『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
気付いたらこんな時間か…
「セリア、そろそろ時間が…」
「あ、夜ごはんの時間ですね」
え?
そして私は流れる様に夜ごはんの席に着かされた。
…って言ってもご飯中は喋らないから静かなんだけどね。
マナーは重要。
でも世の中にはこんな名言もある。
マナーは『正しく食べるためのもの』じゃなくて『楽しく食べるためのもの』ってね。
…まあでも静かな食卓っていうのも秀逸で雰囲気が良いから1ヶ月に1回ぐらいはあってもいいかな。
それにしても。
……ごはん美味しいです。さすが伯爵家。
アリス曰く貴族は見栄を張る生き物だから客人がいるときは豪華になる…って言ってたけど、それを加味しても美味しい。
あれ?ローズさん居なくね?もしかして王城で仕事してる?
なんか申し訳なくなってきた。
し、仕事だから仕方ないよね。
…仕事…仕事……私の部屋で一人で……
うん、気のせい気のせい。
きっとメイド仲間とワイワイ…はしてないだろうけど、皆で食べてるでしょう!
…後で訊いておこ。
さて…この食事場にいるのはセリアとセリアのお母さん、そしてお父さんの3人だ。そういう意味では貴族っぽくないなぁ。
貴族っていうと子供が沢山いたり、使用人が側にいたりするイメージかあるんだけど…
まあセリアの家だし貴族っぽくなくてもおかしくないか。
用意された食事を食べ終わって一息ついていると、セリアのお父様と視線が合う。
なるべく会話はしたくないんだけどなぁ…食べ終わっちゃった物は仕方ないか。
「ハナ殿…いや、カタセ男爵と呼んだ方がいいかな」
「お好きな様にどうぞ」
まだ正式には男爵じゃないんだけどね。
今、私が正式に持ってるのは宮廷魔術師第六席の称号だけ。
ちゃんと男爵になるには、なんか式みたいのをやらないといけないんだって。
「数日会ってないだけなのに大分立場が変わったのう」
まさか何処の馬の骨ともわからない一般Fランク冒険者が数日で貴族になるなんて思わないよね。
…今思い出したけど、最近ギルド行ってなくない?
今度機会があったら行かなきゃ。
「そ、そうですね」
ん?待って。
確か宮廷魔術師第六席って伯爵待遇だっけ。こんなにへりくだる必要なかったかも。
まあ一回こんな感じで始めたからこのままでいいか。
それに、もしもへりくだったことで相手方が高圧的な要求をするんだったら…うん、その時は変えればいい。
「それでお願いが一つあるんじゃが…」
む、言った側から…
まあ内容によるから一蹴は出来ないけど。
私にとって得がある可能性も十分にあるからね。
「何ですか?私がどうにか出来る事なら善処しますよ?」
『善処』…便利は言葉。
言質をとらせない…!
というか、私一回この人に言いくるめられてたんだっけ。
セリアをエネステラから逃して、そのお礼に学校に入ることに…
まああれは結果オーライだったからいいけど。
ならヤバそうなことだったら
「おおそうか、ありがたい。頼みというのはな…セリアを側仕えとして置いて欲しいんじゃ」
ほむほむ。
…セリアを側仕えに?
「…どうして?」
「王宮の侍女というのは謂わば女性にとって出世街道みたいな物だからな…」
あ、そうなんですか。
でもまあ良くある話だよね。
王宮侍女で上級貴族に見初められて、そのままゴールイン!みたいな。
いや、現実であるのかは知らないけど。
「それにカタセ男爵の側なら変な男も付きまい」
『まい』:打ち消し意思の助動詞…じゃなかった。
ああ、私は体の良い『厄介払い』ってことか。
勿論この場合の『厄介払い』はセリアを家から追い出したい…なんて意味じゃなくて、セリアに
つまり、この人が言いたいことは私を盾にしてセリアをそこら辺の縁談から回避させようってことか。
さて、散々言ってきた訳だけど私として諸手を上げて賛成したい。
セリアはこの世界に来てから最初の友人でもあるし、信用も出来る。
個人的に文句があるとしたら、セリアが美少女過ぎるせいで私がセリアの引き立て役にしか見えないことだけど…
そんなことを気にする質でもないので何も問題ない。
それにアリスなんていう
今更だよ、今更。
…そんな感情というか、私個人の意見とは別に、だ。
私はこんなのでも宮廷魔術師第六席。
つまり、この国で6番目に魔術が出来るといっても過言ではない。
…いや、過言かもしれないけど重要なのはそこじゃない。
国の防備を司る武力の象徴たる宮廷魔術師の一人だ。
『そんな』私の側仕えがどれだけ重要な立ち位置か、という話。
アリスにも言われた通り、周りに置く人は熟考した方がいい。
それは『私個人の問題』じゃなくて貴族、牽いては国全体の勢力バランスに影響を与えることになるわけだ。
そこまでのこと?って思うかもしれないけど、実際そこまでのこと。
今は年齢と出自的な関係であまり重要な仕事は任せられてないけれど、成長したら軍事関係の作戦や機密情報を沢山抱えることになるわけだ。
…実際には、成長する前に帰るからそうはならないだろうけど…端から見たらそうなることは確定してる。
そして側仕えというのは職業上の関係でそんな軍事機密やらも管理するわけだから…まあ、そういうこと。
だから私の一存で…というより私の感情だけで決めていいものじゃない。
…ところで自分の周りに置く人すら決められないって中々に面倒だよね。
やっぱ貴族は面倒…
さて、でも私としてはセリアを側仕え…というか近くに置きたいわけだ。
美少女に世話されるっていうシチュに憧れがある…っていうのもあるけど、主な理由としては気心が知れた人が周りに欲しいっていうそれ。
アリスはいるけど、あれは私の保護者みたいな感じだから。
ほら、両親に口出されたくないこととかあるじゃん?
…というわけで、私はこのティーミール伯爵にある程度脅しをかけながらセリアを引き抜かなきゃいけないわけだ。
「…成る程…」
折角だしアリス直伝の交渉術を使おう。
相手に対して余裕を見せて少しだけ微笑む感じで…
「それは良い考えだと思いますが…ねぇ…」
「私はご存知の通り成り上がりですのであまり暇じゃないわけですよ……」
暗に王城での権力バランス考えてる?っていう煽りを入れながら表向きでも煽る。
それに、ホントは暇じゃないどころか死ぬほど忙しい(予定)けど敢えて誤魔化して言う。
それに前半は事実だしね、後はドヤ顔ムーブして…っと。
「…意味はわかりますよね?」
「ふむ…なら王宮で便宜を計る…というのでどうだろうか」
「そうですね…それは魅力的な話をなのですが…何しろ私は宮廷魔術師になってしまったので…ね?」
ここで意図して含みを持たせて相手に問いかける。
宮廷魔術師第六席…つまり私の待遇は伯爵待遇…それは目の前の交渉相手と同じ事を意味する。
でも王城内では宮廷魔術師というのは軍事力を握ってる人の1人ということもあり伯爵より微妙に高い。
勿論領地では相手の方が高いけど。
それに私の場合最悪アリスの後ろ楯がある。
そういう訳で今私は虎の威を借る狐という諺を体言してる…みたいな?
そういやこの場にセリアいるじゃん、心証悪くなりそう…まあ今更か。
「…そうだな…一部の男爵や子爵の反発を抑える…でどう…」
「おっと今思い出しました。最近王都で変な物が流行っててそれで体調を崩す人が貴族中心に多いんでした。これはその治療薬です。セリア、これあげる」
そう言って私は薬(魔銅対策薬)を3つ渡す。これこそアリス直伝の交渉方法!
自分が満足できる条件を引き出したらそのタイミングで相手にその場で恩を売る。
「…ローズというセリアの姉がいるんだが…」
「あ、私の専属侍女ですね」
思わぬ所に幸運が。
追い討ちに追い討ちを!
致命傷に塩を塗り込んでから更にハバネロを投下!
「ぬ……なら伯爵家まで抑えよう…」
押さえられるんだろうか…まあ伯爵本人の口から出たんだ。
嘘とか不可能っていうのはないでしょ。
有言不実行は貴族にとって一番見栄を損なうことだからね。
「ありがとうごさいます」
「それでは、本日はこれにて…また近い内に」
「あ、その前に…」
そう言った瞬間セリアのお父さんが臨戦態勢になった気がした。
まあでも…一つだけ。
「第二王女様…いや、アリスは自分の側に置く人間に優秀でない人はいらないと言いました。だから…」
「一つだけ質問をします」
「…全ての物事の存在は疑うべきです。それが身近な物であっても…そう。例え自分の存在だとしても…」
「しかし、自分の存在はある事を思い付けば確実に存在するとわかります…さて、その証明方法とは何でしょう?」
格好付けて帰らせてもらおう。
全力で調子に乗っていけ?
…あ、これ明日恥ずか死ぬやつだ。