第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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-帝国が滅んでも新共和国が滅んでも争いは続く-


戦闘の始まり

-オジョスター宙域 ウェイランド星系 惑星ウェイランド-

夜明け。

 

惑星を照らす恒星の陽の光が惑星を照らし始めた。

 

まだ空は薄暗く美しい朝焼けとは無縁の景色であった。

 

静かな空には鳥の姿すらなく灰色の雲が空を覆っていた。

 

「はぁ…クーデターか…」

 

「おい、ぼやいてないで早く行くぞ」

 

2人の黄色い昇降ディスクを帽子につけたウェイランド防衛軍の哨戒兵があくびを垂れ流しながら収容所内を歩いた。

 

大きな壁に囲まれいくつかの重ブラスター砲の砲塔で守られたこの臨時収容所はウェイランド防衛軍ではなく、防衛軍を離反したクーデター軍の実質的支配下にあった。

 

機能としては収容所ではなく前線基地や前線司令部としての方が大きかった。

 

元々はこの地に逃げ込んだ新共和国残党軍の協力もあって惑星の五割と空軍司令部を制圧していたクーデター軍だが帝国軍の到着を受けここまで後退してしまった。

 

「敵なんて来ると思うか?」

 

「いやぁ、迂回するだろどうせ。そんなことよりも眠いぜ…」

 

「クソっ…バカな新任の将校のせいでこんなことさせられるなんて…もう負けそうじゃねぇかよ」

 

「だからってあの場で逃げ出そうとしてもどうせ公開処刑されるだけだ。はぁあ最悪だ」

 

2人は愚痴をこぼしながらライトのついたブラスター・ライフルを片手に壁を沿って歩いた。

 

もとよりやる気がなく、更に眠気もひどい為2人の哨戒行動はかなり雑だった。

 

その影響なのか2人は完全に身構えておらずそれが命取りとなった。

 

2人の後ろ姿を見つめる影があった。

 

その影は既に大きな壁を登り黒いアーマー姿のまま両手にブラスター・ピストルを持ち静かに佇んでいた。

 

広い収容所ではこの男を発見するのは近距離でないと難しい。

 

なにせ既にセンサーが破壊され目視での索敵以外が出来なくなっていたからだ。

 

その事に収容所全体がまだ気づいていない。

 

男はコムリンクを取り出し他の仲間に連絡を取った。

 

「…敵の目は悪いようだ」

 

『なら作戦結構だ、一発目を派手に打ち上げてくれ』

 

「了解だ」

 

男はコムリンクを切ると右手の特殊なアタッチメントの付いたブラスター・ピストルに足に巻き付けてあったグレネードを取り付けた。

 

安全装置を外し照星を壁の上の物資保管所に狙いを付けた。

 

この一発が戦いの狼煙となる。

 

男はふと壁の外にいる仲間達に合図を出した。

 

全員準備万端のようだ。

 

なら躊躇う必要はない。

 

そして今度は左のブラスター・ピストルにアタッチメントを取り付け息を吐いた。

 

目を瞑り心を落ち着かせた。

 

風の音すらない暗い夜明けの空が彼の心を落ち着かせ覚悟を決めさせた。

 

目を開き引き金を引き1mmもブレる事なくグレネードを保管庫に直撃させた。

 

報告通りか火薬や武器も入っている保管庫は大爆発を起こし壁の一部を崩壊させた。

 

そして左手のピストルに取り付けたアタッチメントの引き金を引き白い閃光弾が灰色の空に灯された。

 

先ほどあくびをしていた哨戒兵達は爆発音と閃光弾に驚き腰を抜かした。

 

兵士とは思えない表情を浮かべずっと閃光弾に目を盗られていて壁の上の男にはまだ気づいていない。

 

男は小さな声で壁の下の仲間達に放った。

 

ただ一言、「今だ」という言葉を投げ放った。

 

瞬間数十名以上のインペリアル・ジャンプトルーパー達がジェットパックを点火し一斉に壁よりも高く飛び上がった。

 

RT-97C重ブラスター・ライフルやバースト・シールド、ミサイル・ランチャーを装備したジャンプトルーパー達の姿を見てようやく哨戒兵は気付いた。

 

「…てっ敵兵!」

 

「おい!わっ!!」

 

2人の兵士は壁の上の男にピストルで撃ち抜かれ絶命した。

 

ミサイル・ランチャーを装備したジャンプトルーパー達が近くの砲塔や主要部署に向けてミサイルを放った。

 

空を駆ける音と共にミサイルは砲塔や見張り台を破壊し爆発を起こした。

 

破片が地面にパラパラと落ちて燃え盛る炎の音が空に消えていった。

 

それと同時に収容所の各所がミサイルとは違う何かが原因で爆発に巻き込まれた。

 

兵舎や物資保管庫、司令区画までもが爆発の中にあった。

 

「奇襲だ!帝国軍の奇襲だ!」

 

「ぶっ武装を!警報もだ急げ!うっうわぁ!!」

 

爆発は連鎖的に続き外に出た兵士たち巻き込んだ。

 

直後数分遅れて奇襲を伝える警報が鳴り響いた。

 

その頃にはもう収容所内の一部は火の海に包まれていた。

 

「今のでスカウト・チームが仕組んだ爆弾は全部です」

 

「敵が臨戦態勢を取る前に制圧する。全隊攻撃開始だ」

 

「了解ハイネクロイツ中佐。全員攻撃開始だ!」

 

ジャンプトルーパー隊のキャプテンがジェットパックを点火し他のトルーパーも同じように空へと駆けた。

 

その中に紛れて彼ハイネクロイツ中佐もジェットパックで空へと駆けた。

 

クーデター軍の兵士たちは負傷兵を守りつつブラスター・ライフルで応戦していた。

 

「ジェットパックをつけたトルーパーだ!」

 

「弾が当たらない!」

 

混乱した兵士達が皆上を向きながらブラスター・ライフルを放っていた。

 

優秀なジャンプトルーパー達は華麗に弾丸を躱しバースト・シールドで防ぎつつE-11やRT-97Cのような重火器で反撃した。

 

一度に何発も放てるRT-97Cの空中からの射撃はもうスターファイターのブラスター砲掃射とほぼ一緒だった。

 

しかもより小柄で精密な動きが出来るジャンプとルーパー達の方が遥かに手強い。

 

ブラスター・ライフルとは思えない大火力がクーデター軍の兵士達をバタバタと薙ぎ倒した。

 

連中が使っているブラスター・ライフルよりもRT-97Cは遥かに性能がいい。

 

命中精度や練度差も去る事ながら空戦というアドバンテージを保ったまま帝国軍は更に奇襲という圧倒的な優位な状況を作り出していた。

 

瓦礫や物影に隠れて小火器で応戦するクーデター軍だったが容赦無く掃射の餌食となった。

 

「ダメだ全く当たらねぇ!!」

 

「クソッ!クソッ!クソッ!クソーッ!!」

 

「誰か組み立て式のブラスター砲を!…爆発す!」

 

兵士の1人は言い終える前に爆発に巻き込まれて数名の兵士と共に命と身体を地べたに散らした。

 

ジャンプトルーパー達がインパクト・グレネードやサーマル・デトネーターを投げ込んできたのだ。

 

インパクト・グレネードはちょっとした衝撃でも爆発するので兵士1人1人にダメージを与えられるしサーマル・デトネーターの爆発範囲なら多くの敵兵を一度に倒せる。

 

恐ろしい爆撃のようなものを彼らは繰り出していたのだ。

 

そしてこれ以上増援が来ないようにミサイル・ランチャーを持ったジャンプトルーパーが兵舎や建物の中に次々とミサイルを撃ち込んでた。

 

圧倒的な破壊力で建物は崩れ中にいた兵士達も当然その命は消し飛ばされた。

 

そしてその様子を遠目から見つめる者達がいた。

 

外人部隊の新兵達だ。

 

スワンプ・トルーパーのアーマーを装着した彼らはまだ直接戦闘には参加せず輸送部隊や車両を護衛していた。

 

兵員輸送機から顔を覗き込み戦いをじっと見つめていた。

 

「あれがジャンプ隊の力…」

 

「あの要塞みたいな収容所がもう陥落寸前だ…」

 

「向こうでもう戦闘が…」

 

「無駄口の前に任務を遂行しろお前達」

 

中隊長の1人シュリッツ上級中尉がトルーパー達に忠告した。

 

彼は車両の中にいるペルタリス上級大尉に声を掛けた。

 

「ここで一旦部隊を展開しましょうか」

 

「砲塔が破壊されてるならもう少し近づけるはずだ。ギリギリまで接近するぞ」

 

「了解です。お前達そろそろ下車の時間だ!遂に初めての任務だぞ」

 

兵士達から煮え切らない歓声が上がった。

 

戦いを喜んでいるわけではないが恐怖しているわけでもなさそうだ。

 

少なくとも恐怖心のなさは2人の士官を安心させた。

 

恐怖で動けなくなった兵士ほど役に立たないものはない。

 

それがないならまだ安心出来る。

 

「さてジャンプトルーパー隊はどれだけ消耗しているのか…」

 

ペリタリス上級大尉には分からなかったが前線で己も戦うハイネクロイツ中佐にははっきり理解できた。

 

ジェットパックで華麗に宙を舞うハイネクロイツ中佐はどのトルーパーよりも無駄のない動きをしていた。

 

彼はピストルのアタッチメントを変え小型の銃剣を装着した。

 

より近接向きの先頭がこれで出来るようになったのだ。

 

ブラスター・ピストルで狙い撃ちつつ取りこぼした敵をピストルの剣先で確実に仕留める。

 

アーマーもまともに着ていないクーデター軍に対しては十分有効的だった。

 

地表ギリギリをスキーのように駆け到底人が真似できない機動を敵に見せつけた。

 

ハイネクロイツ中佐に気づいた2人の兵士が危機迫った表情で彼に銃口を向けた。

 

すでに気付いていた中佐は彼らの攻撃を許さなかった。

 

それぞれ一発ずつ脳天に弾丸を撃ち込みその勢いのまままだ中佐に気づいていない兵士の背中をピストルの剣先で貫いた。

 

「盾になってもらうぞ!」

 

兵士の背中から血がドバッと垂れて中佐のヘルメットにべったり染み付いた。

 

そんなことを気にしている暇はなく彼は地面を蹴り同時にジェットパックを最大で点火した。

 

2つの勢いで彼とすでに絶命している兵士は大きく空へと舞い上がった。

 

音と存在に気づいた壁の上の兵士4人が唖然とした表情のままブラスター・ライフルを構える。

 

最初の一発が放たれるよりも前にハイネクロイツ中佐は刺さったままの敵兵を壁の上の兵士たちに投げつけた。

 

1人の兵士に直撃しかなりの衝撃を与えた。

 

「…っ!敵がいないぞ!」

 

4人は辺りを見渡し警戒する。

 

「どこに…」

 

「後ろだ!!」

 

「えっ?」

 

直後脳天にブラスターの弾丸が撃ち込まれ彼は斃れた。

 

残りの3人がブラスターの引き金に指をかける頃には全員がさっきの兵士と同じように銃弾を喰らい絶命していた。

 

「全対空砲網を潰して司令部に突入する。ハンネルとトラインの隊は私に続け」

 

「了解!」

 

数十名のジャンプトルーパーがハイネクロイツ中佐に続いた。

 

戦闘は小1時間ほど続き収容所は降伏した。

 

 

 

 

制圧された収容所にはスワンプ・トルーパーの護送部隊と第六親衛連隊の兵士が集まっていた。

 

生き残ったわずか数十名のクーデター軍の兵士達が捕虜として広場に並ばされている。

 

外人部隊のスワンプ・トルーパー達は輸送機に積み込まれたスピーダー・バイクを潜入していたスカウト・トルーパー達に手渡す。

 

第六親衛連隊はジャンプトルーパー一個中隊、スカウト・トルーパー四個中隊、ストームトルーパー九個中隊、その他のウォーカーパイロットや将校など含めた二個中隊で構成されていた。

 

他にも状況に応じて現在のように外人部隊や特殊部隊が組み込まれたりする。

 

またストームトルーパー達は惑星の環境に応じてスノートルーパーやサンドトルーパーに武装やアーマーを変えたりする。

 

その為汎用性が高く親衛隊の中でも随一の戦闘能力を誇っていた。

 

そんな彼らの頭上に護衛のTIEインターセプター2機と兵員を乗せたセンチネル級が1機着陸する。

 

護衛の役を終えたTIEインターセプターが母艦のインペリアル級に戻っていった。

 

ゆっくりとセンチネル級は着陸しストームトルーパー54名と将校が3名降り立った。

 

その様子を見た士官の1人がこの場で一番階級の高いハイネクロイツ中佐を呼びに行った。

 

中佐はヘルメットを脱ぎ収容所の壁でドリンクを飲んでいた。

 

「中佐、シュタンデリス大佐とアデルハイン中佐が到着されました」

 

ハイネクロイツ中佐に敬礼し士官は端的に報告した。

 

中佐はドリンクをすぐに飲み干すとその辺に放り投げヘルメットを急いで掴んで立ち上がった。

 

「ここの司令官を連れて来い。ついでに捕虜も運んでもらおう」

 

「了解しました」

 

士官は頷きアーマーをガチャガチャ鳴らしながら走り去っていった。

 

ハイネクロイツ中佐も頭を掻きながらシャトルの方へ向かった。

 

すでにシャトルから降りてきたジークハルトと外人部隊のペリタリス上級大尉、ハンネル大尉と督戦隊のツヴァイク少佐が彼と話していた。

 

「外人部隊は問題なく機能しています」

 

「それはよかった、今後も頼むぞ。ジャンプとルーパー隊の損失は?」

 

「戦死者なし、負傷兵5名です」

 

「少ない、流石だ。これから来る着陸船に乗船して本隊と合流しろ。アデルハインとヴァリンヘルト中尉は彼らの指揮を頼む」

 

「了解」

 

「大佐、小官を大佐の護衛に就かせてください」

 

「君の技量なら私の護衛をするよりアデルハイン中佐の補佐をしてくれる方が助かる。頼んだぞ上級中尉」

 

「…わかりました」

 

「よお連隊長、見ての通り任務完了だ」

 

軽い敬礼と共にハイネクロイツ中佐はジークハルトに声を掛けた。

 

ヴァリンヘルト上級中尉のような下の階級の者達は皆敬礼し中佐を出迎えた。

 

「ご苦労」

 

「これでようやくスターファイター大隊に戻れるかな」

 

「そうしたい所だがもうひと働き頼む。君の能力は是非とも必要だ」

 

「おいおい俺はあくまでパイロットなんだぜ?なんたってそんな奴が愛機から離れて歩兵みたいな事しなきゃいけないんだよ」

 

中佐はジークハルトに冗談を含めた悪態を付いた。

 

彼の“出自”とその能力の高さはジークハルトが一番知っている。

 

そのせいかなのかハイネクロイツ中佐は収容所攻撃とジャンプトルーパー隊の指揮官を任された。

 

あくまでパイロットとしていたいハイネクロイツ中佐にしてみればあまり良い気分ではない。

 

それにジェットパックを付けて戦うのは“昔の記憶”を呼び起こす為あまり好きではなかった。

 

しかし指揮官としてのジークハルトは限りなく非情に近い。

 

生命が関わらない事なら大抵跳ね除け利用する。

 

その為ハイネクロイツ中佐もこうして地上で戦わされていた。

 

「優秀な機動力のある指揮官が必要なんだ。もう少し、私のそばで戦って欲しい」

 

「たく…わかったよ、で次はどこに行くんだ?」

 

ジークハルトはポケットからホロプロジェクターを取り出し起動した。

 

この周辺の地形が展開され敵味方の部隊配置や基地や駐屯地が事細かに記されていた。

 

「我々は収容所を陥したおかげでここまで前進する事が可能となった。そこで外人部隊全隊とトルーパー一個小隊で最前線のウェイランド軍基地に入る」

 

「四方を山で囲まれ敵の駐屯地が近くにある。厄介だな」

 

「同時にここがキーポイントでもある。この基地を死守し補給戦線を守りながら本隊で包囲網を敷けば確実な殲滅が可能だ」

 

「確かにこの基地を拠点に敵の中央司令部を挟み撃ちできますね」

 

ジークハルトは頷きホロジェクターをコートのポケットに仕舞った。

 

「まずは先行して先程の部隊を投入して防衛に備える。その間にアデルハイン中佐は本隊を率いて本隊はウェイランド軍と共同で周辺の駐屯地を制圧しろ」

 

「わかりました」

 

「機動力が重要となる。みんな頼むぞ」

 

各々から返答が聞こえみんなそれぞれ仕事に取り掛かり始めた。

 

ジークハルトも振り返りセンチネル級へと戻っていった。

 

 

 

収容所陥落を皮切りにウェイランド防衛軍と第六親衛連隊は次々と主要な駐屯地、敵基地を陥落させ包囲網を敷いた。

 

半ば強制的に参加させられたクーデター軍の士気や戦闘能力は低く次々と親衛隊の最新兵器の前に敗北を重ねていった。

 

それだけではなく大勢のクーデター軍兵士がウェイランドの正規軍と帝国軍側に投降したのだ。

 

軍の六割強を占めていたクーデター軍の戦力は大幅に激減した。

 

ただ不思議な点はいくつかあった。

 

攻略した駐屯地などには何故か新共和国軍の兵器が存在していたことだ。

 

また新共和国軍の軍服も駐屯地の保管庫などから発見されていた。

 

「クーデター軍が戦力増強の為に放棄された新共和国兵器を使用した」というのが防衛軍と帝国軍の見解だったがどうも不安感は拭い切れなかった。

 

またこの報告は発生した小規模なクーデター軍の抵抗によりジークハルト達へ伝わるのが大幅に遅れた。

 

その間にジークハルトと外人部隊はウェイランド軍基地に入った。

 

周囲にいくつかの小拠点が存在しレーダーや対空網などを万全な状態に保っている。

 

戦力としては既にウェイランド防衛軍地上部隊1,152名が駐留しスピーダーやホバータンクなども管理されていた。

 

強力な偏向シールドも備わっており軌道上爆撃はともなく並の砲撃ではびくともしない強度を誇っている。

 

「シュタンデリス大佐!お待ちしておりました!」

 

基地司令官のスクリール中佐が敬礼した。

 

ジークハルトとハイネクロイツ中佐も同じく敬礼を返した。

 

「状況はどうだ?」

 

「敵は既に山を占拠しすぐにでもこの基地を攻撃してくるでしょう」

 

「貴方達から頂いた偏向シールドを各防衛地に配備し防衛は万全を期しております」

 

「現在は冷却時間の為シールドは解除されております」

 

「冷却時間はあと何分で終了する?」

 

ジークハルト基地の指揮官達に尋ねた。

 

「20分後です、それまで全兵員を動員して警戒体制を敷いています」

 

「外人部隊も警戒に参加させましょうか?」

 

「そうだな…通路の守りはどうなっている?」

 

この基地までの大型車両を動かせる大きな道は一本しかなくそこを絶たれたら事実上孤立してしまう。

 

なんとしても守る必要がある。

 

「シュリッツ上級中尉が車両数台と一個小隊を率いて防衛中です」

 

「わかった、残りの外人部隊兵力を最前線やこの基地の防衛にまわそう」

 

「助かります大佐」

 

スクリール中佐がそう言った直後基地内全てに警報とアナウンスが入った。

 

『第二対空地で戦闘発生、クーデター軍の奇襲攻撃!繰り返す、第二対空地で戦闘発生、クーデター軍の奇襲攻撃!』

 

一瞬で基地内に緊張が走った。

 

すぐさまジークハルトが誰よりも早く命令を出す。

 

「基地内を封鎖、全砲塔を起動し全部隊出動準備だ!シールドの冷却も急がせろ」

 

「先行して基地の救援に向かう、いくぞペリタリス」

 

「了解です!」

 

2人は駆け足で外へ向かった。

 

ペリタリス上級大尉とハイネクロイツ中佐、ライツァー上級中尉の引き入る外人部隊二個中隊が戦場に急行した頃には既に銃撃戦が始まっていた。

 

クーデター軍が山から駆け降り奇襲したのだ。

 

既にウェイランド防衛軍側には何人か死傷者が出ている。

 

トルーパー達を乗せた兵員輸送機が停止し周囲を警戒しながら一斉にスワンプ・トルーパー達が飛び出した。

 

ハイネクロイツ中佐は輸送機から降りた瞬間ジェットパックを点火し再び空を戦場とした。

 

ブラスター・ライフルを構えながら200名以上のスワンプ・トルーパー達が最前線へと向かう。

 

「訓練でやった事をそのままやれ!所詮敵は紛い物の兵士だ!お前達は強い!お前達により帝国は再び勝利を手にする!」

 

ペリタリス上級大尉はブラスター・ピストルを持ちトルーパー達と同じように走った。

 

彼は叩き上げの前線指揮官だ。

 

他の将校よりも前線を理解している。

 

先に突っ込んだスワンプ・トルーパーの一部隊が最前線に到着し拠点を守るウェイランド防衛軍の兵士たちに加勢した。

 

僅か3週間の訓練だったがその効果は十分に発揮されている。

 

既に数人の敵兵を撃ち殺し訓練通りに攻撃と防衛を始めていた。

 

射撃や基本的な戦い方は元から経験していたり素質がある連中達だ。

 

それに帝国式の厳しく無駄のない教育が合わさりそれに当てはまれば直ぐに優秀な兵士の出来上がりだ。

 

即時戦力としても通常の歩兵隊としても親衛隊外人部隊は多くの軍よりも遥かに優れていた。

 

「重火器で敵を制圧しろ!」

 

スワンプ・トルーパー数名がEウェブの三脚を開き急いで本体と組み合わせる。

 

冷却機を固定し異常がないかを確認した彼らは直ぐに砲撃を開始した。

 

以前よりもこのEウェブの設置時間が大幅に短くなっている。

 

それは全ての兵士がそうだった。

 

圧倒的なEウェブの高火力が岩や木々などの障害物を吹き飛ばしそこに隠れる兵士を蒸発させる。

 

敵はに既に撤退を始めようとしていた。

 

その隙を彼が突いたのだ。

 

空を駆け抜けるハイネクロイツ中佐が。

 

彼はジェットパックのミサイルを放ち一撃で敵の一個分隊に打撃を与えた。

 

間髪入れずに次々とブラスターの弾丸を撃ち込み付け入る隙を与えなかった。

 

上空と地上からの攻撃や物量差に耐えかねたクーデター軍は直ぐに撤退を開始した。

 

流石に山の中を追って行くのは危険だし何よりこの拠点の体制を立て直す為にも一旦はこれだけの戦果で由とした。

 

ハイネクロイツ中佐はジェットパックを操作し簡易的な兵舎の屋根の上に乗っかった。

 

この宿舎の高さだとちょうど撤退していくクーデター軍の姿が捉えられる。

 

妙な動きをするようなら再び攻撃出来る様に見張っていた。

 

敵は完全に撤退しているようだ。

 

しかし中佐は妙だと思った。

 

「撤退するには早すぎる…そして威力偵察にしては兵力が大きすぎる…」

 

草木の動きから察するに現在の敵部隊の戦力ならまだ戦えるしこんな全問付近で苦戦するような数ではない。

 

普通にこの拠点程度なら抑えられるほどの戦力だ。

 

第一の目標が達せられたのは良かったが少し違和感が残った。

 

厄介なことにならなければ良いがと彼は心の中で思っていた。

 

すると隣の兵舎にケーブルを使ってペリタリス上級大尉が登ってきた。

 

彼もより念密な索敵の為になるべく早くなるべく高い所に行きたかったのだ。

 

直ぐにマイクロバイノキュラーを取り出しじっと山の方などを見つめていた。

 

「損耗の方はどうだ大尉、見た所かなり善戦していたが」

 

バイノキュラーを下すと大尉が頷いた。

 

「死傷者なし、初めてにしては素晴らしい戦果です。このまま行けば彼らで打撃を与える事も叶うでしょう」

 

「そいつは良かった。初っ端から使い物にならなきゃお先真っ暗だからな」

 

「ハハ、確かに」

 

苦笑まじりにペリタリス上級大尉は再び索敵に戻った。

 

中佐は念の為ブラスターを持ったまま周囲を見渡した。

 

一部を除いてスワンプ・トルーパー達が後退していく。

 

敵もいない状態じゃ数百人も前衛に人手がいては邪魔になるだけだ。

 

後方を担当するライツァー上級中尉の隊と合流しようとしていた。

 

兵力が徐々に均等に広まっていく。

 

するとペリタリス上級大尉が何か疑問に思ったのか声を出し中佐に尋ねた。

 

「中佐…あれは一体なんでしょうか?」

 

ハイネクロイツ中佐が振り向くとそこには点のような光が空に散らばっていた。

 

まだ昼前、昼時だというのに流れ星は妙だ。

 

飛行機雲だとしても少し形や様子がおかしい。

 

するとハイネクロイツ中佐の両脇を微かに何かの“音”が横切った。

 

その音を聞いた瞬間彼の様子は激変した。

 

ヘルメットで隠された表情は強ばり右手を出し直ぐに命令を出した。

 

「全員伏せてなるべく後退しろ!!」

 

そう言いつつ彼の目線は謎の光の方に釘付けにされた。

 

その光は僅か数秒のうちに明らかに大きくなりこちらに近づいているように見えた。

 

中佐は今の音を昔聞いた事があった。

 

とある戦場で同じようにジェットパックを付け戦っていた時の事だ。

 

同じように微かな風の音とは違う変な音が彼の両脇を横切った。

 

その瞬間別の後ろの塹壕が一気に吹き飛んだのだ。

 

あの音は間違いない。

 

彼が今僅かに感じ取った音は敵が放った砲弾の風を切る音だった。

 

「大尉!!お前達!!急いで逃げろ!!」

 

ハイネクロイツ中佐は屋根の上を走りながら前衛の兵士達と同じく別の屋根の上にいるペリタリス上級大尉に警告した。

 

急いで屋根から飛び降りジェットパックを点火し地面をホバリングした。

 

その直後それは来た。

 

彼にははっきりと見えたのだ。

 

大きな砲弾が先ほど立っていた兵舎の屋根を突き破り室内へと打ち破っていた瞬間を。

 

隣の兵舎に突っ立っていたペリタリス上級大尉の体を砲弾の一発が大きく抉り取り上半身を宙に飛ばした瞬間を。

 

彼の直ぐ後ろに砲弾の一発が降り落ちた瞬間を。

 

彼は全てその目で察知した。

 

直ぐに逃げたのだ。

 

味方を退却させる為に。

 

ジェットパックを最大で点火し最高スピードで入り組んだ拠点を駆けた。

 

その瞬間拠点に降ってきた全ての砲弾は爆発を起こしあちこちで建物や兵士達を破壊しその破片を宙へと撒き散らしていた。

 

爆発の大きな音と衝撃が逃げようとするハイネクロイツ中佐に降りかかった。

 

まるで落雷のような爆音がまだ鳴り響いている。

 

そして断末魔に似た兵達の悲鳴も同時に耳に入った。

 

耳を塞ぎたいような気分を振り捨て安全地点となった一番端に奇跡的に残った砲塔の上に着地した。

 

不時着じみた着地だったがひとまずは助かった。

 

砲撃一発のみでこれ以上轟音と爆発が起こる事はなかった。

 

急いでハイネクロイツ中佐は振り返り拠点の方の状況を確認した。

 

あまりの衝撃に彼は絶句した。

 

本当にここはさっきまでいた拠点かというほど変わり果てた姿になっていた。

 

兵舎や砲塔、司令部といった全てが破壊され瓦礫の山が積み重なりその幾つかには誰のかも分からない血が滴っていた。

 

遺体や腕や足の片鱗、アーマーやブラスターの破片が散らばり痛々しく恐ろしい光景を生み出していた。

 

辛うじて生き残った兵士達も皆腰を抜かしている。

 

「これは…こんなことが…」

 

ハイネクロイツ中佐は状況を正しく認識していただけに戸惑いを隠せなかった。

 

ヘルメットを脱ぎブラスター・ピストルを思わず落としてしまう。

 

それだけ衝撃的でショッキングだった。

 

第二対空地と外人部隊二個中隊は一瞬のうちに壊滅状態まで追い込まれたのだ。

 

 

 

 

「…というのが現在の損害です…」

 

「そうか…報告ご苦労」

 

「はい…」

 

小隊長の少尉が覇気のない表情のままジークハルトの元を離れた。

 

周りを見渡せば山野ような負傷兵や戦意を喪失した兵士達が横たわっていた。

 

皆虚ろな目をしており虚無感や無気力感に満ち溢れていた。

 

まともに立って動いている兵士は砲撃が少なかった場所の兵士や指揮官、ストームトルーパーくらいだろうか。

 

スワンプ・トルーパーも負傷していない兵士のほとんどは疲労を見せつつも動いていた。

 

むしろあれだけの惨劇時でも平然としていられるストームトルーパーの方が異常だろう。

 

「よう連隊長…ひどいザマだなお互いに」

 

「ああ、見事にやられてしまった…偏向シールドの冷却時間を見計った砲撃、我々にも深刻な打撃を与える為に陽動作戦…」

 

「全てにまんまと嵌ってこのザマだ…今じゃウェイランドの兵は腰を抜かしてやがる…それは外人部隊もそうだがな」

 

ハイネクロイツ中佐は悔しそうに歯噛みした。

 

ジークハルトは小さく相槌を打った。

 

彼は全く表情に感情を出さない。

 

実際は出していないだけで悔しいし死んで行った仲間の仇を討ってやりたいとも思っている。

 

その為には指揮官が冷静でなくては行けない。

 

冷静さを欠いた指揮官などなんの役にも立たない。

 

「しかも大通りを潰され大型車両の通行は不可能となった。我々は孤立してしまったわけだな」

 

「ああ…敵ながら見事な戦術だよ」

 

「ペリタリスとライツァー、ヒョートルが戦死、シュリッツも手負いだ。我が舞台でまともな指揮官は私と君だけになった」

 

「厄介なこった。クソ…」

 

中佐は明らかに悪態をついていた。

 

こんな状況であんなものを間近で体験しては無理もないだろう。

 

むしろこれでもある程度正気と冷静さを保っていられるのが不思議に思う。

 

「我々は敵がウェイランドのクーデター軍“だけ”だと思っていた。だが実際は違った」

 

「違った?どこが違ったんだよ。あれはクーデター軍の砲撃じゃないのか?」

 

ハイネクロイツ中佐はジークハルトの言葉に引っ掛かった。

 

彼はあの砲撃をクーデター軍のものだとばかり思っていたからだ。

 

「クーデター軍が、いやウェイランド防衛軍があれほどの距離を精密に攻撃出来る砲を持ってはいない。それにクーデター軍の総司令官のブラウンス中将はこのような作戦を思いつく人ではない」

 

「じゃあ敵は…」

 

なんとなく察しが付きながらもハイネクロイツ中佐は尋ねた。

 

「我々がつい先日まで戦っていた宿敵…新共和国軍…実際はその残党といったところだろう」

 

ハイネクロイツ中佐はため息を吐いた。

 

ようやくあの忌々しい連中を叩いたと思ったのにまた現れるとは。

 

しかも目の前で大勢の仲間を殺してきた。

 

ため息の一つくらい出るに決まっている。

 

「…それで次は何が来ると思う?教えてくれジークハルト」

 

「敵の砲撃は偏向シールドを突破する事は不可能だ。となれば意地でもこれを打ち破るだろう」

 

「無理やり押し進んでくる可能性もある。そうなればこっちは戦意喪失で全滅だ」

 

「こちらはまだ帝国軍の車両に比べれれば弱いがタンクがありこの基地以外にもまだ2つの前衛基地が稼働している。そうなれば敵もかなりの損害を喰らうだろう」

 

ジークハルトは冷静かつ望みを賭けてそう言った。

 

ハイネクロイツ中佐の言う通り今の士気の低さでクーデター軍に無理やり攻撃されたら恐らく勝てないだろう。

 

退路もない為撤退することも叶わず全滅してしまう。

 

それだけはなるべく予測としても避けたかった。

 

「逆に一番堅実で損害が低い戦術と言えば何者かを潜り込ませて再び砲撃で全てを吹き飛ばす事だ」

 

「となると怪しいのはウェイランド軍だな…」

 

「ああ、室内の警備を帝国軍の兵と変えよう。とは言え貴重なストームトルーパーを回すわけにもいかん」

 

「外人部隊の方を使うしかないな…あの連中もかなり手痛い打撃を受けたが」

 

「中佐…大佐…」

 

2人が話していると向こうから今にも消え掛かりそうな声が聞こえた。

 

シュリッツ上級中尉だ。

 

彼は松葉杖のようなものを左腕に抱え頭や足に包帯を巻いておりその上から帝国軍の軍帽を被っていた。

 

ボロボロでありながらも中尉は2人に敬礼した。

 

「大丈夫かよ…」

 

「今は休め、君にはいずれ働いてもらう。ただ信頼のおける兵士にシールドジェネレーターを守衛するよう伝えてくれ」

 

2人は優しく諭した。

 

中尉は納得していない様子だったが渋々戻っていた。

 

彼にも思うところはあるのだろう。

 

なにせ砲撃で頼れる先輩と同僚、部下達を一斉に失っているのだから。

 

とぼとぼ寂しそうに去っていくシュリッツ上級中尉を2人は目で見送っていた。

 

そして先程の話をジークハルトがまた振り返す。

 

「お前には一つ頼みたい事がある。出来ればお前1人でやってほしい」

 

より一層真面目で曇りのない瞳はハイネクロイツ中佐に任務を託した。

 

 

 

ジークハルトの読みは当たっていた。

 

この砲撃を繰り出したのはクーデター軍ではない。

 

クーデター軍に手を貸す新共和国残党軍のものだった。

 

砲撃は遠く離れた山の向こうのクーデター軍司令基地からであった。

 

新共和国が開発したこの重砲、正式名称BV1対ビークル砲は旧共和国軍が使用していたAV-7対ビークル砲をベースとしていた。

 

より精密な狙いと連射能力を持ち2つの砲を持ったこの重砲はAT-ATの装甲すらも場合によっては打ち破る事が可能で新共和国地上軍の切り札であった。

 

だがまだテスト中であり更には軍縮の影響で僅か一個中隊分しか作られなかったこの重砲は活躍を見せず新共和国の崩壊と共に歴史の中に消えて行くはずだった。

 

新共和国残党軍司令官アイッツ・パルベン将軍が残されたこの重砲を使うまでは。

 

パルベン将軍は元々地方防衛軍の砲術士官だった。

 

彼は昔から多角的な砲撃と波状攻撃、隙や奇策を用いた集中攻撃による殲滅を得意としていた。

 

反乱軍に加わった時も手土産として持ち込んだ重砲や迫撃砲を使用し当時の反乱軍地上部隊には勝つ事は不可能だとされていた帝国軍のウォーカー部隊を打ち破った。

 

それ以来反乱同盟、新共和国の優秀な指揮官として第一線で戦い続け崩壊後も自身の部隊を率いこうして帝国との戦いに全てを捧げている。

 

「敵部隊は前衛基地を2つ失い作戦通り退路を完全に破壊しました」

 

「BV砲、正常に稼働中」

 

士官からの報告はどれもいいものばかりだ。

 

すぐパルベン将軍が命令を出す。

 

「斥候に予定通りシールドを破壊させろ。これでチェックメイトだ」

 

「了解!」

 

「まさかここまで上手くいくとは…収容所が陥落した時はどうなるかと」

 

隣でブラウンス中将が胸を撫で下ろしていた。

 

度重なる味方拠点の陥落により動揺を隠せずにいたブラウンス中将だったが今では落ち着きを取り戻している。

 

「言った通りだ中将、我々の勝利はもう決まっている。やがて軌道上の艦隊も撤退していくだろう」

 

「それは素晴らしい事です…」

 

「このまま山の基地を殲滅し囮部隊の駐屯地を攻撃している帝国軍どもをこの砲で殲滅する。そうすれば再び首都への道も開けるだろう」

 

「ええ、帝国軍を打倒する戦線はこれからですね」

 

「君のような良き理解者がウェイランドにいて良かった。この地の“秘密”の為にもまずは目先の勝利を頂こう」

 

ブラウンス中将は力強く頷いた。

 

帝国軍は大勝利に浮かれているようだがいつまでもそれが続くと思わないことだ。

 

新共和国は、反乱同盟の頃から大敗を乗り越えその度に強くなり、最後には勝利を手にした。

 

最後に勝つのは毎回我らなのだ。

 

希望を持ち続けている我らが帝国軍に屈するものか。

 

狂信的な遠い先の希望が今のペルバン将軍を突き動かしていた。

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部-

ホズニアンから徐々に帰還した親衛隊や帝国軍はコルサントに戻ってきた。

 

多くが万雷の拍手でコルサントの民から迎え入れられ皆が勝利を喜び祝っていた。

 

だがそうではない者もいた。

 

今の勝利は次の勝利の糧でもある。

 

新共和国は崩壊したがその遺臣達はまだ生きている。

 

それにそんな敗北者達に同調した惑星や防衛軍の過激派が残党と手を組み帝国に対する反抗を始めた。

 

それら全てを討ち滅ぼし帝国に最高の勝利をもたらすまで親衛隊トップのシュメルケ上級大将は気を許す事はなかった。

 

今も歩きながら各地の対応を頭で練っている。

 

「ウェイランドはどうなった、まだ戦闘中か?」

 

後ろに控えるアストグラム大佐とリーゼヴェルデ大佐に尋ねた。

 

2人とも顔を見合わせアストグラム大佐が口を開いた。

 

「現在収容所を陥落させ包囲線を敷いているそうです」

 

「後数日もすれば敵は陥落するでしょう」

 

「なるべく急ぐよう伝えてくれ。我々としても“アレ”の確認を早めにしたいところだ」

 

「わかりました」

 

2人は妙に思っていた。

 

シュタンデリス大佐、つまりジークハルトの第六親衛連隊は最精鋭であり汎用性にも長けている。

 

また実績も申し分ない。

 

この部隊を展開すると言う事は余程の事だ。

 

それこそコルサント奪還やホズニアン陥落などどれも重要な戦線に第六連隊は展開されている。

 

なのに今回はウェイランドの言ってみれば大した事ない反乱の鎮圧にわざわざ出向かせたのだ。

 

人手が足りないわけではない。

 

他の適当な部隊ならいくらでもいる。

 

しかし何故だか今回だけは親衛隊の上層部は皆ジークハルトと第六親衛連隊に向かわせる事を決定した。

 

1人の参謀将校が「第六親衛連隊ではなく他の連帯を展開すべきでは?」と進言したがシュメルケ上級大将とフューリナー上級大将がかなり念入りに却下した。

 

それにシュメルケ上級大将が現地の部隊を急かすなど滅多にない。

 

常に確実な勝利を得る為に時間に関してはある程度寛大であった。

 

よほど気になる物でもあるのだろうか。

 

ウェイランドには亡き皇帝陛下の宝物庫があるというのが専らの噂だがそれと何か関係があるのだろうか。

 

2人もそこまで考える力はなかった。

 

そこでリーゼヴェルデ大佐が思い切った事をした。

 

「あの閣下…どうしてそこまであの惑星に拘るのですか?」

 

シュメルケ上級大将に足が止まった。

 

その様子がすぐにわかったリーゼヴェルデ大佐は少し青ざめていた。

 

まずい事を聞いてしまったのではないかと。

 

「…大佐、かつての第一銀河帝国が“()()()()”だと思うか?」

 

シュメルケ上級大将の問いは意味不明だった。

 

しかし上官の問いに対し答えないと言う選択肢はない。

 

「ええ…エンドア後多少分裂はしましたが現在は総統閣下の名の下、形は違えど再び帝国は一つになったと…考えています…」

 

「そうか、ではその内の何人が帰って来た?あれだけ分裂し戦いを繰り広げたうちの何人が再び帝国に戻ってきた?」

 

「そっそれは…」

 

「分からない、その通りだ大佐。誰も“()()()()()”、誰が死に誰が今生きてるのかさえもな」

 

「つまり…未だ生存している残存勢力があるとおっしゃっているのですか…?」

 

リーゼヴェルデ大佐の代わりにアストグラム大佐が自分の考えを述べた。

 

「しかもそれは最悪の形として残っているかもしれんがな」

 

「ですがそんなこと…」

 

「閣下!」

 

向こうからフューリナー上級大将の部下であるリューケル中佐が駆け足で向かってきた。

 

すぐに敬礼しその姿のまま報告する。

 

一方シュメルケ上級大将はやっと来たかと言う表情を浮かべていた。

 

「暗号の解析完了しました!既にデータ化と映像化に成功しております!」

 

「そうか、なら今すぐ向かう。2人も来い」

 

「はっはあ…」

 

2人の大佐は困惑しながらもシュメルケ上級大将に続いた。

 

情報部の一角にそれはあった。

 

ここには第三銀河帝国のみならず以前の帝国、旧共和国の暗号や公文書の一部が保管されている。

 

その大半が機密情報や外に漏れたら困る物なのだが。

 

3人の目の前にはサイズ的には比較的中くらいのホロプロジェクターが置かれていた。

 

「起動します」

 

リューケル中佐と部下達がホログラムを浮かび上がらせた。

 

ホログラムは人の形を作り出しある1人の帝国軍元帥を表した。

 

アストグラム大佐にもリーゼヴェルデ大佐にも見覚えのある人物だった。

 

少し険しい表情でシュメルケ上級大将はその男の名前を呼んだ。

 

ガリアス・ラックス

 

帝国宇宙軍元帥にして先の内乱状態の帝国の実質的皇帝。

 

それこそがこのホログラムに写っているガリアス・ラックス元帥だ。

 

彼の生い立ちや功績は未だに不明な点が多い。

 

少なくとも幼い頃から皇帝の庇護下にあり皇帝の懐刀のような存在であった。

 

元帥に上り詰めた彼はエンドアで皇帝の死後帝国内で最も勢力の大きい残存勢力を指揮し事実上の皇帝となった。

 

その後彼はジャクーに兵力を集結させ新共和国との大激戦を繰り広げた後ジャクーの地表に墜落した旗艦ラヴェジャーと運命を共にした…

 

これが表向きの知られている事だ。

 

帝国敗北の確実な要因となった為ある者達からすれば一瞬の戦犯だ。

 

しかしそんなラックス元帥にはいくつか不明瞭な点が多くあった。

 

まず生まれや皇帝との接点、それから何故わざわざジャクーに兵力を集結させたのか。

 

多過ぎる謎が戦争から2年経った今でも彼を謎の存在のままにしていた。

 

そんなラックス元帥がこうしてホログラムとして浮き上がっているのだ。

 

正装なのか白い軍服に黒いズボンを履き、胸には元帥を示す階級章と彼が手にしたいくつかの勲章が付けられていた。

 

赤いマントを羽織り黒髪のオールバックの髪型をした姿の元帥は手には黒い手袋を付けていた。

 

そんな元帥が口を開く。

 

『私はガリアス・ラックス元帥だ。これは皇帝陛下直々の遺言である』

 

「シンダー作戦の事でしょうか…?」

 

「まだ分からん…それ以上の事かも知れん」

 

『陛下は陛下亡き後の銀河帝国を愚かな反乱分子と共に早急に滅ぼす事を望んでおられる。その任を陛下は私に御命じなされた』

 

ラックス元帥は身振り手振りを交えず淡々と話していた。

 

ただ一点を見てメッセージを告げている。

 

『両提督は早急に艦隊をまとめ上げ未知領域へと速やかに移動せよ。これも皇帝陛下の遺言である』

 

「皇帝の遺言…」

 

『未知領域にはお前達を導く者が必ず然るべき場所へと導くであろう。私もすぐに向かう』

 

主語が見えない為3人にはなんの話をしているのか理解が及ばなかった。

 

『遠くない未来で再び共に戦える事を望む。皇帝陛下万歳』

 

そう言ってホログラムは途切れた。

 

ここまでが解析出来た暗号の中身のようだ。

 

ずっと戦い続けてた彼らには驚愕の真実だった。

 

帝国はまだ分裂したままなのだ。

 

 

 

1人のスワンプ・トルーパーが基地内の通路をフル装備のまま歩いていた。

 

E-10を構え顔をゴーグルとマスクで覆ったそのトルーパーは迷わず通路を曲がっていた。

 

どうやらしっかりとした目的地があるようだ。

 

通路を歩いていくと負傷し包帯の上からも血が滲み出ているウェイランド防衛軍の兵士が何人も通路傍に横たわっていた。

 

それだけではなく帝国軍のスワンプ・トルーパーも何人かいる。

 

むしろスワンプ・トルーパー達の方が重傷の者が多い。

 

ぐったりしており傷が疼くのか時々唸り声を上げていた。

 

「おいバクタのポッドが開いたぞ!誰でもいいから使え!」

 

「こいつを運んでやろう…一番重傷だ」

 

1人の同じアーマーを着たスワンプ・トルーパーが担架に乗せられた。

 

「クッソ…まだ戦える…」

 

「明日戦うためにポッドにぶち込むだけだから安心しろ」

 

「クソ…クソォ…」

 

うっすらと聞こえる罵倒がさらに遠のいて行った。

 

尤も彼にそんな事を気にしている余裕はない。

 

与えられた任務の為急がなければ行けなかった。

 

真っ直ぐ行くとちょうど目的の場所だ。

 

この辺りからは負傷兵や通路傍に屯している兵士達はおらずとても静かだった。

 

エネルギーの供給がしっかりとしているのか電灯が途切れることはなく通路の壁もとても綺麗だった。

 

それは当然だ。

 

なにせこの先には基地の運命を左右する物が備わっているのだから。

 

数歩歩くと早速見えてきた。

 

ブラスト・ドアと2名のスワンプ・トルーパーの衛兵に守られ物静かに佇んでいる。

 

当然彼はスワンプ・トルーパー達から止められた。

 

「お前何しにここに来た」

 

「ここから先にはなるべく来るなと通達があったはずだ」

 

決まり文句を並べられ彼は衛兵に阻まれた。

 

そこでこちらも同じような定型文で返す。

 

「俺は中尉に言われて室内の様子を確認するよう言われだんだ。衛兵2人がやったら見張りの目が減るってな」

 

「そうか…わかった、入れ」

 

「気をつけろよ、一応あれは危険だ」

 

「分かってるさ、あっあと中尉からの命令でドアをしっかり閉めてくれだそうだ」

 

「了解した」

 

衛兵の1人がドアを開けた。

 

彼は静かに一礼すると入室した。

 

直後三重のブラスト・ドアが全てガチャンという音と共に閉まった。

 

これで当分人は入ってこない。

 

彼にとっては好都合だった。

 

一応誰もいない事を確認すると彼はヘルメットとマスクを取った。

 

最期の瞬間くらいはしっかり息を吸っておきたい。

 

彼は帝国軍の兵士ではない。

 

彼は新共和国の兵士であった。

 

ホズニアン・プライムにいた彼の家族は帝国侵攻により失われてしまった。

 

その報告を聞いたのは遠く離れたこの惑星でだった。

 

何もできない自分と敵である帝国を憎んだ。

 

自分にできることはただ一つ、己の命に変えてでも帝国軍に打撃を与える事だ。

 

彼のような世論に流され兵士になったような奴では何も変えられないことぐらい分かっている。

 

しかしせめて一矢報いたかった。

 

この特攻にも等しいシールドジェネレーター破壊任務に志願したのも彼だった。

 

成功してもジェネレーターの爆発に巻き込まれて死ぬし失敗しても捕まって処刑される。

 

どうせ捨てた命だ、最期に一矢報いて死んでやる。

 

彼はそう思い大きく息を吐くと帝国から奪ったE-10を捨て新共和国から支給されたDH-17ブラスター・ピストルに持ち替えた。

 

死ぬ瞬間は武器も心も新共和国と共にいたいという妙なセンチメンタルからだ。

 

しっかりピストルを構え震える手を誤魔化す。

 

引き金に指を置き彼は己から力が抜けぬうちに引き金を引いた。

 

直後ブラスターの弾丸はシールドジェネレーターに直撃し室内全てを巻き込む爆発を起こした。

 

 

 

「爆発…確認されました…」

 

司令室のウェイランド軍士官から不安な声色で報告した。

 

司令官のスクリール中佐も不安そうな表情を浮かべている。

 

そしてジークハルトに尋ねた。

 

「本当にうまく行くんでしょうか大佐…ほんとにこれで…」

 

「信じるしかない、掛けだが大当たりの可能性の方が大きい。計測班はこのチャンスを逃すなよ」

 

「了解です…!」

 

士官がモニターに目を張り付けヘッドホンに手を掛けた。

 

ジェネレーター室の爆発は基地の外からも聞こえた。

 

すると1体の軍用のプロトコル・ドロイドがコムリンクに自分のスピーカーに近づけた。

 

わざとこのドロイドはベーシックとは違う他言語でコムリンクに喋った。

 

それから約3分後二射目の砲撃が山の向こうから放たれた。

 

「敵部隊、二射目を確認!!」

 

「約30秒後に基地内に到達します!」

 

「一応に備えて全対空砲を起動させろ、防備は万全にしたい」

 

「了解です…!」

 

手慣れてないウェイランド軍の士官達がコンソールをタップし砲塔を操作する。

 

司令室に緊張が走った。

 

「…レーダーは…特定完了!砲撃地点はクーデター軍司令部のペルタ基地です!」

 

士官が慌てた様子で報告した。

 

一部の士官達から感嘆の声が上がる。

 

「これで反撃の糸口が掴めたな」

 

「砲弾間も無く到達します!」

 

「到達まで5秒前!5…4…3…2…1…来ます!!」

 

何十、何百発の砲弾の数々が全て“()()()()()()()()”何も見えない空中で花火のように爆発し消えていった。

 

閃光の光が空を覆い隠し一時的に全てを包む。

 

外にいた兵士達はあまりの眩しさに目を覆い被していた。

 

光は10秒近く光り続け徐々にその閃光は薄れていった。

 

一発も基地や周囲に直撃する事なく。

 

「全弾ロスト…防衛成功です!」

 

司令室や外からは歓声は聞こえずただ安堵しほっと一息付いたため息の音だけが響いた。

 

隣でスクリール中佐は人目も憚らず「よかったぁ」と独り言を漏らしていた。

 

「ハイネクロイツ…目標は捉えたか?」

 

ジークハルトは小声で誰にも悟られぬようにコムリンクに話した。

 

『ああ…当然だ』

 

ハイネクロイツ中佐はコムリンクを起動したままポケットに差し込んだ。

 

そして銃剣を装備したブラスター・ピストルを両手に持ち直し再びジェットパックで空に舞い上がった。

 

コムリンクからはジェットパックのエンジン音が聞こえる。

 

1体のドロイドにしっかりと目線を合わせ剣先を向け両手をクロスさせた。

 

エンジンを最大加速で飛ばし一気に急降下した。

 

そのままの勢いでハイネクロイツ中佐は先ほどコムリンクで誰かと連絡を取っていたプロトコル・ドロイドにアタックした。

 

このドロイドは今も誰かと連絡を取り合っている。

 

もうこれ以上はさせない。

 

クロスした腕を思いっきり振り鋼鉄の小剣でプロトコル・ドロイドの首を刎ね落とした。

 

同線は見事にプッツリ切れ火花が飛び散った。

 

いくつかの破片が地面に散らばる。

 

ボディとヘッドパーツも同じように地面に崩れ落ちたい。

 

ドロイドのカメラの部分から光が消え完全に機能が停止された。

 

そしてドロイドの首を思いっきり踏みつけハイネクロイツ中佐はコムリンクに宣言した。

 

「持ち帰れるのは首だけだがな」

 

『それで十分だ』

 

そういうとお互いにコムリンクのスイッチを切った。

 

ふとハイネクロイツ中佐はシールドが展開された空を見つめた。

 

数時間ほど前ジークハルトからある頼み事をされた。

 

その事を中佐は回想する。

 

 

 

《別のスパイを見つけ出せ?》

 

《そうだ、ジェネレーターを破壊する者とそれを監視し報告する物はまた別のはずだ》

 

ジークハルトの言葉にハイネクロイツ中佐は些か不安を覚えた。

 

彼の予測は常に的を得ているが確証が少ない。

 

それにもう1人いるとすれば数が多すぎる。

 

この基地内数百、数千人が全て容疑者だ。

 

ハイネクロイツ中佐が1人で調べるにはあまりにも多すぎる数だ。

 

《で俺はこの山のような人の中からそのスパイを見つけ出せと》

 

《人…というのは些か語弊があるな、敵は恐らく人間や生命体ではない》

 

《となると…ドロイドか?》

 

《そうだ、顔がバレて追い回される人よりもすぐに溶け込めるドロイドの方がスパイとしては向いている。特に冷酷な監視役としてはな》

 

《両方ともドロイドの可能性があるぞ》

 

《それはない。シールドジェネレーターの部屋には強力な対ドロイド用のフィールドがある。ドロイドでは破る事は不可能だ》

 

中佐は渋々納得した。

 

彼の言葉には説得力だけはあるのだから困った奴だ。

 

だから彼をどうしても彼を信じてしまう。

 

《出来るかハイネクロイツ》

 

彼にそんな事言われたら返す言葉は一つだ。

 

《やってみせるさ連隊長》

 

 

 

「まさか本当にやっちまうとはな…」

 

ハイネクロイツ中佐は自嘲気味に笑った。

 

出来ない、やれないといったネガティブな感情は完全に捨てていたがやり切れる自信も同時になかった。

 

ギリギリで発見出来て良かった。

 

これで今度は俺たちが反撃する番だ。

 

連中は最後に勝つのは我々だと盲信しているようだがそれは違う。

 

本当に最後に勝つものは決まっている。

 

それは-

 

「俺達だ」

 

自信に溢れた言葉とその眼は遠く離れた新共和国の残党達をしっかりと見つめていた。

 

 

つづく




今日僕の誕生日なんすよ(また妙なこと言い出すスタイル)

マジですマジ
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