真剣で念狼<NERO>に恋しなさい!   作:常磐

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本編の最新話に時間がかかってますので、以前からちょくちょく書いていた
番外編を投稿します。
以下、注意点です。

※本編とはあまり関係ありません。
※魔戒騎士やホラーの戦闘は一切ありません。




番外編
『大戦』


 

 

風間ファミリーの全員が、大和が魔戒騎士であることを知り、ホラーとの戦いに赴く彼を支えることを決意した。

これは、その後のある休日のことである。

 

大和の屋敷に初めて訪れて以来、ファミリーは頻繁に遊びに来ていた。

その日ファミリーの全員が屋敷に集い、シオンやアイシスの作った昼食を食べ終えて食後の談笑をしている時だった。

 

 

「川神大戦の助っ人?」

 

「おう!是非とも頼みてぇ!」

 

 

唐突に、翔一が大和に頼み込んでいた。

一方の大和は初めて聞く単語に少々戸惑っていた。

 

 

「いきなり言われてもなぁ…そもそも川神大戦ってなんだ?解説のモロ君」

 

「えっとね…」

 

 

指名された卓也が解説を始めた。

川神学園で認められている生徒間の決闘は、基本的には個人戦である。

川神大戦とは、この決闘システムを団体戦に置き換えたものだ。

ファミリーの二年生全員が所属しているF組は、優等生の集まりであるS組とは何かと衝突することが多く、最近になってついに川神大戦を行うまでになったという。

 

 

「それってつまりクラス対抗戦ってことだろ?部外者の俺を入れていいのか?」

 

 

大和がそう尋ねたが、卓也によれば川神大戦では他のクラスはおろか、学外からも自由に助っ人を集めていいらしく、現在F組もS組も兵力を集めている最中らしい。

 

 

「戦場は山の中。F軍とS軍がそれぞれ陣地を置いて、相手の大将を倒したら勝ちなんだ」

 

「へぇ。随分と本格的な戦だな…てか、助っ人自由なら俺じゃなくても姉さんがいれば解決じゃないか?」

 

 

大和は思ったことを素直に口にした。

世界最強レベルである百代がいれば団体戦であろうと負けることはほぼないだろう。

が、百代を除くファミリーは大和の言葉に困ったような表情を浮かべた。

 

 

「どうした皆?」

 

「それがね、お姉様ったらS軍に入っちゃったのよ」

 

「…姉さんが、敵に?」

 

「そうだぞ~。S組に先にスカウトされてな」

 

 

一子の言葉を肯定する百代を、大和は意外に思っていた。

川神大戦のことを知れば、一子たちが百代に助っ人を頼みに来ることは容易に予想出来るはずだ。

にも拘らず、先にスカウトされたからという理由で百代が簡単に一子たちの敵に回るだろうか。

大和が百代の顔を一瞥すると、彼女はニヤニヤと笑っている。

その表情を見て、大和は百代が何を考えているのかすぐに分かった。

伊達に彼女の舎弟をやってきたわけではないのだ。

 

 

「つまり、姉さんは川神大戦を理由にして、俺と闘いたいと?」

 

「ふっふ~ん♪さてな~♪」

 

「満面の笑顔でとぼけたって無駄だぞ姉さん」

 

 

つまりは、それが百代の狙いということだ。

百代が敵に回った以上、F組には彼女に対抗出来る戦力が必要だ。

由紀江も相当な実力者ではあるが、一人で百代を相手に出来るかと言われれば不安が残る。

加えて翔一たちは全員大和の魔戒騎士としての実力を目の当たりにしている。

となれば、翔一たちが大和を仲間に引き込もうとするのは当然の流れだ。

散々大和に手合せを断られている百代にとっては、堂々と闘えるチャンスと言えるだろう。

 

 

「頼むぜ大和!お前の力が必要だ!」

 

 

経緯の説明が終わり、翔一は改めて大和に頼み込んだ。

大和が見渡せば、ファミリーの全員が期待のこもった眼差しを向けている。

翔一たち二年勢は因縁あるS組に負けないために。

由紀江は仲間である彼らを助けるために。

そして百代は大和との対決を実現させるために、大和の参戦を熱望していた。

しかし、大和の解答は――

 

 

「残念だけど、俺は参戦出来ない。人と争うことは魔戒騎士の掟に反するからな」

 

「「え~!?」」

 

 

溜め息交じりで放たれた否定の言葉に、翔一と一子が声をそろえた。

 

 

「ダメか…そう言えば、以前もマルさんの挑戦を断っていたしな」

 

「掟ですか…それでは仕方ありませんね」

 

「ルールに厳しい大和も素敵」

 

「で、でも大和がいないと僕ら負けちゃうよ」

 

「そうだそうだー!仲間たちのために私と闘えよー!」

 

「別に命の取り合いするわけでもないんだし、ここは俺様たちを助けると思ってよ!」

 

「そういう問題じゃ…」

 

 

掟なんてちょっと破ったっていいだろう。

仲間と掟とどっちが大事なんだ。

クリスたち一部のメンバーが勧誘を諦める中、百代や岳人がそんな言葉を並べながら何とか大和を引き込もうとする。

その二人の態度に、今まで口を閉ざしていたゼルバが言った。

 

 

「おいオマエら。いい加減にしろ」

 

「何だグローブ。俺様たちは大和と話してんだよ」

 

 

引っ込んでろ、と岳人が続けようとするが、その前にゼルバが怒りの混じった声で言う。

 

 

「言っとくけどな。掟を破った魔戒騎士は罰として寿命を削られるんだ」

 

「「「「「「「「…え?」」」」」」」」

 

「最悪の場合は殺されることだってある。よく覚えておけ」

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

 

ゼルバの告げた事実に衝撃を受けたファミリーの面々は全員黙りこくってしまい、部屋には重い空気が流れ始めた。

 

 

「おいゼルバ…」

 

「事実だろ?それに、どうもコイツら魔戒騎士を軽く見てる節があるからな」

 

「だからって、そこまで言う必要はないだろ」

 

 

ゼルバには悪びれる様子もなかった。

知らなかったとはいえ、百代たちは大和に対して『自分たちのために命を削れ』と言っていたも同然だったのだ。

罰のことを知っているゼルバにしてみればいい気分ではないだろう。

 

 

「大和、その…今まで悪かった。知らなかったとはいえ…」

 

「俺様もだ…チクショウ!俺様はなんてことを…!」

 

「すまねぇ大和!」

 

 

百代を皮切りに、沈黙していた風間ファミリー全員が大和に謝罪の言葉を言いながら頭を下げた。

大和は気にするなと返したが、それでもファミリーの表情は晴れない。

軽い気持ちで大和を川神大戦に誘ってしまったことを悔やんでいるのだ。

 

 

(さて、どうしたもんかね…)

 

 

再び嫌な沈黙が続く中で大和は思考を巡らせていた。

掟がある以上、大和は川神大戦に参戦出来ないが、何とか翔一たちの力にはなりたい。

仲間が自分を頼ってくれているのならば、その思いに応えたいのだ。

誰か、自分に代わって参加出来る者はいないだろうか。

大和は幼い頃、父親である景清から人脈を広く持てという教えを受けている。

しかし川神市における大和の人脈構成は五年前に旅立った時点で止まっており、小学生が持てる人脈などたかが知れている。

今では魔戒騎士や魔戒法師の知り合いの方が多いくらいだ。

その限られた人脈の中で、助っ人として紹介出来る人物は誰か。

 

思考の結果、条件に合う者はいた。

この人物たちであれば、翔一たちとも上手くやれるだろう。

結論に至った大和は、まずこの場の空気を何とかするべく口を開いた。

 

 

「皆そう思い詰めるなって。別に気にしてないからさ」

 

「でもよ…」

 

「皆は知らなかったんだし、仕方ねぇよ」

 

 

大和の言葉を受けてファミリーは気持ちが楽になり、部屋の空気が徐々に良くなり始めた。

そのタイミングを見逃さず、大和は皆に向けて言った。

 

 

「で、俺は無理だけどさ。代わりに強い助っ人紹介するぜ」

 

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 

 

後日行われたF軍の決起集会にて、大和の紹介した助っ人たちが明らかとなった。

その人物たちを見たF軍全員が驚愕したという。

 

 

 

 

―――川神大戦当日―――

 

大戦の舞台である丹沢山地では、F軍とS軍による激戦が繰り広げられていた。

森の中では翔一をリーダーとする『黒の隊』、クリスをリーダーとする『白の隊』が遭遇したS軍の部隊と交戦し、河川付近で展開されている中央戦線では一子やクッキー2を中心とする主力部隊が、S軍大将である九鬼英雄が自ら率いる精鋭部隊と激突している。

 

 

「ふむ…中央戦線は拮抗しているようですね」

 

「ねートーマ。大将が一番前に出て大丈夫なの?」

 

「護衛として準やマルギッテさんもいますし、大丈夫でしょう。いざという時の切り札もいますしね」

 

 

S軍の軍師である葵冬馬は本陣で情報班からの連絡を受けながら戦況を分析していた。

大将が倒されれば即敗北だが、隠れた実力者である準や現役軍人であるマルギッテがいれば早々やられることはないだろう。

F軍は風間ファミリーのメンバーを始め、突出した能力を持つ人間は何人か存在しており、特に翔一の率いる黒の隊は神出鬼没な行動でこちらを攪乱してくるが、それでも総合的な能力ではS軍の方が上なのだ。

とは言え他に懸念事項がないわけではない。

 

 

「一番の問題はF軍の助っ人とやらですが…モモ先輩は何もご存じないのですか?」

 

 

風間ファミリーが旧友から助っ人を紹介されたという情報は冬馬も知っていたが、未だにその正体が掴めずにいた。

F軍の決起集会にスパイを送り込んでおいたが、そのスパイは何者かによって昏倒させられ、気づいた時にはF軍に縛り上げられていたという。

冬馬が問うた先、S軍の切り札たる百代は――

 

 

「『敵には教えてあげません。当日をお楽しみに』って大和が…」

 

 

そう答え、食べかけのももまんに再びかじりついた。

翔一たちが大和に川神大戦のことを話したあの日、大和は助っ人のことをすぐには明かさず、後日百代を除くメンバーにのみ教えていたのである。

 

 

「モモ先輩相手にお預けとは…その大和くんという方、中々やりますね。今度紹介してくれませんか?」

 

「そんなことより、助っ人はまだ出て来てないのか?」

 

「情報班からの連絡ではそれらしい人物は見当たらないそうです。どこかに潜伏しているのか、それとも一般兵の中に紛れているのか…」

 

 

百代に対して『お楽しみに』と言うくらいなのだから、助っ人はかなりの実力者だろう。

しかしF軍側にそのような人物がいたという情報は今のところなかった。

万が一の時には、臨機応変に対応しなければならない。

そう思いながら冬馬は腕時計で現在の時刻を確認する。

 

 

「そろそろ、あずみさんが敵陣に奇襲をかける時間ですね」

 

 

 

 

 

同じ頃、F軍本陣に向かって森の中を進む者がいた。

英雄の専属従者であるメイド、忍足あずみである。

彼女は今、F軍大将である甘粕真与を討つべく敵陣に向かって移動している。

途中でF軍が森の中を通ったが、元傭兵にして風魔のくノ一であるあずみには学生を中心とする部隊に気づかれることなく森の中を疾走することなど造作もないことだった。

本物の戦場を知るあずみにとっては川神大戦もお遊び同然だが、それでも彼女は警戒を怠ることなく進む。

S軍情報班からの連絡によれば、由紀江がまだ戦場に姿を現していないらしい。

由紀江は普段は力を隠しているが、その実力が剣聖と呼ばれる父、黛十一段を超えていることはすでに調べがついている。

正体不明の助っ人を除けば間違いなくF軍最高戦力である彼女がまだ戦場に出ていないということは、百代がF軍本陣に現れることを想定して大将の護衛についている可能性がある。

由紀江に気づかれる前にカタをつけなければならないが、忍びであるあずみには絶対に奇襲を成功させる自信があった。

 

 

(そろそろF軍本陣だな…敵大将を見事討ち取り、あなたに勝利を捧げます英雄様!!)

 

 

敬愛する主に褒められる未来を想像し、脳内でメイドモードになるあずみ。

F軍本陣まであと約20メートルほどまで近づいた、その時だった。

 

 

(…っ!!)

 

 

突如、不穏な気配を感じたあずみはとっさに急ブレーキをかける。

その直後、右方向からいくつもの小さな何か(・・)が飛来し、あずみの左前方にあった樹木の幹に全て命中した。

幹に当たり、地面に落ちたのはゴム弾だった。

相手を殺傷することなく鎮圧するために作られた、その名の通りゴム製の弾丸だが、当たり所によってはかなりのダメージを被る。複数の弾が同時に当たればなおさらだ。

もしもあのまま直進していれば、確実にあずみの体に直撃していただろう。

 

 

(銃撃ってことは黛由紀江じゃねぇ…例の助っ人か!?)

 

 

あずみはゴム弾の飛んできた方向に振り向き、森の中に敵の姿を見た。

 

 

「…は?」

 

 

そして、思わず間の抜けた声を上げてしまった。

何せあずみの視線の先にいたのは――

 

 

「あらら、気づかれちゃいましたか。今のに反応するとは流石は九鬼従者ですね」

 

 

携行式のガトリングガンを携えた、緑髪のメイド少女だったのだから。

 

 

「メ…メイドだと!?コイツがF軍の助っ人だってのか!?」

 

「む、なんですかその口調は。メイドたる者、そんな汚い言葉使いではいけません!同業者として嘆かわしいです!」

 

「余計なお世話だ!」

 

 

つい声を荒らげてしまったが、あずみはすぐに冷静さを取り戻す。

なにせ目の前にいるメイド少女は、気配を隠しながら森の中を移動して来たあずみに気づき、先手を打ってきたのだ。

油断ならない相手であることは間違いない。

一方、メイド少女は姿勢を正し、スカートの端をつまみ上げつつ一礼した。

 

 

「申し遅れました。私はアイシス、見ての通りのメイドです。本日は主の命により、F軍の助っ人として参りました。大将の真与様には指一本触れさせるつもりはありませんので」

 

「ご丁寧な自己紹介ありがと…よ!」

 

 

あずみはアイシスから遠ざかるように跳躍した。

敵に発見されてしまってはもう奇襲は出来ないが、せめて正体不明の敵の情報を本陣に持ち帰らなければ。

森の中ならば、木の陰に隠れながら逃げれば敵の弾が当たることは早々ないはずだ。

しかし――

 

 

「逃がしませんよ!」

 

「おわ!?」

 

 

先程と同じように、あずみの進行方向に向かってアイシスのガトリングガンから無数のゴム弾が放たれた。

あずみは直前で強引に方向転換し、ゴム弾の雨を回避して別ルートで逃走を図ろうとする。

だがアイシスはその先を行っていた。

あずみが通過するであろうルートを予測し、先んじてその通過点に向かって銃撃することで確実に命中させようとする。

あずみは何とかアイシスからの銃撃を回避しているが、少しでも気を抜けば直撃は必至だった。

 

 

「くそ!ただのメイドじゃねぇな!」

 

「ご主人様をお守りするための力…同じメイドなら分かるはずです!」

 

「確かにな…だが!!」

 

 

このままでは逃げ切れないと判断したあずみは、反撃に転じた。

アイシスの射撃の腕は確かなものだが、ガトリングガンならば接近戦には対応できないはずだ。

愛用の小太刀を両手に握り、銃撃を回避しながらアイシスへと急襲する。

 

 

「銃使いのメイドなんざ、ステイシーで間に合ってんだよ!」

 

 

一気に間合いを詰めるあずみ。

対してアイシスは特に慌てた様子もなく、手に持っていたガトリングガンを地面に放ると、右手で腰の後ろから新たな銃を抜いた。

拳銃に近いサイズだが、その銃口は一般的な拳銃よりも大きかった。

先程までよりも大きなゴム弾を、急接近して来たあずみにカウンターで放とうと言うのか。

アイシスは瞬時に狙いを定め、弾丸を放つ。

しかしあずみは余裕の表情だった。

 

 

「そんなデカい弾食らうかよ!」

 

 

迫り来る弾丸を小太刀で切り落とすなど、あずみには容易いことだった。

あずみは弾に向かって右の小太刀を振るう。

だが、刃が接触した瞬間、弾丸からガスが噴出した。

 

 

「ぶふぉっ!?」

 

 

ガスは瞬く間に広がり、あずみの視界を奪った。

予想だにしなかった事態に思わず動きを止めてしまったあずみ。

アイシスはあずみの背後に素早く回り込み、その身を地面へと押し倒した。

そのままあずみの背に左膝をつけ、彼女の両腕を己の左手と右足で押さえ込み、完全に身動きを封じる。

 

 

(ぐう…なんだコイツの技量は!?)

 

 

初見の相手とはいえ、自分をここまで追い詰める少女に、あずみは動揺を隠せなかった。

彼女の上に乗っているアイシスは、先ほどの拳銃をあずみに向ける。

 

 

「今度はゴム弾が入ってます。この距離で撃つと、痛いどころではすみませんよ」

 

「くっ…」

 

「降参してください。例え変わり身の術を使ったとしても、逃がしはしません」

 

 

口角を吊り上げながら警告するアイシス。

それがハッタリではないことを、あずみは感じ取っていた。

これまでの戦闘中、アイシスはあずみの速度に完璧に対応出来ていた。

おそらく、あずみのような忍びとの交戦経験があるのだろう。

 

もはや逃走すら叶わないと判断し、あずみは苦渋に満ちた顔で自身の敗北を宣言した。

 

 

 

 

それから数分後。

S軍本陣では予定の時刻を過ぎてもF軍大将討ち取りの情報はおろか、あずみからの連絡すら届いていなかった。

現在、中央戦線には翔一やクリスの隊が合流しており、大戦はいよいよクライマックスを迎えていた。

今のところ英雄が討たれる心配はなさそうだが、F軍の大将を倒せなければこちらに勝利はない。

事態を重く見た冬馬は、百代に直接F軍本陣を攻撃するよう指示した。

もしかすれば例の助っ人が本陣の守りについていて、あずみを倒したのかもしれない。

強敵と闘えることに期待しながら、百代はS軍本陣から一気に飛んだ。

 

そして、到着したF軍本陣の意外な光景に固まることとなる。

 

 

「はふ~。お茶がおいしいです」

 

「真与様、千花様、おかわりはいかがでしょう?」

 

「いただくわ。ん~いいわね、このいかにもお嬢様って感じ!」

 

「…なんだこりゃ」

 

 

本陣のど真ん中に配置されたテーブルで、F軍大将である甘粕真与とその友人である小笠原千花の二人が、紫髪のメイド少女――シオンの給仕を受けながら優雅なティータイムを満喫していたのだ。

 

 

「おや、百代様。ようこそF軍本陣へ」

 

「え?あ!本当です!はわわ!!」

 

「ちょっとシオン!なんで歓迎してんのよ!」

 

「主のご友人の方ですので」

 

「今は敵なのよ!?それも思いつく限り最悪の!!

 

 

シオンがお出迎えしたことでようやく百代の到着に気づいた真与と千花はパニックに陥っていた。

それとは正反対に冷静さを保つシオンとのギャップがなんともシュールだ。

 

 

「えーっと…まさかシオンちゃんが助っ人なのか?」

 

「いかにもその通りでございます。あとは、アイシスが敵襲に備えて森の中で待機しております。私は大将である真与様の護衛役です」

 

(シオンちゃんとアイシスちゃんが…?大和は何考えてるんだ?)

 

 

にわかに信じられない百代。

何せ彼女の知るシオンとアイシスは、大和の屋敷で働く普通のメイド姉妹なのだ。

彼女らが助っ人になりえるほどに強いとは思えなかった。

しかし今のシオンの言葉を信じるならば、音信不通状態となっているあずみは森の中で待機しているというアイシスに敗れたと考えられる。

あずみが強いことは百代も知っている。

ならばアイシスはあずみ以上の実力者であり、今目の前にいるシオンも相応に強いと言う事だろうか。

 

 

「ん~いまいち信じられないな」

 

「では、実際にご覧になってはいかがでしょうか」

 

 

そう言って本陣から一歩出たシオンの右手には、長さ20センチほどの棒が握られていた。

シオンが右腕を振ると、棒の内部に収縮されていた部分が伸長し、長さ60センチほどのロッドになった。

 

 

「警棒?それがシオンちゃんの武器か?」

 

「その通りです。大和のご友人である百代様に武器を振りかざすのは不本意ではありますが、今は真与様をお守りするのが私の役目です」

 

 

基本的にあまり表情が動くことのないシオンの目が、やや鋭くなった。

ロッドを構え、百代と対峙するその姿からは、屋敷にいる時とは違う気迫が感じられた。

 

 

「お相手を、よろしくお願いいたします」

 

「…そう言われちゃぁ、相手せずにはいられないな!」

 

 

初めて見る臨戦態勢のシオンに、百代は笑みを浮かべながら答えた。

予想外の相手ではあるが、中々に面白そうだ。

 

 

「来いよシオンちゃん。かわゆいメイドちゃんには先手を譲っちゃうぞ」

 

 

立てた右手の指をクイクイと曲げながらシオンを誘う。

相手にまず先手を取らせようとするのは、百代の悪い癖であった。

そうすることで相手の力量を測り、自分の力をそれに合わせることで戦闘を長引かせ、より長い時間楽しめるようにするのだ。

最近になって精神修行を始めたとはいえ、長く続いた悪癖は中々治らないようだった。

そんな百代の誘いに対し、シオンは――

 

 

「承りました。それでは、遠慮なく」

 

 

その言葉を言い終えるのと同時。

五メートルほどあった百代との距離を、シオンは一瞬で詰めた。

 

 

(速っ!?)

 

 

百代の反応がわずかに遅れた。

その隙に、シオンが百代の右足にロッドを叩きつける。

直後、ロッドから強烈な電撃が放たれた。

 

 

「ぐあああっ!?」

 

 

百代は即座に後方へ飛び退いて距離を取った。

右足は電撃の影響で麻痺しており、思うように立てずに膝をついてしまう。

シオンの右手に握られているのは、強力なスタンロッドだったのだ。

百代は右足に瞬間回復をかけようとするが――

 

 

(う…上手く回復出来ない!?こんなのは初めてだ!)

 

 

電撃で麻痺したことで神経や体内の気の流れを乱されたのか、右足のダメージは一向に抜けなかった。

また麻痺だけではなく、ロッドの打撃による痛みも相当なものだ。

シオンのパワーとスピードは百代の想像をはるかに超えていた。

 

 

「いかがでしょうか、百代様」

 

「ああ、大和が選ぶだけのことはあるな。でも、なんでシオンちゃんがここまでの力を…?」

 

「私やアイシスの過去については、以前お話しましたね?」

 

 

大和と出会うよりも昔のこと。

幼くして両親を失ったシオンとアイシスはある資産家に引き取られ、その家のメイドとなった。

実はその資産家は、九鬼財閥ほどではないにせよ政治や経済に強い影響力を持った権力者であった。

 

 

「強い力を持つ者は、それだけで多くの敵を作ってしまいます。かつての私たちのご主人様も例外ではありませんでした」

 

 

敵対する者が雇った暗殺者、あるいは資産家を憎むテロリストによって、その資産家の命が狙われることは少なからずあった。

故にその家に仕える者たちには、そういった敵を撃退し、主を守るための技術や力を習得することが求められ、シオンやアイシスもそのための訓練を受けていたのである。

 

 

「主に仕え…主を支え…そしてお守りする。それこそが従者であると、私たちは教わりました。故に私たちは、『守る』ための戦いにおいては絶対に負けません」

 

 

力強く宣言するシオンの瞳には、彼女の静かな闘志が宿っていた。

百代は、先ほどまでの自分を恥じた。

何がかわゆいメイドちゃんだ。

今自分が戦っているのは、強い意志を持った一人の戦士ではないか。

百代は未だに痺れている右足を庇いながら立ち上がり、シオンに向かって深く頭を下げた。

 

 

「すまなかった。私はシオンちゃんを侮っていた。シオンちゃんは、本当に強いな」

 

「お気になさらず。武神に認めていただけるとは、とても光栄です」

 

「そうか…よし!川神百代、全力で相手しよう!」

 

 

仕切り直すように叫び、百代は拳を構える。

だが、対してシオンは冷静に告げた。

 

 

「ご気分が高揚なさっているところ申し訳ありませんが、この戦いはそう長くは続かないでしょう」

 

「え?確かに右足は痺れてるが、こんなもので私は…」

 

 

麻痺している右足がハンデになると言いたいのかと思い、百代は反論しようとする。

しかしそこで、森の方から声が聞こえた。

 

 

「姉様が言っているのは、この川神大戦のことですよ」

 

 

アイシスがガトリングガンを背負いながら、森の中から出て来た。

百代はアイシスの言うことがよく分からず首を傾げる。

 

 

「どういうことだ?」

 

「お気づきになりませんか?私やアイシスが本陣の守りについているということは…」

 

 

シオンが言い切る前に、ドンッという大きな音がいくつも聞こえ始めた。

百代が慌てて振り向くと、空には大戦の終わりを告げる花火が上がっていた。

F軍の大将である真与が無事な状態での終戦。

ということは、S軍大将である英雄がF軍の誰かに討ち取られたということだ。

しかし百代がS軍本陣を出た時点では、英雄が討たれる心配はなかったはずだ。

では一体誰が…と、ここで百代の脳裏にある人物が浮かび上がる。

大戦の開始以降、全く戦場に姿を現していない者が一人いた。

 

 

「ま、まさか…まゆっちか!!」

 

「その通りでございます」

 

「大正解~♪」

 

 

既にスタンロッドを仕舞ったシオンが普段の物静かな表情で肯定し、アイシスは満面の笑みでパチパチと拍手していた。

シオンとアイシスが本陣の守りについたことで、由紀江は完全にフリーとなっていた。

由紀江は勝機が来るまで、森の中で気配を消しながら待機していたのだ。

そして、百代がF軍本陣へ向かったのを確認した後、自身も中央戦線に加わった。

武道四天王の一角を担う由紀江が参戦したF軍は一気に攻勢に出て、英雄を討ち取ったのである。

 

 

「百代様が中央戦線の方へ向かわれていましたらこうはならなかったでしょう。ですがそこは、大和のアドバイス通りです」

 

「な、何?大和が何だって!?」

 

「曰く、『姉さんなら面白そうな方に行くはずだ』だそうですよ?」

 

 

百代がF軍本陣に来たのは軍師である冬馬の指示によるものだが、もしもシオンやアイシスが中央戦線で戦っていれば、面白がってそっちに行っていただろう。

大戦当日まで正体不明の助っ人とされていたシオンとアイシスは、百代を引きつける役目も担っていたということだ。

 

 

「く…くっそおおおおおお!!」

 

 

自分の所属するS軍が敗北したのもショックではあるが、何よりも舎弟である大和の思い通りに動いてしまっていたことが悔しくて、百代は絶叫するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、大和は川神市内を回っていた。

番犬所からの指令は来ていないが、大和にはホラー頻出の原因を探る仕事もあるのである。

 

 

「そういや、大戦はF軍の勝ちだってな。ま、シオンやアイシスが加わりゃ当然だな」

 

「あんだけ姉さんたちにきつく言っておいて、結局気になってたんだな」

 

「大和が掟破りをしなけりゃ話は別さ」

 

 

川神大戦というイベントは市内で大々的に取り上げられており、大和とゼルバは街中を歩く中で結果を知った。

自分があんなアドバイスをしていたと知った百代が大荒れしてそうだが、この敗北をきっかけに百代はまた成長することだろう。

 

 

「しかしシオンとアイシスを助っ人によこすたぁ、思い切ったことするもんだな」

 

「まぁな…これで、二人が皆と仲良くなってくれると嬉しいな」

 

 

シオンとアイシスは、幼いころからメイドとして働きながら生きてきた。

彼女たちにも『友達』と呼べる相手が出来ればいいと、そんな願いが大和の中にあったのだ。

確か翔一が、F軍が勝利したらそのまま夜にバーベキュー大会をして祝うと言っていた。

きっとシオンとアイシスも、その中に加わっていることだろう。

楽しんでいて欲しいと思いながら、大和は夜の川神市を歩むのだった。

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

最近G級の壁にぶち当たっている常磐です。

今回は本編での出番が少ないシオンやアイシスを活躍させたいと思い
少し前から書いていた番外編をお送りしました。


次は本編でお会いしましょう。
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