『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
◇
アリスがいなくなり、場面は仕切り直し。
真っ直ぐイメシオン公爵を見据える。
「さて、ハナ殿…君は何者だ?」
私が何者かって?
そんなの決まっている。
だから私はあっちにあわせて名乗る。
「私はハナ・カタセ男爵。それ以上でもそれ以下でもない」
勿論あっちが求めてる答えと全く一致しないのはわかりきってる。
でも私がそれを意図してやったこと位は理解出来るでしょ。
「私の情報網を持ってしても2週間以上前の君の素性が全くわからない」
素性ね…異世界転移者ってこと?
それとも
それとも『不思議之住人』っていう普通じゃない職業持ちってこと?
それとも呪域や神域を使えるってこと?
ぱっと思い返せる範囲だけでこんなに思いあたる節がある。
「第二王女様が隠していた…と思ってたがあの様子だと違うらしい」
「そして第二王女様があれだけ注目するという事は間者や他国のスパイではないのだろう」
「本当に君は何者だ?」
ここはある程度本当の事を言った方がいいだろう。
でも、だ。
「はんっ…」
私は別に公爵を笑ったわけじゃない。
異世界転移して、エネステラを倒して、貴族になって…なんて変な道筋を辿ってる自分自身の人生を笑っただけだ。
そしてこれだけ変な道筋で来ているからこそ他者にはわかり得ない。
その例外に分類されるのがアリスだけなのか、それとも貴方も含まれるのか。
今から私を以て確かめてみよう。
「…私はアリスの『親友』でもあり、秘匿されてきた『切り札』です」
そうだね、『異世界で』秘匿されてきた切り札だ。
何も嘘はついていない。
「…それだけじゃないはずだ。第二王女様は優秀ではあるが『エネステラ』の発生位置を予測したり魔銅の洗脳の解除薬を手軽に作れるほど優秀ではなかったはずだ」
ふーん、魔銅の洗脳効果も知ってるんだ。
国一番の遣り手は伊達じゃない。
でもこの場の主導権は私にある。
基礎能力自体は公爵の圧勝だけど、これが持ってる情報の差だ。
幾ら優秀な頭脳を、交渉能力を持っていようと
それに比べ私は余る程情報がある。
まず、単純に私の転移に代表される素性の情報。
それに『元の世界の知識』シリーズ。
更に天整統霧生の情報。
付け加えるなら、職業や技能、神域の情報もある。
言ってしまえば、プロゲーマー(環境最弱デッキ)に対してアマチュア(環境最強デッキ)で戦ってる様なものだ。
それでもいい勝負になってしまうのがアマチュアとプロゲーマーの差なんだけども。
多分アリスが私と同じ情報を持ってたら、かなり一方的な交渉になりそう。
まあ私も経験を積めばアマチュアからセミプロゲーマーぐらいにはなれるかな?
まあ交渉やら騙す技能に関しては元の世界に帰ってからでも有効そうだし少し覚えてから帰ってもいい…かな?とは思う。
まあその辺は後々考えよう。
そんなに直ぐに帰る方法が見つかるわけじゃないだろうし。
いや、天整統霧生から帰る方法自体は教えて貰ってるんだけど肝心の帰還ゲートらしきものの場所がわからない。
後、個人的には公爵の言葉はいただけない。
アリスがそこまで優秀じゃない、ね…
私自身が批判されたり舐められたりするのは全く構わない。
実際特に目立ったところもない一般人だからね。
でもアリスは違う。
大前提としてアリスは第二王女だ。
勝手なイメージだけど、王族って幼い頃から厳しい教育をされてるイメージがある。
それにそうじゃなくてもアリスは天才だから。
そこまで考えて、ふと疑問に思う。
これじゃあ私が『親友』の負けを認めたくないだけみたいじゃないか。
むーん、『
客観的にね、客観的に。第三者視点から落ち着いて観察しよう。
……そうは言ったものの何を観察するの?
…まあ、自分でこういうのに気付けただけ成長したということで、今回はアリスを軽く侮辱された怒りを納めよう。
…で、何の話だったっけ。
「ならば君に理由があると思うしかないのだが…」
そうだった。
ここら辺の話を要約すると、『アリスが前より優秀になってね?これ
でも、それに関しては本当に知らないです。
…というか、何か一部偶然の出来事を過大評価してる気がしなくもないけどまあアリスの評価をあげとこう。
まあ警戒させて損はない…よね?
それ以前に最初から死ぬほど警戒されてそうだしね。
「甘いです。公爵サマ、この言葉を知っていませんか?」
全力で公爵を煽っていけ。
責任やら警戒やらはどうせ全部アリスに向かうんだから遠慮なく強気でいける。
…自分で言うのもなんだけど、自分に責任が向かなくなった瞬間に強気になるの悲しいなぁ。
今後の人生における改善点かな。
いや、でも言い換えれば強かとも言えるから悪くはない…?
…私は、善良な一般市民だからそんな悪どいこと考えたことない。
ホントダヨ?
最近多くなってきた脳内茶番劇は置いといて会話を続ける。
「『
さて、宣言通り思いっきり公爵を煽る。
魔術の詠唱って実質何するかの宣言みたいな物だから、宣言で威力が上がる…みたいなのないかな。
例えば『私は今から「ファイヤーボール」の魔術で貴方を攻撃します!』って言ったら威力が上がる…みたいな。
それか『今から貴方に追い付くために『
まあそんな都合の良いものないか。
…ないか。(チラッチラッ)
…ないかな?(チラッ)
呪域とか固有魔術とかとは違って上手くはいかないらしい。
ふーむ、まあいいか。
元々、上手く行ったらいいな位の物だったから別にいいけど。
「第二王女様は今まで全力を出していなかった…と…」
実際どうなんだろ。
でも言われてみると、アリスが本気になってるとこは見たことない。
セルグヌの時も後ろからの後方支援者だったし…
アリスが慌ててるのを見たことも…いや、それはあるわ。
まず一回目は私がセルグヌの間者…今となってはこの言い方でいいのかなって思わなくもないけどいいか。
そう、セルグヌの間者に殺されかけた時。
そして二回目は私が魔銅に洗脳されかけてた時。
…そう考えると、アリスは割と私のことを大事に思ってくれてるんだなぁ。
ありがたやありがたや。
「一つだけヒントを上げます。アリスは貴方と同じ情報量で正解《・・》まで辿り着きました。これがどういう意味かわかりますよね」
勿論ここでの『正解』は私が異世界転移者ってこと。
…まあ実際は原子論やらの話はしたけど…
この公爵ならそれ位は掴んでそうだし良いよね。
「…成る程、君の正体はわからないが…第二王女様が本気を出していなかったのは本当みたいだね」
何が成る程なのかはわからないけど、まあいいや。
アリスが凄いってことをわかってくれたみたい。
「完敗だ。情報をあげよう」
お、ラッキー。
天は私に味方してくれてるわ。
……いや、天が味方してくれてるならそもそも異世界転移なんてしてないわ。
「今、私の手勢がこの城から人が出るのを阻止してる。この時間を上手く使ってくれ」
「それではまた会う時まで…」
それだけ言うと私に帰るよう促した。
外に出るとアリスに何か言われた?と聞かれたので公爵が城から人を出さない様にしてるって答えた。
「…ふう…これで公爵と侯爵には配れたし後は誰かいる?」
「…騎士団…の人…」
ああ、確かに騎士団の人達は王城に出入りしてるし、真っ先に感染しそうだね。
「…でも…折角の…機会…存分に利用する」
そう言ったアリスの次の行動は民衆に…って言っても王都の人だけど…にこう発表した。
─────
この度宮廷魔術師第六席に新しく就任することになった者がいる。
その者の名をカタセ=ハナという。
この者を聞いたことない人も多いかもしれない、そのためにこの者の武勇を疑う者もいるだろう。
その者のために彼女の武力、魔力、知恵を見せる場所を作った。
詳細は以下に記述する。
時間:明日の正午開始
舞台:中央闘技場
対戦相手:騎士団複数名
最後になってしまったがハナを宮廷魔術師に推薦したのはこの私、アリス・フォン・トラウィスであることをここに記す。
─────
「アリス、これって…?」
いや、え?
何で?うん?
騎士団…え?
「…見た通り…いや…読んだ通り?」
「そこじゃなくて、…待って。何人いるの?」
「…640人だけど?」
驚愕の事実、何処に勝てる見込みがあるんだか。
それこそ新しい魔術でも習得しないと不可能では?
1対1とか1対5位までなら呪域と神域の組み合わせで足掻けるだろうけど…
「1対640?」
「…そう」
「勝てるの?」
「……制限なしで良いよ…」
「呪域も神域も武器も?」
「…遠慮なくどうぞ…」
「無の希望がほとんど無い希望になった」
うん、…勝てる未来なくない?
さっきも言ったけど、それこそチート魔法とか来ないと無理だよ?
「…私は勝てると思う。後これ…」
我が道筋に 光はなかれど かたせ はな
即興で短歌を読むくらいには混乱してる。
何その期待…ちょっと過剰では?
何処か取り返しのつく所で期待を裏切っとかないと。
関わりがない人だったらいいけど、アリスは『親友』だしこれからも関わることになるだろうからね。
認識の差で足元を救われない様にしないと。
…でも全く何も出来ないっていうのも見捨てられそうだからなぁ。
アリスが庇護欲を出してる人に甘かったらいいんだけど…まあそんなわけないだろうし。
そんな事を考えているとアリスがジェスチャーで合図してくる。
何々?収納用鞄を開けて?
ああ、気付かない間に愛用品になってた研究施設製鞄のことか。
アリスに言われた通り鞄を開ける。
「『
アリスがそういうと、どさどさという音と共に大量のポーションが鞄に入っていく。
ん?…5000本とか聞こえた気がする。聞き間違えかな?金貨25000枚分を渡された気がするんだけど?
「…まあ兎に角…頑張って…」
「…後…
あ、そうなの。
普通の属性魔術みたいに手抜きシステムじゃないんだ。
まあ『
…というか何でこのタイミングでその話を?
「…多分今日位に…レベル上がるよ?」
驚愕の事実を突き付けられるのと。
《魂の位階の成長を確認!》
《試練生成中…》
《『記憶の試練』…開始!!》
そうアナウンスが脳内で流れたのはほぼ同時だった。