陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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この作品はアッシュアームズを元ネタに構成されています(例外あり)

もし、元ネタを知らない方は
Google先生にアッシュアームズをぶち込んで検索するように。

もう知っている方はどうぞ。

検索して一応なんとなくわかった方もご視聴ください。


Act.25 ロシアの美

北方の辺境基地、航空機用の格納区画。

 勇翔が10式の乗員を探している間、小貝はSu-57の操縦席へ通っていた。

 試験担当からの説明が始まり、表示と警報の対訳も、機体の実物と照らし合わせて揃えられていく。

 最初は紙の番号を辿っていた手が、確認を重ねるにつれて、該当する場所へまっすぐ伸びるようになっていた。

 操縦席のそばに置かれた資料には、小貝自身が書き足した印がある。

 写真の脇に、短い意味と、見落としたところ。

 大きく丸をつけた箇所も、前より少なくなった。

「では、こちらの表示を」

 担当者の声に、小貝は前方へ目を向けた。

 今日は通電した状態で、地上で確認できる範囲の表示と操作を確かめている。

 小貝は内容を読み、該当する系統と、確認する項目を答えた。

 担当者が頷く。

 次の項目へ進むと、小貝の手も、それに合わせて動いた。

 前に座った時なら、まず資料へ目を落としたところだ。

 いまは位置を確かめ、そのあとで、説明の控えと照合している。

「今のところまで、迷わず進められています」

小貝「こっちは、ようやく場所を覚えた。最初は、どこを見ても別の文字だったからな」

 小貝は操作部の横を見た。

 ロシア語の表記は、そのまま残されている。

 文字が変わったわけではない。

 見た時に浮かぶ意味の方が、少しずつ変わっていた。

 最初は、意味を探すために視線が止まった。

 いまは、そこに書かれた項目と、担当者から聞いた説明が繋がる。

 全部の言葉を読めるようになったわけではないが、必要な表示には、目を向ける順番ができていた。

小貝「次は、こっちだな」

 小貝は確認する場所を示した。

 担当者は、資料の該当する欄へ印をつける。

「はい。ただ、こちらと似た表記が、別のところにもあります」

小貝「そっちは、まだ間違えそうになる。昨日も一回、見直した」

 小貝は二つを見比べた。

 意味を言い、何が違うかを確かめる。

 そのあとで、手元の控えへ短く書き足した。

 分からないところは残っている。

 それでも、初めて座った時のように、何もかもを探し直す状態ではなくなっていた。

 説明を受けるたびに、ひとつ前の確認へ戻る回数が減っている。

 小貝は座席へ身体を落ち着け、左右の操作部を見た。

 A-10で覚えた位置へ、無意識に手を出しかけることも、少なくなった。

 こちらの配置を、こちらの仕事として覚え始めている。

小貝「なるほどな……」

「何か、気になるところが?」

小貝「最初に見た時は、よく分からねえ並び方だと思ったんだが」

 小貝は、さっき確認した場所から次の場所へ、目を動かした。

小貝「何を見て、何を確かめて、そのあと何をするか。そこが分かると、この位置に置いてある理由も見えてくる」

 操作部が少なくなったわけでも、表示が簡単になったわけでもない。

 それでも、扱う内容を理解すると、ばらばらに見えていたものの間へ、順番が通る。

 ただ慣れている配置と違う。

 それだけで、扱いにくいと決めかけていたところもあった。

 小貝はその違いを、指先の動きで確かめ直していた。

小貝「……よく考えてあるわ、こいつ」

 担当者は、有人化の改修記録を近くへ寄せた。

「残されていた装置と、有人仕様に合わせて整えた部分があります。今回の説明は、その状態で行った試験の記録に合わせています」

小貝「分かった。いま目の前にある、こいつの話ってことだな」

「はい」

 小貝は頷き、資料へ目を戻した。

 回収時の無人仕様から、修復と改修を経て、人が座って操作できる機体になった。

 その状態で、既に試験を終えている。

 小貝は、この操縦席で確かめた動きと、試験担当の説明を繋げていった。

 次の確認へ進む。

 小貝は表示を見て、説明を返した。

 担当者から問い直されると、資料を開き、必要なところを確かめる。

 昨日より、話が速く通る。

 小貝自身にも、それが分かった。

     *

 午前の地上確認が一段落すると、小貝は機体から降り、格納区画の脇にある机へ移った。

 試験担当が、修復後の飛行記録を開く。

 有人仕様へ改修した本機で、何を確認したか。

 記録には、速度だけでなく、その時の燃料や搭載条件も残されていた。

 小貝は説明を聞きながら、紙へ目を走らせる。

 以前、代理人から聞いた性能が、ここでは実際の試験の条件と並んでいた。

小貝「ここが、超音速巡航を確かめたところか」

「はい。こちらの記録と合わせてご覧ください」

 別の記録には、機動性の確認がある。

 電子装備の作動と、管制との情報のやり取り。

 低視認性に関する試験も、条件を分けて整理されていた。

 小貝は、同じ数字を読む時でも、見る場所が変わっていることに気づいた。

 最初に資料を渡された時は、どこまで動けるか、何を積めるかが先に目へ入った。

 いまは、その性能を使う時に、操縦者が何を見ることになるかも考えられる。

小貝「戦闘機として空の相手を見ながら、地上の仕事も持っていける。機体の方は、その両方を繋げて使うつもりでできてるわけか」

「各装備の確認は、こちらにまとまっています。実際の任務でどう合わせるかは、今回の運用評価でも見ていただきたいところです」

小貝「うん。そこは、数字だけじゃ済まねえな」

 小貝は、最大戦闘搭載量の欄を見た。

 七千五百キログラム。

 移動用の条件で確認した航続距離は、四千キロメートル。

 その二つを、一つの飛び方へそのまま重ねるわけではない。

 どれだけ持って行き、どこで使い、どこまで帰るか。

 試験の条件を追うと、数字の横に、その時の機体の姿が浮かぶようになっていた。

小貝「これで、何でも一度にやれると思ったら、読み間違えるな」

「はい。搭載条件と飛行条件は、それぞれ残しています」

小貝「助かる。向こうがどんな条件を選んだかで、こっちの見方も変わる」

 アグレッサーとして相手を見る時と、乗る側として装備を見る時。

 同じ資料でも、先に考えるものが違う。

 小貝はその二つを、何度か行き来していた。

 見つけにくくする。

 速く移動する。

 動きの幅を持つ。

 空でも地上でも、目的に合わせた装備を使う。

 一つだけを大きくするより、相手が対処しにくいところを、いくつも合わせている。

 操作の配置に見えてきた筋と、機体全体でしようとしている仕事が、少しずつ重なった。

小貝「……嫌な機体だな」

 担当者が顔を上げた。

 小貝は、その反応へ手を振る。

小貝「相手にいたら、って話だ。乗る側なら、ありがたい。よくも、これだけ繋げて考えたもんだ」

 小貝は資料を少し引き寄せた。

 それでも、万能だとは思わなかった。

 機体の持つものをどう使うかは、乗る者と、周囲の者の判断にも左右される。

 その準備を、いま自分が始めていた。

「この先の説明は、午後の担当と合わせて進めます。少し間が空きますので、こちらの控えを先に」

小貝「分かった。読んでおく」

 担当者が席を離れ、格納区画の作業音が戻ってくる。

 小貝は資料を閉じず、機体へ目を向けた。

 昨日より、知らないところが減っている。

 覚えることは、思っていたより順調に進んでいた。

 それが、少し嬉しかった。

 同時に、机へ並んだ性能と、目の前の機影が、昔の空を呼び戻していた。

     *

 乾いた機器音。

 短く重なる無線。

 目を動かした先へ、相手の姿が来る。

 昔の空戦では、いまのように机の上で順に考える時間はなかった。

 確認している間にも、相手が次の位置へ移る。

 こちらが次にしようとすることを、先に潰そうとしてくる。

 そのたびに、判断を変えなければならなかった。

 ロシア空軍の精鋭とやり合った頃の感覚が、小貝の指先へ戻ってくる。

 装置の性能だけを見ていたら、間に合わない。

 向こうにも、こちらの飛び方を見ている人間がいた。

 あの時、何を見落としかけたか。

 どこで相手の意図を読むのが遅れたか。

 帰ってから記録を見れば、別の考え方も浮かぶ。

 空にいる間は、その考えへ届くまでの数秒が、どうしても長かった。

 身体へかかる重み。

 息を吐いても、次の息がすぐには入らない感覚。

 手を動かし、機体を確かめ、もう一度外を見る。

 同じことを続けているつもりでも、余裕のある時と、追い詰められた時では、見えているものが違った。

 訓練なら、止めたあとで聞ける。

 なぜそこで動いたのか。

 何を見て、その判断にしたのか。

 実戦では、相手がそれを教えてくれるわけではない。

 説明を聞けば、筋が通っている。

 記録を見直せば、意味が分かる。

 それを、空の中で、自分に向けられた意図として読まなければならなかった。

小貝「……分かってからじゃ、遅え時もあるんだよな」

 声は、格納区画の音に紛れた。

 記憶の中の無線が、まだ耳の奥に残っていた。

 そこにいた自分の呼吸も、指先の力も、思い出せる。

 綺麗に説明できるようになった今でも、あの時の苦さまでは、紙へ直せなかった。

 小貝は閉じかけていた手を開き、机へ置いた。

 指が、資料の端を強く押さえていた。

 いったん離すと、紙が僅かに持ち上がる。

 目の前にはSu-57がある。

 いまは飛んでいない。

 外では整備の担当が声を交わし、こちらから質問すれば、返事が返ってくる。

 小貝はその声を聞き、ゆっくり息を吐いた。

 手元の控えを閉じる。

 資料を閉じても、記憶の中の音は少し残った。

 小貝は午後に聞くことを紙へ書き、筆記具を収めた。

 まだ、次の説明まで時間がある。

 机に残って同じ記憶を辿るより、少し外へ出ようと思った。

 小貝が立ち上がると、通路の向こうをIL-2が歩いていた。

 片手には書類、もう片方には畳んだ布がある。

 頬の端には、黒い汚れが残っていた。

 小貝はその顔を見て、少し口元を緩めた。

     *

小貝「おう、IL-2」

 呼び止めると、IL-2は足を止めた。

 まず小貝の手元を見て、次に顔を見る。

IL-2「説明は終わったのか」

小貝「午前の分はな。次まで、ちょっと空いた」

IL-2「なら、資料を読め」

小貝「読んだ。聞くことも書いた。そんなに休憩へ仕事を足すなよ」

 IL-2は短く鼻を鳴らした。

 小貝は彼女の頬へ目を向け、顎で示す。

小貝「……あんた、顔にまで整備の印をつけるようになったのか」

IL-2「何だ」

小貝「そこの黒いの。確認済みって印かと思った」

 IL-2は頬へ手を上げかけ、止めた。

 自分の指を見る。

 そちらにも、僅かに汚れが残っていた。

IL-2「作業の汚れだ」

小貝「知ってる。両側につけたら、何かの模様になるんじゃねえか」

IL-2「少佐は暇になると、くだらないことばかり考えるな」

小貝「頭の空いたところへ、ちょうどいい顔が来たんでな」

 IL-2が目を細めた。

 小貝は、さっきまで閉じていた口が、いつもの調子で動くのを感じた。

IL-2「人の顔で、時間を潰すな」

小貝「せっかくだ。休憩に付き合ってくれよ」

IL-2「私は、これを届けに行く」

 彼女が書類を少し上げた。

 小貝は行き先を聞き、格納区画から続く通路を見る。

小貝「なら、途中まで同じ方向だ。歩きながらでいい」

IL-2「静かに歩くならな」

小貝「それじゃあ、付き合ってもらう意味が半分なくなる」

 IL-2は答えず、歩き始めた。

 小貝も、その横へ並ぶ。

 相手の顔を見ると、黒い汚れがまだ残っている。

 彼女は布を持ち直し、頬の端を一度拭いた。

小貝「お。さすが。確認が早い」

IL-2「少佐の口を止める方が早いと思っている」

小貝「そっちは、整備しても元に戻るぞ」

IL-2「厄介な故障だな」

 小貝は声を出して笑った。

 IL-2は前を向いたまま歩く。

 その歩幅は、小貝が横へ並べるままだった。

     *

 格納区画を抜けると、通路の窓から雪が見えた。

 外を運搬車が通り、その後ろを人が歩いている。

 小貝はしばらくそちらへ目を向けた。

IL-2「Su-57は、どうだ」

小貝「覚える方は、思ったより進んでる。最初は、座ったところから全部やり直しだと思ったんだがな」

IL-2「実際、覚え直しているだろう」

小貝「そうなんだけどよ。配置と意味が繋がると、こっちにも、ちゃんと筋があるって分かる」

 小貝は、操縦席で手を動かした順を思い出した。

 図を探すより先に、実物へ目が行くようになった。

 その小さな変化が、思っていたより大きい。

小貝「よく考えた機体だ。空の相手に、いろいろ嫌なことができる。乗る側は、その分だけ覚えることもあるけどな」

IL-2「分からないところは」

小貝「ある。午後に聞く。ロシア語も、見慣れた項目が増えたってだけで、ほかの文章まで読めるわけじゃねえ」

 IL-2は頷いた。

IL-2「なら、そのまま確認していけ」

小貝「はいはい。あんた、休憩中も短い説明が上手いな」

IL-2「無駄に長くする理由がない」

小貝「俺の軽口にも、その合理性を向けるのはやめてくれ」

IL-2「向けられるような口を使うからだ」

 小貝は口元を緩めた。

 さっき、機体の合理性に感心していたばかりだった。

 こちらは、短い言葉で真ん中を突いてくる。

 曲がり角の前で、IL-2が一度立ち止まった。

 書類の宛先を確かめ、通路の先を見る。

 小貝も止まる。

IL-2「少佐」

小貝「何だ」

IL-2「さっき、呼ぶ前に止まっていたな」

 小貝は彼女を見た。

 声を掛ける前、通路へ出たところで、少し足が止まっていたのだろう。

小貝「見てたのか」

IL-2「通路にいたからな」

 小貝は一度、窓へ目を向けた。

 雪の上には、新しい車輪の跡がある。

 格納区画の音は、扉を隔てて少し遠くなっていた。

小貝「昔の空戦を、ちょっと思い出してた」

 IL-2は黙って聞いた。

 それ以上、顔を近づけたり、先を急いで尋ねたりはしなかった。

小貝「機体の資料を見てるとな。こういうのを、相手に使われた時もあったよなって。そっちは、あんまりいい思い出じゃねえ」

IL-2「そうか」

小貝「だから、いま暇なうちに、人の顔へ難癖をつけてる」

 IL-2は小貝を見た。

 少し間を置き、布を畳み直す。

IL-2「気晴らしの相手は、選べ」

小貝「選んでる。あんたなら、黙って聞き流さずに返してくれる」

IL-2「それで、私に来たのか」

小貝「おう。返事がある方が、こっちも楽だ」

 IL-2は軽く息を吐いた。

 呆れたような顔だった。

 小貝は、その顔も少し可笑しかった。

IL-2「なら、こちらの用事にも付き合え」

小貝「話を聞かせたら、仕事になった」

IL-2「私は最初から、届け物の途中だと言った」

小貝「言ってたな。分かったよ」

 小貝は手を差し出した。

 IL-2は書類を渡しかけて、いったん止める。

IL-2「油がついていないか」

小貝「俺の手だぞ。あんたの顔じゃねえ」

 IL-2の目が細くなった。

 小貝は片手を上げて見せる。

 汚れがないことを確かめてから、書類を受け取った。

小貝「ほら。任せろ」

IL-2「落とすな」

小貝「これくらいなら、腕にも来ねえよ」

 書類を持つ手を軽く動かした。

 受入基地で箱を運んだ肩も、いまは少し楽になっている。

 小貝はIL-2の横へ戻り、一緒に歩き出した。

     *

 届け先では、係の者が二人を迎えた。

 小貝が書類を渡し、IL-2が短く内容を確かめる。

 用事は、長くかからなかった。

 通路へ戻ると、小貝は両手を見せた。

小貝「これで、俺の整備は完了か」

IL-2「届け物が終わっただけだ」

小貝「つれねえな。もう少し褒めてもいいだろ」

IL-2「届け物ができたな、少佐」

 平らな声だった。

 小貝は一瞬黙り、それから笑った。

小貝「そういう褒め方を頼んだ覚えはねえ」

IL-2「何を頼んでいたか、詳しく説明するか」

小貝「やめとく。午後の分まで、説明が増える」

 IL-2は小貝の手元にある資料を見た。

 歩く間も、折れないよう持っていたものだ。

IL-2「試験の予定は、まだ調整中だ。時間のあるうちに、聞くことを揃えておけ」

小貝「揃えてる。覚える方が進んだ分、乗ってみる時に何を見たいかも、増えてきた」

IL-2「それも担当へ伝えろ」

小貝「分かった」

 返事をすると、IL-2は頷いた。

 そのあと、食堂へ向かう通路を見た。

IL-2「私は、少し休む。少佐も来るなら、口を動かす前に何か飲め」

小貝「お。ようやく休憩か」

IL-2「用事が終わったからな」

小貝「じゃあ、今度はちゃんと付き合ってもらう」

 IL-2は歩き始めた。

 小貝も横へ並び、その頬を見る。

 さっきの黒い汚れは、ほとんど落ちていた。

小貝「……そっちは、綺麗になったな」

IL-2「まだ言うか」

小貝「確認だよ。今日、何度もやってきたからな」

 IL-2は答えず、小貝へ一度だけ視線を向けた。

 小貝は口元を押さえ、笑いを少し小さくする。

 食堂で二人が席につくと、小貝は温かい飲み物を受け取った。

 向かいでは、IL-2が畳んだ布を収めている。

 資料を置く場所を空け、小貝はカップへ手を添えた。

 昔の無線は、まだ思い出せる。

 あの時の息苦しさも、綺麗には消えていない。

 それでも、いま目の前には、こちらの軽口へ眉を動かす相手がいた。

 小貝が口を開きかけると、IL-2が先にカップを示した。

IL-2「先に飲め」

小貝「はいはい」

 小貝は湯気の向こうで笑い、一口飲んだ。

 資料へ書いた午後の質問は、その横に置いたままだった。




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