GOD EATER ー人外の王ー   作:継文

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十一話

「NO LIFEは……カズマ隊長のご家族の方ですか?」

 

驚きを隠せないシエルは、目を白黒させたまま尋ねた。

 

榊は、真偽は分からないと言わんばかりに首を横に振った。

 

「十中八九そうだろうけど、正確な事は言えない。何せフェンリルが重視するのは家柄や知名度等ではなく、能力だ。だから身辺調査なんていい加減なものなんだ」

 

そう言って、榊は椅子の背もたれに背中を預けた。

 

「私はカズマ君とNO LIFEの姓が同じだという事を知った時に気付いてしまったんだ。NO LIFEの事を大して知らないのと同じ様に、カズマ君の事も大して知らない事に」

 

榊は背もたれにもたれ掛かったまま、天井を見上げて憂いを帯びた重い溜め息を吐いた。

 

「━━仲間なのに」

 

榊の自嘲の言葉は刃となってシエルの胸に深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

シエルは、カズマを支部長室に連れていく為、彼の病室を目指して歩いていた。その足取りはしっかりとしていたが、表情は落ち込んだように重かった。

 

まるで打ちのめされた気分だった。

 

榊がカズマの事を知らないように、シエルも彼の事を知らなかった。

 

いや、正確には知ろうとしてこなかった。

 

カズマは戦闘能力は勿論、指揮・統率能力にも優れ、洞察力も高い。その上、色んな人を惹き付ける不思議な魅力を持ち、どんな逆境にも動じない強い精神力の持ち主。

 

指揮官として必要な能力を全て兼ね揃えた、理想的で眩しい人間だ。だからこそ目が眩んだ。

 

カズマの華々しい活躍ばかりに目が行き、彼の過去をまるで気にならなかった。

 

極東支部でカズマの一番の理解者である事を自負するシエルだったが、それがただの自惚れだった事に気付いてひどいショックを受けていた。

 

一体どんな顔をして会えば良いのか。そう考えてしまうが、シエルの律儀な性格では逃げるという選択肢は浮かばす、足は真っ直ぐカズマの病室に向かっていった。

 

やがて、病室の前に着き、シエルはドアのノックを躊躇ってしまう。

 

ノックをしようと上げた手を下ろしては上げ、下ろしては上げ、を繰り返していると、病室の中からゴトゴトと物音が聞こえてきた。

 

そして、シエルの心の準備を待たずに病室の扉が開いてしまった。

 

中から出てきたのはカズマだった。

 

カズマは患者服から普段着に着替えていた。

 

どう見ても退院する格好だ。しかも、カズマの足下には見舞いの品々が置いてある。

 

「おっ、シエルか。どうした? 」

 

いつも通りに接してくるカズマを真っ直ぐに見れず、シエルは思わず視線を逸らしてしまった。

 

それを不思議そうに見ていたカズマだったが、直ぐに何かを察したようで、顔を真剣なモノにした。

 

「何か後ろめたい事があるのか?」

 

言い当てられて、シエルは俯いてしまった。

 

こういう時のカズマの察しの良さは、相手にとって害であり、追い詰めてしまう事がある。それは自身も自覚している事であり、悪い癖だと思っている。

 

カズマはバツが悪そうに頭を掻くと、強引に話題を変えた。

 

「……あー、とりあえず医者からは退院の許可が出てるから、見舞いの品を運び出すのを手伝ってくれないか?」

 

「は、はい」

 

言われるがままに、シエルはカズマと共に見舞いの品を運び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

全ての見舞品をカズマの部屋に運び終えたところで、休憩する事になった。

 

「コーヒー飲むか?」

 

「……はい」

 

作業中、カズマが色々と話しかけていたが、シエルはまともな返事が出来なかったので、二人の間はぎこちない雰囲気になっていた。

 

流石のカズマもまいってしまい、コーヒーを淹れる事で会話の切っ掛けを掴めないものか、と考えていた。

 

二人は無言のままで、コーヒーのドリップをする音と香ばしい香りだけが部屋を支配していた。

 

コーヒーで満たした二つのカップをテーブルに並べたカズマがソファーに腰を下ろした。それに倣うように、シエルもソファーに座る。

 

机を挟んで向かい合う二人だが、それでも話す事ができずに、空気は気まずいままだ。

 

カズマとしては、全く意味が分からない。ついさっきまで普通だったシエルが暗い顔で戻ってきたのだ。

 

突然退院になった訳を話しても彼女は暗いままなので、どうしたものかとカズマはコーヒーを一口啜った。

 

そこで、遂にシエルは重い口を開いた。

 

「申し訳ありません、カズマ」

 

「……何がだ?」

 

突然の謝罪に頭が追いつく筈も無く、カズマは首を傾げるばかりである。

 

「えーっと、何が申し訳がないのか説明してくれないか?」

 

「あっ、そうでした。すみません」

 

言って、頭を下げたシエルは、何度も言葉に詰まりながら説明した。

 

自分がカズマの理解者でありながら、その実、何も知らないただの自惚れだったことを。

 

カズマに幻滅されるかと思った。しかし、当の本人の反応は気の抜けたもので、何やら呆れたようなホッとしたような微妙な顔をしていた。

 

「お前な、そんな事を気にしてたのかよ」

 

「なっ! そんな事って━━」

 

シエルの葛藤が、そんな事呼ばわりされ、思わず声を荒げてしまったが、カズマは気にせずに話す。

 

「そんな事だよ。何しろ俺は話す必要を感じなかったから話していないから、知らなくて当然だ。そもそも、シエルは俺の事を十分に知ってんだろ」

 

「私が、ですか?」

 

「そうだ。試しに俺に関することを上げてみろ」

 

言われて、シエルはカズマに関する情報を一つ一つ上げていった。

 

「2070年、14歳で偵察隊に非正規隊員として所属。2074年に第三世代神機の適合が判明して、同年にブラッド隊に移籍。その後、めざましい活躍を見せ、隊長にまで昇格しました」

 

シエルの説明は、カズマが調査隊に所属していた頃から始まって、現在に至るまでのものだった。

 

そろそろ良いか。そう思って、カズマはシエルを諭そうと、口を開きかけたが、彼女は止まらない。

 

「━━性格は怠け者ではありますが、楽をする為の努力は惜しまず、日々の訓練や、作戦の立案には余念がありません。趣味はターミナルでダウンロードした20世紀後半から21世紀初頭の映画の鑑賞です。また、音楽鑑賞も好み、休日にはクラシックやロックバンド等、幅広いジャンルの音楽を聴いています」

 

「んん? おーい、そろそろいいぞ」

 

何やら話がおかしな方向に行き始めたので、カズマは止めるように行った。

 

しかし、カズマの声はシエルの耳に届かず、説明はますますおかしな方向に進む。

 

「━━女性の胸に対して魅力を感じるという情報がH.M氏から寄せられ━━」

 

「ちょっと待て!」

 

話が完全にあらぬ方向に行ってしまったので、カズマは力ずくでシエルを止めた。

 

「と、とりあえず、シエルは俺の事を十分に知っている」

 

「そうでしょうか。私はもっと知っておくべきだと思うのですが」

 

「いいや、趣味と経歴を知ってりゃあ十分だ。ちなみに、俺が胸好きと言うのは誤報だからな」

 

「?」

 

カズマの言わんとしている事が分からず、シエルは理解が追い付かない様子だ。

 

でも━━

 

「でも私はカズマの事をもっと知りたいです過去の事もこれからの事も」

 

「なら、訊けば良い。俺はシエルには隠し事をしないと決めてるからな」

 

言って、カズマは温くなったコーヒーカップを煽って一気に飲み干した。

 

シエルもコーヒーを一口飲んで、唇を湿らした。

 

「なら、教えていただけますか? 君の過去とNO LIFE……いえ、神堂アズサの事を」

 

シエルはカズマの目を真っ直ぐに見詰めて問いかけた。

 

カズマは予想外と言わんばかりに目を見開いたが、それも一瞬の事で、すぐにいつもの鋭い目に戻った。

 

「どこでその名前を?」

 

カズマの質問にシエルは詳しい事情を説明した。だが、カズマはグレムの名前にも、提示された援軍の条件にも関心を示さず、榊が語った神堂アズサの話しだけに関心を示した。

 

「そうか、あいつ本気なんだな」

 

説明を聞き終えたカズマは、一言だけそう言った。

 

それから、カズマは厳かに告げる。

 

「シエル。少し長くなるが、俺の昔話に付き合ってくれるか?」

 

シエルは迷わず頷いた。

 

榊にカズマを呼んで来るように言われていたが、カズマの話の方が重要だと判断した結果だった。

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