『少女世界攻略記録』   作:100110110011(2)の民

32 / 162
31◇私達は一人に在らず

 

そうこう言ってる間にセルグヌ領に着いた。

うわ、思いっきり封鎖されてる。

本当にアリスは見殺しにするつもりだったんだ。

その事実を改めて確認して少し気落ちする。

そう思い、アリスの方を少し見る。

すると私の思いに気付いたのかアリスが口を開く。

 

「もう大丈夫……私は、ハナの世界を信じる」

 

その言葉に安心し、私は前を見据える。

目の前に広がるのは魔銅の病に罹り、正気を失くした人達の巣窟。

下手をしたらここに手遅れじゃない人は存在せず、この行動自体が無駄に終わるかもしれない。

でもアリスが作ってくれた『反魔銅薬』がある。

体の一部が魔銅に代わり始めていたなら、もう手遅れで薬を使って魔銅成分がなくなっても『体を補完していた魔銅』が消えて死んでしまう。

だから可哀想だけど、そういう人達に私達が出来ることはない。

でも逆に言えば意識が混濁していたり洗脳効果だけなら、あの薬で対処可能だってことだ。

『セルグヌの領地』というと広大に聞こえるけど、セルグヌの最後の抵抗で住民をこの『町』に集めたらしい。

だから回る範囲自体は広いは広いけど、不可能な範囲じゃない。

精々4km^2位だと思う。

だから手遅れになってない人達は全員助ける!

そんな心意気でこの弔いに挑戦する。

 

「…私は東側から…治すから…」

 

「じゃあ私は西側からでしょ」

 

「…そう…」

 

「じゃあ薬を半分にして…競争でもする?」

 

「折角だからね。…よーい…」

 

「どん!」

 

という訳で急遽始まりました。

セルグヌ領の人に薬を配るRTA。

タイマースタートは「どん!」の「ど」が聞こえたと同時。

ストップは…セルグヌ領の人が全員治療された時。

レギュレーションは…何故か先駆者さんがいなかったので…私が決めた。

薬を使う前に殺すのはなし。但し…使っても治らなかった場合は、やむを得ない。

 

 

よし、華麗なテクニックで西側の80%位を一瞬で終わらせた。

基本的には人だから突然襲いかかってくる、みたいはことはない。

だから多少無理矢理にでも口の中に薬を入れられれば解決する。

 

簡単なRTAになりそうだ。

しかもここまでで手遅れな人はいなかった。

これならもしかして────

そんな楽観的な考えが生じ、油断し始めたその時。

周囲から人の物とは思えない(うめ)き声が聞こえる。

 

「カゴゴゴ…コァ…」

 

何!?

……いや、わかっている。

この場で、この領地で確実に手遅れな人を私は一人だけ知っている。

誰よりも領民のことを考え、誰よりも真っ先に被害に遭ったこの町の領主を。

 

「ガゴゴゴ…ガァ…ゴグガァ…」

 

振り返るとそこには変わり果てたセルグヌがいた。口や胸(の傷口)から銅色の何か…いや、誤魔化すのはやめよう。

口や胸に残る、私が付けた傷痕から魔銅が出て滲み出ている。

その姿は辛うじて人型は保っているものの、明らかに異形の物であり、呻き声や時々混ざる『機械の異音』としか呼べない音はセルグヌの意識が既にないことを示す。

 

体長2mを超え、その身に銅を滾らせた異形の人型と相対する。

 

「貴方の無念、ここで晴らしてあげる!」

 

その言葉が二度目の戦いの始まりを告げる合図となり、相手(セルグヌ)も、そして私も動き出す。

 

人の形から外れたセルグヌ、その体を人外たらしめている魔銅の触手とも言うべきその箇所。

 

それが凄い勢いで伸縮して私に襲いかかってくる。

私は15000を誇るaglをフル活用し、余裕を持って避け───

 

「…っ!」

 

余裕を持って避けた筈なのに、脇腹のすぐ横を触手が通過する。

その見た目(金属製)とは裏腹に、触手のスピードは私の全速力、つまり15000のaglよりも速く、『見てから避ける』や『片手間に処理する』が封じられた事を意味する。

 

そしてそれは生前より速度の面では強化された、ということを意味する。

だけどそれは敵としての総合スペックが上昇することには結び付かない。

何故なら、幾ら力が強かろうと、幾ら素早くとも、技術が、技が付いていけなければそれらをもて余すことになる。

前回戦った時は魔銅に主導権を握られていたとはいえ、まだ『人としての意識』は存在していた。

だから剣技もしっかりあったし、だからこそ私が苦戦した面もあった。

それに比べて今は意識を失くし、剣技も失い、唯速度が上がっただけ。

そんなので楽に勝てると思うな?

 

私は触手による猛攻、されどそれは追い詰めるための戦術なんて存在しないぞんざいな扱いの猛攻を逃げることで凌ぎながら街の中を駆け抜ける。

 

しょうがない。追い掛けられながら薬を配ろうとしたけど…もう無理だ。

まあ、西側はさっき渡したので最後…なら…お、アリスも来た。ほぼ同時だけど…今回は私の勝ち。

 

さあ…このセルグヌ関係の因縁は…最初にセルグヌと戦った場所でもある…この広場で決着を付けよう!

今回は前回と何もかもが違う。

 

まず前回と違い昼の上に、雲一つ存在しない快晴だ。

そして私には『親友』(アリス)がいる。

そしてお前(セルグヌ)は意識を失くし仲間もいない。

明けない夜はない。上がらない雨はない。

貴方(セルグヌ)が長年治めてきたこの領地の中心!

この広場こそが…最終決戦の場!

 

「アリス!手助けをお願い!」

 

「…わかった!」

 

セルグヌ…いや、魔銅の怪物は口や胸から出した銅の触手を伸ばしてくるのが主な攻撃方法。

そして銅…つまり金属である以上真っ直ぐにしか伸びないというわかりやすい特徴がある。

だから口や胸の向いてる方向さえ気にしてれば…。

右!

左!

上に!

しゃがんで…

前に!

そして…慣性キック!

…っと、こういう風に出来る。

 

さて、そんなに私ばかりに構ってて良いのかな?

ここに立ち、貴方と相対するのは私だけじゃない。

異世界に突然飛ばされて戦闘なんてよく知らない私じゃない。

長年生き、王族として英才教育を施され、その全部を飲み干してきた───

 

「『魔術-1-5-1(炎槍)』」

 

──アリスが私を助けてくれる。

怪物が私に構い、アリスから目を話した隙に炎の槍を象った魔術が炸裂する!

 

炎槍を直接ぶつけられても無傷でいられるほど魔銅という物質は万能ではないらしい。

つまり、確実にダメージは入っている。

ならこれの繰り返しで行けるのか…?

状況だけを見るならば行けそうだけど問題点が一つ。

攻撃する度に傷口が増える…つまり触手が出てくる場所が増えることだ。

今だってお腹辺りに一つと右足に一つ増えた。…来る!

右!…右!…上!…からの…動かない!

左!…一歩下がって…二歩左斜め前に!

それで慣性キックの代わりに…

 

「神域『科学支配世界(オーバーロジック)』!」

 

危なかった。やっぱり技名が長いとこういう時辛い…

……代わりに怪物の体が溶けている。

アリスの魔術よりも確実にこっちの方が威力が出てる。

そして溶け落ちるセルグヌの体を見れば相手が瀕死なのは目に見えている。

やっぱり神域は『非科学製品』への特効が付いてる。

それもかなりの高倍率かつ高修正値で。

そしてダメージが入り敵が満身創痍になった、ということはだ。

…逆を返せば、ここからは全身から触手が出てくる!

口や胸だけではなく、腕や足、まさに全身という全身から銅にまみれた触手が飛んでくる。

これを相手に持久戦はとてもじゃないけど無理だから…

なら短期決戦で決めにいくしかない。

セルグヌの様子からもう一回接近して神域を近距離で浴びせれば勝ち!

神域『科学支配世界(オーバーロジック)』の有効半径は5m…中心の方が威力が高そうだから念には念を入れて3m。

そこまで近付いて発動させれば勝利できる!

…さて、これでそんなに長くはない、されど私にとっては限りなく長かった戦闘がどちらにせよ(・・・・・・)終わる。

言うまでもなく勝つつもりしかない。

私は元の世界に帰りたいんだ!

こんなところで死んでたまるか!

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。