━━調査隊の仕事は地味だ。
これはフェンリル局内で言われている事である。
そんな風潮に対してカズマは、だから何だ。調査に派手さを求めてどうする。と言いたくなるが、実際に調査隊の仕事を目にすると、地味だ。それ以外の感想が浮かばない。
現場に着いた調査隊が、今何をしているのかと言うとサンプルに周囲の土を採取したり、周辺の写真を撮ったりしている。
白い防護服を着た大の大人達が五人固まって、地面にしゃがみこみながらモゾモゾと作業している様は見ていて滑稽な気持ちになるし、体が大きいキースがやっているのを見ると最早愛嬌すら感じる。
『ねえねえ、隊長。ちょっと良い?』
調査隊を挟んでカズマから離れた場所で哨戒しているナナから無線が入って来た。
「何だ? 気になる物でもあったのか」
『あっ、ううん。ただ、キース達は土を採ったり、写真を撮ったりして、何をやってるのかなあ。と思って』
「ああ、あれは件のアラガミの細胞や体液が落ちてないか調べたり、周囲の状況を記録してんだよ」
『そんな事で何が分かるの?』
「細胞が採取出来れば、そのアラガミが何の派生から産まれたモノか分かるし。それが分かればどういう特性を持ってるかのおおよそ検討がつく。それに周囲の状況からどういう殺され方をしたのかが分かるな。
素人の俺でも現場に来て大体の事が分かったんだから、キース達ならもっと多くの事が分かるだろ」
『ほへぇ~、調査隊って凄いんだね』
ナナは感心したように言っていると、今度はシエルから無線が入って来た。
『隊長、ナナさん。無線で私的な会話をするのは止めて下さい』
「すまん。少し気が緩んでた」
カズマは自分の非を認めて直ぐに謝った。だが、ナナは謝罪をせずに寧ろシエルを煽るような言葉をかける。
『あれ~、シエルちゃん。もしかしてヤキモチ?』
『なっ、ちち違います! 私はただ規則に則ってですね━━』
ナナの言葉に、シエルは明らかに狼狽えた様子で返してしまった。
ナナは更に楽しそう続ける。
『もお~、そんなに慌てちゃってシエルちゃんは可愛いなあ』
『くっ、ナナさん。あなたは私をからかっているのですね? そうですね!?』
『からかってないよお。ただシエルちゃんは可愛いね、て言ってるだけだよ?』
『……躾が必要ですね。良いでしょうナナさん。アナグラに戻ったら訓練場に顔を貸してください。カルビで培った躾の技術を貴方に見せてあげます』
『どんと来い♪』
いつの間にか無線での私語の多さはシエルが一番になっていた。
どうも最近のナナは、シエルをからかうのが楽しいようだ。
カズマは首を巡らせて、それぞれ離れた場所いるシエルとナナの様子を見る。
無線では相変わらず二人の言い合いは続いてるが、ふざけた会話の内容とは裏腹に、シエルとナナは油断なく神機を構えて周囲の警戒を怠っていなかった。
時間にして四十分程で調査は終わり、引き上げる事となった。
予想されたラーヴァナの乱入は結局無く、護衛任務は平和なまま終わろうとしていた。
だが、それは甘い考えだった。
事は帰り道で発生した。
「ブラッド隊。周囲を警戒しろ」
カズマのその言葉で一行が足を止め、辺りに重い緊張感が漂う。
『カズマ隊長、どうしたのですか?』
「足跡が増えている」
『え?』
フランからの通信に対してカズマは短く答えると、戸惑った声が返ってきた。
しかし、一番戸惑っているのはカズマだ。
(これはどういう事だ? 行くときに無かった新種のアラガミの足跡が増えている。しかも、俺達の後をつけるように。まさか見張っていた? 何故? 不意を突く為か? だとしたらヤツは今どこにいる。いや、そもそも後をつけてる奴に自分の存在がバレたら、俺ならどうする。
━━仕掛けて来るに決まってるだろ!!)
時間にして2秒。結論を出したカズマは最後尾に控えているナナに向けて指示を飛ばした。
「ナナ! 背を守れ!!」
カズマの指示を瞬時にかつ、正しく理解したナナは弾かれたように身体を反転させると同時にタワーシールドを展開した。
その時、ナナは見た。身の丈2mの甲冑に身を包んだ騎士の姿を。そして彼の両手に握られた二本の可変式神機を!
ナナのタワーシールドに相手の神機が、叩きつけられた。
あり得ない衝撃がナナの全身を襲い、直後に浮遊感をかんじた。そして、地面に叩きつけられたところでナナは初めて自分は弾き飛ばされたのだと気付いた。
「ナナ! 下がってろ!」
神機を銃形態に可変させたギルが、アサルトの連射弾をばら蒔きながら援護にはいる。
「おおおおおぉぉぉぉぉ!」
当てる気は無い。ただの牽制の為の銃撃、相手の動きを制限させられればそれで良い。
ギルはそう考えながらトリガーを引き続けるが、騎士型のアラガミは一足飛びで有効射程外に逃れてしまった。
これには流石のギルも自分の目を疑い、トリガーを引く指が止まる。
「ナナ、大丈夫か?」
地面に倒れていたナナを助け起こしながらカズマは訊ねた。
「う、うん。何とか平気」
「そうか。なら、退くぞ。予定通り、ナナが調査隊の護衛をしろ」
「うん、任せて」
ナナは直ぐに調査隊に合流して、撤退を始める。
それを背にして、カズマはギルの隣に立ち、相手を見据える。
「フラン、新種のアラガミと遭遇した。これより撤退戦を始める」
『待ってください! そんな事を言われましてもレーダーには何も反応はありません』
「そういう奴なんだろ。アバドンだってレーダーに映らないんだから、今さらそんなことで狼狽えるな」
『なっ、そんなことって━━』
言い募るフランを無視して、カズマは指示を出す。
「予定通りだ。 俺とギルで奴を足止め、シエルは援護だ。良いか、妙な色気を出すなよ」
「「了解!」」
シエルとギルの返事を聴いて、カズマは射殺すような鋭い目を騎士型のアラガミに向ける。
騎士型のアラガミは完全な人型で、鎧はボルグ・カムランの外殻をそのままに人に着せたような風貌だ。頭はフルフェイスの西洋甲冑の兜の様だが、兜の目の部分からは赤に光る不気味な複眼が覗き、口の部分は捕食の為か、ギザギザの口が開閉している。その様は神機のプレデターフォームのような凶悪さがある。更に、ヴァジュラの赤いマントが肩から生えている。
まるでいろんなアラガミを混ぜたような姿だが、カズマの目を一番引いたのは両手に握られた二本の神機だ。
「隊長、あれが件のアラガミでしょうか」
「そうだシエル、奴が持っているのは昨日殺したゴッドイーターの物だろう」
「アラガミが神機を使うって? 悪い冗談だ」
「ああ、そうだよなあ。これが夢ならさっさと醒めて欲しいんだが……、そうだギル。ちょっと俺の頬を引っ張ってくれないか?」
「ハッ、お断りだ。これが夢なら最後まで付き合って貰うぜ、隊長」
「ひでぇ部下だ。まあ、適当にあしらって逃げるとしよう」
軽口を叩きあっていたカズマはロングブ レード型の神機を構える。
それに倣うようにしてシエルもスナイパー型の神機を構え、ギルもアサルト型の神機からスピアー型の神機に変形させて構えた。
「気負うな。現時点で俺達の任務は六割方成功しているからな、後は生きて帰るだけだ」
「「了解!」」
カズマは簡単そうに言った。後は生きて帰るだけだと。
だが、この撤退戦において逃げる事が最大の鬼門だというをカズマは口にしなかった。