陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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第30話 価値の値踏み

机の上に、五人分の書類が並んでいた。

 

 ロミア。

 テム。

 ポーン01。

 クイーン13。

 キング。

 

 蓮は名前を確かめ、一番上の紙へ今日の日付を書いた。

 

 向かいには、まだ誰も座っていない。

 

 小隊の部屋に隣接した、小さな面談室だった。

 椅子を二つ置くと、机の周りにはあまり余裕がない。

 

 蓮は、向かいの椅子を少し動かした。

 入口から来た相手が、座りやすい位置へ寄せる。

 

VSK「資料は、こちらに揃っています」

 

 扉の脇で、VSKが声をかけた。

 

 これまでに聞けた経歴と、確認できた働き。

 まだ聞けていないことも、分けてある。

 

 蓮は受け取り、頷いた。

 

蓮「ありがとう。終わったら、付き合ってくれ」

 

VSK「報告書の確認ですね」

 

蓮「ああ。俺が気づいたところと、お前が見てたところを合わせたい」

 

 VSKは、五人の名前へ目を向けた。

 

VSK「……分かりました」

 

 少しだけ、間のある返事だった。

 

 これまでの話が、書類を揃えたことで全部済むわけではない。

 蓮も、それは分かっていた。

 

 VSKが部屋を出る。

 少しして、扉を叩く音がした。

 

     *

 

ロミア「……入っても、いい?」

 

蓮「どうぞ。そこ、座ってくれ」

 

 ロミアは椅子へ座った。

 背筋を伸ばし、膝の上へ手を置く。

 

 訓練場で話した時より、少し硬い。

 

蓮「そんなに、怖い顔してたか。俺」

 

ロミア「顔は、いつもと同じだけど」

 

蓮「なら、顔以外か」

 

 ロミアは、困ったように笑った。

 

 蓮は、まだ紙へ書き込まなかった。

 

蓮「今日は、どこで力を借りられるかを聞きたい。できることと、慣れてないこと。俺の方も話すから、気になったら聞いてくれ」

 

ロミア「……うん」

 

蓮「俺は、元の世界では自衛隊にいた。部隊の小隊長もやってた。ここへ来てからも、知ってることで何とかしようとしてたんだが」

 

 胸へ、軽く指を当てる。

 

蓮「あの屋敷じゃ、判断を間違えて、治療室まで運んでもらった。今も、ここの相手を全部知ってるわけじゃない」

 

 ロミアの目が、蓮の手元へ動いた。

 

ロミア「もう、痛くはないんだよね」

 

蓮「ああ。治してもらった。次は、同じ間違いを減らしたい」

 

 そう言ってから、彼女の資料を開いた。

 

 以前の訓練歴を、ロミアが指で示す。

 

 近い距離で相手へ対処する課目。

 銃だけでなく、身体を使う訓練の評価が高かった。

 

蓮「こっちが、得意だったのか」

 

ロミア「うん。離れたところをずっと見ているより、目の前で相手が動いた時の方が、分かることは多い」

 

蓮「相手が何をしたか、とか?」

 

ロミア「それも。あと、周りに誰がいて、どこを空けないといけないか。近くで何か起きると、そこは見えるんだ」

 

 蓮は、少し顔を上げた。

 

 銃の成績だけを尋ねた時とは、答え方が違う。

 ロミアは、自分が動いた時のことを確かめるように話していた。

 

 蓮は屋敷での移動を、一つずつ聞いた。

 

 スプリングと先へ行った時。

 追ってくるものの気配が変わった時。

 自分が動けば、隣の相手がどう動くか。

 

 ロミアは、一度考えてから、短く答えた。

 

 怖かったことも、隠さなかった。

 

ロミア「最初は、何もできなくなると思った。あのロビーでは、もう逃げる先も分からなくて」

 

蓮「うん」

 

ロミア「でも、銃を渡してもらって、何をするかが見えたら……周りも、また見えるようになった」

 

 そこから先の説明は、落ち着いていた。

 自分に都合のいい順へ並べず、分からなかったところは分からなかったと言う。

 

 蓮は、紙へいくつか書き込んだ。

 

蓮「怖くなかった、じゃなくて、怖い中でも判断を戻せてるんだな」

 

ロミア「……戻せてた?」

 

蓮「ああ。動き始めてから、周りを見失ってない。急に何かが変わった時も、必要な方を選べてる」

 

 ロミアは、少し黙った。

 

 蓮は、その資料へもう一度目を落とす。

 

蓮「近接の方も、改めて見せてほしい。訓練歴だけでも、随分いい。いま話してくれた、近くのものを見る感覚と合わせると、面白い」

 

ロミア「……この前の、VSKさんみたいに?」

 

蓮「いきなり、あの続きはやらんよ」

 

 ロミアの肩が、少し下がった。

 

蓮「得意なことは、ちゃんと確かめたい。ただ、全部それで片づくとは思ってない。苦手も、同じように聞く」

 

ロミア「うん。……それなら、話せる」

 

 蓮は頷いた。

 

 向かいの手が、膝の上で少し開く。

 最初に入ってきた時より、指先の力が抜けていた。

 

     *

 

 次に入ってきたテムは、椅子へ座る前に、机の上を一度見た。

 

 書類は、自分の分だけになっている。

 

 蓮が座るように示すと、彼は静かに腰を下ろした。

 

蓮「今日は、あの廊下じゃ聞けなかった話をしたい」

 

テム「はい」

 

蓮「俺のことも、少し話す。仕事が決まると、先に『できるようにしよう』と言いがちな方だ。だが、何が引っかかってるかを聞かずに言うと、相手に無理をさせる」

 

 テムは、蓮を見た。

 

蓮「俺自身、平気なつもりで動いて、周りに止められたことがある。だから、できないところがあれば、そのまま話してくれた方が助かる」

 

テム「……分かりました」

 

 蓮は、武器の訓練歴を見せてもらった。

 

 拳銃。

 小銃。

 散弾銃。

 扱える種類は、それだけではなかった。

 

 テムは、使ったことのあるものと、訓練までのものを分けて答えた。

 慣れている装備についても、自分の得手不得手をよく知っている。

 

蓮「随分、幅があるな」

 

テム「同じ装備だけで働くとは限りませんでしたから。必要なものは、覚えました」

 

蓮「急に持ち替えることにも、慣れてる?」

 

テム「教わって使えるものなら。知らないものを、その場で全部使えるとは言いません」

 

 蓮は頷いた。

 

 あの屋敷で渡した拳銃も、彼はためらわず使った。

 自分と一緒に残り、後ろを見ていた。

 

 装備が変わっても、仕事を続けられる。

 小隊へ人を足す時に、随分ありがたい能力だった。

 

 蓮が書き込もうとすると、テムの指が、膝の上で動いた。

 

テム「ただ、一つ、先にお話ししておきたいことがあります」

 

 顔を上げる。

 

蓮「何だ」

 

テム「強い恐怖を感じると、動けなくなることがあります」

 

 蓮は、筆記具を置いた。

 

 テムは、まっすぐこちらを見ている。

 そうしようと、意識しているようにも見えた。

 

テム「普段の危険なら、動けます。訓練で教わったことも、できます。ただ……それを越えると、手足が、止まります」

 

蓮「何をしたらいいかも、分からなくなる?」

 

テム「分かっていることもあります。それでも、動きません。声が聞こえていても、返事が遅れます」

 

 屋敷で一緒に動いた姿を、蓮は思い返した。

 

 あの時に働けたことと、いま本人が話していること。

 どちらも、彼の中にある。

 

 片方を見ただけで、もう片方を否定するわけにはいかなかった。

 

テム「ですから、使える武器が多いことだけで、任せていただくのは……困ります」

 

 最後の言葉は、少し苦しかった。

 

 蓮は、頷いた。

 

蓮「分かった。先に言ってくれて、ありがとう」

 

 テムの肩が、僅かに下がる。

 

蓮「何を使えるかと、どんな時に身体が止まるか。両方、分かった方がいい」

 

テム「……はい」

 

蓮「今後の訓練で、改善していこう。どんな時に止まりかけるか、まず一緒に確かめたい。無理が出たところを隠したまま、最後まで続けるようにはしない」

 

 テムは、少し考えてから聞いた。

 

テム「それでも、また動けなかったら」

 

蓮「その時に何が起きたかを、次の訓練へ持っていく。できなかった、だけで終わらせない」

 

 蓮は、自分の手元の紙を指した。

 

蓮「俺も、知らないことを覚え直してる途中だ。訓練を組んだ側が、うまくいかん理由を全部お前へ返すつもりはない」

 

 テムは、しばらく何も言わなかった。

 

 やがて、膝の上の手を開く。

 

テム「……お願いします。そこは、変えたいです」

 

蓮「ああ。使えるものを増やした努力まで、なくなったことにはしない。そっちは、ちゃんと活かせる形を考える」

 

 返事を聞き、テムは頷いた。

 

 蓮は筆記具を取り直した。

 武器の欄の下に、もう一つ、書き足す。

 

 どちらの欄も、消さなかった。

 

     *

 

 ポーン01は、椅子へ座ると、蓮が置いた資料へ目を向けた。

 

ポーン01「追加で必要な記録があれば、整理します」

 

蓮「それも頼む。ただ、今日は、あんたの話から聞きたい」

 

 ポーン01の視線が、紙から蓮へ戻る。

 

 蓮は、自分の経歴を短く話した。

 歩兵の部隊に始まり、空挺を経て、特殊作戦群へ移ったこと。

 

 覚えさせられたことは多い。

 それでも、何もかも最初からできたわけではない。

 

蓮「俺は、身体をどう動かすかから教わった方だ。書類を見て人を動かすのは、その後だった」

 

ポーン01「私は、逆ですね」

 

蓮「元の仕事は?」

 

ポーン01「会社の役員です。記録や情報、判断に必要な材料を扱っていました。現場で自分を守ることは、周囲へ任せていた部分が大きいです」

 

 蓮は頷いた。

 

 以前、保守鍵を特定した時の話を聞く。

 止められることと、止めた時に起きること。

 あの時の説明は、短く、分かりやすかった。

 

蓮「急いでいたのに、どっちもすぐ答えられたな」

 

ポーン01「止めれば解決する部分と、別の問題になる部分がありましたから。先に、両方を伝える必要がありました」

 

蓮「自分では、どっちを先に考えた?」

 

ポーン01「放置した場合に失うものです。それから、変更した場合の影響を比べました」

 

 話しているうちに、蓮は別の資料を出した。

 

 訓練で使う、緊急連絡の想定だった。

 報告が食い違い、使える人員も限られている。

 

 ポーン01は、読み終えると、迷わず幾つかの箇所を示した。

 

 いま対応しなければ取り返せないもの。

 確認を待てるもの。

 同時に進められること。

 

 一つずつ選び、何を後へ送るかも答える。

 追加された条件で最初の案が合わなくなると、結論だけに固執せず組み替えた。

 

 蓮は、途中から質問を挟むのを、少し控えていた。

 

蓮「……ずいぶん、早いな」

 

ポーン01「条件がこちらの通りなら、この選択が一番損失を抑えられると思います」

 

蓮「うん。俺も、そこを選ぶ。だが、理由を並べ終わるのは、あんたの方が早かった」

 

 ポーン01は、わずかに顔を上げた。

 

蓮「緊急時に、何を捨てず、何を後へ回すか。そこは、随分頼れる」

 

 蓮は一度、机の上を見た。

 それから、身体を使う訓練について聞いた。

 

 答えは、途端に短くなる。

 

 戦闘経験は少ない。

 危険から自分を逃がす動作にも、慣れてはいなかった。

 

ポーン01「指示を理解しても、その通りに身体を使えるかは、別です。自衛についても、十分とは言えません」

 

 蓮は、素直な回答へ頷いた。

 

蓮「いい判断を出せても、自分が動けなくなったら、伝えるところまで届かんからな」

 

ポーン01「はい」

 

蓮「まず、身を守って、味方へつながれるところから組むか。基礎の動きと体力、移動や避難の訓練。それに、必要な装備を安全に扱うところも」

 

 蓮は、思いついた項目を脇へ書いた。

 一度眺め、順番を入れ替える。

 

蓮「一遍に詰めると、何が負担か分からなくなるな。実際に動いてもらってから、無理なく続けられる形へ直す」

 

ポーン01「その評価も、記録してよろしいですか」

 

蓮「ああ。あんた自身にも、何ができるようになったか分かる方がいい」

 

 ポーン01は頷いた。

 

 机の上へ置かれた手が、少し動く。

 

ポーン01「身体の方は、教わることが多そうです」

 

蓮「俺も、頭の使い方は借りたい。互いに、できる方を持ち寄ろう」

 

 ポーン01は、資料を揃える前に、もう一度その想定へ目を落とした。

 

 蓮も、見落としていた箇所について、最後に一つ質問した。

 

     *

 

 クイーン13は、席へつくと、蓮の自己紹介を最後まで聞いた。

 

 特殊作戦群にいた頃のこと。

 空からでも、陸からでも、必要な場所へ出る小隊だったこと。

 

 蓮は、話しながら自分の資料を閉じた。

 

蓮「目の前で状況が変わった時に、どう動くかは考えてきた。ただ、もっと長い先まで組むことは、他の奴に助けてもらうことも多かった」

 

クイーン13「戦術と、全体の見通しですね」

 

蓮「ああ。自分で見えるところへ、気持ちが寄りすぎる時がある」

 

 クイーン13は、短く頷いた。

 

 蓮は、彼がこれまでに指摘したことを聞き直した。

 保守通路。

 外壁と、その下の基礎。

 

 道があることだけでなく、どういう状態で残っているかまで見ていた。

 

蓮「建物や道を、随分よく見てるな」

 

クイーン13「通れるように見えても、必要な人数や荷物を通せるとは限りません。状態を知る必要があります」

 

 蓮は、訓練用の図面を渡した。

 

 彼は、線の繋がりだけを辿らなかった。

 注記を確かめ、施設を支えるものと、作業をする場所へ目を向ける。

 

 質問すると、確認済みのことと、図面だけでは決められないことを分けて返した。

 

 蓮は途中で、椅子を少し寄せた。

 

蓮「……工兵の仕事も、やってきたんだな」

 

クイーン13「はい。作業そのものも、工程を組むことも」

 

蓮「ここ、俺は通れるかどうかばかり見てた。あんたは、その後も使える状態で残すことを見てる」

 

クイーン13「一度通れば、終わる仕事ばかりではありませんので」

 

 淡々とした答えだった。

 

 蓮は、別の課題も見せた。

 人員と物資を、複数の仕事へ割り振る想定だった。

 

 クイーン13は、一番急ぐ場所を確認してから、その次を聞いた。

 

 そこへ人を集めたあと、残る側で何が止まるか。

 次の仕事が始まる時に、使える人と物がどこへいるか。

 

 話は、一つの場面では終わらなかった。

 

 蓮が先の条件を変えても、彼は大きく表情を動かさない。

 最初の目的へ戻り、配分を考え直す。

 

 長く全体を組む視点と、足元の施設を使える状態へ整える知識。

 別々に見ていた能力が、話すうちに繋がっていった。

 

蓮「なるほどな……。後ろを支えることにも、限られた人数で動く作戦の準備にも、相当向いてる」

 

クイーン13「必要な役割があれば、担います」

 

蓮「後方と、特殊作戦。その両方で、力を借りたいところがある」

 

 蓮は、書き込んだ言葉を見た。

 

 工兵。

 戦略。

 計画から、現場へ繋げる能力。

 

 これだけ揃っていても、本人の話し方は変わらない。

 

蓮「あんた、仕事の説明を聞くと、ずいぶん頼もしいな」

 

クイーン13「説明に見合う仕事をする必要があります」

 

蓮「うん。そこも、見せてもらう」

 

 蓮は頷いた。

 

 以前の立場や、キングとの関係だけで見ていたら、分からないことがあった。

 本人と話すと、その先が少しずつ見える。

 

蓮「俺も、知らない専門へ口を出す時は、先に聞く。あんたからも、前提がおかしければ言ってくれ」

 

クイーン13「承知しました」

 

 彼は最後まで、落ち着いて答えた。

 

 蓮の方は、面談を始めた時より、書き込む場所が増えていた。

 

     *

 

 最後の一人が来る前に、蓮は四人分の記録を伏せた。

 

 キングの資料だけを、手元へ残す。

 

 扉が開き、キングが入ってきた。

 

キング「お待たせしました」

 

蓮「いや。ちょうど、前の話をまとめてた」

 

 キングは椅子へ座った。

 背もたれへ深く預けず、蓮を見る。

 

 蓮は、これまでの相手と同じように、自分のことから話した。

 

 元の世界で、部隊を率いていた。

 現場へ出ることも、指示を出すこともしてきた。

 ただ、人へ任せる前に、自分で手を出す悪癖があった。

 

蓮「……その辺は、いまも直してるところだな」

 

キング「自覚は、おありなのですね」

 

蓮「ある。言われることも多い」

 

キング「それなら、話が早い」

 

 蓮は、少し笑った。

 

 キングへ、昔の仕事を聞く。

 どこまでを自分で見て、どこからを他へ任せていたか。

 

 話は、次第に具体的になった。

 

 情報が足りない時に、何を確かめるか。

 人を集める前に、その人間へ何を頼めるか。

 状況が崩れた時に、何を残して仕事を立て直すか。

 

 返ってくる答えへ、蓮は何度か目を止めた。

 

 自分が聞こうとしていたことを、先に向こうが確認する。

 資料の同じ箇所へ引っかかる。

 蓮が途中まで書いた判断に、違う言い方で辿り着く。

 

 似ていた。

 

 単に、意見が合うというだけでもなかった。

 

 何を先に見るか。

 相手がこちらをどう見るかまで、どこで考えに入れるか。

 

 判断の組み立てが、自分のものと、妙に近い。

 

 戦闘に関する訓練歴を確かめても、扱える仕事の幅が広かった。

 現場だけに偏らず、指揮だけへ閉じこもるわけでもない。

 

 蓮は、筆記具を置いた。

 

蓮「……あんた、話してると、妙な気分になるな」

 

キング「何か、不足が?」

 

蓮「いや。俺が答えようとしてたことを、向こうから言われる」

 

 キングの口元が、少し動いた。

 

キング「あなたを上に置くことへ、私が異論を持たなかった理由も、その辺りにあります」

 

蓮「考えが近いか」

 

キング「仕事の話を通じさせやすい相手だとは、思っていました」

 

 蓮は、もう一度、資料を見た。

 

 これだけ、自分と似たところがある。

 それなのに、座って話している感じは、随分違う。

 

 蓮は、思いついた言葉を先に口へ出す。

 余計な冗談も挟む。

 

 キングは、言葉の順番と量を整えてから出した。

 冗談さえ、相手へ何を伝えるかを選んでいるように見える。

 

 蓮が場へ飛び込んでから考え直すところで、キングは場の形を見てから入り直す。

 

蓮「中身の似方と、性格の違いが、極端だな」

 

キング「あなたほど、賑やかに仕事をする自信はありません」

 

蓮「こっちは、そこまできっちりしてると、飯まで落ち着かん」

 

キング「食事は、食事として取ればよいのでは」

 

 蓮は、声を出して笑った。

 

 能力の話をすれば、もう一人の自分がいるようだった。

 性格は、面白いほど反対を向いている。

 

 同じ仕事を渡しても、向こうは、ずいぶん違う顔でこなすのだろう。

 

 蓮は、予備要員の五人を思い浮かべた。

 

 それぞれ、強いところが違う。

 足りないところも、違う。

 

 その間を見て、仕事を割り振り、話を集める役。

 自分へ上げる前に、状況を整理できる者。

 

 キングを、予備人員の長として考えるべきかもしれない。

 

 そう思い、すぐには口へ出さなかった。

 

 今日の話で分かったことと、これから確かめなければならないことがある。

 役を任せた時に、他の者がどう受け取るかも。

 

 蓮は、紙の端へ小さく書き込んだ。

 

蓮「……もう少し、聞かせてくれ。人の得意不得意が、思ってたのと違った時の話だ」

 

キング「承知しました」

 

 キングは、落ち着いたまま答え始めた。

 

 蓮は、自分ならどこで口を挟むだろう、と考えながら聞いた。

 

     *

 

 最後の扉が閉まると、部屋が急に静かになった。

 

 蓮は、机の上の五人分を見た。

 面談を始める前より、紙が増えている。

 

 書き込んだ言葉も、随分増えていた。

 

蓮「……なるほどね」

 

 呟いてから、肩を回す。

 

 しばらくして、VSKが来た。

 蓮は椅子を机の横へ寄せ、空けたところを示す。

 

蓮「頼む。書いてみたが、まだ順番も、言葉も荒い」

 

VSK「拝見します」

 

 VSKは隣へ座り、一枚ずつ読んだ。

 

 先に、ロミアの記録で手が止まる。

 

VSK「緊急時の判断が安定している、というのは、どの辺りからですか」

 

 蓮は、面談で聞いたことと、屋敷で見たことを話した。

 VSKも、自分が合流してからの動きを思い返す。

 

 得意な近接の課目と、周囲を見る感覚。

 最初の恐怖だけを見ていたら、そこまでは拾えなかった。

 

 蓮は、評価の根拠になった場面を脇へ書き足す。

 

蓮「次の確認で、近接の動きも見たい。ここは、俺だけじゃなく、お前にも付き合ってほしい」

 

VSK「はい。本人が得意だと言ったところも、見ておきたいです」

 

 次は、テムだった。

 

 VSKは『恐怖に弱い』と書かれた短い一行を指す。

 

VSK「これは、もう少し詳しくした方がよさそうですね」

 

蓮「ああ。それだけだと、あの廊下でも何もできなかったみたいになるな」

 

 普段の危険には対処できる。

 極度の恐怖で、身体が硬直する。

 

 蓮は、二つを分けて書き直した。

 武器を広く扱える能力は、そのまま残す。

 

VSK「改善のために、何から始めるかも、本人と確認するんですね」

 

蓮「うん。どこで止まりかけたかと、何ができたかを見たい。使える武器を増やす練習だけ、延々やっても、そこは分からん」

 

 ポーン01のところでは、二人で訓練案を並べた。

 

 判断する力は、活かす。

 その判断を誰かへ渡す前に、本人が危険へ呑まれないようにする。

 

 基礎の体力と動作を見て、移動や避難の訓練へ繋げる。

 自衛と装備の扱いも、今できるところから教える。

 

 蓮は、予定していた項目を一つ、後ろへ回した。

 

蓮「最初から、こっちまで一緒にやらん方がいいな」

 

VSK「何で疲れたか、何が分からなかったかを聞ける時間も、必要ですね」

 

蓮「そうだな。終わりの時間まで全部、動作で埋めるのはやめる」

 

 クイーン13の記録では、図面をもう一度広げた。

 

 VSKは、蓮が聞いた説明を追いながら、指摘された箇所を確かめる。

 

VSK「後方と、特殊作戦への適性ですか」

 

蓮「ああ。全体を長く見ることと、現場で形にすることが繋がってる。俺が見落とすところも、拾ってた」

 

VSK「では、次に実際の作業を見せていただく項目を、こちらへ分けましょうか」

 

 話の中で確認したことと、現場で確かめること。

 同じ欄へ入っていたものを、二人で整理した。

 

 最後に、キングの紙が来る。

 

 VSKの指が、小さく書かれた一行で止まった。

 

 予備人員の長、候補。

 

 蓮は、彼女が顔を上げるのを待った。

 

VSK「……そこまで、似ていましたか」

 

蓮「ああ。考えの進め方も、できる仕事の幅も。性格は、真反対だったが」

 

VSK「想像は、少しできます」

 

蓮「そっちは、すぐできるのか」

 

 VSKは、少しだけ口元を緩めた。

 すぐに、紙へ目を戻す。

 

VSK「能力を評価するのは、分かります。ただ、いま、その役まで任せたら、隊の皆さんは、余計に身構えると思います」

 

蓮「うん。今日、決めるつもりはない」

 

 蓮は『候補』に下線を引き、その下へ注記を書き足した。

 

 就任の決定ではない。

 仕事ぶりと、他の要員との関わりを確認する。

 

蓮「まず、予備の仕事を整理する案や、連絡のまとめ方を見せてもらう。それを俺らで確認する。最初から全部、任せるわけにはいかん」

 

VSK「指揮は、ボスの元へ残すんですね」

 

蓮「ああ。お前が副隊長なのも、変わらん。予備の中で仕事を取りまとめる役の、候補として見たい」

 

 VSKは、頷いた。

 それでも、すぐ紙から手を離さなかった。

 

VSK「……私は、まだ、三人を全面的には信用できません」

 

 蓮は、顔を向けた。

 

VSK「役に立つことは分かっています。今日のお話を聞いて、できることが多いのも、分かりました。でも、同じ隊の者として、すぐに安心できるかというと……」

 

蓮「うん」

 

 蓮は、先を奪わずに聞いた。

 

 VSKは、少し間を置いて続ける。

 

VSK「他の隊員も、似たところで止まっていると思います」

 

 蓮は机の上を見た。

 

 能力の欄は、埋まった。

 それだけで、受け入れる側の不安まで消えるわけではなかった。

 

蓮「五人を、まとめて見ない方がいいな。ロミアとテムに見えてきたこともあるし、三人へ残ってる不信もある。それぞれ違う」

 

VSK「はい」

 

蓮「最初は、仕事を一緒に見られるところから始めよう。何を頼んで、どう返ってきたかが分かる形で」

 

 クイーン13には、訓練用の図面や工程の確認を。

 ポーン01には、緊急連絡の想定と、記録の整理を。

 キングには、予備の仕事をどう組むかの下案を。

 

 蓮は候補を書き、VSKへ見せた。

 

蓮「結果は、俺らだけでしまい込まない。隊へ、何をしてもらったかを伝える。疑問があれば、その仕事を見ながら話せるようにする」

 

VSK「言葉だけで、信用してくださいと言うよりは、確かめられますね」

 

蓮「ああ。ただ、実績が一つできたから、もう不安を言うな、ともしたくない」

 

 VSKは、静かに頷いた。

 

 決まった指揮と報告の流れは、維持する。

 任せる範囲を広げる時は、蓮だけで決めず、ハルにも確認する。

 

 その上で、一緒に働いた者の話を聞く。

 

 蓮は、書き足した項目を読み返した。

 

 今日、話した五人。

 その五人を迎える、いまの隊員たち。

 

 どちらかの話だけを聞けば済む仕事ではなかった。

 

蓮「……人数が増えると、紙も増えるな」

 

VSK「ボスが、ちゃんと聞こうとされたからだと思います」

 

蓮「褒めてる?」

 

VSK「はい。ただし、まだ終わっていません」

 

 VSKは、次の白紙を寄せた。

 

 訓練と仕事の予定。

 確認をする担当者。

 本人へ、評価を返して話す時間。

 

 蓮は、その一番上へ日付を書いた。

 

蓮「面談して、分かった顔だけして終わるのが、一番まずいか」

 

VSK「そうですね。本人たちにも、次に何をするか、分かるようにしましょう」

 

 蓮は頷いた。

 

 窓の外は、面談を始めた時より暗くなっていた。

 廊下から、隊の者が話す声がする。

 

 VSKも、その方へ一度目を向けた。

 すぐに、机へ戻る。

 

 まだ、整っていない小隊だった。

 

 蓮は筆記具を持ち直す。

 VSKが隣で、書き直す箇所を示した。

 

 五人分の評価書の横に、次に会うための予定が、一つずつ増えていった。




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中央歴18✕✕年12月31日 地球から召喚された日本国は召喚から十数年後、復活した古の魔法帝国『ラヴァーナル帝国』との戦いで、他国と共に大きい犠牲を払いながらも勝利した。▼新世界に平和をもたらした立役者の1つとして称えられた紀伊型戦艦『紀伊』と『尾張』は、戦いで大きく傷つきながらもラヴァーナル帝国の野望を打ち砕き、その使命と役目を終えて戦いから退いた。▼し…


総合評価:52/評価:-.--/連載:37話/更新日時:2026年09月27日(日) 21:12 小説情報

TS若返り傭兵は旅をする(作者:Aa_おにぎり)(オリジナル:SF/日常)

嘗ての伝説的な男傭兵が女になっちゃった!おまけに若返っているんだが?!▼TS若返りした元傭兵が運び屋をしながら色々と街を巡って旅をするお話。▼※なろうでも出してます。▼外伝作品▼TS若返り傭兵は旅をする 喫茶支線▼https://syosetu.org/novel/428050/


総合評価:6697/評価:8.65/連載:493話/更新日時:2026年10月20日(火) 12:00 小説情報

七囚人『災厄の狐』(成り代わり転生者)(作者:百合って良いよねって思う)(原作:ブルーアーカイブ)

七囚人『災厄の狐』狐坂ワカモに成り代わったブルアカユーザーが、色々破壊しつつ頑張ってキヴォトスが滅ぶのを阻止する話。▼なお、若干二名ほどは彼女が先生であった時の記憶がある模様。▼一部、年齢や神秘などに関して独自設定・独自解釈があります。▼途中からガッツリ百合要素入って来る予定なので注意です。▼ほぼないも同然ですが性転換要素があります。▼また、「先生に惚れてな…


総合評価:9904/評価:8.79/連載:17話/更新日時:2026年10月17日(土) 18:00 小説情報

ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴(作者:らっこ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 魔獣と戦ったりオークから人間にまで陵辱されたり箱化したりしそうな世界観で戦う少女達と、それとは全然関係ない所で勝手に改造手術されて戦う羽目になったニチアサ野郎がドッタンバッタンするお話▼「なんだあの露出度……痴女か!?」▼「なんであの重い鎧装備して動けるんだろう……ゴリラ?」


総合評価:9200/評価:8.22/連載:18話/更新日時:2026年08月09日(日) 00:05 小説情報

助けた女の子に「責任を取りなさい」と迫られてる件(作者:萩月輝夜)(原作:魔法科高校の劣等生)

崑侖方院によって全てを失いその為世界へ憎悪と破滅を望む四葉家当主四葉真夜。▼しかし、それが現実世界での原作小説をみて真夜へ一目惚れした男がとある事からスパダリの少年に転生し悲劇の前に救い出され脳を焼かれたらどうなるか。▼※この作品は一部劇場版魔法科高校の劣等生【四葉継承編】のネタバレを含みます。▼ご了承ください。▼劇場公開で真夜様の狂喜を見て救わなければ…と…


総合評価:9114/評価:7.93/連載:23話/更新日時:2026年10月15日(木) 16:31 小説情報


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