陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
机の上に、五人分の書類が並んでいた。
ロミア。
テム。
ポーン01。
クイーン13。
キング。
蓮は名前を確かめ、一番上の紙へ今日の日付を書いた。
向かいには、まだ誰も座っていない。
小隊の部屋に隣接した、小さな面談室だった。
椅子を二つ置くと、机の周りにはあまり余裕がない。
蓮は、向かいの椅子を少し動かした。
入口から来た相手が、座りやすい位置へ寄せる。
VSK「資料は、こちらに揃っています」
扉の脇で、VSKが声をかけた。
これまでに聞けた経歴と、確認できた働き。
まだ聞けていないことも、分けてある。
蓮は受け取り、頷いた。
蓮「ありがとう。終わったら、付き合ってくれ」
VSK「報告書の確認ですね」
蓮「ああ。俺が気づいたところと、お前が見てたところを合わせたい」
VSKは、五人の名前へ目を向けた。
VSK「……分かりました」
少しだけ、間のある返事だった。
これまでの話が、書類を揃えたことで全部済むわけではない。
蓮も、それは分かっていた。
VSKが部屋を出る。
少しして、扉を叩く音がした。
*
ロミア「……入っても、いい?」
蓮「どうぞ。そこ、座ってくれ」
ロミアは椅子へ座った。
背筋を伸ばし、膝の上へ手を置く。
訓練場で話した時より、少し硬い。
蓮「そんなに、怖い顔してたか。俺」
ロミア「顔は、いつもと同じだけど」
蓮「なら、顔以外か」
ロミアは、困ったように笑った。
蓮は、まだ紙へ書き込まなかった。
蓮「今日は、どこで力を借りられるかを聞きたい。できることと、慣れてないこと。俺の方も話すから、気になったら聞いてくれ」
ロミア「……うん」
蓮「俺は、元の世界では自衛隊にいた。部隊の小隊長もやってた。ここへ来てからも、知ってることで何とかしようとしてたんだが」
胸へ、軽く指を当てる。
蓮「あの屋敷じゃ、判断を間違えて、治療室まで運んでもらった。今も、ここの相手を全部知ってるわけじゃない」
ロミアの目が、蓮の手元へ動いた。
ロミア「もう、痛くはないんだよね」
蓮「ああ。治してもらった。次は、同じ間違いを減らしたい」
そう言ってから、彼女の資料を開いた。
以前の訓練歴を、ロミアが指で示す。
近い距離で相手へ対処する課目。
銃だけでなく、身体を使う訓練の評価が高かった。
蓮「こっちが、得意だったのか」
ロミア「うん。離れたところをずっと見ているより、目の前で相手が動いた時の方が、分かることは多い」
蓮「相手が何をしたか、とか?」
ロミア「それも。あと、周りに誰がいて、どこを空けないといけないか。近くで何か起きると、そこは見えるんだ」
蓮は、少し顔を上げた。
銃の成績だけを尋ねた時とは、答え方が違う。
ロミアは、自分が動いた時のことを確かめるように話していた。
蓮は屋敷での移動を、一つずつ聞いた。
スプリングと先へ行った時。
追ってくるものの気配が変わった時。
自分が動けば、隣の相手がどう動くか。
ロミアは、一度考えてから、短く答えた。
怖かったことも、隠さなかった。
ロミア「最初は、何もできなくなると思った。あのロビーでは、もう逃げる先も分からなくて」
蓮「うん」
ロミア「でも、銃を渡してもらって、何をするかが見えたら……周りも、また見えるようになった」
そこから先の説明は、落ち着いていた。
自分に都合のいい順へ並べず、分からなかったところは分からなかったと言う。
蓮は、紙へいくつか書き込んだ。
蓮「怖くなかった、じゃなくて、怖い中でも判断を戻せてるんだな」
ロミア「……戻せてた?」
蓮「ああ。動き始めてから、周りを見失ってない。急に何かが変わった時も、必要な方を選べてる」
ロミアは、少し黙った。
蓮は、その資料へもう一度目を落とす。
蓮「近接の方も、改めて見せてほしい。訓練歴だけでも、随分いい。いま話してくれた、近くのものを見る感覚と合わせると、面白い」
ロミア「……この前の、VSKさんみたいに?」
蓮「いきなり、あの続きはやらんよ」
ロミアの肩が、少し下がった。
蓮「得意なことは、ちゃんと確かめたい。ただ、全部それで片づくとは思ってない。苦手も、同じように聞く」
ロミア「うん。……それなら、話せる」
蓮は頷いた。
向かいの手が、膝の上で少し開く。
最初に入ってきた時より、指先の力が抜けていた。
*
次に入ってきたテムは、椅子へ座る前に、机の上を一度見た。
書類は、自分の分だけになっている。
蓮が座るように示すと、彼は静かに腰を下ろした。
蓮「今日は、あの廊下じゃ聞けなかった話をしたい」
テム「はい」
蓮「俺のことも、少し話す。仕事が決まると、先に『できるようにしよう』と言いがちな方だ。だが、何が引っかかってるかを聞かずに言うと、相手に無理をさせる」
テムは、蓮を見た。
蓮「俺自身、平気なつもりで動いて、周りに止められたことがある。だから、できないところがあれば、そのまま話してくれた方が助かる」
テム「……分かりました」
蓮は、武器の訓練歴を見せてもらった。
拳銃。
小銃。
散弾銃。
扱える種類は、それだけではなかった。
テムは、使ったことのあるものと、訓練までのものを分けて答えた。
慣れている装備についても、自分の得手不得手をよく知っている。
蓮「随分、幅があるな」
テム「同じ装備だけで働くとは限りませんでしたから。必要なものは、覚えました」
蓮「急に持ち替えることにも、慣れてる?」
テム「教わって使えるものなら。知らないものを、その場で全部使えるとは言いません」
蓮は頷いた。
あの屋敷で渡した拳銃も、彼はためらわず使った。
自分と一緒に残り、後ろを見ていた。
装備が変わっても、仕事を続けられる。
小隊へ人を足す時に、随分ありがたい能力だった。
蓮が書き込もうとすると、テムの指が、膝の上で動いた。
テム「ただ、一つ、先にお話ししておきたいことがあります」
顔を上げる。
蓮「何だ」
テム「強い恐怖を感じると、動けなくなることがあります」
蓮は、筆記具を置いた。
テムは、まっすぐこちらを見ている。
そうしようと、意識しているようにも見えた。
テム「普段の危険なら、動けます。訓練で教わったことも、できます。ただ……それを越えると、手足が、止まります」
蓮「何をしたらいいかも、分からなくなる?」
テム「分かっていることもあります。それでも、動きません。声が聞こえていても、返事が遅れます」
屋敷で一緒に動いた姿を、蓮は思い返した。
あの時に働けたことと、いま本人が話していること。
どちらも、彼の中にある。
片方を見ただけで、もう片方を否定するわけにはいかなかった。
テム「ですから、使える武器が多いことだけで、任せていただくのは……困ります」
最後の言葉は、少し苦しかった。
蓮は、頷いた。
蓮「分かった。先に言ってくれて、ありがとう」
テムの肩が、僅かに下がる。
蓮「何を使えるかと、どんな時に身体が止まるか。両方、分かった方がいい」
テム「……はい」
蓮「今後の訓練で、改善していこう。どんな時に止まりかけるか、まず一緒に確かめたい。無理が出たところを隠したまま、最後まで続けるようにはしない」
テムは、少し考えてから聞いた。
テム「それでも、また動けなかったら」
蓮「その時に何が起きたかを、次の訓練へ持っていく。できなかった、だけで終わらせない」
蓮は、自分の手元の紙を指した。
蓮「俺も、知らないことを覚え直してる途中だ。訓練を組んだ側が、うまくいかん理由を全部お前へ返すつもりはない」
テムは、しばらく何も言わなかった。
やがて、膝の上の手を開く。
テム「……お願いします。そこは、変えたいです」
蓮「ああ。使えるものを増やした努力まで、なくなったことにはしない。そっちは、ちゃんと活かせる形を考える」
返事を聞き、テムは頷いた。
蓮は筆記具を取り直した。
武器の欄の下に、もう一つ、書き足す。
どちらの欄も、消さなかった。
*
ポーン01は、椅子へ座ると、蓮が置いた資料へ目を向けた。
ポーン01「追加で必要な記録があれば、整理します」
蓮「それも頼む。ただ、今日は、あんたの話から聞きたい」
ポーン01の視線が、紙から蓮へ戻る。
蓮は、自分の経歴を短く話した。
歩兵の部隊に始まり、空挺を経て、特殊作戦群へ移ったこと。
覚えさせられたことは多い。
それでも、何もかも最初からできたわけではない。
蓮「俺は、身体をどう動かすかから教わった方だ。書類を見て人を動かすのは、その後だった」
ポーン01「私は、逆ですね」
蓮「元の仕事は?」
ポーン01「会社の役員です。記録や情報、判断に必要な材料を扱っていました。現場で自分を守ることは、周囲へ任せていた部分が大きいです」
蓮は頷いた。
以前、保守鍵を特定した時の話を聞く。
止められることと、止めた時に起きること。
あの時の説明は、短く、分かりやすかった。
蓮「急いでいたのに、どっちもすぐ答えられたな」
ポーン01「止めれば解決する部分と、別の問題になる部分がありましたから。先に、両方を伝える必要がありました」
蓮「自分では、どっちを先に考えた?」
ポーン01「放置した場合に失うものです。それから、変更した場合の影響を比べました」
話しているうちに、蓮は別の資料を出した。
訓練で使う、緊急連絡の想定だった。
報告が食い違い、使える人員も限られている。
ポーン01は、読み終えると、迷わず幾つかの箇所を示した。
いま対応しなければ取り返せないもの。
確認を待てるもの。
同時に進められること。
一つずつ選び、何を後へ送るかも答える。
追加された条件で最初の案が合わなくなると、結論だけに固執せず組み替えた。
蓮は、途中から質問を挟むのを、少し控えていた。
蓮「……ずいぶん、早いな」
ポーン01「条件がこちらの通りなら、この選択が一番損失を抑えられると思います」
蓮「うん。俺も、そこを選ぶ。だが、理由を並べ終わるのは、あんたの方が早かった」
ポーン01は、わずかに顔を上げた。
蓮「緊急時に、何を捨てず、何を後へ回すか。そこは、随分頼れる」
蓮は一度、机の上を見た。
それから、身体を使う訓練について聞いた。
答えは、途端に短くなる。
戦闘経験は少ない。
危険から自分を逃がす動作にも、慣れてはいなかった。
ポーン01「指示を理解しても、その通りに身体を使えるかは、別です。自衛についても、十分とは言えません」
蓮は、素直な回答へ頷いた。
蓮「いい判断を出せても、自分が動けなくなったら、伝えるところまで届かんからな」
ポーン01「はい」
蓮「まず、身を守って、味方へつながれるところから組むか。基礎の動きと体力、移動や避難の訓練。それに、必要な装備を安全に扱うところも」
蓮は、思いついた項目を脇へ書いた。
一度眺め、順番を入れ替える。
蓮「一遍に詰めると、何が負担か分からなくなるな。実際に動いてもらってから、無理なく続けられる形へ直す」
ポーン01「その評価も、記録してよろしいですか」
蓮「ああ。あんた自身にも、何ができるようになったか分かる方がいい」
ポーン01は頷いた。
机の上へ置かれた手が、少し動く。
ポーン01「身体の方は、教わることが多そうです」
蓮「俺も、頭の使い方は借りたい。互いに、できる方を持ち寄ろう」
ポーン01は、資料を揃える前に、もう一度その想定へ目を落とした。
蓮も、見落としていた箇所について、最後に一つ質問した。
*
クイーン13は、席へつくと、蓮の自己紹介を最後まで聞いた。
特殊作戦群にいた頃のこと。
空からでも、陸からでも、必要な場所へ出る小隊だったこと。
蓮は、話しながら自分の資料を閉じた。
蓮「目の前で状況が変わった時に、どう動くかは考えてきた。ただ、もっと長い先まで組むことは、他の奴に助けてもらうことも多かった」
クイーン13「戦術と、全体の見通しですね」
蓮「ああ。自分で見えるところへ、気持ちが寄りすぎる時がある」
クイーン13は、短く頷いた。
蓮は、彼がこれまでに指摘したことを聞き直した。
保守通路。
外壁と、その下の基礎。
道があることだけでなく、どういう状態で残っているかまで見ていた。
蓮「建物や道を、随分よく見てるな」
クイーン13「通れるように見えても、必要な人数や荷物を通せるとは限りません。状態を知る必要があります」
蓮は、訓練用の図面を渡した。
彼は、線の繋がりだけを辿らなかった。
注記を確かめ、施設を支えるものと、作業をする場所へ目を向ける。
質問すると、確認済みのことと、図面だけでは決められないことを分けて返した。
蓮は途中で、椅子を少し寄せた。
蓮「……工兵の仕事も、やってきたんだな」
クイーン13「はい。作業そのものも、工程を組むことも」
蓮「ここ、俺は通れるかどうかばかり見てた。あんたは、その後も使える状態で残すことを見てる」
クイーン13「一度通れば、終わる仕事ばかりではありませんので」
淡々とした答えだった。
蓮は、別の課題も見せた。
人員と物資を、複数の仕事へ割り振る想定だった。
クイーン13は、一番急ぐ場所を確認してから、その次を聞いた。
そこへ人を集めたあと、残る側で何が止まるか。
次の仕事が始まる時に、使える人と物がどこへいるか。
話は、一つの場面では終わらなかった。
蓮が先の条件を変えても、彼は大きく表情を動かさない。
最初の目的へ戻り、配分を考え直す。
長く全体を組む視点と、足元の施設を使える状態へ整える知識。
別々に見ていた能力が、話すうちに繋がっていった。
蓮「なるほどな……。後ろを支えることにも、限られた人数で動く作戦の準備にも、相当向いてる」
クイーン13「必要な役割があれば、担います」
蓮「後方と、特殊作戦。その両方で、力を借りたいところがある」
蓮は、書き込んだ言葉を見た。
工兵。
戦略。
計画から、現場へ繋げる能力。
これだけ揃っていても、本人の話し方は変わらない。
蓮「あんた、仕事の説明を聞くと、ずいぶん頼もしいな」
クイーン13「説明に見合う仕事をする必要があります」
蓮「うん。そこも、見せてもらう」
蓮は頷いた。
以前の立場や、キングとの関係だけで見ていたら、分からないことがあった。
本人と話すと、その先が少しずつ見える。
蓮「俺も、知らない専門へ口を出す時は、先に聞く。あんたからも、前提がおかしければ言ってくれ」
クイーン13「承知しました」
彼は最後まで、落ち着いて答えた。
蓮の方は、面談を始めた時より、書き込む場所が増えていた。
*
最後の一人が来る前に、蓮は四人分の記録を伏せた。
キングの資料だけを、手元へ残す。
扉が開き、キングが入ってきた。
キング「お待たせしました」
蓮「いや。ちょうど、前の話をまとめてた」
キングは椅子へ座った。
背もたれへ深く預けず、蓮を見る。
蓮は、これまでの相手と同じように、自分のことから話した。
元の世界で、部隊を率いていた。
現場へ出ることも、指示を出すこともしてきた。
ただ、人へ任せる前に、自分で手を出す悪癖があった。
蓮「……その辺は、いまも直してるところだな」
キング「自覚は、おありなのですね」
蓮「ある。言われることも多い」
キング「それなら、話が早い」
蓮は、少し笑った。
キングへ、昔の仕事を聞く。
どこまでを自分で見て、どこからを他へ任せていたか。
話は、次第に具体的になった。
情報が足りない時に、何を確かめるか。
人を集める前に、その人間へ何を頼めるか。
状況が崩れた時に、何を残して仕事を立て直すか。
返ってくる答えへ、蓮は何度か目を止めた。
自分が聞こうとしていたことを、先に向こうが確認する。
資料の同じ箇所へ引っかかる。
蓮が途中まで書いた判断に、違う言い方で辿り着く。
似ていた。
単に、意見が合うというだけでもなかった。
何を先に見るか。
相手がこちらをどう見るかまで、どこで考えに入れるか。
判断の組み立てが、自分のものと、妙に近い。
戦闘に関する訓練歴を確かめても、扱える仕事の幅が広かった。
現場だけに偏らず、指揮だけへ閉じこもるわけでもない。
蓮は、筆記具を置いた。
蓮「……あんた、話してると、妙な気分になるな」
キング「何か、不足が?」
蓮「いや。俺が答えようとしてたことを、向こうから言われる」
キングの口元が、少し動いた。
キング「あなたを上に置くことへ、私が異論を持たなかった理由も、その辺りにあります」
蓮「考えが近いか」
キング「仕事の話を通じさせやすい相手だとは、思っていました」
蓮は、もう一度、資料を見た。
これだけ、自分と似たところがある。
それなのに、座って話している感じは、随分違う。
蓮は、思いついた言葉を先に口へ出す。
余計な冗談も挟む。
キングは、言葉の順番と量を整えてから出した。
冗談さえ、相手へ何を伝えるかを選んでいるように見える。
蓮が場へ飛び込んでから考え直すところで、キングは場の形を見てから入り直す。
蓮「中身の似方と、性格の違いが、極端だな」
キング「あなたほど、賑やかに仕事をする自信はありません」
蓮「こっちは、そこまできっちりしてると、飯まで落ち着かん」
キング「食事は、食事として取ればよいのでは」
蓮は、声を出して笑った。
能力の話をすれば、もう一人の自分がいるようだった。
性格は、面白いほど反対を向いている。
同じ仕事を渡しても、向こうは、ずいぶん違う顔でこなすのだろう。
蓮は、予備要員の五人を思い浮かべた。
それぞれ、強いところが違う。
足りないところも、違う。
その間を見て、仕事を割り振り、話を集める役。
自分へ上げる前に、状況を整理できる者。
キングを、予備人員の長として考えるべきかもしれない。
そう思い、すぐには口へ出さなかった。
今日の話で分かったことと、これから確かめなければならないことがある。
役を任せた時に、他の者がどう受け取るかも。
蓮は、紙の端へ小さく書き込んだ。
蓮「……もう少し、聞かせてくれ。人の得意不得意が、思ってたのと違った時の話だ」
キング「承知しました」
キングは、落ち着いたまま答え始めた。
蓮は、自分ならどこで口を挟むだろう、と考えながら聞いた。
*
最後の扉が閉まると、部屋が急に静かになった。
蓮は、机の上の五人分を見た。
面談を始める前より、紙が増えている。
書き込んだ言葉も、随分増えていた。
蓮「……なるほどね」
呟いてから、肩を回す。
しばらくして、VSKが来た。
蓮は椅子を机の横へ寄せ、空けたところを示す。
蓮「頼む。書いてみたが、まだ順番も、言葉も荒い」
VSK「拝見します」
VSKは隣へ座り、一枚ずつ読んだ。
先に、ロミアの記録で手が止まる。
VSK「緊急時の判断が安定している、というのは、どの辺りからですか」
蓮は、面談で聞いたことと、屋敷で見たことを話した。
VSKも、自分が合流してからの動きを思い返す。
得意な近接の課目と、周囲を見る感覚。
最初の恐怖だけを見ていたら、そこまでは拾えなかった。
蓮は、評価の根拠になった場面を脇へ書き足す。
蓮「次の確認で、近接の動きも見たい。ここは、俺だけじゃなく、お前にも付き合ってほしい」
VSK「はい。本人が得意だと言ったところも、見ておきたいです」
次は、テムだった。
VSKは『恐怖に弱い』と書かれた短い一行を指す。
VSK「これは、もう少し詳しくした方がよさそうですね」
蓮「ああ。それだけだと、あの廊下でも何もできなかったみたいになるな」
普段の危険には対処できる。
極度の恐怖で、身体が硬直する。
蓮は、二つを分けて書き直した。
武器を広く扱える能力は、そのまま残す。
VSK「改善のために、何から始めるかも、本人と確認するんですね」
蓮「うん。どこで止まりかけたかと、何ができたかを見たい。使える武器を増やす練習だけ、延々やっても、そこは分からん」
ポーン01のところでは、二人で訓練案を並べた。
判断する力は、活かす。
その判断を誰かへ渡す前に、本人が危険へ呑まれないようにする。
基礎の体力と動作を見て、移動や避難の訓練へ繋げる。
自衛と装備の扱いも、今できるところから教える。
蓮は、予定していた項目を一つ、後ろへ回した。
蓮「最初から、こっちまで一緒にやらん方がいいな」
VSK「何で疲れたか、何が分からなかったかを聞ける時間も、必要ですね」
蓮「そうだな。終わりの時間まで全部、動作で埋めるのはやめる」
クイーン13の記録では、図面をもう一度広げた。
VSKは、蓮が聞いた説明を追いながら、指摘された箇所を確かめる。
VSK「後方と、特殊作戦への適性ですか」
蓮「ああ。全体を長く見ることと、現場で形にすることが繋がってる。俺が見落とすところも、拾ってた」
VSK「では、次に実際の作業を見せていただく項目を、こちらへ分けましょうか」
話の中で確認したことと、現場で確かめること。
同じ欄へ入っていたものを、二人で整理した。
最後に、キングの紙が来る。
VSKの指が、小さく書かれた一行で止まった。
予備人員の長、候補。
蓮は、彼女が顔を上げるのを待った。
VSK「……そこまで、似ていましたか」
蓮「ああ。考えの進め方も、できる仕事の幅も。性格は、真反対だったが」
VSK「想像は、少しできます」
蓮「そっちは、すぐできるのか」
VSKは、少しだけ口元を緩めた。
すぐに、紙へ目を戻す。
VSK「能力を評価するのは、分かります。ただ、いま、その役まで任せたら、隊の皆さんは、余計に身構えると思います」
蓮「うん。今日、決めるつもりはない」
蓮は『候補』に下線を引き、その下へ注記を書き足した。
就任の決定ではない。
仕事ぶりと、他の要員との関わりを確認する。
蓮「まず、予備の仕事を整理する案や、連絡のまとめ方を見せてもらう。それを俺らで確認する。最初から全部、任せるわけにはいかん」
VSK「指揮は、ボスの元へ残すんですね」
蓮「ああ。お前が副隊長なのも、変わらん。予備の中で仕事を取りまとめる役の、候補として見たい」
VSKは、頷いた。
それでも、すぐ紙から手を離さなかった。
VSK「……私は、まだ、三人を全面的には信用できません」
蓮は、顔を向けた。
VSK「役に立つことは分かっています。今日のお話を聞いて、できることが多いのも、分かりました。でも、同じ隊の者として、すぐに安心できるかというと……」
蓮「うん」
蓮は、先を奪わずに聞いた。
VSKは、少し間を置いて続ける。
VSK「他の隊員も、似たところで止まっていると思います」
蓮は机の上を見た。
能力の欄は、埋まった。
それだけで、受け入れる側の不安まで消えるわけではなかった。
蓮「五人を、まとめて見ない方がいいな。ロミアとテムに見えてきたこともあるし、三人へ残ってる不信もある。それぞれ違う」
VSK「はい」
蓮「最初は、仕事を一緒に見られるところから始めよう。何を頼んで、どう返ってきたかが分かる形で」
クイーン13には、訓練用の図面や工程の確認を。
ポーン01には、緊急連絡の想定と、記録の整理を。
キングには、予備の仕事をどう組むかの下案を。
蓮は候補を書き、VSKへ見せた。
蓮「結果は、俺らだけでしまい込まない。隊へ、何をしてもらったかを伝える。疑問があれば、その仕事を見ながら話せるようにする」
VSK「言葉だけで、信用してくださいと言うよりは、確かめられますね」
蓮「ああ。ただ、実績が一つできたから、もう不安を言うな、ともしたくない」
VSKは、静かに頷いた。
決まった指揮と報告の流れは、維持する。
任せる範囲を広げる時は、蓮だけで決めず、ハルにも確認する。
その上で、一緒に働いた者の話を聞く。
蓮は、書き足した項目を読み返した。
今日、話した五人。
その五人を迎える、いまの隊員たち。
どちらかの話だけを聞けば済む仕事ではなかった。
蓮「……人数が増えると、紙も増えるな」
VSK「ボスが、ちゃんと聞こうとされたからだと思います」
蓮「褒めてる?」
VSK「はい。ただし、まだ終わっていません」
VSKは、次の白紙を寄せた。
訓練と仕事の予定。
確認をする担当者。
本人へ、評価を返して話す時間。
蓮は、その一番上へ日付を書いた。
蓮「面談して、分かった顔だけして終わるのが、一番まずいか」
VSK「そうですね。本人たちにも、次に何をするか、分かるようにしましょう」
蓮は頷いた。
窓の外は、面談を始めた時より暗くなっていた。
廊下から、隊の者が話す声がする。
VSKも、その方へ一度目を向けた。
すぐに、机へ戻る。
まだ、整っていない小隊だった。
蓮は筆記具を持ち直す。
VSKが隣で、書き直す箇所を示した。
五人分の評価書の横に、次に会うための予定が、一つずつ増えていった。
感想お待ちしてます。
兵器解説
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アリ
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ナシ