『少女世界攻略記録』   作:100110110011(2)の民

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114◇其の滑落の果てに【救聖女】は頂上へと辿り着く

◇◆セリア・ティーミール視点◆◇

 

……目を開けますと、先ほどとは違う空間にいました。

先ほどの空間は壁も天井もなく、床が白い空間でしたが、今はすっかりその容貌を変えています。

 

白は白でも人工的な白色ではなく、雪の白に一面が染まります。

辺りには氷柱(つらら)が散乱し、遥か遠くの山は雪と氷に包まれています。

 

そうですね、ハナさん風に名前を付けるなら───

 

『全てを拒み、全てを愛する試しの大地』

『長い旅路を経て聖女は何を想うのか』

 

『第二幕』

『無限降下の九重(ここのえ)螺旋階段』

 

「──『下がり続ける円奏(リタルタンド)』ですかね」

 

良く見れば、降り積もる雪は蠢き、空間が歪んでいます。

遠くに見える雄大な山々も捻れ、山ごと沈んでいっています。

全てが徐々に下がる(リタルタンド)この世界に名前を付けるならば、それしかないでしょう。

 

そんなことを口に出しながらも周りを見渡します。

目の前にあるのは何処までも続いていく螺旋階段。

それ以外は捻れ吹雪が私の侵入を、そして生存を拒もうと、おどろおどろしい音を立てています。

 

「行くしかない、ですね」

 

確認のために口から自らの次の行動を言いながら歩みを進めます。

勿論危ない敵がいるかもしれないので、声は出さないほうがいいのでしょうけど……

この世界に一人しかいない、というのはどうしようもなく寂しいものです。

だからせめてもの反抗として、自分の声でその寂しさを紛らわします。

 

「それでは階段を降りますね」

 

一段、一段と今にも崩れそうな氷製の階段を下っていきます。

幻惑なのか、それとも実際にそうなっているのかはわかりませんが、この世界の地下は静かな雪の海でした。

幻想的な景色を少しだけ楽しみながらも2分程降りたところで終点……つまりは階段の終わりに到着します。

 

降りたったその瞬間、辺りの景色が切り替わり、元の地上へと景色が戻ります。

捻れる山も、蠢く雪もそのままに、戻っきてしまいました。

ただ、前と一つだけ違うのは目の前に階段がないということです。

 

『無限降下の九重螺旋階段』という名前から推測しますと、私はここから階段を探せばいいのでしょうか。

 

そう思って辺りを探索します。

すると、予想通り降り積もる雪の下に隠された階段が出てきます。

なので私はそれを降り────

 

 

 

───そして、元の地上に戻ってきます。

これは…もしかすると、私の予想は正しいのかもしれませんね。

ふとした思いつきで上を見上げますが、空で暗澹とした色で輝くのは()だけで、階段なんてどこにもありません。

 

私は階段を求めて再び歩き出します。

 

 

 

 

 

7回、あの階段を下りました。

徐々に見つけるのが難しい位置に、そして徐々に遠くなっていきます。

そして何よりも辛いことは、時間が経つにつれて手足の感覚……体の末端の感覚がなくなっていくことです。

この空間は見ればわかる通りに、極寒の地です。

なので、長くいればいる程全身が凍ってきてしまいます。

この『試練』が何を求めているのかが全くわかりませんが、それでも私は進むだけです。

それが私の熱意(モチベーション)なのですから。

……最近ハナさんに毒されてきている気がしますね。

 

何度見たかわからない上を見上げます。

すると、私の予想外のことがそこでは起きていました。

綺麗に青白く染まる空の一点。

その一点が黒く染まっています。

そして私の気のせいでなければ、その穴は徐々に拡がっているように見えます。

もしかして、この『試練』には時間制限があるのでしょうか。

 

なら、無駄なことを考えている暇はありません。

早く階段を見つけませんと……!

 

降り積もる雪を掻き分け、氷柱(つらら)の影を注意深く観察します。

雪で出来た樹…雪樹木とも言うべきそれの葉を漁ります。

そして…

 

「…見つけました!」

 

最終階層へと繋がる階段。

それは氷柱(つらら)と雪樹木の影に隠れた巨大な氷の森の中にありました。

 

意気揚々と、そして無限に続く階段に意気消沈しながら私は下っていきます。

下っている際に、横に見える幻想的な風景にうつつを抜かしている時間はありません。

 

そして地下8階に降ります。

階段を探そうと検討を付けようとして……そこで気付きます。

地下8階、その風景は今までのそれらとは全く違うものでした。

 

雪に包まれた世界は端から崩れ落ちて行きます。

遠くにあったはずの山は消え、降雪は消え、風も一切ない凪の状態になっています。

 

そして、念願の最後の階段が目の前にあります。

それはあたかも最初の再現のようです。

 

端から侵食してくる黒い(もや)を無視して私が階段に飛び込むのは簡単です。

しかし、それを妨げる……違いますね。

しかし、それをすることを悩ませることがあります。

 

「セリア、助けてくれるよね?」

 

……ハナさんです。

勿論この試練が作り出した幻影でしょうけど、それは紛れもなくハナさんです。

言動も、雰囲気も、そして私に向けるその信頼も全てハナさんです。

 

「セリアが倒れた直後、私も倒れて…それで気付いたらここにいたの。それに魔術も使えないし……」

 

ハナさんは下半身が氷に埋まっています。

私がこのハナさんは置いて階段に入るのは簡単なのでしょう。

それにしてもこのハナさんは本当に偽物なのでしょうか。どこからどうみても本物にしか見えません。

特殊職業の試練……なら、例外として『そういうこと』もありえるのでしょうか。

それに、私がここにいるハナさんと本物のハナさんの区別が付かないのですから、どちらが本物でも私にとっては『何も変わらない』のではないのでしょうか。

記憶も、性格も、全て同じである別の人間ですか……

鬱蒼とした考えを追い払いながら、私は考え続けます。

 

「待って、セリア。ねぇ、返事をしてよ。まさか置いていくつもりじゃないよね?私このままじゃあ──」

 

「本物じゃありませんね」

 

ハナさんとは決定的に違います。

ハナさんはこんなものに縛られる(・・・・)人ではありません。

ですが……

 

「私は貴女を救います。貴女がハナさんだろうとそうでなかろうと関係ありません。困っている人がいたら助ける…当然のことでしょう?」

 

「セリア……」

 

勢いを上げて迫り来る黒い靄を無視して、偽ハナさんを救出します。

「ファイヤーボール」を使えばこの氷も解けるでしょうか。

 

「燃え盛る根源よ!我が意のままに従いて、氷を穿て!ファイヤーボール!」

 

ゆっくりと、それでも着実に私は氷を解かしていきます。

しかし、世界を熔かす黒い靄はそれ以上の速度で私達の所まで迫ってきます。

もうすぐそこまで来ていますが……もう少し、です。

 

「え、セリア!?あれ、何?」

 

やっぱり偽ハナさんからは見えていなかったのですね。

まあ氷に閉ざされていましたし、仕方ないといえば仕方ないのですけれど。

 

「私にはわかりません…体には悪そうですが…」

 

「いや、待って。私を助けてる場合じゃないじゃん!セリアだけでも逃げなよ!ほら、私はハナじゃないんでしょ!?私なんて置いて───」

 

偽物だというのに、その理論的な気遣いの仕方は本当に本物のハナさんと瓜二つです。

 

「ここまで助けたんです。今さら後には引けません…!」

 

「それはコンコルド効果で…ってそうじゃない!私を助けようとしてセリアまで巻き添えになったら意味ないよ!」

 

「大丈夫です。もう、終わりますから」

 

「ああ、ありがとね…ってそうじゃなくて、ほらもうすぐそこまで──」

 

「終わりました!これで抜けますよね?」

 

「うん、大丈夫。『舞踏(タンゼン)……は使えないんだった。急がな……」

 

ハナさんの言葉が止まります。

今この瞬間に階段が靄で隠されようとしているのですから当然です。

 

「…もうっ、セリア!行くよ!」

 

そう言うと偽ハナさんは私の腕を掴み、階段の前まで進みます。

 

「ふさがっていますね…ってハナさん?何をして───」

 

偽ハナさんは私を抱きつくように抱えて、そのまま靄に向かって突っ込みます。

そして靄を抜け、螺旋階段の内部へとたどり着きました。辿り着きましたが……

 

「ハナさん、体が……」

 

「ああ、確かに熔けてるね」

 

「『熔けてるね』じゃないですよ!どうして…」

 

「困ってる人がいたから助けた。それだけだよ?」

 

そう言うと、ハナさんは黒い霧になり(靄に熔かされ)いなくなってしまいました。

 

「何のために助けたと思っているのですか……」

 

そんな愚痴が出てしまいすが、我ながら仕方ないと思います。

……助けたと思った相手に助けられてしまいました。

 

 

 

重い重い腰を上げて、階段を一段一段、降りていきます。

そして1時間にも2時間にも感じる長い階段を降り、旅路の終着点に辿り着きます。

 

そこは氷の闘技場でした。

観客のように氷塑像があり、まるで私が見せ物かのようにその中心に立っています。

 

「ここが最後、ですか」

 

突然、

 

ふわり、と強い風が吹き髪を押さえ、再び目を閉じます──

 

風が止み、私が目を開けるとそこには『ドラゴン』がいました。

 

 

『悠久不変の凍獄、決して溶けぬ悪意の底』

『如何なる不遜をも許容する悪魔の巣窟』

『地の底にて聖女は何を想うのか』

 

『最終幕』

『世界の頂上にて』

 

 

……まるで演劇みたいです。

私はふと、そんなことを思います。

それは途方もない生物が目の前にいるからなのか、それとも雪が降り、氷で彩られた幻想的な世界が周りに拡がっているからなのかはわかりません。

これではまるで、私が主人公みたいです。

残念ながら、そんなことはあり得ませんけれども。

第二王女であり、【大賢者】であるアリスさんがいて、異世界転移者かつ宮廷魔術師でもあるハナさんがいます。

私はそんな二人の側にいる親友になれればいいのです。

主人公なんて大層な役割はいりません。

ハナさん達の側にいることが、私の目的なのです!

 

「ガグラァァッ!」

 

ドラゴンが咆哮を放ち、威嚇しながら私に向かって爪を振り下ろします。

 

私は。

危険に陥って覚醒する英雄でも、始まる前から全てを見通せる賢者でもありません。

 

 

────だから私は何もしません。それが、私の選択です!

 

ドラゴンの爪に反抗せず、静かに目を閉じて終わりを待ちます。

これで試練が失敗になっても何の文句も言いません。

それを曲げるのは私の信念に反しますから。

みんなには迷惑をかけてしまいますが────

 

 

 

 

 

「私は貴女を避け(拒み)ません!」

 

 

 

 

 

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