GOD EATER ー人外の王ー   作:継文

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十七話

『カズマ隊長。アーサーが単独で動きだしました』

 

無線からフランの報告を聞き、カズマはグルリと肩を回して神機を握り直した。この場所に陣取ってから約20分、固まりつつある身体を屈伸などでほぐしながらフランの報告を聞く。

 

「予想会敵時間は?」

 

『最短で十分後です。この予想は現在のアーサーの移動速度から割り出した時間ですので地形やアーサー自身の体力によっては予想が外れるので留意して下さい』

 

「ああ、了解だ。フランは周囲のアラガミの監視に注力して、アーサーの監視は緩めてくれて構わない。接触次第交戦に入る」

 

『了解しました。……ご武運を』

 

カズマはフランとの交信を切り、今度はブラッド隊全員に繋げた。

 

「みんな、アーサーが動き出した。現段階で作戦の変更はない。予定通りに頼むぞ」

 

『了解』

 

『了解だ』

 

『りょ~か~い』

 

いつも通りの三者三様の返事を聞き、カズマはアーサーが来るであろう方向に向き直って一度だけ大きく深呼吸をする。

 

(やれるだけの事はやった。出だしはマイナスだったが、今奴は狙い通りに単独で俺の所に向かっているから、現状は何とかプラスに持ってこれた)

 

カズマは状況整理しつつ、ダン! ダン! と二回だけ地面を踏みつけて地面の固さを確かめる。カズマが踏みつけた場所は僅かに崩れるのみで、ここで戦闘行為を行うのに何ら問題は無い。

 

ここは植物型アラガミが群生している場所だから、地中に張り巡らされた根のおかげで元々地盤が固い。その為、ナナがブーストハンマーで叩いて地面を崩そうとも、そう簡単に崩れるものではないのだ。

 

カズマがナナに地面を叩かせていたのは、シエルが看破した通り、足場崩しによるアーサーの機動力の抑制。しかし地面は()()()の力を加えなければ崩そうにもない。

 

カズマはこの地面の状態に満足げに笑った。

 

(よし、ほど良い地面の固さ。環境としては文句無しだ)

 

状況整理が終わった所で、カズマは地面に僅かばかりの振動を感じた。

 

アーサーが来たのだ。

 

カズマが感じていた地面の振動は徐々に大きくなっていくと同時に、闘牛の如く闘志を剥き出しにした荒々しい足音が聞こえてくる。

 

カズマはショートブレードの神機を構え、臨戦態勢に入る。それに倣うように後ろにいるナナも自分の神機を構えた。

 

程無くして、アーサーが森林の奥から躍り出て、十mの距離を空けてカズマと相対した。

 

「見ィイイ付ケタアア!」

 

アーサーは硬いながらもしっかりと人語を操り、両手に持った神機を下段に構えて深く腰を落とした。

 

カズマはアーサーが人語を操った事に大した驚きを表さなかった。それどころか口角を上げて、茶化すように喋りだした。

 

「案外上手く喋るもんだな、どこに語学留学して来たんだ? 言ってみろよ。それが言えたら褒めてやるよ」

 

「灰色ォォオオオオオオォォォオオ!!」

 

カズマの言葉に咆哮に似た声でアーサーは答える。

 

この時、カズマは探っていた。アーサーの心の内、もしくは理性の有無を。

 

(ふん、人語を操る割には会話の流れが滅茶苦茶だな。話しはできるが、理解はまだ追いついてはいないという事か。そして、叫ぶようにして喋るのは昂ぶりを発散させるものだとしたら理性よりも本能が勝っている可能性が高い。あと、奴は俺の事を灰色と呼んだ。それは俺の髪の毛の色を見て言ったんだろう。って、ことはアーサーは俺達人間と同じように色の識別ができるという訳だ。これらの事から結論を出すならば、会話による意思疎通は不可。ホールドトラップや陽動による罠は有効。迷彩によるカモフラージュは有効。……まだまだ獣の域を出ないな)

 

いくら言葉を操ろうとも、そこに理性や知性が伴って意思疎通が出来なければ、獣の咆哮と変わらないのだ。その事からカズマはアーサーの事をただの獣と断じた。

 

一つの結論が出て、ここでカズマは自分から仕掛けた。

 

カズマは力強く踏み出し、アーサーとの距離を詰めにかかった。

 

それに誘われる形で、アーサーもカズマに襲いかかる為に爆発的な瞬発力を以って、一歩を踏み出した。

 

その時、アーサーに異変が起きた。それは、アーサーの足場が崩れ、大きくつんのめったのだ。

 

「ッ!!!?」

 

いきなりの事でアーサーは自分の身に何が起こったのか理解できなかった。それと対照的に何が起きたのか理解していたカズマは快心の笑みを浮かべた。

 

(ここの地面は硬い。ハンマーを打ち込んでもよほどの力を加えなければ、足場が崩れる事なんて無い。だが、アーサーお前の体重は何キロだ? そして、お前の踏み込みの強さはどれほどだ? 知らないだろうな自分の踏み込みの際にどれ程の大きな負荷が地面にかかっているのかを!)

 

アーサーの瞬発力はゴッドイーターの反射速度を超える程であるが故に、踏み出す際には地面に大きな負荷がかかる。その為、石畳やコンクリート等の固い整地でしか全力で踏み込む事が出来ず、不整地などの崩れる可能性のある場所では先程の様に足を踏み外し、まともに動く事が出来ない。つまり、アーサーが全力で戦う事が出来る場所というのは、非常に限られているという事だ。

 

もしもアーサーが並みのアラガミならばこんな事にはならなかっただろう。アーサーの敵となりうるアラガミがいたら事前にこの弱点に気付いて敵前で躓くという醜態を見せなかっただろう。

 

強すぎる力を持つが故の自滅、これがカズマが看破したアーサーの弱点の一つである。

 

アーサーは何故自分が躓いたのか理解出来ず、未だ混乱の中に居る。その間に距離を詰めたカズマはショートブレード型の神機を強く握り、上段から降り下ろした。

 

鉄と鉄がぶつかり合う澄んだ音が響き、神機に打たれた箇所からは火花が散った。この瞬間、アーサーは二種類の衝撃を受けた。それは、頭部と手首と脚を打たれた物理的衝撃と一振りで三ヵ所ほぼ同時に攻撃されたという精神的衝撃だ。

 

一振りで三回攻撃という不可解な現象にアーサーは更なる混乱に陥る。だが、それは新たなる隙が生じた事を意味し、主導権をカズマに与えた事でもある。

 

カズマは攻撃の手を緩めず、嵐の様な激しい連撃をアーサーに叩き込んでいく。

 

鉄がぶつかり合う音は激しく、そして雨のように間断無く森中に響く。

 

アーサーは自分がどれ程打たれたのかは、もはや分からない。が、幾つか分かったことがある。その一つは、カズマの攻撃は自分の装甲に全て弾かれてダメージが無い事。もう一つはダメージが無いこの攻撃は、威力に反して衝撃が強く、反撃に移ろうとしても尽く態勢を崩されて何も出来ない事。

 

嵐の様な連撃の中、アーサーは考える。灰色の人間は効かない攻撃を何故執拗に続けるのか。これではただ単に時間が過ぎて行くだけで何の意味も無い。時間が経つことで何か都合の良い事が灰色の人間にあるとでも言うのか?

 

━━灰色の人間はもしかして自分を殺す何らかの手段を持っている?

 

漠然とそう思ったアーサーは、言い様の無い不安に駆られて、反撃を諦めて態勢を整える為に後退に専念することにした。

 

しかし相手は激戦区の極東支部の新たなエースであるカズマだ、せっかく手にした主導権をそう簡単には逃さない。彼は攻撃の為に踏み込んだ足でアーサーの足を引っかけてバランスを崩させ、さらに頭部に神速の三連撃を叩き込んで押し倒した。

 

「灰イイィィイイ色オオオオオオ!!」

 

地面に倒れながらアーサーが怒りの咆哮を上げる。それを全く意に介さずカズマはさらなる連撃を加えて追い打ちをかけていく。

 

 

 

 

「……すごい」

 

少し離れた場所で様子を窺っていたナナの口から思わず感嘆の声が漏れた。

 

ナナの目から見たカズマの戦いは人間離れしていた。しかも相手はついこの間大敗した相手だというのに一方的に押している。

 

カズマが一振りで三連撃を与えている剣技はブラッドアーツである。そしてそのブラッドアーツには名前が付いている。

 

【風斬りの陣】

 

それがカズマがショートブレードで使うブラッドアーツの名前だ。これは血の力を覚醒させる事によって身体能力を向上させ、その力をもって目にも止まらぬ速度で三連撃を相手に叩き込む技だ。その為、周りから見ればカズマは一振りしかしていないのに、三か所同時に斬られるという、魔法みたいな光景を見せられる。

 

 

 

風斬りの陣で矢継ぎ早に繰り出される斬撃にアーサーは対処しきれず、カズマに一方的に攻められる。先日の初対決から見ればこれだけでも大きな戦果と言えよう。

 

「ですが」

 

カズマが押しているこの状況に後衛のシエルが待ったをかける。

 

(確かにカズマは今は優位に立っていますが、あのブラッドアーツには欠点があります)

 

そう、風斬りの陣には弱点が二つある。

 

その一つが、速さを追及しすぎた為に一撃の威力が低い事だ。

 

この事はカズマも重々承知しており、それの対策も講じてある。その対策とは、盾をタワーシールドを装着する事だ。

 

タワーシールドの重さにより一撃の衝撃力を高めて威力の低さを補おうというのだ。守るための盾ではなく攻める為の盾。これが今回カズマの神機がタワーシールドを装備していた理由である。

 

カズマの工夫によって弱点の一つは潰せている。しかし、もう一つの弱点はどうあっても避けられるものではない。

 

何故ならその弱点というものは、絶え間なく神機を振り続ける事による体力の消耗だからである。

 

こればかりは神機の構成でどうにかなるものではない。

 

シエルはスナイパー型の神機を構えて、援護の態勢に入る。

 

「ギル、私は今からカズマの援護に入ります。周囲の警戒をよろしくお願いします」

 

「俺達の役割は周囲の警戒と退路の確保だった筈だが、良いのか? 勝手な事をして」

 

「現在私の索敵範囲内にアラガミの存在はありませんので、状況的に言えば何も問題はありません。このまま遊兵になるくらいならばカズマの援護に回った方が効率的です」

 

「ふっ、お前も一端の指揮官になったな。了解だ、お前は安心して援護に専念しろ。背中は守ってやる」

 

ギルの愉快そうな言葉を聞きながら、シエルは神機のスコープと視覚をリンクさせて援護の態勢を整えた。

 

 

 

 

 

「ッ━━、ハアッ!」

 

カズマは声を上げながら地面に膝を突くアーサーに神機を振り下ろす。

 

もう何度目になるのか分からない斬撃は相変わらず硬い衝撃となってカズマの手に返ってくる。

 

まるで鉄製の像に打ち込んでいるかの様な徒労感を感じるが、カズマとしては状況的には悪くないと思っている。

 

何しろ、カズマの猛攻はダメージを与えるのが目的ではなく、アーサーに何もさせないことが目的なのだから。

 

とは言え、体力は無限ではない。必ず攻撃が途切れてアーサーに対して攻撃の隙を与えてしまう。

 

そこでカズマは息が切れる前に敢えて自分から後ろに退いて、あからさまに隙を作った。

 

攻撃が止んだその一瞬の隙は、アーサーにとって待ちに待った絶好の好機だ。アーサーは膝を突いた態勢から跳んでカズマに追い縋り、カズマを両断せんと右手に握ったバスターブレードの神機を縦に振り下ろす。

 

カズマは後ろに跳んだ事によって迎撃の態勢が取れず成す術が無い。

 

この一瞬の間にアーサーは確信した。灰色の人間を殺った、と。

 

だが、その時アーサーにとっての二度目の誤算が生じた。

 

アーサーの踏み出した先の地面が突然弾けて抉れたのだ。そして、その凹みに足を入れてしまった事で態勢を崩してしまい、攻撃の狙いがズレてカズマに攻撃が当たらなかった。

 

カズマは何が起こったのかすぐに理解した。と言うより、予測していた。シエルがアーサーの踏み込み地点に狙撃弾を撃ち込んで態勢を崩させた事を。

 

「さすがシエルだ」

 

カズマは思わず感嘆の言葉を口にした。

 

シエルはアーサーの踏み込み地点の予測と同時に、踏み込み速度と狙撃弾の弾速を加味した偏差射撃を行い、足場を崩したのだ。一瞬のタイミングの遅れと数㎝のズレも許されない超精密射撃、もはや神業という言葉では足らない程の射撃を彼女は当たり前にやったのだから、カズマの反応は当然のものと言える。

 

そして、感嘆しながらもカズマの反応は早かった。

 

振り下ろされ、カズマを両断する代わりに地面に刃の半ばまでめり込んだアーサーのバスターブレードの峰を足で踏み押さえると、神機のコア━━すなわち、神機の心臓部にショートブレードの先端を突き刺した。

 

コアを破壊された神機は、アラガミと同様に死んだ。

 

神機の本体は砂像の様に崩れ落ち、本体の支えを失ったパーツ達は親に見放された子供の様に空しく地面に落ちて行った。

 

この時、カズマは神機断末魔と開発に携わった人達、そして前の持ち主のゴッドイーターの悲鳴を聞いた気がした。

 

神機はゴッドイーターの相棒であり、様々な人達の想いが込められた武器だ。それを破壊するという事はゴッドイーターを介錯するのと同じくらいに胸を痛める行為なのだが、カズマは破壊した神機に目もくれず、目の前に立つアーサーを睨んでいた。戦いはまだ終わってないからだ。

 

「ガアアアアアアアアアッ!!」

 

アーサーが怒号を上げて左手に握ったロングブレードの横に薙ぎ払った。

 

薙ぎ払われたロングブレードは周りの木々(植物型アラガミ)を断ち斬りながらカズマに襲い来るが、その剣速はアーサー本来のものより、明らかに見劣りする速さだった。

 

だからカズマは身を屈める事で態勢を低くして、余裕を持って回避した。そして、それはただ回避する為だけの行動ではない。カウンターの予備動作も兼ねているのだ。

 

カズマは上体を跳ね上げる勢いを利用して、跳ぶと同時にショートブレードをアーサーの顎に切り上げを叩き込んだ。

 

その衝撃でアーサーの体が仰け反る。

 

そこにカズマは、跳んだその態勢から踏みつける様な跳び後ろ回し蹴りをアーサーの顔面に目掛けて放って、更なる衝撃を彼に与えた。

 

アーサーに放った蹴りは踏み台の役目を果たし、カズマの身体は後方に高く跳んだ。そして、その先にある木の幹に衝突する直前にトンボを切って足から着く。

 

状況は、アーサーはカズマによる頭部の二連撃によって体を大きく仰け反らしてすぐには反撃も防御も出来ない状態で、対してカズマは垂直に伸びた木の幹を足場にして、アーサーを上から見下ろす状態だ。

 

この時、過信でも油断でもなく、カズマの()()が確定した。

 

カズマはショートブレード型の神機を銃形態(ショットガン)に切り替え、足場にしていた木の幹を蹴ってアーサーに突撃した。

 

重力による加速とカズマの瞬発力によって、彼の身体は一つの弾丸となってアーサーに襲いかかった。

 

不安定な態勢で人間大の弾丸の突撃が耐えられる筈もなく、アーサーの身体は当然の如く地面に押し倒された。

 

ドスン! と大きな音を立てながら押し倒された倒されたアーサー。すぐに起き上がろうとしたが、胸の上にはカズマが乗り、顔をショットガン型の神機の銃口で押さえられている為、身動きが取れない。しかも左腕をカズマの片足で押さえられているから神機で振り払う事すら出来ない。

 

「詰みだ。アーサー」

 

カズマはショットガンの銃口を突きつけて、厳かに死刑宣告した。

 

アーサーはこの時、灰色の人間が何を言っているのか意味が解らなかった。何しろ彼には鉄壁とも言うべき最強の甲冑がある。その装甲は全身隙間なく覆われ、弱点というものがない。故にどんなに攻撃を打ち込もうとも一切ダメージが入らない。

 

(アーサー、お前は自分は分かっていないな。確かにお前の甲冑に隙間は無いからどこを攻撃しても効果は無い。だが、一箇所だけ装甲で覆う事が出来ない所がある)

 

カズマはショットガンの銃口をアーサーの兜の覗き口に狙いを定めた。そして、迷わず引き金を引いた。

 

ショットガンから吐き出された無数の散弾は兜に弾かれて明後日の方向に飛ぶが、いくつかは兜の覗き口に入り、中身を抉る。

 

「ギッ!?」

 

頭部を抉られる痛みにアーサーのうめき声を上げるが、カズマは更に一発二発と散弾を撃ち込んでいく。

 

(確かにお前の装甲は最強だ。恐らく傷を付ける事が出来る神機は現時点では存在しないだろう。だが、それは中身の脆弱性を自ら語っている様なものだ。中身の防御力が低いから最強の盾とも言うべき甲冑を持つように進化したんだろ)

 

絶え間無く撃ち込まれる散弾によりアーサー兜の中身は既にミンチとなり、兜の隙間や口から真っ赤な眼球や黒い肉片が血と共に吐き出される。

 

散弾を撃ち込まれても最早アーサーは反応すらしない。まるで屍になったかのようだ。しかし、カズマはアンプルでOPを回復しながら執拗に散弾を撃ち込んだ。

 

しばらくして、OPもアンプルも尽きた所でようやくカズマの銃撃は終わった。

 

他から見たら、カズマの攻撃は残虐に見えただろう。カズマ自身そう思わなくはない。けれども、相手がアラガミである以上、余計な手心を加えれば喰われてしまうのだ。だからカズマはこう考える。やり過ぎなくらいが丁度良い、と。

 

カズマは地面に散ったアーサーの眼球を二つ拾って、彼の様子を見る。

 

アーサーは大の字で倒れて、死んだかの様にピクリとも動かない。

 

カズマは神機をショットガンからショートブレードに変形させ、捕食形態にきりかえる。

 

いくら死んだように見えても、アラガミはコアを抜き取らなければ倒す事が出来ない。

 

カズマは最初から最後まで一切手を抜かない。そして、一切の油断もしなかった。

 

だからここから先の事は全て彼の予想を凌駕した出来事だった。

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