支部長室を退室した後、カズマは一旦シエルと別れて、神機の整備場にある休憩所でリッカと会っていた。
目的は神機の詳しい修理状況の確認と、リッカにある頼み事があるためだ。
現在リッカの手には、彼女の好物である冷やしカレードリンクが握られている。
ご機嫌取りの為にカズマが貢いだ物だが、リッカは喜ばずに憮然とした態度でカズマを睨んでいた。
「退院おめでと」
冷やしカレードリンクのプルタブを開けながら、リッカは取り敢えずと言った感じで、冷ややかにカズマの退院を祝した。
あからさまな社交辞令に居心地の悪さを覚えて、カズマはつい尋ねる。
「リッカ、怒ってるのか?」
「そうだね、結構頭にきているよ。何でだと思う?」
「えっと、……神機をぶっ壊したからか?」
カズマの答えを聞いて、リッカは冷やしカレードリンクを一口飲んで盛大な溜め息を吐いた。
「っはあぁぁぁぁぁ~~~~……、全然ダメ。0点、落第ものだね」
「うっ……」
かつて無い刺々しい反応にカズマはたじろいた。
そんなカズマの様子を気にせず、リッカは続けて言う。
「確かに心情としては神機を壊されたくはないよ。でもね、アラガミを相手にしてるんだから神機が壊れるのは仕方がない。神機が壊れても君達が無事に帰ってきてくれるんだったら私からは何も文句なんて無いよ」
「じゃあ、何に怒ってんだよ」
「分かんない?」
「ああ」
「ふう~~ん。重症だね、これ」
心底呆れたと言わんばかりの目で流し見て、リッカはもう一口冷やしカレードリンクを飲んだ。
そして、怒ったように眉を吊り上げて、リッカはカズマを睨んだ。
「私はね、君が瀕死の重傷で帰って来て、とっても心配したんだよ。それなのに当の本人は目が覚めるなり『神機の修理状況は?』『ちょっと頼みたい事があるんだが』って、ふざけないで!」
怒り出したリッカの語調はどんどん荒くなっていき、しまいには目に涙が浮かんでいた。
リッカに圧倒されたカズマは、何も言えずに黙って彼女の言葉を受け止める。
「君がどうでも良い人なら私は何も言わないよ。せいぜい笑って『分かった、やっとくよ。無理はしないでね』て言うだけだよ。でも、私は君の事が何よりも大事だから! 君には死んで欲しくないから!」
いつしか、リッカの怒鳴り声には震え、目からは涙が溢れていく。
「だから……カズマは何よりも先に、私に言うことがあるでしょ……」
リッカの言い分は正しい。
確かにカズマの行動は自己中心的で、リッカに対する思いやりが欠けていた。
(リッカが怒るのも無理は無いな)
自分に対する情けなさとリッカに対する申し訳無さで、カズマの頭は自然と下がっていき、謝罪の言葉が出てきた。
「すまなかった。俺のせいでリッカに心配をかけた事を心から謝る」
「……本当に反省してる?」
リッカの言葉にカズマは頭を下げたまま応える。
「ああ、反省している」
「……」
「……」
しばらくの沈黙後、リッカは手の甲で乱暴に涙を拭うと、許すように微笑むと、晴々と告げた。
「なら良し!」
カズマの謝罪後、リッカが落ち着くのを待ってから話は本題に入った。
「とりあえず、君の神機は完全な修復に後二週間はかかるかな」
「うわっ、二週間もかかるのかよ」
「なに言ってるの、"二週間も"じゃなくて"二週間で"治るんだよ。本来なら廃棄になっていてもおかしくない損傷具合だったんから」
━━私じゃなかったら確実に廃棄してたね。と呟きながらリッカは残りの冷やしカレードリンクを飲み干した。
「なんだよ自慢か?」
「まあね。神機の修復は、コアさえ無事なら理論上は可能だけど、修復に使用するオラクル細胞の量を間違えたら、コアが破壊されちゃうんだよね。例えば、オラクル細胞の供給量が少なすぎたら修復が間に合わず、自壊しちゃうし。逆に多すぎたら供給したオラクル細胞に神機を食い潰されちゃうんだよ。だから、神機の損傷具合を見て、適切なオラクル細胞の供給量を決めて、回復具合から日々の供給量を調整する。これって結構難しいんだよ」
「ほー、それは確かに凄いが、整備士と言うより、まるで医者だな」
「あははははっ! 言えてる。まあ、実際のところ神機は生体兵器だし、医者って言うのもあながち間違いじゃないよ」
愉快そうに笑ったリッカは、空になった缶をゴミ箱に向かって投げた。
リッカが投げた空き缶は綺麗な放物線を描いて、吸い込まれるようにゴミ箱に入った。
「よしっ!」
「お見事」
リッカは小さくガッツポーズをして、カズマは軽く拍手をして称える。
「あっ、そう言えば何か相談があるって言ってなかった?」
カズマの拍手に、照れるように笑って応えていたリッカが、唐突に思い出したように訊いてきた。
そこで、カズマは顔を引き締めて真剣に言った。
「リッカに、特化型の神機を造って欲しい」
「特化型の? 別に良いけど、どんなのが良いの?」
「種類はロングブレード。無属性で、どんな欠陥が出ても良いから、切断能力を限界まで高めてくれ。出来るか?」
カズマの注文にリッカも真剣な顔付きになって、自身の小さな顎に手を当てて、しばらく黙考する。
やがて答えは出たのか、一度頷いてカズマを真っ直ぐに見詰めて言った。
「一応、出切るよ。ただ、とんでもないジャジャ馬になりそうだから、性能が発揮出来るかどうかは君次第だね」
「構わない。資金と素材は全部俺が持つから、リッカは思う存分やってくれ」
「へえ、そんなこと言っちゃって良いの? 一から造ることになるから、かなりの金額になるよ」
急にリッカは挑発的な笑みを浮かべて、払えるの? と尋ねてきた。
確かに、神機のパーツを一から造るとなると、十万fcは軽く掛かる。その金額は一般的なフェンリル職員の年収に相当する額だ。
いくら高収入のゴッドイーターでもなかなか払える額ではない。
しかし、カズマは口の端を吊り上げて、余裕たっぷりに答えた。
「資金は百万fc出す」
「ひゃくっ!?」
あまりにも馬鹿げた金額を提示され、リッカは驚愕の声を上げた。
そんなリッカの反応を気にせず、カズマは続ける。
「資金は足りなくなればいくらでも追加するし、素材も感応種や接触禁忌種にあらゆる貴金属も用意してある」
破格の条件に最早笑うしかなく、リッカの口から乾いた笑い声が洩れていた。
「はは……、君の総資産を数えたらとんでもない金額になりそうだね」
「まあ、引退後の生活は安泰だろうな」
「……なんにしろ。これだけの好条件を出されたらやるしかないよね。期待してて、最高の仕事をするよ」
「頼むぞ」
話しが纏まり、カズマは満足げに頷いた。
「話はこれで終わり?」
「いや、俺の"予備"の神機は使えるか?」
「予備の? うん、いつでも使えるように整備してあるよ」
「助かる。明日出撃するから二番の装備セットの準備をしておいてくれ」
「オッケー」
今度こそ本当に話しは終わり、カズマは休憩所から出ていった。
それを見送ったリッカは、誰に言うわけでもなく呟いた。
「カズマは何でもないように予備の神機なんて言ってるけど、分かってる? その異常性が」
通常、ゴッドイーターが適合する神機は一人につき一つだ。
と言うのも、神機はゴッドイーターの遺伝的体質によって適合するかしないかが決まる。つまり、神機にはそれぞれ好みが存在する。
それ故、同じ神機使いでも他人の神機は使えないし、ショートブレードの神機が使えるからと言っても、バスターブレードの神機が使える訳でもない。
事実、他人の神機を使用して手がアラガミ化した事例があり、他のゴッドイーター達は別の系統の神機に変えることが出来ない。
だが、カズマは全ての系統の神機に適合し、あらゆる局面に対応することができる。
リッカは思う。
カズマの万能性はあらゆる人達の希望であり、拠り所だ。しかし、それ故に大勢に頼られ、無茶な命令を受けて、いつかは使い潰されるのではないか? と。皆がカズマに頼る状況で、一体誰が彼を助けるのだ、と。
━━私がカズマを守ってあげれば良いじゃん。カズマの神機を使用不能にして、出撃させなければ彼を守れるよ。
不意にある考えがよぎった。
その考えは悪魔的で、リッカの心を甘く揺さぶった。
「……なに考えてんだか」
リッカは鼻で笑った。
「そもそもカズマは人が戦っているときにジッとしていられる性格じゃないし、神機が無くてもアラガミに立ち向かうような人間だから。それに私は彼を裏から支えるので十分!」
わざとらしい独り言を言って、リッカは大きく伸びをして気合いを入れた。
この時、リッカは自覚していなかった。今の言葉はただの強がりで、脳裏によぎった悪魔の囁きに魅力を感じてしまった事を。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
皆さんに読んでいただける事に喜びを感じる日々で、本当に感謝の念が絶えません。
さて、今回の話しですが、皆さんに謝らなければならない事がいくつかあります。
まず、更新が遅れてしまった事です。
楽しみにしていた方々には本当にすみませんでした。
遅れた理由は、自分で納得出来るものが書けず、出来るまで書き直していたことです。本当にすみませんでした。
もう一つは、キャラクターを崩壊させてしまった事です。
特にリッカファンの皆さん申し訳ありません。
理由は、ただ単に僕が趣味に走ったからです。
僕はヤンデレや修羅場が好きなので、ついやってしまいました。
本作品にはキャラ崩壊のタグを追加します。キャラ崩壊が苦手でここまで読んで下さった皆さん、すみません。
この後の展開でも修羅場やプチヤンデレ化を入れていく予定ですので、気を付けてください。
さて、長々と失礼しました。
また次も読んでいただけれは幸いです。