陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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艦これはCアズレンはAと表記させていただきますのでお願いします。

クロスオーバーなので悪しからず

それではどうぞ


6-2 帰る灯

戸を開けると、畳の上に、まだ解かれていない包みが二つ置かれていた。

 

 その向こうで、武蔵が低い棚の引き出しを外している。

 

 眼鏡を少し下げ、片膝をついた姿勢のまま、隼人へ顔を向けた。

 

武蔵(艦娘)「戻ったか。お疲れだったな」

 

隼人「武蔵さんも、お疲れ様です」

 

 挨拶をしてから、隼人は履いていた半長靴を脱いだ。

 

 踵を揃え、爪先を戸口へ向ける。武蔵の履物の横へ置くと、玄関の空きが少し減った。

 

 共用の居間には、夕方の光が残っている。

 

 引き戸の向こうが、それぞれの寝室。

 

 机の端には、今朝も見た写真立てがあり、その隣へ湯呑みが一つ置かれていた。

 

武蔵(艦娘)「ちょうどよいところへ帰ってきた。そちらを、少し支えてくれないか」

 

隼人「棚を動かすんですか」

 

武蔵(艦娘)「ああ。ここだと、引き出しを開けるたびに、座る場所がなくなる」

 

 隼人は帽子を置き、反対側へ回った。

 

 棚そのものは、二人で持て余すような重さではない。ただ、片側だけ動かせば、畳の縁へ脚が引っかかる。

 

 武蔵が、外した引き出しを脇へ寄せた。

 

武蔵(艦娘)「そちらを少し上げる。……ああ、そのままでいい」

 

隼人「こちらへ寄せます」

 

 二人で向きを変え、壁際へ下ろす。

 

 棚が収まると、部屋の中央に空きができた。

 

 武蔵は一度、引き出しを奥まで押し込み、もう一度引いて確かめた。

 

武蔵(艦娘)「これなら、膝へぶつけずに済みそうだ」

 

隼人「私の荷物も、こちらへ入れて構いませんか」

 

武蔵(艦娘)「そのために空けた。下の段を使ってくれ」

 

隼人「ありがとうございます。では、こちらの箱は――」

 

武蔵(艦娘)「それは私のだ」

 

 隼人の手が止まる。

 

武蔵(艦娘)「似た包みだからな。気にするな」

 

隼人「……開ける前で、よかったです」

 

武蔵(艦娘)「私の方も、お前の物を持っていかないようにしよう」

 

 武蔵が、二つの包みをそれぞれの側へ寄せた。

 

 隼人は自分の分を解く。着替えと、手入れに使う小物。まだ行き先を決めていなかった物が、少しずつ棚へ収まっていった。

 

 胸元の小さな手帳を机へ置きかけ、引っ込める。

 

 今日は、机へ戻るたびに何かを書いていた。

 

 癖になっている。

 

武蔵(艦娘)「それも、こちらへ置けばいい」

 

隼人「共用の机ですから」

 

武蔵(艦娘)「手帳一冊で、私の場所はなくならん」

 

 武蔵は、写真立ての横を指した。

 

 隼人はそこへ手帳を置いた。

 

 持ち上げればすぐに自分の物だけ引き払える置き方から、ほんの少し、離れた気がした。

 

     *

 

 荷物の置き場所が決まると、武蔵が机の上の湯呑みを取った。

 

武蔵(艦娘)「茶を淹れ直そう。お前も飲むか」

 

隼人「いただきます。湯は、私が持ってきますよ」

 

武蔵(艦娘)「では、頼む。茶は、そこの缶にある」

 

 隼人が水屋の保温容器を持ち上げると、底に少しだけ湯が残っていた。

 

 廊下の給湯所まで行き、湯を足して戻る。

 

 その間に、机には二つ目の湯呑みが出されていた。

 

 武蔵が茶葉を入れ、隼人は湯を注ぐ。

 

 急須を挟んで向かい合うと、どちらからともなく、少し息を吐いた。

 

武蔵(艦娘)「今日は、机の上で戦っていたそうだな」

 

隼人「ええ。三笠さんたちと、輸送船を帰すための検討を」

 

武蔵(艦娘)「昨日の続きか」

 

隼人「昨日は、私一人が動ければ済んだところもありました。今日は、後ろに船がいましたので」

 

 隼人は湯呑みを両手で持った。

 

 午後には何度も動かしていた指が、温かい器の上で止まる。

 

隼人「自分が抜ける時に、誰へ渡すかまで決めていただきました。アイにも、ずいぶん助けてもらいました」

 

武蔵(艦娘)「あの声の主か」

 

隼人「はい。皆さんから条件を聞いて、いくつかの案を計算し直してもらったんです」

 

 耳元で、短い通知音が鳴った。

 

アイ『本日の比較記録は、保存を完了しています』

 

隼人「ああ。ありがとう」

 

 武蔵が、隼人の耳元へ目を向ける。

 

 隼人はタブレットを取り、机の脇へ置いた。

 

隼人「こちらからも、声を出せます。よろしいですか」

 

武蔵(艦娘)「構わん。私にも聞かせてくれ」

 

隼人「アイ、音声をこちらへ」

 

アイ『出力を切り替えます』

 

 卓上から聞こえた声に、武蔵が少しだけ身を寄せた。

 

武蔵(艦娘)「随分と近くに来たように聞こえるな」

 

隼人「耳元で聞いている時は、もっと近いですよ」

 

武蔵(艦娘)「それでは、考え事をしている時にも話せるわけか」

 

隼人「ええ。こちらが見ているものを整理してもらったり、計算を頼んだり。私が一人で数えていたら、間に合わなかった場面もあります」

 

武蔵(艦娘)「なるほど。お前の肩に、参謀がいるようなものだな」

 

隼人「時々、上官のようにも聞こえますが」

 

アイ『私は指揮権を持ちません』

 

 武蔵の口元が、少し上がった。

 

武蔵(艦娘)「そこは、きっちりしている」

 

隼人「ええ。ですが、こちらが休むと決める前に、仕事を続けた場合の話をされると、返す言葉がなくなることがあります」

 

アイ『隼人が、比較を求めたためです』

 

武蔵(艦娘)「聞いたのは、お前か」

 

隼人「……大抵は、そうですね」

 

 隼人も笑い、湯呑みへ口をつけた。

 

 熱すぎたので、少しだけ離す。

 

 武蔵は急いで飲まず、急須の蓋へ手を添えていた。

 

武蔵(艦娘)「今日は、ここへ仕事を持ってきていないのか」

 

隼人「記録は、しまってきました。手帳に、明日の用事が少しあるくらいです」

 

武蔵(艦娘)「そうか」

 

 それだけ答え、武蔵は自分の茶を飲んだ。

 

 隼人が続きを話すまで待っているわけでも、何かを言わせたいわけでもない。

 

 窓の外で、誰かが同僚を呼んでいる。

 

 少し遅れて返事があり、二人分の足音が遠ざかった。

 

     *

 

 壁の時計が進み、廊下から夕食の受け取りを知らせる声が届いた。

 

 宿舎の配膳所へ行くと、昼の食堂で起きた設備の不調について、まだ掲示が出ていた。夕食は受け取り場所を分け、順に渡しているらしい。

 

 隼人と武蔵は、それぞれの盆を持って部屋へ戻った。

 

 飯と汁、煮物、それから小皿が一つ。

 

 机に並べようとすると、さっき置いた手帳が邪魔になった。

 

 隼人がそれを持ち上げ、武蔵も写真立てを少し奥へ寄せる。

 

武蔵(艦娘)「机が一つだと、使うたびに場所が変わるな」

 

隼人「空けてから呼べばよかったですね」

 

武蔵(艦娘)「今、空いた」

 

 武蔵は盆を下ろした。

 

 隼人も向かいへ置き、二人で手を合わせる。

 

隼人「いただきます」

 

武蔵(艦娘)「いただきます」

 

 昼に走ってから食べた時ほどではないが、腹は空いていた。

 

 隼人が飯を食べ始めると、武蔵は何か言いかけてから、黙って煮物へ箸を伸ばした。

 

隼人「……何でしょう」

 

武蔵(艦娘)「いや。今日は、間に合ったなと思ってな」

 

隼人「武蔵さんのところまで、届きましたか」

 

武蔵(艦娘)「詳しくは聞いていない。食事へ出た先で、運動していた、と」

 

隼人「十分、詳しいです」

 

 武蔵は小さく笑い、また食べ始めた。

 

 食べる速さは、隼人より少しゆっくりだった。

 

 隼人は自分の茶碗を見て、箸を止める。

 

 この調子なら、先に食べ終わる。

 

 相手が食べている間に何か片づけようと考えかけ、今は、食べる途中だったと思い直した。

 

武蔵(艦娘)「急ぐ用事でもあるのか」

 

隼人「ありません。少し、癖が抜けなくて」

 

武蔵(艦娘)「なら、汁も温かいうちに飲め。冷めてから飲むには、惜しい」

 

隼人「……そうですね」

 

 汁椀を持ち上げる。

 

 部屋の外では、盆を運ぶ音が続いている。いつも通りの食事の時間が、廊下の向こうにもあった。

 

 しばらくして、武蔵が今日の工廠の話を始めた。

 

 受け取るはずの部品が別の作業区画へ運ばれ、探しに行った先で、今度は自分が持っている書類を探されていたという。

 

武蔵(艦娘)「物を見つけて戻ったら、担当者が私を探しに出ていた。行き違いというのは、面倒なものだ」

 

隼人「その後、お会いできたんですか」

 

武蔵(艦娘)「ああ。元の場所で待つことにしたら、戻ってきた」

 

隼人「二人とも探し続けなくて、よかったですね」

 

武蔵(艦娘)「そのままなら、私の夕食も遅れただろうな」

 

 隼人は頷いた。

 

 工廠へ入れば、そこには自分の知らない仕事がある。武蔵も、棚を動かし、茶を飲んでいるだけの一日ではなかった。

 

隼人「次に遅くなりそうな時は、先にお伝えします。こちらで、お待たせすることもあるでしょうから」

 

武蔵(艦娘)「私もそうしよう。待っていなければならない用事がある時には、な」

 

隼人「ええ」

 

武蔵(艦娘)「ただ、腹が減っていたら、先に食べるぞ」

 

隼人「それは、ぜひ」

 

 武蔵が笑う。

 

 隼人も、残りの飯へ箸を戻した。

 

     *

 

 食器を返し、湯呑みを洗って部屋へ戻る頃には、窓の向こうは暗くなっていた。

 

 居間の灯りをつけると、窓ガラスに二人の姿が薄く映る。

 

 武蔵が障子を寄せ、隼人は机を拭いた。

 

 動かしていた写真立てを元へ戻す時、手が少し止まる。

 

 この前、見せてもらった集合写真だった。

 

 艦を背に並ぶ顔。その端で、隣から肩を押されている武蔵。

 

 隼人が口元を緩めると、向かいへ座った武蔵が、その手元を見た。

 

武蔵(艦娘)「また、その顔か」

 

隼人「この時のことを、少し想像していました」

 

武蔵(艦娘)「最後まで、立つ場所が決まらなかった。前へ出ろと言う者と、後ろへ下がれと言う者がいてな」

 

隼人「背の高い方は、大変ですね」

 

武蔵(艦娘)「私だけ、少し離れて立てとも言われたぞ」

 

隼人「それは、寂しいですね」

 

武蔵(艦娘)「結局、皆が横へ広がった。今度は、写真へ収まらなくなった」

 

 隼人は吹き出しかけ、写真立てをそっと机へ置いた。

 

隼人「私の隊も、似たようなことをしました」

 

武蔵(艦娘)「この前も、そんなことを言っていたな」

 

隼人「ええ。横断幕を広げる者と、並び直す者と、まだ帽子を探している者がいました」

 

武蔵(艦娘)「撮る前から、賑やかだったのだな」

 

隼人「写真を撮るぞ、と言われた時だけ、全員が別の用事を始めるんです」

 

 思い返すと、声まで少し戻ってきた。

 

 誰が真ん中へ立つか。

 

 誰が、横断幕の端を持つか。

 

 早くしろと急かした兄が、自分の帽子をどこへ置いたか分からなくなっていた。

 

 見つけた勇翔が、それをしばらく後ろへ隠していた。

 

隼人「兄は、真ん中に立つのを嫌がっていました。お前が小隊長だろう、と、周りから押されまして」

 

武蔵(艦娘)「お前の兄は、そこで素直に立ったのか」

 

隼人「立ちました。ですが、撮る直前まで何か言っていましたね」

 

武蔵(艦娘)「それで、よい写真は撮れたか」

 

隼人「……はい。皆、笑っていました」

 

 言い終えてから、隼人は少し黙った。

 

 何を言ったから、皆が笑ったのか。

 

 そこは、はっきり覚えていない。

 

 覚えているのは、隣の肩がぶつかったことと、撮り直すから動くなと言われたことだった。

 

武蔵(艦娘)「お前は、どんな顔をしていた」

 

隼人「私ですか」

 

武蔵(艦娘)「皆のことは、よく覚えているようだからな」

 

 隼人は、写真の中に自分を置いてみた。

 

 兄の隣。

 

 兄を挟んだ向こう側には、勇翔がいる。

 

 口を閉じて真面目に立つつもりだった。

 

 だが、その直前に、何か言われた。

 

隼人「多分、私も、笑っていました」

 

武蔵(艦娘)「多分か」

 

隼人「自分の顔を見ていたわけではありませんので」

 

武蔵(艦娘)「写真は、持っていないのか」

 

 隼人は、胸元へ手をやった。

 

 あるはずの物を探したというより、何を持ってここへ来たかを、確かめる動きだった。

 

 手帳。身分証。認識票。

 

 回収してもらった物には、その写真はなかった。

 

隼人「今、手元には。……アイ、保存してある画像に、第一小隊の集合写真は残っているか」

 

アイ『現在参照できる保存画像に、該当するものはありません』

 

隼人「そうか」

 

 タブレットの画面は、変わらなかった。

 

 何かを計算すれば見つかるという物ではない。

 

 隼人は、胸元から手を下ろした。

 

 武蔵も、画面を覗き込まなかった。

 

武蔵(艦娘)「見つかったら、見せてくれ」

 

隼人「ええ」

 

武蔵(艦娘)「なければ、今の話の続きでもいい。帽子を隠された兄が、そのあと、どうしたか」

 

隼人「……そこは、分かるものなんですね」

 

武蔵(艦娘)「隠して終わるような弟では、なさそうだからな」

 

 隼人は少し考え、笑った。

 

隼人「よく、お分かりで」

 

 勇翔は返すつもりで、帽子を高く掲げた。

 

 その手を下ろさせようと、兄が背伸びをする。

 

 周りに、早く撮らせろと笑われた。

 

 最後には二人とも肩を押され、三人で並び直した。

 

 武蔵は黙って聞き、時々、短く笑った。

 

 誰が、今どこにいるのか。

 

 何人が帰ってこなかったのか。

 

 その先を、聞こうとはしなかった。

 

 隼人は、帽子が持ち主へ戻ったところまで話した。

 

     *

 

 話が途切れた時、武蔵が立ち上がった。

 

 棚の上へ置いた小さな包みから、茶菓子を二つ取り出す。

 

武蔵(艦娘)「これも、食べてしまおう。明日まで置いておくと、私が忘れそうだ」

 

隼人「いただいて、構いませんか」

 

武蔵(艦娘)「二つある」

 

 皿へ置かれた菓子を見て、隼人は頷いた。

 

 急須の湯を替える間に、武蔵は写真立ての向きを少し直す。

 

 その向こうに空いている棚へ、隼人が目を向けた。

 

隼人「写真を飾ると、部屋の様子が変わりますね」

 

武蔵(艦娘)「何もなければ、借りたばかりの部屋だからな」

 

隼人「私の荷物は、仕舞うだけで終わってしまいました」

 

武蔵(艦娘)「お前も、置きたい物ができたら置けばいい」

 

隼人「何がいいでしょう」

 

武蔵(艦娘)「私へ聞くのか」

 

隼人「……そうですね」

 

 隼人は笑い、机へ戻った。

 

 手帳と湯呑みが並んでいる。

 

 畳の端には、自分がほどいた包みの紐。

 

 棚の下段には、畳んだ着替え。

 

 初めてここへ入った時には、なかった物だった。

 

 隼人は懐からスマートフォンを出した。

 

 画面を点け、写真の機能を開く。

 

隼人「この部屋を、一枚撮っておいても構いませんか」

 

武蔵(艦娘)「部屋を?」

 

隼人「ええ。自分の荷物を、ようやく置いたので」

 

武蔵(艦娘)「構わんが……それで、撮れるのか」

 

隼人「はい。撮ったものも、その場で見られます」

 

 武蔵が眼鏡を直した。

 

 隼人は机の上と、その横へ移した棚を画面へ入れる。

 

 写真立てだけを大きく撮らず、湯呑みと、畳の端と、今片づけた包みも一緒に写した。

 

 短い音が鳴る。

 

 隼人が画面を見直すと、端に武蔵の手が入っていた。

 

隼人「ああ。少し、写ってしまいましたね」

 

武蔵(艦娘)「撮り直すか」

 

 隼人は、画面の中の机を見た。

 

 湯呑みが二つ。

 

 一つは自分の物で、もう一つには、指が添えられている。

 

隼人「……武蔵さんがよろしければ、このままで」

 

武蔵(艦娘)「私の手があっても、構わんのか」

 

隼人「ええ。その方が、今日の部屋らしいです」

 

 武蔵は、少しだけ黙った。

 

 それから隼人が向けた画面を見て、頷く。

 

武蔵(艦娘)「なら、それでいい」

 

 隼人は写真を保存した。

 

 誰かの所在地を確かめるためでも、艦の形を見分けるためでもない。

 

 棚を動かし、茶を飲んだ部屋の、一枚だった。

 

     *

 

 茶菓子を食べ終えると、武蔵が湯呑みをまとめた。

 

 隼人は包みの紐と、残っていた紙を片づける。

 

 居間は、二人が座れる広さを残して、ようやく落ち着いた。

 

 壁の時計へ目を向ける。

 

 まだ、寝るには少し早い。

 

 そう思ったところで、机の手帳が目に入った。

 

 明日の照会項目を、一つだけ。

 

 指先が表紙へ触れかける。

 

武蔵(艦娘)「何か、書き忘れか」

 

隼人「明日の用事を、少し確かめようかと」

 

武蔵(艦娘)「今、忘れてしまいそうなのか」

 

隼人「……いえ。もう、書いてあります」

 

 隼人は手を止めた。

 

 武蔵は、手帳を取り上げなかった。

 

 自分の方も、机の脇に置いていた書類包みを持ち、自室へ戻す。

 

 隼人は手帳を閉じたまま、タブレットへ向いた。

 

隼人「アイ。明朝の予定を、短く出してくれ。今、続きを始めるためではなくて、朝、何からやるかを決めておきたい」

 

アイ『技術班への照会項目の整理。その後、上級司令部から届く調整状況の確認が予定されています』

 

隼人「朝食を取ってからで、間に合うな」

 

アイ『現在の予定では、朝食を省く必要はありません』

 

 寝室から戻ってきた武蔵が、こちらを見る。

 

武蔵(艦娘)「聞くところが、食事なのだな」

 

隼人「今日は、そこを何度も言われましたので」

 

武蔵(艦娘)「なら、明日は私が食べる時に、一緒に食べればいい」

 

 隼人が顔を上げた。

 

武蔵(艦娘)「早く出る用事がなければ、だが」

 

隼人「ありません。……では、ご一緒してもいいですか」

 

武蔵(艦娘)「今、そう言った」

 

隼人「ええ。そうでしたね」

 

 隼人は少し笑い、明日の時刻を確かめた。

 

 支度に掛ける時間を考え、起きる時刻を決める。

 

隼人「アイ。明朝六時に起こしてくれ。朝の確認は、そのあとに」

 

アイ『設定しました。時刻の通知は、耳元の端末で行います』

 

武蔵(艦娘)「部屋中へ鳴るわけではないのか」

 

隼人「それもできますが、武蔵さんまで起こしてしまいますから」

 

武蔵(艦娘)「私は起きているかもしれん。ただ、静かな方がよいな」

 

隼人「では、そのままで」

 

 アイの返事を聞き、隼人は画面を閉じた。

 

 夜間の緊急連絡を受ける設定は残し、明日の確認に回せる通知だけを止める。

 

 机の灯りが、少し眩しかった。

 

 武蔵も同じように感じたのか、立ち上がって、手元の灯りだけを残した。

 

 部屋の隅が、柔らかく暗くなる。

 

     *

 

 それぞれの寝室へ入る前に、隼人は玄関まで戻った。

 

 鍵と、戸の収まりを確かめる。

 

 半長靴は、帰ってきた時に置いた場所にある。

 

 その隣に、武蔵の履物。

 

 廊下で誰かが立ち止まり、隣室へ声を掛けた。中から返事があり、戸が閉まる。

 

 隼人はしばらく、その音を聞いていた。

 

 今日、自分へ返ってきた声も、あれと同じだった。

 

 戻りました、と告げれば、中にいる人が答えた。

 

 隼人は居間へ戻った。

 

 武蔵は、自室の引き戸のところで、眼鏡を拭いている。

 

武蔵(艦娘)「戸は?」

 

隼人「閉めました。……少し、確かめていました」

 

武蔵(艦娘)「ああ」

 

 武蔵は眼鏡を掛け直した。

 

 隼人が何を確かめていたかまでは、聞かなかった。

 

隼人「今日は、ありがとうございました」

 

武蔵(艦娘)「棚を動かしたのは、お互い様だ」

 

隼人「それも、ですが。話を聞いていただいて」

 

 武蔵は、少しだけ首を傾けた。

 

武蔵(艦娘)「私も、話したぞ」

 

隼人「……はい」

 

武蔵(艦娘)「それでいいだろう」

 

 隼人は返事をしてから、机へ目を向けた。

 

 自分の手帳が置いてある。

 

 写真立ての隣に、明日も使う場所がある。

 

 どこへ仕舞ったかを尋ねずに、自分で取りに戻れる物が、もう、この部屋にはあった。

 

隼人「おやすみなさい、武蔵さん」

 

武蔵(艦娘)「ああ。おやすみ」

 

 引き戸が、静かに閉まった。

 

 隼人も、自分の寝室へ入る。

 

 横になって目を閉じると、向こう側で物を置く小さな音がした。

 

 誰かが、同じ家の中で、寝る支度をしている。

 

 隼人は、枕元へ置いた端末へ目を向けた。

 

隼人「アイ」

 

アイ『はい』

 

隼人「明日の予定に、朝食を足しておいてくれ」

 

アイ『朝食は、すでに予定へ含まれています』

 

隼人「……武蔵さんと、と」

 

 僅かな間のあと、返事があった。

 

アイ『追記しました』

 

 隼人は頷き、目を閉じた。

 

 明日、ここを出る前にすることが、一つ決まった。

 

 そのあとには、返事を待つ書類も、新しい仕事もある。

 

 いまは、引き戸の向こうで、紙を一枚めくる音がした。

 

 隼人はそれを聞きながら、肩から力を抜いた。




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兵器解説

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