『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
◇◆片瀬花奈視点◆◇
「私は…もう…嫌だ……」
一回それを口に出すと後は堰を切った様に感情の洪水が起きる。
もう逃げないしもう壊れない。この本音と向き合う。
「もう嫌だ。知らない人に拉致されてそれでこんな良く解らない魔法だとか魔術だとかの世界に飛ばされて最初からゴブリンやエネステラみたいなゴミと戦うはめになって…なんでこんな科学の、論理の欠片も存在しない世界に飛ばされたの!でもそれは逆に助けでもあった。元のそれとは真逆だから、真逆故に元のそれとは別のモノであるとわかるから。『元の世界』というモノが確かに存在してそれは『この世界』とは別物だってわかるから。でもこれはなに?この十円は、あの空に浮かぶオリオン座はなに?なんでそうやって私に残酷な現実を突きつけるの?どうしてわたしはこんな目にあってるの?この世界は真実を考えようと、論理的に考えなければ全てが夢の中…まさに夢みたいな世界だよ。お伽噺みたいに魔法があって貴族がいて王族がいてそれに前文明なる物があって…でも物語でもお伽噺でもないから全てに理由が歴史があるの。それを紐解いて探した先にある真実はこれ?そんなのってあり?酷い話じゃない?私はこの世界で何を一番に頑張ってきたの?命を削って、醜悪な化物や生物と化した金属と戦ってきたの?それは全部全部私が元の世界に帰るためでしょ?なのに帰る先は、移転先はここ?ふざけないでよ!今思えばあの犯罪者もそうだ。『異世界転移みたいなモノ』ってほざいてた。あの時から仕組まれてたしあいつは一回も『異世界に行く』とも『別世界へ飛ばす』ともいってない。これは騙された私が悪いの?それともそうやって曖昧にぼやかしたあれが悪いの?ふつうに考えればあっちが100%悪い。学校帰りの私を拉致って混乱状態の時に曖昧な事いって引っ掛けたあれが悪い。それはいい、じゃあ?だから、ならどうするの?それが判った所でどうするの?私はあの犯罪者の所に自力で行く方法も解らない。私の居場所は何処!?私の世界はどこ!?私の家は、家族は、生活はどこに消えたの!?この世界に放り出されてどうしろって言うの!?AIを倒せってか?それとも文明を発展させろって?…ふざけんな!人の生活を、事情を無視して呼んだ上に命を懸けて戦って下さい?土下座されても嫌だわ。何で態々私があんたらのために働かなきゃいけない?本当に神なら神らしく啓示でも天啓でもだせばいいじゃん!何?チートでも与えれば、『異世界転移』ってことにすれば全部その人がやってくれるの?そんな仕組み、そんな制度誰が作ったの?私だって元の世界での生活があった。家族がいた。もし、もし仮に私のいた時間があの後数分で核かなんかで滅亡するとしよう。万が一それから逃がすために『これ』があったとしてもそれは…唯の善意の押し付けにしかならない。いくら私が生きたいとしても、その生き逃げた先に知り合いも知ってる地名も知ってる概念もなかったらそれは『私』が生きてるなんて言わない。それは『私』じゃない別の何かだよ。だったら私はその来たる滅亡に身を任せ死んだ方が『私』らしい……なんで。なんで。私がこんな目に遭わなきゃいけないの!」
それは論理的ではなく…感情的ですらない。愚痴とすら呼べず、文とも呼べない…意味のない言葉の羅列だった。
何故なら私がこの気持ちを表現できる感性を、語彙力を持っていなかったから。それをまとめる冷静さも思考回路も持ち合わせていなかったから。
もはや自分でも何を言ってるかわからない。
私は
「本当におかしいよね。そう、おかしいんだよ!この!私を取り巻く状況全てがおかしいんだよ!私は正しいの、そう、ただしい、ふつう。あーあ、この世界が物語みたいに単純だったらよかったのに。それかせめて、夢幻なら良かったのに。ああ!それを作り出すのは私、『夢幻空間』じゃん!あははっ!おかしいなぁ、本当にさぁ!」
◇◆セリア視点◆◇
アリスさんと二人……静かに『無限迷宮』の50階層へと向かいます。
目で確認を取り、数時間前はハナさんが開けた豪華なはずの扉を開けます。
目に飛び込んできた光景は数時間前とは完全に変わっていました。
そこにあった筈の戦場は消え失せ……表現し難い景色が広がっています。
玩具箱をひっくり返し、世界ごと回転しています。
淀んだ空気が周囲を包み、思わず目を細めてしまいます。
何処からともなく機械が現れ、そして湧いて出てくる火の玉とぶつかり、泡沫のように消えていきます。太陽も月も雲もなく、この空間の周囲を覆うのは黒い霧です。
ですが、それは唯の背景であり、本命…私達が探し求めていた人はそこにいました。
そんな異常な空間の中心で、可笑しな笑みを浮かべながら私達を待っています。
そこにいるのはいつも見慣れた私達の
並み居る化物のように無知ではありません。
機械のような冷酷さは一切ありません。
異形のような異端の芽はありません。
そう、見慣れたハナさんです。
ですが、そのどれよりも何かが外れています。
直感的にそう感じます。
もちろんハナさんと争う、なんてことはしたくないので、ゆっくりと、そして刺激しないように近づいていきます。
私達とハナさんの距離が10mを切るか、というところで声が響きます。
「何度目かの初めまして。私は『夢幻空間』片瀬花奈。
唄うように口ずさみ、何度目かの自己紹介は続きます。
「得意分野は論理構築、嫌いなものは非論理的なモノ。だから……この世界を壊してあげよう、ってね」
「呪域『
「──『
ハナさんの
「アリスさん!大丈夫です──」
か?、そう言い終わる前に視線が合い、頷かれます。
私なんかが行っていいのでしょうか、という悩みが一瞬浮かびますが、アリスさんが託してくれたんです。行かないわけにはいきません!
「そうね、やっぱり。だからね。ははっ!」
最早ハナさんに話が通じる気がしません。
ですけど…
「……はぁ」
突然、声量を下げ、溜め息をつきます。
「わかってる、わかってるよ。ごめん、セリア、それにアリス……でも、それでも、こうせずにはいられないの」
その言葉を幕切れにハナさんは目を閉じ、耳を塞ぎます。
「『
それは私達を殺してしまう、と思ってる故の謝罪ではありませんでした。
私達に負担をかけてしまうことを心の底から申し訳なく思っているからこその謝罪でした。
そして、閉じた双瞳の隙間から涙がこぼれ落ち、散らばった地面に落ちるのと同時に──
「呪域『
──その呪域は展開されました。