陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
クロスオーバーなので悪しからず
それではどうぞ
耳元で、小さな音が鳴った。
アイ『六時です』
隼人は目を開けた。
天井を見てから、ゆっくりと息を吐く。薄い朝の光が、障子の向こうへ広がっていた。
隣室から、引き戸を開く音がする。
身体を起こし、寝台を整えてから着替えた。共用の居間へ出ると、武蔵が湯を用意している。
武蔵(艦娘)「起きたか」
隼人「おはようございます」
武蔵(艦娘)「ああ。よく眠れたようだな」
隼人「ええ。武蔵さんは?」
武蔵(艦娘)「私もだ。支度ができたら、朝食を受け取りに行こう」
隼人は頷いた。
昨日、棚を動かして空けた場所を通り、自分の手帳を取る。
机の上には、まだ、何も広げなかった。
*
朝食を終え、二人で宿舎を出た。
庁舎へ向かう道と、工廠へ向かう道が分かれる所で、武蔵が足を止める。
武蔵(艦娘)「私は、こちらだ」
隼人「いってらっしゃい。私も、今日は司令部と航空隊の方へ」
武蔵(艦娘)「そうか。では、また夜にな」
隼人「ええ」
武蔵の背を見送り、隼人も歩き出した。
肩から提げた鞄には、昨日まとめた照会項目が入っている。
今日で、元帥たちとの会談から三日。
上級司令部が約束した、調整状況の連絡を受ける日だった。
執務室では、大淀が届いた書類を分けていた。剣子は、すでにその一部へ目を通している。
剣子「おはよう。昨日は、ちゃんと休めた?」
隼人「はい。こちらも、まとめてきました」
照会項目を渡すと、剣子は表紙を開いた。
図上で置いた護衛を、実際にどこから出せるか。航空隊の交代に必要な時間を、どの担当へ確かめるか。
昨日の机で決まったことが、今日、別の机へ渡る形になっている。
剣子「これなら、担当ごとに回せるね。ありがとう」
大淀(艦娘)「上級司令部からの資料は、届いたものからこちらで揃えます。午後、提督と一緒に確認していただけるように」
隼人「お願いします。午前中に、航空隊の追記を受け取ってきます」
剣子「うん。それから――」
剣子が、演習記録の綴りへ目を向けた。
剣子「そちらの約束も、忘れていないよね」
隼人「……一日、ですか」
剣子「君が言った一日です」
大淀の手は止まらなかった。
止まらなかったが、紙を揃える音が、少しだけ小さくなった。
隼人「忘れていません。記録も見ましたし、今日は、本人たちにも少し話を聞こうと思っています」
剣子「なら、よかった。決めたら、休みの日を調整しよう。言ったまま、なくなる約束にはしないでね」
隼人「はい」
隼人が綴りを取ると、大淀が別の封筒を載せた。
大淀(艦娘)「こちらが、各隊からの追記です。勝敗の集計とは分けてあります」
隼人「ありがとうございます」
大淀(艦娘)「お相手を選ぶためだけで、読み終わりにはしないでくださいね」
隼人「……皆さん、そこを心配なさるんですね」
剣子「反対も困るんだよ。記録を読む仕事だけ続いて、約束の方が決まらないのも」
隼人は苦笑し、封筒を受け取った。
*
航空隊へ向かう前に、隼人は空いている机を借りた。
タブレットを置き、観測側と自分の記録を並べる。
隼人「アイ。演習中、私が対処を切り替えた区間を出してくれ。空への迎撃と、移動と、水上の確認を同じ時刻で」
アイ『表示します。射撃の切り替え、移動、確認操作を別の線で並べました』
第一波では、近づいてくる機体の進路が重なっていた。
隼人は先頭へ射撃を向け、投下された物を迎撃した。
次の機体も、近い場所へ来た。
第二波では、その線が変わる。
射撃を切る。移動する。
固定砲を向けるために、姿勢を整える。
その間も、別の航空目標と水上の反応は追われていた。
隼人「ここで、水上の確認を後へ回した」
アイ『はい。追尾の更新から、隼人が状況を確認し直すまでの間隔が広がっています』
隼人「回避の回数だけなら?」
アイ『比較できます。回避に続く姿勢変更や確認操作も並べれば、その後の判断への影響を見られます』
隼人「水上の確認を後へ回した区間と、そのあとの砲撃準備も、重ねてくれ」
線が一つ、加わった。
手元の記録へ、隼人は印をつける。
ただ、忙しくなっただけではない。
相手へ答え続ける間、自分から始めるつもりだったことが、後へ押されていた。
そのあと、水上の艦隊が動きを戻した。
隼人が帰投のための電力を確かめ、対艦誘導砲弾の使用を選んだ時刻まで、記録は繋がっている。
隼人「一番長く相手をした者、で決めるのも違うな」
アイ『各区間の比較結果は表示できます。相手側の指示と、その実行の経緯は、提出された記録との照合が必要です』
隼人「ああ。そこを聞いてくる」
隼人は画面へ、私用の一行を書き足した。
自分に、何をやめさせたか。
何を、選び直させたか。
演習で受けた判定の欄とは、別の所へ残しておく。
相手を決めるのは、自分だった。
*
渡り廊下で、伊8と会った。
艦娘の彼女は、追記用の紙を手に、司令部へ向かうところだった。
伊8(艦娘)「副提督。お渡ししたかったものがあるのですが」
隼人「演習の分ですか」
伊8(艦娘)「はい。進入の記録へ、退避した時の位置を足しました」
隼人は受け取り、その場で開いた。
攻撃へ移る前に対潜演習弾が来た区間と、そのあとに離れた経路が描かれている。
伊8(艦娘)「会場では、近づけなかったことを先にお話ししましたから。逃げる時、何を避けていたかも残しておこうと思いまして」
隼人「助かります。私の方から見えたものと、そちらが避けたかったものは、全部同じではないので」
伊8は頷き、彼の手元を見た。
伊8(艦娘)「お休みのお相手は、決まりましたか」
隼人「まだです。今、こちらも読み比べているところです」
伊8(艦娘)「では、私の記録も、よく見てくださいね」
穏やかに言われ、隼人は顔を上げた。
伊8は、そのまま小さく笑った。
伊8(艦娘)「でも、次の演習のためにも、です」
隼人「はい。そちらは、必ず」
別れて歩き出してから、隼人は紙を鞄へしまった。
約束を聞いていたのは、空母の者たちだけではなかった。
海の下から来た者も、その一日の話を覚えている。
アイ『受領した追記の保管先を、演習資料へ追加しますか』
隼人「追加してくれ。あとで照合する」
短く返し、隼人は足を進めた。
*
航空隊の連絡所には、二人の加賀がいた。
机に広げられているのは、進入と離脱の記録だった。
艦娘の加賀が、紙の端を押さえる。KAN-SENの加賀は、その上へ別の記録を置いていた。
加賀(艦娘)「お待ちしていました。こちらが、機体の判定を照合し直した分です」
隼人「ありがとうございます。途中で攻撃を中止した機体も、こちらに?」
加賀(艦娘)「ええ。被弾した機体と、進路を取れなくなった機体を、同じ欄へ入れないようにしました」
加賀は、最初の攻撃隊の記録を示した。
先頭が離脱したあと、後続の動きが重なった箇所。
隼人が撃ち続けたことと、こちらが前へ進めなくなったことを、一つにまとめないための追記だった。
隼人「私も、ここは分けておきます。射撃をした側の記録だけでは、全部を撃ち落としたように見えてしまいますから」
加賀(艦娘)「そうしていただければ」
紙を揃えながら、彼女は隼人を見た。
加賀(艦娘)「それで。今日は、もう一つの用事もあるのでは?」
KAN-SENの加賀が、隣へ目を向ける。
隼人「……皆さん、よくご存じで」
加賀(艦娘)「全隊へ、三笠さんから伝えられたことですもの」
加賀(KAN-SEN)「自分で言ったことを、驚くな」
隼人「忘れているわけではありませんよ。ただ、思ったより多くの方が、覚えてくださっていまして」
加賀(KAN-SEN)「それだけのことを、言ったのだろう」
返す言葉がない。
隼人は頷き、第二波の記録を出した。
隼人「こちらを、少し詳しく聞かせていただけますか」
加賀(KAN-SEN)「どこだ」
隼人「雷撃を避けたあとに、戦闘機が来たところです。その前後も」
加賀は椅子を引いた。
隼人へ座るよう示してから、記録の上へ指を置く。
加賀(KAN-SEN)「急降下する機体と、低く入る機体。それから、移動した先を受け持つ機体。役割を重ねすぎないようにした」
隼人「最初の隊では、同じ場所へ来ていましたね」
加賀(KAN-SEN)「狙う場所が一つでも、そこへ入る道まで全て同じである必要はない。離脱する相手へ、後ろの機体までついていけば、攻撃する者がいなくなる」
艦娘の加賀が、離脱の合図を確認した箇所を指す。
加賀(艦娘)「こちらの記録とも、ここで繋がります」
隼人は頷いた。
雷撃だけに注意が向いていたわけではない。
アイは、次に近づく機体も追っていた。
それでも、身体を移し、砲を向け、投下された物へ対処する時間は、なくならなかった。
隼人「私が気づけば終わる攻撃では、なかった」
加賀(KAN-SEN)「見つかっただけで、終わるつもりはなかった」
隼人は、タブレットへ目を落とした。
隼人「アイ。こちらの説明と、私の移動記録を合わせてくれ」
加賀たちにも聞こえるよう、音声を切り替える。
アイ『照合しました。雷撃への回避後、戦闘機への対処に伴う移動と姿勢変更が続いています。その間に、次の投下への確認操作が入っています』
隼人「そのあと、水上の更新を後へ回した」
アイ『はい。情報の欠落ではなく、隼人の確認が後ろへ移っています』
加賀は画面へ顔を寄せた。
加賀(KAN-SEN)「これが、お前の見ていた順番か」
隼人「ええ。受けた知らせと、確かめて選んだところは、分けてあります」
加賀(KAN-SEN)「だが、水上の反応そのものは、残っていた」
隼人「残っていました。そこで追尾まで止まっていたら、私の次の判断は、もっと遅れていたでしょう」
隼人は、表示を少し戻した。
第一波のあと、こちらへ戻っていた余裕が、第二波では短くなっている。
次に何をするかを、自分だけの都合で決められない時間だった。
隼人「この場面では、砲撃を始めたかったんです。ですが、その前に答えなければならないことが、次々に来た」
加賀(KAN-SEN)「それでも、最後には撃った」
隼人「はい。続けて待つ方が、余計に使うと考えました」
加賀(KAN-SEN)「こちらは、そこを止められなかったわけだな」
彼女は、命中判定の数へ目を移さなかった。
隼人が岩場へ戻り、姿勢を整えた時刻を確かめている。
加賀(艦娘)「そこまでで、こちらが何を使ったかも、残しておきましょう」
隼人「お願いします。そちらの機数も、搭乗員も、際限なく増えるわけではありませんから」
KAN-SENの加賀が、短く頷いた。
それから、隼人の顔を見た。
加賀(KAN-SEN)「一つ、言っておく。あれは私一人が飛ばした攻撃ではない」
隼人「はい」
加賀(KAN-SEN)「飛んでいる者が、実際にお前の動きを見ている。合図を受け、空いた所へ入る。それを、こちらの机から全部、動かしたことにはするな」
隼人は、追記用の紙へ書き込んだ。
整えたこと。
空で判断して続けたこと。
同じ成果の中にも、それぞれの働きがある。
隼人「分けて残します。……聞けて、よかったです」
加賀は紙へ目を戻した。
加賀(KAN-SEN)「それで、次に同じことをされても、困らないようになるのか」
隼人「全部とは、申しません」
加賀(KAN-SEN)「なら、次も困らせる余地はあるな」
隼人は少し笑った。
隼人「ええ。ですから、こちらも考えます」
*
連絡所を出ると、廊下の先で雲龍が手を振った。
点検へ回す記録を、別の担当へ渡してきたところだという。
雲龍(艦娘)「話、長くなった?」
隼人「少し。聞きたかった所を、確認できました。雲龍さんにも、一つお願いしたいのですが」
雲龍(艦娘)「何?」
隼人「演習中の航跡を、私の記録と合わせたいんです」
雲龍は頷き、持っていた綴りを開いた。
廊下脇の空いた机を借り、隼人もタブレットを置く。
隼人「アイ。こちらの位置と時刻を、追尾していた反応へ重ねてくれ」
アイ『入力を受け付けます』
雲龍が示した時刻と位置を、順に入力する。
画面の奥側で、一つの航跡が色を変えた。
アイ『この追尾記録と整合します。対象の位置は更新されていますが、演習終了前に旗艦と確定した記録はありません』
隼人「……この反応でしたか」
雲龍(艦娘)「見えては、いたんだね」
隼人「ええ。そこに艦がいることは、分かっていました。ただ、何を受け持つ艦なのかまで、同時に分かったわけではありません」
手前には、三笠の艦がある。
その向こうに、別の船影。
あの時、見えていた海の並びが、今朝の画面へ戻ってくる。
雲龍(艦娘)「私は、決められた位置で、隊列に合わせていた。自分だけ違う動きをしたら、そちらが気になるでしょう」
隼人「旗艦だけが、目につく形にならないように」
雲龍(艦娘)「うん。三笠さんが指揮して、私は、最後まで残る方。私が勝手に前へ出ても、困るから」
雲龍は紙の上へ指を置いた。
隣の艦が動いたところで、自分も位置を変えている。
追尾から消えたのではない。ほかの艦の動きへ紛れたまま、どの一隻を取れば終わるのかを、隼人へ知らせずにいた。
隼人「全体の配置を考えたのは、三笠さんたちですね」
雲龍(艦娘)「そう。私一人で隠れていたわけじゃないよ」
隼人「その位置を保っていたのが、雲龍さんだった」
雲龍が頷く。
隼人は、最後の射撃の記録へ表示を進めた。
攻撃対象を選んだ一覧に、あの時の艦名は揃っていない。
雲龍(艦娘)「あの砲弾で終わらなかったら、次は、どうするつもりだった?」
隼人の指が止まった。
まだ反撃できる艦は、残っていた。
その相手を一隻ずつ撃って確かめるには、残弾も、使える時間も足りなくなる。
隼人「残った兵装と帰投の分を見て、攻撃を続けられるか、決め直す必要がありました。あの時点では、勝つために止める一隻を、まだ絞れていなかったので」
雲龍(艦娘)「そっか」
雲龍は、勝ち誇るようには笑わなかった。
自分の綴りを閉じ、隼人が表示を見終えるのを待つ。
隼人「ありがとうございます。これも、追記へ合わせておきます」
雲龍(艦娘)「うん。……一日、付き合う方も?」
隼人「そちらを考えるためにも、聞きたかったんです」
雲龍の視線が、画面から隼人へ移った。
雲龍(艦娘)「私も、約束は覚えてるよ」
眠そうな目のまま、口元が少し緩む。
雲龍(艦娘)「でも、ちゃんと選んでね」
隼人「はい」
雲龍は頷き、記録を抱え直した。
雲龍(艦娘)「私は、これを置いてくる。このあとは、艦の方にいるから」
隼人「分かりました」
その背を見送り、隼人は航跡を保存した。
最後まで、艦名も役割も確かめ切れなかった反応。
今は、その線の横へ、雲龍と記されている。
*
天城と会ったのは、会議棟へ戻る途中だった。
彼女も、艦隊側の照会をまとめている。
隼人が尋ねると、発光信号で動きを戻した区間の記録を出してくれた。
天城(KAN-SEN)「私から伝え直したことだけでは、ございません。隣の艦が動いたのを見て、合わせたところもあります」
隼人「私は、あの位置が揃い始めたのを見て、長引かせられないと考えました」
天城(KAN-SEN)「でしたら、少しは急いでいただけたのですね」
隼人「ええ。空だけを退けて、あとで順に撃てばよい、とはできませんでした」
天城は、紙の余白へ短く印をつけた。
こちらが待っていた時間と、そのあいだに相手が待たなくなった時間。
昨日の図上検討でも確かめたことが、実際の記録へ戻っていく。
天城(KAN-SEN)「そのお話、三笠様にも聞かせてくださいませ。対抗側全体で、どこまで働けたかを確かめていらっしゃいますから」
隼人「分かりました」
天城(KAN-SEN)「……一日のご相談も、でしょうか」
隼人「こちらまで、相談に見えてしまいますか」
天城(KAN-SEN)「今日は、それを聞かれない方が難しいと思いますよ」
隼人は苦笑した。
天城は、彼の手帳を覗こうとはしなかった。
天城(KAN-SEN)「誰の働きかをお確かめになるのは、よいことです。ただ、皆さんへ同じお約束を、増やしてしまわれませんように」
隼人「……一日ずつ、ということですか」
天城(KAN-SEN)「副提督のお休みが、足りなくなります」
隼人「そこは、増やさずに選びます」
天城(KAN-SEN)「はい。ご自身で、お決めになってください」
柔らかく笑い、天城は書類を抱え直した。
*
昼前、隼人は執務室の隅で記録を開き直した。
受け取った追記は、公務の綴りへ戻してある。
手元に残したのは、自分の操作と、相手の動きを照らした紙だった。
隼人「アイ。第二波から、最後の射撃まで。それから、雲龍さんの航跡も」
アイ『表示します』
加賀たちの攻撃によって、動かされた線が現れた。
そこで撃たずに、先に移動した。
ここで相手を見直し、水上の確認を後へ回した。
その奥に、最後まで役割を確定できなかった艦の航跡がある。
攻撃へ答える手間が増え、こちらから終わらせるための相手を絞る余裕も、減っていった。
隼人「私が一番、決め切れなかったのは、ここだな」
アイ『最後の射撃では、確認できた複数の水上目標へ小型誘導体を割り当てています。旗艦の名称が確定したのは、終了の連絡を受けた時点です』
隼人「ああ。一隻ずつ確かめられるほど、弾薬も時間も残せなかった」
三笠が全体を動かし、天城と各艦が、その連絡を繋ぎ直した。
加賀たちの航空隊は、こちらへ対処の変更を迫った。
その中で、雲龍は判定旗艦の役を保ち、最後まで、終わらせる相手を隼人へ絞らせなかった。
配置を作った者と、その位置で役割を果たした者。
それぞれの働きは、報告へ残してある。
自分の勝敗を決めるために、最も手を焼いた相手を考えた時、隼人は、今朝合わせた一本の航跡へ戻った。
彼は手帳へ、一人の名を書いた。
雲龍。
その横へ、艦娘と添える。
しばらく見てから、手帳を閉じた。
隼人「約束の相手は、決めた」
アイ『記録しますか』
隼人「まだ。先に、本人へ伝える」
*
雲龍は、艦内へ戻る前の控室で、記録の整理を終えようとしていた。
隼人が戸口で声を掛けると、手にしていた紙を置く。
隼人「雲龍さん。もう少し、お時間をいただけますか」
雲龍(艦娘)「うん。航跡の続き?」
隼人「いいえ。約束の方です」
雲龍の指が、紙の端で止まった。
隼人は彼女の前へ進み、顔を見る。
隼人「次の休み、空いていますか」
雲龍(艦娘)「……私と?」
隼人「はい。休みを一日、お付き合いさせてください」
雲龍は、すぐには返事をしなかった。
先ほどまで半分ほど閉じていた目が、隼人をまっすぐ見ている。
雲龍(艦娘)「選んでくれたの?」
隼人「ええ。最後まで、どの艦を止めれば勝てるのか、決め切れませんでした。雲龍さんは、その位置で、役割を果たし続けていた」
雲龍(艦娘)「隠してくれたのは、皆だよ」
隼人「はい。皆さんが作った配置を、雲龍さんが保ったことも、今朝、確かめられました」
隼人は、鞄の中の記録を出さなかった。
そこに描かれていた線は、もう思い出せる。
隼人「航空隊へ対処しながら、手前の艦だけを撃っても終わらない。ですが、見える艦を全部、順に撃つ余裕もない。その間ずっと、こちらが探していた一隻が、雲龍さんでした」
雲龍(艦娘)「私が困らせたのは、そこ?」
隼人「私にとって、一番、判断を難しくしたところです。ですから、その一日は、雲龍さんと過ごしたいと思いました」
雲龍は、少し俯いた。
机へ置いた記録を一度だけ見てから、顔を上げる。
雲龍(艦娘)「……うん。私も、一緒に過ごしたい」
返事は、小さかった。
隼人が微笑むと、雲龍も口元を緩めた。
雲龍(艦娘)「一日、だよね」
隼人「はい。一日です」
雲龍(艦娘)「午後だけになったり、しない?」
隼人「提督とも調整して、朝から空けます。日が決まったら、改めて」
雲龍(艦娘)「分かった。私も、勤務を確かめておく」
雲龍は手帳を取り、次の予定を開いた。
まだ日付を書き込めない余白へ、小さく印をつける。
雲龍(艦娘)「どこへ行くかは、一緒に考えてもいい?」
隼人「もちろんです。雲龍さんの行きたい所があれば、教えてください」
雲龍(艦娘)「うん。……海の上を、ずっと見ているだけの日には、しない方がいいかな」
隼人「私は、それも好きですが」
雲龍(艦娘)「知ってる。でも、せっかく一日あるから」
雲龍は、窓の外へ目を向けた。
昼の光が、岸壁の向こうへ広がっている。
雲龍(艦娘)「まだ、行ったことのない所も、話していないことも、あるでしょう」
隼人「ええ。こちらへ来てから、知らない所ばかりです」
雲龍(艦娘)「じゃあ、一つずつ、増やそう」
隼人は頷いた。
その日、何をするかは、これから二人で考えられる。
隼人「楽しみにしています」
雲龍(艦娘)「……私も」
隼人が帰ろうとすると、雲龍がもう一度呼んだ。
雲龍(艦娘)「隼人さん」
隼人「はい」
雲龍(艦娘)「日が決まったら、朝は私が迎えに行くね」
隼人「分かりました。お待ちしています」
雲龍は頷いた。
隼人が戸口へ戻るまで、開いた手帳を、そのまま机に置いていた。
*
廊下へ戻った隼人は、手帳を開いた。
書いていた名の横へ、本人へ伝えたことを残す。
まだ日付はない。
それでも、誰へ伝えるか迷ったまま、伸ばしていた一日ではなくなった。
アイ『休暇の日程が決まり次第、予定へ追加できます』
隼人「ああ。決まったら頼む」
アイ『同行者は、雲龍、艦娘でよいですか』
隼人「それで、覚えておいてくれ」
返事を聞き、隼人は手帳をしまった。
執務室の前まで戻ると、赤城と行き会った。
KAN-SENの彼女は、届け終えた書類の控えを持っている。
赤城(KAN-SEN)「隼人様。お相手は、お決まりに?」
隼人「はい。雲龍さんへ、お伝えしてきました」
赤城の狐耳が、僅かに動いた。
赤城(KAN-SEN)「雲龍さん、ですか」
隼人「判定旗艦として、最後まで役割を保っていたことをお話ししました。受けていただけましたよ」
赤城は少し黙り、それから、息を吐いた。
赤城(KAN-SEN)「そうですか。では、日が決まるのを、待つことにいたしましょう」
隼人「……赤城さんも、ですか」
赤城(KAN-SEN)「何をして過ごしたか、あとで伺うくらいは、よろしいでしょう?」
隼人は苦笑した。
隼人「話せる範囲でしたら」
赤城(KAN-SEN)「では、雲龍さんにも、そう伝えておきますわ」
笑ってから、赤城は持っていた控えへ目を戻す。
赤城は控えの紙を揃え、軽く会釈して歩き出した。
隼人はその背を見送り、執務室へ入った。
*
剣子「お帰り。午前の分は?」
隼人「こちらです。判定と行動を分けた追記も、受け取ってきました」
鞄から綴りを出す。
大淀が受け取り、届いた資料の隣へ置いた。
剣子「それで、一日の方は?」
隼人「雲龍さんです。艦娘の」
剣子「本人には?」
隼人「お伝えしました。日程は、勤務を見て合わせます」
剣子は頷き、手帳を引き寄せた。
剣子「三笠さんにも、こちらから伝えておこう。最初に皆へ話してもらったからね。休みの調整も、忘れずに持ってきて」
隼人「お願いします」
剣子が、短く書き留める。
その横で大淀は、厚い封筒の封を切り、表紙を隼人へ向けた。
大淀(艦娘)「上級司令部から、こちらも届いています」
他鎮守府の状況。
陸軍側との調整。
輸送と補給に関する、現段階の回答。
隼人は、最初の頁へ目を通した。
埋まった欄の隣には、まだ、未定と記された所がある。
剣子「午後は、こちらを合わせよう。出せるものと、出せないもの。返事がない所も、分けて」
隼人「承知しました」
机へ向かいかけたところで、剣子が時計を示す。
剣子「その前に、お昼。私も、今からです」
隼人は時計を見て、頷いた。
今度は、手帳を閉じてから席を立つ。
鞄の中には、雲龍へ伝えた一日の記録がある。
午後の机には、皆と揃える次の仕事が待っている。
廊下へ出る時、隼人は雲龍の言葉を思い出した。
一つずつ、増やそう。
その日、どこへ行くかは、まだ決まっていない。
彼女と一緒に考えることを、少し楽しみにしていた。
感想お待ちしてます。
兵器解説
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アリ
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ナシ