GOD EATER ー人外の王ー   作:継文

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十二話

カズマは外部居住区で生まれ育った。

 

そこは外部居住区の中でも特に治安が悪かった。

 

父も母も普通の人間だったとカズマは記憶している。

 

生活は決して豊かではなかった。

 

トタンで出来たボロい小屋の様な家に住み、寒い夜なんかは家族で肩を寄せあって過ごしていた。だが、不幸ではなかった。

 

ある夜の事だった。

 

いつものように親子で川の字になって寝ていたら、鉄パイプを持った数人の男が押し入ってきた。

 

そして、両親は鉄パイプを用いた極めて原始的な方法で殺された。

 

男たちは家にあった僅かばかりの金と食糧を持っていった。

 

去り際、一人の男は呆然とする幼いカズマを見ると申し訳なさそうに言った。

 

『恨むなよ、ボウズ。こうしないと俺達が生きていけないんだ』

 

加害者であるのに、被害者ぶった物言い。罪から逃れる為の安い言葉。

 

カズマは幼心に思った。ズルい大人だと。

 

カズマは八歳にして天涯孤独の身になり、全てを失った。

 

その後の事は大体の事しか覚えていない。

 

食糧を得るために盗みを覚え、限界を感じれば他の子供達と共同で盗みを働いた。ただ、死に物狂いに生きようとしていた事だけはハッキリと覚えている。

 

そして、カズマが十歳になった頃、ある男に声を掛けられた。

 

『キミ、ご飯が一杯食べれる良い話があるんだけど、聞いていくかい?』

 

幼いカズマでも分かる、あまりにも怪しい話だ。

 

だが、カズマは首を縦に振った。

 

話の正否なんてこの時のカズマにはどうでもよかった。

 

外部居住区で盗みをして食い繋いでいくのと、怪しい男に着いていくのに大差は無いと思ったからだ。

 

カズマが頷いたのを見て、男は意気揚々とカズマを近くに止めていたトレーラーに乗せた。

 

車内には、カズマと同じく薄汚い格好をした子供達が沢山いた。

 

その中に、右目が潰れている少女がいた。

 

歳は十三歳程で、カズマと同じ灰色の髪を肩で切り揃えている。陶磁器の様に白い肌は、薄汚れた服と対照的で、より美しく見える。顔は整っており、美少女と言っても差し支えは無い。だが、彼女の潰れた右目がその全てを台無しにしていた。

 

その少女が神堂アズサだ。

 

 

 

 

カズマ達を乗せたトレーラーはある施設に着いた。

 

そこはフェンリル所有の施設のようで、職員の服にはフェンリルのエンブレムが付いていた。

 

白い壁にリノリウムの床、連れて来られたカズマ達を観察しながらクリップボードに何か書き込む白衣の男に、ライフルで武装した警備員。

 

孤児院とはまるで違う、異様な空気を纏う施設に子供達は怯え、戸惑っていた。

 

施設内のホールに集められ、しばらく待たされると、一人の男が警備員を引き連れながらやって来た。

 

その男は自分を所長と名乗り、この施設は優秀な人間になるための訓練施設だと紹介した。

 

『君たちは我々の訓練を受けることを許された選ばれた人間だ』

 

所長に才能を見いだされた様な事を言われ、子供達は戸惑いや嬉しさで色めき立った。

 

周りがザワザワと騒ぐ中、カズマは所長の話しに興味が湧かなかった。いや、正確には胡散臭すぎて聞いていられない、と言ったところだ。

 

胡散臭い言葉で喜んでいる周りの子供達を見回していると、一人の少女と目が合った。

 

アズサだ。

 

彼女もカズマと同じ思いだったのか、馬鹿にするかの様に、周りの子供達を見ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

施設での訓練は過酷を極めた。

 

殺し合い寸前の格闘訓練、目隠しをした状態での銃の分解と組み立て、間違える度に電気ショックを受ける座学、他にも射撃、劇物の取り扱い、破壊工作、など様々な訓練を受けた。

 

また、成績が一番低い者とミスをした者は、懲罰として鞭で叩かれた。

 

子供達にそんな訓練に耐えられる筈もなく、脱落者が続出した。

 

当時、カズマはアズサとバディを組んでいたが、アズサは非常に優秀で、彼女が懲罰を受けているところなど見たことがなかった。

 

アズサは人と必要以上に距離を取る事があり、カズマとも必要な事以外、何も話さなかった。

 

カズマもそれで困る事も無かったので、自ら歩み寄る真似はせず、お互い空気の様な存在だった。

 

だが、そんな関係が突然変わった。

 

それは、訓練生達全員が車座になって、自分の生い立ちを順番で語り合っている時の事だった。

 

娯楽と呼べる物が無かった当時、訓練生達は自分の事を話をしたり、聞いたりするのが唯一の娯楽だった。

 

どの訓練生達も、アラガミの襲撃で家族を亡くした者達ばかりで、一人の話が終わる度に皆で慰め合い、アラガミに復讐を誓い合っていた。

 

それがカズマには情けなく見えて、一刻も早く終わらせて自分の部屋に戻りたかった。

 

カズマに順番が回ってきた。

 

早く終わらせたかったカズマは、簡潔に答えた。

 

家族は人間に殺された、と。

 

カズマの言葉に誰もが言葉を失い、その場は静まりかえった。

 

それで話は終わりとばかりに、カズマは席を発ち、自分の部屋に戻った。

 

その途中、誰かがカズマを追い掛け、呼び止めてきた。

 

アズサだ。

 

他人と距離を取る彼女に呼び止められるとは思っていなかったので、カズマは驚いた。

 

『今の話は本当?』

 

アズサが訊いてきた。

 

今の話とは、カズマの両親が人間に殺された事だ。

 

誤魔化す気は全く無かったので、カズマは頷きで答えた。

 

すると、アズサは弾けるような笑顔を浮かべた。

 

まるで、ずっと探していた仲間を見つけたかの様に。

 

その日から、アズサはカズマと積極的に話すようになった。

 

カズマの至らない所を指摘して改善させたり、怪我したときには包帯を巻いてくれたりなど、まるで姉の様に世話を焼いてきた。

 

あまりの変わりように、カズマは戸惑っていたが、次第に受け入れるようになり、アズサを姉の様に慕うようになっていった。

 

カズマが十四歳になるころ、沢山居た訓練生達はカズマとアズサを含めて十名にまで減っていた。

 

『カズマ、知っているか?』

 

相部屋のアズサが訊いてきた。

 

『この訓練施設はゴッドイーターの養成所なんだそうだ。脱落した奴等は偏食因子の投与実験に使われ、生き残っている奴はいないだろう』

 

何でそんなことを知っている? と尋ねたら、アズサは笑って答えた。

 

『職員のパソコンをハックしたら分かった。それはそうと、一昨年から言っている事だが、お前はもう少し諜報技術を磨いた方が良いな』

 

うるさい。大体、脱落したら実験台にされるのがなんだ。脱落しなければ良いだけだろ。

 

『ああ。だがな、この施設はもうじき閉鎖される。そうなれば、私達全員が実験台にされるだろう。しかし安心しろ、カズマの事は私が守る。何しろ私はお前の姉だからな』

 

アズサがそう言った数日後、施設で訓練生による反乱が発生した。

 

八名の子供達とはいえ、過酷な訓練の生き残りだ。たちまち施設は火の海に沈み、反乱を起こした者達も全て焼き尽くした。

 

カズマとアズサは反乱に乗じて施設を脱出していたので、難を逃れた。

 

アズサは、燃える施設を遠くから見ながら笑って言った。

 

『少し煽ってやったらコレだ。訓練生の単純さと職員の管理の弛さは爆笑ものだな』

 

カズマがその言葉の意味を正しく理解したのは数年後の事だった。だが、意味を理解していなくとも、この時のカズマは本能でアズサに言い知れぬ恐怖を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━施設から脱出した後、俺とアズサは審査の弛い偵察班の非正規部隊に入った。その時に、俺がアイツの名字を名乗って、姉弟と偽った」

 

そこまで言って、カズマは一旦区切るようにカップにコーヒーを注ぎ足し、一息吐いた。

 

そして、アズサについて語った。

 

「NO LIFEの活躍は、俺もよく聞く。黒い噂なんか気にしなかったが、その正体がアズサなら話は変わってくる。アズサの一番ヤバいところは、戦闘能力でも指揮能力でもない。どんな企みも実現させる行動力と計算高さだ」

 

そこで話は終わり、カズマは冷めたコーヒーを一息で飲み干した。

 

シエルは言葉を失っていた。

 

カズマの過去は容易く聞いてはいけないモノだったと感じて。

 

━━否!

 

シエルは頭の中で強く否定して、弱気の虫を追い出した。

 

自分がカズマの口から直接に知りたいから聞いたのだ。だからここで同情するかのように黙っていては駄目だ。自分はカズマの右腕であり、友達なのだから。

 

そして、シエルはカズマがしたように、カップを煽ってコーヒーを一息で飲み干した。

 

普段の彼女らしからぬ行動に、カズマは驚いた。

 

コーヒーを飲み干したシエルは、カップを机に戻したら、頭を下げた。

 

「君の過去の話を聞かせてくれて、ありがとうございました」

 

こう言って正解なのかは分からないが、シエルは謝罪ではなく、礼を言うべきだと思ったのだ。

 

カズマはしばらく呆然としたが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

話が終わった後、カズマとシエルは、飲み終わったカップとコーヒーメーカーを洗っていた。

 

その作業中、シエルは思い出したように言った。

 

「そう言えば、どうしてカズマは急に退院になったのですか?」

 

「んー、リハビリを始めてみたら、思いの外動けたからな、医者に追い出された」

 

「そうだったのですか」

 

話している間に洗い物が終わり、カズマとシエルは、支部長室に向かうために部屋から出ていった。

 

「隊長、本部の応援が絶対に来るとしても、学術都市への出動は免れません。いかがいたしますか?」

 

カズマの隣を歩くシエルに訊かれ、カズマは歩きながら、何でもないように答えた。

 

「そうだな、威力偵察をしてみるかな」

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