『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
さて、いよいよイメシオン公爵の部屋に入る。
これで長かった上位貴族への挨拶回りも最後だ。
…こういうときに限ってミスをするんだよね。
私は気を改めて気を引き締める。
──部屋に入り、礼をしてから挨拶する。
「失礼します。先程手紙を出した片瀬花奈ですが…」
頭をあげてイメシオン公爵を見る。
第一印象としては、他の公爵や侯爵と違って『威厳』があるわけではなさそうな感じ。
…別にそれは批判してるわけじゃないし、やろうと思えば威厳も他公爵と同じかそれ以上に出せるんだろう。
でもそれを敢えて隠してる感じがする。
流石はアリスが『遣り手』と認めるだけのことはある。
……この人相手にアリス抜きで騙すの無理じゃない?
アリスは大分私の事を過剰評価してる気がするんだけど…
私、一般かつ凡庸な普通の女子だよ?
それに比べて相手は、海千山千の魑魅魍魎がいる貴族相手が蠢く王城において『遣り手』と評されるイメシオン公爵。
控え目にいっても不可能では?
いや、落ち着こう。
私個人が所有してるアドバンテージはアリスの後ろ楯と異世界転移という未知の情報。
それをフル活用すれば多少は足掻ける筈。
「君が噂のハナ殿か…」
そういって私を観察する公爵。
…見定められてる感じがする。
嫌とか不快…ではないけど、まさぐれる感じがしてくすぐったい。
「初めましてイメシオン公爵、私が宮廷魔術師第六席を新たに勤めさせて頂く片瀬花奈です」
一応今まで回ってきた10家全てで全く同じ口上を言ってるから嫌でも覚えてる。
「噂はよく聞いてるよ…何でもセルグヌ共を一人で壊滅させたんだってね」
侯爵の中には、その情報すらも掴んでない人がいたのに…
あ、流石に公爵は全員知ってた。
やっぱり独自の情報収集部隊みたいの持ってるのかな。
…そういえばアリスも『そういうの』は持ってるらしい。
だから私が異世界転移者だって気付けた、ってさっき言ってた。
「いえ、ア…第二王女様の立案の下ですから…」
危ない、ギリギリまでアリスの事を考えてたから危うくアリス呼びするところだった。
アリスは親しい人とか認めた人以外に『アリス』と呼ばせずに、第二王女様、あるいは第二王女と呼ばせている。
…ても頑張ればこれも利用できるんじゃないか?
敢えてミスをして『アリス』と呼んだ風に取り繕う。
まるで『アリスからそう言われた』と思わせる様に。
そう言うと公爵は少し考えた素振りを見せてこう言った。
「まどろっこしい事はなしにしよう。何の用件でここに来た?」
「それは宮廷魔術…」
「それは建前だろう。本命の用件は何だ?」
えーと、こういう時は…
「第二王女様からの王命です」
王命というのは貴族だろうが平民だろうが達成しなくちゃいけない絶対目標。
要は王族からの絶対的な命令だ。
例え公爵本人だろうと直接拒否は出来ない。
アリス曰く、遠回しに断ったり、条件を変えることぐらいならギリギリ許容されるらしい。
「ふむ……ならばこう伝えておいてくれ…」
王命の内容を伝える前に私の話を遮って、会話を続けさせてくる。
「『魔銅』に関しては気にしなくていい…と」
──どこまで気付いてる?
私が警戒を最大まで上げた所で背後の扉が開いた音がする。
…?
『背後』?
何か引っ掛かる単語…まあいいか。
誰が入ってきたんだろう。
「……そこまで気付いてるんだ…流石…」
…入ってきたのはアリスだった。
目立つから入らないって言ってた筈なのにどうしたんだろう?
お互いが目で牽制し合ってる?
表情と目線で会話しながら牽制し合ってる。
うーん、私には何もわからない。
宮廷魔術師になるってことは貴族になるってことでしょ?
こういうのも出来る様にならなきゃダメなのかね。
だとしたら当分出来る気がしないんだけど…
まあ面倒な政治争いに巻き込まれる前に帰ればいいのか。
それか政治争いなんて起こらない、起こせない程絶対的な存在になるか……なんてね。
私の頭脳才能値はカンストしてるわけじゃないし、剣や弓なんて使えるわけない。
こちとら温室育ちぞ?
日本のぬるま湯にどっぷり浸かってた民ぞ?
剣やら何やらなんて出来るわけない。
セルグヌ相手に多少剣が出来る風に見えたのは相手の理性がなかったのとaglが高かったからってだけ。
同じagl下っていう条件なら私は下手しなくてもセリアより弱い。
学校の授業で剣道はあったけど…あんなの実戦で使えるかって言われたらねぇ。
いや、極めれば強いだろうし実戦でも使えるんだろうよ?
でもたかが中学の授業で月1でちょろっとやっただけじゃあ…うん。
そもそも私が剣道で覚えてることなんてほとんどないし。
後は…魔術は多少使えるのかもだけど…まあそれだけじゃ到底無理。
「……そういうことか…わかった。今回は私の負けだ」
公爵はアリスを見て何かの敗北宣言をする。
やったー、で良いの?ダメなの?
それすらもわからない。悲しみ。
まあアリスが余裕そうな感じ出してるから喜んでいい場面なんでしょ。
やったー。
「それで、何か要求があるのだろう…?」
負けたら要求?何か賭けでもしてたのかな?
…まあ違うだろうけど。
実際の所は、何らかの裏回し関係ででイメシオン公爵の仕事をアリスが潰したんだろう。
仕事を潰したっていうと悪く聞こえるけど、言い方を変えれば『仕事を代わってあげた』だ。
つまり王族であるアリスに自分の仕事をさせたことになる。
まあ実際はアリスが自発的にやったんだろうけど…それを余人が知る由はないので、結果的には『王族に仕事をやらした』という借りが出来る訳だ。
で、態々半強制的に借りを作った訳だからその『借り』を返済する様な『お願い』という名の『強制』がある、と予測したんだろうね。
…ここまで色々言って検討違いだったら恥ずかしいなぁ。
「……ハナの権力の補助…と、これについての情報…」
お、合ってたっぽい。
それにしても私の権力補助?
まあそうか、貴族には派閥やら後ろ楯やらの後ろ暗いる
それに対して私はアリス以外の後ろ楯が0。
まあセリアも助けてはくれるだろうけど…伯爵令嬢一人で出来る援助はたかが知れてるし、実家であるティーミール家が助けてくれるかは別。
王族の後ろ楯、というのは特大級の後ろ楯ではあるけどそれだけ危険性もある…からかな?
まあそうか、王族というものは基本的にプライベートが全くわからない。
それを裏返せば容易に表舞台にでしゃばらないってこと。
つまり王族は世俗と距離がある。
だから世俗側であるイメシオン公爵に後ろ楯を頼むのか。
それにしても公爵が世俗側って、やっぱりこの世界身分主義だなぁ。
ちなみに後半の『これについての情報』の意味は全くわからない。
あれ、これ名目上は私の宮廷魔術師就任の挨拶回りなのに肝心の私が空気してない?
だからアリスは一緒に入ることを躊躇してたのか。
完全に納得したわ。
よし、今からは一般通過ガヤに成りきろう。
はいそこ、公爵の執務室にガヤがいるわけないとか言わないの。
「それは些か重い条件ではないですか?第二王女様?」
そんな重いのかな…はっ!
私は重い女…くっ、イメシオン公爵、話に参加してない私にまでダメージを与えるなんて!
これが…王城一二を争う遣り手の力…!
さて、茶番はともかくアリスはどうするんだろう。
私だったら…って言いたいところだけど『それについての情報』が何かわからない以上仮定すらも出来ない。
どうも、蚊帳の外勢です。
「…なら…情報はいい…」
へぇ、情報の方を切るんだ。
「成る程…わかりました。お受けしましょう。
…少し第二王女様は退出願えるかな?」
あ、案外簡単に受け入れるのね。
…それよりも、だ。
公爵が私に目線を合わせる。
はっ、私を重い女呼ばわりした公爵が何を今更…
あ、これ真面目な場面?
まあそうか。
なら……私の力を御覧に入れよ。
「…何故?…いや……何するつもり?」
アリスが止めようとするけど、別に構わない。
何でって?
今の私は、無駄な饒舌システムと黒歴史製造システムに身を任せてるから。
一見するとふざけてる様に見えるけど私は至って真面目だ。
私の『保身』のためだけに磨かれた饒舌システム。
そしてこの世界に来て再発しかけてる厨二病を使ってこの世界らしい弁舌を披露しようじゃないか。
「アリス、私も大丈夫だから」
私がそういうとアリスは渋々了承する。
「…わかった。……10分だけ…なら…」
「ありがとうございます」
やってやろうじゃない。
何をされようと完封勝利してやる。
私に重い女だって言ったことを這いつくばって謝らせてやる!
…あれ?そういえば、別に公爵と敵対してる訳でも、敵対したい訳でもないよね?