真サクラ大戦〜時超え、空翔け、可能性の先へ〜   作:ざぎねぅ

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2話 天才発明家は爆発と共に 前編

帝劇前―

 

 

 過去から来たと考えられた降魔が出現してから数日、帝国華撃団の活躍は幸いなことに無かった。皆は次の”シンデレラ”の公演に備え、またいつ来るかわからない次の出撃に備えた訓練で気を張っている。

 しかしそんな中、たまの休日くらいは羽を伸ばしたくなる。久しく何もない日の今日、帝国華撃団の隊長である神山誠十郎は、一転して天宮さくらの幼馴染として帝国劇場の階段前に立っていた。

 

―誠十郎さーん!

 

 雲一つない晴天の空の下、美しく長い髪をなびかせてこちらにやってきたのはさくらだ。今日は彼女の好きなウィンドウショッピングに行くという約束をしていた。

 

―やっと来たか、さくら

 

 出発の時間からすでに10分は過ぎていたことから誠十郎はそう口走る。もっとも、嫌味な声音ではなかったが。

 

―もう、女の子の準備は時間がかかるんですよっ

 

 誠十郎の言葉にさくらは唇を尖らせた。好感度が一段階下がっていそうだ。そして一瞬で誠十郎に詰め寄った彼女を前に、彼はほんの少し気圧される。

 

―そ、そうか

 

 そんな彼をさくらは見つめる。何故か腕を後ろで組んで、上目遣いだ。

 

―…

 

―どうしたんだ?黙り込んで

 

 誠十郎がそういうと、今度はジト目で彼を見る。

 

―む…

 

―…?

 

 困り顔をする誠十郎をよそにスタスタと歩き始めてしまうさくら。

 

―あ、ちょっと…どうしたんだよ、急に膨れて…

 

―なんでもありませーん…もう

 

 そんなことを言う彼女の後姿を追ううちに、誠十郎は1つ違和感を覚えた。

 彼女の後頭部にはいつも桃色の髪留めがあったが、今日ひょこひょこと揺れているそれは赤い模様が入っている。

 そう考えていると、さくらは急に近くにあった洋服屋のガラスに張り付く。

 

―わあ、この服とってもかわいい

 

 ガラスの中に見えたのは、桃色のワンピース。

 

―試着してみたらどうだ?

 

 誠十郎が言うと、さくらは目を輝かせながら言う。

 

―そ、そうしますっ

 

 2人は店に入っていく。早々さくらは、”あれ、着てみていいですか!?”と声を弾ませた。

 

――――――――――――――――――――

 

試着室前―

 

 

 さくらが着替え始めて少し経つ。多分もう着替えは終わっている。しかし着物を畳んでいるのか、衣擦れの音が聞こえてくるので”ここでさくらが着替えているのか…”なんてことを思ってしまう。いやいや、想像するなと自分を諭したところで彼女はカーテンを開いて出てくる。

 

―どうですか、誠十郎さん?

 

 少し恥ずかしそうに、着替えた姿を誠十郎に見せたさくら。

 

―いいと思うよ

 

 誠十郎は可愛い彼女の姿を見て、微笑んで感想を言った。

 

―本当ですか?

 

 そう言う彼女に誠十郎は答える。

 

―ああ、そのリボンも相まってね

 

 さくらはそんな言葉に目をパチクリさせる。

 

―え…?

 

 誠十郎は先程気付いたことを言ってみる。

 

―それ、新しいリボンだろ?とても似合っているよ

 

 彼からの意外な言葉に、さくらは頬を少し染めた。

 

―ふふふ…

 

 彼女は静かに口端を上げる。

 

―この服、やっぱり買うのやめときます

 

―え?いいのか?

 

―はい

 

 さくらは、また試着室に入っていく。ここで”着替え、手伝ってやろうか?”なんてことを言えば殴られかねないので、言うのはやめておいた。

 

――――――――――――――――――――

 

帝劇前―

 

 

 朝からさくらのウィンドウショッピングに付き合い、昼前まで色々な店に回った。もっぱら服屋が多く、歩き回って楽しそうにしているさくらを見て、誠十郎も楽しく半日を過ごせたのだった。

 そんな2人はそろそろ昼食にしようと帝劇に戻ってきた。

 

―お、今帰りか、2人とも!

 

 彼らが見たのは活力にあふれた、帝劇の太陽のような女、初穂だった。彼女は箒を片手に2人を迎える。

 

―うん、ちょっとお出かけしてたよ

 

―そうかそうか…で?どうだったよ

 

 誠十郎そっちのけで展開される話の中、ふと初穂が意味深に言った。

 

―どうだったって?

 

 初穂は、首をかしげるさくらにもう一つ、

 

―それだよ、それ

 

 彼女はその瞳だけさくらのリボンに向ける。そして彼女達の会話にしびれを切らし、誠十郎が話しだす。

 

―さっきから何の話をしているんだ?

 

 そう言う彼に初穂は口端を上げて返す。

 

―いや何、さくらがお前に色々気付いて欲しくて新しいリ…んん!

 

―だめ~!

 

 初穂の言葉も虚しくさくらの両手に防がれてしまったが、その手を振りほどき初穂は更に言う。

 

―な、なんだよ!お前がどうして持っていうから買い物に付き合ってやったんだぞ!

 

―せ、誠十郎さんの前でそんなこと言わないでよ~!

 

 さくらはリンゴのような頬をして叫ぶ。そんな彼女に”ったくよぉ”と反応する初穂であった。

 結局、誠十郎は2人の話を理解出来なかったようだ。もっとも、さくらの目的は彼の知らないうちに達成されていたが。

 

――――――――――――――――――――

 

サロン―

 

 

 劇場のロビーでさくら、初穂と別れた誠十郎はそのまま上階に上がり、サロンに足を運んだ。そこには机を囲み朗らかな雰囲気を醸し出すあざみとアナスタシアがいた。

 

―ああ、やっぱりおいしいわ

 

―うん、あざみもこのお菓子好き

 

 そう話しながら、和菓子を頬張っている。もちろん、御菓子処みかづきの饅頭だ。

 

―日本のお菓子はいつ食べても良いわね。他の国とは違って、なんだか不思議な味もするわ

 

 そんな2人に誠十郎は近づいていく。

 

―お、みかづきのお菓子か

 

 するとあざみは彼をまっすぐ見つめた。

 

―誠十郎も食べる?

 

 彼女はそう言って片手に持ったお菓子を彼に突き出す。今度は桜餅だ。

 

―良いのか?

 

―うん

 

 そんなあざみを優しい目で見たアナスタシアは、誠十郎の後ろ、廊下の陰でこちらを見つめる人に気づいた。

 

―ん?…あれは…

 

 誠十郎はアナスタシアの見る方を向いた。すると、

 

―じー

 

 ジト目でこちらを見つめるのはクラリスだった。物欲しげに誠十郎を見る彼女に、誠十郎は言う。

 

―えぇっと、クラリスも食べるか…?

 

―…!

 

 誠十郎の言葉に彼女は目を輝かせる。やっぱり欲しかったんだな。よだれを垂らしそうな勢いのクラリスにアナスタシアが言う。

 

―クラリスの分もあるわよ。こちらにいらっしゃい

 

 彼女に促されひょこひょこと机に近づいたクラリスは同じく桜餅を受け取る。

 

―ん~おいしいです

 

 朗らかな声音を響かせるクラリス。そんな彼女をよそにあざみは手に持った桜餅を誠十郎にもう一度差し出す。

 

―はい

 

―うん、ありがとう。あざみ

 

 そう言って誠十郎はあざみの手に自分の手を近づけるが、彼女の手は誠十郎の手を避け続ける。

 

―…?

 

 彼は頭のに”?”を浮かべるとあざみは、

 

―…あーん……

 

―え…?

 

 あざみは表情はそのままに、頬をうっすらと染めてもう一度言う。

 

―あーんっ…

 

 なるほど。口を開けということだ。

 

―あ、あーん…

 

 誠十郎は若干恥ずかしかったが口を開ける。そして、

 

―じー

 

 またもや誠十郎の後ろ、廊下の陰で彼をジト目で見つめる人影があった。先程とは一転して恨めしそうな目だ。そしてどうやらその後ろにも人がいる。こちらは困り顔だったが。

 

―じーーーー

 

 口を開けたままの誠十郎は視線に気付く。

 

―な、なんだ?

 

―気にしなくていい。誠十郎、はい、あーん

 

 あざみはそう言って桜餅を誠十郎の頬に押し付ける。

 

―あーん……うん、うまい

 

 遠くからじっと見つめられるのは恥ずかしかったが、あざみの桜餅を食べた誠十郎は素直な感想を言った。しかし、彼を見つめていたものは納得いかなさそうな様子だ。

 

―むぅ…

 

―さ、さくら…気持ちはわかるけどよ…

 

 誠十郎に鋭い目を向けたままの彼女を諭すように、赤い髪の女は言った。

 

―嬉しそうですね、あーんなんてしてもらって……誠十郎さん…

 

 そんなことを言う彼女に、誠十郎と赤い髪の女は苦笑いするしかなかった。

 いつしか支配人から、先代花組に嫉妬深い人がいたと聞いたが、その人はあんな感じだったのだろうか…

 

――――――――――――――――――――

 

作戦指令室―

 

 

―指令、どういたしましょうか

 

―そうですわね…

 

 風組の制服を着たカオルと、口元を扇子で隠し考える表情のすみれが作戦指令室にいた。2人に、同じく制服を着たこまちが言う。

 

―前回のこともあるから、警戒してもええと思いますけど

 

 彼女の言葉の後、すみれは静かに扇子を閉じる。

 

―ええ。やはり、花組を出撃させましょう。月組も動いているとは言え、また降魔が現れては大変なことになりますわ

 

 彼女はそう言いつつ目の前の大画面を見る。今、指令室の画面に映し出されているのは、ちょうど人1人分に広がった時空の裂け目だった。その間隙はもちろん、降魔が出入り出来るようなものではなかった。

 先程からちらちらと、調査のために派遣された月組の人影が映り込んでいる。彼らが言うには、裂け目が発生してから長い時間ではあるが少しずつそれは大きくなっていると言う。この状況を受け、帝撃の司令官であるすみれに花組の出撃を伺っていたのだった。

 結局、彼女は念を押して花組の出撃を判断したようだ。カオルがそれに続く。

 

―では、花組達を招集いたします

 

―お願いします

 

 指令室でキネマトロンが起動した。

 

――――――――――――――――――――

 

作戦指令室―

 

 

 帝国華撃団・花組が集結するまで、さほどの時間はかからなかった。彼らは今、それぞれの隊員服を身にまとい、その鮮やかな彩色で無機質な作戦指令室に花を咲かせていた。もっとも、一転してその内心には花のようにひっそりとした美しさはなく、たまの休日の半分を失わんとする状況に、その茎を少しだけ曲げていたが。

 そんな心境を察してか否か、すみれは若干眉尻を下げて皆を見回した。

 

―お休みの日に、ごめんなさいね。皆さん

 

 ”いえ”と誠十郎は彼女に答えると続ける。

 

―帝都の人々を守るのが、我々の使命ですから

 

 そうして彼は一息置く。その間、彼以外の隊員も覚悟のような眼差しを見せた。その表情にすみれは皆に安心と頼もしさを覚える。

 

―それで、今回はどのような状況でしょうか

 

 誠十郎の再度の言葉にすみれは心を引き締め話始める。

 

―まず、神山君。前回の出撃の後に見せたもの、覚えてますわね?

 

 彼女の話に、誠十郎以外の花組は疑問の表情を浮かべる。このことは彼女たちに伝えていないのだから当然だろう。

 例の時空の裂け目のことだ。数日前降魔が現れて以来発生してはいなかったが、今花組達にそのことを知らせるのだろうか。

 

―はい。でもあれは…

 

―ええ、分かっていますわ。ですが、今日また新たなものが発生しました。これから大きな問題にもなりかねないですし、皆さんにいつまでも隠しておこうとは思っていませんでしたので

 

―そうですか

 

 誠十郎がそう一言いうと、アナスタシアが口を開く。

 

―どうやら、重大なことが起こったようですね

 

 さくらも続く。

 

―何があったんでしょうか…?

 

 2人のその様子を見て誠十郎はすみれに目やると、彼女はうなずく。彼は前回の降魔発生の理由について話し始めた。

 

―みんな、前回の出撃で戦った降魔や、降魔兵器と呼ばれたものは覚えてるね?

 

 クラリスとあざみが答える。

 

―はい、降魔大戦の以前に帝都に現れた敵ですよね?

 

―結構怖い見た目だった…

 

 先代花組の活躍により、10年以上前から出現しないはずの敵が再び現れ、街を襲った紺と金の魔物。多少数が多くても、当時の光武とは比べ物にならない出力の現代の霊子戦闘機で戦えることもあり、街や隊には大きな被害は出なかった。

 皆が前回の戦いを思い出していると、初穂は片眉を上げて誠十郎を見た。

 

―そういえば、あの降魔たちはどこからやってきたんだ?

 

 その問いに誠十郎も初穂に目を合わせて言う。

 

―それについてなんだが…

 

 彼は話し始めた。今帝都には、過去と現在をつなぐ時空の裂け目なるものが発生していると。そして、降魔たちはその門を通りこの地に降り立ったのだと。

 アナスタシアは腕を組み目を鋭くさせる。

 

―なるほど…そんなことが…

 

 すみれは皆を見渡すと”説明ありがとう、神山君”と言い本題を話始める。

 

―今回皆さんを呼んだのは、今日もその裂け目が現れたからですわ。今朝、月組が小さい裂け目を発見して以降警戒させていたのですが、だんだんと大きくなっています

 

 さくらが小さく食い掛るように言う。

 

―じゃ、じゃあ、それがもっと大きくなれば

 

―ええ、この前のように、降魔が帝都に来る可能性があります。今もこうしているうちに、違う場所に裂け目が現れるかもしれませんわ

 

 すみれの言う状況にクラリスはつぶやく。

 

―いつどこから来るのかも分かりませんね…

 

 そんな言葉に、指令室には一瞬の静寂が通り過ぎる。冷たく流れた時に耐え切れなかったか、初穂が空気を震わせる。

 

―まあとにかく、結構数も多くて骨が折れるってのに、また出てくるかもしれないってことか

 

 彼女の言葉にカオルが言う。

 

―簡単に言ってしまえば、そういうことですね

 

 眼鏡を上げる彼女を横目に、すみれはまた口を開く。

 

―早速ですが皆さん、警戒を強化するためにも、出撃していただけますか?

 

 誠十郎は”はい!”と答え、花組に指示を出す。

 

―みんな、まだ降魔は出てきていないが、油断するなよ!

 

―帝国華撃団・花組、出撃!

 

―”了解!!”

 

――――――――――――――――――――

 

格納庫―

 

 

 隊員たちは霊子戦闘機の中だ。そろそろ出撃の準備が整い、街に繰り出すことができる。そんな中こまちが言う。

 

―神山さん、例の時空の裂け目の場所、無限に送っておいたから見とってください

 

―ありがとうございます。こまちさん

 

 誠十郎は目の前のモニターに街のマップを表示させる。作戦指令室で見た、細い路地に裂け目が発生しているという情報を改めて確認する。

 

―神山さん、出撃準備が整いました。霊子戦闘機の発進をお願いします

 

 ”はい!”とカオルの呼びかけに答えた誠十郎は花組達に叫ぶ。

 

―よし、行くぞ!みんな!!

 

―了解!

 

 麗しき戦士たちの声は、格納庫に満たされようとする蒸気と、重い鋼鉄の轟音と共に響き渡った。

 

――――――――――――――――――――

 

帝都、ある路地―

 

 

 立ち並ぶ長屋の柱を倒してしまいそうな程の地鳴りが、帝国華撃団が帝都に現れた合図だ。

 

―綺麗に人っ子一人いねえな、さすが月組だ

 

 降魔による人的被害を避けるため、月組によって住人たちは既に非難を終えている。そんな、彼ら達の手際の良さに感心した初穂だった。

 

―これなら多少無理な戦闘をしても大丈夫そうだな。とはいえ…

 

 誠十郎はそう言って周りを見渡した。

 

―やっぱり、狭い場所ですね

 

 歯切れを悪くした誠十郎にさくらが言った。

 人がいないと言ってもやはり花組達の左右にそびえるのは長屋である。普通に歩くだけなら問題はないが、彼らは今霊子戦闘機の中だ。今まで何度も狭い場所で戦ってきているとは言え、6体もの巨体を激しく動かせば、人的被害はなくとも建物は崩れてしまう。

 そんな状況にアナスタシアが言う。

 

―もし戦闘になったら、なるべく密集は避けなければならないわね

 

 クラリスとあざみも続く。

 

―もしもの時は私がシールドを張ります

 

―揺動は任せて

 

 力強い2人の言葉に、誠十郎は花組の頼もしさを強く感じる。隊長である誠十郎の力だけでは、今まで戦ってくることは出来なかっただろう。こうして隣に仲間達がいてくれるからこそ、花組は力を発揮できるのだ。

 

―うん、頼んだぞ…!

 

 負けてはいられないと、誠十郎も力強く頷いた。

 

―”はい!”

 

 気を引き締める中、初穂は右手に持ったハンマーを”トンッ”と同じく右肩に置く。

 

―にしてもよ、例の時空の裂け目ってのはもう近いんだよな?

 

―ああ、そこの角を曲がればあるはずだ……お…

 

 誠十郎が答えると、彼の目に小さく月組の衣装が映った。

 

―おーい!

 

―こっちですよ~

 

 招き入れるようにこちらに手を振っているのはいつきとひろみだった。狐のマスクをしていることも相まってどんな表情かは分からないが、落ち着いた様子だ。周囲に特段異常はないらしい。

 皆は彼女たちに向かっていった。

 

――――――――――――――――――――

 

同じく路地―

 

 

―はい、ここですよ

 

 ひろみがそう言う。

 一旦、無限を降りた誠十郎、さくら、初穂、クラリスはひろみといつきに促され時空の裂け目の前に来た。

 目の前の景色にさくらがぽつりとこぼす。

 

―画面で見るよりも、なんだかまがまがしい感じがするね

 

―こんなところから降魔たちが…

 

 前を見つめながらクラリスもまた彼女に続く。

 皆が視線を奪われるほどに、異様な光景だった。全くどこからこんなものが来るのか。

 そんな誠十郎の気を代弁するかのようにいつきが言う。

 

―いやぁ、大変ですよね。こんなものが突然現れるなんて

 

 しかし彼女は”でも”と続ける。

 

―今は花組の皆さんに守られているので、全然怖くありませんっ

 

 言いながら、後ろを振り向く。彼女の瞳には青い無限、その奥には黄色の無限がいた。

 青い無限はいつきの方を向く。

 

―頼りにされているようで安心するわ

 

 彼女の声色は、無限が微笑んでいるようにも感じさせるものだった。そして黄色の無限はこちらに手を振っている。手を振り返すいつきに乗じてさくらも手を振っていた。黄色い無限に”いや、さくらじゃない”と言われ眉を下げていたさくらだが、それは置いておこう。

 アナスタシアとあざみには周囲の警戒を頼んでいた。一度無限を降りて実際に時空の裂け目を見るという話になったとき、万一降魔などが現れた時のため、彼女たちが警戒の役目を打って出てくれたのだ。

 あざみは機動力が花組の中でも突出しているから突然の出来事にも対応できるし、アナスタシアは遠距離からの対応に優れているので安心して任せられるだろう。

 

―さて…

 

 状況を今一度確認したところで、誠十郎はどこに通じているかもわからない裂け目に視線を戻す。

 

―うぅん、中がどうなってんのかわかんねぇな

 

 聞こえてきたのは初穂の唸り声だ。彼女は腕を組み、眉間にしわを寄せながらじっと目前の裂け目を見ている。

 

―真っ暗だね…

 

 さくらがそう言う。

 彼女たちが口にするように、確かに時空の裂け目の中は夜空より深い青だった。もちろん輝く星なんてものはない。ただ吸い込まれそうな穴がこちらを覗いていた。

 

―入れたり、出来るんですかね…?

 

 クラリスは恐る恐ると裂け目に人差し指を近づける。

 

―あ!駄目ですよ、クラリスさん!

 

―ああ、ご、ごめんなさい…

 

 好奇心旺盛なクラリスの動きをひろみが止めた。

 

―この裂け目から先に入ってしまうと、戻ってこれないんです…ほら、こうやって…

 

 ひろみはそこらに落ちていた小枝を手に取ると、先を裂け目に入れる。特に抵抗されるような様子もなく、するりと茶色い細い身が入っていった。

 

―…こうなってしまうんです

 

 枝を引き出したかと思うとそれは、裂け目に入っていった部分以外を残してその先が消えていた。

 不思議な光景に誠十郎が息を漏らす。

 

―綺麗に消えてしまっているな…

 

 そんな彼に続き、さくらが言う。

 

―でも、こんな風になるのに降魔はどうやってここを通ってきたんでしょうね?

 

―降魔だけは通れたり、裂け目の向こう側からでないとこちらに来れないようになっているんじゃないか?

 

 誠十郎がそう考えた次の瞬間、背後からあざみの叫びが響き渡った。

 

―みんな、伏せて!

 

 何事かと考える前に、皆はその場で体を放る。そして、

 

―く…!

 

 喉から息が抜けるようなあざみの声、そして鈍い金属の音が聞こえると同時に、彼女の無限は誠十郎達の背の上を吹き飛んでいった。"ガシャンッ!"と黄色の無限が地に落ちる。

 

―な、何なんだ…

 

 誠十郎が思わずつぶやく。

 程なくして無限が吹き飛ぶ前の方向から、重い物が着地する音がした。それはどこか懐かしいような、聞いたことがあるような音だった。皆はその方向に顔を向ける。

 そう、あれは…

 

―霊子…戦闘機…?

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