なんか一人だけ世界観が違う   作:志生野柱

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 キャンペーンシナリオ『なんか一人だけ世界観が違う』
 シナリオ30 『勇者強化計画(仮題)』 開始です

 必須技能は各種戦闘系技能です。
 戦闘を前提としているため【応急手当】【医学】等の技能取得が推奨されます。


勇者強化計画
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 王龍の一撃。

 その破壊痕を目の当たりにしたフィリップが初めに抱いた感想は、

 

 「これは無理だ」

 

 というものだった。

 

 別に、半径三キロを一息で抉り飛ばし、その内部はもちろん周囲にも大規模な火災を引き起こし、最終的に千人超の被害を出した、なんてことはどうでもいい。

 

 人間を蒸発させることにも、山一つを消滅させることにも、然したる価値はないのだから。

 

 ただ、直接的には関係のない問題が一つ。

 王龍の実例を目にするのは初めてで、他にデータが無い。だから一旦、あれを王龍の平均として仮定する。

 

 ──となると、七つの頭を持つという魔王は、単純計算であれの七倍の火力があるわけだ。

 

 だから何、という嘲笑は心の裡にある。

 外神の視座は、抉れて泡立ち溶けて流れる地面を前にして嗤っている。これの七倍だか七兆倍だか知らないが、ゼロに幾つかけたってゼロだろうに、と。

 

 だがちょっと待ってほしい。

 魔王──七つの頭を持つという魔王龍サタンを殺すのはフィリップではない。ハスターでもないしクトゥグアでもない。

 

 中心となるのは聖痕者たち。

 最先鋒はイライザだ。

 

 コレの──一息で半径三キロのクレーターを作る化け物の、推定七倍の火力を持ったとんでもないバケモノ相手の最先鋒、一番槍にして最重要ポイント、存在格の隔絶による無敵性を奪う先駆けは、イライザなのだ。

 

 「あれはねえ……“無理”です。後ろにルキアと殿下と学院長とノア聖下が居たとして、「あぁそれなら勝てるな」っていう気がしない。全くしない。全員纏めて消し飛ぶか、空間隔離で後衛だけ無事──イライザが一人で消し飛ぶか。どっちかです」

 

 イライザが弱いという意味ではない。

 いや魔王の推定や聖痕者たちとの相対的には弱いのだが、疑似熾翼(イミテーション・セラフィム)で空が飛べる分、ベタ足の一般剣士よりは幾らか生存の目がある。

 

 だが、あのブレスから逃れられるほどの俊足かと言われると、そこまでではない。

 

 「必要なのは三つ──いえ、三つのうちのどれか一つです。一つは諦観、一つは妙案、一つは鍛錬」

 

 一つは諦観。

 つまり、勇者と聖痕者による魔王討伐をすっぱり諦めて、初っ端から邪神砲をぶっ放す決断だ。他の旧神や旧支配者が介入してくるリスクはあるが、対魔王戦に限って言えば、勝利は確約。

 

 まあ、その後で邪神大戦に巻き込まれた人類なり地球なりが回復不可能な傷を負う可能性が出てくるけれど。

 

 一つは妙案。

 この絶望的を通り越して愉快なまでの戦力差を覆すナイスアイディア、秘策でも奇策でもなんでもいいが、とにかく戦術や戦略でどうにかする。その方法を見つけ出すこと。

 

 正直、これは無理な気がしている。

 「人間は如何にして道具も魔術も無しに空を飛ぶか」みたいな不可能命題の類だろう、これは。

 

 よしんば解決策が提示されたとしても、「右足を踏み出して、それが土を踏む前に左を踏み出し、以下無限に繰り返す」ぐらい実行に難のあるものになりそうだ。

 

 最後の一つは、鍛錬。

 今のままでは勝てないのなら、勝てるまで強くなればいいじゃない。……という、単純で、何の現実味も無い話だ。

 

 一旦真面目に検討すると、まあミナぐらい強ければ、もしかしたらどうにかなるかもしれない。

 ミナが全身を一瞬で消し飛ばす王龍のブレスを喰らっても再生できるのかは不明だが、可能だとしたら、ヴォイドキャリアを持てば勝率ゼロではなくなる。

 

 「僕の考えが及ぶのはここまでです。どうしましょうね──殿下」

 

 いつもの部屋の、いつもの席。

 王城のステラの居室のティーテーブルで、フィリップは向かいに座るステラに「お手上げだ」というジェスチャーを送った。

 

 「魔物の活発化っていうのを今一つ体感として理解できていないんですけど、あんなのと戦うぐらいなら、そっちを放置する方がリスク管理としては賢いんじゃないですか?」

 「魔物の活発化が齎す最大の問題が、まさしく“それ”だ。縄張りを魔物に荒らされた龍種の癇癪、或いは掃除と言ってもいいが。魔物の跋扈は直接的な被害以上に、より大きな災禍──龍災害を呼ぶというリスクがある」

 

 なるほど、とフィリップは頷いた。

 活発化した魔物だけなら、人類──特に城壁や領主軍に守られた都市には殆ど被害が無い。食料生産地から各都市への輸送路である街道も、そこそこ安全化されている。

 

 だが、人間の目が届かない場所は山とある。

 この大陸で人間が住んでいる、人間が安全化出来ている領域は、恐らく50%にも満たない。都市ではなく、街道やその周辺を含めてだ。

 

 駆除の行き届かない魔物が龍種の目に留まり、その気分を害したり。或いは、眠れる王龍を魔物たちの喧騒が叩き起こしたりすると──()()()()

 

 そりゃあ100年おきにせっせと魔王遠征なんかをやるわけだ。

 化身の方の魔王は倒し方、というか封印の仕方だが、攻略法が確立している。対して王龍の方は、ちょっともうどうしようもない。

 

 地震や噴火をどうにもできないのと同じだ。

 魔王を放置すればその手の天災が頻発し、封印すれば収まると考えれば、確かに行かない選択肢は無い。

 

 「私は現場を見ていないが、今回の龍災は相当な規模だ。王龍によるものとみて間違いない。幸い、縄張りの魔物を一掃した後は大人しくしているが、ブレス跡地には残留魔力によってダンジョンが生成され、奴はそこを新たな寝床にした。単純な破壊痕だけなら再整備は難しくなかったが、こうなっては厳しいな」

 

 国が整備している主要街道も、領主が領内の都市や集落間の交通のために作った道も、全て吹っ飛んだ。

 

 時には草を刈り、時には獣除けの柵を置き、時には森を切り拓いてまで作ったものが。道案内の看板くらいならまだしも、駅宿まで含めて全部だ。

 

 それはもういい。吹っ飛んだものは仕方がない。

 だからもう一度、同じように作るしかない。同じ場所には作れないから、場所だけは変えて。

 

 同じように──近郊の治安、魔物の出現率、地盤強度、戦時の輸送効率に防衛効率なんかを調査して、調整して、経済潤滑化のため魔術師や錬金術師の投入は最小限の要所のみに留めた長期事業として運用する必要がある。

 

 「大変ですねえ」

 「あぁ。今のうちに勉強しておけ。お前もそのうち()()()()になるわけだからな」

 

 他人事のように言えば、淡々とした、しかし的確なカウンターが突き刺さった。

 フィリップは何も言えず、ずず、と音を立てて紅茶を啜る。

 

 ステラは可笑しそうに口元を綻ばせて、顔に向けていた視線をつい、と下げた。

 

 いつも通りの、ルキアの見立てだろうスリーピース。

 王城に入る上での最低限度、公爵レベルなら「ちょっとした余所行き」程度の──「動きにくいのヤダ」「息苦しいのヤダ」「高いのも派手なのもヤダ」と文句の多いフィリップの許容ラインの装い。

 

 そのジャケットの内ポケットからベストに伸びるチェーン。

 一般常識程度にしか身嗜みを気にしないフィリップが、唯一、常に身に着けているアクセサリーだ。懐中時計と同じ白金のもの。

 

 「……それほどの大破壊に巻き込まれて、よく無事だったな? アンテノーラの“歌”のおかげか?」

 

 ステラとしては、ちょっとしたカマをかけたつもりだった。

 “歌”は人体に対しては有効だが、衣服や武器には何の効果もない。鋼の剣を大胸筋で弾き返す外皮強度を付与しても、服に関しては普通に斬れる。

 

 もし仮にアンテノーラの“歌”が王龍のブレスに耐えるだけの防御能力を付与できるとしても、懐中時計は無惨に破壊されたはずだ。

 

 だから「どうせ邪神を使ったのだろう」という意図があっての問い方だったが、フィリップはきょとんとした顔でステラを見つめ返した。

 

 「あれ、巻き込まれたって話しましたっけ?」

 

 フィリップが王都に帰ってきて、まだ二日しか経っていない。

 今日はそういった道中の話をするために来て、まだ何の話もしていない。お茶しかしていない。

 

 フィリップが王国北部に赴くことになった理由──エルフ集落付近に現れた「暫定カルト」の話すらまだだ。

 

 しかも、これからそういう話をするにあたって、フィリップは「ブレスが直撃したことは言わないでおこう」とまで考えていた。余計な心配を掛けないために。

 

 ──まあ厳密には直撃とはいえないが、それはともかく。

 

 「レオンハルトからな。素材の無制限使用権があるとはいえ、国庫を開ける権利があるわけではない。大量の古龍素材を引き出したいだの、不足分を手に入れてくれだのと言われて「何故」と聞かない奴が何処に居る?」

 「あー……。そりゃそうですね」

 

 フィリップはばつの悪そうな顔で目を逸らす。

 昨日はステラの都合がつかず、先にフレデリカのところへ行ったのだ。壊れた武器の修繕と新調のために。

 

 古龍素材と高度な錬金術によって作り上げられ、宮廷魔術師たちの付与魔術を施された人造の魔剣と言える逸品、龍貶し(ドラゴルード)──大破。

 

 鞘は消失、刀身は7割が欠損。内部のチェーンは融解し固着……手首の僅かな捻りで硬さが変わる精巧無比な心臓部は、変な形の棒になってしまった。

 

 しかも龍のブレスに含まれる魔力のせいで、錬金術による補修が出来ない状態らしい。

 つまり事実上の完全破損。喪失だ。

 

 それから、錬金金属製のペッパーボックス・ピストル。および弾薬。

 こちらは大部分が蒸発した。

 

 ライデンフロスト効果で守られたのか原型を失った金属塊は残っていたが、持った感覚からすると残存は半分以下。3割くらいだ。

 

 神妙な顔で自らの作品の成れの果て、見るも無残な残骸を持ち込んだフィリップに、フレデリカは不敵な笑みを浮かべて、

 

 「大丈夫。今度はもっと頑丈なものを作るよ」

 

 と言ってくれたのだが。

 

 でもそういえば確かに、「この件は内密に」とは言わなかった。

 そして言っていたとしても、彼女がステラの追及を躱し切れたかは怪しい。

 

 「古龍の武器が大破して、白金とはいえ単なる時計が無傷なわけがないだろう。勿論言うまでも無く、人体もな」

 

 ステラは呆れ笑いを浮かべている。

 衝撃、圧力、熱。人体を完膚なきまでに破壊して余りあるエネルギーの只中に居たはずのフィリップだが、見える範囲には傷一つない。

 

 「何があったのか。……話せるか?」

 

 話したとして私は正気で居られるのか──お前に話す意思はあるのか。

 

 そういう問いだと理解して、フィリップは小さく笑った。

 

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