『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
「私は…ハナが好き」
「どうしようもないくらい、自分で自分を抑えられなくなる位好き」
「でも私はこの世界の住人、ハナはあっちの世界の住人」
「2つの世界は交わる事はあっても直ぐに離れる」
「だからこれ以上私が私じゃなくなる前に」
「ハナを元の世界に返したかった」
「あの時ハナは『確実に帰る方法』を見つけた筈」
あの時……秘神の時…か。
「だから、精一杯私やこの世界を嫌って、それで…命の危機に瀕したら、帰ってくれる…」
「これ以上、ハナに迷惑は、かけたくない」
「だから、だから!私は…ハナを、」
「なのに、ハナは『その手段』を使わなかった」
「それに、あんな事を言われたら…もう…だめ」
「『アリスに忘れられたくない』…その一言だけで用意していた建前も、何個も用意してた言い訳も、あれだけ準備してた計画も、全部なくなった」
「ほんとは、こんな事も言う予定じゃなかった!」
「自分のこの気持ちが抑えられる内に帰ってもらいたかった!」
「この世界に未練を持って欲しくなかった…」
「でも…でも…もう無理。もう、ダメ」
「ハナに迷惑をかけたくなかった!そのために色んな手を尽くした。あんまり褒められない様なことも沢山やった!でも……ッ!……ごめん。迷惑…忘れ──」
それは看過できないし、させない。
私に向けられたその『感情』を、その『想い』を迷惑、忘れて、なんていうのは誰が許しても、私が許さない!
アリスの行動の理由もわかったし今回の突拍子のなさも理解できた。
私は『友達』について歪んでいた過去がある。
だから初めての『親友』に正しい判断が下せていないのかもしれない。
この極限状況に混乱しているのかもしれない。
その推理すらも、この考えすらも幻かもしれない。
「迷惑なんかじゃないし忘れる訳ない!」
「例え元の世界に帰っても私は忘れない!」
「いま、へんじしなくていい、むしろ、しないで」
そういうアリスは不安と緊張で全身が震えている。
嗚呼、今私は誰もが天才と尊敬し、誰にも弱みを見せない孤高の一匹狼『アリス』という人にこんな表情をさせている。こんな緊張を強いている。
その独占感が堪らなく、その感情が波の様に押し寄せる。
それは薄暗い優越感でも、ましてや天才への侮蔑なんかでもない。
アリスなら?違う!
アリスだから!
その感情は私の中で燃え上がる。
前からちょくちょく言っていた様にアリスは可愛い。
寝顔も、何かを考えてる時の顔も、真剣に戦ってる時の顔も、そして今こうして緊張に震えている顔も。
これだけだと私が顔だけで判断するゴミになるので真面目に言うと私はアリスの性格に、考え方に、高貴さに、その全てが好き。
その理知的な思考回路、論理構成力、高い適応力、他者の希望を全て叶えようとする高潔さ。その全てが好き。
それに私はこの世界について思い浮かべる時、いつもアリスが最初に来る。
確かにこれがloveかlikeかで言われたら──の方であることは認めよう。
そしてそれが『普通』じゃないことも認める。
でも『親友』としてとても好き、というのは事実だ。
そして、私は一度『親友』、『友達』という概念で裏切られてる。
だから…
「アリスになら、『親友』の価値観を歪められてもいいかな」
そう、私は『普通』の『親友』という言葉の意味を知らない。
逆に言えば、私に『親友』の意味を教えられるのはこの世界、元の世界含めても一人だけ。
一度踏み出したら戻ってこれない?
それでも結構!
感情は!真理は!リスクを冒さずには掴めない!
まともな精神性が壊れる?
それで結構!
それがアリスに壊されるならね!
そう思えるのはアリスが私にとって唯一の『親友』であり、同時に私の……だからだろう。
だから私はこの訓練所での時間を、この世界に来てからの時間を、それを使い、独白する。
これはあくまで私の独り言。
そう前置きして私は話す。
「何回か言ってる通り私は最初、この世界を遊びだと思ってた。だから少し遊んですぐ帰ろうと思ってた」
「でもそんな私がこの世界に愛着を抱いてほんの一瞬でも帰りたくなくなった」
「そしてその内私は別の理由で帰りたくなった」
「私はこの世界の人達に悪影響を与えたくない」
「だから帰りたくなった、筈だった」
「でも、私は今帰る手段が一応はあるのにそれを躊躇って…先伸ばしにする位には帰りたくない」
「それはセリアのおかげだし、まだ会って1日も経ってないけどラスティリアのおかげでもある」
「それでもやっぱり1番の理由は…アリスだよ」
「アリスがいるから、アリスがここに、この世界に存在してるから私はこの世界に本気になれる」
「ふとした時に考える事があるんだ」
私は自分の心中を、誰にも言っていない自分の本心を伝える。
「私は今後どうなっていくのかって」
「もしこのまま無事に帰れたとして、今後どうなっちゃうのかなって」
「そんな将来への漠然とした不安があった」
これは誰もが通る通過点なんだと思う。
私は『異世界転移』なんて事故があったから普通の人より強く思うだけで誰しもが不安になったことがあるはずだ。
ふと、自分の足元を見るとそこには今にも崩れそうな石が積み上がり自分を支えている。
その石の塔はふとした衝撃で崩れるだろうし下手したら何もせずとも崩れ落ちるだろう。
だからと言って前や後ろ、横や上を見ても補強用の石が置いてある訳でも下で支えてくれる人がいるわけでもない。
仮にいたとしても私とその人とには距離がありすぎて私が気付いていない。気付くことが出来ない。
そこで自分の人生が脆く儚いものだと気付く。
そしてこの儚くも脆い人生がどんな風に続いていくのか、そもそも続くのか、が不安になる。
私は『異世界』に来てから自分がそういった悩みを持っていると自覚した、自覚させられた。
「だから私は裏切らない人をこっちでも、あっちでも探し求めた。
探して、探して、異世界に来てまで探して…私は見つけた。
絶対に裏切らない。そう確信できるひとが見つかった。
そうしたらボロボロだった石の塔が急に立派な宮殿に見える様になった。
今まではどこを見てもモノクロだった世界にカラフルな色が付いた。
それは、…間違いなくアリスのおかげ」
「だから…」
私は独り言ではなく、アリスの方を向いて話す。
「私もアリスが好き」
「わた、しもハナが、好き」
「こんなの、聞いてない、予測できない、わからない、なんて言えばいいの?これが…ハナの言ってた言葉の限界?もう、嬉しいとか、そういう次元じゃ、ない」
傍目で見ると私はアリスに比べて余裕がある様に見えるかもしれないがそれは全くの間違いだ。
私の心臓は今もバクバク言ってるし現に死ぬほど緊張してる。
でもアリスが私以上に取り乱してるのを見てギリギリで抑えられてる感じだ。
「こんな、夢みたいな、ファンタジーみたいな、魔法みたいな、物語みたいな、そんな展開が私に赦されるの?」
この世界でそれを言うのか。
こんな夢もファンタジーも魔法も物語も全部突っ込んでごちゃ混ぜになった世界でそれを言うんだ。
「私が赦すよ」
脳の冷静な考えとは全く別の生き物の様に口は私の紛うことなき本音を言い放つ。
「他の誰が許さなくても私が赦してあげる」
「夢でもファンタジーでも魔法でも物語でも、私は全てを許すよ」
愛とは何であるか。
それは人類の歴史上最も難しい課題の一つである。
愛とは金では買えないモノである。
愛とは他に代えられないモノである。
愛とは…愛とは…
世の中には星の数程『愛』の定義がある。
でも私にとって『愛』は個々の人によって違うモノだと思う。
或る人にとって『愛』とは独占。
或る人にとって『愛』とは奉仕。
或る人にとって『愛』とは後悔。
……そんな風に、多種多様、千差万別、十人十色だと思う。
ただ、たかが
今の私にとっての『愛』とは『親友』に他ならない。
それは私の人生観が歪んでいたからかもしれない。
もしかしたら今も狂ったままなのかもしれない。
でも今、こうして考えてる私は正気だと思っている。
『狂っている』『歪んでいる』それは『普通』からかけ離れているという事を指し示してはいるけど、別にそれが悪とは限らない。
その『普通』が悪の可能性もあるし何なら『悪』とはなんなのか。
そんな曖昧な定義を考えて自身の価値観を疑うよりも『狂っていても』『歪んでいても』自分自身を信じて突き進んだ方が人生楽しいでしょ?
他人から可笑しいって言われても、他人から異常だと言われても、私はそれが…私の感情が、私の論理が許してくれる内は自分の道を進み続ける。
それで感情にも論理にも裏切られたら…
その時は私の『親友』の出番だね。
だから私の『親友』かつ『好きな人』、これからもよろしくね。
つまり、だ。
狂っていようが、歪んでいようが、世界が変わろうが、私とアリスが変わらないなら他の何者にも指図される筋合いはない。
異常というのは、常識というのは時に自由を縛る鎖にしかならない。
だから、私は私の意思で、アリス……っ!
最早名前を呼ぶことすらも愛おしい。
恋は人を変える?そんな生易しい物じゃない。根本から、それも人格から、その人の土台からひっくり返される。私の一番の目的すらもどうでも良くなる。
恋は人を盲目にする?盲目になってたまるか。アリスが見えなくなるじゃん。しかも周りが有って、その中にアリスが存在していて、世界がアリス中心に動いているからこそアリスの良さが際立つ。
私がアリスの良い点をほんの一欠片でも見落とすことなんてあっちゃいけないんだから、盲目になんてなってる場合じゃない。
私はアリスの全てを知りたいし、アリスには私の全てを知っていて欲しい。
アリスがそれで喜ぶならば、肺でも心臓でも脳でも、この魔法さえも、そして異世界に帰る権利さえも。全部あげよう。
アリスが喜ぶことが私にとって至上の幸福であり、私にとっての全てでもあるから。
でも、そんなことしてもアリスは喜んでくれない。嬉しがってくれない。勿論私がアリスの負担になるなんて事故は万が一にも、億が一にもあっちゃいけないからこの感情は抑えなきゃいけない。
でもアリスがそういうことを求めてきたら話は別だ。暗闇の中に一人取り残されたような原初の不安を抱くなら、私が照らしてあげよう。
世界全てが黒く、そして白く見えるなら、私が彩り、飽きがこないようにしてあげよう。
そんなことしていいのかって?良いに決まってるじゃん。だってアリス中心に動かない物なんてこの世界にはないでしょ?
もしあるなら私が削除しなきゃいけない。
ここで注意しなきゃいけないのはアリス中心に動く、というのはアリスの言うことが全て通り、全員がアリスの奴隷のようになる、ということではないことだ。それもそれである種の理想郷ではあるけれど、それをアリスが望んでいないことは既にわかっている。
そうだ、アリスは頭の良い…頭の回転が早い人を気に入ることが多い。
なら頭の回転が遅い人……アリスが気に入らない可能性が高い人なんてこの世界に要らないよね?
かといって流石に全員『削除』するのは慈悲がない。そして慈悲がないということは余裕がない、というこで、それはアリスには似合わない。
だからアリスの隣に奇跡的な確率の果てにいれる私はそんな似合わないことはできない。だから公明正大に、そして全員に慈悲をあげ、余裕を見せよう。
全員に教育をしよう。全員が私以上のレベルの教養と、そしてアリスが認めるレベルの頭の回転になればいい。
そう、足りなければ足せばいい。それがダメなら…慈悲をあげたのにそれを生かせない愚か者なんていらない。勿論アリスの手を汚させるわけにはいかないから、私が手を下そう。
アリスのためなら私は忌避感を捨て、常識を変え、全てを変えられる。
だから……そうだ!
アリスのために大陸を統一しよう。
教皇もいるし、私もラスティリアもいる。
セリアは安全のために出せないけれど……それでも特殊職業保持者兼宗教のトップ、魔法使用者、太古の機械の三人がいれば大抵の国を蹂躙できそうじゃない?
そうね……なら………
「……ハナは…
アリスの言葉に比べたら自分の思考なんて心底どうでもいいものでしかないので、アリスの言葉に全ての集中を働かせながら、一挙手一投足全てを観察する。
「…私は……ハナを巻き込んで……」
「もしアリスが私を色んな『事件』に巻き込んでることを気にしてるなら…そんなことはどうでもいい、としか言えない。違う、どうでもいいわけない。私にとってはその全てが大事なアリスとの想い出だから。何で私は……」
何で私はアリスとの想い出に成り得る出来事を一度でもどうでもいい、などと形容してしまったのだろうか。そんなこと許されるはずない。反省、猛省。
「…そう、もしそれをアリスが気にしているなら検討違い。そもそもアリスが私をどうしたってアリスが気に病むことはないの。私は既にアリスに『夢中』だから、例え私が私じゃなくなろうと私はそれにすら気付かない」
「……私、は……ハナは、自分を大切にして欲しい……今のその言葉は、すごく、嬉しいもので…」
『天才』にしては……いや、それどころかまるで子供のようなたどたどしい話し方でアリスは話を続ける。
恐らくアリスも私と同じようになっているんだろう。もちろんその方向性は違うだろうけれど。
「でも、嬉しいけれど。…それは貰っちゃいけない、もの。だから、お願い……」
っ、………っ!!
そんなの、決まってる。お願い、違…はな、い。
そんな、の反則。そんな表情でお願いされたらダメだよ……
……そう、私しかいないんだ。私しかアリスをわかってあげられる人がいないんだ。だから、私がアリスを作っている、そうだ。
そんなに嬉しいことってある?私が、アリスの一部になってるんだよ?そんなに嬉しいことはないよね。そう思わない?
…誰に言ってるんだろうね。まあ誰でもいっか。誰であろうと共感してくれるはずだし。そうでしょ?
……落ち着こう、落ち着いていこう、平常心を取り戻そう。
このままだと日常生活に支障が出る。そしてそれは私もアリスも望むところじゃ……ない、と、思う。多分、恐らく、きっと。
…いつもみたいに、いつものように、論理、論理。
よし、よし、よし。ヨシッ!
現場ネコかな?
…うん、完全に戻った。これで問題ないね。