『少女世界攻略記録』   作:100110110011(2)の民

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100◇『秘神朝見』と『悪夢』

 

その報告と共に顕現なさるのは…いや、私如きが全てを顕現させられる訳がないが…その一部を…ほんの断片を垣間見る。

でもそれで十分だ。

 

 

私は何かを見た。

それは下へと繋がっていた。

指し示す方向は物理的な下ではない。それは深さだ。

幾重にも封印されし暗き霊峰が目の前に聳える。

煉獄が遥か上で此方を覗く。

何処からか少年の様な雰囲気が感じられる。

何処からか女性の様な雰囲気が感じられる。

何処からか老人の様な雰囲気が感じられる。

何処からか歯車の様な雰囲気が感じられる。

それは全て上に在り、私を嘲笑う。

 

暗闇に包まれた空間にそれはある。

その暗黒は如何なる光をも飲み込んでなお何よりも深く昏い闇の中。

その暗黒の中を不定形のそれは漂う。

そして直感する。

これは少し前に見た『孤神の球体破片』の本体にして…原典なのだと。

その神は孤独に、周囲に呪祟を吐き散らし、幾重にも呪域、神域を張り巡らせ…そして無限に等しい『神』を、概念を、万物をその名の通り創造し…私が認知する間もなく破壊する。

秘神の秘する意は全てを秘匿する神ではない。

全世界に、万物にとって秘匿されるべき神である。

私がこうして『謁見』出来てかつ意識を正常に保っていられるのは『孤神の球体破片』の経験とこの本体の配慮あっての物なのだろう。

そしてその配慮がほんの僅かでも削れた瞬間に私は何の感慨もなく消え去るのだろう。

私はその幸運に、その不運に感謝しながら創世の神の御言葉をただ待つ。

無限の前に立つは1でも1億でも誤差でしかない。唯、足元にも及ばず物言わぬ屍と化すのみだ。

 

──妄執を提示せよ。

 

妄執……執念、妄言?

……願いってこと?

願いは何ってこと、か。

 

なら決まってる。

 

私は元の世界への帰還を願う──

待って、おかしい。

そんなこと、なんで?

私は────

 

──真相は秘された天に在り。

 

そう神託を貰いその神は消える。

真実を知れ、ってこと?

どういうこと?

真実を知ったら、帰してくれるってことかな?

そもそもこのまま帰るつもりはなかったわけだし…

そこまで考えた所でその沸き立つ闇の空間が溶けていく。

そして『秘神』への謁見の代償か私の意識は何処か遠く彼方へ薄れていく…

 

 

◆◆

 

「……ナ!…ハナ!」

 

誰かの呼び声が聞こえる。

 

「だ…れ?」

 

目を開けるとそこには白銀色の髪の少女がいる。

どうやら私に呼び掛けているらしい。

彼女と私はどんな関係なのだろうか。

…自分の記憶を探るが目の前の人物と一致する記憶は出てこない。

 

「私だよ…アリス、だよ?」

 

どうやらこの少女はアリスという名前らしい。

私は…?

 

「ハナ?どうしたの?」

 

私の名前はハナというらしい。

私は…人間だろう。

だから両親や家族がいるはずなのだけど…

全く記憶に出てこない。

私の記憶はどこを探しても真っ暗な闇であり何処からも救いの来ない闇である。

 

どうやら記憶喪失らしい。

何やら事情を知っていそうな少女…もといアリスさんに聞いてみよう。

 

「アリス…さん?」

 

「ハナ……嘘だよね?」

 

「私は一体何をしていました?」

 

「ハ、ナ…」

 

「…ハナは私と話してる時に突然倒れた。それから1時間位」

 

「ここは何処ですか?」

 

「ここは…王宮。ハナの仕事場でもあって…私の家でもある場所」

 

アリスさんは王宮にすんでいるらしい。

もしかして王族の方?

だとしたらアリスさんと呼ぶのは不味いかもしれない。

 

「アリス様、私は何をすれば…」

 

「…………待って…」

 

それから5分程待たされた。

もう一度自分を見つめ直すが何の記憶も浮かばない。

私の脳内にはただただ闇が広がっている

 

「『─────────』!」

 

…アリス様がどうやら記憶を思いだす様に魔法をかけてくれたらしい。

 

「アリス様?」

 

「…何で?何で効かないの?」

 

そう言って呆然とするアリス様に私がかけられる言葉は一つもなかった。

何か出来ないかと自らの記憶を再度漁る。

 

深い闇の中を漂い自らの記憶を探す。

360°闇に囲まれた様に見える。

そう、それだけだ。希望の光も記憶の手がかりも何一つ存在しない。

目の前で泣き崩れるアリス様は記憶を失う前私とどんな関係だったのだろうか。

様子から判断すると私と親しかった様に思えるがアリス様は王族、私は恐らく平民。

その間には深い溝があるだろうから…

多分アリス様にとってはお気に入りのペットが…違うな。そんな重要な物じゃない。

買おうと思ってた花瓶が誰かに買われた…位の悲しみだろう。

なら花瓶なりに動こうか。

 

「アリス様、それでは今までありがとうございました」

 

私はそういって王宮を出る。

アリス様の呼び声がするが気にしない。

彼女は1日経てば次の花瓶を見つけるだろう。

自分の住まいすらわからないけど…少なくともこの街の中だろう。

でもそうすると昔の私の事を知ってる人に会ってしまうかもしれない。

そうしたらきっと私に失望する。

記憶喪失前の私は王族の『お気に入り』だった。さぞ良い待遇だったんだろう。

でもそれがない今私はすり寄る価値のない凡人だ。

…だからこの街を出よう。

昔の私がこの街から出た事があるかは不明だけど、まあ私を知ってる人にはあまり会わなくなるだろうしね。

そして別の街で細々と過ごす。

子供達が英雄だとか主人公だとか言いあってる。

…何かひっかかるがまあ思い出せないなら些細な事なんだろう。

前の私と今の私は全く違う存在なんだ。

そう考え私は街の門の方角に向かう…

 

門から出て2時間程歩いた。

その道中で私は何でも入る鞄を持っていてかつ魔術を使えるらしいことが判明した。

 

ものは試しと思い『舞踏城(タンゼンシュラウス)』というものを使う。

 

自分のステータスを見るといくつか疑問が湧いてくる。

私は…何者だったのだろうか。

称号は何もなく。魔術と魔法以外は何もない。

そして私はいま何者なのだろうか。

自分の魔術すら把握していなく、自分の性格も境遇も知らない。

からっぽな私は何のために生きているんだろうか。

ならアリス様の下で奴隷にでもなった方良かったかな…?

そうしたら生きる目的位はもらえる可能性がある。

……まあもう引き返せない。

今の私は王宮はおろかあの街にすら入れないだろう。

恐らくアリス様は今、私を探して殺すか捕らえようとしている。

だからあの街に戻ったらあっという間に捕まって命を落とす事になるだろう。

 

なるべく遠く…遠くへいかなきゃ。

自分自身の存在に疑問を抱きつつも私はとにかく遠くへ行こうと足掻く。

 

 

あれから3日が経つ。

道中では大きな広場や崩落したっぽい鉱山とか色んな物があったがまだだめ。

止まるわけにはいかない。

少なくとも国からは出なきゃ。

 

 

また3日が経つ。

所々で浴場に入ったりして体の汚れは落としてるけど服の汚れはひどくなってきた。

そろそろ服を買おうかな?

でもそこで足が付くのが怖い。

浴場は大量に人が来るから一々どんな人が来たとか覚えられてなさそうだけど服屋はそうはいかない。

国を越えたら新しい物を買おう。

昔の私はお洒落に気を使っていたのだろうか。

まあ今となってはどうでもいいことだ。

 

 

3日…72時間は思っているよりも一瞬だ。

変わらない景色を眺めながら歩き変わらない服で身嗜みを整える。

そう繰り返している内に3日なんて直ぐに過ぎる。

朝が終わり…夜が来る。そして朝が来て…夜が姿を表し…朝に戻る。

そうして夜が再度訪れて…朝になればもう3日だ。

そしてこれを10000回繰り返せば…あっという間に80年を越える。

人の一生は儚く一瞬の物だ。

それに大量にいる人、その内の一人の人格が変わる。

それで社会に何か影響が出るだろうか。

 

 

そしてまた3日が経過する。

遂に国境にたどり着く。

これでこの国境を越えて誰も来なければ…

 

「…ハナ!」

 

どうやらアリス様は…いや、集めた情報通りだと…第二王女様は私を逃してくれないらしい。

 

花瓶じゃなくてペット位の愛着はあったのかな?

まあいいや。

関係ない。

第二王女様を退かして…私は前の私と決別する。

彼女達が最後の邪魔者だ。

新しい私の道を邪魔する人は…

 

私は詠唱を始める。

 

「此処は私の望む世界である!」

 

「ならば我が世界をより強固としよう!」

 

「魔術よ!魔法よ!私のために…」

 

「世界を染め上げろ!」

 

「そして今を以て此処こそが…」

 

「欺瞞でも仮初めでもない…正真正銘私のみの世界!」

 

「招かれた異国の来訪者達よ…」

 

「魔法と記憶に彩られる私の世界を存分に楽しめ!」

 

「『忘執の世界(ロスト・メモリー)』」

 

私は魔法を発動させる。

それとともに頭上に雨が…黒い雲が展開される。

私がこの魔法で出来る事は一つだけ。

自分の記憶を他者にも押し付ける。

ただそれだけだ。

真っ暗で全てを押し潰す記憶と恐怖が辺りに吹き荒ぶ…

 

 

 

私は数個の人だった肉塊を横目に最後の関門を突破する。

 

これで私は解放された。

そう思い私はその先の新天地へと踏み込む。

 

 

 

 

 

そして……考えた。

 

違う。

私を縛る鎖はまだ解かれていない。

あの国が存在する以上私は呪縛から逃れられない。

だから私がやるべき事は新天地への逃亡じゃない。

旧天地を滅する事だ。

私はその地を恨まない。

ただ無関心である…が、私の邪魔になるなら…その行き先は一つ。

 

そうと決まれば後は早い。

今までの通り道を唯、引き返せばいい。

 

再び12日をかけて因縁の地へと戻る。

通りの村は全て『記憶の重圧』に潰れた。

通りの町は全て『記憶の炎』に焼かれた。

通りの人は全て『記憶の雷』に撃たれた。

通りの魔は全て『記憶の氷』に呑まれた。

通りの障害は全て『記憶の風』に流れた。

私の通り道には草一本残らない。

 

そして王の住む都…始まりの地、王都を夕焼けを背景に見る。

 

ここさえ…ここが最後…

 

私は今までと同じ様にする。

ギルドを炎で焼き、教会を雷で打ち崩し、建物を重圧で潰す。

そして最後に残ったのは炎上する王宮と…

やはり彼女だった。

彼女は既に満身創痍だ。

きっと民を救おうと足掻いたのだろう。

きっと家族を助けようと働いたのだろう。

きっとこの国を想い動いていたのだろう。

その行動はなんて英雄的(ヒロイック)感動的(ドラマチック)で素敵な物でしょう……なんてね。

でも、その努力が全てが無駄になる。

その努力は、その行動は全て私の『記憶』を以て灰塵に帰す。

民は逃げ惑い家族は消え…国の中枢は崩壊している。

これがこの国の現状…いや、末路というのが正しいか。

 

「………」

 

彼女が何かを言っている。

泣いている様にも思える。

この惨状が悲しいのだろう。

でも私には…今の私には一切関係ない。

今の私とは縁も所縁も全くない場所だ。

幾ら壊れようと幾ら壊そうと気に病む必要はない。

そう、所詮他人だからだ。

 

さあ過去の私と決着を着けよう。

ここが本当に最後の分岐点、盛大な破滅でこの国を終わらせよう。

 

私は暴虐の限りを尽くす。

雷は落ち炎で燃やし重圧をかける。

凍てつく氷は全てを停止させ吹き荒ぶ風はこの国の存在ごと流し去る。

ここが街だったなんて、ましてや王都だったなんて、当事者である私でも信じられない位に破壊する。

 

それでも彼女は耐える。

何もせずにじっと耐える。

何故?この猛攻に耐えられる方法があるんだ。

確実に攻撃方法はあるはず…なのに私を攻撃しない。

 

「…ハナ……」

 

彼女の声が聞こえる。

 

「……どうして?…どこで間違えたの?…」

 

何の話をしているのかわからない。

でもどうだっていい。

どうせこの人も他人だ。私の言うことを判ってくれないと同じで私もこの人の言うことを判る義務はない。

 

「ここは…ハナにとって夢の世界じゃないの?」

 

夢の世界?そんな馬鹿な。

ここは過去の私が今の私を縛り付ける悪夢だ。

 

彼女は続ける。

 

「…それでもダメ………ごめんね…」

 

そう言うと第二王女様は私に手を翳し…

私の意識は闇に呑まれる。

 

後に残るは少女を抱える少女とその咽び泣く声のみ…

 

 

 

 

 

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