『少女世界攻略記録』   作:100110110011(2)の民

93 / 162
91◇脊髄反射的隠蔽となごやかふれんず

 

 

模擬戦が終わってシガムさんの能力を知った今、最初からどんな最善手で突っ込んでも負けが確定していたことに気付き、微妙に萎えているとシガムさんが話しかけてきた。

 

「良い試合だった」

 

…本当に良い試合だった?

思わず口からそんな台詞が出かけるが、疲れと萎えで口が動くことはなかった。

そのかわり口から出たのは、こちらこそ、という平凡かつ私としては何とも言えないものだった。

 

「それでどうでしたか?」

 

そうだった。無意識的に口から台詞が出てきたけど元々この戦いは私が天才だとか秀才だとかの話が原因で生まれたものだった。

…というか全力を尽くした上でここまで明確に『負けた』のはこっちに来てから初めてじゃない?

追憶の世界(ロスト・ワールド)』御披露目の時のゴタゴタ試合は引き分け?みたいな感じだったし、学校の試験でのアリスとの試合はお互い死ぬほど手加減してた。

初エネステラことエフェミルドールは確かに負けてたけど本当の意味で『全力』を出す前に乱入されたし。

…まああの時に乱入がなかったら詰んではいたけれど。

話が逸れた。それでシガムさんの反応は…というか判断は如何(いかが)で?

 

「不思議な人もいるのだな」

 

…?いや、言えよ。

そこまで言うなら早く結果言えよ。

 

カルシウムが不足してるからなのか、試合で疲れきったからなのか脳内の口調が多少荒れているのを自覚しながらも答えを待つ。

 

「ハナ殿は第二王女と同じだが、儂と同じでもある。…そう感じたな」

 

はぁ…つまり、天才かつ秀才ですか?

いやまあそんなことはないだろうから…

まあよく言えば努力出来る才能保持者、悪く言えばどっちも中途半端ってところなんだろう。

 

…アリスみたいに天元突破してる才能があるわけでもシガムさんみたいに努力……うん?

 

「セリアを知っていますか?セリア・ティーミール」

 

ふと、セリアの回りの評判が気になったから聞いてみる。

いや、アリスが天才なら私的には秀才といえばセリアだなって思っただけだけど。

 

「セリア嬢…ああ、知ってるぞ」

 

…どういう基準で『嬢』と『殿』を使いわけているのだろう。

アリスは第二王女で、私はハナ殿で、セリアはセリア嬢…まあ気にしたら負けな気がする。

もしかしなくてもこの三人の中では一番女性としてみられてないのでは?

別にいいけどさ。

私の女性としての評価よりもセリアの評判の方が数百倍重要なので今までの考えを雑念として処理しながら話の続きを聞く。

 

「才媛として有名だが…儂としては努力家のイメージが強いな」

 

いや、よく知ってるなシガムさん。

もしかしなくてもストーカーかなにか?

 

「そんな疑う様な目を向けるでない。貴族なんてお互いの家の使用人を買収し合って情報を掴むものだぞ」

 

貴族ってやっぱりやだなぁ。

もうちょっと華やかで平和な貴族を望んでるんだけどなぁ…

要は密偵を送り合うわけでしょ?

まじで魑魅魍魎深謀遠慮の地獄絵図じゃん。

まあ私の場合、使用人…というか私の情報を知りうる人がセリアとローズさん、そしてアリスしかいないから安心だね。

しかも本当にやばい情報はセリアとアリスにしか話してないから余計に完璧!

交遊関係の狭さに助けられて嬉しいような悲しいような…まあいいや。

 

「…終わった?」

 

そうこう話しているとアリスがこっちに寄ってくる。

 

「見てた?」

 

「…全く」

 

つまり、完敗したことはまだバレてない。

まあ完敗したのがバレたところで何か問題があるわけじゃないんだけどさ。

そういうものじゃん?親友に情けない姿見せたくないって当然のことだよね?

 

…はいそこ、もう既に手遅れとか言わない。

確かに散々情けない姿晒してる気がするけど、まだ挽回できる。何を挽回するのかもわからないけどまだ挽回出来る筈だから…

 

「でも負けたでしょ?」

 

余裕でバレてたわ。

というかアリスは私の能力もシガムさんの能力も知ってるからそりゃわかるか。

 

「うん、完膚なきまでにやられたね」

 

こういう時は逆に開き直るといいって日本書紀にも書いてあった。

 

「…エールハム、それじゃあ」

 

…?

それだけ言うと、アリスが手を引いてシガムさんの家から退散させられる。

 

「あ、模擬戦ありがとうごさいました」

 

アリスに引き摺られながらも、一応お礼は言っておかなきゃいけない使命感に刈られて頭を下げる。

え、ちょっと待って、どこに連れてくの…

 

 

はい、現在シガムさんの家と王都の間の道にいます。

のどかな平原と平和な夕焼け。そして遠くに見えるは王宮の───

 

「…大丈夫?」

 

アリスが心配してくれるなんて珍しい。

…何が『大丈夫?』なんだろう。

なんか不安だったりすることは…

 

「気張らなくていい」

 

そう言ってアリスは頭を撫でてくるけど、それ子供あつかい…

 

「…普段に比べると覇気がない」

 

いや、普段から覇気でてないよ。

そんな超人してないよ。

 

「そう?割といつも通りだけど?」

 

「…言葉にトゲがある」

 

カルシウム不足だよ、カルシウム不足。

こっち来てから牛乳とか飲んでないし…

 

 

◇◆セリア・ティーミール視点◆◇

 

何とか眠気に耐えきりました…!

授業中は集中していたので眠くはなかったのですが、休み時間がとても辛かったです。

このまま寝てしまいたい気持ちはありますが、今日はヘスティアさんとテレスさんと三人でお茶会をすることになっています。

 

ヘスティアさんは公爵令嬢様なのに、私にも丁寧に対応してくれるいい人ですし、テレスさんは王都一の鍛冶屋の娘さんなんですよ!

二人とも人としての器が広くて尊敬出来る友達です…!

ハナさんは今日、先代宮廷魔術師様に会いに行くらしいですが…側仕えである私が立ち会わなくてもいいのでしょうか。

一応アリスさんに訊いておきましょう。

 

「アリスさん、私もハナさんについて行った方がいいでしょうか」

 

「…大丈夫、私が付いていくから心配しないで」

 

「わかりました」

 

お気遣いありがとうございます、と言って軽く一礼してからヘスティアさん達の所へ向かいます。

 

「すみません、遅れてしまって」

 

「気にしなくてもいいですわ、私達の仲ですもの」

 

そう言って私を気遣ってくれるのが、ヘスティアさん。

キョウイン公爵の二女で、既に実地で領地経営を学んでいらっしゃるそうです。

改めて考えると、この年齢で領地経営を学ぶ、なんてすごいですね。

この学院の勉強も楽ではないのですから。

 

「セリアさん、は気にしすぎ、です」

 

テレスさんは幼い頃から鍛冶一筋だったらしく、人と話すことにあまり慣れていないそうです。

その甲斐があって…というべきかは悩ましいところですが、お父さんから跡継ぎに使名される程鍛冶が上手いんですよ。

だから背は私より小さいですけど、私よりもよっぽど力持ちなのです。

それに比べ私は力強さが足りませんね。

ふと、右腕を見ますがそこにあるのはぷにぷにした弱そうな腕だけ…

…今度、もうちょっと鍛えてみましょうか。

足は将来色々と使うかもしれない、と父上に言われたので少しだけ鍛えていますが、腕はからっきしでしたから…

 

「お二人とも、ありがとうございます。それでは行きましょうか」

 

今日は王都でも有名なお菓子屋さん『キャンディーブース』に行く予定ですが…思い返して見れば『飴の店(キャンディーブース)』って名前として少し変ですよね。

別に飴だけしか売っていないわけじゃないのですが…まあ『キャンディー』も『ブース』も古語だから気にならない人の方が多いのでしょう。

かくいう私もハナさんと話すまでは気に止めたこともありませんでしたし。

 

「そういえば、カタセ子爵ってどんな人ですの?」

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。