あらすじの注意点にも書きましたが、SSの執筆は今作が初めてです。
読んでくださる方は、過度な期待はせず、温かい目でご覧ください。
序章 『旅立』
――2004年――
「見送りありがとうな、みんな」
とある国際空港のロビーで、少年は集った友人たちと会話していた。
少年――直江大和はこの日、両親と共に外国へと旅立つ。
両親がカウンターで搭乗手続きを済ませるのを待っていた大和は、見送りのためにやってきた友人たち――風間ファミリーのメンバーたちと話していたのだ。
「ファミリーの旅立ちなんだから当然だろ?でも外国かー。おれも行きてーなー!」
ファミリーのリーダーであるバンダナの少年――風間翔一。
将来冒険家になることを夢見る彼は、世界へ旅立つ親友を羨ましがり――――
「ちょっとさみしくなるけど、アタシ応援してるわ!」
翔一に負けず元気なポニーテールの少女――川神一子。
武闘家の卵として日々修行に励む彼女は、遠い地へ向かう仲間の背を押し――――
「向こうで可愛い子見つけたら教えてくれよな」
メンバーの中でも特に体の大きい少年――島津岳人。
若干の下心を含みつつも、彼は友人へと笑顔とサムズアップを送る。
この三人は大和の旅立ちを応援してくれていたのだが、その一方で…
「舎弟の分際で姉をおいて行くとは、生意気だぞー」
不満を漏らすのは、大和の姉気分である黒髪の少女――川神百代。
「ううー、大和ぉ」
今にも泣きそうな顔で大和を見つめる青い髪の少女――椎名京。
「考え直さない?これじゃ京がかわいそうだよ」
京の隣に立ち、彼女を気遣う小柄な少年――師岡卓也。
この三人は最後まで大和が旅立つことに否定的であった。
特に、大和に強い好意を抱く京は想い人に会えなくなるのをとても嫌がっている。
それでも、大和は自分の決意を揺るがせない。なんとか行かせまいとする三人に対して、自分の考えを正直に話す。
「ごめん、みんな。でも、俺は外の世界で色々勉強したいんだ。自分の夢のために」
大和の夢。それは将来、総理大臣となって日本を変えること。
それは日本の政治家に嫌気が差し、祖国を捨てることを決めた父親への挑戦でもあった。
夢の実現のためには、日本に留まらず、海外で学ぶこともプラスになると考えた大和は、彼を日本に置いていくつもりだった両親を説得し、一緒に行くことにしたのだ。
「それに、ずっと会えなくなるわけじゃないだろ?休みの間に帰ってくることだってできるわけだし」
「でも…」
「約束する。俺、今より成長して、ちゃんと帰ってくるからさ。だから待っててくれよ」
大和の強い決意のこもった眼差しを受けて、三人は渋い顔をしながらも、彼の意思を汲み取った。
「まったく舎弟のくせに。わかったよ。待っててやる」
「そこまで言われちゃ、もう何も言えないや。たまには京に手紙とか送ってあげてよ」
「…ほんとはすっごく嫌だけど、待つよ。休みができたら、ちゃんと帰ってきてね?」
「ああ、ありがとう」
理解してくれた三人に、大和は笑顔で答えた。
「大和。友達と話しているところ悪いが、そろそろ行くよ」
「みんな。息子の見送りに来てくれてありがとな。大和も最後に挨拶しろよ?」
搭乗手続きを終えた大和の父――直江景清と、母――直江咲の二人が声をかけてきた。
大和はそれに返事をすると、足元に置いていた荷物を背負い、ファミリー全員の顔を見て、言う。
「じゃあみんな、行ってきます!」
「「「「「「行ってらっしゃい!!」」」」」」
手を振りながら応えてくれたファミリーに笑顔で手を振り返しながら、大和は両親と共に搭乗口へと向かった。
これが、直江大和の旅立ちの日。
この旅立ちが、大和の運命を大きく変えることを、彼らはまだ知る由もなかった。
――――5年後、2009年―――
夜。月と星の明かりにのみ照らされた深い森の中を突っ切るものがあった。
それは全身が黒く染まり、悪魔のような翼と二本角を持った人型の怪物。
『陰我』と呼ばれる闇によって現れる魔界の住人、『ホラー』である。
古来より、ホラーは陰我を持つ人間や物に憑依し、他の人間を次々と捕食する。
しかしそのホラーは人間を襲うどころか、まるで何者かから逃げるように森の中を飛び続けていた。
やがて森を抜け、木の生えていない開けた場所へたどり着いたホラーの頭上から『何か』が飛来した。巨大な翼を持つ『何か』の急襲をなんとか避けたホラーは、その『何か』の背に乗っていた影が、自分の目の前に降り立つのを見た。
影の正体は、青年だった。ダークグレーのコートを纏い、右手には細身の片刃剣を持ち、鋭い眼差しでホラーを睨んでいる。
「随分と逃げ足の速いやつだったが、もう逃がさねえぜ?」
ホラーは青年から発せられた声を聞いた。しかしその声は、青年の口からではなく、彼の左手の甲から聞こえてきたものだ。
青年の左手の表面は鈍色に染まっており、その甲には犬の頭蓋骨のような銀白色の頭部がついている。この頭部が先ほどの声を発した後、今度は口を塞いでいた青年がそれに向けて話し出した。
「そもそもこいつを逃がしたのはお前のせいだけどな」
「ああ?責任転嫁かコノヤロウ!お前がさっさと斬らねえから…」
「斬ろうとしたらお前が口出ししてきたんだろうが。おかげでわざわざ『飛天』を出す羽目になっちまった」
「契約者のお前をサポートすんのがオレの役目なんだよ!素直にアドバイスを聞きやがれ!」
「たかが素体ホラー相手に必要ないだろ!時と場合を考えろよ、ゼルバ!」
あろうことか、青年は自分の左手についている頭部――ゼルバと口論し始めた。
ゼルバは契約者と行動を共にし、ホラーと戦うためのサポートを行う『魔導具』である。
ホラーの探知のほか、戦いの中でアドバイスを送ることもあるが、お喋りな性格が災いしてか不要な場面でも喋り、過去にも青年の集中力を削ぐことが少なからずあった。今回のような口論も、この二人(?)にとっては日常茶飯事だった。
しかし、二人は怒りのあまり、自分たちの目の前にいるホラーを無視していた。
――キシャアアアアアア!!
ホラーは先ほどまで逃げ惑っていたとは思えないほどに怒りの奇声をあげた。青年が口論の中でホラーのことを「たかが素体ホラー」と侮辱したことに憤慨したらしい。
ちなみに素体ホラーとは、人や物に憑依していないホラーのことを差し、実際に戦闘能力は憑依したホラーに比べれば低い。『素体』というのは人間側がホラーを区別するために勝手につけた呼び名だが、当のホラーにとっては知ったことではない。
青年が口論に夢中になっている今なら殺れると思い、ホラーは彼に向かって飛びかかった。
しかし――
「はぁっ!」
――!!?
カウンターで振るわれた剣により、あっさりと斬り払われた。
そしてすかさず放たれた青年の回し蹴りを受け、森側に生えていた木へと叩きつけられる。
「まさか、本気で口論に夢中になってるとでも思ったのか?」
「この程度のことで隙を作るような奴にゃ、『魔戒騎士』なんざ務まらねえよ」
魔戒騎士。それは古の時代より、人間を喰らうべく魔界から現れるホラーを狩り、人々を守るために戦う『守りし者』。
青年は自らの持つ剣、『魔戒剣』の切っ先をホラーに向け、言い放つ。
「ここまでだ。貴様の陰我……俺が、斬る!!」
――シャアアアアアア!!
追い詰められたホラーは、牙をむき出しにして青年へと襲いかかる。
対する青年は、魔戒剣の切っ先で空中に光の円を描き、ホラーへと立ち向かう。
直後、光の円から神々しい光が放たれ、青年の全身に降り注ぐ。
そして光が途絶え、青年とホラーが交差した時――
胴体を真っ二つに両断され、消滅するホラーを背に佇む青年の姿だけがその場に残っていた。
「終わったな。お疲れ」
「番犬所に行くぞ。剣を浄化しないとな」
「へいへい。んじゃさっさと済ませて帰ろうぜ? 大和 」
「ああ、そうだな」
戦いを終え、労いの言葉を送ってくるゼルバに、青年――大和はそう答えた。
青年の名は、直江大和。かつて夢のために仲間の下から旅立った少年は、ホラーと戦う魔戒騎士となっていた。
大和の言った「番犬所」とは、魔戒騎士を統括する場所である。
世界各地に点在し、一般人では入ることのできない異空間にある番犬所では、魔戒騎士への指令や情報の伝達、ホラーの血によって穢れた武器を清めるなど、様々な面で騎士への指示、支援を行う。
また番犬所の上には元老院という上位機関が存在し、全ての番犬所を束ねている。
大和が訪れたのは、彼が所属する『水の番犬所』。
部屋の中央にある半径2mの泉がその名の由来である。
「よう大和。ホラー退治はもう終わったのか?」
「修行を初めて5年か…もうすっかり一人前ね」
番犬所に入った大和を二人の男女が出迎えた。
大和と同じ水の番犬所に属する魔戒騎士の男性――フラガと、法術によってホラーと戦う魔戒法師であり、フラガとコンビを組んでいる女性――ラミアである。
この二人は大和に騎士としての戦い方や法師の術を教えた、言うなれば大和の師匠であった。
「師匠に恵まれたおかげですよ」
「へっ、ガキが小っ恥ずかしいこと言うんじゃねえよ」
そう言いながらも、フラガはニヤケ顔で大和の頭をガシガシと撫でる。
フラガの隣に立つラミアは、二人の様子を嬉しそうに見ていた。
「戻りましたね、大和」
その後しばしの間雑談をしていた大和たちに、部屋の中央にある泉の方から声がかけられた。
三人がその方向を向くと、大和と同年代に見える白いドレス姿の少女が泉の水面に立っていた。
水の番犬所を司る神官――ラクシュミである。
そして泉の傍には、彼女の副官である白装束の少年――ラキが控えていた。
「魔戒剣の浄化を」
ラキは自分の隣に建てられている狼の顔を模した像を指しながら大和に話しかける。
指示を受けた大和は左手に持っていた魔戒剣を鞘から抜き、その刀身を狼の像の口に挿し込んだ。
数秒後、大和が魔戒剣を引き抜くと像の口から禍々しい形状の短剣が現れた。
「ラキ、剣の送還をお願いしますね」
「分かりました。ラクシュミ様」
ラキは短剣を受け取ると、懐から取り出したケースの中に納める。
その短剣は、魔戒騎士に敗れ、魔戒剣に封印されたホラーの邪気が形を成したもの。
番犬所で回収され、魔を鎮める数字である12本がそろった時、魔界へと送還されるのである。
「大和。ホラーの討伐、ご苦労様でした。早速ですが、あなたに新たな指令があります」
「一仕事終えたばっかだってのにもう次の指令かよ。人使いの荒いこって」
「文句を垂れるなよゼルバ」
休む間もなく次の指令が出されることに不満を漏らすゼルバ。
しかし、ラクシュミが大和に告げた指令の内容は―――
「直江大和。あなたには明日より、『風の番犬所』の管轄に移っていただきます」
「風の番犬所?」
予想外の指令に、大和は困惑した。
魔戒騎士が他の番犬所に移る実例は極めて少ない。それだけその番犬所に重大な問題が起きていることに他ならないということだ。
ラキがラクシュミの言葉を引き継ぎ、大和に説明を始める。
「最近、風の番犬所の管轄内の『ある街』でホラーの出現頻度が異常に増加しているのです」
「ある街…とは?」
「川神市。君の故郷の街です」
「…!?」
「んだとぉ!?」
「大和の故郷が…?」
「そんな…」
ラキが告げた事実に驚愕するゼルバ、フラガ、ラミア。それに対して、大和はあくまで平静を装っていたが、内心ではひどく戸惑っていた。
彼の脳裏に思い浮かぶのは、5年前に別れた幼馴染たちの姿だった。帰ると約束しながらも、魔戒騎士として戦うために未だそれを果たせていない相手である仲間たちが、危険にさらされている。
そう考えただけで今すぐにでも川神市へ向かおうと焦る自分の心を必死になだめ、大和はラキに問う。
「…風の番犬所の魔戒騎士は?」
「川神市を管轄とする魔戒騎士は、連続するホラーとの戦いで負傷し、戦闘は極めて困難な状態です」
返ってきたのは最悪の答えだった。つまり今、川神市を守れる魔戒騎士は事実上いないということになる。
「そこで、大和。君には負傷した騎士に代わる川神市の守護と、ホラー頻出の原因究明を命じます。できますか?」
ラキからの問い。それに対して、大和の返答は決まっていた。
「当然だ!」
指令を受けた大和は、川神市へ向かう準備のために番犬所を後にする。
彼が去った後、ラミアは苦い表情を浮かべていた。
「大和が心配か?」
「…彼には私の持てる全てを教えたわ。今では『霊獣』を従えられるようになって、法師としては完全に私を超えてくれた。でも…それでも、心配になるのよ。彼、かなり無茶するところがあるから…」
「確かにな。あいつが魔戒騎士になった理由を考えれば、仕方ないのかもしれないが…」
二人にとって、大和は自慢の弟子であると同時に、実の弟のような存在だった。そんな彼が過酷な戦いに赴くとなれば、心配するなという方が無理な話だ。
「けどまぁ、大丈夫さ。大和から聞いてるだろ?川神市には大事な親友たちがいるって」
「ええ。いつも楽しそうに思い出話をしてくれたわ」
「だからさ。護るべき存在のためなら、あいつはいくらでも強くなれる。それでこその守りし者であり、『
翌日、大和は5年ぶりに故郷へと帰還する。
護るべきもののために戦う、守りし者―――霊獣騎士念狼として―――
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
改めまして、常磐です。
数年に渡り様々なサイトで様々な二次創作小説を読み、自分も何か書いてみるかと思い切って書いてみましたが…
小説書くのって、大変ですね!(苦笑)
自分でやってみて初めてわかる大変さ。
定期的に更新なさってる方々は本当にすごいと思いますよ。
さて、今回は「もしも大和が両親と一緒に海外に行ったら」というif展開からスタートしますが、マジ恋の原作だと大和の両親はいつごろ日本を離れるんでしたっけ?
原作のゲームをプレイしたことはあるのですが細かいところはうろ覚えでして…
この小説内では2004年という設定で通しますが、正確な時期がわかる方は教えてくださると幸いです、
それでは次回、第一話『帰還』にて、またお会いしましょう。