『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
……始まりは何もありませんでした。
記憶も知識も何もかもが真っ白……いや、空白でした。
あの時の私以上に無色透明、という言葉が合致する存在はいないんじゃないでしょうか。
命あるマスター達と違い、本能もなければ……
命なき同胞達と違い、使命もありません。
本当に何もない状態で産み出された…作り出された…造り出されたのが私です。
『私』が完成したのは『ラストホープ』の機能が全て追加されるより大分前のことでした。
『ラストホープ』は彼のAIに対抗する文字通り『最後の希望』でした。
だから私が望まずとも、武器も兵器も沢山内蔵されています。
いざとなればこの感情機能も廃せますし、命令を唯々諾々と聞くだけのプログラムに成ることもほんの一瞬でも時間があれば簡単です。
……そんな私、ラスティリアですが。
一番最初に作られたのはこの『ココロ』という機能でした。
『人間とは論理と感情の狭間で揺れ動く生き物である』……前マスターがよく言っていた言葉です。
私は……正直に言うならあのAIのことが理解できません。
おそらく、世界で『ココロ』が組み込まれている機械は私とあのAIだけでしょう。
世界を滅ぼそうとした……文明を滅ぼしたあのAIに対する最大のアンチテーゼとして開発された私に『ココロ』を持たせたのはどういう意味があるのでしょうか。
私がこうして思い、悩んでいることすらも。
そしてこうして
私と…そしてあのAI以外にはあり得ない『感情的』なものでしょう。
そしてあのAIは基本的に『感情的』にならないようにするために『ココロ』に制限がかかっていた…と記録されています。
なので、こんな不毛な事をこの人類を救うために生まれた高スペックな演算機能で考えるのは……考えてしまうのは私しかいません。
……何を考えているのでしょうか。本当に何を、私は考えているのでしょうか。
マスターに
私が聞いた会話はそれだけではありません。
そして、私が隠している言葉は一つではありません。
それらは先ほど私がマスターに隠したのとは違い、言いたくても言えない…そう、プログラムされているものです。
機械としての強制が働いているものです。
発言すらも自由でない、それでも自由に生きてほしい。
前マスターと前副マスターの相反する命令で、私は……
私は人間ではありません。
いくら人間に近くとも、いくら外見が人のようであっても、いくら人間と同じ食事をとろうとも、いくら人間と同じ思考回路を持とうとも。
私は決して『人類』にはなれません。
ですが。
マスターは私を人類扱いしようとします。
幾ら足掻いてもその事実は不変であるのに、です。
……数分前に前向きに、自分を探すのは私の使命だ、と言いまし……思いましたが、実情はこんな有り様です。
完璧に人間になりきろうと思っていたら、あそこで終わっていたはずです。
完璧に機械であろうとするなら、あんな考えも、そしてこんな考えも抱かないはずです。
私の思考も、葛藤も、全て全てプログラムの範疇です。
私がこうやって思い悩むことをプログラムによるものだと気づくことすらもプログラムの範疇です。
全てをプログラムに支配された
…何を考えていたんですっけ。
とりとめもない…というよりはどうでもいい話だったことは覚えているので記録を探ることすらも億劫です。
そうですね。
……無色透明に造られた私は思考する死人なのか、それとも心に壊れた機械なのか。
そのどちらか、という話でした。
……どちらでも大して変わりません、か。
私がマスターに発した言葉は確かに全て本心です。
だから本心から人間として扱ってくれることは嬉しいですし、私を気味悪がらないことは至上の喜びです。
例え、それが地球という惑星の文化故だとしても。
しかし、今ここで紡いでる愚痴も私の本心です。
……これが人間性というものなのでしょう。
それに違和感を覚えるのが機械というものなのでしょう。
その両方を持つ私は……半端者、でしょうか。
プログラムとココロとラストホープと。
私は何を信じればいいのでしょうか。
ここまで散々考えて、前マスターを恨みます。
本当に私に人間らしく生きてほしいなら。
遺される私のことを考えて下さい。
本当は私に機械らしく動いてほしいなら。
こんな余剰機能をつけないで下さい。
……『思考