第二次銀河内戦   作:Eitoku Inobe

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「親衛隊とはただの銀河協定の抜け道に在らず、総統に最も信頼されし最高の練度を誇る帝国軍である」
-ハインレーヒ・ヒェムナー親衛隊長官-


イェーガードレッドノート/前編

これは第二次銀河内戦が始まる1年ほど前の話。

 

第三銀河帝国は第二帝国と呼ばれる銀河協定承認国からの移行中であり銀河の主権者は誰しもが新共和国であるとして疑わなかった。

 

まだ銀河内戦の出来事が強く印象に残っておりまさか僅か1年後に再び銀河を股に掛けた戦乱が始まるとは誰も思わなかったであろう。

 

しかも第三帝国が勝つとは、この銀河系に新たなシスの十字軍が到来するとは。

 

だがこれらの出来事はある日突然いきなり起こった訳ではない。

 

ある者は準備を怠りある者はずっと備え続けてきた。

 

第二帝国指導者のパウルス・ヒルデンロードの死後、いやそれ以前から一部の者達はずっと備え続けてきた。

 

次の戦争に、新共和国を打倒する為の戦争に。

 

その一つが誰にも知られぬ間に行われた秘密の“奪還”作戦であろう。

 

その名も“イェーガードレッドノート作戦(Operation Jäger Dreadnought)”。

 

かつて帝国軍の大将軍が乗艦としていたエグゼクター級スター・ドレッドノート“アナイアレイター”。

 

このスター・ドレッドノートはエンドアの戦いの動乱期に大海賊エレオディ・マラカヴァーニャとその子分達によって奪取され行方不明となっていた。

 

彼、いや彼女ともいうべきマラカヴァーニャは“アナイアレイター”を元手にワイルド・スペースにマラカヴァーニャ独立国という一つの無政府主義国家を作り上げた。

 

領土としての惑星を持たず海賊船と“アナイアレイター”、もとい“リバティズ・ミスルール”を自らの国土とした。

 

当然このような屈辱的な行動を後に第三帝国となる彼らにとっては許せるはずがなかった。

 

それにこれは大きな好機である。

 

この海賊国家のことを新共和国はまだ正確には把握しておらず、海賊達も一般的な正規軍に比べれば弱い。

 

あのスター・ドレッドノートを手にすれば帝国は一気に戦力を強化出来る。

 

来るべき復讐戦のためにもあの艦は必要不可欠だ。

 

しかし新共和国に監視の目が強い正規の帝国軍は動かせない。

 

だからこそ彼らの出番だ。

 

黒服に身を包み指導者に忠誠を誓う指導者の私兵の軍。

 

彼らは“C()h()a()n()c()e()l()l()o()r()”の軍でもあり“F()u()e()h()r()e()r()”の軍でもありまだ誕生して間も無く新共和国もその実態を完全には把握し切れていなかった。

 

つまり暗闇に紛れ任務を遂行するには打って付けの存在という訳だ。

 

これは銀河系のほんの僅かな一握りのみが知る第二次銀河内戦前夜の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

-コア・ワールド 第二帝国首都惑星ベアルーリン 国防省軍務局-

帝国軍はかつての統合本部や地上軍参謀本部を禁止されその隠れ蓑の組織として国防省の中に軍務局を設置した。

 

その為かつて統合本部、参謀本部に属していた者や各宙域軍の参謀達はこの軍務局に集まっていた。

 

そしてこの軍務局の廊下を歩く2人の宇宙軍将校の姿があった。

 

1人は帝国宇宙軍情報部の部長ヴィルへランツ・カーレリス中将とその副官のマティンス少佐だ。

 

元々は帝国情報として一つに統合されていた組織を再び2つに分割した。

 

帝国の戦力維持の為には一つでも多くの枠が必要だったのだ。

 

今回は帝国情報部と共同で監視しているある軍艦についての定期報告書を提出しにきた。

 

「情報部だ、入れてくれ」

 

「よろしいのですか?地上軍長官と現在面会中ですが」

 

カーレリス中将とマンティス少佐は顔を見合わせたがすぐに決断し「構わない、報告書だけ出すことにする」と伝えた。

 

警備のトルーパーが軍務局長室のドアを開け2人は軍務局の中に入った。

 

トルーパーが先に言った通り軍務局長室の中には2人の地上軍の上級将校がいた。

 

1人はこの局長室の主人、帝国軍軍務局長ヴィルン・アルダム上級将軍。

 

元々はコメナー星系軍を率いていたのだがカイゼルシュラハト作戦に参戦しその功績と忠誠を認められ軍務局長となった。

 

一方もう片方の将軍は帝国地上軍長官、リートディヒ・ベック上級将軍。

 

彼も帝国地上軍の将官であり現在の帝国保安局である帝国特務警察長官のアレシア・ベックは彼の姪である。

 

2人に向けカーレリス中将とマンティス少佐は敬礼した。

 

同じように2人の上級将軍も敬礼を返した。

 

「お話中失礼します、定期報告書が完成しましたので提出に参りました」

 

「ご苦労、ここで口頭報告も行ってくれて構わん。長官も聞いていくといい」

 

「分かりました」

 

中将は報告書を軍務局長のテーブルに置き報告を開始した。

 

ソファーに座っていたベック上級将軍は立ち上がりアルダム上級将軍の背後に来た。

 

2人の帝国軍の重鎮に囲まれマンティス少佐は直立不動を貫いていたがカーレリス中将は楽にしていた。

 

「今の所発見から目立った動きはありません。ワイルド・スペースから離れることもありませんし依然としてやる事といえば海賊としての私掠行為だけです」

 

「前回の報告書もそうだったな……所詮は海賊か。タッグの置き土産を任せておくに値せん連中だ」

 

アルダム上級将軍は不機嫌そうに感想を述べた。

 

情報部は1年前、丁度年明けを迎えようとする頃に行方不明になっていたエグゼクター級スター・ドレッドノート“アナイレイター”を発見した。

 

ワイルド・スペースを行動領域とする海賊勢力が機関として利用していたのだ。

 

それ以来情報部はずっと“アナイアレイター”を監視しその行動を見続けてきた。

 

その結果様々なことが発覚した。

 

まず“アナイアレイター”を占拠している海賊勢力はエレオディ・マラカヴァーニャという海賊の主人が生み出したマラカヴァーニャ独立国という勢力であること。

 

もう一つはそのマラカヴァーニャの海賊が“アナイアレイター”を完全に扱えているわけではないということ。

 

さらにもう一つ、マラカヴァーニャの海賊は私掠行為を行うだけで帝国や新共和国、周辺国に対する大胆な野望や行動はしないということ。

 

そして最後にこの海賊達が“アナイレイター”を保有しているということはまだ新共和国も知らない情報だということである。

 

つまりマラカヴァーニャ独立国の“アナアイレイター”の存在を認知しているのは第二帝国だけということだ。

 

「それで、奪還計画はいつ実行に移される?」

 

ベック上級将軍は2人に尋ねた。

 

彼としては“アナアイレイター”を奪還することは帝国の尊厳を取り戻す為にも帝国軍の戦力増強の為にも必要だと考えていた。

 

しかしカーレリス中将よりも先にアルダム上級将軍が無理だと首を振った。

 

「地上軍の部隊を動かすのは無理だ。ただでさえストームトルーパーを突撃歩兵部門(Assault troops)に移管させるだけでも一苦労だったのに」

 

銀河協定ではストームトルーパーの存在は禁止されている。

 

しかし帝国軍は諦めず装備は補完し元トルーパー達を突撃歩兵部門という新設の兵科へと移管した。

 

これでなんとか協定の影響を受けることなく兵員を温存出来たのだ。

 

だが新共和国の情報機関の影響で帝国地上軍はエグゼクター級を取り戻せるほどの部隊を動かすことは出来なくなった。

 

「情報部や宇宙軍の特殊部隊は」

 

「厳しいですね……エージェントや“()()()()()()”のデス・トルーパーは動かせるでしょうがあれ(エグゼクター級)を奪取するには足りないかと」

 

「そうか……」

 

「宇宙軍のオイカン元帥にも聞いてみたがやはり無理だそうだ。少なくともブリッジとエンジンとメイン反応炉、主要なハンガーベイを抑えベアルーリンまで運ぶにはインペリアル級二隻以上の兵員が必要だと言われた」

 

インペリアル級二隻、これだけで1万9,400名の兵員が動かせる。

 

逆に言えば1万9,400名分の兵員が必要になるということであり、それだけの兵員を動かせば確実に新共和国に見つかるだろう。

 

「やはり無理か……」

 

ベック上級将軍はため息を吐き悔しそうに頭を抱えた。

 

「少なくともまだ新共和国に発見されていません、このままマークし続けるしかないでしょう。次回の報告書ですが…」

 

「ああ、報告書だが……次からはここ(軍務局)だけじゃなくて別の場所にも出してほしい。首相からの命令だ」

 

「別の場所?」

 

アルダム上級将軍は小さく頷いた。

 

カーレリス中将はまだ釈然としない様子だった。

 

「首相の直轄部隊としてチェンセラー・フォースというのがあるだろう?あそこの本部にも報告書を出すよう命令を受けた。恐らくすぐに情報部にも命令が出ると思うが」

 

「あのシュメルケとフューリナー達が作った協定回避用の部隊にか?」

 

アルダム上級将軍は再び小さく頷いた。

 

チェンセラー・フォース(Chancellor Force)、元帝国軍のパウティール・シュメルケ上級提督とハンス・オットー・フューリナー将軍が設立した言わば首相の私兵軍。

 

元々銀河協定下でも可能な限り戦力を維持し兵員を保持しておこうという試みは帝国軍でも行われていた。

 

各帝国構成惑星に指揮権を委任する形で設立した保安軍の存在がその最たる例だろう。

 

しかしそれだけでは足りなかった。

 

元よりいた部隊以上に第二帝国領内に安全と帝国への忠誠を求めて各地から多くの元帝国軍部隊が入ってきた。

 

当然初期はこれらの部隊も帝国軍に組み込んだのだが銀河協定の制限下では限界があった。

 

されど第二帝国に来る部隊は日に日に増えるばかり。

 

これを対処する為にシュメルケ上級提督は現在の帝国首相パウルス・ヒルデンロードに一つの提案を行なった。

 

それこそがチェンセラー・フォースの原点である帝国指導者の私兵軍組織の設立だった。

 

ヒルデンロード首相はこれを承認し領内の部隊を纏め上げシュメルケ上級提督が第一参謀長を務める形でチェンセラー・フォースは誕生した。

 

また帝国軍からもゴットバルト・バエルンテーゼ将軍が全ての職を他の将校に譲り軍に空きを作る形で引退しチェンセラー・フォースへと移籍した。

 

他にもかなり多くの将兵が軍に空きを作るため、あるいは新天地で更なる昇進を掴む為にチェンセラー・フォースへと移籍した。

 

「理由は分からんが首相の命令であれば従う他ない。個人的には少し不安ではあるがな……」

 

「だが彼らの戦力は多くが新共和国に把握されてない。案外奪還作戦を実行するにはうってつけの部隊かもしれんな」

 

ベック上級将軍は新共和国からノーマークであるという点に注目した。

 

アルダム上級将軍はカーレリス中将に「君はどう思う?」と尋ねた。

 

「情報部ですと知り合いがチェンセラー・フォースにいますが……局長の仰る通り、漠然とした不安感というものを感じます」

 

カーレリス中将の知り合い、友人と呼ぶべき存在は何故か宇宙軍ではなく情報部にいた。

 

カーレリス中将も帝国情報部、宇宙軍情報部に来る前はインペリアル級の艦長をしていたのだが彼と情報部には接点など微塵もないはずだ。

 

しかも女性問題で不遇に晒されていた宇宙軍時代とは違い一気に頭角を表し始めているらしい。

 

友人としては応援すべきなのだろうが個人的にはやはり漠然とした不安感が残る。

 

「既に“アナイアレイター”の奪還計画を練っているらしい。実行するにしても草原に野火を放つ結果にならないといいが……」

 

「ですが秘密裏にスター・ドレッドノートを確保出来るなら今の帝国にとって大きな飛躍になります」

 

カーレリス中将はそう今回のことを比較的好意的に受け取っていた。

 

奪取されたエグゼクター級と直接関わる宇宙軍出身ということもあるだろう。

 

何せカーレリス中将自身が昔はインペリアル級の艦長を務めていたこともある。

 

「ああ、軍備制限以上に今やドレッドノートは貴重だ。少しでもあるに越したことはない」

 

ベック上級将軍も同じように好意的な反応だった。

 

今帝国軍はどこも抑圧状態にある。

 

銀河協定の鎖が彼らを雁字搦めに縛り、戦争の可能性を絶っている。

 

無論彼ら全員が再び戦争を起こしたい訳ではない。

 

事実アルダム上級将軍は現在の帝国領域を守り場合によっては反撃に転じられる分の戦力さえあればいいと思っていた。

 

再び戦争になれば多くの将兵に無理をかけることになるし彼の息子たちも戦場へ行かなくてはならない。

 

しかし古典的な帝国軍の将校たちはそうではなかった。

 

彼らは旧帝国の復活、なんなら新共和国の打倒すら狙っていた。

 

「まあこれはあくまで“()()()()()()()()()”チェンセラー・フォースの話だ。我々は我々の今ある仕事に注力しよう」

 

アルダム上級将軍は最近少しずつ芽生え始めてきた自身の不安感と折り合いをつけ再び軍務局長としての職務に戻ることにした。

 

 

 

 

 

-ベアルーリン チェンセラー・フォース本部 特務作戦実行部隊司令室-

チェンセラー・フォースの本部は元々ベアルーリンにあった地上軍の施設を接収して使っていた。

 

内部には地上隊(Army Force)宇宙隊(Navy Force)航空戦闘隊(Air Fighter Force)、そして旧情報とISBの機能を持つ保安隊の司令機能が集まっていた。

 

親衛隊には2種類の軍服が存在し一つは旧帝国軍から続くスタンダードなタイプの軍服。

 

だがこれもかつての帝国軍のように深緑色を基調としたものではなく完全に黒を基調としたものに制帽が付け加えられていた。

 

変化はそれだけではなく正規の帝国軍同様襟にも変化が生じ階級を示す襟章と昔はなかった肩章がついていた。

 

そしてもう一つの軍服は完全にチェンセラー・フォースのオリジナルであり戦闘職以外のチェンセラー・フォースの隊員はこちらを身につけている時の方が多かった。

 

また戦闘職の将兵も一部部隊によってはこちらの制服を着ていることもあった。

 

勿論こちらの新しい軍服も保安隊以外の隊員は皆黒色の軍服を着ており本部内には黒い軍服の男達で溢れていた。

 

そしてそのチェンセラー・フォースの本部には各司令官の執務室がありこの特殊作戦実行部隊司令室もそのうちの一つであった。

 

この部門は主に特殊部隊の編成やその他の特別任務を計画し実行に移す部門であり司令官は元帝国地上軍将軍、ハンス・オットー・フューリナー上級大将が務めていた。

 

フューリナー上級大将は共和国軍から帝国軍に上がった世代の1人であり元は帝国軍の特殊部隊司令官や統合任務部隊司令官を務めていた。

 

「新しい部隊はどうだ、ハイネクロイツ少佐」

 

デスクから客人用のソファーに移り同じチェンセラー・フォースの少佐の隣に座った。

 

フューリナー上級大将の隣に座るこの少佐はランドルフ・ハイネクロイツ。

 

第21飛行大隊の指揮官であり第21飛行大隊は基本的にチェンセラー・フォース第6歩兵連隊とセットで運用される。

 

また歩兵連隊の連隊長はハイネクロイツ少佐よりも一つ上の階級であった為基本的には(連隊長)の指揮下に入っている。

 

「まあ元々率いてた面々が大半ですが練度も高くていい大隊ですよ。連隊の方にも結構知り合いがいましたし」

 

「それは意外だな。君は確かノートハーゼンに来る前は死の小艦隊に配属されていたはずだが」

 

「ええ、まあ。“エグゼクター”に“コンクエスト”やら“デヴァステイター”の人員が引き抜かれたんでその補充としてですが」

 

おかげでマコ=タ、ホス、エンドアで戦績を重ねられた。

 

尤も最後のエンドア戦なんて燦々たる結果に終わったが。

 

たまたま撤退中のスター・デストロイヤーに拾われていなかったら危うく死んでいるところだった。

 

まあ既にスカリフで死にかけ、彼に助けられているのだが。

 

「そんな連隊長には既に伝わっていると思うのだが君には個人的にある任務への参加をお願いしたい」

 

そう言ってフューリナー上級大将はポケットからホロプロジェクターを取り出した。

 

浮き上がったホログラムにはオーラベッシュ書かれた文章がズラ面と並んでいる。

 

「エンドアの現場にいてその後1年以上を銀河の中心地で過ごしたから分かると思うが帝国はエンドア以降持っていた軍事力の行方を正確には把握出来ていない」

 

「でしょうねぇ……正直私のような前線上がりの人間じゃ一体幾つの軍閥が誕生して潰れて今幾つ残っているか把握すら出来ません」

 

「我々とて大口を叩くその軍閥連中に何か出来る訳ではない。新共和国は自らに害がなければ何かするつもりはないようだが」

 

実際帝国軍はその殆どが独立し帝国の後継者を夢望んだ軍将達に接収されるか新共和国軍に破壊され或いは新共和国軍の軍門に下るかの末路を遂げた。

 

噂では未知領域まで逃げた勢力がいるそうだが今の第二帝国では探すのは無理だ。

 

新共和国はその情報すら知らないだろう。

 

「うちスター・ドレッドノートも幾つかが戦闘で失われまた幾つかが消失した。例えば旗艦“エグゼクター”」

 

ハイネクロイツ少佐は俯き「残念な出来事でした」とだけ呟いた。

 

彼は死の小艦隊にいた、“エグゼクター”の中には当然見知った人間も少なからずいただろう。

 

「“ラヴェジャー”はエンドアで沈み皇帝陛下の“エクリプス”は行方不明……今銀河系の表舞台に立っている帝国軍勢力の中でエグゼクター級を持っている奴はどこにもいない。無論我々を含めてだ」

 

「それが何か私の任務と関係があるのですか?」

 

「勿論、なくなったと思われていたこれらのエグゼクター級のうちの一隻が発見された。それもワイルド・スペースで」

 

ハイネクロイツ少佐は思わず驚き顔を上げた。

 

フューリナー上級大将はさらに別のホログラムも映し出した。

 

そこには宇宙空間にまばらな艦船と共に航行するエグゼクター級の画像があった。

 

「艦名は“アナイアレイター”、カシオ・タッグ大将軍の元乗艦だ。今はこの辺を仕切る海賊が扱っているらしい」

 

「海賊が?」

 

「ああ、だから我々で取り返す。我々は新共和国からすればノーマークの存在だ、あのスター・ドレッドノートを奪還してベアルーリンまで運ぶだけの兵員も存在している」

 

チェンセラー・フォースは帝国領内に滞在していた旧帝国軍を再編成し組み込んできた。

 

その兵員数は国防軍に及ばずともスター・ドレッドノートを一隻奪還するには十分な戦力があった。

 

「それで我々の部隊は奪還作戦の際の航空支援を行えばいいのですか?」

 

ハイネクロイツ少佐の第21飛行大隊は宇宙、地上問わずTIEスターファイターで戦闘行動を行うスターファイター隊だ。

 

作戦によってはTIEボマーやTIEストライカーの爆撃機種を用いて大規模な航空支援を行うことも出来る。

 

しかしフューリナー上級大将は首を振った。

 

彼がハイネクロイツ少佐に求めている能力はパイロットやスターファイター隊指揮官としてのものではなかった。

 

「私は君個人の能力に着目している。君は同期のパイロット達の中でも格闘術に長けているらしいな」

 

「ええまあ……しかし、それと今回の任務のどこに関係性が?」

 

ハイネクロイツ少佐は困惑しながら尋ねた。

 

フューリナー上級大将はホログラムの内容を変えハイネクロイツ少佐に見せた。

 

今度はある部隊の編成書のようなものが映し出された。

 

「我々は幾つかの特殊部隊を投入してブリッジ、動力源を占拠する。君にはそのうちの一つの空挺部隊を率いてもらう」

 

「空挺?私としては縁遠い兵種ですが、基本ファイター、インターセプター乗りで輸送機の経験とかあんまりないですし」

 

一瞬だけ目つきが鋭くなり様々な最悪の予測がハイネクロイツ少佐の頭に流れた。

 

されど相手を警戒させまいとして明るい笑みを浮かべ経験を絡めて冗談混じりに話した。

 

尤もフューリナー上級大将には全く効果がないようで彼は相変わらずの煮ても焼いても食えそうにない薄ら笑いを浮かべていた。

 

逆に表情が変わらず恐ろしさすら感じる。

 

「そんなことはないはずだ、むしろ君は“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”?」

 

その一言ははっきりとハイネクロイツ少佐が考えた最悪の予測にピッタリ当てはまっていた。

 

「……どこまで知っているんですか」

 

釘を刺しフューリナー上級大将を測る為にもハイネクロイツ少佐は尋ねた。

 

だがやはりフューリナー上級大将は表情を変えずいつもの笑みを浮かべていた。

 

「まあ好きに考えてくれて構わんよ。私は純粋に君の能力を評価し今回の作戦に用いようと思っただけだ。無論この作戦参加は命令だ、用意しておいてくれ」

 

ハイネクロイツ少佐から若干の殺意が向けられる中フューリナー上級大将は彼の手に今まで持っていたホロプロジェクターを握らせた。

 

「そこに現時点での作戦計画が記載されている。当然変更点は出ると思うが目を通しておいてくれ」

 

ハイネクロイツ少佐はホロプロジェクターを見つめ再びフューリナー上級大将を見つめた。

 

彼はソファーから立ち上がり再びデスクに戻った。

 

「伝えたいことは全て伝えた、もう戻ってくれて構わん。連隊長殿によろしくな」

 

本当に掴みどころがないまるで妖怪か物怪の類のように感じられた。

 

ハイネクロイツ少佐は周囲を一瞥し再びホロプロジェクターを見つめた。

 

だがこれといって何かをする訳でもなくホロプロジェクターをポケットにしまってソファーから立ち上がった。

 

フューリナー上級大将に向けて敬礼し「失礼しました」と一言だけ述べて司令室を後にした。

 

ドアが閉まる最後の最後までフューリナー上級大将から放たれた冷たい目線を受けながら。

 

ハイネクロイツ少佐は少し早歩きで特務作戦実行部隊の区画を離れた。

 

それから暫くして小さくため息を吐いた。

 

「……いたな、“1()()”」

 

ハイネクロイツ少佐は苦笑いを浮かべ再び歩き始めた。

 

もしかしたらこの任務が人生最後の任務になるかもしれない、漠然とした根拠のない不安を抱えながら。

 

 

 

 

-ベアルーリン チェンセラー・フォース本部 地下戦略会議室-

元々ベアルーリンのチェンセラー・フォース本部はクローン戦争期に共和国軍の司令基地として用いていたものだった。

 

戦争終結後は新しい基地を設置する事になった為この施設はベアルーリン機甲戦術研究アカデミーとして生まれ変わった。

 

ウォーカーや戦車などの機甲部隊の戦術を研究し更に機甲部隊の将兵を育成する。

 

しかし銀河内戦の影響で帝国アカデミーは全面的に閉鎖されこの研究アカデミーも例外ではなかった。

 

その為開いた施設をそのままチェンセラー・フォースが接収したという訳だ。

 

そしてその会議室の一室で密かにドレッドノート狩りの秘密作戦が練られていた。

 

まだ正確な作戦計画名が名付けられていない為、この計画は特殊作戦ESD-02Rと呼ばれていた。

 

「“アナイアレイター”の正確な位置は常に情報部によって判明しています。ですからその位置に従って我々は奇襲をかけるということになります」

 

今回の作戦の参謀の1人、アストグラム中佐はホロテーブルの星図を用いて説明した。

 

彼はシュメルケ上級大将の参謀将校であり以前はベアルーリン宙域軍司令部の参謀を務めていた。

 

しかしそんな彼の提案に待ったをかける人物が名乗りを挙げた。

 

ルテマン・アルブレート大佐、現在チェンセラーフォース第1連隊を率いている人物だ。

 

「しかしそれではどうしても情報にタイムラグが生じる、我々がジャンプした先に相手がいるとは限らん。既に移動している可能性もある」

 

相手はエグゼクター級という超巨大な戦闘艦なれどスターシップである以上移動することが出来る。

 

しかも相手が特定の滞在地を持たない海賊なのだから余計にだ。

 

「ではこちらが逆に相手の位置をしてしまいましょう。連中は海賊ですので襲撃すべきと判断する船舶が航行すれば必ずそこへ向かうはずです」

 

同じくシュメルケ上級大将の参謀将校であるリーゼヴェルデ中佐はそう提案した。

 

ホログラム上には何隻かの船団が現れそれを海賊たちが襲っており、私掠に夢中の海賊達を更にチェンセラーのフォースが襲うというわけだ。

 

「しかし襲撃させる肝心の“()”はどうする。こちらとしては連中にやる分の餌すら惜しいのだが」

 

現在チェンセラー・フォース第十二小艦隊司令官を務めるエーリヒ・ヴァルフェンドルフ少将は肝心の餌の心配を口にした。

 

現在の帝国宇宙軍にもチェンセラー・フォースにも海賊如きに与えられる高価な物資など持ち合わせていない。

 

この案を実行に移すとしたら何かしら海賊が欲しがるようなものを生贄に捧げるしかない。

 

「それに関してはコレリアからオード・マンテル行きの輸送船を餌に使う。ルートを誤らせワイルド・スペースへと送りこみ、海賊が襲撃中の間に作戦を実行する」

 

フューリナー上級大将はそう断言しテーブルにコレリアの輸送船を出現させた。

 

アルブレート大佐は「輸送船の中身はなんですか?」と尋ねた。

 

「コレリア産のスピーダー用の部品と食料品だ。スピーダー用と言ってもパーツはどれも汎用性が高い」

 

「間違いなく海賊は狙ってくるだろうな。警備の方は?」

 

「生身の警備員が大体36人、セキュリティ・ドロイドがその3倍だが」

 

大体1子中隊、海賊が私掠に苦戦しつつも成功しそうな程よい数字だ。

 

シュメルケ上級大将はこの案を受諾した。

 

「次に、海賊船団に対する攻撃ですが」

 

フューリナー上級大将の副官であるヴァルヘル少佐がホロテーブルの様子を変えた。

 

テーブル上には敵海賊船団に加え新たにチェンセラー・フォースの部隊が出現した。

 

なおまだ正確な部隊数が決まっていない為だいぶ濁した形のホログラムとなっていた。

 

「我々が動員出来る戦力は大きく見積もっても一個機動部隊ほどです。これ以上は新共和国にも海賊にも発見される可能性があります」

 

フューリナー上級大将直属の艦隊司令官を務めるアイフィト・ボルフェルト中将はそう進言した。

 

しかしすぐ訂正が入った。

 

「いや、機動部隊すらも大きすぎる。護衛のヴィクトリー級やアークワイテンズ級で連中に見つかってしまうだろう。出せる数は三隻、それもインペリアル級は二隻までだ」

 

フェリー・シュテッツ大将はチェンセラー・フォースの艦隊の実質的な総司令官であった。

 

本来はクリープル・モーデルゲン大将共々上級大将に据えて地上部隊、宇宙艦隊の総司令官にするつもりだった。

 

尤もまだその許可が降りていない為実質的で収まっているのだが。

 

「私の“アークレイター”とフューリナーの“エリミネーション”で行く。そうなると残り一隻、護衛艦さえなければもう一隻スター・デストロイヤーを使えるか?」

 

シュメルケ上級大将はシュテッツ大将に尋ねた。

 

シュテッツ大将は小さく頷きシュメルケ上級大将はホロテーブルにもう一隻軍艦を増やした。

 

「インペリアル級はこのまま、敵船団の無力化と兵力支援としてセキューター級を入れたい」

 

インペリアル級二隻、セキューター級一隻の機動部隊がホロテーブル上に存在している。

 

これがこの作戦で運用出来る宇宙艦艇の総戦力だ。

 

「ではどの艦にしますか?“ライアビリティ”は現在メンテナンスの為入港中で“オフェンシヴ”は現在ハンバリンへ向けて航行中ですが」

 

ヴァルフェンドルフ少将は尋ねた。

 

「第六十三機動部隊の旗艦“シャーデン”、これを動員する」

 

旗艦“シャーデン”は“ライアビリティ”や“オフェンシヴ”と同様セキューター級スター・デストロイヤーの一隻である。

 

この艦は主に地上への兵員輸送と補給を主任務とする第六十三機動部隊の旗艦であり他にも護衛艦を始め二隻の帝国貨物船を配下に入れていた。

 

艦長はヘルゲム・コルバ大佐、機動部隊司令官はヴィッツ・ドレスタル准将が務めていた。

 

なお今現在艦長のコルバ大佐がある事情でベアルーリン保安軍病院に入院中の為艦長の任務はドレスタル准将と“シャーデン”の副長が担っていた。

 

「“シャーデン”は確か部隊ごと親衛隊に」

 

「ああ、後で准将に掛け合いに行く。彼らにはコア・ワールドの会戦でも世話になった」

 

シュメルケ上級大将の2人の参謀は小さく頷いた。

 

これで必要な宇宙艦隊のメンツは揃ったし既に“アナイアレイター”内部へ突入する部隊の編成も以前の会議で整えてある。

 

後はより詳細な作戦の段取りと敵を無力化する方法を決めるだけだ。

 

「それでは作戦内容に移りますがまず囮の輸送船を海賊が襲撃中に我々の機動部隊が一気に奇襲を掛け無力化、その間に第1制圧部隊を投入しブリッジ、エンジン、ハンガーベイ、動力部を制圧し艦内に第2制圧部隊を投入。“アナイアレイター”の制御を完全に手に入れハイパースペースへ突入しベアルーリンに帰還します」

 

アストグラム中佐の説明に合わせてホロテーブルも現段階で完成している作戦のアニメーションを表示した。

 

チェンセラー・フォースの将校達は険しい顔のままこのホログラムを見つめていた。

 

「まず作戦の要となる海賊船団の無力化についてですが…それについてシュメルケ上級大将から1点、ご報告があります」

 

リストグラム中佐に呼ばれシュメルケ上級大将は再び喋り出した。

 

「ヒルデンロード首相より廃棄予定だったEPB弾の使用を許可された。これを用いて海賊船をほぼ全て無力化し“アナイレイター”も半分動けなくする」

 

将校達の合間にざわめきと興奮が広がった。

 

まさかあれの使用許可が出るとは誰も思っていなかった為予想外の事だった。

 

最初の案としては敵船団無力化の為に全スターファイターのイオン魚雷、イオン爆弾を用いて延々と爆撃を行うつもりでいた。

 

だがあれが使えるなら護衛を含めてもたった6機のスターファイターを派遣するだけで海賊船団ほぼ全てを長時間無力化出来る。

 

「では爆撃機と護衛機の編隊を突入させEPBを投下、海賊船団の制圧するという事でよろしいですか?」

 

将校達は皆頷きまた一つ作戦の詳細が決まった。

 

ホログラムに映し出された爆撃機が護衛機と共に敵船団に接近し1発の爆弾を投下する。

 

爆弾が周囲に電磁パルスをばら撒き周囲の艦船を沈黙させた。

 

「爆撃機について一つ提案が、先日ルウルのステーションに向かった所3機の最新機を発見しました」

 

スターファイター隊の司令官の1人、レールツヴァイアー中将の代理として会議に参加しているメルヒャルト中佐が発言した。

 

彼は元帝国宇宙軍スターファイター隊でスターファイター中隊の指揮官を務めていた。

 

「資料を提示します」

 

ディスクをホロテーブルに入れホログラムを出現させた。

 

レールツヴァイアー中将とメルヒャルト中佐が視察した時の画像が出現した。

 

「この機体は……よくもまあ残っていたな」

 

何度かこの機体を見たことがあるフューリナー上級大将は苦笑まじりにそう呟いた。

 

「TIE/ca、通称TIEパニッシャー。この機体は高性能で更に偏向シールド付きです。その為確実に敵船団までEPBを運べます」

 

やはり今回のような任務では偏向シールドがあるかないかで言ったらあるに越したことはない。

 

そこでシュメルケ上級大将はあることを幾つかメルヒャルト中佐に尋ねた。

 

「その機体、全てルウルからベアルーリンまで秘密裏に運搬出来るか」

 

「発見時にいつでも運搬出来るよう指示を出しています。ご命令があれば直ちに運搬させます」

 

中佐はすぐに答え続けてシュメルケ上級大将は質問した。

 

「この機体は先頭に動員出来るか?」

 

「はい、パイロットも選定し予備パーツの存在も確認されています。今回の特殊作戦だけでなく通常の戦闘でも無論対応出来ます」

 

メルヒャルト中佐の断言を聞きシュメルケ上級大将は小さく頷いた。

 

これなら大丈夫そうだなと少し安心したような表情だ。

 

「では中佐、直ちに機体をベアルーリンまで運搬せよ。EPBの投下はこのTIEパニッシャーで行う」

 

「了解!」

 

メルヒャルト中佐は敬礼し一旦席を外した。

 

既に手筈は整っているのだから輸送はなるべく早い方がいい。

 

コムリンクを手に取りルウルのステーションへ連絡を取った。

 

「運用する機体も決まった。ハンス、制圧部隊の訓練状況はどうだ?」

 

シュメルケ上級大将は次の議題に移った。

 

海賊を無力化した後最も重要になるのは第1制圧部隊による“アナイアレイター”艦内の制圧だ。

 

当然制圧部隊は現在の帝国軍の中でも最も選りすぐりの精鋭部隊が選ばれ、その上で厳しい訓練を何度も重ねる。

 

この重要な作戦において些細なミスも大きな失敗に繋がる可能性がある。

 

「各駐屯地と訓練施設で実行している。練度的には何ら問題ないし近々“アダプテーション”で演習を行うつもりだ」

 

アダプテーション”はチェンセラー・フォース所属のインペリアル級スター・デストロイヤーである。

 

インペリアル級はエグゼクター級に比べたら遥かに小型の部類になってしまうがそれでも艦内の構造は殆ど同じだ。

 

帝国宇宙軍艦船の標準規格でありそれ故制圧戦の訓練も比較的にやり易かった。

 

「助っ人の指揮官達も集め終わった。後は訓練を重ね作戦決行の時を待つだけだ」

 

フューリナー上級大将はふとシュメルケ上級大将の方に目線を送った。

 

作戦決行の判断はシュメルケ上級大将が持っているものではない。

 

彼の上官、つまりチェンセラー・フォースの主である第二帝国首相パウルス・ヒルデンロードにある。

 

しかし今の所ヒルデンロード首相は作戦計画の立案を命じただけで計画が完成したとしても実行する時ではないと断言していた。

 

そのことについて若い将校達からは若干の不満があった。

 

敵は特定の所在地を持たぬ海賊で情報部が動向を常に追っているとはいえいつ消えてもおかしくない。

 

それどころか新共和国に発見されて彼らに簒奪される可能性もある。

 

そうすれば全てが終わりだ、そうならない為にも早く実行に移す必要がある。

 

「上級大将、首相は本当に今作戦を実行に移してくださるのでしょうか……」

 

ヴァルヘル少佐はふとシュメルケ上級大将に尋ねた。

 

リストグラム中佐もリーゼヴェルデ中佐も口には出さなかったが同じような面持ちだ。

 

ヒルデンロード首相は銀河内戦末期において一か八かの賭けとも言えるカイゼルシュラハト作戦を実行に移し第二帝国の存在を新共和国に認めさせた。

 

彼はは「帝国の主人は亡き陛下にある」として首相を“()()”としあくまで皇帝の代理として帝国を導くのだとした。

 

その為今でも帝国の玉座は空っぽのままだ。

 

ヒルデンロード首相は元々クローン戦争でもターネンベルグの戦いで勝利を得たことから圧倒的な国民の英雄として首相の座に君臨している。

 

だが第二帝国建国後は新共和国とは対立せず安定策に軸足を置いて活動してきた。

 

故に第二帝国はひとまずの安定期に入ったがまだ銀河内戦の屈辱とカイゼルシュラハト作戦でも拭い切れなかった敗北感を覚えている将兵達はどこか空虚に感じていた。

 

銀河協定も事実上の敗戦条約であり帝国軍にも大きな制限がかけられた。

 

第二帝国は存続したものの第一銀河帝国が保有していた殆どの領域を失い、かつて帝国だった場所は新共和国かヒルデンロード首相の言う“()()()()()()”達の軍閥勢力となってしまった。

 

賭けに勝ったのにも関わらず見返りは少ない。

 

最近ではその事に対しより強行的なことを演説で発言する新しい政治家も現れ始めた。

 

「作戦を立案したとしても実行されず機会を逃すのであれば我々の行動に意味など……」

 

「そんな事はないぞ少佐。首相はタイミングを見計らっているだけで我々の行動や仮の作戦計画には満足していらっしゃる」

 

シュメルケ上級大将はヴァルヘル少佐の言葉を遮りそう答えた。

 

「それに首相はそう遠くない未来に必ず作戦決行の命令を下される。遠くない未来必ず、な」

 

 

 

 

 

 

 

-ベアルーリン 宇宙軍港附属駐屯地-

それか1ヶ月が過ぎた。

 

この1ヶ月の間にはセスウェナ接触危機やカターダの一揆が発生したが第二帝国内では特に何もなかった。

 

その平静の間に国防軍も保安軍もチェンセラー・フォースも徐々に自らの体制と基盤を整え安定期に入っていた。

 

特にチェンセラー・フォースでは流石に領域内に亡命する帝国軍部隊も少なくなった為ある程度の部隊の編成が完了した。

 

そして新規に入ってきた将兵も徐々に各部隊へ副官や新任将校という形で配属され始めた。

 

彼、ニコラツ・ヴァリンヘルト少尉もそのうちの1人だった。

 

彼は連隊長室に辿り着くまで何度も制帽を被り直し階級章が曲がっていないかを確かめた。

 

これから着任の挨拶に行く連隊長はヴァリンヘルト少尉の憧れでお世話になった恩人だ。

 

彼がいなかったらヴァリンヘルト少尉は多分軍人になれなかった。

 

故にヴァリンヘルト少尉はとても緊張しており、彼のソワソワする動きは少々奇異なものだったが周りにあまり人がいなかった為さほど怪しまれずに済んだ。

 

「よし…!」

 

再び制帽を被り直しヴァリンヘルト少尉はようやく連隊長室のドアを叩いた。

 

すると入室許可が出て連隊室のドアが開いた。

 

中にはこれからヴァリンヘルト少尉が仕える第6親衛連隊長が1人、そして連隊長と同じくらいの年齢に見える橙色の髪色をした少佐がいた。

 

ヴァリンヘルト少尉は今までにないほど綺麗な敬礼を連隊長に送った。

 

「失礼します!本日第6 親衛連隊に連隊長副官として着任いたしました!ニコラツ・ヴァリンヘルト少尉であります!」

 

2人も敬礼を返し連隊長が「楽にしてくれ」とヴァリンヘルト少尉の敬礼を解いた。

 

連隊長はデスクから離れヴァリンヘルト少尉の下に近づいた。

 

そして彼に手を差し伸べ握手を求めた。

 

「卒業おめでとう、それとこれからよろしく」

 

「シュタンデリス中佐…!」

 

ヴァリンヘルト少尉は感極まりながら彼の手を握った。

 

彼こそが第6親衛連隊の初代連隊長となるジークハルト・シュタンデリス中佐だった。

 

ヴァリンヘルト少尉とジークハルトの出会いはかれこれ2、3年前になる。

 

彼が帝国アカデミーへの入学に困っていた時に手助けしたのがジークハルトだった。

 

その出来事があって以来ヴァリンヘルト少尉はジークハルトを尊敬し彼を目指して軍人となった。

 

「ここに入るとは聞いたがまさか私の副官とは。私の新しい副官としては申し分なさそうだ」

 

「ブラウヴィッツ中尉は優秀でいい先輩でしたからね、私も注意に負けないくらい励もうと思います」

 

ジークハルトは優しい笑みを浮かべながら小さく頷いた。

 

ヴァリンヘルト少尉はジークハルトの副官に嬉しかったが同時にジークハルトが少し変わったような気もした。

 

前よりもやつれ瞳からはだいぶ光が失われた気がする。

 

それは2、3年も会っていないヴァリンヘルト少尉の思い違いだろうか。

 

「そのことなんだが……実は私とこのハイネクロイツ少佐で暫く別の任務に加わることになってね……当面副連隊長のアデルハインの所に行って欲しいんだけど」

 

「別の任務…ですか?」

 

「ああ、詳細は君にも言えないがとにかく一時的に連隊の指揮からは離れる。すまないな、来たばかりなのに」

 

「いえお構いなく!中佐のご活躍を期待しています!」

 

「そんな大それた仕事じゃないよ」

 

ジークハルトが若き少尉を宥めていると再びドアが開き別の将校が入ってきた。

 

ジークハルトとハイネクロイツ少佐に敬礼し「準備、整いました」と状況を報告した。

 

「分かった、もう少ししたら行く。少尉、早速まず最初の任務だ。この資料を……副連隊長のアデルハインに渡して欲しい。ついでに挨拶も、多分喜ぶ」

 

「はい!中佐もお気をつけて!あっ後少佐殿も!」

 

ジークハルトは頷きハイネクロイツ少佐も軽く敬礼を送り連隊長室を出た。

 

駐屯地内の窓から外の様子を見つめると少し開けた場所に中隊単位の部隊が整列し上官の話を聞いていた。

 

少し遠いから正確には分からないがかなり若い将兵が大勢いた為全員新任の将兵だろう。

 

彼らの中には元々帝国軍の候補生だった者が多くその経験を買われて多くがチェンセラー・フォースに勧誘され入隊してきた。

 

今や帝国の正規軍たる国防軍は狭き門であり各惑星の保安軍もそれほど空きがある訳ではない。

 

その為殆どがチェンセラー・フォースに集まってきた。

 

「あの若い少尉と知り合いなんだって?」

 

ハイネクロイツ少佐はふとジークハルトに尋ねた。

 

スターファイター隊と地上軍将校ではあまり深い接点はないかもしれないが、ハイネクロイツ少佐の明るい性格で比較的連隊の将兵にも彼はすぐに受け入れられた。

 

「ああ、昔コルサントの軍事大学に行ってた頃ちょっとね。折角アカデミーに入っても途中退学でその後路頭に迷うようじゃ報われないよな」

 

ジークハルトはふと彼らの心境を思って愚痴をこぼした。

 

だがあれだけの戦争に敗北するということはこういうことなのだ。

 

カイゼルシュラハト作戦の限界点があそこまでとはいえこれが現実だ。

 

「まあな、ただそれ以前に卒業出来た奴らがみんな報われた結果なのかはまた別だが」

 

銀河内戦末期、各地の帝国アカデミーから卒業間近の候補生が駆り出された事例がある。

 

当然そのうちの何人かは艦船の爆発に巻き込まれ、熾烈な地上戦の末に、或いは上官の無茶苦茶によって戦死した。

 

到底報われた結末とは言えないだろう。

 

それはジークハルトが一番分かっていた。

 

「あっエレベーターを使おう」

 

近くのエレベーターを見つけたハイネクロイツ少佐は最下層まで降りようとボタンを押した。

 

すると横から「我々もご一緒して構わないかな?」と渋めの男性の声が聞こえた。

 

「バエルンテーゼ将軍!あっいえ大将」

 

ジークハルトとハイネクロイツ少佐は2人に敬礼した。

 

「いい、いいどっちでも。久しぶりだな中佐、元気にやっているか?」

 

親衛隊の上級将校の1人であるゴットバルト・バエルンテーゼ大将は2人に敬礼を返した。

 

彼の後ろには配下のエルフェンバイン准将が控えていた。

 

「閣下、どうぞお先に」

 

「ああ、すまないな」

 

ジークハルトはバエルンテーゼ大将とエルフェンバイン准将を先にエレベーターの中へと入れた。

 

ジークハルトは中佐、それに対して2人は准将と大将(General Admiral)だ。

 

軍人としての偉さは比べ物にならないしバエルンテーゼ大将には大きな恩がある。

 

「大将方はどちらへ行かれます」

 

「1階で頼む、この駐屯地には視察に来たのでな」

 

「そうでしたか、ちなみにどの部隊を?」

 

ジークハルトは2回パネルのスイッチを押し降りる階層を決めた。

 

「第47擲弾兵大隊、まあ簡単に言えば歩兵大隊だな。新しく作る連隊の基幹部隊となるそうだ」

 

「へえ、では連隊長は誰に?」

 

「内定だがオルフェンベルクに決まったそうだ、年齢的には君の同期だったな」

 

ジークハルトが将校になる為に通った帝国アカデミーは最も権威の高い帝国ロイヤル・アカデミーだった。

 

一方新連隊長となるオルフェンベルク中佐が通っていた同じく名門校のカリダ帝国アカデミーで同期と言っても2人にそれほどの面識はなかった。

 

精々名前を知っているくらいだろう。

 

「元々前線の部隊長上がりだった人ですよね、やっぱりあのカリダ・アカデミーの教育の成果ですかね」

 

「かもな、君たちは何処へ行くつもりだ?」

 

バエルンテーゼ大将はふと2人に尋ねた。

 

「我々は最下層まで」

 

「最下層……ああ、君達なら信頼して任せられる。頑張れよ」

 

バエルンテーゼ大将は当然事情を知っており2人に労いの言葉を送った。

 

その任務の重大さ故にここではそれ以上言えなかった。

 

2人は小さく頷き丁度1階についた。

 

「それじゃあ、お先に」

 

バエルンテーゼ大将とエルフェンバイン准将は先にエレベーターを降りそのままドアが閉まった。

 

再びエレベーターは降下し目的地である駐屯地の地下に辿り着いた。

 

本来ここは市街地戦や敵艦に対する上陸戦や防衛戦などを訓練する場所だが今日はここに幾つかの特殊部隊が集まっていた。

 

通路を少し進みそのうちの一つの区画に入った。

 

「ジークハルト・シュタンデリス中佐、ランドルフ・ハイネクロイツ少佐に敬礼!」

 

区画に入った瞬間一斉にトルーパーの敬礼を受けた。

 

本来ストームトルーパーやストームトルーパーに分類する兵科の存在は銀河協定で禁止されているのだがチェンセラー・フォースはその枠に批准していない。

 

また銀河協定には“()()()()()()()()()()”についての明文が現在のところ存在しない為チェンセラー・フォースは対象外となる。

 

名目上彼らは帝国代理首相パウルス・ヒルデンロードの私兵なのだから。

 

「第42降下猟兵中隊及びコマンドー隊、全員揃っています」

 

中隊長のミェル・キルホフ上級大尉が2人に報告した。

 

配下の中隊は以前は帝国地上軍の空挺部隊で全員がジャンプ・トルーパーで構成されていた。

 

当然銀河協定では禁止の部隊だ。

 

ジャンプ・トルーパー達の隣で直立不動のままジークハルトらに敬礼する黒いトルーパーの分隊も。

 

彼らの一部はシャドウ・トルーパーと呼ばれるクローキングを用いて敵地に潜入し破壊工作や特殊作戦を実行するストームトルーパーの精鋭部隊だ。

 

2個分隊が配備されクローキング装置の能力を活かして素早く浸透し制御を奪う手筈になっている。

 

その為にシャドウ・トルーパー達は同じく部隊として配属される2個のストーム・コマンドー分隊と共に訓練を重ねていた。

 

そして今回は情報部から部隊長であるジークハルトの護衛ということでデス・トルーパーが1個分隊が配備され専属で彼をガードする。

 

これによりジークハルトが指揮するのはシャドウ・トルーパー、ストーム・コマンドー、デス・トルーパーの諸兵科連合1個小隊、帝国地上軍の最精鋭を集めた最強部隊だ。

 

更にジャンプ・トルーパー部隊が上陸から制圧までを支援する。

 

こちらはハイネクロイツ少佐が直接指揮を取ることになった。

 

「私がエンジン区画制圧の指揮を取るジークハルト・シュタンデリス中佐だ。知っての通り我々の今回の任務は奪われたエグゼクター級“アナイアレイター”を奪還することにある」

 

兵士達は黙ってジークハルトの話に耳を傾けた。

 

「これは帝国軍の戦力と威信の回復だけに留まる任務ではない。前内戦で失った戦友達の無念を晴らす始まりの一歩なのだ。あの屈辱の敗戦の中で失った戦友を思い出せ、この任務で“アナイアレイター”を取り返すことこそが戦友達に報いることの出来る最初の機会だ。諸君が全力で任務に臨むことを期待する」

 

トルーパーの1人1人が銀河内戦での屈辱を思い出しジークハルトの演説を胸に仕舞い込んだ。

 

この若い将校は我々の気持ちをよく理解し共に戦ってくれる同志なのだとトルーパー達は思った。

 

「奪還作戦で我々はエンジン区画の制圧を担当する。まず第42降下猟兵中隊がこのハイネクロイツ少佐と共に撹乱しその間に私と制圧小隊が突入しエンジン区画の中央制御室を抑える」

 

中央制御室を占拠すれば一気にエグゼクター級のエンジンを無力化することが出来る。

 

当然敵も守りを固めるだろうから制圧は激戦となるだろう。

 

エンジン区画の制圧は確保した“アナイアレイター”を第二帝国領へ運ぶ時に最も重要となる。

 

当然その責任の重大さをジークハルトが理解していない訳がない。

 

しかしやらねばならない、この任務を果たさなければ彼が言った通り“無念を晴らす”ことが出来ない。

 

「思い上がった海賊どもに我々がなんたるかを知らしめてやれ、諸君らの働きによって帝国の尊厳は取り戻されるのだ」

 

軍靴の音と共にトルーパー達の声が響いた。

 

それは兵士達の祖国と指揮官に対する忠誠の誓いの現れであり勝利への強い意志の現れだった。

 

ジークハルトも彼らに敬礼を送った。

 

この時点で作戦決行まで既に2ヶ月を切っていた。

 

 

 

 

 

-ベアルーリン バーデンダルク州 シェルネヴェート市-

シェルネヴェート市は宇宙軍港に近くジークハルトは連隊長に就任した際、シェルネヴェート市の軍人住宅地に一軒の家を贈呈された。

 

ノートハーゼンから引っ越してきたジークハルトの一家は去年からここに住んでいる。

 

シュタンデリス家はジークハルトの妻に子供1人の3人家族であり両親は既に他界していた。

 

妻の名前はユーリア・フリズベン・シュタンデリスといい一人息子はマインラート・シュタンデリスという名前である。

 

丁度この日はジークハルトが定時で家に帰り夕食を済ませ、マインラートを風呂に入れ終わった時間帯だった。

 

辺りはもう真っ暗になっており街灯や家々の灯りがシェルネヴェートの街を照らしていた。

 

マインラートはパジャマのままおもちゃのランドスピーダーや宇宙船を並べて遊んでいた。

 

そんなマインラートを見守りながらジークハルトはユーリアから差し出されたカフを嗜んでいた。

 

「もう、すっかり大きくなっちゃって」

 

ユーリアはジークハルトの隣に座り感慨深そうに呟いた。

 

子供の成長は早いとよく言われているが実際その通りだと深く感じていた。

 

「ああ、日中はどうだい?元気にしてる?」

 

「ええ、きっとお風呂の中で言われたと思うけど今日は公園に行ってきたわ。帰ってきてからすぐ『また明日も行きたい』って」

 

2人は微笑を浮かべジークハルトは再びカフの入ったカップに手をつけた。

 

だがその一瞬でふとあることを思い出し彼の微笑みは消えた。

 

どう言おうか、そもそも今いうべきか悩みながらカフを一口飲み、決心をつけた。

 

「……実はまた帰りが遅くなったり帰らない日々が続くかもしれないんだ、ごめんね」

 

ジークハルトはゆっくりコップを置きユーリアにそう伝えた。

 

ユーリアは少し寂しそうな顔をしたが軍人である以上覚悟の上だ。

 

彼女の父だって軍人で家を留守にすることが多かった。

 

「そう…それで何日くらいになりそうなの?」

 

ジークハルトは困り顔を浮かべ唇に人差し指を当てた。

 

「…ごめんね」

 

「……わかったわ、気長に待ってるから」

 

ジークハルトは小さく「ありがとう」と呟いた。

 

今回の極秘作戦は当然家族にもその任務内容を伝えられない。

 

仕方ないこととはいえかなり辛いものがある。

 

「仕事が終わったら頑張って休みを取ってみるよ。取れるかは分からないけど…」

 

「そうねぇ……休みになったらどこか旅行にでも行きましょうか。パンツェルの方に新しい遊園地が出来たんだって」

 

「そうだなぁ……マインも大きくなったし」

 

再びカフの入ったカップを持とうとすると突然ジークハルトの鞄の中に入っているコムリンクがバイブの音を立てながら鳴り響いた。

 

マインラートもスワンプ・スピーダーのおもちゃを持ちながら「なんかなってるよー」とジークハルトに伝えた。

 

「ありがとうマイン、ちょっと出てくるね」

 

「ええ」

 

一体なんだとジークハルトは若干不機嫌になりつつも鞄からコムリンクを取り出し通信を繋げた。

 

外部に漏れてはいけない情報だった時の為にジークハルトはリビングの外に出て会話に出た。

 

「…もしもし」

 

『中佐!君は今家か?家ならば直ちに駐屯地に戻ってくれ!』

 

通信の相手は国防軍所属でバーデンダルク州に駐屯する第649歩兵師団長のアルマン・ホーエンヴェルゲン准将だった。

 

銀河内戦終結後ジークハルトはチェンセラー・フォースに入るまでの間、ホーエンヴェルゲン准将の配下にいたことがある。

 

ジークハルトがはかのバスティ・シュタンデリス司令官の息子であるということもあって准将に随分と可愛がられたものだ。

 

その為ホーエンヴェルゲン准将とはチェンセラー・フォースに出向した後でも親しき仲だった。

 

「准将?どうしました?」

 

ジークハルトは少し焦るホーエンヴェルゲン准将に事情を尋ねた。

 

准将は移動しながらだが簡潔に答え始めた。

 

『今諸事情あって首相官邸近くの事務館にいるんだが“()()()()()()()()()()()()”!!それでも“()()()()()()()()()()()”!!』

 

「えっ!?」

 

ジークハルトは思わず声を上げた。

 

首相官邸、しかも執務室で爆発が起こった。

 

これらのピースを合わせた先にある最も最悪な答えといえば…。

 

『今、先にダルヘマンに命じて私の師団に武装して待機するよう命じた。国防軍にも連絡済みでもう近くのチェンセラー・フォースは動き始めてる。君も急いで駐屯地の兵力を武装させろ』

 

『准将、こちらを』

 

通信の奥ではホーエンヴェルゲン准将が副官からブラスター・ピストルを受け取りキルモードにチェンジする音が聞こえた。

 

恐らく事務館の面々は事態を考慮して武装し始めているのだろう。

 

『すぐに君の上官から命令が来ると思うが先に伝えておく。我々は警備の連中や事務館のメンバーと協力して執務室に行くつもりだ、いざという時の為に君は宇宙港をなんとしても死守してくれ。ベアルーリンと他の領域を繋ぐ貴重な拠点だからな』

 

「了解、お気をつけて」

 

『そっちもな、では!』

 

ホーエンヴェルゲン准将との通信を切りジークハルトは急いで自身の制服を撮りに向かった。

 

寝巻きを脱ぎ、再びさっきまで来ていた制服に身を包む。

 

すると再びコムリンクが誰かから連絡が来ていることを伝えた。

 

ジークハルトは着替えながら通信を繋ぎ応答した。

 

「もしもし」

 

『私だ中佐、今し方シュメルケからチェンセラー・フォース全部隊に緊急の出撃待機命令が出された。君は今家か?』

 

通信の相手はモーデルゲン大将でどこか静かで落ち着いていた。

 

「はい、ですがすぐ駐屯地に向かいます」

 

『そうか、では君の連隊を武装させて待機させろ。一部の部隊は当然宇宙港の守備に回ってもらう』

 

「了解、直ちに命令を出します」

 

『任せたぞ』

 

通信が切れ、ジークハルトはズボンを履き終えた。

 

ベルトを締め上着を着ながら今度はジークハルトが別の人間に連絡を取ろうとした。

 

暫く間を置き通信は繋がった。

 

「アデルハイン、私だ。シュメルケ上級大将から緊急の出撃待機命令だ。今いる全兵士を急いで武装させて出撃体制を整えろ。ベルトヘルカーはそっちにいるか?」

 

ジークハルトが通信を繋げた相手はブリーズ・アデルハイン少佐、第6親衛連隊の副連隊長だった。

 

今日は彼が駐屯地でまだ勤務しているはずだ。

 

そして案の定、アデルハイン少佐は通信に出た。

 

『ああ勿論いる』

 

「彼の中隊は武装次第宇宙港の方に送れ。宇宙港はなんとしても死守させろ」

 

『了解した、こっちで全隊に招集をかける』

 

「頼んだ、私もすぐに向かう」

 

通信を切りジークハルトは襟を留めて軍帽を被った。

 

上着のベルトを締め、手袋を嵌めるとすぐに部屋を出てリビングに戻った。

 

リビングのユーリアとマインラートは突然制服を来てきたジークハルトを見て少しびっくりしていた。

 

「お父さんまたしごと?」

 

「ああ、ごめんねぇマイン。お父さん、ちょっと行ってくるよ。お母さんのゆうこと聞いて、ちゃんと寝るんだよ?」

 

「うん!いってらっしゃいお父さん!」

 

「ああ、行ってくる。それとおやすみ」

 

マインラートの頭をポンポンと撫でて立ち上がった。

 

ユーリアは心配そうに「呼ばれたの?」と尋ねた。

 

「ああ……緊急の命令が来た。多分今日中には帰れそうにないからマインを頼む。じゃあ」

 

「行ってらっしゃいあなた」

 

小さく頷いてジークハルトは急いで我が家を後にした。

 

静けさが漂うベアルーリンの街の中を1人で。

 

 

 

 

 

 

第二帝国にとってかの夜は“長い沈黙の夜”と呼ばれ、帝国の歴史にまた一つ悲劇を残した。

 

突如首相官邸に位置する首相執務室で爆発が発生しこの時点で2名の衛兵、中にいた官僚数名が即死。

 

その後爆発の混乱に乗じて首相官邸へ襲撃者が突入し執務室にいた第二帝国首相、パウルス・ヒルデンロードと彼の幼い次男が襲われた。

 

艦艇の警備兵が突入した際、次男の姿は発見出来なかったが重傷を受けたヒルデンロード首相は発見された。

 

直ちに官邸近くの帝国ベアルーリン総合軍事病院に搬送されたが既に事切れており手遅れであった。

 

第二帝国の建国の父にして首相、英雄ヒルデンロードは己の生み出した帝国がまだ黄金に達する前にこの世を去ったのだ。

 

ベアルーリン及び帝国領域全土では戒厳令の下厳重な警戒体制が敷かれ、チェンセラー・フォースに保安軍、国防軍といった全ての帝国軍がいつでも出撃出来る態勢を整えていた。

 

ISBやベアルーリン首都警察は血眼で襲撃者と拐われたと思われるヒルデンロード首相の次男を捜索したが見つかることはなかった。

 

この事態に対し帝国最高評議会は直ちに臨時議会を招集、まずヒルデンロード首相に代わる新たな帝国指導者を決定することになった。

 

何人かが新たな帝国指導者に立候補したものの突如発見された生前ヒルデンロード首相が遺していたとされる遺言書が発見された。

 

内容には自身の後の帝国指導者の指名も明記されておりヒルデンロード首相が指名したのは現在COMPNORの長官を帝国の高官であった。

 

COMPNOR長官の帝国指導者就任に議会は全会一致で賛成しCOMPNOR長官はあくまで皇帝と首相の“代理の総統”という形で帝国指導者の後を継いだ。

 

総統は直ちに帝国全土へ2週間の喪服を命じヒルデンロード首相の葬儀を取り行った。

 

首相の遺体は首相がクローン戦争で大勝を収めたターネンベルグ戦勝記念碑の下に埋葬され、代理総統が葬儀演説を行った。

 

ヒルデンロード首相に対してはかつて敵対した新共和国からも哀悼の意が送られ、新共和国議長の席を譲ったモン・モスマも同様に首相の死を悼んだ。

 

代理総統の誕生から帝国は一気に変革と動きを見せ始めた。

 

まず総統就任により空席となったCOMPNOR長官の席はハインレーヒ・ヒェムナーが据え置かれた。

 

また以前総統が就いていた宣伝大臣の席にはヨーぺゼフ・ゲルバルスが就任し首相官邸も新たに総統府と名を改められた。

 

首相の死から3週間後、代理総統は就任演説を行い銀河内戦中の新共和国に対して直接的な批判を行った。

 

このような帝国から新共和国への直接的な批判は銀河内戦終結以降初めてであり、銀河系に大きな衝撃を齎した。

 

まず国内では帝国軍、並びに議会はこの行動を積極的に支持した。

 

特に帝国軍は銀河協定の軍備制限を解除する意欲を示した代理総統のことに忠誠を誓った。

 

一方新共和国は当然この行動に対し「戦後秩序を乱しかねない挑発的行為だ」と反対の意を表明。

 

新共和国軍内や新共和国元老院の過激派は「銀河協定の規定を強化すべき」との意見も出されたがあくまで反対のみに留まった。

 

総統は明確に新共和国と対立する気であり銀河間では緊張が走った。

 

その余波は当然チェンセラー・フォースにも影響を与えた。

 

彼らはまず“首相の軍(Chancellor Force)”から“総統の軍(Fuehrer Force)”として“親衛隊”に名称が改訂された。

 

そして首相時代にはついぞ認可されることのなかった“()()()()()()()()()”も代理総統は直ちに認可した。

 

既に完成しつつあった特殊作戦ESD-02Rは加速度的に進行することとなる。

 

新しい“()()()()()”が産声を上げる中で、新たな戦争の楔となる巨大な短剣を得る為に。

 

黒服の軍隊は今動き出す。

 

 

 

 

 

 

-ベアルーリン軌道上 宇宙軍ステーション・ドック ISD“アークセイバー”-

インペリアルⅡ級スター・デストロイヤー、“アークセイバー”は帝国軍時代からシュメルケ上級大将の乗艦であった。

 

艦長はリードリッツ・オイゲン大佐で現在の親衛隊ではこの“アークセイバー”が総旗艦を務めている。

 

現在“アークセイバー”は親衛隊に割り当てられた宇宙軍ステーションに特殊作戦に参戦するインペリアルⅡ級“エリミネーション”とセキューター級“シャーデン”と共にドックに停泊していた。

 

ステーションには普段の地上との輸送とは別に特殊作戦に実行される予定の物資や兵員の運搬を行っていた。

 

『第4095便は30分後に到着します。ハンガーベイ各作業員は直ちに配置についてください』

 

アークセイバー”の艦内にアナウンスが響きアストロメク・ドロイドや作業員達が動き始めた。

 

アークセイバー”に限らずインペリアル級は本来数万人単位の乗組員がいないと運用出来ないがこの艦には大幅な無人化技術が組み込まれている為数千人でも運用が可能だ。

 

尤も数千人で運用しなければならないほど帝国軍の規模は大きく縮小したという事実の現れでもある。

 

「こちら“アークセイバー”第1ハンガーベイ、こちらにはまだ空きがある。こちらに優先して着艦せよ」

 

ハンガーベイを取り仕切るゼールメン曹長は耳元のコムリンクに手を当て輸送機に指示を出した。

 

すると1機の機体から返答があった。

 

『こちらゴザンティ特務輸送機、ボマークラスのハンガーベイに輸送したい』

 

「機種はインターディクター・スターファイターか?」

 

『そうだ、“アークセイバー”に運び込むよう命令を受けている』

 

「分かった、パイロットには着艦タイプ-Gを実行させろ」

 

『了解』

 

通信を切るとゼールメン曹長は何人かの整備士を集め始めた。

 

今から来る機体はただのTIEボマーではない。

 

帝国軍最高級の爆撃機だ。

 

『インターディクター1、間も無く着艦する』

 

再びコムリンクに通信が入り徐々に浮遊する1機の爆撃機、TIEパニッシャーが姿を現した。

 

TIEパニッシャーは別名TIEインターディクター・スターファイターやTIEキャピタル・アサルトとも呼ばれる。

 

貴重な超重爆撃機でありその能力は通常のTIEボマーとは比較にならない。

 

「インターディクター1、空いている隙な場所に降りてくれ。こちらが向かう」

 

『了解した』

 

TIEパニッシャーはハンガーベイの偏向シールドをすり抜けちょうど真ん中の空間に着艦した。

 

集まった整備士達がゼールメン曹長と共にぞろぞろとTIEパニッシャーの周りに集まった。

 

1人の整備士が感慨深そうに「これがあの……」と呟いた。

 

ゼールメン曹長も同調するように頷いた。

 

「ああ……これがあのTIEパニッシャーだ」

 

整備士達は貴重な高性能爆撃機たるTIEパニッシャーを整備出来ることを心の底から喜んでいた。

 

同じ頃、“アークセイバー”の作戦室では作戦の最終確認の為に作戦に参加する全ての指揮官や参謀達が集められていた。

 

正面のモニターには今回の作戦を説明するスライドが映し出されていた。

 

「本作戦は亡き首相が命を賭して存続させ、代理総統の下新たな道へ進む我が帝国の運命に大きく起因する作戦である。その為、失敗は許されない」

 

シュメルケ上級大将は全員の前に立って説明を始めた。

 

将校達の瞳は当然だと言わんばかりに彼を見つめていた。

 

「尤も、諸君ら親衛隊の精鋭が集まったこの作戦、私には失敗する要素は微塵も感じられない。ただ全力で望みたまえ、そうすれば必ず我らには勝利が舞い降りてくるだろう」

 

シュメルケ上級大将は狂気を孕んだ笑みを浮かべ、何人かの将校達はそれに釣られて自らの戦意を昂らせた。

 

将校達は闘争心に溢れており、マラカヴァーニャの海賊達を1人残らず抹殺してしまう勢いだった。

 

「それでは作戦の最終確認に入る。まず艦隊をワイルド・スペースに移動させ、海賊が我々の放った“餌”となるコレリアの輸送船を襲撃するのを待つ」

 

モニターにはワイルド・スペースの星図が映し出され、そこに簡略化された親衛隊の艦隊と海賊船団が映し出された。

 

海賊船団はハイパースペースから出撃した輸送船を狙って移動しある一点で立ち止まった。

 

海賊船団は確実にこの輸送船を襲撃しそこで暫く停止するだろうという算段だ。

 

「海賊が輸送船を襲撃し始めたら我々もそれを追撃し作戦を開始する。まず敵船団の最大砲撃地点から外れたポイントにジャンプアウトし爆撃隊を展開する」

 

ジャンプアウトした艦隊から2つの爆撃編隊が出撃し海賊船団に爆弾を投下した。

 

「この爆撃で海賊どもを無力化し、“アナアイレイター”へ第1制圧部隊を送り込む。各隊はそれぞれ指定したブリッジ、エンジン区画、ハンガーベイ、動力部を制圧する」

 

艦隊から輸送船が発艦し海賊船団の中央に位置する目標のエグゼクター級“アナイアレイター”に突撃する。

 

今度はアナイレイターの船体が中心に現れ、シュメルケ上級大将が示した4箇所の制圧地点を表示した。

 

「これらの制圧は全て諸君の腕に掛かっている……が、相手は海賊だ。制圧では生ぬるい、“()()()()()()()()()”」

 

邪悪なる笑みが何人かの将校にも伝染した。

 

シュメルケ上級大将が将校達の戦意を高める為のあえての発言かそれとも本人の意思なのかこの場にいたジークハルトは完全には分からなかった。

 

しかし敵地を制圧する以上、その場の敵を殲滅せざるを得ないだろう。

 

「こんな奴らがいるから銀河の秩序が乱れるのだ。我々の使命は帝国と秩序を護ること、そして秩序に仇なす全てを殲滅すること。その為にはまず、この海賊どもを殲滅し“アナアイレイター”をこの手に取り戻す。そして次は……いや、今はまだだな。諸君らの制圧が終了次第、第2制圧部隊を展開し我々は“アナイアレイター”を手土産にベアルーリンへと帰還する。以上が作戦の全貌だ」

 

シュメルケ上級大将はあえて言葉の途中を濁した。

 

されどこの場にいる全ての将校達がシュメルケ上級大将が言わんとすることを理解していた。

 

彼ら親衛隊が征く先はワイルド・スペースの海賊達相手に留まらない、親衛隊は敵地を進むのだ。

 

アナアイレイター”を奪還し次は“首都(コルサント)”を取り戻す。

 

それからようや彼らの雪辱は果たせるのだ。

 

まだ始まりですらない、本当の“第二次銀河内戦”は後1年は先だ。

 

「“アナイアレイター”はカシオ・タッグ大将軍の旗艦にして我が帝国の威信たる艦である。これを取り戻すことは帝国の威信を回復させることに繋がる」

 

エグゼクター級スター・ドレッドノートは帝国宇宙軍最大の軍艦でありこの十三隻のスター・ドレッドノートは帝国秩序の象徴であった。

 

しかし“エグゼクター”がエンドアで沈んだのを皮切りにこの象徴は次々と失われていった。

 

アービトレイター”も、ジャクーで沈んだ“ラヴェジャー”、終いには皇帝の旗艦たる“エクリプス”も姿を消した。

 

もはやこの銀河系で確実に存在しているエグゼクター級は“アナイアレイター”の一隻のみだ。

 

たった一隻だがそれでも帝国の威信と軍事力を回復させるには十分な一隻である。

 

「説明は以上だが何か質問はあるか」

 

シュメルケ上級大将は将校達に尋ねた。

 

すると1人、前列の将校が手を挙げた。

 

第1制圧部隊に所属するヨアム・アルデルト中佐だ。

 

「作戦計画名はなんという名称ですか、いつまでもESD-02Rという訳には行きますまい」

 

「作戦名か……そうだな」

 

作戦計画が完成してもなおこの特殊作戦はいつまでもESD-02Rという名称だった。

 

何せ作戦が成功しても失敗しても詳細は全て破棄される。

 

アーカイブに残す必要がない為本来作戦計画名も必要なかった。

 

「“Jäger Dreadnought”……我々は狩人となってかのドレッドノートを手に入れる。海賊どもにも他のならず者の軍閥どもにも渡っていい代物ではない。我々が“()()()()”」

 

この瞬間、作戦名が決まった。

 

シュメルケ上級大将は将校達に対して命令を下す。

 

「総統閣下の許可は頂いた……これは亡きヒルデンロード首相の先勝記念碑の前に捧げる最初の勝利である!準備が出来次第“イェーガードレッドノート作戦”を実行せよ!」

 

歴史上の表舞台に残ることはない影の戦争の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『1,000メートル級ドック1番、2番、3番、間も無く各艦のドッキングを解除する。エアロック内部の人員は速やかに退避せよ』

 

ステーションから指示が届き、3つのドックに停泊する艦船の乗組員達は準備を進めた。

 

エアロック周辺の乗組員は全員が退避しハンガーベイ周辺ではシールドがしっかりと空気を閉じ込めているか再度確認され、エンジン区画が正常に動くかどうか再びチェックされた。

 

ブリッジでも司令機能や艦の状態を再チェックし安全を再確認した。

 

出撃前に艦に異常があっては全ての乗組員の命と特殊作戦全体の命運に関わる。

 

「こちら“アークセイバー”、艦内のチェック完了、異常な点はなし。そちらのドッキング解除を待つ」

 

通信士官がステーションの司令室に対して返答した。

 

同様の返答は他の艦からも行われた。

 

今回動員出来る軍艦は三隻、二隻はインペリアル級スター・デストロイヤーであり残りに一隻はセキューター級スター・デストロイヤーであった。

 

その今回作戦に参加する唯一のセキューター級“シャーデン”でも同様に艦の安全性が確かめられていた。

 

「再チェック完了、艦に異常はありませんドレスタル准将」

 

“シャーデン”の艦長代行兼第六十三機動部隊司令官のヴィッツ・ドレスタル准将は小さく頷き通信士官に命令を出した。

 

「ステーションに連絡しドッキング解除を要請せよ。本艦の準備は完了した」

 

「了解!“シャーデン”、艦内の再チェック完了。ステーションは直ちにドッキングを解除されたし」

 

「どうした、浮かない顔だなメルゲンヘルク中佐」

 

ドレスタル准将は彼の背後に控える“シャーデン”副長に声を掛けた。

 

シャーデン”は現在艦長のコルバ大佐が入院中の為、艦長の職務をドレスタル准将と副長のオリス・メルゲンヘルク中佐に分けて行っていた。

 

メルゲンヘルク中佐は気まずそうに小さく頷いた。

 

「このような特殊作戦に携わるのは実は初めてでして……」

 

メルゲンヘルク中佐は数ヶ月前までは第六十三機動部隊の参謀将校を務めていた。

 

しかし前任の副長が大佐に昇進し別の軍艦の艦長に就任した為繰り上がりで彼が少佐から中佐に昇進し“シャーデン”副長に就任した。

 

メルゲンヘルク中佐は中佐の階級にしてはまだ随分と若い。

 

何せほとんどの宇宙軍将校が戦死するかどこかの軍閥に接収されてしまった為自動的に繰り上がり、昇進を重ねていった。

 

「そう気負うな、我々が今回やることは限られている。艦載機を飛ばして帰ってきたら輸送機を飛ばす、そして後はシュメルケ閣下と突入する特殊部隊に任せるだけだ」

 

「そうですね……」

 

ドレスタル准将はメルゲンヘルク中佐の緊張を解す為に作戦を随分と簡略化して言った。

 

その効果があってかメルゲンヘルク中佐の顔色は前より幾分かマシになった。

 

「君は若いながら“シャーデン”の乗組員をよく率いてくれている。今回の作戦もいつも通りにしてればいい」

 

「はい…!」

 

一方もう一隻のインペリアル級“エリミネーション”では既に報告が完了し乗組員達は出航を待機していた。

 

ブリッジでは各乗組員が配置についておりフューリナー上級大将と副司令官のボルフェルト中将が控えていた。

 

控えめな性格のボルフェルト中将はともかく、フューリナー上級大将がその場にいると何故か空気感から一気に馬が引き締まる。

 

彼自身常に笑みを浮かべ比較的穏やかな口調で話している様相だがそれでも何故か時折恐怖を感じさせる。

 

「いよいよですね上級大将…!」

 

「そうだな、我々の行動次第で今後が大きく決まる。成功すれば帝国の未来は素晴らしいものとなるだろうが…失敗すれば我々の未来はなくなる。尤も、シュメルケの言う通り失敗する未来は見えんが」

 

こちらにはヒェムナー長官が齎してくれた“切り札”がある。

 

そちらにも存分に働いてもらうつもりだ。

 

出来るのならば“()()()()”も連れて来たかったのだが彼女にはやってもらうことがまだある。

 

「上級大将、間も無くステーションとのドッキングが解除されます」

 

通信士官が報告しその間に副官のヴァルヘル少佐が敬礼しブリッジに到着した。

 

「全艦用意完了、ハイパースペースへの座標計算を開始せよとシュメルケ上級大将が」

 

「そうか、了解した。ハイパースペースの座標計算開始、目標はワイルド・スペース。狩りの始まりだ」

 

三隻のスター・デストロイヤーでは座標計算が開始され徐々にエンジンも力を入れて炎を吹き出し始めた。

 

そんな中ステーションの司令室から通信が入る。

 

『ドッキング解除、各艦の無事の帰還と武運を祈る』

 

ドックの固定具が取り外され三隻のスター・デストロイヤーはゆっくりと後ろに下がり半回転して暫くベアルーリン周辺を航行した。

 

他の艦船との衝突を避け安全にハイパースペース・ジャンプを行う為だ。

 

少しづつベアルーリンを離れジャンプの体勢を整える。

 

「座標計算、完了しました」

 

「各艦、いつでもハイパースペースにジャンプ出来ます」

 

乗組員の数人がシュメルケ上級大将に報告する。

 

そのことを聞いてジークハルトは「いよいよか……」とふと呟いた。

 

「ああ……作戦が成功しようと失敗しようと銀河系の殆どは誰も気づかない」

 

だからこそ気楽に行こうとハイネクロイツ少佐は考えていた。

 

失敗すれば死ぬだけ、既に2回も死にかけたハイネクロイツ少佐からすれば最早いつものことに感じられた。

 

「だが我々のような存在はやがてそうなっていくのかもしれないな。何せ我々は“もう帝国軍ではない”」

 

親衛隊はもう正規軍の内には入らない。

 

首相の私兵から相当の私兵へ、どこへ行こうと私兵は私兵。

 

決して元の帝国軍人には戻れない。

 

だからこそジークハルトはこの道を自ら選んだ。

 

もう帝国軍の軍服は高価過ぎる、この制服で丁度良い。

 

「精一杯やろうじゃないか、親衛隊として。散っていった奴らの分まで」

 

ジークハルトは再びブリッジのビューポートから外を見つめた。

 

再び既にハイパースペースに入る準備は整っている。

 

「全艦、ハイパースペース突入準備完了です」

 

「閣下、ご命令を」

 

アークセイバー”の艦長を務めるリードリッツ・オイゲン大佐はシュメルケ上級大将に指示を求めた。

 

シュメルケ上級大将は制帽を被り直し顎髭を触ってから暫く間を置いて命令を出した。

 

「全艦に通達、ハイパースペースに突入しワイルド・スペースへ急行する。イェーガードレッドノート作戦を開始せよ」

 

三隻のスター・デストロイヤーは全てハイパースペースに入っていった。

 

失われた“秘宝(エグゼクター級)”を取り戻す為に、狩人達は旅に出た。

 

 

 

 

つづく




過去イノベだよ

過去イノベは昔のイノベだよ

強さは変わらないよ

成長がないね。
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