陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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艦これはCアズレンはAと表記させていただきますのでお願いします。

クロスオーバーなので悪しからず

それではどうぞ


6-1 後ろを守る者

午後の執務室で、タイプライターのベルが鳴った。

 

 隼人は最後の行を打ち、紙を抜いた。午前から照合していた二つの記録が、ようやく揃った。

 

 まだ回答の来ていない綴りは、机の脇にある。

 

 そちらへ手を伸ばしかけて、やめる。昼食から戻った時に、今日はどこまで進めるかを決めたばかりだった。

 

隼人「提督。こちらは、確認をお願いします」

 

剣子「ありがとう。……食べてからの方が、進んだね」

 

隼人「走った分も、少しは役に立ったかもしれません」

 

剣子「食べる前に走ったことを、よかった話へ持っていかないでね」

 

隼人「……承知しました」

 

 剣子が笑い、差し出された紙へ目を落とした。

 

 開いた窓から、港の音が入ってくる。荷車の車輪と、遠くで鋼材を打つ音。昨日の演習で使わなかった海の上でも、今日の警戒は続いている。

 

 隼人は手帳を開いた。

 

 昨日の報告会で書き留めた一行が、余白に残っている。

 

 自分が避けたあと、後ろへ届くもの。

 

 赤城から問われ、その場では答えた。

 

 だが、回答へ書き加えるには、まだ足りなかった。

 

 机の電話が鳴る。

 

 剣子は受話器を取り、短く応じたあと、隼人を見た。

 

剣子「三笠さんから。昨日の話を、少し机の上で確かめたいって」

 

隼人「輸送艦の防護についてですか」

 

剣子「うん。天城さんも一緒。こちらの記録が揃ったなら、一時間ほど時間をもらえないか、だそうです」

 

隼人「伺います」

 

剣子「先に、何を持っていくか聞いて。工廠へ取りに行く物が増える話なら、今日は困るから」

 

 隼人は受話器を替わった。

 

三笠(KAN-SEN)『持ってきてもらいたいのは、君の記録だけだ。装備は要らんよ』

 

隼人「承知しました」

 

三笠(KAN-SEN)『船も、飛行機も、机から出すつもりはない。少なくとも、今日はな』

 

隼人「最後の一言が、気になりますね」

 

三笠(KAN-SEN)『実際に試す必要があるかも、今日考えよう。会議棟の小会議室で待っている』

 

 電話を置き、隼人は腕部戦術タブレットと、演習記録の写しを揃えた。

 

隼人「アイ。昨日の迎撃と移動を、同じ時刻で重ねてくれ。消費が大きく変わった所も」

 

アイ『表示します。加速と迎撃が重なった区間では、電力消費と冷却への負荷が、ともに増加しています』

 

隼人「回避を増やした分を、迎撃の余裕へ数えてはいけない、か」

 

アイ『はい。移動経路を変更する場合、兵装を使える時間も再計算が必要です』

 

 隼人は、二つの線を並べて保存した。

 

 剣子が、昨日の報告会で使った紙を一枚差し出す。

 

剣子「これも。赤城さんから出た質問」

 

隼人「手帳にも、残してあります」

 

剣子「だったら、本人にも聞いてもらおうか。航空隊の側から見て、気づくこともあるだろうし」

 

隼人「お願いします」

 

剣子「私は、こちらを確かめてから行くね。私が来る前に、出撃する艦まで決めないこと」

 

隼人「机から出さないそうです」

 

剣子「机の上で決まってから、私へ来る案もあるんだよ」

 

 返事に困り、隼人は少し笑った。

 

     *

 

 小会議室の机には、海図と、何種類かの木片が並んでいた。

 

 硫黄島の作戦図ではない。昨日の演習海域の一部を使い、岸と、船が通れる場所だけを書き写した図だった。

 

 三笠が椅子を示し、天城は脇の紙へ時刻を書き込んでいる。

 

 隼人が腰を下ろすと、天城は白い木片を三つ、海図の上へ置いた。

 

天城(KAN-SEN)「輸送船が二隻。それから、機関に損傷を受け、速力を落とした艦が一隻。今日は、この三隻を帰すことにいたしましょう」

 

三笠(KAN-SEN)「敵を何隻沈めたら終わり、とはしない。こちらの船が危険な海域を抜けられたかを、最後に見る」

 

隼人「護衛側に使える戦力は?」

 

天城(KAN-SEN)「まず、副提督が昨日お使いになった装備について、分かっている範囲からです。艦隊側の配置は、そのあと、一緒に考えていただければ」

 

 隼人は頷き、昨日の記録を開いた。

 

 残弾。電力。冷却の状態。

 

 タブレットを机の中央へ寄せ、音声の出力先を耳元の端末から切り替える。

 

隼人「今日は、アイにも計算と比較を手伝ってもらいます。皆さんからも、こちらへ聞いてください」

 

三笠(KAN-SEN)「では、君と一緒に追っていた方にも、働いてもらおうか」

 

アイ『音声を共有します。図上の計算には、入力された位置、時刻、速力と、使用を仮定した兵装の記録を用います』

 

天城(KAN-SEN)「船団の条件が変わった場合は、こちらからお伝えいたしますね」

 

 隼人は、三隻の進路と速力を入力した。13式高度演算装置が、昨日の記録とは別の画面へ線を引く。

 

 項目を見た三笠が、端へ置かれた別の紙を裏返した。

 

三笠(KAN-SEN)「追加できる艦と航空隊は、こちらに分けてある。ただし、必要だと言っただけでは使えることにしない。今の呉から出せるかは、別に確かめる」

 

隼人「都合のいい味方を、あとから置くわけにはいかないと」

 

三笠(KAN-SEN)「ああ。机の上なら、いくらでも増やせてしまうからな」

 

 入口が開き、赤城が顔を出した。

 

 黒と赤の衣装。狐耳を揺らして会釈すると、天城の隣へ座る。

 

赤城(KAN-SEN)「お待たせいたしました。隼人様、昨日の続きを伺えると聞きましたわ」

 

隼人「はい。お時間をいただいて、すみません」

 

赤城(KAN-SEN)「私から伺ったことですもの」

 

 天城が、航空隊を示す小さな札を赤城へ渡した。

 

 赤城はそれを受け取り、すぐには海図へ置かなかった。

 

天城(KAN-SEN)「相手側の動きは、私たちで進めます。最初は、ここまで見つかったものとして」

 

 海図の外側へ、機影を描いた札が一枚置かれる。

 

 隼人は、その位置と輸送船の進路を見た。

 

 札に記された進路と速力を入力すると、接近予測の線が、船団の航跡と重なった。

 

 タブレットの脇に、小さく自分の印を置く。

 

隼人「この段階なら、前へ出ます。船団に近づかれる前に、こちらで確かめたい」

 

三笠(KAN-SEN)「いつ、戻る?」

 

隼人「迎撃に移る前に、船団との位置をもう一度――」

 

 言いかけ、隼人は白い木片へ目を戻した。

 

 自分の印から、迎撃へ出て戻る線を引く。

 

 その間に三隻が進む位置を、天城が置いた。機関に損傷を受けた艦に合わせ、二隻の輸送船も速力を抑えている。

 

天城(KAN-SEN)「ここで、損傷艦から新しい報告が入ったとします。維持できる速力は、当初の見込みより低い。船団の到達位置を、こちらへ変えます」

 

 天城が、三つの木片を手前へ戻した。

 

 隼人が変更を入力すると、画面の船団位置も動いた。

 

アイ『速力の変更を反映しました。当初の合流位置では、次の接近目標に対する迎撃範囲から、船団が外れる区間が生じます』

 

隼人「戻る位置を手前へ変えた場合と、前へ出る距離を抑えた場合を、並べてくれ」

 

アイ『二案を表示します。後者は移動の消費を抑えられますが、接近目標を確かめてから対処するまでの余裕が短くなります』

 

 隼人は、自分の帰りの線を見直した。

 

 予定していた位置へ戻っても、船団はまだ、そこまで来ていない。空いていたはずの場所に、守る三隻が残っている。

 

隼人「……一度、止めてください」

 

 天城の手が止まった。

 

隼人「この戻り方では、船団が迎撃で守れる範囲の外に残ります。戻る位置と、迎撃を続ける時間を見直します」

 

三笠(KAN-SEN)「君自身は、昨日と同じように動けるとしても、かね」

 

隼人「はい。自分の往復だけなら足りますが、船団を離れていられる時間は、同じにできません」

 

 隼人は、引いた線を途中で消した。

 

 護衛艦の戦闘指揮所では、味方の位置も、動かせる速力も、一つの状況図へ戻していた。

 

 昨日の自分の移動記録へ船団を重ねると、その違いが、線のずれになって残った。

 

 天城が、三隻の進路を先に引き直した。

 

 隼人は、その線の横へ印を戻す。

 

赤城(KAN-SEN)「昨日は、岩場の方へ移られましたね」

 

隼人「はい。足を止めて、砲撃する時間を取れました」

 

赤城(KAN-SEN)「この三隻も、そこへ連れていけますか」

 

隼人「……艦の大きさと、通れる水深を確かめなければ。私が使えた場所だから、船も使えるとは言えません」

 

 赤城は、札をまだ持ったまま頷いた。

 

     *

 

 最初の進行では、隼人が前へ出る距離を抑えた。

 

 船団の位置が変わるたびに印を移し、迎撃したと置くところでは、昨日の使用記録を参照する。

 

 同じ兵装を使っていても、近づき方と使う間隔が違えば、昨日の結果をそのまま当てはめられない。計算で比べられる所と、実際に試さなければ分からない所を、天城が紙へ分けていた。

 

 隼人は、開示された位置と時刻をタブレットへ入力した。

 

 やがて、二つ目の札が出た。

 

赤城(KAN-SEN)「こちらからも、航空機が接近しているという知らせが入りました。数と、その後ろは、まだ分かりません」

 

隼人「最初の編隊への対処を続けます。新しい方の位置と進路を――」

 

天城(KAN-SEN)「同じ時刻に、水上の反応も変わっています。こちらの印です」

 

 隼人は指を止めた。

 

 聞こえた言葉は、どちらも理解できる。

 

 ただ、どちらから確かめるかを選んでいる間にも、天城は船団の木片を一つ先へ動かしていた。

 

隼人「その水上の反応は、まだ識別できていませんか」

 

天城(KAN-SEN)「今お渡しできる情報では、できていません」

 

隼人「でしたら、追尾を続けて……」

 

 そこで、隼人は口を閉じた。

 

 昨日も、同じことがあった。

 

 反応は残っている。位置も更新されている。

 

 だが、自分が航空機へ向かっている間に、その水上目標が次に何をする位置へ移ったかまでは、考えられていなかった。

 

 三笠は何も言わず、時計へ目を落とした。

 

 隼人は、目の前の紙へ二つの時刻を書き込む。

 

隼人「知らせを受けた時刻と、私が確認し直した時刻は、分けてください。ここでも、遅れています」

 

天城(KAN-SEN)「はい」

 

隼人「アイが追っていたとしても、私が見て決めるところは残ります。これを、装置の仕事が終わった時刻に揃えたら、できていないことまで済んだことになる」

 

 耳元の端末から、声が届いた。

 

アイ『提示された情報の時刻と、隼人の確認時刻を、別の項目に記録します』

 

隼人「頼む」

 

 赤城が、小さく首を傾げた。

 

赤城(KAN-SEN)「アイさんに、もっとお任せすることはできませんの?」

 

隼人「できます。今の位置を整理するだけでなく、このまま動いた場合と、こちらが動きを変えた場合を比べてもらえます」

 

赤城(KAN-SEN)「では、相手が次に何を狙うかも?」

 

アイ『現在の針路と速力から、接近し得る範囲を示せます。攻撃の意図や、まだ提示されていない戦力までは確定できません』

 

隼人「だから、その範囲を見て、何を守り、何を攻撃するかを私たちで決めます。ただ、今は更新を受ける順番まで、私が抱えていますね」

 

三笠(KAN-SEN)「計算を使い切れていない所がある、と?」

 

隼人「はい。全部を同じ調子で聞くより、先に確かめるべき変化を、アイにも選んでもらった方がいい」

 

 前にいた小さな印が、海図の上で止まったままだった。

 

 天城が、机の端から細い紙片を取り、船団へ向かう線の上へ置いた。

 

 隼人が最初の攻撃を避けた先で、後続の攻撃が通ると仮定した線だった。

 

天城(KAN-SEN)「こちらへ動かれれば、副提督ご自身は避けられます」

 

隼人「ですが、輸送船が残る」

 

天城(KAN-SEN)「ええ」

 

 隼人は、自分の印を摘んだ。

 

 動かせば、印は簡単にそこを離れられる。

 

 後ろの木片は、同じようには動かない。

 

隼人「……回避できた、と書くところではありませんね」

 

 彼は、自分の印を元の位置へ戻した。

 

     *

 

 第一回の検討は、そこで止めた。

 

 最後まで駒を進め、都合よく船団が抜けたことにはしなかった。

 

 隼人は、紙の右端へ短く書いた。

 

 単独では、確認と対処を続けられる裏付けが足りない。

 

 書いた文字を、しばらく見た。

 

 前衛へ出たいと話したのは、自分だ。

 

 その自分が、足りないと書いている。

 

三笠(KAN-SEN)「不満かね」

 

隼人「……歯がゆくは、あります」

 

三笠(KAN-SEN)「なら、何を足せばよい?」

 

隼人「先に、どの仕事を私が抱えていたかを分けさせてください」

 

 隼人は、記録を三笠の方へ向けた。

 

 新たに必要な艦名を書くより先に、昨日、自分が何を確かめ、何を決めたかを追う。

 

 水上の反応。航空隊の進路。船団の位置。

 

 そこへ、使える兵装と、帰投のために残す分を重ねた。

 

隼人「アイ。通知の条件を変える。船団へ接近する反応と、私の離脱に影響する変化を、先に出してくれ。ほかの追尾は続けたままで」

 

アイ『了解。目標数に変化がなくても、船団への到達順序が変わった場合は優先して通知します』

 

天城(KAN-SEN)「数が増えた時だけに、注意を向けるのではないのですね」

 

隼人「ええ。少し進路が変わっただけでも、こちらが先に対処すべき相手は変わりますから」

 

隼人「船団全体の進路まで、私がその都度、細かく決める必要はありません。こちらから見つかったものを伝え、船団側でも動いていただく。ただ、互いに別の方へ避けたら、その間を通されます」

 

天城(KAN-SEN)「でしたら、船団の進行は私が。副提督から知らせを受けた時に、各艦をどう揃えるか、こちらで確かめましょう」

 

三笠(KAN-SEN)「私は全体を見る。進み続けるか、引き返すかも、私が決める役を引き受けよう」

 

 赤城は持っていた札を机へ置いた。

 

赤城(KAN-SEN)「私は、味方の航空隊を動かす側へ移りますわ。敵が見つかったからといって、全てそちらへ出せるわけではございませんから」

 

隼人「戻ってくる機体と、次に使える機体も、別に見ていただけますか」

 

赤城(KAN-SEN)「もちろんですわ」

 

 天城が、海図を一度、白紙の状態へ戻した。

 

 敵側の出来事は、先に封じてある紙を順に開き、皆で読んで進めることになった。四人のうち誰かが、隠した相手まで見通していることにはしない。

 

 隼人は、昨日、向こう側にいた三人を見た。

 

隼人「今日は、ずいぶん心強いですね」

 

三笠(KAN-SEN)「昨日も、こちらは心強いつもりだったのだがな」

 

天城(KAN-SEN)「使う前に止められた案も、ございましたから」

 

隼人「……今日は、聞かせてください」

 

天城(KAN-SEN)「はい。今度は、ご相談しながら」

 

 天城が笑う。

 

 隼人も頷き、机へ向き直った。

 

 追加する護衛艦と航空支援には、まだ回答待ちの印をつけた。

 

 その戦力を出せると仮定した場合に、必要な働きが揃うか。それを確かめてから、実際に用意できるかを照会する。

 

 紙の上で役割ができても、そのまま出港できる艦隊にはならなかった。

 

     *

 

 二度目は、船団を動かす前に止まった。

 

三笠(KAN-SEN)「引き返すのは、どうなった時だ?」

 

隼人「私の帰投に必要な電力と、冷却の状態は、先に出します。まだ撃てるから残る、では、戻れなくなることがあります」

 

天城(KAN-SEN)「船団側は、損傷艦の速力と航行の状態を。予定より遅れた時には、その分もお伝えします」

 

赤城(KAN-SEN)「航空隊の交代が間に合わない時も、隠して続けることにはできませんわね」

 

三笠(KAN-SEN)「では、それを受けて私が判断する。ただし、返事を待ってはいけない事態まで、全部こちらへ寄せないようにしよう」

 

 全体と連絡が取れない時、何を続けるか。

 

 すでに決めた帰投の限界へ達した時、誰の返事まで待つ必要があるか。

 

 昨日、対抗側が通信を立て直そうとして止まった時間が、ここで話題に戻った。

 

 天城は、隼人へ渡す紙を短くした。

 

 自分が今、何を処理しているか。その間、何を他へ任せたいか。

 

 隼人も、見つかった反応の全部を読み上げるのをやめた。船団の行動へ関わる変化と、自分の位置を変える時の知らせを、先に出す。

 

三笠(KAN-SEN)「アイ。水上の更新は、私にも見えるように出せるかね」

 

アイ『画面を分けて表示できます。隼人、共有範囲を確認してください』

 

隼人「この図上で入力した目標位置と進路、識別の状態を出してくれ。兵装の消費は、今の欄へ残す」

 

アイ『了解。水上情報を右側へ表示します』

 

 隼人が画面を三笠へ向けた。

 

 未識別の反応は、そのまま未識別と記されている。三笠は、そこへ自分たちの艦から届いたと置く情報を照合し、確かめられた箇所を返した。

 

 隼人が読み上げ直すのを待たずに、三笠も同じ位置を見られるようになった。

 

 最初の札が開かれた。

 

隼人「前方の航空機を確認。こちらで対処する間、水上の動きは、そちらで見ていただけますか」

 

三笠(KAN-SEN)「引き受ける。君の知らせで確かめられる部分と、こちらの艦が見ている部分を合わせよう」

 

天城(KAN-SEN)「船団は、この針路を維持します。損傷艦に合わせますので、予定位置へ達するのは遅れます」

 

隼人「了解。こちらも、前へ出る位置を変えます」

 

 隼人が一つの札を見ている間に、三笠が別の紙へ目を落とす。

 

 天城の手が木片を動かし、赤城は航空隊の往路と帰路を確かめる。

 

 全員が隼人の指先を見て、次の返事を待つ形ではなくなった。

 

 水上の反応が変化したという紙が出る。

 

三笠(KAN-SEN)「隼人君。こちらの艦で確認を続ける。今の対処を中断しなくてよい」

 

隼人「承知しました」

 

赤城(KAN-SEN)「上空の援護は、いつまでも同じ機数では続きません。ここで交代を始めますわ」

 

天城(KAN-SEN)「では、交代の間に船団が進む位置を、こちらへ」

 

 赤城が仮に置いていた航空隊の交代時刻を伝え、隼人が画面へ加える。

 

 二つの色の線が、同じ所で細くなった。

 

アイ『注意。この配分を続ける場合、航空隊の交代と、隼人の迎撃継続が難しくなる時期が重なる見込みです』

 

隼人「私がもう少し残った場合は?」

 

アイ『帰投のために残す電力が減ります。航空隊の交代を早める案、護衛艦への引き継ぎ位置を変える案を比較できます』

 

赤城(KAN-SEN)「早めるだけでは、次の隊の準備が終わりませんわ。戻った機体へ、すぐにもう一度飛んでもらうこともできません」

 

アイ『準備に必要な時間を入力してください。その条件を残して計算し直します』

 

 赤城は、机へ置いていた航空隊の札を取り直した。

 

 帰ってくる時刻だけで交代を考えず、整備と搭乗員の休息を挟んだ時間を伝える。画面の線が、さらに先へ延びた。

 

アイ『航空隊の交代だけでは、この区間を埋められません。護衛艦への引き継ぎを先に始めれば、隼人が迎撃を続ける時間を短くできます。ただし、担当艦が船団側へ戻る時間が必要です』

 

天城(KAN-SEN)「船団の速力を上げて、そちらへ合わせることはできません。引き継ぐ艦の方に、動いていただくことになりますね」

 

三笠(KAN-SEN)「その艦が見ていた場所は、どうなる?」

 

アイ『同じ配置のままでは、確認できる範囲が狭くなります』

 

三笠(KAN-SEN)「なら、進み続ける理由も薄くなる。船団を戻す時に、護衛も戻す形で組み直そう」

 

 天城が帰りの線を引き、隼人が引き継ぎを始める位置を変えた。

 

 アイが示した二つの線は、今度は少し重なった。航空隊が交代する前に、別の手へ渡せる時間だった。

 

隼人「これなら、私が限界へ来てから呼ぶ必要はなくなりますね」

 

アイ『提示された条件では、引き継ぎに使える余裕が増加します。担当艦の移動と、連絡の所要時間は実際の運用で確認が必要です』

 

三笠(KAN-SEN)「そこを試す目的も、決まったな」

 

 隼人は返事をしてから、自分の手が止まっていないことに気づいた。

 

 水上の札は、まだ見える。

 

 誰かへ任せても、気にならなくなったわけではない。

 

 ただ、三笠が見ている。必要な変化があれば、伝えると引き受けてくれた。

 

 今、自分が確認しているものへ、目を戻せた。

 

     *

 

 終盤の紙を開いた時、天城が三隻のうち一つを止めた。

 

天城(KAN-SEN)「損傷艦の機関状態が悪化。予定していた速力を維持できなくなりました」

 

三笠(KAN-SEN)「二隻の輸送船は?」

 

天城(KAN-SEN)「現在のままで動けます。ただし、この艦に合わせれば、海域を抜けるまで、さらに時間が掛かります」

 

 隼人は、消費を記した紙を見た。

 

 前の局面までの仮定では、もう一度、迎撃を選べる余地がある。

 

 そこへ、アイの声が重なった。

 

アイ『船団の遅れを反映。今の位置で迎撃を続ける案は、先に設定した帰投余力を下回ります』

 

隼人「引き継ぎを始めた艦は、間に合うか」

 

アイ『入力された移動条件では、交代可能です。こちらが離脱を遅らせても、船団が海域を抜ける時刻は早まりません』

 

 隼人は、二つの到達時刻を見た。

 

 自分が残って撃ち続けることと、三隻を早く帰すことは、そこで繋がっていなかった。

 

 手を伸ばしかけた鉛筆が、紙の手前で止まった。

 

隼人「三笠さん。こちらは、交代が必要です」

 

三笠(KAN-SEN)「分かった」

 

 返事は、短かった。

 

 隼人は顔を上げた。

 

三笠(KAN-SEN)「天城。全体を引き返す。残った艦の護衛を、こちらへ寄せよう。隼人君は離脱の準備だ」

 

隼人「まだ、次の攻撃が――」

 

三笠(KAN-SEN)「来るかもしれん。そのために、他の艦を置いたのだろう」

 

隼人「……はい」

 

 天城が、護衛を示す木片を動かした。

 

 赤城は、残す航空隊と戻す航空隊を分ける。

 

 隼人の印が船団の前から離れても、白い三隻だけが取り残されることはなかった。

 

 もちろん、それで全てが済むわけではない。

 

 残った艦が、どこまで引き受けられるか。今置いた航空隊を、本当に出せるか。

 

 その欄には、まだ確認の印がついていた。

 

 隼人は印を動かし終え、手を離した。

 

 敵を示す札は、机の上に残っている。

 

 まだ沈めていない。

 

 海域を使い続けられるわけでもない。

 

三笠(KAN-SEN)「君なら、ここで追うかね」

 

隼人「追いません。ここからは、帰す方へ力を使います」

 

 三笠は頷いた。

 

 天城が残りの進行を確かめ、三隻を危険な海域の外側へ動かした。護衛艦の引き継ぎと航空支援が間に合うという、今回置いた条件の中では、帰すところまで線を繋げられた。

 

 最後に、隼人の印も、三隻の横へ置かれる。

 

 最初に引いた線より、ずっと短かった。

 

 前へ出る距離も、撃つ相手も減っている。

 

 だが、帰る場所には、四つの印があった。

 

     *

 

 扉が叩かれ、剣子が顔を出した。

 

剣子「そろそろ、一時間。どうですか」

 

三笠(KAN-SEN)「最初の案では、守り切れると言えんことが分かった」

 

剣子「そこから、何か進んだ?」

 

天城(KAN-SEN)「役割を分けた案を、もう一度。必要な護衛と航空支援、それから、確認をお願いする項目が残っています」

 

剣子「見せてもらっていい?」

 

 剣子が机へ寄った。

 

 隼人は、最初の紙と、二度目の紙を重ねずに差し出した。

 

隼人「こちらは、私の装備を中心に置いた案です。後ろの船の遅れと、私が確認できない時間を入れると、不足が出ました」

 

剣子「昨日、勝てた形を、そのまま持ってきた分があるのね」

 

隼人「はい。こちらは、三笠さんが全体を、天城さんが船団を、赤城さんが航空隊を受け持った場合です。アイには、更新の優先づけと、移動、迎撃、交代の時間を比べてもらいました」

 

剣子「そちらの線も、見せてもらえる?」

 

 隼人が画面を向けると、剣子は交代前後の線を指で辿った。

 

剣子「こっちへ変えると、一隻に任せる仕事が増えるね」

 

アイ『はい。隼人の消費は減りますが、護衛艦への負担が移ります』

 

剣子「では、その艦の余裕も一緒に照会しよう。ここの不足を、別の所へ移しただけでは困るから」

 

 剣子は、海図の外側にある札を見た。

 

 まだ机へ置けないままの艦もある。

 

 必要な所へ名前が書かれていても、その艦が出られるという回答は届いていなかった。

 

剣子「この護衛を出すと、今の警戒へ影響が出るかもしれないね」

 

三笠(KAN-SEN)「そこは私からも照会しよう。今日の並びを、そのまま要求として出すつもりはない」

 

剣子「お願いします。出せないなら、別の任務を止めてでも揃えるのか、こちらの案を変えるのか。その話が要るから」

 

 剣子が、最後の欄を指す。

 

剣子「隼人君が抜けたあとの分も、残ってる」

 

隼人「抜けると言ってから、どうするかを考え始めたのでは、遅いので」

 

赤城(KAN-SEN)「私からも、そこをお願いしましたわ」

 

 赤城の指先が、隼人の印へ触れた。

 

赤城(KAN-SEN)「前へ行かれる方が戻れなくなるのも、護衛がうまくいったとは申し上げられませんもの」

 

 隼人は、小さく息を吐いた。

 

隼人「……私も、帰す方へ入れていただいたわけですね」

 

天城(KAN-SEN)「最初から、入っておりますよ」

 

三笠(KAN-SEN)「君が、自分の分だけ別の計算を始めないか、そこも見る必要があるがな」

 

剣子「そこは、私も見ます」

 

 四人の視線が、隼人へ向いた。

 

 少し前まで、海図の上のどこを見ても、自分が確かめる仕事があった。

 

 今は、こちらを見ている者がいる。

 

隼人「……分かりました。離れる時は、先に伝えます」

 

剣子「うん。私たちも、引き受けられない時には、先に言う。それで、組み直そう」

 

 剣子は、紙の一番上へ日付を入れた。

 

 図上検討。

 

 護衛支援の確保、連絡の方法、交代に必要な条件を追記する。

 

 今日、机の上で繋がったことと、実際に確かめる必要があることを、それぞれの担当へ戻す記録だった。

 

 隼人は、自分の紙にも書き足した。

 

 前衛を希望する。

 

 その下へ、戻る時に引き継ぐ相手と、必要な支援を書く。

 

 希望だけを消すことには、ならなかった。

 

 そこへ辿り着くまでに、誰と何を揃えるかが増えた。

 

剣子「では、今日はここまで。明日、上から届く調整状況とも合わせます」

 

隼人「もう一度、条件を変えて――」

 

剣子「それをやるなら、明日の予定を見てから」

 

三笠(KAN-SEN)「同感だ。今から新しく始めると、今度は夕食へ届かなくなる」

 

赤城(KAN-SEN)「それは、困りますわね」

 

天城(KAN-SEN)「昼食の前にも、何かあったそうですから」

 

 隼人の手が止まった。

 

隼人「……どこまで伝わっているのでしょう」

 

天城(KAN-SEN)「ご飯を食べに出た先で、走っていらした、と」

 

隼人「短い話なのに、広まるのは早いですね」

 

 赤城が口元を隠す。

 

 剣子は笑いながら海図の端を揃え、三笠は木片を箱へ戻した。

 

     *

 

 会議室を出ると、窓の外の光が傾き始めていた。

 

 隼人は剣子と執務室へ戻り、預かった記録をそれぞれの綴りへ挟んだ。

 

 今日中に終えると決めた二つは、確認を済ませ、棚へ収まっている。

 

 返事を待つ紙の山は、まだある。

 

 明日までに増えるものもあるだろう。

 

剣子「明日は、どこから始める?」

 

隼人「上級司令部の連絡が来るまでは、今日の照会項目を整えます。装備の使い方に関する分は、私から技術班へ」

 

剣子「私は、大淀さんと、回答が来た分を合わせる。急ぎが入ったら、また分けよう」

 

隼人「承知しました」

 

 剣子が頷き、机の端の時計を見た。

 

剣子「勤務は、ここまでにしようか」

 

隼人「はい」

 

 少し意外そうな顔をされ、隼人は笑った。

 

隼人「今日は、返事が早かったでしょう」

 

剣子「うん。引き留める書類を探す前だった」

 

隼人「……それは、提督も同じでは?」

 

剣子「だから、一緒に終わりにするんです」

 

 二人は机を片づけ、執務室を出た。

 

 廊下の先で、大淀が交代の申し送りをしている。剣子はそちらへ声を掛け、隼人とは玄関で別れた。

 

 外へ出ると、潮の匂いがした。

 

 昨日、岩場へ向かった時とは違う道を、自分の足で歩く。

 

 肩にも背にも、兵装はない。

 

 机の上で動かした小さな印が、頭に残っていた。

 

 自分が抜けたあとへ、天城が護衛艦を動かした。

 

 赤城が航空隊を残し、三笠が引き返す判断をした。

 

 その間、隼人は、帰投のために残した分を使って戻っていた。

 

 アイが二つの計画を重ねたことで、その引き継ぎを、限界へ達する前に考えられた。

 

隼人「アイ。今日変えた通知の条件は、保存しておいてくれ。次の検討でも使う」

 

アイ『保存しました。隼人への優先通知と、他の担当者へ共有する項目を、別に残します』

 

隼人「ああ。私に全部を読ませるだけでは、もったいないからな」

 

 自分の手が届かない所にも、手を伸ばす者がいる。

 

 今日は、その相手の名を、出る前に決めていた。

 

 宿舎の廊下へ入ると、一つ先の扉から物音がした。

 

 共用の居間へ続く、自分たちの部屋だった。

 

 隼人は帽子を取り、扉の前で足を止める。

 

 中にいる人へ、先に声を掛ける。

 

 武蔵と決めたことを思い出し、軽く叩いた。

 

隼人「渡邉です。戻りました」

 

武蔵(艦娘)「ああ。開いているぞ」

 

 返事が、すぐに戻ってきた。

 

 隼人は戸へ手を掛ける。

 

 紙の上に書いた帰投先とは違う、夕方の灯りが、隙間から廊下へ伸びた。




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