『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
───人間じゃない。
人間の形をしていても、それは人ではないことがはっきりとわかる。
『ふむ…『侵入者の確認』と言った所だね』
しゃがれた様で幼い、そして男性とも女性とも取れない…いや、全てを併せ持つ様な声でそれは話す。
老若男女数多の人間の声を合成して平均化した声…というのが判りやすいだろうか。
それでも判りにくい表現ではあるけれども。
そして肝心の内容だけれど、それは恐らく先程のアナウンスの意味なのだろう。
つまり、そこから汲み取れる意図は、目の前のそれが『侵入者』ということ。
異人を拒み、一人で完遂することを義務付けられた夢幻の空間に『侵入』出来るそれの実力は測るまでもない。
圧倒的威圧感と不気味さを併せ持ち、それでいて軽い口調で未知の…というより壊れた言語を解読するこの存在。
『【
私は自分の名前は愚か
鑑定の類いかと思うが、この魔素の存在しない空間で魔術魔法が使えるとは思えない。
気軽な口調で問いかけられたがそれに対して何と返答することが正解だろうか。
間違いなく、時間を掛けるのは不正解だとわかる。
その上で如何に適した解答に持っていくかだが…
『うーん。やっぱりこの人、僕の担当じゃないと思うんだけどなぁ』
『担当』?どういうこと?
『それ』から言われた言葉から逆算すると、『それ』が担当するべき存在もいるということになる。
それに『これ』と同格の存在が複数いる可能性がある?
いや、確定したわけじゃない。
『これ』本人が来るまでもない、という意味の可能性も勿論ある。
だから…
流石に時間を掛け過ぎたかもしれない。
聞かれてから実時間は5秒も経過してない筈だけど、体感時間は優に5分を超えている。
「私もそう思います。『
私は相手の正体を予測した上で伝える。
恐らく合っているとは思うけど…
『おおう?僕の事がわかるんだ。流石だね』
まずこの試練に気軽に介入してきたこと、そしてこの試練を無理矢理上書きしたこと。
その2つから『神』に…それも『上級神』に分類されるであろう生物なのはわかる。
そして私の名前な職業、それに
そして私が『考えている』のを見て、『担当じゃないのでは?』という趣旨の発言をしたことからウィズダレール様一択になる。
そして、最上級神ではなかった場合は私の卑屈さや矮小さを全面に出して哀れみを貰う予定だったけど…その必要はなかったらしい。
『やっぱり、あっちの担当じゃないの?君』
…そう言われても私が何か干渉できる訳ではないから黙っていることしかできない。
『まああっちは先約がいるみたいだししょうがないか』
待って。
今なんて言った?
レコグニセラス様に『先約』がいる?
つまり予め決まっていた人が───
『まず』
軽めの口調を辞め、真面目な口調へと変わる。
唯それだけの行動で世界全体がその変化を受け止めざるを得ない。
一挙手一投足、その行動全てに強制力と威圧が込められている。
恐らくこれでも抑えている方なのだと思う。
『今回みたいなのは特別だ。わかってるとは思うけど一応ね』
最上級神が出てくることが特別じゃなかったら何を特別とすればいいのか。
それに態々試練途中に入ってきた時点で異常かつ特殊な状況だというのはわかっていた。
『僕達は表には出れないからね。それでだけど…』
表に出れない。
つまり、こういう夢や試練の最中じゃなければ干渉出来ないということだろうか。
いや、そんなわけない。
最上級神とも言われている存在が『出てこれない』訳がない。
現実としては『出てこない』が正解だろう。
ウィズダレール様が出てきただけでこの試練の空間が壊れたんだ。
もし現実世界で出てきたら、間違いなく世界は崩壊するだろう。
だからこういう場所でしか出てこれないのだろう。
『まずは試練を壊したお詫びをさせて欲しい』
畏れ多いとか色々な感情が複雑に入り交じるが、恐らく私側に拒否権はないのだろうし、気持ちなんて微塵も籠ってない形だけの謝罪だ。
それでも『最上級神』に謝罪をさせた。その事実はとてつもなく…それこそトラウィス国全てと比べてもよっぽど重いものなので私は無言で頭を下げる。
『わかってるね…まあお詫びは単純だ。この試練で得る筈だった物に多少細工をしておいた』
それがどんな細工かは全くわからないけれど、言い方から悪い意味での…というよりも、デメリットしかない細工ではないのだろう。
そして最上級神直々の『細工』だ。
正直性能や効果が気にならない訳ではないが、そもそもこの
そして謝罪が終わったということはいよいよ本題に入る。
どんな内容なの──
『そんなに焦ることない。本題も簡単な話だ。『援助しとけ』だってよ。だから『援助』しといた。その報告だけ』
──今、なんて?
『物のついでだ。サービスもしよう。何か一つだけ質問を許そうじゃないか』
…整理しなきゃいけない情報が洪水の様に溢れて出てくる。
まず、最上級神であるウィズダレール様に『援助しとけ』と命令出来る存在がいること。
恐らくそれはマギラフ・ルグエの遺したメモにもある『創世神』だろう。
その存在についても聞きたいが、落ち着こう。
知恵の神たるウィズダレール様に物事を聞ける機会なんて普通は二度
その手に持っている本の名称?
それとも司る権能の詳細?
聞きたいことは半無限に出てくるが、それを一つに絞る必要がある。
それにここで聞く必要がない、もしくは後で時間を使って考えればわかりそうなことは聞く必要がない。
ウィズダレール様に訊くということは知るという過程やその道中にある全てを無視して答えに辿り着く様な物だ。
だから────
「何故、その様なことを人に問うのですか?」
私はそう質問する。
あらゆる叡知を司り、万物を識るとまで言われている知恵の神。
その神が何故こんな『知識の習得』への冒涜の様な行為をするのか。
それが気になった。
『面白い…面白いじゃん、君。前言撤回だ。やっぱり僕の担当で間違ってなかった』
感心したかの様に言い、開いていた本を閉じる。
そして私と始めて目が合う。
そして、その鈍色の視線が私の目を貫く。
『改めて自己紹介しよう。僕の名前はウィズダレール。まあそう呼ばれてるだけで実際は『
ほんと、人類の名付け癖には困ったものだよ。と言いながら肩をすぼめるが、それに対して私はどう反応したらいいのだろうか。
『ちなみに僕の権能…というか能力は基本的にこれだけだ』
そう言いながら宙に浮かぶ本を指差す。
そんな軽く本を指すが、その本にどれだけの知恵が、情報が詰まっているのか判ったものではない。
『この本自体に名前があったりするわけじゃないんだけど…そうだね…』
そう言って顎に手を当てて考える。
『ああ、そうだね…『
もしかして私は凄い場面に遭遇してしまっているのかもしれない。
いや、最上級神の名付け現場を見るというのは異常かつ珍しいことであるのは間違いない。
それで…
『そうそう、さっきの質問の答えは見極めたいから、だね』
見極めたい?
…そういうことか。
安易に『これが知りたい』とか『あれが知りたい』っていう知識の習得の過程を重視しない愚か者を排除するための質問か。
…それだけではない気がするけど、今の私ではその深謀全てを覗くには『知識』が足りない。