『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
「カタセ子爵ってどんな人ですの?」
ヘスティアさんが私に問いかけます。
テレスさんも気になるのか関心のありそうな視線を私に向けます。
ハナさん、ですか……
「尊敬出来る人ですよ、でもどうして気になったのですか?」
「セリアさん、がカタセ子爵様の侍女?になったって聞きました、から」
「カタセ子爵は急に貴族になったじゃない?そういう人って使用人とかに高圧的に当たることが多いって聞くわ」
「ハナさんはそういう人ではないですね。貴族になっても以前と変わりませんよ」
実際、ハナさんほど貴族であることを気にしていない人はいないと思います。
……それは悪い意味でも、良い意味でも、ですけど。
「ならセリアさんは不当な扱いをされているわけではないのですね?」
「はい、とても良くして貰っています」
私がそう言うと、ヘスティアさんは急にテレスさんの方に向かい、私に聞こえないようになにか話をし始めます。
「テレス、あれ本当だと思います?」
「本当だと思う、ます。セリアさんの表情が、明るいの、です」
「そうね、入学当初よりも明るいかしら?」
「もしかしたら、入学前はもっと明るい、です?」
「わからないわ、だから引き続き観察を続けるわよ」
……何を話しているのでしょうか。
ハナさんの悪口とかじゃなければいいんですけど……
まああの二人ならそんなことしませんよね。
「ごめんなさい、何でもないのよ。ちょっと今日のお茶会の場所について相談をしてただけ」
「そうなんですか?以前話していた『キャンディーブース』に何か問題があった……とかですか?」
「ちがい、ます。予約をとってたか、です」
「一応確認のため、ですわ。あ、勿論取っていましたわ」
「それは良かったです」
そんな風に歓談していると、目的のお店にあっという間に着いてしまいました。
やっぱり楽しい時間というのはすぐに過ぎていくものですね。
私は眠気で少しだけ足元が覚束なくなっていましたが……心配をかけてしまいますからバレないように頑張りましょう。
もしバレてしまったら、
これは気が抜けませんよ。
「セリアさん、は大丈夫、です?」
おっと、決意を固めていたら逆に心配されてしまったみたいです。
お店の中からヘスティアさんが呼ぶ声もしますし、余り待たせるわけには行きませんね。
「大丈夫ですよ。こういうお店に入ることがあまりなくて驚いてしまっただけです」
テレスさんには思わず誤魔化しを言ってしまいましたが、それもあながち嘘ではありません。
こういう所には勉強や用事で忙しくてあまり来る機会がありませんでしたから。
ハナさんと会うことになった八百屋さんもあの時が初めてだったから迷ってしまったわけですし……
でもそのおかげでハナさんと会えたのですから、そんな私の無知さにも、たまには感謝してもいい気がしますね。
お店の中に入ると、ふわふわとした雰囲気が漂う内装が目に入ります。
ハナさんいわく、こういうのを『ファンシー』というらしいですが……この使い方で合ってるのでしょうか。
明日にでも確認して見ましょう、間違ってたら大変ですから。
「セリアさんは何を頼みますの?」
ヘスティアさんに訊かれ、メニューを見ますが……
……わかりません。名前から何が出てくるのか全くわかりません。
『雪どけのスイートティー』って何ですか?
雪どけ、といえば水ですし、スイートは甘い、という意味だった筈です。
甘い水のようなお茶、でしょうか。
むむ……本当に想像が付きません。仕方ないですが……
「ヘスティアさんと同じ物でいいですよ」
三人でいるときに誰かと同じ物で、と頼むと場の雰囲気が壊れることがあるのであまりやりたくはないのですが……今回は仕方ありません。
「私も、ヘスティアさん達と同じで、お願いします」
それに幸いにもテレスさんも同じ物を選んでくれたようですし、不和にはなり得ませんね。
さて、三人分の注文を任されたヘスティアさんはどんなものを頼むのでしょうか……
「あらそう?なら……この『香り高い夏の夜茶』と『遥か霊峰のソロット』にしましょう」
ヘスティアさんが決めてくれますが……何がなんだかわかりません。今度、ハナさん……は知らなそうなので、アリスさんに教えてもらうべきでしょうか。
でもアリスさんも王族ですし、ご多忙でしょうから…
そうです!お姉ちゃんに訊きましょう!
王宮で上級侍女を勤めているお姉ちゃんなら知っている筈です…!
◇
ヘスティアさんが私達の分まで頼んでくれてから、僅か数分。
下手をしたら3分も待っていない気がしますが…ともかく、お店にはあり得ないぐらい早く注文の品が出されました。
『香り高い夏の夜茶』というのは……ダージリンらしい香りや味はしますが、どんな工夫がされているのでしょうか。
まさかそのまま、ってことはないと思いますけど…
そして『遥か霊峰のソロット』。こちらはスコーンですね。
名前の通り、と言っていいのかはわかりませんが、通常のスコーンと違って円形をしていません。
どちらかというと台形…勉強できる風にいえば、正四面体の一部…でしょうか。
さて、肝心の味は……意外、と言っては失礼かもしれませんが、意外とおいしいです。
それにお茶会には丁度いい分量ですし、もしかしたらメニューの名前もきちんとした理由があるかもしれません。
やっぱり自分が知らないものを下に見る偏見は良くありませんね。反省です。
◇
その後もしばらく三人でお茶を片手に話していました。
ヘスティアさんは夜に夜食会があるのでその準備。テレスさんは家で門限が決まっているそうなので、お別れすることになり……現在、私は一人です。
あいにく、ヘスティアさんともテレスさんとも方向が違ったのでバラバラに別れてしまいました。
私は家の方角に向かいながら、これからどうしようか考えます。
ハナさんが飛び級する!と意気込んでいたので勉強する、というのもありですが……それか、先ほど考えたように腕を鍛える、というのもいいかもです。
色々とやりたいことが浮かんでは消えますが、上手くまとまりません。
「何をするべきでしょうか……」
思わず、そう口に出てしまったその時。
私は名案を思い付いてしまいました!
ハナさんに会いに行きましょう。
お茶会、といっても1時間と少ししかしていませんし、まだハナさんは『魔術騎士』様の家にいる筈です。
…でも、私は伯爵令嬢ですから連絡なしでは元宮廷魔術師兼、『宰相』様の邸宅には入れません。
どうしたものでしょうか……
……そうでした、私はハナさんの側仕えです!
ならハナさんの近くにいてもおかしくありません!
ハナさんの言葉を借りるなら『善は急げ』です!
さあ行きましょう…!
そういうわけで王都から出て徒歩10分程。
私はとても猛省しています。
恐らく『深夜テンション』というもの…違いますね、徹夜での疲れが影響してまともな思考ができなくなっていたようです。
そもそもハナさんが既に帰っている可能性もありますし、ハナさんの側仕えだとしても入れてくれる道理がありません。
なのにどうしてここまで来てしまったのでしょうか……
そう思って諦めて帰ろうと思った時、どこからともなく声が聞こえてきます。
「そう?割といつも通りだけど?」
これは……ハナさんの声です。
でもそれにしてはどことなくトゲがある様に感じます。何と言いますか……苛立っている、というのが正しい表現でしょうか。
「…言葉にトゲがある」
その声にアリスさんが答えます。
アリスさんも私と同じように感じたらしく、私の気持ちを代弁してくれます。
「はぁ…そんなことないって言ってるのに」
そう言うハナさんの声は、アリスさんを邪険に扱うような声でした。