『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
◇◆片瀬花奈視点◆◇
「おかえり」
そんなありふれた『言葉』には続きがある。
けれど、これは心の中に仕舞おう。
──アリスとセリアがいなかったらこうはならなかった。
なんで隠すのって?
そりゃ…幾ら本心でも恥ずかしいことはあるからね。
こんな事を考える余裕が出てきた…ってことは多分。
そしてもう一つ、私が正気…かはわからないけどまともな思考が出来る様になったから。
だからもうおしまい。色々と、ね。
まだ整理が着いてない部分も勿論あるし、まだ心の片隅では嘘じゃないかって疑ってる。
それにまだ確定した訳じゃない。並行世界とかの可能性もある…
でもこれで一区切り。
だから……今までお疲れ様…そしてお休みなさい、私。
生きていく、ということはとても不安定で、不確定で、脆いもの。
自分一人じゃあ生きていけないから、だれかに助けられながら、支えてもらえながら、そうやって生きて……ああもう、私らしくない。
私は!自分の意思で!自分の考えで!アリスやセリアに全力で支えてもらいながら……そして、私もセリアやアリスを支えながら自由に動いていくよ!
え、何でかって?
そりゃあ───
──私は、片瀬花奈。
自由きままに動き、望むがままの方向へと流される『花』であって、全ての可能性を予見して、掴み取りたい未来だけを掴み取る……そんな『奈』だから。
つまり……自由に、自分の意志の通りに動いてほしい。
それが私の名前に込められた願い。
その想いに応えるためにも、私は私なりに生きていく。
物語の節目。
私の長いようで短い異世界の物語はこれで終わり。
これから始まるのは……
異世界での物語ではなく、題して────
『世界放浪記録』
私は自分の世界を、自分が生きていた世界を廻る。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️記録』より抜粋。
──祝福された英雄譚と現実は異なる。
市井の者に望まれるは行く手を阻む障害を華麗に、そして完璧に討滅せしめる英雄。
されど、現実に存在するは、悩み、考え、衝突し、成長する、そんなありふれた人間。
武勇を誇る英雄も裏を見れば自分を見つめ、叡知を誇る賢者も隠されたる心に人並の想いを遺す。聖女は無力さにうちひしがれる時があり、理詰めの存在は自身の存在意義を悩み抜く。
数々の英雄、或いは偉業を成し遂げた偉人は、偉人である以前に一人の人間である。
私は歴史と期待の裏に隠された彼女達の真実を確かに遺すためにこの本を書く。
どうかその軌跡が評価されるように、とも願いを込めながら。
◇◆ユリナリア視点◆◇
「……」
私は無言で、視線を上げる。
すると、そこに広がるのは見慣れた光景。
最近は雑務が祟ってこの光景を見ることはなかったけど……やっぱりこれを見ると実感できる。
私は彼等、彼女等を見下ろす……が、彼等からは私が見えない。
そういう設計になっている、というのもあるけれど、別の要因もある。
それは、そこに並んでいる人が
さて、そこの有象無象は放置して、少し考えよう。
目下の目標に向かって、私は何を……そして、ここをどう動かせばいいか。
◇
……軽く、3時間程考えて、私は口に出す。
「福音書第1
「……!」
彼等の中から息を飲むような音を立てる人がいるようだけど……彼の命運は今日で尽きるだろう。
まあ、そんなことしなくても私が目を瞑り、数秒待ってから開けると、この場から消えるのだろつけど……そんなことをしている内に、ゴミが消えていた。
「ある夢幻を中心に動乱が起こる。決して歯向かうな」
それだけ言うと、私は後ろを振り返り、奥の部屋へと向かう。
その扉に入る直前……
「137、613、964は上がっていい」
それだけ言って、私の部屋へと帰る。
当然のことだけど、私に個人情報保護なんて高崇なものは存在しないので、この行動……一挙手一投足までもが観測されているはず。
それでも私が不快に思わないのは監視している人が人なのと、慣れが大きいだろう。
私の監視は私
私はその職業上、そういう機会がどうしても多くなるから仕方ない。
とはいっても、優秀な警備のお陰でそのどちらも同じくらいの頻度でしか来ない。
……さて、そろそろか。
控えめに、そして私が不快にならない程度の音量で、それでいて確実に聞こえるような音でノックをする
「教皇様」
「入室を許可しよう」
私は部屋の一段……いや、三段程高い所にある椅子に腰掛け、肘を立ててソレを出迎える。
ぞろぞろと入ってくるそれ……137、613、964を観察する。
───『
相手に絶対に聞こえない声量でその魔術を使う。
なるほど……色欲、憤怒、嫉妬か。
いらないな。
一応万が一の可能性を信じてみるか。
────『
……通じない。
やっぱり、もう要らない。
「さて、ここに呼んだ理由がわかるか?」
三人にはわかるはずがない。
普段通りに、いつものように行動していたはずだ。
……それにしても三人もゴミが紛れてるとは思わなかった。
一度全員やり直すか?
……それもそれで面倒な話だからいいや。
…このゴミが赦されざる行為をしたのはそれぞれ4日前、3日前、5日前。
数日間バレなかったから大丈夫だとタカを括ったのだろう。
いつもみたいにしてもいいけど……たまには遊んでみよう。
「ああ、君等に答える権利はない」
「答えた瞬間、不敬罪、反逆罪、不孝罪、大逆罪、転覆罪、不信罪、不従罪で罰してやろう。私は寛大だからな、好きな罪を選ばせてやろう」
……まあ行き着く先は全て変わらないが。
「君等が一番知っている通りだが……ここでは私に逆らうことが一番の大罪だ」
……こんな制度誰が作ったのだろうか。馬鹿馬鹿しい。
……利用している私も私だが。
私が、私の感性が異常なのはとっくの昔に気付いている。でも、そうあれと教育されたものだから仕方ない。
「…さて、特別に君等には1分間、自由に行動する権利を上げよう。存分に生を実感してくれたまえ」
そういって、私は軽く笑い、手を振り……言葉を付け加える。
「まあ既に実感する生すらも残っていないかもしれないが」
目を閉じ、ここを監視しているソレに回収を頼もうとするが……
「貴女が……いなけれ、ばっ……」
「ほう、残ったか」
他の二人は既に倒れ、意識を失っているというのに、よくもまあ諦めないものだ。
私もお前の立場なら諦めていただろう……というか、実際に諦めた。
耐えるということはそれなりに意志が強い……原動力は何だ?
私は椅子を降り、ソレに一歩、また一歩と近付く。
「こっちに……来るなっ!……っ」
何を怖がっているのだろうか。
私はこんなにも非力な少女だと言うのに。
【教皇】という職業さえなければ、何処にでも転がっている一般人だというのに。
「ああ、思い出した。メトメフのあれか」
「お前の、せいでっ……シ──」
「そうそう、シリルだ。お前はその死人に夢中だったんだ」
確かこいつは……メトメフの伯爵だったはず。
メトメフ帝国にありがちの生粋の武人……つまりは脳筋の馬鹿だ。
「あれは面白い喜劇だった」
「ああ、確か──」
『滅罪─【色欲】─』を使いながら思い出していく。
「ああっ!デヴィン様!どうしてこんなことを!」
「お前が……あいつの声で話すんじゃない!」
「どうしてですか?教皇様に逆らうなんてあり得ませんよ?」
「お前だけは……っ!」
『滅罪─【色欲】─』、体をそのまま複製できる魔術。
ステータスや
「デヴィン様は悪い子ですね」
這いつくばりながら、蠢いて私の元までこようとするゴミを遠慮なく蹴る。
「その……姿はっ……あいつだけのっ……」
そろそろウザく感じて来た。
……あれをしてみよう。
「デヴィン様……貴方様が望むなら、私……」
目を潤ませて、すがる様な表情を浮かべる。
さらに、何かを求めるような仕草で……
「くそっ!くそっ!俺は何で……」
【色欲】の名に恥じない行為を仄めかす発言をしてみるが……反応がワンパターン。
まあ、もういいか。
「じゃあ後は頑張って。『
『滅罪─【色欲】─』を解除し、元の姿に戻り……ああ、確認ぐらいはしておくか。
「起きなさい。137、613、964」
「「「………はい」」」
「613、シリルとかいうお前の婚約者についてどう思う?」
「教皇様の祝福を得られずに、無駄死にした仇者です」
本来なら答えた時点でもう一度だが……まあ気分がいいから、これで許してやるか。
だから、その心の奥底で反抗するような表情は見てみぬふりをしてやろう。