第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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人が救われた分だけ救われなかった世界が生まれる

人が救われなかった分だけ救われた世界が生まれる

なら君はどこにいる

救われたか

救われなかったか

いや救いなどないのだろう

きっとそれも“見方の問題”だ

なら彼はどこにいる

私はどこにいる

虚しいな、何かがあるようで何もないようだ


past
道


「…どうせ無惨に死ぬだけだ、何も得ぬまま…何も守れぬまま…」

 

アカデミーを卒業して初めて父に掛けられた言葉がこれだった。

 

背を向け父はじっとホログラムの何かを見つめている。

 

そこに我が子の晴れ姿を喜ぶ姿は微塵もなかった。

 

中尉の階級章と卒業メダルにさえ目を向けようとしない。

 

「でも父さん…!僕は…!」

 

「お前が…どんな階級でどんな勲章を持っていようと無駄だ。どうせ何も出来ん」

 

昔はこんな事言う人ではなかった。

 

かつてはジュディシアル・フォース、共和国軍で叩き上げの前線指揮官として名を馳せた父だ。

 

クローン戦争にも参戦し当時としては珍しい通常の地上指揮官としてクローン・トルーパーを率いて戦った。

 

父親としても常に我が子を愛し家族に一生懸命だった。

 

だがある日から父は突然変わってしまった。

 

あれはまだ僕が十歳の時だ、突然やる気をなくし軍を引退し家に篭るようになってしまった。

 

親友で戦友であったフリズベン少将にすらまともに会おうとしなくなった。

 

やがては実の息子とも疎遠になった。

 

母を失ってもなお戦い続けた父だ、きっと何か大きな理由があるはずだ。

 

だがそんな事よりも僕は……どうしても父に認めて欲しかった。

 

父が進んだ道は間違いではなかったと証明したかった。

 

十二歳の頃帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミーに一人で入学したのもその為だ。

 

それこそフリズベン少将や様々な人に迷惑を掛けたし危うい目にも遭ったが。

 

そうして遂に卒業した。

 

来週からは中尉として部隊に配属される。

 

その前に父に報告したかった。

 

だが実際は認めて欲しかったのだ。

 

「僕は父の道を進んでここまでやれた」、「父さんの進んだ道は間違いじゃなかった」。

 

だがそんな幻想は一瞬で潰えた。

 

憖甘い夢を持っていたから父の最初の一言は強烈だった。

 

「私もそうだ…何も出来なかった。何一つ守れなかった」

 

声音には落胆と怒りが入り混じっていた。

 

こちらに表情は向けないがきっと笑みはないだろう。

 

「でも僕は…僕は父さんが…“バスティ・シュタンデリス”が父だったからここまでやれたんだ!ずっと父さんと母さんが側にいるような気がしたから心が折れなかったんだ!」

 

「ならその“バ(・)ス(・)テ(・)ィ(・)・(・)シ(・)ュ(・)タ(・)ン(・)デ(・)リ(・)ス(・)准(・)将(・)は何が出来た?母さんは守れたか?戦場で部下を守れたか?勝利の犠牲に見合う成果を挙げられたか?お前がアカデミーに行くのに何か少しでも手助けしたか?父としての責任を果たしたか?いいや何もしていない!!何一つ守れなかった!!何一つなし得なかった!!何も……」

 

父は涙を浮かべ僕に迫った。

 

胸ぐらを掴むわけでもなく殴るわけでもなくただひたすらに気迫のみで。

 

そして俯きながら僕の肩を掴んだ。

 

こんな父は母の葬式以来だ。

 

父はいつも僕だけに涙を見せた。

 

常に気丈に振る舞い人が望むバスティ・シュタンデリス准将の姿を演じ続けてきた。

 

父は先程とは違い弱々しい声で僕に懇願した。

 

「お前まで…私のようにならないでくれ……“ジーク(我が子)”…お前まで苦しまなくていい……お前は私の…」

 

今になってこの言葉の意味がよく分かる。

 

かつて私がまだ幼い頃に父が見せたような笑みを我が子に浮かべながらつくづくそう思った。

 

 

              『最後の希望なのだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局あの後僕は何も言い返せず家を出た。

 

父さんを貶す事も慰める事も僕には出来なかった。

 

父さんはずっとすまないと謝っていた。

 

家を出ると一台のスピーダーが停まっており父の親友で恩人のフリズベン少将が待っていた。

 

僕が暗い表情を浮かべているとフリズベン少将も苦笑を浮かべていた。

 

どこかこうなる事が分かっていたように思える。

 

僕なんかよりも父との付き合いがないフリズベン少将だ、なんとなく分かるのだろう。

 

「やはり…か」

 

何も応えようとしない僕にフリズベン少将はそう優しく声を掛けた。

 

僕は今にも泣きそうな表情で頷いた。

 

少将は微笑を浮かべたまま僕を手招きした。

 

「バスティは…君のお父さんは私達が思っているよりずっと繊細で、優しすぎたんだ。誰もそれに気付けなかった。悪いのは私達だ…苦しむ彼に誰も気付けなかった。君のせいじゃない、私達が全て悪いんだ」

 

僕はもう父と同じく涙を浮かべていた。

 

そんな僕にフリズベン少将は優しく促した。

 

「久しぶりに私の家においで、少しばかりではあるが歓迎しよう。娘も君に会いたがってるはずだ」

 

僕は小さく頷きフリズベン少将のスピーダーに乗り込んだ。

 

これはまだ第三銀河帝国も新共和国も誕生する兆しのない時代の事。

 

僕が……私が、ジークハルト・シュタンデリスが軍人としての一歩を踏み出し始めた頃だった。

 

父の嘆きなど理解出来る筈もなく私は父と同じ道にまっすぐ突き進もうとしていた。

 

そこに迫る邪悪な運命を知らずに。

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