陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

85 / 87
艦これはCアズレンはAと表記させていただきますのでお願いします。

クロスオーバーなので悪しからず

それではどうぞ


6-3 その約束忘れずに

耳元で、小さな音が鳴った。

 

アイ『六時です』

 

 隼人は目を開けた。

 

 天井を見てから、ゆっくりと息を吐く。薄い朝の光が、障子の向こうへ広がっていた。

 

 隣室から、引き戸を開く音がする。

 

 身体を起こし、寝台を整えてから着替えた。共用の居間へ出ると、武蔵が湯を用意している。

 

武蔵(艦娘)「起きたか」

 

隼人「おはようございます」

 

武蔵(艦娘)「ああ。よく眠れたようだな」

 

隼人「ええ。武蔵さんは?」

 

武蔵(艦娘)「私もだ。支度ができたら、朝食を受け取りに行こう」

 

 隼人は頷いた。

 

 昨日、棚を動かして空けた場所を通り、自分の手帳を取る。

 

 机の上には、まだ、何も広げなかった。

 

     *

 

 朝食を終え、二人で宿舎を出た。

 

 庁舎へ向かう道と、工廠へ向かう道が分かれる所で、武蔵が足を止める。

 

武蔵(艦娘)「私は、こちらだ」

 

隼人「いってらっしゃい。私も、今日は司令部と航空隊の方へ」

 

武蔵(艦娘)「そうか。では、また夜にな」

 

隼人「ええ」

 

 武蔵の背を見送り、隼人も歩き出した。

 

 肩から提げた鞄には、昨日まとめた照会項目が入っている。

 

 今日で、元帥たちとの会談から三日。

 

 上級司令部が約束した、調整状況の連絡を受ける日だった。

 

 執務室では、大淀が届いた書類を分けていた。剣子は、すでにその一部へ目を通している。

 

剣子「おはよう。昨日は、ちゃんと休めた?」

 

隼人「はい。こちらも、まとめてきました」

 

 照会項目を渡すと、剣子は表紙を開いた。

 

 図上で置いた護衛を、実際にどこから出せるか。航空隊の交代に必要な時間を、どの担当へ確かめるか。

 

 昨日の机で決まったことが、今日、別の机へ渡る形になっている。

 

剣子「これなら、担当ごとに回せるね。ありがとう」

 

大淀(艦娘)「上級司令部からの資料は、届いたものからこちらで揃えます。午後、提督と一緒に確認していただけるように」

 

隼人「お願いします。午前中に、航空隊の追記を受け取ってきます」

 

剣子「うん。それから――」

 

 剣子が、演習記録の綴りへ目を向けた。

 

剣子「そちらの約束も、忘れていないよね」

 

隼人「……一日、ですか」

 

剣子「君が言った一日です」

 

 大淀の手は止まらなかった。

 

 止まらなかったが、紙を揃える音が、少しだけ小さくなった。

 

隼人「忘れていません。記録も見ましたし、今日は、本人たちにも少し話を聞こうと思っています」

 

剣子「なら、よかった。決めたら、休みの日を調整しよう。言ったまま、なくなる約束にはしないでね」

 

隼人「はい」

 

 隼人が綴りを取ると、大淀が別の封筒を載せた。

 

大淀(艦娘)「こちらが、各隊からの追記です。勝敗の集計とは分けてあります」

 

隼人「ありがとうございます」

 

大淀(艦娘)「お相手を選ぶためだけで、読み終わりにはしないでくださいね」

 

隼人「……皆さん、そこを心配なさるんですね」

 

剣子「反対も困るんだよ。記録を読む仕事だけ続いて、約束の方が決まらないのも」

 

 隼人は苦笑し、封筒を受け取った。

 

     *

 

 航空隊へ向かう前に、隼人は空いている机を借りた。

 

 タブレットを置き、観測側と自分の記録を並べる。

 

隼人「アイ。演習中、私が対処を切り替えた区間を出してくれ。空への迎撃と、移動と、水上の確認を同じ時刻で」

 

アイ『表示します。射撃の切り替え、移動、確認操作を別の線で並べました』

 

 第一波では、近づいてくる機体の進路が重なっていた。

 

 隼人は先頭へ射撃を向け、投下された物を迎撃した。

 

 次の機体も、近い場所へ来た。

 

 第二波では、その線が変わる。

 

 射撃を切る。移動する。

 

 固定砲を向けるために、姿勢を整える。

 

 その間も、別の航空目標と水上の反応は追われていた。

 

隼人「ここで、水上の確認を後へ回した」

 

アイ『はい。追尾の更新から、隼人が状況を確認し直すまでの間隔が広がっています』

 

隼人「回避の回数だけなら?」

 

アイ『比較できます。回避に続く姿勢変更や確認操作も並べれば、その後の判断への影響を見られます』

 

隼人「水上の確認を後へ回した区間と、そのあとの砲撃準備も、重ねてくれ」

 

 線が一つ、加わった。

 

 手元の記録へ、隼人は印をつける。

 

 ただ、忙しくなっただけではない。

 

 相手へ答え続ける間、自分から始めるつもりだったことが、後へ押されていた。

 

 そのあと、水上の艦隊が動きを戻した。

 

 隼人が帰投のための電力を確かめ、対艦誘導砲弾の使用を選んだ時刻まで、記録は繋がっている。

 

隼人「一番長く相手をした者、で決めるのも違うな」

 

アイ『各区間の比較結果は表示できます。相手側の指示と、その実行の経緯は、提出された記録との照合が必要です』

 

隼人「ああ。そこを聞いてくる」

 

 隼人は画面へ、私用の一行を書き足した。

 

 自分に、何をやめさせたか。

 

 何を、選び直させたか。

 

 演習で受けた判定の欄とは、別の所へ残しておく。

 

 相手を決めるのは、自分だった。

 

     *

 

 渡り廊下で、伊8と会った。

 

 艦娘の彼女は、追記用の紙を手に、司令部へ向かうところだった。

 

伊8(艦娘)「副提督。お渡ししたかったものがあるのですが」

 

隼人「演習の分ですか」

 

伊8(艦娘)「はい。進入の記録へ、退避した時の位置を足しました」

 

 隼人は受け取り、その場で開いた。

 

 攻撃へ移る前に対潜演習弾が来た区間と、そのあとに離れた経路が描かれている。

 

伊8(艦娘)「会場では、近づけなかったことを先にお話ししましたから。逃げる時、何を避けていたかも残しておこうと思いまして」

 

隼人「助かります。私の方から見えたものと、そちらが避けたかったものは、全部同じではないので」

 

 伊8は頷き、彼の手元を見た。

 

伊8(艦娘)「お休みのお相手は、決まりましたか」

 

隼人「まだです。今、こちらも読み比べているところです」

 

伊8(艦娘)「では、私の記録も、よく見てくださいね」

 

 穏やかに言われ、隼人は顔を上げた。

 

 伊8は、そのまま小さく笑った。

 

伊8(艦娘)「でも、次の演習のためにも、です」

 

隼人「はい。そちらは、必ず」

 

 別れて歩き出してから、隼人は紙を鞄へしまった。

 

 約束を聞いていたのは、空母の者たちだけではなかった。

 

 海の下から来た者も、その一日の話を覚えている。

 

アイ『受領した追記の保管先を、演習資料へ追加しますか』

 

隼人「追加してくれ。あとで照合する」

 

 短く返し、隼人は足を進めた。

 

     *

 

 航空隊の連絡所には、二人の加賀がいた。

 

 机に広げられているのは、進入と離脱の記録だった。

 

 艦娘の加賀が、紙の端を押さえる。KAN-SENの加賀は、その上へ別の記録を置いていた。

 

加賀(艦娘)「お待ちしていました。こちらが、機体の判定を照合し直した分です」

 

隼人「ありがとうございます。途中で攻撃を中止した機体も、こちらに?」

 

加賀(艦娘)「ええ。被弾した機体と、進路を取れなくなった機体を、同じ欄へ入れないようにしました」

 

 加賀は、最初の攻撃隊の記録を示した。

 

 先頭が離脱したあと、後続の動きが重なった箇所。

 

 隼人が撃ち続けたことと、こちらが前へ進めなくなったことを、一つにまとめないための追記だった。

 

隼人「私も、ここは分けておきます。射撃をした側の記録だけでは、全部を撃ち落としたように見えてしまいますから」

 

加賀(艦娘)「そうしていただければ」

 

 紙を揃えながら、彼女は隼人を見た。

 

加賀(艦娘)「それで。今日は、もう一つの用事もあるのでは?」

 

 KAN-SENの加賀が、隣へ目を向ける。

 

隼人「……皆さん、よくご存じで」

 

加賀(艦娘)「全隊へ、三笠さんから伝えられたことですもの」

 

加賀(KAN-SEN)「自分で言ったことを、驚くな」

 

隼人「忘れているわけではありませんよ。ただ、思ったより多くの方が、覚えてくださっていまして」

 

加賀(KAN-SEN)「それだけのことを、言ったのだろう」

 

 返す言葉がない。

 

 隼人は頷き、第二波の記録を出した。

 

隼人「こちらを、少し詳しく聞かせていただけますか」

 

加賀(KAN-SEN)「どこだ」

 

隼人「雷撃を避けたあとに、戦闘機が来たところです。その前後も」

 

 加賀は椅子を引いた。

 

 隼人へ座るよう示してから、記録の上へ指を置く。

 

加賀(KAN-SEN)「急降下する機体と、低く入る機体。それから、移動した先を受け持つ機体。役割を重ねすぎないようにした」

 

隼人「最初の隊では、同じ場所へ来ていましたね」

 

加賀(KAN-SEN)「狙う場所が一つでも、そこへ入る道まで全て同じである必要はない。離脱する相手へ、後ろの機体までついていけば、攻撃する者がいなくなる」

 

 艦娘の加賀が、離脱の合図を確認した箇所を指す。

 

加賀(艦娘)「こちらの記録とも、ここで繋がります」

 

 隼人は頷いた。

 

 雷撃だけに注意が向いていたわけではない。

 

 アイは、次に近づく機体も追っていた。

 

 それでも、身体を移し、砲を向け、投下された物へ対処する時間は、なくならなかった。

 

隼人「私が気づけば終わる攻撃では、なかった」

 

加賀(KAN-SEN)「見つかっただけで、終わるつもりはなかった」

 

 隼人は、タブレットへ目を落とした。

 

隼人「アイ。こちらの説明と、私の移動記録を合わせてくれ」

 

 加賀たちにも聞こえるよう、音声を切り替える。

 

アイ『照合しました。雷撃への回避後、戦闘機への対処に伴う移動と姿勢変更が続いています。その間に、次の投下への確認操作が入っています』

 

隼人「そのあと、水上の更新を後へ回した」

 

アイ『はい。情報の欠落ではなく、隼人の確認が後ろへ移っています』

 

 加賀は画面へ顔を寄せた。

 

加賀(KAN-SEN)「これが、お前の見ていた順番か」

 

隼人「ええ。受けた知らせと、確かめて選んだところは、分けてあります」

 

加賀(KAN-SEN)「だが、水上の反応そのものは、残っていた」

 

隼人「残っていました。そこで追尾まで止まっていたら、私の次の判断は、もっと遅れていたでしょう」

 

 隼人は、表示を少し戻した。

 

 第一波のあと、こちらへ戻っていた余裕が、第二波では短くなっている。

 

 次に何をするかを、自分だけの都合で決められない時間だった。

 

隼人「この場面では、砲撃を始めたかったんです。ですが、その前に答えなければならないことが、次々に来た」

 

加賀(KAN-SEN)「それでも、最後には撃った」

 

隼人「はい。続けて待つ方が、余計に使うと考えました」

 

加賀(KAN-SEN)「こちらは、そこを止められなかったわけだな」

 

 彼女は、命中判定の数へ目を移さなかった。

 

 隼人が岩場へ戻り、姿勢を整えた時刻を確かめている。

 

加賀(艦娘)「そこまでで、こちらが何を使ったかも、残しておきましょう」

 

隼人「お願いします。そちらの機数も、搭乗員も、際限なく増えるわけではありませんから」

 

 KAN-SENの加賀が、短く頷いた。

 

 それから、隼人の顔を見た。

 

加賀(KAN-SEN)「一つ、言っておく。あれは私一人が飛ばした攻撃ではない」

 

隼人「はい」

 

加賀(KAN-SEN)「飛んでいる者が、実際にお前の動きを見ている。合図を受け、空いた所へ入る。それを、こちらの机から全部、動かしたことにはするな」

 

 隼人は、追記用の紙へ書き込んだ。

 

 整えたこと。

 

 空で判断して続けたこと。

 

 同じ成果の中にも、それぞれの働きがある。

 

隼人「分けて残します。……聞けて、よかったです」

 

 加賀は紙へ目を戻した。

 

加賀(KAN-SEN)「それで、次に同じことをされても、困らないようになるのか」

 

隼人「全部とは、申しません」

 

加賀(KAN-SEN)「なら、次も困らせる余地はあるな」

 

 隼人は少し笑った。

 

隼人「ええ。ですから、こちらも考えます」

 

     *

 

 連絡所を出ると、廊下の先で雲龍が手を振った。

 

 点検へ回す記録を、別の担当へ渡してきたところだという。

 

雲龍(艦娘)「話、長くなった?」

 

隼人「少し。聞きたかった所を、確認できました。雲龍さんにも、一つお願いしたいのですが」

 

雲龍(艦娘)「何?」

 

隼人「演習中の航跡を、私の記録と合わせたいんです」

 

 雲龍は頷き、持っていた綴りを開いた。

 

 廊下脇の空いた机を借り、隼人もタブレットを置く。

 

隼人「アイ。こちらの位置と時刻を、追尾していた反応へ重ねてくれ」

 

アイ『入力を受け付けます』

 

 雲龍が示した時刻と位置を、順に入力する。

 

 画面の奥側で、一つの航跡が色を変えた。

 

アイ『この追尾記録と整合します。対象の位置は更新されていますが、演習終了前に旗艦と確定した記録はありません』

 

隼人「……この反応でしたか」

 

雲龍(艦娘)「見えては、いたんだね」

 

隼人「ええ。そこに艦がいることは、分かっていました。ただ、何を受け持つ艦なのかまで、同時に分かったわけではありません」

 

 手前には、三笠の艦がある。

 

 その向こうに、別の船影。

 

 あの時、見えていた海の並びが、今朝の画面へ戻ってくる。

 

雲龍(艦娘)「私は、決められた位置で、隊列に合わせていた。自分だけ違う動きをしたら、そちらが気になるでしょう」

 

隼人「旗艦だけが、目につく形にならないように」

 

雲龍(艦娘)「うん。三笠さんが指揮して、私は、最後まで残る方。私が勝手に前へ出ても、困るから」

 

 雲龍は紙の上へ指を置いた。

 

 隣の艦が動いたところで、自分も位置を変えている。

 

 追尾から消えたのではない。ほかの艦の動きへ紛れたまま、どの一隻を取れば終わるのかを、隼人へ知らせずにいた。

 

隼人「全体の配置を考えたのは、三笠さんたちですね」

 

雲龍(艦娘)「そう。私一人で隠れていたわけじゃないよ」

 

隼人「その位置を保っていたのが、雲龍さんだった」

 

 雲龍が頷く。

 

 隼人は、最後の射撃の記録へ表示を進めた。

 

 攻撃対象を選んだ一覧に、あの時の艦名は揃っていない。

 

雲龍(艦娘)「あの砲弾で終わらなかったら、次は、どうするつもりだった?」

 

 隼人の指が止まった。

 

 まだ反撃できる艦は、残っていた。

 

 その相手を一隻ずつ撃って確かめるには、残弾も、使える時間も足りなくなる。

 

隼人「残った兵装と帰投の分を見て、攻撃を続けられるか、決め直す必要がありました。あの時点では、勝つために止める一隻を、まだ絞れていなかったので」

 

雲龍(艦娘)「そっか」

 

 雲龍は、勝ち誇るようには笑わなかった。

 

 自分の綴りを閉じ、隼人が表示を見終えるのを待つ。

 

隼人「ありがとうございます。これも、追記へ合わせておきます」

 

雲龍(艦娘)「うん。……一日、付き合う方も?」

 

隼人「そちらを考えるためにも、聞きたかったんです」

 

 雲龍の視線が、画面から隼人へ移った。

 

雲龍(艦娘)「私も、約束は覚えてるよ」

 

 眠そうな目のまま、口元が少し緩む。

 

雲龍(艦娘)「でも、ちゃんと選んでね」

 

隼人「はい」

 

 雲龍は頷き、記録を抱え直した。

 

雲龍(艦娘)「私は、これを置いてくる。このあとは、艦の方にいるから」

 

隼人「分かりました」

 

 その背を見送り、隼人は航跡を保存した。

 

 最後まで、艦名も役割も確かめ切れなかった反応。

 

 今は、その線の横へ、雲龍と記されている。

 

     *

 

 天城と会ったのは、会議棟へ戻る途中だった。

 

 彼女も、艦隊側の照会をまとめている。

 

 隼人が尋ねると、発光信号で動きを戻した区間の記録を出してくれた。

 

天城(KAN-SEN)「私から伝え直したことだけでは、ございません。隣の艦が動いたのを見て、合わせたところもあります」

 

隼人「私は、あの位置が揃い始めたのを見て、長引かせられないと考えました」

 

天城(KAN-SEN)「でしたら、少しは急いでいただけたのですね」

 

隼人「ええ。空だけを退けて、あとで順に撃てばよい、とはできませんでした」

 

 天城は、紙の余白へ短く印をつけた。

 

 こちらが待っていた時間と、そのあいだに相手が待たなくなった時間。

 

 昨日の図上検討でも確かめたことが、実際の記録へ戻っていく。

 

天城(KAN-SEN)「そのお話、三笠様にも聞かせてくださいませ。対抗側全体で、どこまで働けたかを確かめていらっしゃいますから」

 

隼人「分かりました」

 

天城(KAN-SEN)「……一日のご相談も、でしょうか」

 

隼人「こちらまで、相談に見えてしまいますか」

 

天城(KAN-SEN)「今日は、それを聞かれない方が難しいと思いますよ」

 

 隼人は苦笑した。

 

 天城は、彼の手帳を覗こうとはしなかった。

 

天城(KAN-SEN)「誰の働きかをお確かめになるのは、よいことです。ただ、皆さんへ同じお約束を、増やしてしまわれませんように」

 

隼人「……一日ずつ、ということですか」

 

天城(KAN-SEN)「副提督のお休みが、足りなくなります」

 

隼人「そこは、増やさずに選びます」

 

天城(KAN-SEN)「はい。ご自身で、お決めになってください」

 

 柔らかく笑い、天城は書類を抱え直した。

 

     *

 

 昼前、隼人は執務室の隅で記録を開き直した。

 

 受け取った追記は、公務の綴りへ戻してある。

 

 手元に残したのは、自分の操作と、相手の動きを照らした紙だった。

 

隼人「アイ。第二波から、最後の射撃まで。それから、雲龍さんの航跡も」

 

アイ『表示します』

 

 加賀たちの攻撃によって、動かされた線が現れた。

 

 そこで撃たずに、先に移動した。

 

 ここで相手を見直し、水上の確認を後へ回した。

 

 その奥に、最後まで役割を確定できなかった艦の航跡がある。

 

 攻撃へ答える手間が増え、こちらから終わらせるための相手を絞る余裕も、減っていった。

 

隼人「私が一番、決め切れなかったのは、ここだな」

 

アイ『最後の射撃では、確認できた複数の水上目標へ小型誘導体を割り当てています。旗艦の名称が確定したのは、終了の連絡を受けた時点です』

 

隼人「ああ。一隻ずつ確かめられるほど、弾薬も時間も残せなかった」

 

 三笠が全体を動かし、天城と各艦が、その連絡を繋ぎ直した。

 

 加賀たちの航空隊は、こちらへ対処の変更を迫った。

 

 その中で、雲龍は判定旗艦の役を保ち、最後まで、終わらせる相手を隼人へ絞らせなかった。

 

 配置を作った者と、その位置で役割を果たした者。

 

 それぞれの働きは、報告へ残してある。

 

 自分の勝敗を決めるために、最も手を焼いた相手を考えた時、隼人は、今朝合わせた一本の航跡へ戻った。

 

 彼は手帳へ、一人の名を書いた。

 

 雲龍。

 

 その横へ、艦娘と添える。

 

 しばらく見てから、手帳を閉じた。

 

隼人「約束の相手は、決めた」

 

アイ『記録しますか』

 

隼人「まだ。先に、本人へ伝える」

 

     *

 

 雲龍は、艦内へ戻る前の控室で、記録の整理を終えようとしていた。

 

 隼人が戸口で声を掛けると、手にしていた紙を置く。

 

隼人「雲龍さん。もう少し、お時間をいただけますか」

 

雲龍(艦娘)「うん。航跡の続き?」

 

隼人「いいえ。約束の方です」

 

 雲龍の指が、紙の端で止まった。

 

 隼人は彼女の前へ進み、顔を見る。

 

隼人「次の休み、空いていますか」

 

雲龍(艦娘)「……私と?」

 

隼人「はい。休みを一日、お付き合いさせてください」

 

 雲龍は、すぐには返事をしなかった。

 

 先ほどまで半分ほど閉じていた目が、隼人をまっすぐ見ている。

 

雲龍(艦娘)「選んでくれたの?」

 

隼人「ええ。最後まで、どの艦を止めれば勝てるのか、決め切れませんでした。雲龍さんは、その位置で、役割を果たし続けていた」

 

雲龍(艦娘)「隠してくれたのは、皆だよ」

 

隼人「はい。皆さんが作った配置を、雲龍さんが保ったことも、今朝、確かめられました」

 

 隼人は、鞄の中の記録を出さなかった。

 

 そこに描かれていた線は、もう思い出せる。

 

隼人「航空隊へ対処しながら、手前の艦だけを撃っても終わらない。ですが、見える艦を全部、順に撃つ余裕もない。その間ずっと、こちらが探していた一隻が、雲龍さんでした」

 

雲龍(艦娘)「私が困らせたのは、そこ?」

 

隼人「私にとって、一番、判断を難しくしたところです。ですから、その一日は、雲龍さんと過ごしたいと思いました」

 

 雲龍は、少し俯いた。

 

 机へ置いた記録を一度だけ見てから、顔を上げる。

 

雲龍(艦娘)「……うん。私も、一緒に過ごしたい」

 

 返事は、小さかった。

 

 隼人が微笑むと、雲龍も口元を緩めた。

 

雲龍(艦娘)「一日、だよね」

 

隼人「はい。一日です」

 

雲龍(艦娘)「午後だけになったり、しない?」

 

隼人「提督とも調整して、朝から空けます。日が決まったら、改めて」

 

雲龍(艦娘)「分かった。私も、勤務を確かめておく」

 

 雲龍は手帳を取り、次の予定を開いた。

 

 まだ日付を書き込めない余白へ、小さく印をつける。

 

雲龍(艦娘)「どこへ行くかは、一緒に考えてもいい?」

 

隼人「もちろんです。雲龍さんの行きたい所があれば、教えてください」

 

雲龍(艦娘)「うん。……海の上を、ずっと見ているだけの日には、しない方がいいかな」

 

隼人「私は、それも好きですが」

 

雲龍(艦娘)「知ってる。でも、せっかく一日あるから」

 

 雲龍は、窓の外へ目を向けた。

 

 昼の光が、岸壁の向こうへ広がっている。

 

雲龍(艦娘)「まだ、行ったことのない所も、話していないことも、あるでしょう」

 

隼人「ええ。こちらへ来てから、知らない所ばかりです」

 

雲龍(艦娘)「じゃあ、一つずつ、増やそう」

 

 隼人は頷いた。

 

 その日、何をするかは、これから二人で考えられる。

 

隼人「楽しみにしています」

 

雲龍(艦娘)「……私も」

 

 隼人が帰ろうとすると、雲龍がもう一度呼んだ。

 

雲龍(艦娘)「隼人さん」

 

隼人「はい」

 

雲龍(艦娘)「日が決まったら、朝は私が迎えに行くね」

 

隼人「分かりました。お待ちしています」

 

 雲龍は頷いた。

 

 隼人が戸口へ戻るまで、開いた手帳を、そのまま机に置いていた。

 

     *

 

 廊下へ戻った隼人は、手帳を開いた。

 

 書いていた名の横へ、本人へ伝えたことを残す。

 

 まだ日付はない。

 

 それでも、誰へ伝えるか迷ったまま、伸ばしていた一日ではなくなった。

 

アイ『休暇の日程が決まり次第、予定へ追加できます』

 

隼人「ああ。決まったら頼む」

 

アイ『同行者は、雲龍、艦娘でよいですか』

 

隼人「それで、覚えておいてくれ」

 

 返事を聞き、隼人は手帳をしまった。

 

 執務室の前まで戻ると、赤城と行き会った。

 

 KAN-SENの彼女は、届け終えた書類の控えを持っている。

 

赤城(KAN-SEN)「隼人様。お相手は、お決まりに?」

 

隼人「はい。雲龍さんへ、お伝えしてきました」

 

 赤城の狐耳が、僅かに動いた。

 

赤城(KAN-SEN)「雲龍さん、ですか」

 

隼人「判定旗艦として、最後まで役割を保っていたことをお話ししました。受けていただけましたよ」

 

 赤城は少し黙り、それから、息を吐いた。

 

赤城(KAN-SEN)「そうですか。では、日が決まるのを、待つことにいたしましょう」

 

隼人「……赤城さんも、ですか」

 

赤城(KAN-SEN)「何をして過ごしたか、あとで伺うくらいは、よろしいでしょう?」

 

 隼人は苦笑した。

 

隼人「話せる範囲でしたら」

 

赤城(KAN-SEN)「では、雲龍さんにも、そう伝えておきますわ」

 

 笑ってから、赤城は持っていた控えへ目を戻す。

 

 赤城は控えの紙を揃え、軽く会釈して歩き出した。

 

 隼人はその背を見送り、執務室へ入った。

 

     *

 

剣子「お帰り。午前の分は?」

 

隼人「こちらです。判定と行動を分けた追記も、受け取ってきました」

 

 鞄から綴りを出す。

 

 大淀が受け取り、届いた資料の隣へ置いた。

 

剣子「それで、一日の方は?」

 

隼人「雲龍さんです。艦娘の」

 

剣子「本人には?」

 

隼人「お伝えしました。日程は、勤務を見て合わせます」

 

 剣子は頷き、手帳を引き寄せた。

 

剣子「三笠さんにも、こちらから伝えておこう。最初に皆へ話してもらったからね。休みの調整も、忘れずに持ってきて」

 

隼人「お願いします」

 

 剣子が、短く書き留める。

 

 その横で大淀は、厚い封筒の封を切り、表紙を隼人へ向けた。

 

大淀(艦娘)「上級司令部から、こちらも届いています」

 

 他鎮守府の状況。

 

 陸軍側との調整。

 

 輸送と補給に関する、現段階の回答。

 

 隼人は、最初の頁へ目を通した。

 

 埋まった欄の隣には、まだ、未定と記された所がある。

 

剣子「午後は、こちらを合わせよう。出せるものと、出せないもの。返事がない所も、分けて」

 

隼人「承知しました」

 

 机へ向かいかけたところで、剣子が時計を示す。

 

剣子「その前に、お昼。私も、今からです」

 

 隼人は時計を見て、頷いた。

 

 今度は、手帳を閉じてから席を立つ。

 

 鞄の中には、雲龍へ伝えた一日の記録がある。

 

 午後の机には、皆と揃える次の仕事が待っている。

 

 廊下へ出る時、隼人は雲龍の言葉を思い出した。

 

 一つずつ、増やそう。

 

 その日、どこへ行くかは、まだ決まっていない。

 

 彼女と一緒に考えることを、少し楽しみにしていた。




感想お待ちしてます。

兵器解説

  • アリ
  • ナシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。