陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

79 / 81
さぁ、あなたは少しずつ変わっていく


第27話 医療の中の次の一手

治療を受け始めて、一日が経った。

 蓮は寝台へ背を預け、机の上の水を見ていた。

 左肩は、昨日より少し楽になっている。

 胸は、まだ痛かった。

 窓の外を、何人かの人形が通る。

 急ぐ足音を聞くたび、何の用事だろう、と考える。

 自分は、そこへついていけない。

 今は治療中だから。

 そう思っていた。

 医師が検査の結果を持ってくるまでは。

医師「肋骨の損傷が、かなり大きくなっています。内臓にも、機能を戻せないほど傷んだ部分があります」

 蓮は、医師の持つ画面へ目を向けた。

 説明された箇所を見たあと、顔を上げる。

蓮「……自然には、治らんか」

医師「はい。安静にして、元の組織が回復するのを待つ方法では、完治は望めません」

 VSKは、寝台の横に立っていた。

 何も言わず、説明を聞いている。

 蓮は右手を、ゆっくり握った。

蓮「このままなら、戦闘には戻れないってことだな」

医師「戻れません。痛みを我慢すれば出られる、という状態でもありません」

 蓮は頷いた。

 分かった、と言おうとして、声が出なかった。

 戦闘へ出られない。

 その言葉は、思ったより深いところへ落ちた。

 自分が人形たちと同じように動けないことは、知っていた。

 同じものに殴られて、同じように立っていられる身体でもない。

 それでも、足りないところを覚えれば、まだ何かできると思っていた。

 寝台の上で考えていた、その次へ行けない。

 直さなければならないのは、考え方だけではなかった。

蓮「……そうか」

 短い返事になった。

 VSKの手が、寝台の縁へ触れる。

 蓮は、その手を見る。

 今度も帰してもらった。

 次は、自分が誰かを連れて帰る。

 当たり前に考えていたことが、急に遠くなった。

医師「ですから、手術で損傷した部分を置き換えることを提案します」

 蓮の目が、医師へ戻る。

蓮「……置き換える?」

医師「傷んだ肋骨は、金属製の人工肋骨へ。損傷した内臓は、その機能を再現する人造の臓器へ置き換えます」

 蓮は、一度、瞬きをした。

 言葉は理解できた。

 理解できたからこそ、続きを待った。

蓮「それで、どこまで戻る」

医師「完治させられます。日常生活だけでなく、通常の戦闘にも復帰できます」

 VSKが、顔を上げた。

 蓮は、医師から目を離さなかった。

蓮「肋骨が金属になって、内臓を替えて……後から、ずっと何かの処置を受けることには?」

医師「なりません。今回使う人工骨と人造臓器による副作用はなく、透析のような継続的な処置も不要です。臓器として必要な働きは、体内で保てます」

蓮「動いても、支障は残らないんだな」

医師「術後の回復を確認すれば、通常の戦闘動作が可能です」

蓮「やってくれ」

 返事が、すぐに出た。

 医師が、言葉を切る。

 VSKも、蓮を見た。

医師「決めるのが、早いですね」

蓮「戻れるんだろ」

医師「はい」

蓮「じゃあ、頼む」

 さっきまで握っていた手が、開いた。

 つい、左腕を動かしかける。

 胸が痛み、すぐ力を抜いた。

蓮「……これをずっと抱えるより、直せるなら直したい」

 VSKは、医師へ目を向けた。

VSK「説明を、最後まで伺いましょう。ボスは、もう始まったような顔をされています」

蓮「そこまで、気は早くないぞ」

VSK「いま、左腕を動かそうとしました」

蓮「確認は、終わってからだったな」

 医師は、小さく頷いた。

 その後の説明を続ける。

 手術で何を置き換えるのか。

 終えたあとに、何を確かめるのか。

 他の傷の治療も含めて、退院までどう進めるのか。

 蓮は、今度は遮らずに聞いた。

 説明が終わると、差し出された書類へ右手を伸ばす。

 名前を書いた。

 渡邉蓮。

 字の最後を止めてから、筆記具を返す。

蓮「よろしく頼む」

医師「こちらで進めます。準備ができたら、お呼びします」

 医師が出ていくと、VSKは寝台の横へ座った。

 蓮は、閉じた扉を見ていた。

 さっきまでと、同じ扉だった。

 その向こうへ行く予定ができた。

VSK「……よかったです」

 声が、少しだけ静かだった。

蓮「ああ。俺のいた所なら、こんな話、簡単には出てこなかった」

VSK「少し、驚いていますか」

蓮「かなり」

 蓮は、胸へ目を落とした。

蓮「身体の中が、そんなふうに直せるとはな」

VSK「怖くは、ありませんか」

 蓮は、少し考えた。

蓮「手術を受けるのは、好きじゃない。ただ、治らんと言われた時の方が、よほど堪えた」

 VSKは、頷いた。

 そこから先へ、励ます言葉は重ねなかった。

 代わりに、机の上を片づけた。

 水の入った容器と、使っていた紙を寄せる。

 蓮は、その手を見ていた。

蓮「戻ったら、見直すことが山ほどあるな」

VSK「まずは、戻ってきてください」

蓮「うん。順番は、そうだな」

 返事をして、枕へ頭を戻す。

 廊下の足音が近づいた。

 今度は、蓮を呼びに来る音だった。

     *

 治療室から、手術室へ運ばれた。

 蓮は天井を見ていた。

 今度の移動は、どこへ行くのかを知っている。

 名前を確認される。

 説明されていたことを、もう一度聞く。

 VSKの姿は、扉の外へ残った。

VSK「待っています」

蓮「……頼んだ」

 扉が閉まった。

 灯りが眩しい。

 それを見ているうちに、考えを追うのが、少しずつ遅くなる。

 まだ、考えることはある。

 身体が戻ったあとに、何をする。

 あの屋敷を、もう一度、頭の中で歩いてみる。

 今度は、一人で歩かない。

 蓮は、目を閉じた。

     *

 椅子の背へ、手が触れた。

 蓮は目を開ける。

 寝台ではなかった。

 卓がある。

 湯呑みが、三つ。

 向こう側に、よく知っている顔が二つ並んでいた。

レン「……今日は、ちゃんと来たね」

蓮「呼ぶ前から、座ってるじゃねぇか」

レン「手術が始まる頃には、来ると思ってた」

 レンは、湯呑みを指で寄せた。

 もう一人は、椅子へ深く座っていた。

 同じ顔でも、目の向け方が違う。

 空挺団にいた頃の自分だった。

蓮(空挺)「身体は」

蓮「直してる最中だ。肋骨と、傷んだ内臓を替える」

 男の目が、少し細くなった。

蓮(空挺)「替えられるのか」

蓮「ここじゃ、できるらしい」

レン「よかったね」

 蓮は椅子を引いた。

 座る前に、レンを見た。

蓮「その前に、話すことがある」

 レンの指が、湯呑みから離れた。

蓮「俺と相談する。そういう話だった。それを、お前は抜いた」

レン「……そうだね」

蓮「俺が頼んだ最後の交代とは、別だ。あれで、前の話まで済んだことにするな」

レン「分かってる」

 すぐには、次の言葉が出なかった。

 蓮は、椅子へ座った。

 湯呑みを取る。

 茶は、冷めていた。

蓮「帰れたことは、助かった。でも、勝手に身体を取られるのは困る。仲間も、何が変わったのか分からんまま、ついてきてる」

 レンが、顔を上げた。

レン「帰れなくなると思った」

蓮「なら、まず俺に言え」

 向こうの男が、卓へ手を置いた。

蓮(空挺)「俺も、使いすぎた」

 蓮は、そちらへ顔を向ける。

 言い訳は、続かなかった。

 ただ、短い言葉だけが残った。

蓮「……肩の傷、分かってたんだろ」

蓮(空挺)「分かっていた」

蓮「胸も、身体の重さも」

蓮(空挺)「同じ身体だ。知らないわけがない」

 蓮は、しばらく男を見た。

 男も、目を逸らさなかった。

蓮「誰が出ても、残る傷は俺らの傷だ。今回、直せるからよかった、で終わらせたくない」

レン「うん」

蓮「次に身体を渡す時は、何をするためかを決める。仲間を傷つけない。撤収を勝手に変えない。俺の声も、外の奴らの声も聞け」

 レンが頷いた。

レン「僕からも、先に話す。君を押しのけて、決めない」

 蓮は、もう一人を見る。

蓮(空挺)「分かった」

蓮「……これで、忘れたことにはならんからな」

レン「知ってる。約束をしただけじゃ、足りない」

 蓮は茶を一口飲んだ。

 冷たいものが、喉を通る。

 ここで言ったことを、次に守れるかどうか。

 それは、次が来るまで分からない。

 それでも、言わずに進むつもりはなかった。

蓮「じゃあ、今後の話だ」

 レンの口元へ、少しだけ笑みが戻る。

レン「本題が、もう一つあったんだね」

蓮「あった。お前らも、無関係じゃないぞ」

蓮(空挺)「屋敷のことか」

蓮「そこからだ。何が通じて、何が通じなかったか、順に見たい」

 蓮は、卓の上へ指を置いた。

 紙は、なかった。

 それでも、置いた指のそばへ、屋敷の廊下が浮かぶ。

 扉。

 壁。

 そこを通った仲間の姿。

 見たものが、いつも通りの順で並ぶわけではなかった。

蓮「途中で俺が見てないところは、お前が見てる」

蓮(空挺)「ああ」

蓮「最後は、お前だな」

レン「そう。長く使えないのは、分かってた」

蓮「なら、俺が覚えてる分だけで、話を終わらせないでくれ」

 男が、廊下を見た。

 レンも、卓へ視線を落とす。

 三人で、最初から辿った。

 先行したスプリングとロミア。

 間に入ってきた群れ。

 テムと回った通路。

 AKの四人と合流したところで、蓮の記憶が一度途切れる。

 その先を、男が話した。

 どう動いたか。

 何を指示したか。

 身体が、いつからついてこなくなったか。

 蓮は、そこで何度か聞き返した。

 自分の身体が動いていた。

 自分の知らない判断で動いていた。

 その違いを、言葉にして確かめる。

蓮(空挺)「肩を庇えば、銃を上げるのが遅れた。それで、庇うのをやめた」

蓮「遅れた分を、他の奴に受けてもらう考えは」

 男は、少し黙った。

蓮(空挺)「十分に、使わなかった」

 蓮は頷いた。

 そのあとで、正面ホールが浮かんだ。

 大型。

 砕けた壁。

 下がりながら、椅子へ足を取られる自分。

 蓮の右腕が、何かを受けるように上がる。

蓮「……ここは、俺だな」

レン「うん」

蓮「知ってる動きで、何とかしようとした。相手の違いを、考える前に」

蓮(空挺)「その身体で、受けきれる相手じゃない」

蓮「やってから、よく分かった」

 男は、蓮を見た。

蓮(空挺)「肋骨を直しても、その判断まで直るわけではない」

蓮「だから、ここへ来た」

 蓮は、湯呑みを置いた。

蓮「金属になったから、同じことをやっても平気だ、とは考えたくない。身体が戻っても、相手を知ってることにはならん」

レン「じゃあ、最初に覚え直すのは、敵のこと?」

蓮「それと、俺らの動き方だな。今まで知ってるものへ、勝手に当てはめてるところがある」

 卓へ浮かんだホールを、もう一度見る。

 そこには、自分以外の者もいた。

 自分が見えていなかった場所から、誰かが動いている。

蓮「89式に、見ていたことを聞かせてくれって頼んだ。AK-12たちにも、車両の奴らにも聞きたい」

レン「ここで三人、思い出しても、見てる身体は一つだったものね」

蓮「ああ。俺らの中だけで、全部分かったことにはできん」

 男が、短く頷いた。

蓮(空挺)「記憶と、外の記録を合わせろ。失敗した時だけじゃない。抜けられたところもだ」

蓮「うん。何が使えたかまで捨てたら、また遠回りする」

 卓の上の景色が、薄くなる。

 蓮は、指を引いた。

蓮「訓練も、組み直す。射撃だけ戻して、元通りだとは思いたくない」

レン「どこから?」

蓮「まず、直った身体で、前と同じように動けるか確かめる。装具をつけて歩くことも、銃を持つことも。違うところがあれば、曖昧にしない」

 自分の右手を見た。

 ここでは、痛まない。

 外でどうなるかは、まだ知らない。

蓮「そのあとで、今回、頭がついてこなかったところを練習する。相手が予想どおりに動かない時に、前の答えへ飛びついてないか。自分じゃ気づかんところは、見てもらう」

蓮(空挺)「指示を出す練習も要る」

蓮「俺が、抱えすぎたか」

蓮(空挺)「俺もだ」

 男は、そう言った。

 蓮は、少し目を止める。

蓮(空挺)「人がいるのに、身体を無理に使う方を選んだ。使える人を、使いきっていない」

レン「僕も、最後はずいぶん使ったからね」

蓮「二人揃って、自慢みたいに言うな」

レン「反省してるよ」

 レンの笑みが、少し弱くなる。

 蓮は、鼻から短く息を出した。

 自分にも、同じことが言える。

 二人を叱れば、自分の分だけ軽くなる話ではなかった。

蓮「一度で終わらせず、次も確かめていくか」

蓮(空挺)「ただ撃って、ただ走って、回数だけ増やすな」

蓮「何を確かめたか、分からんままではやらんよ」

レン「休む時間も、入れてね」

 蓮は、レンを見た。

蓮「そこまで、お前に言われるとはな」

レン「同じ身体だって、いま自分で言ったじゃないか」

 反論は、出てこなかった。

 蓮は、もう一度、茶を飲んだ。

 卓の端へ、明るいものが射し始める。

 光源は見えない。

 外で、誰かが名前を呼んでいた。

レン「そろそろ、戻るんだね」

蓮「……次は、話が決まる前に勝手に動くなよ」

レン「うん」

 男は、蓮を見る。

蓮(空挺)「身体を、確かめてこい」

蓮「お前らも、他人事みたいに言うな。続きは、またやるぞ」

 レンが頷いた。

 男も、少しだけ顎を引く。

 蓮は、椅子から立った。

 決まったことは、まだ少ない。

 やり直すことの方が、多かった。

 それでも、あの寝台で一人、同じ問いを繰り返していた時とは違った。

 光の向こうへ、声が届く。

 蓮は、その声の方へ目を向けた。

     *

 手術から、一週間後。

 蓮は、治療室の椅子へ座っていた。

 医師が最後の検査結果を閉じる。

 それを待つ間、蓮は左手を握った。

 開く。

 腕を動かす。

 以前の傷跡は、残っている。

 だが、傷んだ肩を庇って動きを止める必要はなかった。

 息を吸う。

 胸に、あの痛みは戻ってこない。

医師「人工肋骨も、人造臓器も正常に働いています。他の損傷も含め、治療は完了です」

 蓮は、顔を上げた。

医師「今日で退院です。通常の生活と、戦闘への復帰を許可します」

蓮「射撃も?」

医師「可能です」

 もう一度、頷いた。

 聞いていた話だった。

 それでも、実際に許可の言葉が出ると、身体を確かめたくなる。

 立ち上がる。

 今度は、誰かの手を待たなくてよかった。

 両足で、床を踏んだ。

蓮「……ありがとう。世話になった」

医師「今度は、できれば、ここを必要としない帰り方をしてください」

蓮「俺も、そうしたい」

 医師は頷いた。

 蓮も、頷き返す。

 治療室を出た。

 廊下の音が、寝台から聞いていた時より近い。

 通りかかった人形へ道を譲り、また歩く。

 誰かが、自分を運んでいるのではない。

 その感覚を、一歩ずつ確かめた。

 預けてあった装備を受け取り、蓮は射撃場へ向かった。

 退院して、最初に行く場所は決めてあった。

     *

 89式小銃を、台の上へ置いた。

 回収されたあと、手入れを受けていた。

 見覚えのある傷と、よく触ってきたところが残っている。

 蓮は、そこへ手を置いた。

蓮「……こっちも、戻ってきたな」

 小さく言ってから、射場へ目を向ける。

 準備を済ませ、小銃を構えた。

 肩へ、いつもの重みが掛かる。

 それを受けても、身体が痛みで逃げることはなかった。

 胸も、苦しくならない。

 蓮は、少しだけ、その状態を確かめた。

 そして、撃つ。

 銃声が、射場へ響いた。

 一発目のあと、間を置く。

 結果を見て、自分がどう動いたかを思い返した。

 悪い結果ではなかった。

 ただ、思っていた感覚と、僅かにずれていた。

 一週間、銃を置いていた。

 その前から、傷を庇って構えていた。

 すぐに全部、元通りだと決めるより、いまの自分の動きを見たかった。

 次を撃つ。

 しばらく確かめてから、また止まる。

 射撃を重ねるうちに、手元の感覚が近くなった。

 肩へ戻る衝撃も、胸で無理に受けていた重さも、前より分かる。

 痛む場所を避けることへ、気持ちを取られない。

 その分、自分が何をしているかを見られた。

 蓮は射撃を終え、小銃を安全にして置いた。

 記録へ目を向ける。

 最初より、狙っていたところへまとまっている。

蓮「……うん」

 もう少し撃ちたかった。

 ただ、今日は、射撃を再開してどうだったかを残しておきたい。

 短く書き込んでから、片づけを始めた。

 そこで、入口の方から声がした。

G3「小隊長。お疲れさまです」

 蓮は顔を上げた。

 G3が、入口の手前へ立っていた。

 横には、ブレンもいる。

蓮「よう。俺を捕まえに来たのか」

ブレン「捕まえる必要があることを、もうやったのか?」

蓮「やってない。ちゃんと許可をもらってる」

G3「退院されたことは、伺っています。少し見ていましたけれど、肩も大丈夫そうですね」

 蓮は、左腕を軽く動かした。

蓮「ああ。痛みは、ない。直してもらったところも、ちゃんと動いてる」

 G3の顔が、少し緩んだ。

G3「よかったです」

ブレン「退院、おめでとう」

蓮「ありがとう」

 ブレンは、射場を一度見た。

 台の上へ戻された銃と、蓮の手元の記録を見る。

ブレン「で、治療室から、ここへ直行か」

蓮「腕を戻しておきたくてな」

ブレン「お前なら、そうすると思った」

 G3が、小さく笑った。

G3「それなら、このあと少しお時間をいただけますか」

蓮「あるぞ。今日の分は、終わった」

G3「退院のお祝いに、お食事をご馳走したいんです。ブレンさんと、ご相談していました」

 蓮の手が、止まった。

蓮「……飯?」

ブレン「ああ。食堂へ行く」

蓮「奢りか」

G3「はい」

 蓮は二人を見た。

 それから、残っていた荷物をまとめる手が、少し早くなった。

ブレン「急に、動きがよくなったな」

蓮「治療の成果が出てる」

ブレン「食事の成果だろう。まだ食ってもいないのに」

G3「今日は、ちゃんと食べられるんですよね」

蓮「食べられる。そこも、確認済みだ」

 G3は頷いた。

 ブレンは、少し眉を動かす。

ブレン「腹の具合まで、先に聞いてきたか」

蓮「重要だろ」

G3「……重要ですね」

 G3は、笑いながら答えた。

 蓮は小銃を収め、荷物を持った。

 体調を確かめるために歩いていた時より、行き先がはっきりしている。

 今日は、誰かの奢りで飯が食える。

 しかも、二人が退院を祝ってくれる。

 それだけで、食堂までの道が、少し短くなった気がした。

     *

 蓮は、G3とブレンの間を歩いていた。

 話をしながら、時々、前の方を見る。

 食堂へ続く曲がり角を、まだ一つしか越えていない。

ブレン「まだ着かないぞ」

蓮「分かってる」

G3「何を召し上がるか、考えていらっしゃるんですか」

蓮「まず、米は食いたい」

 白い米。

 塩の効いたおにぎり。

 治療室で食べた味を、思い出した。

蓮「今日は、その横に何か欲しいな。肉とか」

ブレン「横に置く量で、収まるならいいが」

蓮「お祝いだろ。期待させてくれよ」

G3「期待してくださるのは、嬉しいです。でも、急に食べすぎないでくださいね」

蓮「分かってる。うまいものを、ちゃんと食う」

 G3は、少し安心したように頷いた。

 曲がり角の先から、一人の人形が来た。

 NTW-20だった。

 蓮が先に気づき、右手を軽く上げる。

蓮「よう、NTW」

 彼女は足を止めた。

 蓮の顔を見る。

 肩と、持っている荷物へ目を移す。

NTW-20「……退院したのね」

蓮「ああ。さっき」

NTW-20「その荷物なら、もう射撃場にも?」

蓮「話が早いな」

NTW-20「行きそうな場所は、分かるわ」

 ブレンが、短く笑った。

 蓮は、食堂の方へ顔を向ける。

蓮「いまから、飯に行くところなんだ。お前もどうだ」

NTW-20「三人で?」

蓮「そう。G3とブレンが、退院祝いに奢ってくれる」

 NTW-20の目が、二人へ向いた。

NTW-20「それで、その顔なの」

蓮「どんな顔だよ」

NTW-20「楽しみなのが、よく分かる顔」

 G3が、少し笑う。

 蓮は否定せず、頷いた。

蓮「楽しみだからな。気分転換に、お前も一緒にどうだ」

 NTW-20は、来た方の通路を見た。

 それから、蓮へ目を戻す。

NTW-20「仕事は、ひと区切りついているわ」

蓮「じゃあ、ちょうどいい」

 言いかけて、蓮はブレンを見た。

蓮「……誘ってよかったか」

ブレン「聞くなら、先に聞け」

蓮「そうだった」

 G3が、二人の間へ声を入れた。

G3「NTWさんも、ぜひ。ご一緒してくださったら嬉しいです」

 ブレンは頷く。

ブレン「構わん。お前一人が増える分なら、まだ読める」

蓮「俺の分は、読めんみたいに言うな」

ブレン「読めるから、言ってる」

 NTW-20の口元が、少し緩んだ。

NTW-20「それなら、ご一緒するわ。退院、おめでとう」

蓮「ありがとう。いい日になったな」

 彼女が、三人の横へ並ぶ。

 G3は話しながら、歩く速さを合わせた。

 蓮は、食堂の入口へ目を向けた。

 扉が開くたび、温かいものの匂いが出てくる。

 中には、話す声と、食器の触れる音があった。

 その音へ向かって、自分の足で歩いた。

 治った身体を、どう使うのか。

 まだ、見直すことは残っている。

 話を聞く相手も、練習につき合ってもらいたい相手もいる。

 今日は、そのうちの三人が隣にいた。

G3「何にしましょうか」

 蓮は、入口に出ている献立を見た。

 並んだ文字へ目を走らせる。

蓮「……まずは、飯だな」

ブレン「そこは、もう決まってるだろう」

 NTW-20が、少し笑った。

 蓮も笑い、食堂へ入った。

 今度は、胸が痛んで笑いを止めることもなかった。




感想お待ちしてます。

兵器解説

  • アリ
  • ナシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。