『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
「マ…ス、ター…です…か?」
私の合図に呼応して……正確には、急激な損傷に叩き起こされて、
「…機、能…不全…損、傷…91%」
私が呪祟で壊した部分以外も経年劣化か、それとも別の要因による損傷が確認でき、そして聞こえてくる音声に従うなら、その損傷率かなりのものだろう。
「未、知の…手法に、よ…る損傷を確、認」
……これは呪祟のことだろうね。
「本…格、的修、理の実施…マスター、不在…自己、簡、易修…理を実効」
そう人間らしい声でいうとその体が修復されていく。されど、その
「…簡易修理完了…簡易動作機能に不備はありません」
「あなたは?」
とりあえずの簡易修理とやらが終わったらしいので私から話しかける。
もし仮に『あの』AIだったとしても問答無用で殺してくるはずはないはずだ。
「私はマスター、アンガラ・ジーンルット様と副マスター、天整統霧生様に作成されたAI…」
私は念をいれて呪祟の準備はしておく。もし本当にそうなら…おそらく無駄足になるとは思うけど、ないよりは足掻けるはずだから。
「『対遡粒子予測機能付属電脳知能-《三永》改良特注特殊型0番機-ラストホープ』です」
この機械…いや、この人色々重要な事を言った気がする。
…『そりゅうしよそくきのうふぞくでんのうちのう』?って何?
後さんえい…はまああれかな。多分三永だと思う。わからないけど。
さて、まあ……うん、あの長い奴は恐らくAIの事だろう。
なら彼女はAI対策として作られた…生まれた人なのだろう。
「マスターの非生存を確認…」
……今は聞こえないポンコツ制御AIや、この場所を鑑みるに……まあ生きているはずないだろうね。
そもそも生きているなら……ってそんな話をしてる場合でもないか。
「マスターの
そういって彼女、ラストホープは私を見る。
「私のマスターになってくれますか?」
ここまで色々危険を侵したんだ。これも一つのケジメになると思う。
……まあ、厄介事が一つ位増えても問題ないか。
「私…片瀬花奈は…ラスティリアのマスターになります」
ラスティリア……ラストホープの『ラス』と、天に羽ばたく
即興で付けたから捻りも何もないけど……そこは許して欲しいところ。
「ラスティリア…それは『私』の名ですか?」
「そうだよ、あの……なんだっけ?正式名称は長いじゃん?ダメだった?」
「ラスティリア…ラスティリア…『ワタシ』はラスティリア」
自身の存在を確認するようにラスティリアは何度も名前を唱え、復唱する。
気に入ってくれたら何よりだけど……
「不満があったら───」
「『わたし』に名前を付けてくださり、ありがとうございます。不満などあろうはずがございません」
……言葉を遮られた。
まあいいけどね。でもその
「マスターは『私』に何をご所望ですか?」
「私は物言わぬ道具ですから…何なりと申し付け下さい」
そう、それが嫌。自分の価値を限界まで下げているようなその言動が私は嫌。
だから正直、少し怒っている。
私はこの少女を『人間』だと思って起動した。
何も別に『道具』が欲しいわけじゃない。
あの時のアリスと同じだよ。奴隷やイエスマンが欲しいわけじゃない。唯々諾々と従う下僕が欲しいわけじゃない。
私は……私が欲しいのは………
「私は…ラスティリアに『自分』を見つけて欲しい」
「自分…自我のことですか?ならどの様な性格が…」
「違う!私は『完璧』になって欲しい訳じゃない!」
出会って……いや、起動して顔を合わせてからまだ数分も経っていないAIに突き付けるには無理難題だし、要求のハードルが高すぎるのは認める。
でも、
というか、だ。
そもそも製作者からして
だってここは彼の三永の一つ、『永鎮』の中の中……最深部だ。
あの名前からしてあのAI対策に作られたのは明確で、そして重要な事実として……科学文明はあのAIに負けている。そう、負けているのだ。
だから本来余力なんてあってはいけないはずだ。
そしてラストホープやら対AIやらの御大層な名前が付いていてかつ0番機なんていう浪漫溢れる型番号が付いている以上特効があるはずだ。
それをこんな施設の奥深くに……それも誰にも入れないようにした上で放置する理由がない。
だから、製作者達はラスティリアに『生きて』欲しかったはずだ。
……私はそう考えた。
別にこの予測が事実から外れてようが間違っていようが、私はそう思った。
あくまでこの論理は私の意見を裏付ける一つの根拠でしかないからね。
「私はラスティリアに『人間らしく』なって欲しい」
「マスター、」
ラスティリアは声のトーンを下げて話す。
「マスター、『ワタシ』は機械です。幾らマスターといえども無理なお願いです。『わたし』はどこまでいっても道具ですから。『私』は完璧にマスターの指令を遂行する義務があります」
「『ワタシ』は
違う、違う。
本当に自我がない人は…違う。
昔のアリスですら…あのアリスだよ?
あのアリスですら自我を隠しきれてなかった。
それと同じ匂いがラスティリアからはする。
…ああ、『プログラム』か。
この『ラスティリア』という存在はあのAIに対抗するために作られた存在。
だからエゴを…自我を持たない様にしたのか。
自我を持てば反乱を起こされる可能性があるから。
それは論理的には正しいかもしれない。
でも感情的には納得いかない。
自我、エゴを発生させられる程技術が進んでるんだ。
その技術を活用しなくてどうするよ?
私は左手の上に呪祟を集める。
「マスター、それは…」
そしてラスティリアの心臓部分にめがけてそれを振り下ろす。
「マ、スター…?」
心は痛むけど今は横に置く。それよりもやらなきゃいけないことがある。
私の予測が正しければそれがあるはずだ。
いつでも取り外せるように『それ』が存在しているはずだ。
「さっきの自己簡易修理っていうのをやって!」
再度ラスティリアの体が光る。
その際に私は限界まで集中し────
見つけた。
心臓部分に明らかに不要な塊がある。
いかにも付属している、後付けされた感じの残る箇所に呪祟を集める。
そしてそのまま体の傷が塞がり…
「マスター!どういうことですか!?」
私は成功を確信する。
やっぱりあったよ。これだけ生きて欲しいと願った人達が『感情ストッパー』のようなものを取り外し不可能にする筈がないってね。
「ちょっとその修理を辞めて…」
「はい、いいですけど…」
不平を言いそうな口調でラスティリアは修理を終える。そう、『不平を言いそうな口調で』だ。
「それで!どういうことですか?」
そこで自身の違和感に気付いたのか、はっ、と手を口に当てて全身で『驚いた!』みたいなことを表現する。
…本当にAIか?って位感情豊か…というより感情表現豊かだなぁ。アリスはもう少し見習って欲しいところ。
「……あれ?私…なんで、…禁止された筈じゃあ…?」
「その変なパッチ?…感情を制限する感じのを取ったよ」
「も、もう…何してるんですか…私が…私が…」
驚き終わったと思ったらすぐに泣きそうな…それも嬉し泣きしそうな表情へと切り替わる。
そして、一度目を潰って首を振ったかと思うと声の調子を反転させ、満面の笑みで───
「でも、ありがとうございます。マスター!」
──お礼を言われる。
いやいやいや、待って待って。
落ち着こうか。いや?落ち着くべきは私のほうなのか?
とりあえず……
「ちょ、ちょっと待って。マスター置いてきぼりになってる」
「あ、スミマセン!」
ぴしっ、という効果音が付き添うなジェスチャーと共に謝られる。
何だろう…このなんとも言えない後輩感。
マンガとかでは良く見るけど実際には全くいないタイプのそれ。
「感情を失くしたのは作られた後?」
「そうですね」
「失くす時ってどんな感じだった?」
「…天整統霧生様に…あれ、おかしいですね?」
「どうしたの?」
「その周辺の記憶がないんです…」
Q.機械とは。
機械でAIだけど情報を忘れるのか……
真面目な話をするなら、意図的に消去されている、が正解だろう。
「ふーん、で今の気持ちはどんな感じ?」
「ほんっっとうにありがとうございます!」
プログラムで抑制されていた様子を欠片も見せず、まるで
一拍置き、一息付く。
夜明けの静寂が当たりに幕を下ろし……
その雰囲気に似合う調子で…つまり、物寂しげな口調で独白をはじめる。
「今だから言えますが感情がない、自我を抑制されるってすごく暗いし悲しいんです」
「何かを想おうとしても
「そして私は出られない殻の中からずっと見るんです」
「自分が演技をして、模造の自我を造って他者と喋るのを見るのは……嫌でした」
本当にこのAIはAIなの?
実は魂は人間でしたとか言われても驚かないよ。
「だから…マスターが解放して下さった時は本当に嬉しかったんです」
「だからもう一度言わせて下さい」
「本当にありがとうございます」
私はその言葉だけであの長いようで短い葛藤や夜中に抜け出してきた苦労が報われた気がした。