真剣で念狼<NERO>に恋しなさい!   作:常磐

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お久しぶりです。



第九話 『双牙』

―――深夜 川神市―――

 

 

人通りのない路地裏で、一人の男性が女性の体を抱きかかえていた。

女性の頭からは大量の血が流れ落ち、男性の足元に落ちているバラの花束を染めていく。

近くのビルの壁にも血が付着しており、女性がその壁に頭を打ち付けたことが見て取れる。

 

 

「…何故だ…」

 

 

男性は徐々に白くなっていく女性の顔を見ながらそうつぶやいた。

 

男性は、その死んだ女性を異常なまでに愛していた。

幾度も告白し、毎日のようにラブレターを送り、挙げ句の果てにはストーカー行為にも及んだ。

当然女性は男性を嫌悪し、数分前に男性からのプロポーズを断り、その場から逃げ出そうとした。

自分を受け入れようとしない女性に憎しみにも近い感情を抱いた男性は、逃げる女性を強引に捕まえ力任せに壁に叩きつける。

その結果、女性は後頭部を壁に強く打ち、死亡してしまった。

 

 

「何故僕を受け入れてくれなかった…こんなに愛していたのに」

 

 

女性の死体の顔を撫でながら男性は涙を流す。

涙に霞む視界の中、男性はある異変に気付いた。

足元で血に染まるバラの花束から、闇が噴出していたのだ。

その闇から黒い腕が伸び、男性の顔を掴む。

 

 

「な、何だ!?うわああああ!!」

 

 

路地裏に男性の絶叫が響き渡る。

男性の陰我を取り込んだ花束はゲートと化し、新たなホラーを呼び寄せた。

 

 

「……」

 

 

そして、男性がホラーに取り込まれる様子をビルの屋上から黙視する者がいた。

 

 

 

 

―――数日後 風の番犬所―――

 

 

神官イスマに呼び出された大和と忠勝は、新たなホラーが出現したことを知らされた。

忠勝はそのホラーの殲滅を請け負おうとしたが、イスマから意外な指示を出されていた。

 

 

「直江と共闘しろ…だと?」

 

「そうです。今後、あなた方が共に戦う機会は多いことでしょう。お互いのことを知る意味でも、今回は協力し合うべきです」

 

 

大和は負傷した忠勝の代理として戦う他に、川神市でホラーが頻出する原因を究明するという使命を帯びてこの街に帰って来た。

原因究明が果たされていない以上、まだ川神市にいる必要がある。

基本的に魔戒騎士は単独行動をとるが、同じ街を守るからには二人で戦う場面も出て来るだろう。

イスマの考えに納得した大和は、忠勝に向かって言う。

 

 

「それじゃあ、よろしく忠勝」

 

「…ああ」

 

 

大和は忠勝が一子の旧友であり、風間ファミリーとも交流があると聞いていた。

特に、翔一が同い年の相手を『ゲンさん』とさん付けで呼んでいるとも聞き、どんな人柄なのか気になっていた。

先日の戦いから忠勝がかなりの実力者であることも分かっており、今後共闘するためにも彼の戦い方を見ておくべきと考えた。

 

一方、忠勝は険しい表情で大和を見ていた。

大和が自分の穴を埋めてくれていたことには感謝している。

一子たちに騎士であることを明かしてしまったことも、今更咎めようとは思わない。

しかし一つだけ、納得できないことがあった。

傷の治療が終わった後、忠勝は宇佐美やイスマから大和のこれまでの戦いについて聞いていた。

度重なるホラーとの戦闘を越えてきた大和の実力は称号を持つ騎士に相応しいものだったが、彼のとったある行動だけ、忠勝にはどうしても理解し難かった。

 

 

(まぁ、問い質すにはいい機会か…)

 

 

内心思ったことを口には出さず、忠勝は大和と共に風の番犬所を後にした。

 

 

 

―――日没後 川神市内―――

 

 

 

「すっかり遅くなってしまいましたね」

 

「女友達と日が暮れるまでガールズトークかぁ…成長したなまゆっち」

 

「そうですね…夢じゃないんですよね…!」

 

 

夜の街を歩くのは刀袋を携えた由紀江と、刀袋に提げられた松風だ。

松風の言う通り、先ほどまで伊予と一緒にファミレスで話し込んでいた。

北陸にいた頃には夢のまた夢と思っていたことが現実に体験できたことに、由紀江はうれし涙を浮かべている。

喜びに浸りながら、由紀江は島津寮への帰り道を歩く。

途中には工事用の足場が組まれたビルがあったが、夜中であるため当然人の姿はない。

 

 

「こんばんは、そこのお嬢さん」

 

「はい?」

 

 

そんな時、彼女に声をかけてくる者がいた。

由紀江が振り返った先にいたのはスーツの胸ポケットに黒いバラをつけた男性だった。

男性は由紀江の顔を見た途端、興奮したように話し始める。

 

 

「ああ、なんと美しい!まるでこの夜の街を照らすあの満月のように輝いている!」

 

「は、はぁ…?」

 

「あなたとのこの出会えたこと、私は神に感謝します!あなたこそ私の運命の女性だ!」

 

「え、ええ!?」

 

 

舞台演技のように大げさな身振りと自分に酔っているかのような笑みで告白してくる男に、由紀江は戸惑いと驚愕を見せる。

最近になってようやく友人の出来た彼女にとっては、見ず知らずの人間に突然ナンパされるなど前代未聞の出来事だった。

しかしだからといって由紀江は初対面の、しかもあからさまに怪しい人間からの告白に即OKを出すような愚かな女ではない。

 

 

「あ、あの…申し訳ありませんが、私は…」

 

 

初対面の相手なのでぎこちなくではあるが、律儀にお断りしようとする由紀江。

しかしここで松風が口を挟んだ。

 

 

「まゆっち!すぐにそいつから離れろ!ホラーだ!」

 

「え!?ほ、本当ですか!?」

 

「大和に封印されたって、ホラーの気配くらい分かるぜ!」

 

 

松風から警告され、由紀江は男に警戒の目を向けながら後ずさる。

一方、先ほどまで騒いでいた男は松風が声を上げた途端に静まっていた。

 

 

「ほう…封印されているホラーを連れているとは、何トモ奇妙ナ…」

 

 

つい数秒前までとは比べ物にならないほど冷たい声だった。

同時に男の体から異様な邪気が発せられる。

 

 

「まゆっち!」

 

「ええ、ここは脱兎のごとく!」

 

 

以前ホラーと対峙したことのある由紀江は、自分がホラーに敵わないことを理解している。

この場は逃げるしかない。

由紀江は素早くその場から駆け出すが――

 

 

「逃ガシマセンヨ!今宵ノ晩餐ニナッテモラワナケレバァ!!」

 

 

男が逃げる由紀江に向かって両腕を伸ばす。

すると、男の纏うスーツの袖口から黒のイバラが生えた。

イバラは目にもとまらぬ速さで伸び、由紀江を捕らえようと襲い掛かる。

 

しかし、イバラが由紀江に届こうとする直前。

由紀江と男の間に割り込んできた人影が、イバラを斬り裂いた。

 

 

「ヌゥ!?」

 

「人の友達に何してんだか…」

 

「大和さん!」

 

 

人影の正体は魔戒剣を右手に握る大和だった。

窮地を救われ安堵の表情を浮かべる由紀江とは逆に、ホラーの男は敵意に満ちた目で大和を睨む。

 

 

「魔戒騎士ガァ…私ノ至福ノ一時ヲ…!!」

 

「ナンパした女を喰うのがお前の至福か?随分と悪趣味だな」

 

「美シイ女ニ勝ル美味ハナイ!邪魔ヲスルナラバ八ツ裂キニ…!?」

 

 

大和を攻撃するために再びイバラを伸ばそうとした男は、背後に新たな気配を感じて動きを止めた。

即座に振り向くと、そこにはもう一人の青年が立っていた。

 

 

「お喋りはそこまでだ…さっさと消えろ!」

 

 

もう一人の青年――忠勝は、振り向いた男の顔面に鉄拳を叩き込んだ。

 

 

「グハッ!?キ…キサマァ!!」

 

 

殴られ、思わず後ずさりした男は忠勝に向かってイバラを伸ばす。

忠勝は両手に握った釵型魔戒剣を振るってイバラを斬り払い、男に急接近する。

一気に間合いを詰め、男の両腕を左右に弾き、がら空きになった胴体に二連の斬撃を放つ。

 

 

「グアァ…!?」

 

「おらぁ!!」

 

 

怯んだ男に休む暇を与えず、回し蹴りによって男を宙へと蹴り飛ばす。

男はそのまま地面に落下し、のたうち回っている。

 

 

「…速いな」

 

「ああ。烈風騎士ってのは伊達じゃねぇようだな」

 

 

忠勝が瞬く間にホラーを追い詰めるのを観戦している大和とゼルバ。

ちなみにその後ろには、大和の背に隠れながら忠勝の戦いを呆然と見ている由紀江がいた。

忠勝が魔戒騎士であったことに気づき驚いているようだ。

忠勝は男にとどめを刺そうと、魔戒剣を構えながら歩み寄る。

しかし、倒れていた男は足だけで立ち上がり忠勝と大和を憎悪に満ちた目で睨む。

 

 

「魔戒騎士ガァ…潰レロ!」

 

 

男が叫んだ瞬間、大和たちの頭上で鈍い破壊音が響いた。

見上げれば、大和たちの背後側にあった工事中のビルの周りに設置されていた足場が倒壊し、いくつもの足場の板やパイプが落下してくる。

 

 

「ちっ!」

 

 

忠勝はすぐにその場から飛び退き、落下物を回避する。

大和と由紀江の方を向くと、二人も無事にかわしていた。

 

 

「忠勝、大丈夫ですか?」

 

「ああ。だがアイツは…」

 

 

忠勝はコートの左胸についているラルヴァに答えながら周囲を見渡すが、ホラーの男は姿を消していた。

こちらが落下物に気をとられている間に逃走したらしい。

 

 

「気配は感じられません。少なくとももうこの近辺にはいないでしょう」

 

「逃げ足の速ぇヤツだ…」

 

「大丈夫か忠勝?」

 

 

忠勝がラルヴァと話していると、大和が由紀江を連れ添って近づいてきた。

 

 

「ああ。黛は無事か?」

 

「はい。お二人のおかげです。ありがとうございました」

 

 

「マジサンキューな」

 

「はは、間に合ってよかったよ」

 

「……」

 

 

由紀江と松風の感謝に笑って返す大和。

しかし、忠勝は険しい表情で松風に視線を向けている。

 

 

「ホラーの方にはもう手は打ってあるし、まゆっちは島津寮に…」

 

「待て」

 

 

大和は由紀江を返そうとしたが、忠勝がそれを止めた。

その意図が分からず訝しむ大和に、忠勝が問い始めた。

 

 

「直江、お前に聞きたいことがある」

 

「…聞きたいこと?」

 

「黛の持っているストラップ…ホラーらしいな?」

 

「!!」

 

 

忠勝の言葉に由紀江が大和以上に反応した。

彼女は咄嗟に、刀袋に提げられている松風を手に取って守るように胸元に寄せる。

 

 

「親父やイスマから聞いてから、ずっと疑問だったんだ。なぜホラーを見逃す?」

 

「ま、松風は確かにホラーですが、私の友達で…」

 

「黛には聞いてねぇ。ホラーを狩るのが魔戒騎士の役目だ。ダチだからなんて理由で放棄していいもんじゃねぇ。違うか直江?」

 

 

由紀江の言葉を一蹴して、忠勝は鋭い眼光で睨みながら問い続けた。

黙してそれを聞いていた大和は、忠勝から目を逸らすことなく静かに答える。

 

 

「まゆっちの言うように、松風はまゆっちの友達だ。人を襲ったこともないと言っていた。だから倒す必要はないと判断した。それだけだ」

 

「ホラーの言うことを信じたってのか?」

 

「どのみち松風には封印を施してある。もうそいつは誰かと話すことぐらいしか…」

 

「そういうことを聞いてんじゃねぇ!」

 

 

忠勝は声を荒げて大和の胸倉を掴んだ。

 

 

「俺はホラーをあっさり信じたテメェの甘さを咎めてんだ!封印できたうちはまだいいが、今後テメェが別のホラーに騙されねぇとは限らねぇだろうが!」

 

 

ホラーは魔戒騎士を騙し、隙を見て殺すといった卑怯な真似を平然とやってのける。

忠勝が大和を糾弾するのも当然だった。

松風のように信じれば、確実に殺されるだろう。

しかし大和は怖気づくことなく答えた。

 

 

「…ホラーだから信じたわけじゃない」

 

「あ?」

 

「俺はまゆっちと、まゆっちの友達の松風を信じたんだ。それに、相手が俺を騙そうとしているかどうかぐらい分かる」

 

「口では何と言おうが、テメェがホラーの言葉を信じたことには変わらねぇ。魔戒騎士にはあるまじき甘さだ」

 

「…ホラーを狩るのが魔戒騎士の役目。それはその通りだ。俺だって、今までずっとそうして戦って来たんだ」

 

「なら、なぜ…」

 

「でも俺はそれ以上に、誰かに『大事なものをなくす辛さ』を感じて欲しくないんだ。それが仲間なら、なおさらな」

 

 

大和は自分の胸倉を掴んでいる忠勝の腕を掴み返し、彼の目をまっすぐに見ながら続ける。

 

 

「魔戒騎士として甘いって言うなら、確かにその通りなんだろう。でも俺は、たとえ咎められようとそれだけは曲げない。曲げるつもりはない!」

 

「……」

 

 

己の思いを臆することなく言い放った大和。

その一切迷いのない眼差しを、忠勝は静かに見ていた。

 

 

「忠勝。彼には確かな信念があるようですね」

 

「…らしいな」

 

 

忠勝は大和の服から手を離した。

 

 

「お前の考えは分かった。だが、まだ納得出来たわけじゃねぇぞ」

 

「…いいさ。気に入らないってんなら、ハッキリ言ってくれた方がこっちとしても嬉しいしな」

 

「大和さん…源さん…」

 

「ああ、悪いなまゆっち。別に松風をどうこうしようってわけじゃないから、安心してくれ」

 

 

大和の言葉を受けて、由紀江は安堵の溜め息をついた。

 

 

「とにかく、黛は寮に帰れ。ホラーを見つけねぇと…」

 

「ああ、それなら大丈夫だ」

 

「あん?」

 

 

逃げたホラーを捜しに行こうとした忠勝は、大和の言葉で足を止めた。

ふと見れば、大和の右肩には小さな光の鳥――霊力を抑制されている飛天の姿があった。

 

 

「さっき言ったろ?もう手は打ってあるってさ」

 

 

大和は得意げな表情でそう言った。

 

 

 

 

―――多馬大橋―――

 

 

「ハァ、ハァ…オノレ…」

 

 

大和たちから逃げてきたホラーの男は多摩大橋の下に身を潜めていた。

その顔は相変わらず、自分の邪魔をした大和たちへの怒りで歪んでいる。

 

 

「決シテ許サン…必ズ殺シテヤル…!?」

 

 

そこで、男は視界の端にある何かに気づいた。

振り向くとそこには、掌に乗せられるほどに小さな光る牛がいた。

 

 

――ブルルルッ!

 

「ナ…何ダコイツハ?」

 

「おお、いたいた」

 

 

男が突然聞こえてきた声の方を向けば、そこには大和と忠勝の姿があった。

 

 

「貴様ラ!ドウヤッテココガ…!?」

 

「ウチの子たちは優秀でね」

 

 

光の牛――剛戟は大和の下に駆け寄って彼の左掌に乗った。

ビルの足場が破壊された瞬間、大和は魔戒霊獣たちを放ってホラーを追跡させていたのだ。

 

 

「悪あがきはここまでだ。大人しく斬られろ」

 

「フザケルナ!今度コソ潰レテ死ネ!!」

 

 

男はビルの足場を破壊した時のように叫ぶ。

しかし、大和は余裕の表情で――

 

 

「ああ、もうその手は食わねぇぞ?」

 

――グオオオオ!!

 

 

そう言った直後に大和たちの頭上、多摩大橋の上から獣の叫びが響いた。

男が何事かと見上げれば、橋の上から大きな二つの影が落ちてきた。

 

一方は翡翠色の装甲を纏った龍型の魔戒霊獣・流咆。

そしてもう一方は、二メートルほどの大きさのバラのようなホラーだった。

バラのホラーは流咆によって橋の上から叩き落とされたのである。

 

その光景を見て、ホラーの男は驚愕していた。

 

 

「残念ながら、相方はあのザマだぜ?」

 

「キ…気ヅイテイタノカ!?」

 

「当たり前だ。このゼルバ様がそう簡単にホラーの気配を逃すかよ」

 

 

ゼルバは勝ち誇ったように言った。

ビルの足場が破壊された時、ゼルバはビルの上に男とは別のホラーの気配を感じ取っていたのだ。

大和はここに来る途中で流咆を召喚し、バラのホラーがまた姿を現すまで待機させていたのだ。

 

 

「しかし、二体一組のホラーとはな」

 

「恐らくですが、ホラーに憑依された男には二つの異なる陰我を持っていたのでしょう。そして二体のホラーがそれぞれの陰我に引き寄せられたのです」

 

 

ラルヴァの言う通り、ホラーに憑依された男には二つの陰我があった。

一つは、恋した女性に対する歪んだ愛情。

そしてもう一つは自分の愛を受け入れなかった女性に対する憎悪だった。

異なる陰我に引き寄せられた二体のホラーのうち一体は男の体に、もう一体はゲートとなったバラに憑依したのである。

 

 

「さて、もう奇襲なんて小細工は効かねぇよ」

 

「ドコマデ…コケニスルツモリダァアアア!!」

 

 

悉く邪魔をする大和たちに激怒した男の姿が闇に包まれ、禍々しい鎧を纏った邪悪な騎士のような姿に変貌した。

鎧にはイバラのようにトゲが無数に生えており、肩や肘、膝には黒いバラが咲いている。

右手にはイバラを模ったサーベルが握られている。

 

男がホラーの本性を現すと、それに呼応するかのようにバラのホラーが立ち上がった。

巨体の下から生えている根がタコの足のようにうねっている。

 

騎士のホラー・ガストルと巨大バラのホラー・ゾルクスが大和と忠勝の前に並び立った。

二人の魔戒騎士はそれぞれの魔戒剣を構え、ホラーに立ち向かう。

 

 

大和は流咆と共にゾルクスに挑み、忠勝が二本の釵型魔戒剣でガストルと切り結ぶ。

ゾルクスの根が大和を叩きつぶそうと振るわれるが、宙を舞う流咆が装甲に包まれた体でそれを弾き、大和が根を斬り裂いていく。

一方、忠勝はフェンシングのように放たれるガストルの突きを防いではいたが、中々攻勢には出られずにいた。

ガストルの纏っているトゲの鎧は、うかつに攻撃すれば逆にこちらがダメージを受ける。

 

こちらも鎧を纏って一気に仕掛けるべきか、と考えた瞬間だった。

過去の戦いで培われてきた忠勝の直感が、何かがまずい、と告げてきたのだ。

 

そして、忠勝がバックステップによってガストルから距離を置いた直後。

ガストルの全身のトゲが瞬時に剣山のように伸びた。

あと一瞬でも回避が遅ければ、忠勝は全身を串刺しにされていただろう。

 

しかし、ガストルの攻撃は止まらなかった。

急な後退によって体勢の崩れた忠勝に、イバラのサーベルによる突きを放ったのだ。

忠勝は何とか交差させた魔戒剣で防いだものの、衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

 

「忠勝!!」

 

 

ゾルクスとの交戦中にその様子を見た大和が声を上げる。

吹き飛ばされた忠勝が立ち上がろうとしたが、ガストルはすかさず追撃する。

 

 

「死ネ!魔戒騎士!」

 

 

ガストルは全身のトゲを弾丸のように射出した。

無数のトゲは目にも止まらない速度で忠勝に襲い掛かる。

 

 

(かわし切れねぇ!)

 

 

まだ完全に立てていない忠勝では回避しきれないほどの物量だった。

可能な限り斬り落とそうと魔戒剣を構える。

 

 

しかしトゲは忠勝に届く前に空中で静止した。

まさか、と忠勝が大和の方を見ると、大和は左手で印を結んでいた。

法術によって忠勝を守ったのだ。

 

だがその行動は、交戦していたゾルクスに背を向け、隙を作ることになってしまった。

大和の足元から、ゾルクスの根が突き出てきた。

ゾルクスは根を地中に伸ばしていたのだ。

法術に気を取られていた大和は反応が遅れ、空中にいる流咆には地中からの攻撃を阻止することが出来なかった。

 

結果、ゾルクスの根は大和の右腕に直撃する。

 

 

「ぐぁ…!」

 

「直江!!」

 

 

忠勝は大和に駆け寄った。

ガストルとゾルクスが追撃しようとしたが、流咆が水の砲弾によってそれを食い止めている。

大和の右腕はダラリと力無く下がっていた。

 

 

「つぅ…骨やられたか、こりゃ」

 

「バカ野郎!他人に構ってる場合じゃなかっただろうが!」

 

 

忠勝は声を張り上げた。

大和を責めるというよりは、自分のせいで大和が負傷したことに対して苛立っているようだった。

大和は痛みに耐えながら言った。

 

 

「だって、あんたワン子の友達なんだろ?」

 

「あ?」

 

 

忠勝は、大和が何を言いたいのか分からなかった。

どういう事だと問おうとしたが、流咆の砲撃から逃れたガストルが二人に斬りかかって来た。

 

二人はその場から立ち上がり、攻撃を回避する。

しかしガストルは手負いの大和に狙いを定めた。

大和は左手に魔戒剣を握りながら、忠勝に言った。

 

 

「あんたがやられて、ワン子が悲しんだらって思ったら、勝手に体が動いたんだよ!」

 

 

大和は左腕のみで魔戒剣を振るい、ガストルの突きを防ぎながら続けた。

 

 

「大事な人がいなくなったら、悲しいだろ?誰だって、そんな思いしたくないに決まってるだろ!」

 

 

それは先ほど由紀江の前で話した時にも言っていたことだった。

大事なものを失う悲しみや辛さを味わってほしくない。

大和はそのために、自分の身を犠牲にしてでも戦う。

それが、大和の魔戒騎士として、護りし者としての信念であった。

 

痛みに耐えながら戦う大和の姿から、彼の信念の強さを知った忠勝は――

 

 

「ったく、それでテメェがやられてたら世話ねぇだろ!」

 

 

大和の前に立ち、ガストルのサーベルを斬り払った。

 

 

「一子や風間たちから散々テメェのこと聞かされてんだ!それだけテメェは、あいつらにとって“大事な人”だってことだろうが!」

 

 

荒々しい口調ではあったが、大和は忠勝の言いたいことが理解できた。

お前が死んでもダメなんだ、と。

大和は笑みを浮かべ、忠勝に加勢しながら問う。

 

 

「じゃ、忠勝が俺を守ってくれるのか?」

 

「ちっ、調子のいい野郎だ!」

 

 

口ではそう言いながらも、忠勝はわずかに口角を上げながら答える。

 

 

「だがまぁ、一子の泣き顔見るよりはマシだ!」

 

 

大和と忠勝は互いの魔戒剣で突きを放つ。

同時攻撃を受けたガストルは後退し、流咆と戦っていたゾルクスと並ぶ。

 

 

「行けるのか、直江?」

 

「当然!」

 

 

大和と忠勝も並び立ち、二人はそれぞれの頭上に円を描く。

眩い光と共に鎧が召喚され、大和は念狼(ネロ)、忠勝は参狼(ゾロ)に姿を変えた。

 

二人の魔戒騎士と、二体のホラーが再び激突する。

今度は参狼がゾルクスに向かい、念狼がガストルと戦っている。

 

 

「手負イノ貴様ニ何ガデキル!」

 

 

ガストルが振り下ろしたサーベルを、念狼は左手のみで握った念狼剣(ねんろうけん)を横に構えて受け止める。

 

 

「ゼルバ!」

 

「おう!」

 

 

ゼルバの宿る左手の指先から、魔導火が放たれた。

魔導火は念狼剣と鎧に宿り、烈火炎装を発動させる。

炎に怯んだガストルを、念狼は燃え盛る右足で蹴り飛ばした。

ガストルが飛ばされた方向には流咆が回り込んでおり、尾を振り回してガストルを念狼の方向へと弾き飛ばした。

自分の方へ飛んでくるガストルを、念狼は魔導火を纏った念狼剣を振るって両断した。

 

ガストルは切り口から全身に魔導火が燃え広がり、断末魔を上げながら消滅する。

それとほぼ同時に、参狼はゾルクスの体を踏み台にしてバックジャンプした。

 

 

「念狼!俺にも火を貸せ!」

 

 

参狼の言葉を受けて、念狼は念狼剣から魔導火の斬撃を放った。

弧を描いた魔導火は宙を駆け、空中の参狼に命中。

参狼もまた全身と烈風刃に烈火炎装を纏った。

 

 

「流咆!参狼を飛ばせ!」

 

 

念狼の指示を受け、流咆は空中にいる参狼の背後に回った。

参狼は宙返りして流咆の体に着地すると、自身の脚力と流咆の打ち出す力によってゾルクスに向かって高速で跳ぶ。

 

 

「おおおおお!!」

 

 

騎士と霊獣の力を合わせた吶喊と共に放たれた炎の斬撃が、ゾルクスの巨体を撃破した。

 

 

 

 

初の共闘を終えた大和と忠勝は鎧を解いた。

大和は魔戒霊獣をゼルバの中に戻したが、そこで右腕が再び痛み出す。

法術を使って治療しようとしたが、忠勝が声をかけてきた。

 

 

「ほらよ」

 

 

忠勝は懐から小さなビンを取り出し、大和に差し出した。

それを受け取った大和は、中に入っている青い液体を見てそれが何か気づく。

 

 

「…『リヴァートラの刻』?」

 

 

それは魔戒騎士が魔導火によって傷を治療する際に使う薬である。

大和は法術で代用出来るため、普段は持ち合わせていない物だ。

 

 

「治療のために自分で術使うのも面倒だろ?それ飲んでさっさと治せ」

 

「…」

 

「勘違いすんなよ。いつまでも痛がられてちゃ鬱陶しいから…」

 

 

あくまで素っ気ない態度を貫こうとする忠勝。

そんな彼に対して、大和はもらった小ビンを大事そうに握りながら――

 

 

「なあ、俺もゲンさんって呼んでいいかな!?」

 

「なんでそうなる!?」

 

 

尊敬と感謝の念がこもった眼差しを向けながらそう言った。

態度は冷たいが、その行動からは確かな優しさや気遣いが感じられる。

なるほど。キャップが懐くわけだ。

合点がいった大和に対して、忠勝はひどく面倒くさそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

大和と忠勝がそんなやり取りをしている時だった。

多馬大橋の特徴である巨大なアーチの頂上から、彼らの様子を見ている者がいた。

大和や忠勝はもちろん、ゼルバやラルヴァでさえその存在には気づいていなかった。

 

 

「…直江大和…」

 

 

大和の顔を見ながら名を呟いた直後、その者の姿は夜の闇に消えて行った。

 

 

 

 




改めまして、お久しぶりです。常磐です。

前回の更新から四か月。間が空いてしまい申し訳ありません。

今回は大和と忠勝が絆を深める話。
どうしても大和にゲンさん呼びさせたかったので最後のシーンだけは
前々から決めていたのですが、そこに至るまでの話が中々うまく書けず
時間がかかってしまいました。


では、また次回。
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