━━新たなアラガミが出た。それはゴッドイーターにとっては聞きたくない言葉の一つである。
基本的に新種のアラガミは、従来のアラガミには無い特性を持っている為、狩りにくくなっている。
そして、新種のアラガミとの初戦は全てが手探りで、この部位は切ってみよう、あの部位は火属性のバレットを撃ち込んでみよう、などと試しながら戦わないといけないため、苦戦は必死である。
出来れば誤報であって欲しい。とカズマは思ったが、すぐに甘い考えを捨てた。
「分かりました。じゃあ、今解っている分の情報をください」
こういう時のカズマは話しが早い。
新種のアラガミの出現で隊長が呼び出されれば、下される命令はただ一つ。
━━そのアラガミを狩れ。
それだけだ。ならばカズマはただ覚悟を決めて、少しでも多くの情報を集めて、一秒も早く作戦を練るだけだ。
「うん。話が早くて助かるよ」
既に臨戦態勢に入ったカズマを見て、榊は満足げに頷いてパソコンの操作を始めた。
「カズマ君とシエル君には、まずこれを聴いて貰いたい」
『こちら教官のタイガだ。これより新人ゴッドイーター、ケイト篠崎の実地訓練を開始する』
榊のパソコンから、野太い男の声が聴こえてきた。
「これは、通信の録音ですか?」
カズマの問いかけに、榊は頷きだけで答える。
それからはゴッドイーターとオペレーターのやり取りがしばらく続いた。
ここまでの感想を上げるならば、カズマもシエルも『ただの平和な実地訓練』その一言に尽きる。
だが、問題が発生したのはここからだった。
『何だ? あれは。騎士、人か?』
教官のゴッドイーターが怪訝な声で話すが、それも一瞬の事、すぐに弾かれた様に声を張り上げた。
『新人! 構えろ! あれはアラガミだ!!』
『えっ!? しかし、あれは人ですよ』
『バカ野郎! 人間が神機も持たずにこんなところに居られるか! おまけにあんな時代錯誤な鎧を着けてる筈がないだろ!』
『!? 教官、来ます!』
『新人、えんゴバッ━━!』
『きょ教官! うわああああああ! 来るな! 来るなあああああ!』
スイカを砕いた様な生々しい音の後に、半狂乱になった新人ゴッドイーターの絶叫が響くが、それは水袋を貫いた音の後には続かなかった。
その後は、肉と骨を噛み砕く咀嚼の音が延々と続くだけだった。
通信記録を聴き終えた後、部屋は静まりかえっていた。
だが、それは人がアラガミに捕食される音を聴いていたからではなかった。
カズマもシエルも先程聴いた通信記録の分析に入っていたのだ。
彼らは良くも悪くもゴッドイーターなのだ。人がアラガミに喰われる事に哀しんだり、怒ったりもする。だが、それで足を止める気は一切無い。
人はそれを非情だと言うが、覚悟を決めたゴッドイーターにとってはごく自然な事だった。
「榊支部長、質問が有ります」
「なんだい、シエル君」
「映像は残って無いのですか?」
「すまない、シエル君。当日、作戦領域には強力なジャミングが発生していてね、映像は残ってないんだ」
「じゃあ、榊支部長。今度は俺から質問があるんですけど、これはいつ、どこで行った実地訓練なんすか」
「これは今日、学術都市で行われたものだよ」
ふむ、とカズマは思案顔になり、そのまま黙る。シエルも同様だ。
今度は榊が口を開く。
「これは、回収班から先程上がってきた情報なんだがね。腕輪は見つかったが、神機だけは欠片すら見つからなかったそうだ。これが果たして何を意味するのかまだ分からない。
はっきりと言って、今回のアラガミは分からない事だらけだ。その為、君たちブラッドには明日の調査班の護衛をして貰い、万が一新種のアラガミと遭遇した場合は、撤退第一に考え、情報収集はその二に考えて欲しい」
撃破しようとは思うな。暗にそう言われて、カズマとシエルは今回の任務の危険度を最大レベルに引き上げた。
支部長室を退出した後、カズマとシエルは先にシャワーを浴びてから、カズマの部屋に再び集まった。
目的は勿論、明日遭遇するかも知れない新種のアラガミの対応策を立てるためだ。
死亡したゴッドイーターの資料、回収班の報告書が散らばるテーブルを挟んで、カズマとシエルは話し合っていた。
ちなみに、彼らは夕食がまだなので、おにぎりと味噌汁と緑茶が乗せられたトレイがテーブルの端ッこに置かれている。
「隊長、明日のフォーメーションは調査班を囲む形でよろしいでしょうか」
「ああ、それで撤退するときは俺とギルで足止め、ナナが調査班の護衛、シエルは後退に合わせつつ俺とギルを援護してくれ」
「ナナさんは足止めで、ギルを護衛に回した方が良いのではないのですか? ナナさんはブラッドの中では最もタフで、アラガミを引き寄せる誘引の能力があります。そして、ギルはどんな状況にも対応出来る柔軟性があります。ですので二人のポジションは入れ替えた方が良いと思います」
「まあ、俺もそれは考えたんだけどな。俺の予想だと今回の新種のアラガミは速いと思うんだ」
「速い、ですか?」
「うん。ほら、通信記録では新人が『向かって来る』と言ってから、教官が殺られるまで一秒くらいしかなかっただろ?」
確かにそうだった。
教官は敵の姿を認識していたのにも関わらず、反撃も防御も成すすべなく殺られた。
それはつまり、敵がとんでもなく速いと言う事だ。
「素早い相手に対して、動作の遅いハンマーとタワーシールドを装備したナナは相性が最悪だ」
「なるほど。では、私の狙撃弾で相手を牽制して、ギルの連射弾で動きを止めるというのがカズマの考えなのですね」
「そうだ。まあ、あわよくばそのまま敵を殺せればと思ったんだが……」
「未知数の相手に対してそれは危険ですね」
「だな、だから明日は妙な色気は出さずに堅実に行こう」
話がまとまったところで、カズマはトレイから温くなってしまった味噌汁を取って、啜った。
シエルもそれに倣うように、トレイからおにぎりをつまみ、口に運ぶ。
そこでふと思い出したように、シエルがカズマに訊ねてきた。
「そう言えばカズマ。通信記録で教官のゴッドイーターは何故一瞬アラガミが人に見えたのでしょうか」
「それは簡単だ。アラガミが限り無く人に近い形だからだろ」
「人に近いアラガミですか? そんな事、あり得ません」
「そうか? 俺は十分にあり得る話しだと思うんだけどな。事実、ツクヨミやヴィーナス、イェン・ツィーにヤクシャ。人に近い形を持つアラガミはこれまでもたくさん居る。おまけにソーマ博士やコウタ隊長の話じゃあ、人語を話す人型のアラガミが居たらしいからな」
そう言ってカズマは啜っていた味噌汁の器をテーブルに置いて、トレイのおにぎりを一つ掴んでかぶり付く。
カズマの話は確かに説得力がある。そこで疑問が片付き、暫く食事を摂る音だけが部屋を満たす。