『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
それは全てが寝静まる深夜の事だった。
それは私が魔法で創る追憶の世界でもなく、試練がもたらす偽りの真夜中でもなく、正真正銘現実の深夜。
私はアリスの声で目を覚ます。
「…ハナ…起きてる…?」
起きてる、と返事をすると少しだけ宿の外に行こうと誘われた。
セリアの方を少し見るとアリスが起こさないでと目で訴えかけてきたのでベッドをそっと抜け出す。
アリスが意味もなくこんな夜更けに起こすわけないから、『何か』があるのだろう。
それにセリアは関係ない…つまり、私関係のことか。
…時間帯的にはまだ日付変更前かな?
夜の街は私が『追憶の世界《ロスト・ワールド》』で作った世界とは違い灯りもほとんどなく、遠くでぼんやりと光る灯りは歓楽街の物だろう。
そんな風情かあり…そして、現実味溢れる中世の街並みの中心、いつぞやの広場までアリスは私を連れてきた。
「こんなとこまで出てどうしたの?」
アリスは周りを見回して誰もいないかを念入りに調べた後、何やら魔術を使って周囲に音が漏れないようにした。
「…深夜に連れ出した事は謝る。ごめん…」
深夜の話し合いはそんなアリスの謝罪から始まった。
舞台は異世界に来て19日目の深夜。
意外かもしれないけと、あのセルグヌと戦ってから一週間も経っていない。
「…それで本題は……」
私が本題を切り出させようとする。
するとアリスはそのタイミング読んでいたかの様に被せて答える。
「この世界とハナの世界の事」
…この世界、か。
私風に言い直すなら異世界、もしくは魔法世界…そうでもなければ
魔術に溢れ、剣弓で戦い、貴族蠢く『
ここに来てからまだ3週間経ってない。
けれど逆に言えば、もう2週間は経っている。
2週間…14日、336時間…つまりはもうそんなに経過してる。
もし
「…ハナにとってこの世界は軽い物かもしれないけど…」
図星をつかれる。
まさに今考えたのは異世界の事に見えてもそうじゃない。
異世界…から帰った後の心配だ。
「私やセリアは勿論、ここで生きて生活してる人達からしたらとても重い物」
「わ、私は別にこの世界を軽いだなんて…」
でもそれはそうとして、私はセリアやアリスを軽くは見てるわけじゃない。
この世界の人をNPCだとは思わないし、それにアリス達は私の───
「それは勿論判ってるから少し聞いて…」
頭を回転させるのを一次中断し、アリスの話を聞く態勢を整える。
「『カタセ=ハナ』という存在はこの世界にとって本来は異物である…これはわかるよね?」
そりゃあ
「…つまりハナはこの世界に存在するべきじゃない」
…元の世界に帰れってこと?
帰り方もわからない状態で?
アリスは何を───
「…なのに…それなのにハナはこの世界にいる人達に必要とされてる」
─────っ。
「セルグヌ領にいる人々はハナの活躍を知ってる」
「王宮にいる上位貴族や王族達もハナを認めている」
「騎士達も模擬戦を通じてハナを歓迎していた」
「…そしてセリアや私もハナを…花奈を必要としてる」
それらは、私がこの19日を使って築き上げてきた『信頼』の塊だった。
『信頼』されている…か。
「…そう。ハナはこの世界に来てから1ヶ月も経ってないけど色んな人に必要とされてる」
それはありがたいこと。
私みたいな人を『信頼』してくれる人があっちとは違ってこんなにいるのだから。
「でもこの世界にとって異物である…つまり
そう、それは私が『異世界転移者』の称号を背負う限り定められた運命。
「ハナが居なくなっても人類という種族や時間は無情にも問題なく進んでいく…」
そこでアリスは今までの語る様な口調を反転させ、私に訴えかける様に話す。
「でも私達は?私達個人はどうなの?ちょっと範囲を広げてこの国はどうなるの?」
普段のアリスからは考えられない位、矢継ぎ早に責め立てる。
「ハナは既に宮廷魔術師第六席という国中の魔術師の憧れの地位にいる。そんなハナが突然…言い方を変えると、突然国の武力の象徴である宮廷魔術師が消えたらこの国はどうなる?」
………。
「最低でも国としての軍事力は落ちるし国民全体が落ち込むかもしれない」
再びアリスは口調を変える。
今度は訴える様にでも語りかける様にでもなく、独白する様に話す。
「そして私やセリアの未来を変えながら…国の運命すらも変えながらハナは…ある意味
確かに無責任かもしれない。
勝手に成り上がって、勝手に地位を拐って、勝手に国を荒らして……好きなだけ壊して、それで帰る。
『異世界転生』と『異世界転移』の最大の差違はここだろう。
勿論『異世界転移』で元の世界に帰ってからもう一回ここに戻ってくる…みたいなパターンもあり得る。
でもそれは不確定な未来だし、そもそも転移要因も方法も何もわかってない今、考えるべきじゃない。
「この世界に来てまだ1ヶ月経ってない」
そう、これだけやらかしながら私はまだ19日目。
もうすぐ日付が変わり、20日目になる。
「1ヶ月すら経ってないのにハナが今、帰っただけでこんなにも国に影響が出る」
つまり、だ。
「そしてこれからも政治に…この国に関わり続けるなら…その影響は際限なく広がる」
…そういうこと。
私はここにいればいるほど無責任さが増していくわけだ。
…異世界に来た最初から引きこもっていれば良かったんだろうか。
そもそもなんで私は貴族と…ああ、天整統の遺言目当てだった筈。
ならもう
でも。
「例えば、明日か明後日王都に帰って父上に一連の事を報告するとする。そうしたらハナは一躍この国の英雄だよ。
そして、そうなったらもう最後、ハナはずっと英雄でいることを望まれる…必ずその期待を裏切る時が来ると判ってるのにね」
それは誰への言葉だろうか。
私のみに向けた言葉とは思えない『重さ』がある。
「…英雄になるのも英雄をやめるのも凄く簡単。少し活躍したり一回助けなければいい」
全てを救い、人類を存亡の危機から解放した英雄も平和な世界では不要になり、権力の強大化を恐れた貴族達によって処刑される。
「でも、英雄で居続ける事は尋常じゃない難しさだよ?…この魔銅に関してだけでもここまで影響が出る。こんな感じで人気や影響が出て…」
アリスは私のことを心配してくれているのだろう。
私の心が弱いことに気付いて、期待でつぶれない様にしてくれているのだろう。
──一瞬でもこの国に縛り付けるために話してると思った私が恥ずかしい。
「時間と共にハナは余計に帰りにくくなる」
ああ、そうでしょうね。
「今なら未だギリギリ間に合う。欲しいなら屋敷でも爵位でも年金でも用意できる。それで帰る方法が見つかるまで隠居すればいい。勿論…私も、帰る方法を探すのは手伝う。だからそうやってひっそり暮らせばいい」
「夢のない事を言うようだけど…ここがこの世界での生活の最終分岐点」
「ハナは『
…そういうこと。
自慢でも自意識過剰でもなく私の魔法や知識はこの世界に影響を与えるだろう。
そうして私が影響を与えるだけ与え続けて最後には無責任に元の世界に帰る。
こっちの人からした迷惑以外の何物でもない。
だからこれは異世界からの最終警告でもあり…
私と異世界の関係性を決める重要な分岐点でもあるのだろう。
でも、それでも。
昔ならそうは思わなかったかもしれないけれど。
「私は…それでもアリス達と一緒にいたい」
私の確固たる意思を伝える。
「最初は異世界の人なんて利用するだけして早く帰ろうと思ってた」
「でもアリスみたいな親友が出来て。この世界の色んな人と関わって。利用しようとは思えなくなったし、思わなくなった。
それに最近はアリス達と話してると、時々元の世界よりこっちの方がいいのでは?なんて思う時も出てきた」
「だからこの世界にとって例え迷惑だろうと悪影響しか出なくとも…」
「傲慢にもこの世界と関わり続ける!」
私は異世界転移物で異世界転移する主人公そのものなんだから…
アリスには伝わらないかもしれないけどこれは私自身への宣言だ。
「主人公が傲慢で何が悪い!」
「アリスや世界を巻き込んで私が望む物語を紡いでやる!」
ここで隠居を選んだらそれはそれで安全な世界が有ったのかもしれない…でもそんな未来は私は遠慮する。何故なら…
異物だろうと迷惑だろうと私は!今、正真正銘この世界の住人、
この世界を謳歌する権利がある!
だからこの世界を骨の髄まで存分に楽しませて貰う。
「…これは最終確認。
「私はこれからもこの世界に影響を与えまくるしアリスやセリア達にも影響を及ぼしまくる。覚悟してといてよ!」
「…なら…本当の意味で今後ともよろしく。ハナ」
「私こそよろしく」
これが私の『異世界転移物語』。
「…改めて自己紹介する」
全てを仕切り直して、エピローグから始めなおす。
そんな意思を込めて『自己紹介』をする。
「アリス・フォン・トラウィス、15歳。トラウィス王国の第二王女にして現在この世界最高の頭脳を持つ『稀代の大天才』であり特殊職業【大賢者】。出身地は『
「片瀬花奈、同じく15歳。異世界転移者であり恐らくこの世界で唯一【◼️トラ◼️・オ◼️◼️ス】という神ですら効果はおろか名称すらわからなかった
「「
────その瞬間、日付を跨ぐ鐘の音があたりに響く。