『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
◆
「私の名前は
私は何処かから突き動かされるその根源に従って全力で自己紹介をする。
明日から中学最後の学年末テストがあるわけだけど…
何で高校受験が終わったのにテストがあるんだろうね。
なんだっけ。昔聞いたよね…確か『受験が終わった油断で学力が0にならない様に』だっけ?
建前上は『皆高校に行くわけじゃないから』らしいけどね。
建前と本音ね…私は使い分ける機会なんてあんまないからいいけど。
…?
何か違和感。まあいっか。
普段通りに凡庸的かつ平和な世界で生きていこう。
ところで、だ。
私はふと我に帰り、思わず口に出す。
「ってあれ?誰に向けて自己紹介してたんだっけ?」
普通に考えて、突発的に大声で自己紹介を始める人は頭がおかしいと思う。
いや、この状況だと私が該当することになるけど、一先ず説明させて欲しい。
だって中学生ともなればもう十数年は生きてるわけよ。
自分の得意分野だか苦手分野だか、それ位はわかってる筈なのよ。
誰も聞いてない求めてない場所で自己紹介を叫ぶなんて自ら『自分は自分について何も考えてませんでした』アピールをしている様にしか思えない。
というわけでその論理を適用すると、私は自己認識すら出来てない悲しい人になるわけだ。
でも説明させて欲しい。
…説明させて欲しいっていうのも2回目だけど弁解させて欲しい。
ほら、世の中には論理とか合理とかで片付けちゃいけない物もあるじゃん?
私は知らないけど、『愛』だの『恋』だのはその分類に入る筈じゃん?
それにまず、大前提として論理を構築するためには言葉に落とし込む必要があるわけだ。
でも人間の作った言語というのは完璧じゃないから言葉に表せないあれやこれもある…と思う。
例えば、夜一人でスマホも何も持たずに布団の中に入って目を瞑ってる時。
ふと、哲学的なナニカに想いを馳せ…そして恐怖を感じる。
その時の恐怖や哲学の答えを言葉で表現出来る?
『それっぽく』書くことは出来るかもしれないけど、どうしても何か違うと思うのは私だけじゃないと思う。
そういうわけで言葉は万能じゃないわけよ。
だから論理構築が出来ないものがあっても当然、というわけ。
つまり、人の迸る
それすなわち、私が道端で自己紹介をしてもおかしくはないということを示すのだ!
「…まあいいや」
下らない自己弁護をしつつ、謎のハイテンションを抑えて普段通り登校する。
うん、至っていつも通り。
そう、現在は登校途中なのだ。
家から駅に行くまでにあるまあまあ急な坂を下りながらそんな事を考える。
途中で会ったアリスとセリアさんと一緒に駅に向かう。
最近実用化された線路のいらない魔法で飛ぶ電車に乗って5つ先の駅に行く。
「定期の更新しなきゃなぁ」
私が思わずこう呟いたのに反応しアリスが返答してそれにセリアさんが便乗する形で雑談が始まった。
いつものやり取り。
この学校に入って二人と仲良くなってから大体2年と半年。
実に30ヶ月も続いたありふれた日常。
そんな日常を謳歌しながら私達は学校へと向かう。
残念ながら学校では、アリスとセリアさんと私は全員違うクラスだから廊下で別れる。
一年と二年の時は全員一緒だったんだけどな…
いつもの席に座って朝礼の開始を待つ。マルケス先生が来て適当に朝礼を終わらせて…一時間目は…物理か。
◇
午前中の授業が終わる。と言っても明日からテストということに配慮したのか今日の授業はこれで終わり。
だけれど、中学最後の授業ということもあり、どの授業も少し湿っぽかった。
…私はそんなに哀愁に浸るタイプではないんだけど、それでも3年間という時間の積み重ねは心に何か来るらしい。
中学最後の数学は試験範囲が終わってたからなのか、それとも先生も何か思う所があったのか、雑談で授業が終わった。
嫌らしいことに、そして憎たらしいことにその雑談は無駄に『いい話』が多かった。
だから私も視界が滲んだりしたけど…まあ汗だよ汗。
その後はいつもの様に終礼が終わり、帰宅する時間となる。
運良く私のクラスが学年で一番終礼が終わるのが早かったのか、廊下に誰もいない。
この教室も後何回使うことになるんだろう。
後1ヶ月どころか、1週間もなく私の中学生活は終わる。
色々と大変なこともあったけど、総評としては『やりきった』という感想が出てくる。
私はこれから高校に行き、恐らく大学に入り、そして就職…
そして運が良ければ結婚なんてイベントもあるかな。
…ともかく、そんな人生を送るわけだ。
その長い長い人生の中でここの事を思い出す事は何回あるんだろうか。
ふと、小学生の頃を思いだそうとして、ほぼ覚えてないことを自覚する。
朧気な風景や印象は残ってる。
校庭や校舎の雰囲気、それに校舎の構造なんていうどうでもいいことは思いだせる。
でも肝心の物が思いだせない。
遊んでくれた『友達』の顔、そしてその内容なんかは覚えてない。
セリアは実家の家業を継ぐらしく、私とは違う専門学校に行く。
アリスはその頭脳を買われて海外の高校に行く。
仲の良かった二人ともバラバラになり、それぞれがそれぞれの進路へと進む。
一度別たれた道がもう一度交わるのは奇跡的な確率だろう。
そして後、数年経ったら。
高校生として学校を満喫していたら、もしくは大学生として学校を謳歌していたら。
この中学のことも小学校みたいに風化してしまうんだろうか。
そう思うと卒業が少し怖くなり…でも逃げられない物だともわかっているからせめてもの足掻きをする。
今もなお、帰っているクラスメイトの顔を覚えよう。
それが私の出来る細やかな風化への反逆だった。
…まだ学年末と卒業式があるのに、私は何を考えてるんだろうね。
そんな事を窓際でぼうっとしながら考えていると、他のクラスの終礼が終わったのか、アリスとセリアさんが出てくる。
「……ハナ、帰ろ…」
「私も置いてかないで下さい」
セリアさんとアリスのクラスも終礼が終わったみたい。今日は部活もないし帰ろうと思う。
いつも通り電車を使って…
む…?何か違う気がする。
この違和感は…忘れ物でもしたかな?
アリスとセリアさんに先に帰るよう言って教室に戻る。
そこで初めて異変に気付く。
おかしい。誰もいない。
それに窓から強く射し込む赤い太陽の光は、未だ午後1時にもなってないその時間と相反する。
それにこの時間に教室に誰もいないのはおかしい。
流石に試験前日とはいえ、いつもみたいに『駄弁る人達』はいる筈だ。
なら誰もいないのは…
…さては誰かの悪戯?
考えられる相手は…私の交友関係的にセリアさんかアリスしかあり得ないけど…
あの二人がそんなことするかな?
セリアさんはあり得ないとして…アリスならギリギリあり得る…かな?
…でもさっき別れたばかりだ。
仕込む時間もないはす。その論理は私のクラスが一番に終わった事が補強する。
…しょうがないか。頭を真面目に動かしていこう。
異世界脳内会…え?『異世界』ってどういう意味?
私の頭は知らない間に異世界なんて物を信じる程おかしくなってたのか。
確かに一次的に私は厨二病を患ってた時期もあったから異世界に行きたいなぁ、とか考えたことはあるよ?
でも厨二病は回復した筈なんだけどなぁ…
いつの間に再発したんだろうか。
私は少し考えるとために瞑目する──
──目を瞑ったその瞬間、
慌てて目を開けると、教室の全てが変わっていた。
いや、そういうと語弊があるか。
別に内装や黒板や机の位置は全く変わっていない。
変わっているのは唯二つ。
一つは、あれだけ眩しかった太陽の光が全て消え去り、優しく照らす月明かりのみが射し込んでいること。
そして二つ目。
視界のところどころに『ノイズ』が入ること。
まあ、要はだ。
夜…になってる?
ふと思い付き、教室の時計を見ると0時少し前に…なってる…のかな?
もしかして目が悪くなったのかもしれない。
時計の針がぶれて見える。
メガネにはあんまなりたくないなぁ。
いちいちかけたり外したりするの面倒そうだし。
クラスで飼っている『銅』と置物の『融合人形』を見ても特に違和感はない。
いつも通りの物をを見て少し落ち着いた気がする。
取りあえず私が単に寝落ちしたとか気絶してたという可能性に賭けて家に帰──
…ドアが開かない?
押してダメなら引いてみるしスライドもしてみる。
…私の記憶がぶっ壊れてなければこの扉は押して開けるタイプだった筈なんだけどなぁ。