『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
地図をざっと見渡して、この付近で一番高い山を探す。
……あった。
カフオク山『4000m程度』
そう書いてある。
名前はどうでもいい。気にするポイントは4000m程度って所。
そして…地図の左上ら辺を占領する巨大な湖。
私が
…シンニナホ湖、特徴としては…『塩が含有』。
こっちも名前はどうでもいい。なるほど、塩がある。
…つまり元々『海』だった可能性が高いってとこかな?
。
なら…ほんとに?冗談でしょ?
私は最早祈る様にそれを探す。
お願い、ないで…私は見つけたく───
あった。
合う、合ってしまう。筋が通ってしまう。
私はその事実を否定しようと頭を動かすが明確な否定材料は出てこない。
そして何より地形が、星座が、それを肯定してくる。
まだ、まだ。往生際悪く私は頑なに信じない、思考を停止させる。やめて、これ以上考えないで。
日本語が『存在』してた。日本語が『浸透』してる。
嘘だ。妄想に決まってる。どうせそれは天整統とかが広めたに決まってる。
元の言語体系は?
転生者特有のそれとかあれとかで駆逐したに決まってる。
だから、そんなこと、あり得ない。認めない。
──この世界は私のいた世界の延長線だなんて。
私が帰る場所が既にないなんて絶対に認めない。
私は何を言ってるんだ。ほら、月だって3つある。
星座だって一部違う。それに魔法だって神だっている。
だから違うに決まってる。うん、そうだ。
他世界の空似って奴だよ。
私はその衝撃と安堵で思わず座り込む。
「呪域『
私は真相を、真実を知るために…いや、否定材料を探すためにそれを使う。
生憎と『
全てを腐食させるその権能は十全に発揮され郊外の地面を抉っていく。
そのまま私は数m掘り進む。
すると見覚えのある材質で出来た土の様なナニカをにぶつかる。
エネステラ研究所…正確に言うなら、エネロジスティクスの研究施設だ。
しかし今の目的はそれではない。
そのまま腐食結界を維持すると研究所の天井にあたる部分が壊れ研究所内部に入る。
でも違う。これじゃない。
更に掘り進め床をくりぬき、更に掘り進める。
何か通知が入り、何かを否定された気がするけど、気にせずに掘り進める。
どれぐらい経っただろうか。
体感では何日にも、何年にも感じる──恐らく十分足らずの時間。
それぐらいの時間掘り進め…遂には突き当たる。
…突き当たってしまう。
見覚えのあるモノ。見覚えのある材質。見覚えのある──
それを見たのは…この世界ではない。
今まで『元の世界』と呼称していた私の世界。
それは私にまじまじと現実を突きつける。
私の脳内で一瞬にして『科学文明の産物に決まってる』という防護が形成される。
でも現実は非情にもその存在感を示す。
私が手に握るは
『平成十五年』
と確かに書かれた『十円玉』だ。
それは──
──────────
警告!警告!研究員用パスを所持していない侵入者がB区画13番で発見されました。退去用転移魔法を使用し1分後に強制退去させます。もしパスを受け取ってない客人である場合、職員からパスを受け取って下さい
──────────
以前も聞いた警報がなる。
前回は五月蝿く煩わしいと思った警報も今なら心地よい。
現実から目を逸らす良い要因になる。
そのまま目を閉じ転移を待つ。
目を開けるとそこは…宿だった。
セリアやラスティリア、アリスが寝ている。
何で3人はこんなにも幸せそうに寝ているの?
そんな邪な、恥ずべき嫉妬の考えが頭に浮かぶ。
バッグを隅に投げ置き元の位置に戻り寝ようとする。
「………ハナ?」
気が立っていたのかバックを投げる際の音が無意識的に大きくなってしまったらしい。
その音でアリスを起こしてしまった。
どうする?
………ようか。
──違う。私は今何を考えたの?ああ…
「……」
眠そうだったアリスの顔が何かを察知したのか引き締まる。
「……ハナの、元の世界関係?」
どうやら『親友』には敵わないらしい。
ヒント0の状態から何をとち狂ったのか原因を当てるし…
やっぱり………する?
ああ!私の頭の中が騒がしい。雑音が
「部屋移動する?」
私は出来る限りの優しさを込めて──威圧しないよに──言葉をかける。
「……待って…」
そう言うとアリスはセリアとラスティリアの肩に手をかけ──
え?それは……
「……起きて」
「…ど…うしたんですか?アリス…さん?」
「もう少し寝かせて下さい…まだ暗いですよ…」
「…『
セリアを普通に起こし、ラスティリアを無理矢理起こす。
…アリスの真意がわからない。
「…起きて、緊急…ハナの元の世界について」
「ハナさんの元の世界…ですか?」
「マスターの?」
いよいよ全員起きてしまった。
揃いも揃ってしまった。
「アリス…何で?」
「重要事項は皆で共有…
それだけが目的じゃない気がするけどまあいいや。
そんなことより私は誰かにこの心情を吐露したい?
「元の世界の『場所』がわかった…」
そうね、場所がわかった。そう、場所だ。
「それって…帰る場所が判ったってことですか?」
「…帰れる?」
皆予想通りの反応…そりゃそうだ?
誰が予想付くのかっていう話。
「元の世界…いや、
「私の元の世界はここ、この世界だった」
自分で言っててバカらしくなってくる。
今までバタバタしてたのは何だったんだろうね。何で私は将軍みたいなよくわからない存在と死闘を繰り広げてたんだろね。
何のために命を危機に放り込んでいたんだろうね。
「でもマスターの世界とは地形が違うんじゃないですか?」
「…これを見て」
私は地図を広げる。
そのまま全ての証拠……勿論アリス達には通じないけど、を上げる。
このカフオク山っていうのが富士山で…シンニナホ湖は多分日本海…みたいな事を。
「そして、これ」
「……通貨?」
「アリス、『円』っていう通貨単位使われたことある?」
「……私の知る限りなら…ない」
ああ、もう。確定要素が増えていく。
「じゃあ誰か、『平成』っていう言葉…知ってる?」
「私は知らないです」
……あははっ。
「だから…そういうこと…つまり!」
私は敢えて語尾を上げて言う。
「この世界にずっと居れるってこと!やったね!」
「……」
「これで皆と別れる必要が失くなった。よかっ…」
た。そう言おうとした所でアリスに言葉を遮られる。
何で遮られるの?皆とまだまだ…それどころか永遠に一緒にいられるのに?なんで、もしかしてアリスは私なんかと仲良くしたくなかった?ああ、なら納得。そういうことね。異世界出身だから私を構ってただけ。だからそうじゃないとわかれば用済か。
「…本音は?」
「うん?どういう事?」
ワタシは本音しか言ってない。だって……
「それが本音な訳ないです。だってハナさん…」
「?」
「凄く…辛そうな顔してますよ」
……?何のこと?
「…私達は気にしない…本音を、花奈の本音を言って…」
「ははっ、今のが建前?そんな…わけ……」
自分では気付かない内にそんな酷い表情をしていたらしい。
「私の本音?そんなのアリ…達とずっと一緒にいられて嬉……に決まってる。
元の世界が失くなっちゃったのは『少し』、ほんの『少し』だけ残念ではあるけど…それ以上にいいことも沢山沢山ある。
それに態々元の……の事を引きずる必要もない。
だから…でも……?」
「……」
「……私は…私は…?」
自分の何かが強制的に、あるべき姿に歪められている感覚がする。
今まで捻じ曲がっていた部分が解消される感覚がする。
わたしの心を包んでいた『それ』が一枚剥がれ落ちる。
それは他ならぬ自身への疑問が原因で。
その影響で今まで隠し、曲げ、歪めていた『本音』が零れ落ちる。
「私は悲しいの?わたしは辛いの?」
人間はあまりに痛いと精神をシャットアウトして痛覚を遮断するらしい。それと同じで……
ワタシは何を言ってるの?わたしは辛くないし悲しくもない。
元に戻りかけていた何かが『元』に戻る。
私の中で何かが蠢く。それは私を狂気に、狂喜に引きずり込まんと這い寄る。
『それ』と『これ』が心の次元でせめぎ合う。
「真実……それは時に虚偽や欺瞞よりも人を傷つけます…」
ラスティリアが、この世界で『再起動』した際に全てを知ったラスティリアがそういう。
私の心は揺れ動く。
ここで本音を言えば…どうしたの?本音なんてないよ?さっきのがそう。それで全て。余計な事には蓋をして…3…2…1…ほら、閉じた。
ね?思い出せないでしょ?思い出せないなら…どうでもいいよね?
なにを…言ってるの?そんな訳ない。それを忘れるなんて私が許さない……?あれ、なんだっけ?忘れたことはおぼえてる?けど何が…?何の話をしてたんだっけ?
視界が揺らぎ、世界は廻り、現実と夢に私は踊らされる。
「…マスターは、──を知ってしまったんですよね…────」
真実?真理?事実?現実?妄執?確執?妄念?哀愁?今、ラスティリアは何て言ってた?その後に何か言った?言ってないよね。だって、『私』が聞こえなかったんだから。
聞こえてなければ聞かれなければそれはあれも成立しない。
私こそが基準。わたしだけが、ワタシのみが基準。
だから難しいコトなんて考えなくていい。
─そんな事ない。私の意見が全て正しい訳じゃない。だって……わたしが、ワタシがそう思うんだよ?だからそうに決まってるじゃん。
心の周りに幾重にも頑丈で、歪んだ壁が聳える。
「─────です!」
「……───────」
誰が何か?言ってるの?わたしは私の意思で考えてはつげんする。でも誰かが何かをいってるなら返答しなくちゃね。
だって、それが『ふつう』でしょ?
それが『ただしい』んでしょ?
それが『せいぎ』なんでしょ?
─私は何がしたいの。私は何を考えているの?普通?正しい?正義?それは絶対的な物でも盲信するべき物でも……ある。あるに決まってる、だって?そうだから。それが『ふつー』だから。
「わたしは大丈夫。何もきにやんでいない…よ?」
「何──────か!」
ああ、もう。今は深夜だよ?他の部屋の迷惑になるよ?もう少し静かにならなくちゃ。
なんでわからないの?かんたんなコトだよ?
視界が、聴覚が『そこ』から外れる。何かが外れる。『それ』の閂が外される。
─それは外れちゃダメ!不味い奴。
なんで?何が?ほら、みんなみんな『ふつー』が『ただしー』なれて皆の『びょうどー』が『じゆー』に『しあわせ』だよ?
「……わ『かった…ハナの言うことが正しい』よ…」
「だ『い丈夫ならいいんですけど』…」
「は『ぁ…もう!早くいつもの調子に戻って下さ』い!」
みんなみんな判ってくれた。よかった、よかった。ほら、やっぱり『正しかった』やっぱり『ふつー』だった。
─何を……そうだね。だから、
理解してくれたいいこにはご褒美をあげなくちゃ。なにがいい?なにが『ただしー』かな?
そうだ、みんなはわたしが好きだから?
「皆、もう大丈夫、大丈夫だから…寝よ?」
「『…わかった…寝る』」
「『判りました』」
「『そうと決まれば直ぐにでも寝ましょう!』」
あれ?皆寝るって言ってるのに…ベッドに行かないよ?
ああ、なるほど!私が最初か!皆なんで遠慮してるの?あはは。
…違う?皆もう寝てるの。そうだよ。そうね。ならわたしも。
わーい、ベッド気持ちいい。
このまま寝……
「…『
……?何をしてるの?危ないよ。
『わるい』子にはおしおきだよ?
でもそんな『わるい』子じゃないよね…?
ああ!なるほど、まだお喋りしたいのか。そうならそう言ってくれないとわからないよ。
わたしはあたまがよくないからね。
歪みきった視界に、感覚に罅が入る。
狂気の狭間から正気の光が射し込む。
──わたしは…私は何をしているの?
真実から目を逸らして、そのまま発狂するの?そんな逃げは許されるの?
その罅に近付く。
「…ハナ…ほん『』ねを──って?」
──そうだ。私は…
「ワタシは、わたしは、私は、」
虚空を見つめていた目の焦点が漸く定まる。
─そんなこと、だめだよ、ゆるされない、ワタシがわたしが『ただしー』の。だから…五月蝿い。私は夢なんかには逃げない。狂気なんかに逃げない。
狂気から正気に戻る。幻覚も幻聴もない、正真正銘『現実』を、『私の世界』を見る。
未だに足元はふらつくし体が思うようには動かない。
なんで?…でも今はそれよりも大事な事がある。
ちがう、こんなのは『ほんもの』じゃない。わたしはこんなの望んでない。
「『いってらっしゃい、でいいですか?』」
「……『私も着いていく』」
そんな言葉を聞きながら、私は歩き出す。