『少女世界攻略記録』   作:100110110011(2)の民

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153◇自己定義

◇◆アリス・フォン・トラウィス視点◆◇

 

「ハナさん!?」

 

「……待って!」

 

セリアと私の二人の制止を無視して…いや、『聞かなかった』ことにして、ハナが駆け出す。

宙に浮かぶ剣を消────なに?

 

「私は、マスターを『守る』ために存在します。そうプログラムされた存在です」

 

ラスティリアはドアを前に立つことで塞ぎ、ぽつりとそう溢す。

だけどその口調は普段のものではなく、感情を廃した冷酷な機械のようなものだ。

 

「今のマスターが正常じゃないのはわかっています。でも、それでも私は機械なのでマスターを守らなきゃいけません。それが私という機械(非人類)存在価値(レゾンテートル)ですから……嗚呼、勿論自分でも融通が効かない機械だということはわかっています」

 

「ラスティリアさん……そんなこと──」

 

「……セリア、多分わかってる。ラスティリアは、その上で敢えてこうしてる」

 

「理解して頂いて光栄です(ありがとうございます)。なので…」

 

私は一応、戦闘態勢を整える。

消しかけていた剣を動かし、私の後ろに控えさせる。

多分いらないとは思うけれど、一応の保険だ。

 

「ここまでが、『ラストホープ』としての私です」

 

『ラストホープ』…それが何を意味する語なのかはわからないけど、状況からこのラスティリアという存在の区別番号のようなもの…なのだろう。

つまり、ここまでは機械としての彼女。

ならここからは───

 

「私は短い間ではありますが、お二人と過ごして、戦って、楽しみました。……本当に、楽しめました。だから、一人のラスティリアという自我を持つ存在として、お二人の邪魔をしたくありません」

 

そう言って彼女は……ラスティリアはドアを開ける。

 

「機械としての私はここで足止めすることで仕事を終えました。人類としての私はここを開けることで仕事を終えます……迷惑だ、ということはわかっているのですが……今回の件に関しては、私はこれ以上何もしません。……それではまた、朝日が昇る(雨が止む)時に会いましょう。………『強制停止(シャットダウン)』」

 

……なるほど、機械、人類、悩み…理解した。

わかった、ならその『バトン』は私達が受け継ごう。

 

「……セリア、行こう?」 

 

予想外に予想外が積み重なっているけど、それを感じさせないように努めて明るく言う。

こう言うとハナっぽくなるのは…きっと私が影響を受けてるんだろう。

 

「私は………」

 

…思考、理由推測、原因究明。

ハナがああなっている理由が私の思っている通りなら、私だけじゃダメ。つまり、セリアも必須。

だからここで悩まれるのは本当には困る。

何が原因になりうる…?

最近の変化、変位……【救聖女】、情報、ラスティリア、ハナ…なるほど、多分、これか。

だとしたら放置するわけにはいかない。ここで先延ばしにすると問題のほうが大きくなるし、悩みを抱えたままあの状態のハナと会話するほうがお互い危ない。

 

「『万人を救済する』…聞こえが良い言葉ではあるけど、その内実は『不可能、傲慢、怠惰』の塊。自分が把握してない人もいるのに…そんな人の願いなんてわかる筈がないのに救う、だなんて不可能。

自分(セリア)にとっては救われていないように見えても、本人達にとってみれば救われているかもしれない。例えば今のハナが良い例」

 

……昔の私を見るようで辛いけれど。

だからこそ、体験しているからこそ説得力が増す。

私の恥を晒すかわりにセリアが戻ってくるなら得しかない。

 

「もちろんそれが良い時も、悪い時もあるけど…それすらも全て見極める、とするならそれは紛れることない傲慢。そして、逆に考えれば『万人を救済する』というのはある種の思考放棄でもある。自分の才の限界も見極めないで、足りない力で(わめ)く怠惰の塊……だから、そんなことはやめたほうがいい」

 

あくまで私の意見ではあるけれど、と念を押してから話を続ける。

私がしなきゃいけないことは意見の押し付けでも説教でもないから相手(セリア)に賛同させる必要はない。ただその論理構造を理解してほしいってだけ。

 

「なら身近な人なら簡単に救えるか、といえばそんなことはない。セリアに限らず私やハナも自分のことすら完璧には理解していない」

 

…私がハナに抱いている感情が、(アレ)によって増幅されたものなのか、それとも元々持っていたものなのか。それとも増幅ですらなく、虚偽のモノなのかもわからない。

 

「他人を完全に理解できるわけがない。そして完全に理解せずに『救う』のは途方もなく難しい」

 

正確に言うならば『救えたかどうか』を見極めるのが難しい。

私から見ると解決できたように見えても、相手側の別の悩みと複雑に絡み合った結果悪化していることもある。

逆に、私からは何も解決していないように見えても、何故か解決していることもある。

 

「だから、そんなに救うのが難しいからこそ。【救聖女】というのは【勇者】や【賢者】とかと同列の立ち位置にある」

 

聖女ぐらいなら探せばそこら辺に転がっている。

何なら侯爵令嬢以上だったら少なくとも外見(そとからみれば)聖女、だろう。

…でも【救聖女】は本当にいない。

救う人、というのは得てして人の闇を直接見ることになるから『聖女』であることを保つのが難しくなる。私なんかはその良い例だ。

……一番最初の時、聖女だったかは置いといて。

人から頼られれば頼られるほど、人の醜い部分を見ることになる。私が今みたいな倫理観になったのはそこが原因だから。

……私はセリアみたいに芯が強いわけじゃないから。

 

「それに、救う対象は他者じゃなくていい。自分を救っちゃいけないなんてどこにも書かれていないんだから」

 

「私はハナみたいに上手く『のせる』解決は出来ない。だからこんな形になるのは申し訳ないけど……後はセリアならわかるはず」

 

考える余地と時間を残す。それは私が救えるかわからない場合によく使う手段でもある。

自分で考えた理屈なら人間は多少歪でもそれを受け入れることが多い。だから最後の一欠片を自分で埋めさせることで解決したかどうかを計れる。

 

「……ありがとうございます。…と、言いますか私、まだ何も言ってませんよね?」

 

そう言いながら苦笑するセリアの様子を見る限り……まあ大丈夫そうではある。

 

「…すみません、寄り道は終わりにして……ハナさんを追いかけましょうか」 

 

こくり、と頷いてざあざあと降っている雨の中、私達は外へと足を踏み出す。

 

 

 

「ハナならどこにいくと思う?」 

 

降り続ける雨の中、セリアにハナの行方を聞く。

ある程度の予想はできるけど……それはハナがいつもの時の場合だ。

あのハナが正常な思考回路を残しているか、と言われればそんなことはないから、普段と全く違う思考を抱いても何もおかしくない。

だから私の予測は不完全。つまり、情報を少しでも増やすためにセリアに聞くしかない、ということ。

 

「そうですね……」

 

歩きながら二人で思案する。

そういえばセリアと二人でいる機会は珍しい。

 

「……アリスさんは思いつきましたか?」

 

「一応は」

 

「なら、同時に言いましょう」

 

……あの時の…というよりも、ハナはいつも異常なくらい元の世界に取り憑かれている。

それはあの狂気に侵された状態でも変わらない…むしろ悪化しているはず。

そしてハナがああなった原因は『元の世界』の消滅。

私やセリアにはわからないけど、おそらくあの時見せられた地図に決定的な証拠があったんだろう。

それに加え、『十円玉』…存在しない『元号』というものと、『円』という通貨単位。

その2つの証拠でハナは気付いてしまった。

そして、あの様子では都合の悪い…元の世界の非存在性を認めないだろう。

だからこそ、元の世界の『匂い』が強い場所に行く。

つまり、ハナが逃げる先は科学が魔法を補い、世界の支配法が変わる、そんな場所。その名は───

 

 

 

 

「「『無限迷宮』50階層」です」

 

 

 

 

 

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