『少女世界攻略記録』 作:100110110011(2)の民
……ハナさんを見送ったので、暇になってしまいました。
10分ほど経っても帰ってこない、ということは無事にアリスさんの部屋まで行って、入れて貰えたのでしょうか。
何をしましょうか…と言っても、もう夜なんですよね。
今からどこかに遊びに行く、というのは考えられませんし…アリスさんとハナさんは現在進行形でお取り込み中です。
お姉ちゃんは『今日は休暇』だと言っていましたし
…何もやることがありません。
こんなことならもう少し教科書でも持ってくればよかったのでしょうけど…私にここまで予知できるほどの能力はないですから無理な願いですね。
……側仕えとして、部屋の掃除でもしましょう。
確かここの物置に……ありました、箒と雑巾です!
といっても同時に使うことは出来ないので、まずは窓拭きからですね。
そういえばハナさんは不思議なこだわりを持っています。執務室は違うのですが、寝室は絶対に土足の状態の人をあげません。
昨日も気になって訊いてみたのですが、ハナさんの故郷の風習らしいです。
まあ寝室が汚れるのが嫌なのはわかりますが……汚くなったら自分で掃除すれば良いですし、ハナさん程の立場なら侍女さん…もといお姉ちゃんがやってくれるでしょう。
お姉ちゃんはかなり掃除が得意ですし、問題ないとは思うのですが……
それか、科学技術というものが日本では進んでいるらしいので、そこに理由があるのでしょうか。
ふむむ…わかりませんか。今度改めてハナさんに訊いておきましょう。
昨日はお互い疲れていたので、会話も適当だった部分がありましたし、私自身もうろ覚えです。
そういえば、私も古語を使うようにしたほうが良いのでしょうか。ハナさんは古語を使うことが普通な国から来たのでしょうがないにしても、アリスさんは普通に使いこなせていますし、それに上級貴族になれば、必然的に使う機会も増えると聞きます。
試しに使ってみましょうか…頭の中で考える分には、間違えても問題ないですしね。
……それでは改めまして。
私はティーミール
父上のご厚意で王立学院に通わせて頂いています。それで……ダメですね、つい使いなれた現代語になってしまいます。
……それと場面が悪いというのも理由になりそうです。
少し場面を変えてみましょう。
私は今、この『クリーナー』を使って窓を掃除しているわけですけど、実はこの作業にも『ポイント』がありまして、こうやって上から下に拭いていくとキレイになるんですよ。
どうしてかと言いますと、上を拭くと、その時に落ちてきたゴミが下に落ちていくわけです。
だから下から拭くと、その後に上を拭く際にゴミが下に落ちてしまいやり直しに……やっぱりダメですね。
少しずつ練習して慣れるようにしないといけないですね。
そういえば、夜ごはんはどうすればいいのでしょう。
本来は側仕えと主人が同じごはんを食べる、というのはあり得ないのですが、何せ私の主人はハナさんです。
だから慣習を無視する可能性も充分にあります。
ですが、アリスさんと食べてくる可能性もあるわけですし……どうしましょう。
ここは、アリスさんと食べてくる、という可能性に賭けましょう。なので私は一人でごはんを食べます。
幸いにも物置に使用人用のごはんが置いてある筈なので、それを頂きますしょう。
先輩侍女さんいわく、使用人というのは主人がいない一瞬の隙に食事や休憩を終わらせるなくてはいけないこともあるそうです。
そしてその主人が忙しくて、執務室から出れない際には主人がお手洗いに行っている隙に軽食を取ることになるとか……
まあハナさんは食事することも笑って許してくれそうですけれど、お姉ちゃんはそういうことに厳しいので自分用の食事をこうして物置内に用意しているわけです。
…明日、お姉ちゃんに食べた旨を言っておきましょう。そうでないとお姉ちゃんのことだから『誰かが子爵様の執務室に侵入して物置を漁った』と思って、大事になってしまいます。
◇
「さて、何をしましょうか」
ハナさんがアリスさんの部屋に行ってから何度も言ったような台詞が自然と口から溢れます。
……主人がいない側仕えってこんなにも暇なのでしょうか。
いや、そんなわけないですね。
普通は側仕えが主人から離れる、ということはあり得ませんし、もし離れたとしても何かの仕事を仰せ使っていることが多いでしょう。
お風呂にでも入りましょうか。
といっても、ハナさんのようにどこにでも入っていいわけではありません。
側仕え、もとい侍女である私は『水晶の湯』にしか入れませんが、その『水晶の湯』でも我が家にあるお風呂よりも豪華です。
……ハナさんが帰ってくるまでまだ時間があるでしょうし、お風呂に入っちゃいましょう。
◇
やっぱり、お風呂は気持ちいいものですね。
ハナさんが、お風呂は命の洗濯だって言っていましたけれど、あながち間違いでもないかもしれませんね。
昨日とは違って、ハナさんがいないので静かです……
…こう言ってしまうと、ハナさんがうるさいみたいに聞こえてしまいますね。やめましょう。
貴族同士だと盛り上がる、ということは余りありませんからハナさんみたいな人には不慣れなんですよね。
まあそんな『不慣れ』が楽しくはあるんですけれども。
柄にもなく、湿っぽいことを考えてしまいました。
最近はずっとハナさんが近くにいたので、賑やかなのに慣れきってしまっていたんでしょう……静かになっただけでこんなことを考えてしまいます。
気分転換をかねて、首を振って暗い考えを振り払います。
さて、そろそろ上がりましょうか。あまり長風呂して、ハナさんが先に帰っていたらいけません。
側仕えとして主人を待たせるわけにいきませんから!
そういうわけでハナさんの部屋に戻ってきたのですが……ハナさんはまだ帰ってきてないですね。
ひとまず良かった、ということでいいのでしょうか。
ハナさんとアリスさんが真面目に話している、というのに一人だけごはんを食べてお風呂に入るというのは少し罪悪感がありますが……少し楽しくもあります。
これが背徳感?というものでしょうか。
これはかなり危ない楽しみ方ですね……癖になりそうですから、急いで心の奥底に封印しないといけませんね。
煩悩退散、悪霊退散、です!
そんなことを考えていますと、部屋の扉がノックなしで開かれ──
「帰ってきたー」
ようやく、ハナさんが帰ってきました。
「ハナさん、お疲れ様でした。アリスさんと話し合いはどうでしたか?」
ハナさんの明るい表情から察するに上手く行った感じがします。
わかってはいるのですが、一応アリスさんとの話し合いを薦めた身として訊いておかないといけません。
「上手くまとまったよ。セリアが薦めてくれたお蔭だね。本当にありがとね」
そう言って頭を下げてくれますが……
「そんな、私は当たり前のことをしただけですよ」
実際、私がしたことは至極当然のことでしょう。
だれでも友達が悩んでいたらその相談に乗ってあげようとしますし、別の友達と喧嘩していたら仲裁してあげようと全力を尽くします。
「当たり前、かぁ……」
そう言うハナさんはどこか遠くを見つめているようでした。
ハナさんにもハナさんの過去があるのでしょうから、何かあるのでしょうけれど……私はその過去に無用心で踏み込めるほど……そうですね。
私も少しくらいは踏み込んで欲しくないことがありますから。
だから今の私に出来ることは何も気付かなかったかのように振る舞うだけです。
「ハナさん?大丈夫ですか?」
「ああ、うん。大丈夫。ちょっとね」
「アリスさんのところで何をしてたんですか?」
「ちょっと二人きりで食事を」
やっぱりアリスさんのところでごはんを食べてきましたね……って『二人きりで食事』…そういう意味じゃないですよね?
そもそもハナさんは異世界出身ですからこの国の貴族特有の暗喩は知らないはずですし……それに同性ですからその意味ではないはずです。
でもアリスさんが教えた可能性もありますし……
「セリア?どうしたの?」
「な、なんでもないですよ?」
焦って声が上擦ってしまいました。
「本当に何でもないです。はい」
「本当?うーん、まあセリアが言うなら大丈夫か」
ハナさんを騙してしまった罪悪感と騙しとおせてしまった安心感が同時に押し寄せます。
そもそもハナさんは公然にそんなことを言う人ではありませんし、私の頭の中が煩悩だらけなのがいけないんです。
最近、煩悩が増えているような気がします。
……滝にでも打たれて精神修行でもしますかね?
まあそんなことをすれば皆さんに迷惑をかけてしまうのでしませんけれど。
……おっと。
眠気で足元がふらついて、つんのめってしまいました。
危ないです……今日は早めに寝ないといけませんね。
ハナさんがちゃんと早く寝かしてくれるかはわかりませんけれど。
ハナさんのことだから『二日連続で徹夜!』って言う可能性も十分にあります。
そう言われたら立場のこともあって断るのは申し訳ないので、寝れませんね。
「というかセリアこそ大丈夫?目が半分閉じてるよ?」
「だい、丈夫ですから」
「もしかして私が昨日夜更かしさせちゃったせい?なら早く寝ないと!」
「そんなことないですから」
「はいはい、早く寝るよ!はい、布団の中に入った入った」
睡魔に抗えず、促されるままにベッドの中に入ります。
「ハナさん、すみ、ません…」
「気にしないの、それじゃあお休み」
「お休みなさい…」