『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
◇◆アリス視点◆◇
「あ、…あれが?」
ハナは狼狽え、困惑する様し…すがる様に私に訊く。
…おかしい。
確かにこれには国を象徴する威圧感とも呼べる雰囲気はある。
でも逆に言えば、それだけだ。
これが直接戦闘力を持っているわけでも何かの意志が取り憑いているわけでもないだろう。
確かに何の魔術も使わずに中に漂うこの光景や、それに付随する周りの寂れた景色からは
それは認めよう。でも、ハナが怯える様なもの?
仮に、ハナが『幽霊』の類いの心霊生物を苦手としていると仮定しよう。
あの類いの恐怖の根源は未知にあるものであり、一方これは間違いなくそこに浮かぶ球体が原因だとわかっている。故にそれに対してこんな反応をするのは過剰だ。
そもそも魔銅関係の事件や
なら逆に言えば、そんなハナが困惑し、恐怖するナニカがこれにあったわけだ。
「…これが象徴…どうしたの?」
そんなハナに対して敢えて『普通に』答える。
どうやらハナは『
『孤神の球体破片』はこの国の王族に代々伝わる物で天整統の頃から在った物だと記録に残っている。
その記録では色々と濁しているけれど……待って。やっぱりおかしい。
ハナの様子が何か変…異常だ。目が虚ろだし、膝が震えている。そして口からは異音が漏れ…
「…大丈夫?」
とても大丈夫ではない様子だが思わず訊いてしまう。
勿論その返答は沈黙か否定だろうから先に原因と対策を考える。
…返事がない。普段のハナなら『大丈夫だよ』みたいなことを言ってくるはずなのに。
眠気…ではないと思う。でも一応確かめてみる価値はある。
そんな思いから『
「『
そう唱えようとした瞬間、今まで微動だにしていなかった『孤神の球体破片』が変化を見せる。
それは螺旋状にうねり、全てを呑み込むが如く黒く染まる。それは禍々しくも美しく、全てを魅了する様に……いけない。何かはわからないけれど、呑まれない様にしないと。
それにどういうこと?
今まではこんなことなかった筈…もしかしてハナのいた異世界とこれには何か関係が?
それともハナ個人の問題?これが人を選別するような記述は残っていないし、適当な人で実験してもこんなことにはならなかった。
何が─────
「《三点再臨》」
え?
猛烈な痛みとドロリとした液体の感触を腹部に感じる。
「…っ、」
声に成らない声と共に口の中に血の味が広がる。
そして自分の体に三本の銅の槍が突き刺さっていることに気付く。
「…これは模擬……戦の…?」
そして遅れながらも痛みが襲ってくるが…そんなことはどうでもいい。
条件反射的に『詠唱破棄の心得』を使いながら『
ハナが私を攻撃する理由?
確かに多少の不平不満なら溜まっていたかもしれない。
でもここまでやられる理由はないはず。なら原因は…
私は
「あはっ」
そう言ったのは本当にハナなのだろうか。
声から考えても、口の動きから考えても確実にハナからだと
「アハッ」
表記に直すなら先程と同じ…でも質の違う狂声が寂れたこの空間に響く。
それは紛うことなく、『歓喜』に…『狂喜』に満ちた声であった。
先程の恐怖と混沌に染まった狂気の声ではなく、明らかに嬉しさが滲み出ていた。
何かから解放され、解き放たれる様な…そんな声。
もしかして私がハナを抑圧していた…?
そんな疑念は後に回して、目の前の急な出来事に対応するための行動を取る。
距離をある程度取り、一息…文字通り一息付く。
すると『孤神の球体破片』からハナに向けて何かが…そう。『何か』としか表現出来ないモノが移る。
やっぱりあれがハナの狂気の原因か……この際理由とかは一回置いておこう、
兎に角今するべきことは目標の優先度設定。
それが出来なければ出来ることも出来なくなる。
…第一目標はハナを正気に戻す。
次に『孤神の球体破片』を異常な状態から元に戻す。
自分の命なんてこの場面では重要度がかなり低いということぐらい直感でわかる。
私程度の魔術師何かが気を抜いたら殺される。
取り敢えずハナを止めよう。
普段や今日の模擬戦のハナみたいな甘えは一切期待しない。
全
つまり私も全力を出さないとダメってこと!
「『楯護要塞』!『
これでこの空間に罠は張れなくなり、私のvitは暫く5倍になる。
その上2000ダメージまで耐えられる障壁も5枚張る。
そしてこの空間において私の全魔法の効果は2倍になる。
そして…
「私は世界を観測する者である」
私は切り札の一枚を切るために詠唱を始める。
ハナの手札的に魔術が封じられれば大分手数が減る筈。
その分呪域や神域、そして『
そもそもそんなのは封じる前から対策しなきゃいけないんだから変わらない。
「《三点再臨》」
魔銅の手は私の目にも止まらぬ速さかつ複雑怪奇な軌道を描いて飛んでくる。
普段のハナの制御力なら不可能な芸当だ。
速さも判らなければ、軌道も読めない。私からわかるのは方向転換時に僅かに残る残像と…
ハナの 《三点再臨》 により放たれた銅手の1本を障壁の1枚と交換に無効化する。
…当たったタイミングから類推される速度、加速度、曲がり方位だ。
「世界最高の叡知が諸君達に伝授しよう」
一度喰らった技をもう一回喰らう道理もないのでさっきの速度と曲がるタイミングを
「これこそが世界の叡知の一部」
「大いなる書庫の知恵が一つ」
壁を突き破り、魔銅の手が出てくるが…それぐらいは読みきれてる。予め出現箇所を予測し、そこから身をずらすだけ。
そうするだけで簡単に回避できる。
しかし、これは槍ならず手である。だから『関節』を駆使して曲がるだろうけれど…もう問題ない。
「『
私から虹色の魔力が散らばりこの庭園を満たす。
これで敵味方関係なくあらゆる魔術を掌握下に置く。それが
不可思議の国の王にして、まさに絶対支配者たる権能。
しかし、王権というものは常にそれ以上の
つまり、この魔法は格下である魔術は完全掌握できるが、同格または格上である魔法は対処不可能である。
私の『
こちらの魔法は幾ら魔法と言えども低リスク中リターンだ。
それに対してハナのあれは高リスク、超高リターン魔法。
だから流石に無理だろう。
そんな予測を立てながらもひとまず魔術を牽制出来る様になったことで一息付く。
普通はこれで完封出来るが相手が相手。
当たり前のことだけど、まだ油断はできない。
「《三点再臨》」
伸びる3本の魔の手の主導権を奪い、互いを互いに衝突させ無効化。
これで恐らく魔術を使ったら利用される、ということは悟られただろうけれど…