なんか一人だけ世界観が違う   作:志生野柱

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 フィリップが王都に帰って来てから一週間ほど経ったある日。

 ステラが、というか、王国が帝国と『勇者強化計画』についての話し合いをしている最中で暇を持て余したフィリップは、イライザとの戦闘訓練を終えてフレデリカの元を訪ねていた。

 

 いつものように茶菓子片手にノッカーを鳴らし、いつものように案内されたリビングには、何やら見覚えのないオブジェクトがあった。

 

 ソファに横たえられたそれは、一見すると長柄のメイスのようだ。

 長い棒の先に、円柱型の金属製パーツが付いている。見るからに重厚感があり、頭蓋骨を粉砕する光景が容易に思い描ける。

 

 フレデリカの護身用武器……という風情ではない。

 女性の細腕なら鈍器より刃物のほうが殺傷力が見込める。

 

 かといって、今は丸腰のフィリップ用の代替品という風でもない。蛇腹剣から長柄の鈍器への持ち替えは、流石にちょっと戦形が崩れすぎる。

 

 「……先輩、これは?」

 「あぁ、うん、失敗作……なのだけれど、一応は君の意見を聞こうと思って置いておいたんだ」

 

 フレデリカは少し照れた様子で言った。

 どこに照れる要素があったのかはフィリップには分からなかったが、そんなことより、このあからさまに“武器”という出で立ちのものが気になる。

 

 「メイスですか。これも変形──」

 「あぁいや、メイスではないよ。これは大砲の研究が盛んだった頃に実験的に作られた、ハンドカノンという武器でね。原理としては大砲や君の銃器と同じ、火薬の爆発で発射体を飛ばして攻撃するものなのだけれど……」

 

 フィリップの勘違いを、フレデリカは遮って正した。

 

 銃よりももっと「小型の大砲」という印象の強いフォルムだ。

 というか、棒の先に小さい大砲が付いているだけに思える。

 

 サイズ感としては小ぶりな槍くらい、柄を含めて全長1.5メートルくらい。

 砲部分の外径は15センチほどで、思ったより軽くて扱いやすいというのが、持ってみての印象だった。

 

 これまでの銃器より口径が遥かに大きいし、威力も相当に高そうだ。

 反面、隠密性は完全に死んでいるけれど──一応は人類文明の中で発明され、魔術師の強力さによって埋もれただけの、人類産の武器だというのなら、何が何でも隠し通す必要はないのだろうか。

 

 「どこが失敗なんですか?」

 「……存在?」

 

 フレデリカは言いにくそうにしつつ、随分と辛辣な評価を下した。

 思わず目を丸くしたフィリップに、彼女は苦笑交じりに弁明──説明をする。

 

 「発明された当時の火薬技術では、そこいらの石礫なんかを撃ち出して、まあ精々10メートルくらいの敵を狙うのが精々だったんだ。それでいて暴発の可能性がすこぶる高く、傾斜のある鉄盾なんかには容易く防がれた。そりゃあ当時の人たちが魔術に傾倒するわけだよね」

 

 ついでに言うと、当時は錬金金属ではなく鉄製で、しかも製鉄技術もあまり発達していなかったため、無駄に重くて脆かった。

 勿論、10メートルの間合いで次弾装填なんか出来ない。一発撃ったら、そこからは鈍器だ。

 

 ただしメイスとは違い、砲は内部が空洞。メイスは柄まで鉄であることが多いが、こちらは木。

 強度では純粋な鈍器に敵わない構造をしている。

 

 これを持つなら槍と投石紐を持った方が遥かに強い。

 言うまでも無く、魔術師には全く通用しなかった。

 

 そんな残念過ぎる武器だが、それは過去の話。

 錬金術による特殊金属に、ここ最近は火薬やら銃器の構造やらを半ば専門に研究しているフレデリカの知識、歴史から学んだ問題点まで把握しているのだから、どうにかできるはず。

 

 目指すは空を舞う龍を撃ち落とす、大口径ゆえ長射程高威力の個人携行重火器。

 

 ──と、思っていたのだが。

 

 「射程と威力を要求水準にすると、反動が強すぎて手で持って撃てない。手で持って撃てるようにすると、射程と威力が要求を遥かに下回る。ペッパーボックス・ピストルよりは高威力だけど、たぶん中級魔術レベルにも満たない」

 

 出来上がったのはとんでもない駄作だった。

 そりゃあ先人たちも見捨てるわけだし、記録を残すわけだ。

 

 失敗作を壊して闇に葬りがちな芸術家や職人と違い、研究者は「失敗」もデータとして有用と認める。次の成功に繋げるためと──後進が同じ轍を踏まないために。

 

 フレデリカは分かった上で「本当だろうか」という好奇心で再現実験をすることも多いし、それで新しい発見があったりもするのだが……今回は先人の二の轍を踏んでしまったわけだ。

 

 「一つ試作してみただけだけれど……もしも国が制式装備としてコレを作るなら、その資源と時間と人員は、穴を掘って埋める作業にでも充てた方がマシだね」

 「罰則じゃないですか……」

 

 フィリップが笑うと、フレデリカもにこりと笑みを浮かべる。

 

 そして「ちょっと待ってて」と言って席を立ち、幾つかの箱を持って戻ってきた。

 

 「あと、これも──魔王征伐遠征を想定すると失敗作なのだけれど、王龍戦には使えると思う。たぶん……。でも、技術的にはかなり新しくて有益なものなんだ」

 

 テーブルに置かれた箱は、ごと、と重そうな音を立てる。

 中身もだが、箱自体もかなりいい素材のようだ。

 

 「まずは何と言っても、コレだね」

 

 フレデリカが自信満々に取り出したのは、フィリップも知っている紙薬莢だった。

 紙状火薬で弾丸と炸薬を包んだ、再装填を簡単にするためのパッケージだ。

 

 ただ、いつもの紙状火薬は白色なのに対して、いまテーブルに置かれたそれは赤色をしていた。

 それに、ペッパーボックス・ピストルで使うものより大きい。

 

 「大口径化するんですか?」

 

 色はどうでもいい。

 問題はサイズだ。六連装のペッパーボックス・ピストルで使うとなると、銃本体が脇のホルスターには収まらない大きさになってしまう。

 

 フレデリカは芝居がかった仕草で唇に指を立て、「説明するよ」と言った。

 

 「炸薬、弾頭、紙状火薬、全てが特別仕様なんだ。まず弾頭──これはサンプルだけど」

 

 取り出した弾頭のサンプルは、これまでの球形弾ではなく、細長い錘形だった。

 後端の平らな紡錘形、といえば近いだろうか。円柱の先端部が尖った、どこか尖塔を思わせる形だ。

 

 「キミのアドバイス通り、比重の重い鉛をベースに、龍素材で表面を覆って強度を確保してみた。それだけじゃなく、ほら──鏃を参考にして、球形じゃなく流線形にして、貫通力を高めてみたんだ。それに見ての通り、これまでの弾丸より大きい」

 

 フィリップの、というか、カノンの「文明のネタバレ」から得た情報ではあるが。

 

 「本当は表層をヴォイドキャリアの素材でコーティングしたかったんだけど、あれは削れなくてね。研究設備で万物溶解液(アルカエスト)まで使ったんだけど、効果なし。いつかあの素材も研究して再現してみたいね」

 

 平然と言われて、フィリップは一瞬だけ「そうなんですね」なんて普通に相槌を打ちそうになった。

 

 「そ、ヴォっ……!? えっ……そ、それ殿下は許可したんですか?」

 「? うん、勿論。でないと持ち出せないよ」

 

 フィリップは久しぶりに──本当に久しぶりに、人間相手に心の底から戦慄した。

 あっさりと頷かれたことも含めて、流石に瞠目を禁じ得ない。

 

 まあアレは王国では由緒正しい品というわけではないけれど、エルフにとっては国宝だったはずだ。

 価値観の狂った身ゆえに自信は無いが、普通はその程度の付加価値でも大切に丁重に扱うものではないだろうか。

 

 戦術的に考えても、次元断の魔剣は軽率に素材にしていいものではない。

 

 そりゃあ確かに、最大の問題点であるリーチの短さを、弾頭へ加工すれば完全に克服できるけれども──ついでに超音速という攻撃性能までオマケで付いてくるけれども。

 

 ……そう考えると、確かに「ちょっとくらいなら」という気はしなくもないが、それでも“魔剣”だ。

 強い弱いではなく、魔剣には魔剣にしかないモノが──ロマンがあるのに。

 

 「炸薬はこれまで以上に爆発時のガス量と膨脹力が高くて、威力も上がってる。ただ、ちょっと不安定だから、量産とか長期保存には向かない。今回はともかく、魔王征伐には持っていけないかもしれないね。……もちろん改良は続けるけれど、正直、期待はしないでほしいかな」

 

 研究者って怖いなあ、とちょっと引きつつ──フィリップを知る者からすれば「お前が?」という話ではあるが──茶々は入れず、ちゃんと話を聞く。

 

 フレデリカ自身の興味関心も含まれているとはいえ、銃器の研究は殆どがフィリップのためだ。

 何より、自分が使う武器についての説明は真面目に聞いておかないと、自分や仲間を傷つけることになりかねない。

 

 「紙状火薬は安定性と気密性を重視して、私の方で紙薬莢の形に整形しておいた。開けたり、破ったりしちゃダメだよ。炸薬が変質しちゃうから」

 

 ごと、と両手に少し余るサイズの木箱が置かれる。

 パーカッションキャップを入れていた防湿性の高い容器と、素材や加工の質感がよく似ていた。

 

 中には同じ紙薬莢がずらりと並んでいるが、数はそう多くない。

 全部で十個──十発。

 

 戦闘中にえっちらおっちら再装填していられないことを考えると、一度の戦闘で使うには過剰なほど多い。

 しかし遠征を通してと考えると、頼りないなんて言葉では足りないほどに足りない。

 

 「つまり、これは──」

 「魔王や王龍と戦うために作った試作専用弾。名付けるのなら──」

 

 とんとん、と防湿ケースを叩き、フレデリカは自身の発明品に思いを馳せた。

 

 本質を隠すコードネームの類は必要ない。

 名前を付けても、どうせ広く発表したりはしないのだ。フィリップと自分の間でだけ使い、二人の中で「アレ」「あぁアレ」とロスなく理解できればそれでいい。

 

 これはどういうものか。

 これは──、

 

 「19ミリ対王龍用龍骸弾頭強装特殊弾包(ドラゴンスレイヤー・パッケージ)

 

 弾頭直径19ミリ。

 龍骸素材のジャケット。

 専用の特殊炸薬。

 

 王龍を傷つけるための弾薬。

 

 そのままといえば、そのままの名前だ。

 

 フレデリカのネーミングセンスがフィリップの感性と似通っているのは、これまでの付き合いで分かっている。

 案の定、フィリップは「ほう」と頷いてすんなりと受け入れた。

 

 「それから、これ──流線形の飛翔体は実のところ、空気の抵抗に対してとても弱い。重心の位置と空気抵抗を受ける中心点がズレているから、風に煽られてコンパスや梃子のように回転してしまう」

 

 フレデリカは弾頭のサンプルを片手で持ち、もう一方の手で先端を押す。

 すると弾頭は横を向く。今は彼女がそういう風に持って押しているから、当然にそうなるが──風、というか空気の抵抗でもそうなるだろう。

 

 それはフィリップにも直感や経験で分かる。

 いや、というか、丸いボールならどれだけ回転しようが関係がない。弾丸が球形なら前も後ろも横もないし、前で当たろうが後ろで当たろうが威力は同じ、前を向いて飛んでも横を向いて飛んでも飛翔にブレは生じない。

 

 しかし前後や側面のあるもの──ナイフやカードの類は、確かに回転していないとまともに飛ばない。

 

 「けれど、回転というのは面白いものでね。矢もそうだし、コマやボールもそうだけれど、一方向に回転している物体は、他方への力に対して抵抗する。空気抵抗に負けにくい」

 

 それもまあ、経験からそうだろうとは分かる。

 フィリップは一時──修学旅行中のほんの数日だけカードスローイングの練習をしていたが、まっすぐ飛ばすコツは、腕のスナップでトランプに思いっきり回転をかけることだった。

 

 隠し芸以上の意味が無いことに気付いて、すっぱりと止めたけれど。

 

 「だから、先に弾丸を、こう──縦でも横でもないな。ええっと……進行方向を軸として回転するよう、銃身にガイドを彫ってあるんだ。これなら弾頭は最も貫通力のある向きで命中するし、流線形を活かして飛距離も速度も上がる」

 

 ごと、と、新しいケースがテーブルに置かれる。

 それはこれまでの銃器が入っていたものより、明らかに一回り以上大きかった。

 

 ぱちぱちと留め金が外され、蓋が開く。

 

 中にあったのは、ペッパーボックス・ピストルよりもフリントロック・ピストルに近いフォルムの、しかしもっと巨大で、洗練された印象の強いものだった。

 

 磨き上げられた木材のフレームに、錬金金属の銃身。

 

 フィリップには一目で銃器だと分かる、単銃身の──六連装だったペッパーボックス・ピストルよりも退化しているように思える形状だ。

 にもかかわらず第一印象が“洗練されている”なのは、フレデリカのデザインセンスのなせる業か。

 

 「だからメンテナンスが大変で、長期に亘る魔王征伐には向いていないんだよね、これも」

 「大きい……。完全に新しいモデルですね」

 

 ただ大口径化したフリントロック・ピストルなどではない。

 それは説明を受けるまでも無く、フィリップが少し観察すれば理解できた。

 

 ハンマーが銃身後部にあり、そこには何も付いていない。

 燧石式ではなく、未だ試作テスト中のパーカッション・キャップによる発射方式だ。

 

 「そうだよ。ドラゴンスレイヤー・パッケージ専用、()()()()()()()()()()()単発パーカッションロック・ピストル」

 

 フレデリカは片手でそれを示した。

 「持ってみろ」という意図を察し、フィリップは緩衝材の敷かれたケースから両手で銃を取り上げる。

 

 ずしり、と思った以上の重みを感じつつ、グリップを握り直す。

 

 「全長37センチ、本体重量は1.5キロ。計算上の威力は、これまでのフリントロック・ピストルの十倍はある」

 

 デカい。そして重い。

 携行性と秘匿性を重視していたフリントロックやペッパーボックス・ピストルとは段違いのサイズだ。

 

 魔王征伐──人類未踏領域である暗黒大陸での運用を想定していたからだろう。

 

 何度かクイックドロウの動きをしてみたが、これまで通りの速度は出せないし、ホルスターやジャケットに引っ掛かりそうだと感じた。

 

 「ブレークオープン……? ……おぉ」

 

 それらしい留め金を外すと、フォアエンド内の軸を起点に銃身がぱかりと折れ、銃身後部が持ち上がるように展開される。

 ちゃきん、と僅かに金属音がしたが、どこか癖になるような小気味よいものだ。

 

 バレルには当然、弾丸がぴったり填まるサイズの穴が開いている。銃口を覗いてみると、確かに螺旋状の凹凸が見えた。

 

 後装式──つまり銃身を展開し、後部から紙薬莢をセットして装填する方式なのだろう。

 

 銃口から火薬を入れて紙を入れて棒で叩いて、弾を入れて棒で押し込んで、最後に引火防止のグリスを詰めて……という通常装填は言うに及ばす。

 

 紙薬莢を入れて棒でトントン、という、楽ではあるが戦闘中にはちょっと有り得ないほど面倒で隙の大きい簡易装填よりも、遥かに速い。

 

 「大発明すぎる……。いやでも単発式かあ……」

 

 再装填は、確かにものすごく高速化される。

 しかし六連射できるペッパーボックス・ピストルと比べると、対応力が大きく落ちるのは間違いない。

 

 ──大発明と言うなら、むしろ弾丸を先鋭化し先んじて回転を与えることで飛翔安定性や威力を担保するライフリングシステムの方が、よっぽど大発明なのだが。

 

 だがしかし、フィリップにとって銃器は「見せたら殺す必要性がある」必殺の武器だ。

 最速で撃って必中の確信がある七メートル圏内の的を撃つモノ。先手必勝の奇襲用装備。

 

 要は、弾がだいたい十メートルくらい真っ直ぐ飛べば、それでいいのである。

 ドラゴン相手に使うつもりも、勿論なかった。ドラゴンスレイヤー弾なんてものを見るまでは。

 

 故にフィリップにとって「飛距離と安定性が物凄く伸びる」というのは、無駄とまでは言わないまでも、直感的にメリットと思う要素ではなかった。

 

 「想定射距離は50から100メートル。本当はもっと長くしたかったんだけど、反動との兼ね合いもあってね……。銃身の上にあるのが簡易照準器。照門と照星、そして標的を一直線に揃えて撃つ。君の腕と経験を見込んで、単純だけど軽量で、メンテナンスの要らないものにしてあるよ」

 

 銃身上部の手前に凹字型、銃口上部に凸字型の突起があるだけの照準器。

 だがそもそも、フィリップは身体の感覚で撃つことに慣れている。真後ろの敵を、ホルスターに収めたままの銃で、空間把握力だけを頼りに撃つことだって出来るほどに。

 

 ……いや違う。

 この重量このサイズでは、クイックドロウやドロウレスは最適な運用法ではない。

 

 この武器の運用方法は、フレデリカが想定している通り──。

 

 「戦形を変えるとは言わないまでも、使い方はだいぶ変わりますね」

 「うん。これまでと違って「遠くの標的を狙って撃つ」ことに特化したモデルだ。名付けるなら、そうだな……『ターゲット・ピストル』というのはどうだろう」

 「……いいと思います」

 

 名前に関してだけではなく、フィリップはそう思った。

 

 まあ、正直これが王龍に対して有効かと言われると、全然そんな風には思えないけれど──これは所詮試作機であり、失敗作であり、実験機だ。

 

 「回転弾頭、彫刻付きバレル、後装式構造、照準器と長距離狙撃運用……いつも通り色々とテストしてみて、フィードバックしてほしい」

 

 新技術にも満たない、試作技術の詰まったテスト品。

 フレデリカだって古龍を見ているのだ。たかだか19ミリの鉛玉が、巨大生物の前でどれほど心許ないかは分かっている。

 

 彼女はこれで魔王を倒すとか、王龍を撃ち落とすなんてことは考えていない。

 まず以て、龍骸弾頭弾と強装炸薬が効くかどうか。それすらも、今回のテストで判明する。

 

 「これで倒せ!」ではない。そんな確信はない。

 「これはどうだろう」でしかない。好奇心でしかない。

 

 ともすれば、王龍相手の戦闘という決死の鉄火場へ赴く人間に対して、あまりにも不謹慎だと怒られるかもしれない。

 

 だが、これを持って使うのはフィリップであり──フィリップは決死の鉄火場に向かうなんて、これっぽちも思っていない。

 何も問題はないし、問題にする人間もいない。

 

 それからフレデリカは、また別なケースをテーブルに置いた。

 今度の中身は、見覚えのあるものだ。

 

 「それから普段使い用に、前のモデルのペッパーボックス・ピストルと弾薬ね。パーカッションキャップのテストは継続してお願いするよ」

 

 過去に彼女が警告した通り、恐ろしいまでの量産性だった。

 

 

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