『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
◇◆アリス・フォン・トラウィス視点◆◇
私は朦朧とする意識を支えながら自分の部屋の扉を潜る。
「…はぁ…はぁ…」
滅多に漏れないような声が漏れるが、そんなことを気にしている余裕はない。
この部屋には誰も入らない様に厳命したから、幾ら醜態を晒しても問題ない。
…実を言えば、ハナがあの時計を使ったころから限界に近かった。
それを気合いと理性で押し込めて今に至る訳だけど…
…大丈夫そうではあるか。
軽く溜まっている問題を考えて見るが、私が抜けてももんだなさそうだ。
これで安心して意識を手放せる。
普通は耐えきれずに意識を閉じてしまうであろうこの虚脱感。
これは間違いなく試練によるものだ。
ふらつく足取りでベッドに横たわり、ゆっくりと目を閉じる。
《魂の位階の成長を確認!》
《試練生成中…》
《『劣等の試練』…開始!!》
劣等…そういうことか。
文面と状況、そして試練の生成条件から鑑みると能力の制限が課題だろうか。
ならその場その場で対応…違う。
これはきっと……
そこまで考えた所で意識が完全に途絶える。
◆
私は起きて当たりを見回───
そう考えた瞬間に脳に猛烈な痛みが走る。
襲い続けてくる痛みに耐えながら…っ。
そういう、こと。
考えるのを許さない、凡才であろうと天才であろうと考えさせなきゃ変わらな──
抑え切れない痛みに思考を手放す。
◇◆ 視点◆◇
『脳を使うと激痛が走る』
この試練における試練を身を以て体感した彼女は考えることを早々に諦め、何も考えずに本能で動く。
如何なる天才と言えども思考がなければその行動は原始の人類に戻るのか。
されど賢者は、天才は『天から恵まれた才があるからこそ』その称号を貰い受ける。
ならば思考なんて過程がなくとも、まさに天からの啓示の様に自然と最適解を選べる者こそが天才なのである。
彼女は気の赴くままに、何も考えずに迷路を最短の道を以て抜け、次の道へと進む。
ならば天からの啓示、即ち天啓がなければ如何なる者も天から見放されるのか。
それは否である。
時には泥臭く考察し、必死になって努力する者もまた、天才であろう。
何も天才とは常に余裕を持ち、全てを見透かす必要はないのである。
常人には気の遠くなるような作業を、苦痛を乗り越え、それを悟らせない者も『天より認められた才』を持つ者である。
彼女は試行錯誤を繰り返す。
本来ならば数秒も掛からずに終わる作業を考えずとも体が理解するまで幾万も幾億も繰り返し、文字通り我が物とする。
妄念にも匹敵するその執着を、積み重ねを越え、その作業を終える。
天才とはその数だけ語義が異なる。
ある者は人ならざる努力を以て、ある者は天からの啓示を以て、ある者は自己研鑽の積み重ねの末に、ある者は……という風に。
では、【大賢者】とは何者なのだろうか。
何処かの言葉を借りるなら、ありふれた異世界職業であり、魔法操作を極めた者だろうか。
それとも国一番の知恵者に与えられる称号だろうか。
この
『不思議之住人』や『鍛治王』、ましては『軽戦士』や『予測者』とは異なる職業。
その本質は【勇者】や【救聖女】、【教皇】などと同質のものである。
天より…いや、
何の証明のために存在し、その
天を戴く秘された存在、その片割れである『秘天の一欠片』。
それが何を指すのかは五柱の『神』のみが知る。
【大賢者】とは全ての
───入祭曲より安らぎを与える。
◇◆アリス視点◆◇
粗方その場にあるものが片付き、することがなくなる。
思考なしで無から有を創造するのは不可能だと思い、試しに『思考』という行為をしてみるが激しい頭痛や行動阻害はなくなっていた。
試練の終わり?
…そんなことはないはず。
もし終わりなら『合図』が来る筈。
私はそこで初めて魔術を使おうと思った。
無意識かつ無思考で魔術を使う、というのは基本的に不可能なので今まではその選択肢にすら上がらなかったのであろう行為だが、思考の出来る今ならば違う。
「『
使いなれた魔術を使おうとするが発動しない。
「『
念のため威力の高い魔術や属性の違う魔術、そして複合魔術を使おうとしてみるが使えない。
もしかして。
私は全力で走ろうと足に力を入れ、腕に力を込めてみる。
すると驚くべきことに全く力が入らない。
それこそ私のレベルが0になってしまったかの様に。
確認のためにステータスを開こうとするが、一向に開く気配がない。
どうしてだろうか。
慌てた所で状況は解決しない。落ち着いて理由を考察しよう。
…まずは魔術の発動禁止についてだ。
先程の検証から属性や威力に関係なく魔術が使えないことがわかる。
つまり、『魔術』という概念自体が封鎖されていると考えるべき。
そしてそれを為すためには…『魔術の元』、前にハナが言っていた魔素をなくすのが楽。
つまりこの空間には魔素がない、又は魔術が発動できない程魔素が薄いと考えられる。
それはつまり物理法則のみがこの世界を縛る、ということだが…今までやってきた物の中に魔術や魔法が
関係していそうなものはなかった。
だから私に異常があるのではなく、この空間に異常がある、つまり空間自体に魔素がないという認識で構わないのだろう。
ステータスは…そういうことか。
この世界で産まれた者は誰しもが産まれた瞬間からステータスを見れるから人類に元々備わっていた技能だと考えられていたが…
いや、推測はやめておこう。
取りあえず確定したこととしては、『ステータス表示』という現象も魔術によって引き起こされていた、ということ。
そしてステータス表示にはmp消費がないことから、極僅かな魔素で発動できると考えられるが、それすらも発動出来ないとなると、この空間は魔素がないと考えた方がいい。
だから───
その瞬間に空間が罅割れ、剥き出しの虚無の空間がその狭間から覗く。
何が起きた?
まるで許容量を圧倒的に超えたかの様に試練が崩れる。
『──關難スオ陷茨ス・髢???驕抵スコ髫ア』
全てが壊れたかの様な
その状況に直面した私は一歩も動けずに固まっている。
何故なら、崩壊した空間に
本の様な物を持った人間らしきものが現れる。
いや、それは────