『少女世界攻略記録』   作:100110110011(2)の民

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36◇ご近所付き合いの挨拶回り(致死性アリ)

◇◆片瀬花奈視点◆◇

 

そして王都に帰った私達を待ち受けていたのは…地獄だった。

さて、今はセルグヌを倒してきたよ…ってことを報告するために国王に謁見している。

…国王に謁見、っていうと仰々しく聞こえるけど『親友(アリス)』の親に挨拶しに行くって言うと軽く聞こえる不思議。

 

でも実の所国王に謁見している、って言うのは少し語弊がある。

アリスの身分でゴリ押しして本来謁見に必要な手順をすっ飛ばしたのはいい。

じゃあ何が問題なのか、というと…

 

「…え?」

 

「どういうこと?」

 

上はアリス、下は私の反応である。

 

「いや、この魔銅の『ゴーレム』は国を変えるんじゃないかと思って」

 

…そういうことなのである。

国王の目の前にあるのは魔銅製らしきゴーレム。

アリスによるとこの世界にはゴーレムは普通存在しないからそこがおかしい…ってそうじゃない。

 

「……何で…父上が…魔銅を…?」

 

アリスが多少困惑した表情で聞く。

すると国王は何を当たり前のことを聞いてるんだ?とでも言いたげな感じで言い放つ。

 

「だって…魔銅は素晴らしいだろ?」

 

アリスが天を仰ぎながら私に指示する。

 

「…ハナ…薬…突っ込んできて…」

 

私は近付いて口の中に薬を放り込んだ。

これ不敬罪で罰されたりしないよね?

罪に問われたら全力でアリスに責任押し付けるよ?

まあ非常時だから流石に許されるとは思うけど。

 

「…よし、これで一時間位経ったら治る…」

 

うん、これで解決…な訳ないんだよなぁ。

国王が感染してるってことは城内で魔銅を自由にさせてた訳で…それが意味することは単純。

 

「でもアリス、問題は…」

 

「…そう…どこまで広まってるか…」

 

まず、ほぼ毎日城に来る公爵や侯爵は感染してるだろう。

伯爵以下はそんなに頻繁に来るわけではないから感染してる可能性は低い。

だから最優先は侯爵と公爵だ!

…って決めきれたら格好良かったんだけど、公爵&侯爵が毎日城に来てることも伯爵以下なあんま来ないことも私は知らない。

え?じゃあどうやって推測したのかって?

そんなのアリスの言ったことをそのまま復唱しただけだよ。

まあアリスが言ったのは『公爵…侯爵は城にいる…それ以下は…まだ…』だけだけど。

というわけで、だ。

やることの優先順位は決まった。

 

「アリス、まずは何処から行くの?」

 

「……その前に……『魔術-16-3-1(雷炎剣)』」

 

魔術で雷と炎で出来た剣を造り、魔銅ゴーレムに向けて飛ばす。

真っ直ぐゴーレムに向かって飛んで行った剣は人間でいう心臓にあたる部分に突っ込み…

ゴーレムは音をたてて崩れる。

そしてアリスは何事もなかったかの様に私に次の予定を伝える。

 

「…まずは…デルノント侯爵から…」

 

なるほどなるほど…え、誰?

残念ながら私は侯公爵について知ってる情報はほぼない。

それこそ公爵が4家、侯爵が7家あるということしか知らない。

この機会に名前だけでも覚えよっと。

でもトップだけでも合計11人…覚えられる気がしない。

まあ頑張ってみるか。

ところでデルノント侯爵について誰か教えてくれません?

 

アリスはメイドさんらしき人を呼び止め各侯公爵に連絡(アポイント)をとっている。

うん、報連相は大事だよね。

それに上位貴族ともなればアポなしで突っ込むのは不敬だよね。

 

ところで今から行くデルノント侯爵について教えてくれる人いません?

 

「デルノントは…武門で有名…特に剣技の名家…」

 

なるほど。

え?情報それだけですか?

そんなことを愚痴っている間にデルノント侯爵の執務室に着いてしまった。

 

「…宮廷魔術師就任が名目……薬、これ」

 

なるほど。

私が宮廷魔術師第六席に着いた事でお目通しをしたいという用件で話をして…健康に良い薬…と偽って…いや、あながち偽ってないけど…渡して飲ませればいい、ということか。

貴方を偽証罪で訴えます!みたいな感じになったりしない?大丈夫?

 

「ん、じゃあアリスも一緒に…」

 

「…私は…入らない…目立つから…警戒される」

 

一瞬、え?なんで?と思ったけど説明してくれた。

アリスは第二王女様かついい意味でも悪い意味でも有名だから、私と一緒に入るとアリスの方が目立つわけか。

すると訪問理由兼建前である『私の宮廷魔術師就任』が薄れて貴族がアリスとしか会話しなくなる、と。

そしてアリスから薬を渡すよりも私から渡した方が警戒されないから…か。

 

よし、じゃあ扉を開けて──

 

「…ハナ、待って。そういうのは侍女の仕事」

 

アリスに首をつかまれてドアを開けるのを阻止された。

 

「え、何で?別によくない?」

 

「…貴族たるもの…」

 

ああ、見栄がどうとか、っていうことね。

やっぱり貴族って色々と面倒な職業だなぁ。

まあアリスに注意されたので素直にノックだけして大人しく待つ。

 

ノックはいいんだとか言っちゃいけない。

多分この謎マナーはあっち側の準備云々の時間稼ぎのためなんだろうな。

そんなことを考えると中々に顔面偏差値の高そうな侍女が扉を開ける。

くっ、何処の世界も上の地位に登り詰めるのにはある程度の美貌が最低条件なのか。

 

開けられた扉をくぐり、デルノント侯爵と対面する。

 

「ふむ、貴女が新しく宮廷魔術師に就任したハナ殿か」

 

第一印象は悪くない。

悪い意味での貴族っぽさはなく、『武人』という感じが全面に出ている。

 

「御明察のとおり、私が新しく宮廷魔術師の末席を汚させて貰うことになりました片瀬花奈と申します」

 

御明察も何も直前に知らせたんだから判るに決まってると思うんだけど。

まあ相手は侯爵なので下手(したて)に出て損はない。

 

セルヌグのところから帰ってくる間に教えて貰ったアリス直伝の会話術を使うことで印象をあげる。

え?どんなものかって?

簡単な話だよ。まずは時事問題について少し触れます。

といっても私が時事問題なんて判るはずないので、必然的に話題はセルヌグ関係に収まるわけ。

 

そしてその後は当事者特権を活用して事実を多少脚色(控えめ)に伝えるって寸法。

 

「それで私は勇猛果敢に…」

 

そんなこんなで20分少し会話する。

というわけで本題…もとい反魔銅薬を飲ませようプロジェクトに入る。

名目は…そうね。

 

「ところで最近親しくして貰っている方からこんな物を貰いまして。私が使ってみた所効果が…」

 

はい。

言うまでもなくアリスのこと。

そして実際に効果があることは私が身をもって証明済み。

だから嘘は付いてない。

アリスに真実の脚色や真実を言わないのはいいけど嘘は言わない方がいい、って言われたからね。

やっぱり魑魅魍魎蠢く王城にいるだけあって嘘には敏感らしい。

 

お、この場で飲んでくれた。これで目標達成かな。

 

「侯爵様もお忙しいでしょうし、今日はそろそろお暇させて貰います」

 

中々に長い顔合わせを終わらせて、執務室の外に出る。

 

「…どう、だった?」

 

どうだったも何も大成功ですよ。

親指を立てる(サムズアップ)で成功を示し、次の侯爵執務室へ…あれ?

後10家あるの?辛くね?

あ、親指を立てる(サムズアップ)は行儀が悪いから公の場所でやっちゃダメですか。

 

 

長く…苦しい戦いだった。

いや、別にアルティメットコミュ障とかじゃないから人と話すこと自体は苦痛じゃないのよ。

じゃあ何が問題なのか、って単純に会話相手が常に私より立場が高いのが辛い。

私が適当なことほざくだけで首を飛ばせ…はできないだろうけど社会的に抹殺出来る人達と3時間程話してたらそりゃ疲れるよ。

さて、最後は…ふむふむ、イメシオン公爵か。

私はデルノント侯爵の執務室から出た時に渡された侯公爵一覧のメモを見ながら今までのことを思いだす。

というか私のメモ書きもあって少し見辛くなってるな。

 

─────

「ササン公爵」

武力関係のトップ。シルクエスさんの実家。

「アルムルク公爵」

教育関係のトップ。数学について聞いてきた。学校長の後ろ楯っぽい。

「キョウイン公爵」

財政関係のトップ。お金持ってそうな感じ。

でも豪華絢爛みたいな感じじゃなくて品が良さそう。

「イメシオン公爵」

 

侯爵

「アイグリル侯爵」

最古の侯爵らしい。この国成立と同時に出来た家。

侯爵の中では一番領地とか収入がいいらしい。

 

「サンエティ侯爵」

第一印象はサロンガチ勢。第二印象以降もサロンガチ勢の女侯爵。

色んな貴族家の夫人を集めてる。情報収集とか得意そう。

 

「オリエント侯爵」

魔術の名家っぽい。ユリエメル侯爵とは仲が悪い。

名前忘れたけど宮廷魔術師第二席はここ出身。

 

「ゲシュタル侯爵」

東側の国境を守ってる人。といっても家としては後方指揮に特化してるらしく個人の武力自体はあんまない?

 

「ユリエメル侯爵」

魔術の名家っぽい。オリエント侯爵とは仲が悪い。

名前忘れたけど宮廷魔術師第三席はここ出身。

 

「イリエスト侯爵」

研究者(オタク)一族っていうのが一番近い。

根っからの研究者気質らしく謎の魔術談義が会話会話の間に挟まった。コミュ障ではない。

 

「デルノント侯爵」

最初に行ったとこ。後から知ったけど第四軍団団長(メルケルトさん)はここ出身らしい。

──────

改めて見るとなんだこの情報量…全く覚えられない。

ゲシュタル侯爵とか名前以外印象に残ってないし…

というか公爵の方が情報隠蔽が上手いのか情報がほぼ得られなかった。

 

「これで最後…確かイメシオン公爵だよね。どんな人?」

 

「…王宮でも…一二を争う…やり手……」

 

ふむふむ。今までの10家の中ではサンエティ侯爵が一番『遣り手』っぽかったけど…あ、着いた。

最早慣れた手つきでノックする。

ノックに慣れるって何だろう。

公爵までになるといつでも来客がこれる様に準備にかかる時間がほぼ0だ。

お、開いた。

 

 

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