陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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新たな二人


第28話 予備

退院から、三日後。

 基地の格闘訓練場で、蓮は肩を回していた。

 左腕も、引っかからずに動く。

 息を深く吸っても、胸は痛まない。

 身体が治ったことは、もう何度か確かめた。

 射撃も再開し、装具をつけて歩くことにも、問題はなかった。

 ただ、分かっている動きへ身体がついてくる感覚は、まだ戻しきれていない。

 寝台へ横になっていた時間の分まで、何もしなくても元通りになるわけではなかった。

 今日は、その辺りを少し確かめるつもりだった。

蓮「……よし。じゃ、軽く頼む」

 向かいで、VSK-94が頷いた。

VSK「はい。軽く、ですね」

蓮「なんだ、その確認」

VSK「あとで、違ったと言われないように」

蓮「言わんよ。鈍った身体を起こしたいだけだ」

 VSKは、蓮の足元を見た。

 それから、顔へ目を戻す。

VSK「準備は、よろしいですか」

蓮「ああ。いつでも」

 マットを踏む音がした。

 最初に動いたのは、蓮だった。

 手を伸ばす。

 VSKは、その手へ触れ、立つ位置を変えた。

 掴めたと思ったところから、腕が外れる。

 蓮は追いかけず、足を止めた。

 VSKも、そこで一度離れる。

蓮「……ほう」

VSK「何か?」

蓮「いや。いい動きするなと思って」

VSK「ありがとうございます」

 彼女は、さらりと答えた。

 二度目は、VSKの方から来た。

 蓮が腕を上げると、その腕へ手が掛かる。

 強く押し込まれるわけではなかった。

 それなのに、自分の肩だけが、思っていなかった方へ向く。

 足を動かして立ち直った時には、VSKはもう横へいた。

蓮「おっと」

 蓮は向き直った。

 彼女の手が離れる。

 いま、もう少し遅れていたら。

 その先を想像し、口元が緩んだ。

VSK「……ボス?」

蓮「うん。思ったより、面白いな」

VSK「身体を確かめるのでは、なかったんですか」

蓮「ちゃんと、確かめてる」

 言いながら、もう一度向き合う。

 今度は、触れた手がすぐには離れなかった。

 互いに腕を取り、相手が動くのを待つ。

 蓮が押す。

 VSKは、押された場所からずれる。

 そのまま追えば、また肩を持っていかれる。

 蓮は途中で動きを変えた。

 VSKの目が、少し上がる。

 今度は、彼女の足が一つ、余計に動いた。

 蓮も、そこで止まった。

蓮「今のは、こっちだな」

VSK「まだ、倒れていません」

蓮「そりゃそうだが」

 VSKは、すぐに腕を取り直した。

 蓮が笑う。

 次の瞬間には、笑った分だけ、余裕がなくなった。

 VSKの手が、さっきとは違うところへ掛かる。

 同じ動きが来ると思っていた蓮の腕が、空いた。

 慌てて踏み直す。

 マットの上で、靴底が短く鳴った。

 VSKは、深く追い込む前に手を緩めた。

 蓮は息を吐き、彼女を見る。

蓮「……止めたな」

VSK「軽く、と伺っていますので」

蓮「優しいことで」

VSK「もう少し、続けますか」

 蓮は、右手を握り、開いた。

 自分が止まってしまう場所が、少しずつ分かってきた。

 傷が痛いから止まるのとは、違う。

 相手を見てから動くまでに、僅かに遅れる。

 覚えている動きへ入ったつもりで、次が噛み合わない。

 それを確かめるのには、随分いい相手だった。

蓮「ああ。頼む」

 VSKも頷く。

 さっきより少しだけ、二人の間が詰まった。

     *

 VSKは、蓮の手ばかりを追ってはいなかった。

 押されれば、その場所から身体を移す。

 離れようとすると、その前に腕へ触れてくる。

 どこへ行けば楽になるか。

 こちらが考えた頃には、そこへ彼女の手があった。

 蓮は一度、距離を取り直した。

蓮「警察にいた頃も、随分やってたのか」

VSK「はい。訓練でも、仕事でも」

蓮「なるほどな」

VSK「相手が、こちらの言う通りに動いてくださることばかりでは、ありませんでしたから」

 そう言いながら、彼女は蓮の腕へ触れた。

 蓮も、その手を取る。

 今度は、すぐに振りほどこうとはしなかった。

 動きを止めたところへ、VSKの力が掛かる。

 互いに、少しずつ立つ場所が変わった。

 蓮が抜ける。

 VSKが追う。

 その次には、蓮の方が彼女を追いかけていた。

 マットを踏む音が、増えていく。

 さっきまで間にあった言葉が、少なくなった。

 VSKの息が、近くで聞こえる。

 蓮も、口から短く息を出した。

 腕が取られる。

 今度は取らせたまま、向きを変えた。

 VSKがついてくる。

 押せば崩せそうで、崩れない。

 彼女も同じことを思っているのか、目が、ずっとこちらから離れなかった。

 蓮の口元に、また笑みが浮かぶ。

 VSKも、それを見た。

VSK「……楽しそうですね」

蓮「お前もな」

VSK「そう見えますか」

蓮「かなり」

 返事をする代わりに、彼女の手が伸びた。

 蓮は受けた。

 今度は、途中で止まらなかった。

     *

 訓練場の入口から離れたところで、二人が足を止めていた。

 ロミアと、テムだった。

 ロミアは、二人の組み手を見ていた。

 何か言おうとしたところで、マットの上の動きが変わる。

 蓮の腕が外れた。

 その直後には、VSKの方が半歩、下がっている。

 どちらかが離れると思うと、また近づいた。

ロミア「……すごいな」

 小さな声だった。

 テムは、頷いた。

テム「ご挨拶は、終わってからにしましょう」

ロミア「うん。……今は、入れそうにないね」

 二人は、マットの外へ留まった。

 蓮たちは、まだこちらを見ていなかった。

     *

 上着を掴んだ指へ、力が入った。

 蓮が一歩動く。

 VSKは、引かれた分だけ寄り、そのまま止まらずに回り込む。

 さっきまでなら、そこで一度、腕を離していた。

 今度は、蓮も離さなかった。

 彼女の肩が、すぐ近くにある。

 足音が、重なった。

 身体が押される。

 蓮は、一瞬だけ下がりかけた。

 その時、VSKの顔が近くなった。

 考えるより先に、身体が動いた。

 掴んでいた腕を、離さない。

 二人の向きが、変わる。

 蓮の背へ、VSKの重みが乗った。

 次の瞬間には、彼女の足がマットを離れていた。

 蓮は、最後まで腕を支えた。

 背負い投げ。

 VSKの身体が、マットへ落ちる。

 受け身の音が、訓練場へ響いた。

 そこで、二人とも止まった。

 蓮は、彼女の腕を支えたまま、顔を見る。

 VSKも、目を上げた。

 少しの間、呼吸の音だけが残った。

蓮「……一本、かな」

VSK「……はい。一本です」

 VSKは、はっきり答えた。

 蓮は手を緩め、立ち上がるのを手伝う。

 彼女が足をついたのを確かめてから、手を離した。

 蓮は一度、天井を見た。

 息を吐く。

蓮「軽く、だったな」

VSK「はい。最初は、そう伺いました」

蓮「……お前も、途中から引かなかっただろ」

VSK「ボスも、離してくださいませんでした」

 蓮はVSKを見た。

 VSKも、蓮を見る。

 どちらからともなく、少し笑った。

蓮「熱くなったな」

VSK「私も、最後は少し、勝ちたくなりました」

蓮「少しか?」

VSK「……かなり」

 今度は、蓮が声を出して笑った。

 VSKは、自分の上着を整えた。

 負けたことを、ごまかす顔ではなかった。

VSK「今のは、途中まで追いついていたんですが」

蓮「ああ。俺も、途中まで取られたと思った」

VSK「最後のところで、遅れました」

蓮「次は、そこも見られるんだな」

VSK「はい」

 返事は、すぐに来た。

 蓮は笑いながら、マットの端へ下がった。

 置いてあった水を取り、一口飲む。

 身体が熱い。

 息も、まだ少し速い。

 使った腕と脚に、ほどよく重さが戻ってきている。

 VSKも、隣で水を取った。

蓮「いい相手を頼んだな」

VSK「思ったより、軽くは済みませんでしたけれど」

蓮「それは、お互いということで」

VSK「そういうことに、しておきます」

 彼女はそう答えたあと、蓮の顔を見る。

VSK「身体は、どうでしたか」

 蓮は左腕を軽く動かした。

 胸へ手を当てる。

蓮「ちゃんと、ついてきた。途中から、戻すとか確かめるとか、考えてなかったな」

VSK「夢中でしたからね」

蓮「お前に勝ちたい、だけになってた」

 VSKの口元が、少し緩んだ。

VSK「では、次もお付き合いします」

蓮「次こそ、最初に決めたところで止めるか」

VSK「覚えておいてくださいね」

 蓮は頷き、汗を拭いた。

 その時、視線が入口の方へ動く。

 二人、人影があった。

 見覚えのある顔だった。

蓮「……おや」

 ロミアと、テム。

 こちらを見ていた二人が、蓮の目に気づいた。

 ロミアが、少し背筋を伸ばす。

 テムも、蓮へ顔を向けた。

 蓮は右手を軽く上げた。

蓮「よう。来てたのか」

 水を置き、マットから降りる。

 VSKも、隣へ並んだ。

 蓮は、二人の方へ歩いていった。

     *

蓮「久しぶり。二人とも、元気そうだな」

 近くへ来ると、テムが背筋を伸ばした。

 ロミアも、それに続く。

テム「お時間、よろしいでしょうか」

蓮「ああ。ちょうど休憩だ。どうした?」

 テムは、手に持っていた書類へ一度目を落とした。

テム「グリフィンからいただいていた、採用のお話についてです。手続きが終わりまして、私とロミア、二人とも正式な配属が決まりました」

 蓮は、二人を見た。

蓮「……そうか。話、まとまったのか」

ロミア「うん。僕も、ここで働くことにした」

 ロミアの声には、少しだけ緊張があった。

 それでも、言葉ははっきりしていた。

 テムが、続きを伝える。

テム「それから、配属先は、こちらの小隊です。予備要員として登録されました」

蓮「うちの?」

テム「はい。小隊長の部隊の、予備要員です」

 小隊長。

 その呼び方を聞き、蓮は少し口元を緩めた。

 屋敷の廊下では、まだ、そういう関係ではなかった。

 互いに違う組織から来て、同じ通路を抜けようとしていた。

 今度は、所属が同じになる。

 テムは、書類を差し出した。

 VSKが受け取り、内容へ目を通す。

VSK「テム・ナイチンゲールさんと、ロミア・エルサさん。二人とも、予備要員として、ですね」

テム「はい。正式なご挨拶に伺ったのですが、こちらにいらっしゃると聞きまして」

蓮「それで、見てたのか。待たせたな」

ロミア「ううん。……あんなに動いてるところを見ると、終わる前には、声をかけられなくて」

 蓮は、VSKへ目を向けた。

蓮「見学者を、待たせるほどだったらしい」

VSK「途中から、周りを見ていませんでしたね」

蓮「俺もだ」

 テムは、マットの方を見た。

テム「軽い訓練、と伺っていましたが」

蓮「……最初は、そのつもりだった」

VSK「二人とも、途中で少し変わってしまいました」

ロミア「少し、なんだ……」

 ロミアが、思わず呟いた。

 蓮は笑いかけてから、テムへ顔を戻す。

蓮「屋敷で言った、ヘッドハンティングの話。ちゃんと帰ってから、聞いてもらえたわけだ」

 テムの表情が、少し和らいだ。

テム「はい。あの時は、まず帰れるかどうかでしたから」

蓮「『帰ってから聞きます』だったな」

テム「覚えていらしたんですね」

蓮「言い出した方だからな。元の雇い先と違うところへ来る話だし、簡単には決められんだろうと思ってた」

テム「考えました。こちらからの説明も伺って、自分で決めました」

 蓮は頷いた。

 ロミアを見る。

 彼も、顔を上げていた。

ロミア「僕も。あのまま帰れなかったかもしれない場所から、ここへ来て……その後、どうするかを考える時間をもらったから」

 言いながら、少しだけ視線が下がる。

 すぐに、蓮へ戻った。

ロミア「だから、今日は、ちゃんと伝えたかったんだ」

 蓮は、先を急がせなかった。

 訓練場の奥で、誰かが道具を動かす音がした。

 ロミアは、その音が止むのを待った。

ロミア「助けてくれて、ありがとう。屋敷から、連れて帰ってくれて」

 声は、大きくなかった。

 蓮には、よく聞こえた。

 ロビーへ飛び込んできた時の顔を、思い出す。

 逃げる先を探していた二人。

 銃を向けられ、言われるままに手を上げた姿。

 あの時は、向こうも、こちらを知らなかった。

 蓮も、二人を知らなかった。

 その二人が、いまは、正面からこちらを見ている。

 テムも、頭を下げた。

テム「私からも。武器を貸していただいたことも、最後まで、置いていかずにいてくださったことも。ありがとうございました」

 蓮は、二人を見た。

蓮「……うん。無事に戻れて、よかった」

 それから、少し頷く。

蓮「こちらも、助かったよ。テムが後ろを見てくれたし、ロミアもスプリングと一緒に動いてくれた。二人とも自分で動いてくれたから、一緒に抜けられた」

 ロミアは、少し目を上げた。

ロミア「でも、あの銃を渡してもらえなかったら、僕は――」

蓮「ああ。あれが役に立ったのは、嬉しい」

 ロミアの言葉が、止まった。

 蓮は、その顔を見て続ける。

蓮「使って、生きて帰ってくれた。貸してよかったよ」

 ロミアは、ゆっくり頷いた。

 テムが、隣で小さく息を吐く。

 ずっと形を整えていた表情が、少しだけ緩んだ。

テム「今度は、こちらの隊員として、お役に立てるようにします」

蓮「よろしく頼む」

 短く答えてから、蓮は二人へ手を差し出した。

 先に、テムが取った。

 しっかりした手だった。

 次に、ロミアが取る。

 最初は少し力が入って、それから落ち着いた。

蓮「俺も、まだ、お前たちのことを全部知ってるわけじゃない。できることも、慣れてないことも、これから聞かせてくれ」

テム「分かりました」

ロミア「うん。……あ、はい」

蓮「無理に全部、変えなくていいぞ」

 ロミアが、少し困ったように笑った。

 テムも、彼を一度見てから、蓮へ目を戻す。

 VSKは、書類を揃えた。

VSK「隊の中での動き方や、連絡のことも、お伝えしますね。分からないことは、そのままにせず聞いてください」

テム「ありがとうございます」

ロミア「お願いします」

 蓮は、隣のVSKを見た。

 屋敷から戻ったあとも、休んでいた間も、隊の仕事を進めてくれていた。

 いまも、次に何を話せばいいか、彼女の方が少し早い。

蓮「頼む、副隊長」

VSK「はい。ボス」

 VSKは、いつものように答えた。

 蓮は、二人へ向き直る。

蓮「まず、隊の場所を案内するか。分かる?」

テム「場所は教わっています。ただ、まだ中へは」

蓮「じゃあ、ちょうどいい。俺らも、戻るところだ」

 ロミアは、マットの方へ目を向けた。

ロミア「訓練は、もういいの?」

蓮「今日は、ここまで。これ以上やると、また軽くなくなる」

 VSKが、蓮を見た。

VSK「続けるつもりは、あったんですね」

蓮「お前が、すぐ次も付き合うって言うからだろ」

VSK「次は、と申し上げました」

 テムが、小さく笑った。

 蓮はVSKと目を合わせてから、二人へ顔を戻す。

蓮「……よし。今のは、俺の負けだ」

ロミア「さっきは、勝ってたのに」

VSK「今のは、一本には数えませんよ」

 蓮は、声を出して笑った。

 蓮はマットの端へ戻り、置いていた水とタオルを取った。

 VSKも、自分の荷物をまとめる。

 戻ってくる二人を、ロミアとテムが待っていた。

 蓮は、二人のそばで足を止めた。

蓮「あとで、隊の連中にも紹介する。今まで話せてない奴も、いるだろ」

テム「はい。お願いします」

ロミア「うん。僕も、ちゃんと挨拶したい」

 蓮は頷いた。

 訓練場の扉を開ける。

 廊下から、少し涼しい空気が入ってきた。

 汗ばんだ身体には、ちょうどよかった。

 VSKが、書類を持ち直す。

 二人の名前が書かれたところへ、一度目を落としてから、蓮の横へ並んだ。

 蓮は、ロミアとテムを振り返った。

蓮「じゃあ、行こうか」

 返事が、二つ戻ってくる。

 四人で、隊の部屋へ向かった。

 歩き始めると、ロミアがテムへ、小さく何かを話した。

 テムが答える。

 蓮が振り返ると、さっきの背負い投げの話だった。

 VSKが、少しだけ蓮を見る。

 蓮は笑って、次はいつにするかは、まだ口にしないでおいた。




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