第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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Raise the flag high!
Remember the days of yore
We'll raise the flag again
No need to worry about being seen.
For our empire has risen again!
Accept my troops!
Under the leadership of the Führer.
Emperor's imperial army will raise its flag again.
Until the day we reclaim the galaxy!

-Bidding farewell to a day of abomination-


連合の滅亡/中編

動乱は止まる事を知らなかった。

 

第三銀河帝国では代理総統暗殺事件の一例である総統府爆破事件が勃発した。

 

新共和国はこれ以前に滅び自殺行為に近い戦いを繰り返していた。

 

未知の暗雲で姿を見せぬ者が蠢き牢獄では罪なき者が次々と殺されていった。

 

だがこれがこの銀河系の、この世界の運命だ。

 

第二の内戦は既に始まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 総統府-

総統暗殺未遂事件は主犯格の上空での自爆によって市民み広く知れ渡ってしまった。

 

だがあの時の状況ではそうする以外方法がなく仕方なかった面もある。

 

無論静かにその衝撃は広がるだけで表立って噂される事はなかった。

 

一方の総統府では数名の負傷者を出し総統府の一角を破損するだけで自体は鎮圧していた。

 

警備主任のリデルト・ヒャールゲン少佐の咄嗟の判断により最悪の事態は免れたのだ。

 

それに不幸中の幸いと言うべきかその時代理総統は丁度親衛隊本部に向かおうと移動を始めており執務室にはいなかった。

 

結局犯人の行動は全て無駄だったわけだ。

 

爪痕は十分に残されたが。

 

三人の帝国保安局の制服を着た人物が総統府の通路を足音を立て歩いていた。

 

真ん中の一人は女性で片目に義眼を付けておりオールバックの如何にも威圧感を与える人物だった。

 

彼女こそ現在の帝国保安局長官アレシア・ベックである。

 

元々保安局員として戦績を重ねていた彼女は帝国崩壊の動乱もあって残存帝国の保安局長官の座を手に入れた。

 

義眼も保安局員としての名誉の傷だ。

 

「ベック長官、よく来てくれた」

 

彼女達の足が止まった。

 

目の前には同じような白い軍服を着た長身の男が立っていた。

 

だがその軍服は親衛隊のもので階級は大将を示していた。

 

「ハイドレーヒ大将、総統は無事か?犯人の身元は掴んだのか」

 

ベック長官は強い口調で目の前の男に問い詰めた。

 

トリスハルト・ハイドレーヒ親衛隊大将。

 

親衛隊保安局副長官、親衛隊情報部副長官ならびに親衛隊に所属しているのにも関わらず、帝国情報部長官を兼任しておりコア・ワールドの警察組織も監督していた。

 

帝国のほぼ全ての警察権力を手にしている為彼は“警察大将”とも呼ばれていた。

 

「総統閣下は親衛隊本部においでだ、犯人の正体は…情報部や保安局が総力を上げて調べている」

 

「聞いた話によると親衛隊の軍服を着ていたらしいが?」

 

ハイドレーヒ大将の言葉が若干詰まった。

 

親衛隊から裏切り者が出た可能性もまだ否めない。

 

そうなれば彼らの立場も危うくなるだろう。

 

「それは調査中だ、保安局からもいずれ人手を借りる事になる。まあひとまずは事件現場を見てもらおう」

 

ハイドレーヒ大将に連れられ一行は奥に進んだ。

 

事故現場は封鎖線が張られ専門の調査員達が護衛のストームトルーパーと共に事件現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはどこだ…

 

確か爆発を受けて…手当を…

 

あれ

 

腕がない

 

違う

 

腕がないんじゃない

 

腕が動かない

 

そうだ、あの時

 

まあ陛下が無事ならいいか

 

 

 

 

 

 

 

 

「目が覚めましたか」

 

無機質な空間が広がり痛む体を無理やり起こすと自分の体の上には毛布が被さっていた。

 

ここは医療室だろうか。

 

目の前の将校は軍服や佇まいから見て軍医で間違いないだろう。

 

自分の体には所々包帯などが巻かれておりあの爆発の壮絶さを思わせた。

 

そうだ、腕だ。

 

自分の腕はどうなった。

 

右腕を見てみると腕には何か補助装置のようなものが付けられていた。

 

「少佐の腕の損傷は神経まで傷つけており、それもバクタ・タンクですら治療不可能なものでした」

 

「なるほど…通りで…」

 

「率直に申し上げますと少佐の右腕はもう以前のようには動かせません。その為どうしてもそのサポーターが必要になってくるのです」

 

完全に動かせないわけではないが明らかに行動に支障をきたしている。

 

閣下をお守り出来た代償と思えば小さなものだが…それでも大きなものを失ってしまった気がしてきた。

 

このサポーターがない限りブラスターどころかスプーンもまともに握れないだろうし軍務に大きな支障をきたす。

 

最悪退役というのもあり得るだろう。

 

「私は今後どうなるのだ?」

 

小さな不安感から親衛隊保安局リデルト・ヒャールゲン少佐は軍医に尋ねた。

 

今はまだ退役せず軍務に復帰していたい。

 

まだ相当の役に立っていたいのだ。

 

「そのサポーターさえあれば少佐は以前と同じように腕や手を動かせます、多少頑丈な作りになってるので格闘戦なども問題はありません」

 

ひとまず軍医の話した内容にヒャールゲン少佐は安堵の息を漏らした。

 

「そして今後の少佐の配属についてですが…モーデルゲン上級大将!」

 

軍医は名ありの上官の名前を呼んだ。

 

すると医療室の扉が開きモーデルゲン上級大将ともう一人親衛隊の軍服を着た佐官の男が入ってきた。

 

どこかで見た事がある、確か地上軍の複合連隊の連隊長だったはずだ。

 

「総統閣下を守った英雄よ、気分はどうだ?」

 

「ああ、思ったより健康ですよ」

 

上級大将と握手するとそのまま隣の大佐とも握手をした。

 

首元には十字勲章がぶら下がっており戦果を思い知らせる。

 

穏やかそうな好青年だ。

 

「さて、今後のことを話そう。少佐、君には戦傷章と親衛隊英雄章が与えられる」

 

これほどの負傷なら確かに戦傷章に見合う代物だろう。

 

尤もそんなもののために戦ってるのではないのだが。

 

この傷も勲章より総統を護衛するという任務を果たした事の方が嬉しい。

 

「君は少しの間だがジークハルト・シュタンデリス大佐の新旅団の保安局及び憲兵隊総監になる」

 

「私もついさっき知らされたところだ。長い付き合い…ではないかもしれないがよろしく頼むよ」

 

再びシュタンデリス大佐と握手を交わす。

 

「総統府の人員再編成が終わるまでの辛抱だと思ってくれれば良い。上手く行けば中佐として再び警備長に戻れるだろう」

 

「そうなるよう全力を尽くします…他には?」

 

「いや、これで終わりだ。ゆっくり休んでくれたまえ。それでは少佐、あと大尉、失礼するよ」

 

ジークハルトとモーデルゲン上級大将は二人の将校に敬礼で見送られながら医療室を後にした。

 

そのまま歩きながら彼らは話を始めた。

 

軽い雑談などではなくかなり深刻な話だった。

 

「コルサントに呼び出されたからいよいよ解雇だと背筋を凍らせましたよ。まさか上級大佐に昇進して新旅団の指揮官とは…」

 

「君に連隊は小さすぎる。新しい旅団は第三機甲旅団と呼ばれ以前の連隊をベースに幾つかの砲兵部隊や機甲部隊を組み込み打撃力を強化した。無論歩兵の機動力もだ」

 

人員数はおよそ六千百九十二名、元の第六連隊に一個複合連隊と二個機甲大隊、三個砲兵中隊などを合わせた部隊だ。

 

指揮官はもちろん会話の通りジークハルトが担当する。

 

ジークハルトも連隊の指揮をアデルハイン中佐に任せてついさっきコルサントに到着し上級大佐への昇進と旅団の話聞かされた。

 

未だに信じられないし内心おどろきっぱなしだ。

 

それに疑問点が幾つかあった。

 

現状ジークハルト自身は連隊程度の戦力で満足しているし軍や親衛隊組織としても現状の状態で満足しているはずだ。

 

徴兵制度が大まかに軌道に乗ってきたとは言えそれなら態々旅団として設置する必要はない。

 

各戦線も順調そのものだと聞く。

 

なら急いで自分に旅団を与える必要なのあるだろうか。

 

一人悶々と考えてもどうせ答えは出てこないので思い切って聞くことにした。

 

それとなく会話を続かせながら。

 

「それほどの旅団、今私に任せる必要あるんですかね」

 

「ウェイランドで十分よくやってくれたじゃないか。それに君や君達に新しい部隊を与えるのは他に事情がある」

 

「…具体的にはどういった?」

 

ジークハルトは自分でも自覚があるが他の将校に比べて少しだけ従順ではない。

 

聞けるだけの理由は決して納得しなくとも聞いておきたかった。

 

でなければ兵士達を死地に送り出す時なんて声を掛けるべきか、どういう顔をすればいいか分からなくなる。

 

実際はそんなの建前で本当は自分を納得させるためのものだが。

 

モーデルゲン上級大将はジークハルトを引き寄せ通路の端に連れて行った。

 

「君だけに話そう、これは極秘事項だ」

 

極秘事項。

 

旅団を預けるだけでそんな重要なことが関わってくるのだろうか。

 

だが理由を聞いた途端ジークハルトは納得した。

 

衝撃的な一言によって。

 

「…近々、帝国は再び内乱状態に陥る」

 

モーデルゲン上級大将の一言はこの時点では全く信憑性の薄いものだった。

 

だが上級大将は続け様に話す。

 

「未知領域…惑星イラム、我々はこの惑星を制圧し埋蔵されているカイバー・クリスタルを確保する。その為には北西部と西側の確保が必要なのだ」

 

「それと帝国の内乱になんの関係があるんですか?」

 

「既にシュメルケとハイドレーヒが西側に偵察部隊を展開した所所属不明の帝国艦船を発見したそうだ。恐らくあの周辺には我々の呼びかけに応じなかった残存勢力がまだ残っている」

 

「その勢力と先頭になる可能性があると?」

 

「我々は間違いなく戦闘になると踏んでいる。その為周辺一帯の確保は兵站面から見ても必須だ」

 

さらにモーデルゲン上級大将は付け加えた。

 

「表向きには西方面の治安維持、新共和国残党の討伐だが実際には帝国同士の乱戦になるかもしれない。頼んだぞ」

 

ジークハルトは敬礼し頷いた。

 

モーデルゲン上級大将も敬礼で返し軽い雑談を投げかけた。

 

「時間はまだある、せっかくだから君の家族に会ってくるといいさ」

 

「ありがとうございます上級大将、それでは」

 

ジークハルトは微笑を浮かべ振り返った。

 

無論行く場所は決まっている。

 

今回ばかりはモーデルゲン上級大将の言葉に甘えるべきだろう。

 

いつも家族に会えるとは限らないのだから。

 

 

 

 

 

-惑星ラクサス ラクサロン 特別通信室-

「…というわけです。援軍の目処はつくでしょうか」

 

ジョーレンの報告にレイアとライカン将軍、ディゴール准将ら高官達は険しい表情を浮かべた。

 

それは隣にいるジェルマンも一緒だ。

 

彼らは数時間前、ようやくジャステン中将ら首脳部との面会が叶った。

 

彼らはラクサロンの第一会議室で戦略会議を開いておりその最中に呼ばれたのだ。

 

しかも会話や意見交換、こちらの要望などは殆ど聞かず命令を出された。

 

「各地に潜伏する全新共和国軍を呼び寄せよ」と。

 

無論無理だと反論した。

 

確かにジェルマンとジョーレンはヤヴィン4を筆頭とした様々な新共和国に与する惑星を巡ってきた。

 

だが全てではない、未だに一台拠点であるモン・カラやキャッシークなどには向かえていない。

 

呼び寄せるにしてはまだ準備が不十分なのだ。

 

それに救援を求めた所でこの状況ではリスクが大きすぎて来るとは到底思えなかった。

 

しかしジャステン中将らは命令だの一点張りでついには議会場を追い出されてしまった。

 

なので仕方なくディカーとヤヴィン4含めた今まで向かった残存新共和国領に通信回線を開いていた。

 

「既にラクサスは酷い有様です。現地の部隊は新共和国軍も連合軍も双方限界が生じている」

 

「来るにしても来ないにしても早めのご決断を。もう時間がありません」

 

そう、時間はもうない。

 

ジェルマンとジョーレンが言った通りラクサスを必死で防戦している各軍はもう限界が生じていた。

 

戦線は息を吹き返した帝国艦隊によって最も簡単に切り崩されラクサス内は負傷兵で溢れかえっている。

 

攻勢に出向く為に残された最後の部隊が残されてはいるがそれを投入した所でただの時間稼ぎだろう。

 

背後からの奇襲攻撃を行うにしても早い決断が必要だった。

 

『我々ヤヴィン4の軍は動かせない…帝国艦隊の攻撃を防ぐので手一杯だ。救援を送っている場合ではない』

 

『それは我々も同じです…ただでさえ辺境域は海賊との戦闘もあるのに…』

 

『我々は軍を動かす以前の問題だ。たとえ奇襲したとしてもクルーザーたった一隻とコルベット二隻、フリゲート一隻じゃ返り討ちに遭うだけだろう』

 

『無理に決まっている…!我々の宙域だって帝国艦隊は目と鼻の先なのだ…』

 

各将校から無理の声が上がった。

 

最終的にレイアが決断を下した。

 

『大尉、中尉…残念ですが今の状態では救援は送れそうにありません。本当に申し訳ない…』

 

ホログラム越しにレイアは頭を深々と下げた。

 

すかさずジェルマンが頭を上げてくれと頼み込む。

 

ジョーレンはだろうなという表情でどう報告するかを考えていた。

 

「こうなると惑星からの総退却を促すしかないな…中将閣下が頷いてくださるかは別として」

 

『自治連合の議会員達はどうした。まさか戦死されたのではないだろうな』

 

ディゴール准将が少し疑問に思い二人に尋ねた。

 

「いえ、ですが我々が会議室に呼ばれた時には新共和国軍の上級将校しかいませんでした」

 

ジェルマンは脚色なく答える。

 

あの会場は本来自治連合の議員や官僚が使うための会議場で新共和国軍にはまた別の部屋が用意されていたはずだ。

 

『少し…』

 

『ええ、気になりますね…そちらの軍の最高司令官は?』

 

レイアが二人に尋ねた。

 

ジョーレンが少し考えながら答える。

 

名前を聞いたのが一瞬で若干思い出せずにいた。

 

「えーっと…何ジャステン中将だっけ…」

 

「デリーズ」

 

「そう、デリーズ・ジャステン中将です」

 

ジェルマンとジョーレンの漫才仕立ての報告とは反対に軍の上級将校達の表情が若干険しいものになっていた。

 

するとホログラムに参加していたマクォーリー将軍が口を開いた。

 

『彼か…』

 

『辻褄が合ったというか…』

 

『最悪な事態になる前に彼らを撤退させましょう』

 

ディゴール准将は他の高官達に提案した。

 

「そこまで危険な人物なんですか?」

 

ジョーレンは彼らに尋ねた。

 

上級将校達は皆顔を顰め口を閉じた。

 

そんな中ライカン将軍は厳しめの声で語り始めた。

 

『…彼が……彼が新共和国軍に入ったのは三年前の銀河内戦期の頃だ…惑星防衛軍の編入でヴァー=シャー、オード・ディデル、オリンダ、コルサント戦で活躍した』

 

ライカン将軍の語り口調は無機質で淡々としていた。

 

だが彼はどこか嫌悪感があった。

 

『結果的に彼は中将に昇進、直属の一個艦隊を与えられ首都圏の防衛に回された。正にエリート…だが彼の経歴や戦績には少し不自然な点があった』

 

「不自然な点とは?」

 

『彼の経験と直属の部隊についてだ。基本経験が薄い惑星防衛軍の将校にしては彼はベテランと言えるほどの経験があった。尤も宇宙軍なのだから地上の治安維持よりも海賊相手な度で経験が高いのはよくある事だ。だがそれでも彼の経験値は群を抜けて高かった。そして彼の直属の衛兵や歩兵、士官達は皆彼に対する忠誠心が異常と言えるほど高かった。その動きはまるで…』

 

ライカン将軍次にこう言い放った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()”と。

 

『私や彼を不自然に思った中尉の上官のストライン中将達は密かに彼を調べた。結果的に彼の防衛軍以前の出自が分かった。彼は元帝国宇宙軍所属だったのだ。ロザルが解放された年、彼は惑星防衛軍の教育官として惑星防衛軍に移籍していた。長らく防衛軍で過ごし新共和国軍に転入した…全てに合点がいく。彼の経験の高さも、彼の部下の忠誠心も』

 

帝国軍から亡命した将校は時折その帝国で培った教育方針を部下に押し付ける傾向があるという。

 

その為亡命将校直属の部下は若干ストームトルーパーに似るという噂があった。

 

まさかその一例があったとは。

 

『一部の将校はその出自から「実は裏切り者なのではないか」という噂も広がったが新共和国での戦績から見てその可能性は低いだろ。ただ…危険であることは確かだ…』

 

『彼の悪い噂はかなりある…しかも元老院とも深い繋がりがあり咎める事はそう簡単な事じゃなかった…しかも本来なら彼はこの時期、提督に昇進し宇宙軍副参謀長になるはずだった』

 

「そうなのですか?」

 

ジェルマンは聞きかえした。

 

ディゴール准将は頷いた。

 

彼は元々地上軍次官を務めていたのでそういう事情に詳しいのだろう。

 

『ああ、だが我々は帝国に敗れ彼の昇進も白紙となった。色々な事情があって今の彼になったのだろう』

 

そう思うと少しばかり同情心が湧いてくる。

 

ディゴール准将は二人に命令と忠告を出した。

 

『君たちに新しい指令を与える。ラクサス自治連合の官僚達も含めた首脳部と軍を急いで退却させよ。この状況ではもはや勝てん。君達の見つけたハイパースペース・ルートでディカーまで連れてくるのだ』

 

『モン・カラには我々が別の部隊を派遣する。頼んだぞ』

 

「もし…もし首脳部が撤退を拒否されたら?新共和国軍や連合首脳部が退却を拒否なされるのであればどうします」

 

『時間がない、逮捕もしくは銃殺してでも構わん。連れてくるんだ。こうなった以上甘い考えや行動は命取りだ』

 

「わかりました」

 

ジョーレンの表情が鋭くなった。

 

冷酷という言葉で言い表せそうな感じだ。

 

彼は幼い頃からこんな顔をしてきたのだろうか。

 

いつか彼にも戦いがない日が訪れるのだろうか。

 

いつもはそう見えないジョーレンが今日はたまらなく悲しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国の進撃はようやく足を止めたかに見えた。

 

無慈悲にも思える一部部隊を放置しての戦線後退は防衛線の再構築を容易に行い士気は低いままでも戦線を強固なものとした。

 

この隙にラクサスは緊急避難命令と惑星総防衛体制令を発布。

 

多くの市民は強制的にシェルターなどに避難させられ一部の市民は特別志願兵として軍に徴収された。

 

市民の間には多大な反発があったが半数近くは迫り来る帝国軍の脅威と目の前に立っている武装兵の銃口の圧の中では少なくとも避難するしかなかった。

 

反発を募らせデモ行為を起こした者もいたが殆どが駆けつけた機動隊により鎮圧された。

 

ラクサスの状況はかつてのクローン戦争終戦後、帝国の統治時代より劣悪になっていた。

 

さらに宇宙港も軍によって抑えられラクサスは完全に封鎖状況にあった。

 

「市街地の武装化は80%が完了しました」

 

地上部隊の総司令官を務めるリステラー上級大佐はジャステン中将に各地の様子を説明していた。

 

最悪の場合このラクサスの首都(ラクサロン)は主戦場となるはずだ。

 

「市民の様子は」

 

「…およそ45%の避難が完了しました。残り15%は不明、その他の市民は現在もデモなどで抵抗を…」

 

「こんな時に無意味な損害を出す訳にはいかない。最悪市民の銃殺刑も許可する」

 

ジャステン中将のその発言に一部の将校達が凍りついた。

 

その中で一番最初に口を開いたのはジョーレン達を冷たく怒りであしらった比較的新人の参謀将校ジェタック少佐だった。

 

「中将…流石に市民に対しての発砲は…!」

 

「何処がまずいのだ。我々は民主主義の為に戦っている。個人の私欲を優先して我らの邪魔をするなど独裁主義者に味方しているも同然だ」

 

「ですがラクサスはあくまで他国で我々は市民を守る義務があります!それにデモ隊の市民はまだそれほど…」

 

「我らに逆らった時点で反逆者!犯罪者だ!」

 

ジェタック少佐はあまりの暴論に口を閉ざし気迫に押されてしまった。

 

他の将校は血の通わない表情で少佐を見つめるか同じように汗を流し黙っていた。

 

ジャステン中将は再び怒りを声に上げる。

 

「直ちに命令を実行しろ!市民の皮を被った暴徒どもを容赦なく蹴散らせ、各宇宙港の部隊司令官に通達しろ!」

 

「中将!いくらなんでも横暴です!」

 

「なんだ少佐?命令に逆らうのか?貴様叛逆だぞ、我々に対する重大な叛逆行為だ!」

 

ジャステン中将の発言にジェタック少佐は青褪めた。

 

中将は明らかに異常だ。

 

ジェタック少佐自身がひ弱だとかそういう理由ではない。

 

職業軍人として、民主主義の軍隊としてとても言ってはいけないことを言っている。

 

「まっ待ってください!」

 

「貴様は臆病者で裏切り者だ!反逆者だ!衛兵、奴を不服従で捕まえろ!」

 

周囲の衛兵がジェタック少佐を捕まえ無理やり外に引き摺り出した。

 

少佐は悲鳴に似た声を上げ必死に反論したがジャステン中将らには届くものではなかった。

 

ジェタック少佐はそのまま裏口を使い臨時のラクサロン元老院ビル内の監房室まで連れ去られた。

 

連れてかれる間にもジェタック少佐は必死に声を上げ考え直すよう迫ったがまるでストームトルーパーのように無機質な兵士達は何も返答しなかった。

 

「不服従の罪で拘束せよとの命令だ」

 

衛兵の一人がドアの警備兵に通達した。

 

兵士は頷き扉のロックを解除しようとコンソールを操作し始めた。

 

もう一人は未だに暴れようとするジェタック少佐を抑えようと衛兵たちに加勢しようとした。

 

だがそれは行われる事なかった。

 

青白いリングを浴び警備兵はばたりと倒れた。

 

残された衛兵達ともう一人の警備兵に緊張が走った。

 

がっちりと強めにジェタック少佐の腕を握りブラスター・ライフルを構えた。

 

弾丸の状態から察するにショックモードである為死亡してはいないだろう。

 

ただかなり強力な威力であった為警備兵は一撃で気絶してしまい当分起きることはないだろう。

 

放たれた弾丸の位置は全く見えなかった。

 

秘密の通路を通ってきた為敵は背後から来ることはないはずだ。

 

ましてや天井からなど…。

 

「来るわけがない。そう思っていただろう」

 

どこからか声が聞こえガコンと何がか外れる音がした。

 

天井の板が外れ黒い影のようなものが地面に降り立った。

 

全員がブラスター・ライフルを構え応戦しようとしたが遅すぎた。

 

降り立ったその影は一瞬のうちに五人分のブラスター弾を撃ち込み全員を気絶に追い込んだ。

 

二丁のブラスター・ピストルからは五発分の弾丸が離れる音と引き金の音しか残らなかった。

 

「…たまたま、助けただけだ少佐。俺は未だに貴方が嫌いだ」

 

ブラスター・ピストルをベルトについたホルスターに仕舞う姿は間違いなく彼だった。

 

ヤヴィン4から訪れた特使のような存在。

 

ジョーレン・バスチルだ。

 

「何で豚箱なんかに入れられかけたんだ?しかも仲間に」

 

若干痛む手首を押さえるとジェタック少佐はジョーレンの問いに不機嫌そうに答えた。

 

「市民にナマの弾をぶち込むのをやめろと言ったら反逆罪だー不服従だーと言われてここにいる。一時間後にはどうせ銃殺だ」

 

その発言を聞いて流石のジョーレンも絶句していた。

 

まさかと思い彼は再び問い直した。

 

「一体誰に…そんな事言う奴新共和国軍人では考えられないが…」

 

「ジャステン中将以外誰がいる…もはやラクサスの最高司令官も最高指導者も彼だ。新共和国軍も落ちたものだろう?」

 

自重気味に笑っていたがジェタック少佐にはまだ怒りが残っていた気がした。

 

ジョーレンはこの男を少し勘違いしていたのかもしれない。

 

最初は諦め喚き散らしていた情けない男かと思っていたがそうではないようだ。

 

その程度の男なら保身第一に中将に啖呵を切ったりしないだろう。

 

何故かは分からないが信頼できる気がした。

 

「だがまだ終わりじゃない。この星も、新共和国も、軍も全てだ」

 

「また…希望に満ちた事を言うのだな」

 

「悪いが俺は自分が出来る、可能だと思ったことしか口にしないんでな。まだ終わりじゃない」

 

終わりではない。

 

命令があり続ける限りは。

 

何が命令であろうと遂行しなければならない。

 

たとえそれが憎き仇を助け出す事だとしても。

 

それ以外の道を知らないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-帝国領 コア・ワールド 第二首都 惑星ベアルーリン 旧外務省本庁-

爆破事件があったとはいえ帝国の仕事に休みはない。

 

命が危ないからという保身的な理由で銀河の舵取りを休むわけにはいかないのだ。

 

それは代理総統も同じで彼はホログラムでコルサント中に姿を表した後に念の為地下壕に移動した。

 

市街地は一時的に外出禁止令が下され悶々とした雰囲気が立ち込めていた。

 

当然暗殺未遂事件は旧首都であり現在第二首都として地位を維持している惑星ベアルーリンにもその報告は入ってきた。

 

ちょうど同地に赴いていたシュメルケ上級大将とゼールベリック外務大臣は直ちに命令を出し念の為コルサントに戻る準備を進めていた。

 

同盟国や加盟国との会談が入っていた為当分は戻れそうになかったが。

 

だが形式的な会談もそろそろ終わろうとしていた。

 

『我々、ウォバニ星系諸邦国とブラッカ星系臣民共和国、サイムーン星系自治連合は第三銀河帝国の加盟国となる事をここに誓います』

 

「古き新しき同志よ、共に永遠の平和を目指し力の限りを尽くしていきましょう」

 

『ではまたコルサントでお会い出来る日を』

 

各国家の外交官のホログラムが消えゼールベリック大臣は一息ついた。

 

三人とも以前どこかで見たことあるような外交官だ。

 

それもそのはず、彼らは元々帝国の外交官達だ。

 

皇帝の死亡は帝国の空中分解の着火点となった。

 

帝国残存勢力が各地で誕生し銀河内戦末期を更に混乱させた。

 

当然その後の戦いで滅んだ勢力もあったが半分以上は戦いを生き抜き残り続けていた。

 

だが帝国の名を騙ったままでは流石の新共和国でさえ軍を派遣してくるだろう。

 

降伏を拒否した帝国の関係者の末路は誰もが知っていた。

 

その為彼らは名前を、その姿を変えた。

 

その地を治めていた軍将、総督、モフ達は様々な手を使い己の領土を国家に、己をその国家元首へと変えた。

 

ある者は形だけの選挙を行い大統領や議長に就任。

 

またある者は周辺の惑星、星系や同じような帝国の総督達と共に連邦国家を設立し中立を維持。

 

そしてまたある者は己の家や培った人脈を使い寡頭制の国家を作り上げた。

 

こないだ粛清されたデルヴァードス将軍ら13人の軍将達もそういった類の者が複数人いた。

 

当然その配下の帝国軍は新設された国家の惑星防衛軍となり総督やモフ達に吸収された。

 

こうして帝国の撒かれた種は新たな国家として姿を現したのだ。

 

その後の彼らの動きはやはりバラバラだった。

 

憎き敵とはいえ国内の安全や状況を鑑みて新共和国に加盟する国。

 

中立を維持し孤立主義を貫こうとする国。

 

同じような国同士で中小規模の共同体を作り再び勢力を拡大しようとする国。

 

密かに第三帝国の前身である残存帝国やクワットなどと手を結ぶ国。

 

新共和国と直接対立する事はなくとも殆どは新共和国を毛嫌いしていた。

 

だが当の新共和国はそういった国々を武力で攻めたり無視するような事はしかなかった。

 

平和的に交渉や加盟を促し新共和国に組み入れようとしていた。

 

無論殆どの場合は失敗する。

 

親の仇である新共和国に誰が手を貸すものか。

 

だが和平による解決こそが新共和国の理念でありモン・モスマの、いわば“モスマ主義”の形であった。

 

その結果が第三帝国の台頭を促してしまうのだが。

 

コア・ワールド由来の甘い思考回路では帝国には敵わない。

 

「加盟国は日に日に増えるばかり…だが所詮は元あった領土が返ってくるだけの事…」

 

「そして現在の我々ではそれらの領土を全て潤滑に統治するだけの余裕がない。人材、軍事あらゆる面を取っても」

 

彼の背後に控えていたシュメルケ上級大将がゼールベリック大臣に付け加えた。

 

大臣は「その通りだ」とため息をついた。

 

「…実際我らの人員に比べて領土の広がりが大きすぎたのだ。大使を展開するだけでも一苦労だよ」

 

元の残存帝国の領土は銀河協定の影響でコア・ワールドからインナー・リム、マラステア総督領やゴース伯爵領といった飛地を含めても本当に僅かなものだった。

 

これでも本来課せられる予定だった協定内容よりかなり緩和されたものだ。

 

どの道正攻法では今の有様には辿り着けはしなかった。

 

「私はつくづく感じる…かつての第一銀河帝国の成し得たことの偉大さを…並々ならぬ苦労と努力、そして才能がなければなし得ないものだ」

 

「ああ、だが我々も必ず成し遂げる。総統閣下と我々の力はかつての比ではない。一度立ち直り新共和国すら打ち倒しやがては第一銀河帝国の偉業すら超えてみせる」

 

シュメルケ上級大将は誇らしげにそう言葉を紡いだ。

 

彼にとって第三帝国と代理総統への忠誠はかつての帝国と皇帝よりも高い。

 

でなければ親衛隊最高司令官など務まるはずもなかった。

 

そのせいで正規軍や他の官僚達から多少冷ややかな目で見られることもあったが。

 

今のゼールベリック大臣のように。

 

そして大臣は冷ややかな諫言を彼に告げた。

 

「そう思うなら君たち親衛隊にはもっと真面目に国防と残党軍掃討に力を入れて欲しいものだな。“()()()()鹿()()()()()()()()()()()()”」

 

シュメルケ上級大将の飄々とした態度に若干の翳りが見えた。

 

微笑を浮かべたまま黄色の瞳でゼールベリック大臣を見つめていた。

 

だが大臣も退く事はない。

 

今回の事は誰の命令であろうとどうしてもはっきりと中止にすべき事だ。

 

あのような政策になんのメリットも現実性もない、人員と予算と土地と機密保持の為の努力全てが無駄だ。

 

それにあのような事を知られれば外交にも支障をきたす恐れがある。

 

第一、第三帝国は銀河を完全に掌握したわけではない。

 

ようやくコア・ワールドとインナー・リム全土の掌握を完了しミッド・リム、エクスパンション・リージョンに取り掛かれる程度だ。

 

そんな状況でこんなことをやっている場合ではない。

 

「これは総統閣下の命令だ。総統に忠誠を誓った我らは必ずやり通さねばならない」

 

「司令官閣下、我々はそれ以上に困窮しているのだ。それにこの広い銀河を維持していく為にはあんな事をやっている暇はない」

 

「だからだよ大臣。総統閣下は我々の行いこそがこの広い銀河系に永久の平和を齎す事が出来る。我々だけが銀河を救えるのだ」

 

ああ言えばこう言う。

 

総統の思想に染まり切ったシュメルケ上級大将にこれ以上何を言っても無駄だ。

 

「我らは確かに辛く厳しい。敗北の傷は未だに癒えてはいない。だが、我らが今ここでやらねばならんのだ大臣」

 

「犯罪の肩を担ぐのは御免だぞ」

 

「必要な犠牲だ。気に病む必要はない」

 

ゼールベリック大臣はあまりの冷酷さに恐怖を通り越して呆れ返っていた。

 

彼はふと思う。

 

一体いつからこんな国になってしまったのだろうかと。

 

一体いつから大罪人になってしまったのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルサントの我が家に帰るのはいつぶりだろうか。

 

ホズニアン・プライム攻撃、ウェイランド攻撃、ラクサス進軍と長い間離れっぱなしだった。

 

ユーリアにも沢山迷惑を掛けただろうし何より大切な我が子をとても寂しがらせただろう。

 

マインラートは4歳でまだ親が恋しく感じる時期だろう。

 

本当ならそばにいてやりたいが戦いの中ではそう贅沢は言ってられない。

 

早いうちに彼が自分達と同じ轍を踏む事のない世界を作らねば。

 

「わざわざ送り迎えすまないな」

 

スピーダーの中でジークハルトは運転手の少尉にそう礼を述べた。

 

恐らく今年アカデミーを卒業した新任の少尉だろう。

 

軍服も真新しく表情も若々しかった。

 

「いえ、これもモーデルゲン上級大将の命令ですから」

 

少尉の声音はとても勇気や活気に満ち溢れており正に新任の士官と言った感じだ。

 

若いのにこのコルサント勤務という事はかなり優秀か上官からの受けが良かったのだろう。

 

「命令…か」

 

少尉の言葉を少し考えながら窓の外を見た。

 

ジークハルトはふと自分達が通っているスカイレーンの通りの少なさに気づいた。

 

まだ午後の昼だというのにスピーダーの行き来がかなり少ない。

 

せいぜい軍用スピーダーやガンシップが数台横切る程度だ。

 

「通りの車両の数が少ないな」

 

何気ない独り言に対して少尉は律儀に答えた。

 

「今日総統府で爆破事件が起こりましたからね…戒厳令が出ているんですよ」

 

「ああ…そうだったな…」

 

様々な出来事があった為失念していた。

 

しかし総統暗殺未遂か…。

 

たまたま総統が別の部門にいた為最悪の事態は免れたがコルサント、いや銀河中に多くの波紋を呼ぶだろう。

 

きっとこれから保安局と情報部は大忙しだ。

 

無論軍も親衛隊もそうだろうが。

 

パウルス宰相暗殺事件と言い今回の事件と言い皇帝陛下亡き我が国はやたら暗殺事件が増えたような気がする。

 

帝国の力が弱まっている証なのだろうか。

 

だがそんな事を考えている暇はなくなった。

 

「ご自宅はこちらでしょうか」

 

少尉がふと尋ねてくる。

 

「ああそうだ、どうせならこのまま降ろしてくれ。少しは歩くよ」

 

「よろしいのですか?」

 

「構わん、本当に数百メートルの距離だ」

 

「分かりました」

 

そう言って少尉はハンドルを切りスピーダーを地上に向けた。

 

スピーダーが地上に降り立った後ジークハルトは少尉に軽く礼を言いスタスタと我が家へ向かった。

 

街は閑散としており合う人と言ってもせいぜい街を警備しているトルーパーの部隊や保安局員だった。

 

マンション内にすら人は殆ど出ておらずゴーストタウンといった感じに近い有様だった。

 

若干の寂しさと家族に会える嬉しさを持ちながらジークハルトは家のインターフォンを押した。

 

奥の方から若干「はーい」という聞き慣れた声が響いた。

 

直後ドアが開き彼が最も愛した妻が現れた。

 

「ただいま」

 

「えっあっお帰りなさい…!」

 

ユーリアは口を押さえ少しびっくりした感じだった。

 

それもそのはず、本来帰ってくるのはまた当分先なのだから。

 

「偶々コルサントに呼び出されてね。モーデルゲン閣下が『帰りたまえ』と許してくれたんだ」

 

「そんな事が…まあ帰ってきてくれて嬉しいわ」

 

「ああ、私もだ」

 

二人は玄関先で軽くキスをし家の奥へと入っていった。

 

ジークハルトは来ていたコートと軍帽を脱ぎハンガーに掛けた。

 

「マインラートはどうした?」

 

「あの子なら新しく出来た友達と遊び疲れて寝てるわ。こっちに来て友達が出来るか心配だったけど案外平気なものね」

 

口ではそう言ってるもののジークハルトのはユーリアが平気そうには見えなかった。

 

微笑の影には何かを隠しているような感じだった。

 

手袋を脱ぎテーブルに置くと少しカマをかけてみることにした。

 

「それは良かった。家ではどうだ?ちゃんと君の言う事聞いてくれてるか?」

 

「ええとっても、嬉しいほどにね。ほんと貴方に似てとってもいい子よ」

 

「ハハハそれは良かった」

 

どうやらそちらの方面では問題はないようだ。

 

ではなんだ。

 

何がいつも明るい彼女を追い詰める。

 

探っていても埒が開かない。

 

ジークハルトは思い切って尋ねてみる事にした。

 

「……なあユーリア…何か隠している事はないか?」

 

その言葉は彼女の表情を凍り付かせ動きを止めた。

 

若干震えているのが分かる。

 

「無理にとは言わない。どんな事でも受け止めるつもりだ。だから話してくれないか?」

 

本当ならこんな事言う必要すらない。

 

長い事家庭から離れていた自分に大きな責がある。

 

だからこそ彼女一人に背負わせる訳にはいかない。

 

ユーリアはゆっくりと振り返った。

 

その目には若干の涙が滲み出ていた。

 

「実は…」

 

ジークハルトは覚悟していた。

 

しかしユーリアから発せられた事実はジークハルトの覚悟と予想を遥かに上回るものだった。

 

その言葉を聞いたジークハルトは同じように固まってしまった。

 

口は開き瞳孔も大きく見開き震えていた。

 

ユーリアは涙を抑えられず全力で啜り泣き始めた。

 

ジークハルトはそこで思考が元に戻り唖然としながらも泣き崩れるユーリアを抱きしめた。

 

「ありがとう…話してくれて…大丈夫、どうにかなる。きっと、どうにかしてみせる……!」

 

ジークハルトは彼女の頭を撫でながら震える心を抑えそう決意した。

 

常にこれだ。

 

運命とは最悪をいつも呼んでくる。

 

どうしてだ。

 

私だけならいい、こんな私などどうでもいい。

 

なのに、なのに何故。

 

何故ユーリアを、マインラートを巻き込む。

 

どうして余計なものを与える。

 

普通に生きていたいのに。

 

普通に生きていて欲しいのに。

 

ああ神様。

 

なんて酷い奴なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクサスを守る防衛線はついに“()()()”。

 

再構築された防衛線はそれまで帝国軍の攻勢を防いでいた。

 

長くは続かないにしても時間は大いに稼げるだろうと前線の将兵達は思っていた。

 

しかし好転的な状況はそう長くは続かなかった。

 

ケルク宙域からホズニアン・プライムに戻り、更に一旦はコルサントに戻っていた帝国宇宙軍の第一艦隊が出現。

 

彼らは本来ヤヴィン星系攻撃に向けて進撃していたが総統府の命令を受けて進路を変更した。

 

エグゼクター級スター・ドレッドノート“リーパー”を含めた数十隻のスター・デストロイヤーが突如防衛線に攻撃を加えた事により戦線の一部が大きく崩壊。

 

防衛線は分断されその気に乗じて本来の攻撃部隊が残された防衛戦を徹底的に攻撃した。

 

結果防衛線は完全に崩壊し帝国軍がラクサス星系内へと続々と侵入し始めた。

 

残された防衛線の戦力は完全に孤立し残されたラクサスの戦力で何とか防いでいる状態であった。

 

ラクサスは完全に孤立した。

 

着々とラクサスを取り囲む包囲線はまで完璧ではなくとも完成しつつあり徹底的な攻撃と確実な勝利は時間の問題かに思われていた。

 

代理総統からの命令が届くまでは。

 

『敵防衛網の戦力の80%を掃討完了。もはや敵は組織的行動が完全に不可能です』

 

「このまま敵艦隊を殲滅しろ。なるべく一兵たりとも逃すな」

 

『はい閣下』

 

そういうと機動部隊司令官のホログラムが消えた。

 

『やはりエグゼクター級と手持ちの各師団を展開するのは正解でしたな。これでひとまず戦線は膠着せぬはずです』

 

「ああ、おかげで新共和国軍の退路は防いだ」

 

帝国軍最高司令部総長であるウィンヘルト・カイティス上級将軍はオイカン元帥にそう安堵の意を漏らした。

 

彼は完全な事務方の将校であり今まで直接部隊を指揮した事は片手で数えられる程度だった。

 

されどカイティス上級将軍の能力はとても重宝されており既に地上軍元帥への昇進も決まっていた。

 

『ローリング大将軍もご自身の旗艦“リベンジ・オブ・サイス”でヤヴィン星系に向かわれました』

 

「かなりの空母とスターファイター隊を持っていったはずだ。ヤヴィン星系ではおそらく最大規模の空戦が繰り広げられるだろう」

 

元よりスターファイター隊の指揮官であったローリング大将軍だ、ご自慢の空戦隊と空母部隊の力を見せつけるつもりなのだろう。

 

だが新共和国側も元よりスターファイター隊の練度や性能は高く特に近年のヤヴィン星系はそうだ。

 

オイカン上級元帥の言った通りの激戦が繰り広げられるだろう。

 

「しかし問題は前線ではない。総統閣下の暗殺についてだ。この事が兵達に今漏れれば要らぬ不安を煽る事となる」

 

「なんとか箝口令を出して防いでいますが…」

 

エグゼクター級“リーパー”艦長のゲルナー・ザーツリング少将はオイカン上級元帥の言葉に付け加えた。

 

総統は無論全くの無傷でありなんの影響もないが暗殺未遂があったという事実が十分兵士達の不安を煽るものだ。

 

しかも不安は噂の広まりを増大させ有る事無い事付け加えられていく。

 

最終的に「総統は暗殺された」と言うありもしない事実にねじ曲げられてしまう可能性すらあるのだ。

 

「ここは確実に勝利し前線、市民間への安心を得るべきだろう」

 

『それについて我が総統はこう命令を下されました。“直ちにラクサスへ向けて総攻撃を開始せよ”と』

 

「今総攻撃はまずい。まだ包囲線は不完全でこの状況で命令を下せば最悪敵の撤退を許す事となる」

 

『ですがこれは閣下の絶対命令です。もはや覆す事は出来ません』

 

見事な髭を生やしたカイティス上級将軍はそう付け加えた。

 

次は「命令に逆らえば元帥とて銃殺だ」など言うんだろう。

 

もはやこれ以上の議論や進言は無駄であり代理総統の命令通り全軍で総攻撃を掛ける他なくなってしまった。

 

総統が国家元首である以上一軍人でしかないオイカン上級元帥は従うしかない。

 

「わかった…」

 

『それでは御武運を』

 

従来の敬礼とはまた別の敬礼をカイティス上級将軍は浮かべホログラムは消え去った。

 

オイカン上級元帥は普通の敬礼を返しホログラムが消えるのを見送った。

 

上級将軍の姿がなくなるのを見るとオイカン上級元帥はため息を吐いた。

 

「…不服なのは分かりますが命令ですから仕方ありませんよ…」

 

ザーツリング少将も口ではそう言っていてもかなり不服そうな苦笑を浮かべていた。

 

オイカン上級元帥は再び溜め息を漏らした。

 

「全く“()()()()()()()()殿()”はいつも妙な所で辣腕を振るうものだ……各司令官に今の命令を伝えろ、ラクサスを陥落する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-惑星ラクサス ラクサロン 第一応接室-

偵察に出たジョーレンと離れたジェルマンは新共和国軍の兵士達何名かに呼び出され応接室にいた。

 

室内に入れられるや矢先ドアはロックされ完全武装の歩兵二名がドアの前に立っていた。

 

手にはA280ブラスター・ライフルを持ち簡易的だがアーマーとヘルメットを身に付けていた。

 

まるで囚人を相手にしているかのようだ。

 

いや実際この時のジェルマンは虜囚だろう。

 

結果的に外部との援軍樹立の交渉を失敗したジェルマンはもはや用済みに近いのかもしれない。

 

だが彼にはなんの焦りもなかった。

 

若いとは言えジェルマンはあの新共和国艦隊情報部の情報部員だ。

 

たかが二名の、しかも新共和国軍の歩兵を蹴散らしドアを開錠しその先にいる敵兵を蹴散らして脱出するなど造作もない事だ。

 

これでも彼はストライン中将が手塩にかけて育てた優秀なエージェントなのだ。

 

「なあいつになったらその中佐は来るんだ?」

 

雰囲気を変える為に歩兵に話しかける。

 

流石に無視は出来ず歩兵の一人が軽く返答した。

 

「まだ時間が掛かります。何分司令部は忙しいものでして」

 

「そうかい…それでこの戦いは勝てると思うか?」

 

「我々は勝利を得るまで最後の一人になっても戦う覚悟です」

 

「流石だ、なら後は司令部に期待だな」

 

まるでドロイド、いやストームトルーパーに近いか。

 

何が何でも任務を遂行するという教えから彼らの気持ちは理解出来るが「たった一人生き残った勝利になんの意味があるか」という反発心も同時にある。

 

このまま戦っても恐らく彼らは勝てない。

 

兵の質や指揮以前の問題で彼らは負ける。

 

出来れば彼らも逃してやりたい、何処かにそんな温情じみた気持ちが湧き上がっていた。

 

最悪自ら打ち倒す相手だというのに。

 

だがそうするまでもなくジェルマンの解放者は現れた。

 

ドアの向こう側が何やら騒がしくなってきた。

 

何かが倒れる音も聞こえる。

 

そして男達の声も。

 

不思議がった歩兵たちは見えるはずのない外を見つめ通信機に手を当てる。

 

ジェルマンに聞こえないよう小声で通信機へ声を飛ばした。

 

「どうした?何があった」

 

すると通信機の向こうから悲痛な叫び声に近い応答が飛び交ってきた。

 

『攻撃だ…!味方が襲って来やがった!なんて強さ…グワァ!』

 

潰れた声と共に通信は途切れた。

 

ドアの近くで何かが倒れる音が聞こえる。

 

「どうした!何があった応答しろ!」

 

歩兵が通信機に声を掛けるが応答はない。

 

すると突然ドアの開錠音が聞こえ勢いよくドアが開かれる。

 

寸前で交わし切れなかった一人はそのまま壁際に弾かれもう一人はブラスター・ライフルを構えたが青白い光を数発喰らい気絶してしまった。

 

「なっなん!」

 

壁際の歩兵も青白い光を二、三発受けぐったりと寝込んだ。

 

ジェルマンにはその男の正体も自分に銃口を向ける事がないのも理解していた。

 

「こんな所にいたとはな。とっとと行くぞ」

 

「ブラスターの音が全くしかなかった」

 

「サプレッサーを付けてるからな。特殊部隊も装備は金が掛かるんだよ」

 

彼専用のA300ブラスター・ライフルを持ち上げると立ち上がったジェルマンにホルスターからもぎ取ったA180ブラスター・ピストルを投げ渡した。

 

「悪いがアーマーはないし渡せる武器はそれだけだ。なんならそこに転がってるのを使っていい」

 

「…連合首脳部を助けに行くつもりか」

 

その言葉と共にジョーレンは若干動きを鈍らせ少し遅れてから返答した。

 

「ああ…命令だからな。さあ急ぐぞ、時間がない」

 

ジョーレンは周囲を警戒しながら通路を確認する。

 

ジェルマンはブラスター・ライフルを拾い去ろうとするジョーレンに再び言葉を投げかけた。

 

「自分の心を殺してまでもか」

 

再びジョーレンの動きが止まった。

 

彼は、彼自身気付かなかった事だが指先が震えていた。

 

「本当はこの命令、従いたくないんだろ」

 

この言葉がジョーレンですら知らなかった彼の奥底に眠る爆弾への導火線だった。

 

「ああそうだよ!そうだとも!誰が好き好んで仲間を殺した奴らを!家族を殺した奴らを助けなくちゃならないんだよ!!」

 

初めて見るジョーレンの激昂だった。

 

彼はニヒルな笑みを浮かべたり揶揄って来たり悲しい微笑を浮かべたり感情を露わにする事はあった。

 

しかしここまで怒りを露わにする事はなかった。

 

「本当だったら今すぐこのて自らで殺してやりたいほど憎いよ!あいつらに…この星に攻め入って復讐出来るなら帝国にだって味方したい、それくらい憎い相手だ!だが……だが私は兵士だ…“Good soldiers follow orders(優秀な兵士は命令に従う)”…この言葉が全てだ…俺の人生の全てだ!今更感情で覆せるか!!」

 

ジェルマンはずっと彼を特別視していたのかもしれない。

 

ジョーレンは大人で、知的で、若干迷惑だがユーモアがある優秀な軍人だと思っていた。

 

兵士であってもものの判別が付く、まさしく優秀な兵士だと。

 

だが彼は同じだ。

 

彼が殺してきたストームトルーパー達と、今彼が打ち倒してきた新共和国の歩兵達と。

 

幼い頃からずっと。

 

彼は多くを経験した大人であると同時に兵士でありその根底は幼い少年なのだ。

 

己の感情、私情と叩き込まれた全てで己を削ってきた。

 

故に彼は鋭いナイフのように強くそしてもろく短い。

 

「俺は兵士だ…兵士でしかない。兵士には命令が必要だ、だが今の俺に正しいと信じられる命令を下してくれる奴はいない…みんな俺に命令を下した奴に殺された」

 

「ああ…兵士としてならそうだろう、だが君は兵士である前に一人の人間のはずだ」

 

「人間…?ガキの頃から人を殺す訓練と絶対服従の命令を受け続けてきた奴が今更人間になれるもんか…!もう手遅れだ…」

 

彼は悲しげに吐き捨てた。

 

「彼らにも事情があったのは知ってる…この星で生まれ育ったんだ…嫌でも事情は分かる…今でもだ。だが、それでもどうしても許せないんだ…!だから命令に従うしかない…」

 

きっとジョーレンは本当は優しい子供だったのだろう。

 

誰かを思いやれるそんな子供だったはずだ。

 

だがそんな彼は戦争で変えられてしまった。

 

「…人には必ず許せないもの、憎むべきものがあるだろう。たとえ過去のものだとしてもだ。だが…もし仮に、微塵でもそんな相手の気持ちが分かるのだとしたら無理に許す必要はないのだと思う。君はここにいて彼ら(独立星系連合)はそこにいる。ただ、それでいいんだ。お互いに深く干渉しなければ、傷を忘れず離れていればそれでいいんだと思う」

 

「お前は不思議な事を言うな…許さなくていいなんて」

 

「僕だってきっと憎む相手を『許せ』だなんて言われたって納得出来ないはずだよ。だからせめて、たとえ嫌い同士でも互いに住める世界であれば君が憎しみを抱いて心を隠す必要はなかったのだと思うんだ。そもそも争う必要すらも…」

 

ああそうだ、その通りなはずだ。

 

だって見てみろ。

 

銀河はこんなに広いんだ。

 

ジョーレンが身をすり減らしてまで必要がない場所だってあるはずだ。

 

命を賭ける必要がない場所だってあるはずだ。

 

そんな場所を作れるはずだ。

 

「それでも決めるのは君自身だ。命令ではなく君が決めろジョーレン・バスチル。心のままに進め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リストロング司令官は拘束されラクサロンの監房に閉じ込められていた。

 

他の連合首脳部メンバーもそうだ。

 

最悪だ、してやられた。

 

今頃全ての指揮権はあの新共和国の連中が持っているだろう。

 

軍による独裁状態が続いているはずだ。

 

このままでは間違いなくラクサスは破滅の一途を辿る。

 

なんとかしなければ。

 

せめて希望だけでも残さなければ。

 

かつてそうやって自分達が自由の名の下に集ったように。

 

「武器もないドロイドもない工具もない…クソっ!どうやって出る…?どうやったら抜けられる…」

 

苛立ちながらリストロング司令官は自前の工兵としての技術を合わせて考え始めた。

 

かつては15歳で連合軍の工兵部隊に志願した彼だ。

 

この程度朝飯前のはずと自身で思っていた。

 

しかし技術はあっても道具がない今の状況ではやはり手詰まりでどうする事もできなかった。

 

「なんとかしないといけないのに…ああ!」

 

苛立ちが抑えられず思いっきり座り込み冷静になろうとした。

 

そんな彼に奇跡は降りかかる。

 

救いの手は須く現れるのだ。

 

「中の囚人!ドアの近くにいるんだったら今すぐ離れろ!ドアを吹き飛ばすぞ!」

 

「ドアを…わかった!」

 

リストロング司令官はギリギリまで下がってドアから離れた。

 

「離れたぞ!」

 

直後ドアは轟音を立て爆散し周囲に煙が漂った。

 

「どうやら無事だったようだな」

 

ブラスター・ライフルの機械的な音と共に“()()()”新共和国軍と思わしき兵士が入ってきた。

 

そんな彼らにリストロング司令官は名を尋ねる。

 

「名前は…?誰だお前達は…」

 

司令の問いに二人は互いに顔を見合わせ軽い挨拶を放った。

 

「ジェルマン・ジルディール中尉と」

 

「ジョーレン・バスチル大尉であります。憎いあんた達を脱出させる為に駆けつけました」

 

 

 

つづく




お久しぶりの人はお久しぶり

初めましては初めましてです!

インペリアリストです!!
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