇翔も、今の勤務を調整できれば候補になりそうな者へ印をつける。

 すべてを白紙へ戻すわけではない。

 それでも、ここで二人を決められる見通しは、まだ立たなかった。

     *

 午後、勇翔は食堂の端の席へ戻った。

 今度は食事の皿を置かず、名簿だけを開く。

 マルフーシャとスネジンカが向かいに座った。

 二人も、受付で受け取った控えを持っている。

スネジンカ「ほかの勤務の人にも、募集を見てもらえるようにしますか」

勇翔「それも考えています。ただ、人数を増やすだけで解決するかは、まだ分かりません」

 マルフーシャは、勇翔の書いた確認事項を見た。

マルフーシャ「乗りたい人と、乗るための準備ができている人は、同じではなかったんですね」

勇翔「はい。僕も、もう少し基礎が揃った方が来ると思っていました」

 勇翔は筆記具を机へ置いた。

 応募した者たちに、やる気がなかったわけではない。

 新しい戦車を見たい、仕事を覚えたい、そう言った者もいる。

 その気持ちを受け取ることと、今の技能を確かめることは、別にしなければならなかった。

 候補に残った者の訓練を、どこまで増やすか。

 別の勤務から、基礎のある者を探すか。

 勇翔は紙へ目を戻し、同じ二つの考えを行き来していた。

 その横へ、説明室で使った図が置かれた。

ライカ「この控えも、返しておきます。受付で書き足したものは、別にしてあります」

 顔を上げると、ライカとアリビナが来ていた。

 勤務へ戻っていた二人が、手伝いの時に使った資料を届けてくれたのだった。

勇翔「ありがとうございました。お二人にも、手を借りてしまって」

ライカ「説明を聞きに来た者を案内するだけなら、できます。選ぶ方は、進みましたか」

 勇翔は少し黙り、首を振った。

勇翔「まだです。基礎から確認することが、多くて」

アリビナ「そうね。さっきの連絡の練習は、図が同じだったのに、違う話になってたわ」

 アリビナは、机に置いた図を引き寄せた。

 印のある場所を、指で示す。

 次に、聞き手へ渡した図の同じ場所を見る。

アリビナ「ここで見たものを、まずここだって伝える。別のところで起きていることは、まだ確認していないんだから、混ぜたら相手が困るでしょう」

 簡単に言い、図を戻した。

 午前中、勇翔が何度か言い直した内容を、彼女は一度聞いただけで整理していた。

ライカ「分からないところを聞き直せた者もいました。ただ、同じ説明を聞いていても、理解できたつもりで進んだ者には、もう一度確認が必要です」

 ライカは受付の控えを示した。

ライカ「個別の説明の時に、追加で聞かれたことはここに記してあります。回答を担当へ確認するものと、その場で説明したものを分けてあります」

 勇翔は控えを受け取った。

 名前と質問の内容が揃い、誰に確認するかも分かる。

 話を聞いた順番まで戻して探す必要はなかった。

勇翔「ここまで、まとめてくださったんですか」

ライカ「あとで確認する時に、分からなくなると困りますから」

 勇翔は紙を読み、顔を上げた。

 次に、アリビナへ目を向ける。

 彼女は車内配置の図を眺めていた。

 砲手の位置から車長の位置へ、指を動かす。

 説明室で聞いた仕事を、図の中の場所へ結びつけているらしかった。

アリビナ「ところで、砲を使う人がこちらを見ている間は、周囲の話はこっちから伝えるのよね」

勇翔「はい。もちろん、見る範囲は役割だけで全部分かれるわけではありませんが、連絡して合わせる必要があります」

アリビナ「一人で全部見ていたら、忙しすぎるもの。分担しているなら、その連絡も仕事のうちになるわね」

 勇翔は、すぐには次の言葉を出さなかった。

 午前中から、候補者の記録ばかり見ていた。

 その間、ライカは聞いた内容を正確に整理し、必要な確認を残していた。

 アリビナは、図と説明を素早く結びつけている。

 募集の受付を手伝う者として、二人の働きは見ていた。

 乗員を探す時には、その二人を候補へ入れて考えていなかった。

 マルフーシャが勇翔の視線に気づき、ライカとアリビナを見た。

マルフーシャ「二人とも、仕事では頼りになります。アリビナは射撃も正確ですし、座学の成績もよかったです」

アリビナ「そこは、もう少し大きく言ってくれていいのよ」

ライカ「ここは食堂です」

アリビナ「褒められた時くらい、いいじゃない」

 スネジンカが少し笑った。

 勇翔も口元を緩めたが、すぐに乗員の欄へ目を戻した。

 射撃の基礎がある。

 説明を聞いて、仕事を整理できる。

 分からないものと確認済みのものを分け、次に必要な連絡を残せる。

 10式に乗った経験があるかどうかとは、別のところで、二人には頼めそうなものがあった。

 そこから車両の操作と連携を覚えてもらうことは、できないだろうか。

勇翔「ライカさん。アリビナさん」

 名前を呼ぶと、二人がこちらを向いた。

勇翔「少し、お話を聞いていただけませんか」

ライカ「何でしょう」

 勇翔は二人の前へ、10式の車内配置を置いた。

 その脇に、車長、砲手、操縦手の欄がある紙を広げる。

勇翔「お二人に、10式の乗員候補として協力していただきたいんです」

 アリビナの指が、図の上で止まった。

 ライカも、紙から勇翔へ目を戻した。

アリビナ「……私たち?」

勇翔「はい」

ライカ「私たちは、募集に応募していません。それに、戦車の乗員経験をお話しした覚えもありませんが」

勇翔「分かっています。今の時点で操作を知っていると思って、お願いしているわけではありません」

 勇翔は、ライカがまとめた受付の控えを示した。

勇翔「ライカさんは、説明の内容を正確に整理し、必要な確認を残していました。乗員の仕事でも、指示を聞き、分からないことを確かめ、ほかの二人へ伝える力が要ります」

 ライカは控えへ目を落とした。

 すぐには頷かず、話の続きを待っている。

 勇翔はアリビナへ向き直った。

勇翔「アリビナさんは、図を見て、役割と連絡の関係をすぐに理解していました。射撃と座学の話も、マルフーシャさんから聞きました。その基礎を、車両の仕事へ繋げていただけないかと思ったんです」

アリビナ「射撃に自信はあるわ。でも、あの大きな砲を撃つのは、私も初めてよ」

勇翔「その装置の操作は、製作と試験の担当から教わります。僕も一緒に確認します。役割は、お二人の希望と、説明を受けたあとの様子を見て相談したいです」

 ライカは紙へ手を置いた。

 三つの役割を見てから、勇翔を見た。

ライカ「今の持ち場は、どうするのですか。説明を聞くことと、乗員として訓練に参加することでは、必要な時間が違います」

勇翔「そこは、セルゲイ大佐と代理人へ調整をお願いするつもりです。お二人の仕事を、僕の判断だけで外すことはできませんから」

ライカ「なら、その調整も含めて説明してください」

 声は厳しかった。

 ただ、席を立つ様子はない。

 アリビナは、車内の写真を見直した。

 砲塔の中と、座る場所。

 新しい仕事を思い描くように見てから、勇翔へ目を向けた。

アリビナ「私を頼りにするのは、分かるわ。けど、何を覚えて、どのくらい通うことになるかは、ちゃんと聞きたい」

勇翔「はい。今日は、引き受けると決めてもらう前に、その話をさせてください」

 勇翔は資料を開いた。

 ライカとアリビナの間へ、二人から見える向きで置く。

 マルフーシャとスネジンカは口を挟まず、隣で見ていた。

 募集を手伝っていた二人が、今度は誘われる側として、資料の前へ座っている。

 まだ、乗員の名前を書く段階ではなかった。

 勇翔は二人の顔を見て、覚えてもらいたい仕事から、もう一度説明を始めた。




感想お待ちしてます。

兵器解説

  • アリ
  • ナシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。